町に円盤がやって来る

作者:baron

『戦闘行動を開始します』
 巨大な円盤が街に飛来した。
 だが、その戦いは僅かな間でしかなかった。
 空中から放たれる光は、容易く車を薙ぎ払い、逃げ惑う人々を虐殺していく。
『素材及びグラビティ収集に移行します』
 そいつは人間をすり潰すように吸収し、エネルギーに変えていった。
 それが格闘攻撃なのか収集作業なのかはこの際関係あるまい。
 奴は街の人々を虐殺すると、どこかへ飛んでいったのである。


「先の大戦末期にオラトリオにより封印された巨大ロボ型ダモクレスが、復活して暴れだすという予知があった」
 ザイフリート王子がメモを出したとき、思わず何人かが目を疑った。
「UFO……、いやこいつはアレだよな?? 投げて遊ぶ……」
「円盤の玩具みたいだな」
 実にシュールな光景である。
 UFOが浮かんでるなら恐ろしい光景だが、円盤が浮遊しているだけなので奇妙だ。
 だが、そいつがビームをまき散らし、あるいはすり潰すというのだから放置などできない。
「こいつの攻撃方法は三つ。この形状で押し潰す。ビームを放って薙ぎ払う。そして重力波を浴びせる……だ」
 UFOとかに馴染みのない王子は首を傾げつつ真面目に解説した。
 彼から見れば、謎の飛行物体も、皿のような円盤も脅威には変わりあるまい。
 ビームを放って押し潰すという段階で、倒すべき敵なのだ。
「避難誘導は行っているし、街を足場に戦うことはできる。また相手は飛行ではなく浮遊しているだけなので、普通にこちらも攻撃できる」
 王子がそういって出発の準備に向かうと、ケルベロス達は相談を始めるのであった。


参加者
武田・克己(雷凰・e02613)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
千歳緑・豊(喜懼・e09097)
颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)

■リプレイ


 彼方から空飛ぶ円盤が町に訪れる。
「UFOだー、初めて見たなぁ」
「だったらロマンが溢れていてカッコいいのだけどのだけどねー」
 笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)の夢は開始三秒で崩れた。
「人々を襲うダモクレスだから、放ってはおけないよ」
「って、あれはそうなのかぁ、ちょっと残念だね」
 時計を弄りながら教えてくれる天司・桜子(桜花絢爛・e20368)に氷花は苦笑いを返した。
「空飛ぶ円盤もどきか」
 軍帽の庇で太陽を遮りながら宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)は彼方を見つめる。
 よく見るとお皿のような形状で、お椀型ですらない。
「え~ーUFO……じゃ、ないのー!? 空飛ぶ円盤って、それしか思い浮かばなかったよちはるちゃん……」
「それならそれで凧でも乗ってれば面白いんだろうがな。何にせよ迷惑千万。手早く片付けよう」
 颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)とキャリバーのちふゆをみながら、双牙は凧に乗った忍者を思い浮かべる。
 実にマッチしていると思うのだが、現代忍者はキャリバーの方が正しい姿なのだろう。
「まーそうだねー。時計ない人居たら言ってねー。カウントダウンするからさー」
「右に同じだよーー」
 ちはるが時間計測の話をすると桜子が手を振って薔薇の形状をしたナニカを見せる。
 それは時計かと思っていたら専用のストップウォッチだったようだ。
 切り替え装置が付いているので、時計の機能もあるのかもしれないが。

 相手の移動方向に合わせ、一同は町の入り口方向に移動。
 できるだけ被害を出さない位置で迎撃するために速度を速めた。
「間近でみるとますます、一昔前のUFOでも見てる気分になってくるわ」
 武田・克己(雷凰・e02613)は苦笑しながらよっこらせっと家屋の上に飛び乗った。
 そのまま戦いやすい位置を探して、とりあえず家電だかパチンコだかの屋上駐車場を目指す。
「物凄いサイズ大きいけど、UFO……じゃなかった、平らだから、投げて遊ぶフライング・ソーサーで間違いないよね?」
「あ、フライング・ソーサーなんですね。投げるには大きすぎるような……一般人を押し潰してしまう前に倒さなければですね」
 源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)と如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)は仲良くここまで来たが、交戦距離まで近づいたことで一度分かれることにした。
「……ああ、そういえば今年はオリンピックイヤーだったね」
 若者たちの姿を微笑ましく眺めながら、千歳緑・豊(喜懼・e09097)は空中の敵に対して何やら懐かしさを覚える。
 投げつけるならば円盤投げだが、もし装甲が素焼きだったら、クレー射撃でもしたくなったかもしれない。
「おおよその移動力を把握しました。射程次第ですが何とかなるでしょう」
 恋人たちは名残惜しそうに視線を交わした後、沙耶は全体を見渡せる位置に付く。
「射程か……。スポーツ用にしては何か物騒なオプション付いてるようだけど。一般の人達に被害が及ぶ前になんとかしようか」
「まぁ、何であれ、人を殺そうって奴は破壊するしかないからな」
 克己と瑠璃は肩を並べて前線に立ち、いつでも飛び掛かれるように身構える。
 刀を握り締め克己は円盤型のダモクレスが動くのを、今か今かと楽しそうに待ちわびた。
『敵対反応を発見、戦闘行動を開始します』
「来たか。…遠それでは一戦交えるとしようかな」
 豊はそういって悠然とパイプをふかし、携帯灰皿を懐にしまうのであった。
 その姿は競技会に赴く熟練の選手であるかのようだ。


 ダモクレスは急接近しながら竜巻のように視界を歪め始めた。
 だが決して、風が巻き起こているわけではない。
『敵性体の行動を阻害』
「これは反重力?」
 その歪んだ空間に巻きこまれると、氷花は全身の力がそのままなのに浮き上がるのを感じた。
 踏ん張っても地面を踏み込むことができず、ツインテールやスカートがめくれもせずに浮き上がる。
「ちっ。厄介な!」
「ありがとうございますね。助かったわ」
 双牙はその動きに割って入ると、小脇に抱えて自分の腰を軸に投げ飛ばした。
 できればお姫様抱っこの方が荷物扱いよりは良かったなあとか思いつつ、氷花は好きなくスカートを抑えて着地する。
「ちふゆちゃーん、Go! ってちふゆちゃんを足場にした~」
「ふっ。っと! こっちも助かったぜ!」
 ちはるがキャリバーのちふゆを発進させると、浮き上がっていた克己はそこを足場に跳躍。
「そうら!」
 反重力の束縛を振り切って、克己は直刀を構えて敵の上へ!
 突き刺した刃が反発して抜けるのに合わせて、体勢を整えながら適当な家屋の上に降り立った。
「聞いていた通りに飛んでるわけじゃないのか。なら普通に戦えそうかな」
 瑠璃は軽く手を振って寒波を放つと、機巧に作られた得物を構えて油断なく前線を移動する。
 先ほどの攻撃は他の壁役が攻撃役を庇ったので出番はなかったが、彼もまた壁役なのだ。
 しかも恋人である沙耶が同じ戦場に居る。万が一など無いように、いかなる攻撃も阻む覚悟だ。
「暫く回復を兼ねて援護を繰り替えしますね」
「はいはーい。手が足りなくなったら桜子も何とかするね」
 沙耶の言葉に桜子は頷くが、他の仲間の行動も見ながら、まあ自分の出番はなさそうだと攻撃に専念することにした。
 他にも援護を行おうとする者や、戦況を見ながら行動しているのが後ろから見ると分かり易い。
「雷鳴よ、ケルベロスを束縛しようとする力を無力化なさい!」
 沙耶の張った稲妻の結界が前衛陣の前に建ち、ダモクレスからの干渉を跳ねのけようとする。
「桜の花々よ、紅き炎となりて、かの者を焼き尽くせ」
 桜子はグラビティを収束させると、桜色のエナジーを迸らせた。
 それは花弁となって空を舞い、ダモクレスの上に色彩を付ける。まるで桜柄のお皿だなと思う間もなく火に包まれたのだ。
「珍しいこともあるものだ。強は色々と幸先が良い」「逃げられても困る、さっさと倒してしまおう」
「そだねー。いつもは何回もやってようやくって感じなのに、今日はみんな一回だもん」
 豊とちはるは思わず驚いた。
 皿には小さなヒビが入り氷がこびり付き、炎で巻かれている。
 結界は広範囲なので誰かに掛かるものだが、もしかしたら人数が多いかもしれない。
「とはいえ不利だと思われて逃げられても困る、さっさと倒してしまおう」
 豊はリボルバーを構えると、片手で反動を抑えた。
 別にワンハンドでも当てられるが、極限まで狙い澄ませるためだ。
 理由はと言うと、やはりあの形状がオリンピックを思い浮かべるからだろうか。
「よいせっと! 当たるってことはやっぱり浮かんでるだけなんだね」
 ちはるは敵の移動圏内にあるビルをブン殴り、衝撃を伝わらせて攻撃を当てた。
 無事なビルだったらやらないが、ダモクレスの攻撃に巻き込まれてるのであとでヒールするだろう。
 そこへ仲間が訪れて、円盤の上に飛び乗ったのが見えた。うーん、いーなー。ちはるちゃんも後でいこっと。
「……捕らえたぞ。 ――ガルム・ブランディング!!」
 双牙は着地ならぬ円盤乗りを試みると、そのまま体重を掛けてビルにぶつけたのだ。
 逃げられそうになったので、仲間が付けた傷に炎と化した指を差し入れて問答無用で、ビルをヤスリのように使って削り始めた。
「そこだよ。さぁ、これで炎に包まれてしまえー!」
 そして落下地点で氷花が待ち構え、蹴りと共に摩擦熱を利用して炎を浴びせたのである。


『ターゲット・ロック。発射』
 降りしきる無数の光は怪光線。
 レーザーというには太く激しく、その余波を含めて対処し難い。
 とはいえ戦い始めて四分となれば、これが一度目という訳ではなかった。
「ええい、邪魔だ!」
「ここで止めさせてもらうよ」
 双牙は右腕を一閃させて光線を叩き落とし、瑠璃は鉄槌から衝撃波を放って減衰する。
 それでも肌を焼き圧迫する光に対し、後ろから声が掛かった。
「重傷者から一人ずつ回復していきます!」
「俺たちは後で良い」
 沙耶が回復のために気を練り始めると、双牙は腰を落として跳躍の準備態勢に入る。
 そして拳に力を貯め隙を伺っていく。
「円盤だからって、人間を好き勝手してんじゃねぇよ。人間はてめぇらの餌じゃねぇんだ」
 運悪く直撃してしまった克己だが、刀の腹で光の幻惑だけは防いでいた。
 ダメージはともかく、稲妻の結界もあるので動きは衰えていない。
「木は火を産み火は土を産み土は金を産み金は水を産む! 護行活殺術! 森羅万象神威!!」
 克己は天地の気に己の力を依り合わせ、刀を介して敵に刻んでいく。
 無理やり集積した力は、幾度目かの斬撃で崩壊し、大爆発を起こした。
「暫く動かないでくださいね。直ぐに治りますから」
「時間はこちらで稼ぐよ」
 着地点に沙耶が駆け寄り、気力を流し込んで一気に治療を始める。
 瑠璃がそこへ接近させまいと、天を翔るように屋根から屋根に移動しながら飛び蹴りを放った。
「もーいっかーい、もやしちゃうよー」
 桜子はエナジーの花吹雪でダモクレスを燃やした。
 そして視線は腕のストップウォッチに向け、時間を確認しておく。
「この様子なら桜子たち普通に七分以内に勝てちゃいそうだねー」
「そういえば今回は七分目だっけ? なるほどー」
 桜子が後二分もあれば片付くと予想すると、ちはるは頷きつつ内心でニヤリと笑った(余計なことを考えたともいう)。
 そしてビルの上に向かい、角度を付けようとした。そこには先人が居り、一足先に飛び降りるところだ。
「お先に行かせてもらうよ。飛び跳ねるのは少々苦手でね」
 そういって豊はリボルバーに力を集めると、銃剣代わりにしてブン殴る。
 すると地獄の炎が漏れ出して日の勢いがますます強く成ったという。
「とりゃー! って……あー……なんか浮遊感が気持ち悪いかも……。……ちふゆちゃんの方が乗り心地いいなー」
 ちはるも続いて飛び乗り、カカト落としの要領で飛び蹴りを掛けた。
 グラビティで縫い留め地面にぶつけることでズズンと響かせる!
『リカバリィ開始。再浮上を……』
「ぬうん!」
 浮き上がって態勢を戻そうとするダモクレスに、双牙は横っ飛びで殴りつけた。
 そしてグラビティを奪い取り、僅かながらにも傷を癒す。
「その傷口を更にえぐってあげるよー!」
 氷花は漆黒のナイフを抜いて追撃し、斬撃を浴びせるたびに冷気を迸らせる。
 それはダモクレスの防御機構を打ち抜き、炎や氷を内部に侵入させることに成功したのである。


「悪いが、飛距離はここまでだ」
 豊は戦いの終盤を悟り、懐から煙草を取り出したくなった。
 ビターな気持ちという訳でもないが、元同僚としてダモクレスを終わらせようと反射角を計算して同じ弾丸を何度も打ち込む。
「忍法、秘奥、大いに崩し。流れ逆巻き呑み込んで、命転じて無に帰すべし。――秘奥崩し・流転大崩」
 ちはるとちふゆは一つになって大回転。
 今日は円盤さんに合わせて横回転の回し蹴りっぽく攻撃し、ちふゆもそれに合わせてドリフトから後輪で殴り掛かる。
 ただそれは一回転で収まらず、フィギア・スケートのように何度も開店するのだ。
「まだ五分目だし大丈夫dとは思うけれど……」
「出させん方が良いだろうな。可能性事すり潰す」
 氷花の言葉に頷きつつも双牙は寄り積極的な行動に出る。
 拳に獣気をまとわせて、強烈な振動ごと鉄拳を叩きつけたのだ。
「この一撃で、永遠に凍結させてあげるよ!」
 氷花は再び魔力で構成された杭状の氷を打ち込んだ。
 火薬の代わりも魔力による激震で、ガンと炸裂した瞬間に敵が凍り付く。
 今までならそれでも跳ね除けて行動していたのだが、もはや動くこともかなわず最後にこちらを巻き込もうとするだけだ。
『フル稼働にはチャージタイムが足りません。このまま敵性体を……』
「させない!」
 味方目掛けて落下してくる敵を瑠璃は迎え打った。
 鉄槌で受け止めながら零距離攻撃を敢行する。
 吹っ飛ばしたと思った彼が見た物は……。
「よう。また会ったな」
「さっき隣に居たじゃないですか」
 克己が身を翻し、片足を軸に弧を描くような回転切りを掛けたところだった。
 そこを瑠璃が吹っ飛ばし、円盤が上空へ一回転。
 落下と同時に装甲やら中身が砕け散っていった。

「さすがに街も派手に壊れたね、ヒールが大変そうだよ」
「あーもう、ビームとか好きに使ってくれちゃって仕方ないなぁ、今日もヒールしてから帰ろっか……」
 氷花の言葉にちはるがヤダヤダとか言いながらヒールを始める。
 もっとも実際に働くのは分身体で、ちはる本人はお茶でも飲もうかと自販機を妹分に探させてるところだ。
「あいにくと他者回復がなくてね。ヒールは任せていいかい?」
「俺もだな。残骸整理でもしとくわ」
 豊や克己はヒールをもって来ておらず、仲間たちに任せてダモクレスの残骸やら壊れたビルやらを持ち上げる。
「僕もないけど大丈夫ですよ」
「ええ。私がやっておきますから」
 瑠璃が微笑むと沙耶が翼を広げて周囲に暖かな光をもたらした。
「壊された建物は、ちゃんとヒールしておかないとね」
「そうだな。やれるだけのことはやっておこう」
 桜子が歌い広域修復へ参加すると、双牙は個別に派手に壊れ合場所へ向かう。
 そして元に戻り始める町を見ながらふと呟いた。
「任務完了」
 そういって軍帽を目深に被りながら黙々と作業したという。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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