闘意の鋒

作者:崎田航輝

 しんと冷える厳冬の日こそ、剣が冴える。
 緩む精神を寒風に叱咤され、悴む手を制そうと心は強く滾って。己が高みに昇ろうとする意志を、真っ直ぐな鍛錬に向けるには又とない時節だった。
 鋭い掛け声と共に、木刀が風を切る音が響くそこは──剣道場。
 仄かな雪化粧の竹林に囲まれた野外で、門下の者達は一挙手一投足に魂を込める。
 一振り一振りが、己を磨き研ぎ澄ますと信じて。小さな少年から頑強な青年まで、皆が腕を鍛えることに邁進していた。
 と、その最中に師範が、そして次に門下が林に目を向ける。
 がさりと音がしたかと思うと、そこからゆっくりと歩み出る影があったのだ。
「腕の立つ者と見受けする」
 それは低い声を零しながら視線を巡らせる、巨躯の男。
 軽装に刀一本だけを佩いて。静かに、けれど凛然と敷地に踏み入る罪人──エインヘリアル。
「強き者と戦いに来た。手合わせ願いたい」
 結った長髪を風に揺らし、和風の衣服の裾を棚引かせて。面の整った男という風貌ではあったが──その声音には有無を言わさぬ鋭さがあった。
 斬られる、と。
 直感したのだろう、師範がとっさに真剣を取って前へいでる。
 せめて門下生が逃げる時間程度は稼げるかも知れないと思ってのことだろう。
 だが、いざ、と厳かに言って構えを取った罪人は──刀を抜き放ち師範を一刀で斬り捨ていた。
 力の及ばぬ者が逃げる暇など有りはしない。
 ほんの短い時間の後。血塗れの静寂の中で独り、罪人は刀を鞘に収めていた。

「集まって頂いて、ありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、ケルベロス達へと説明を始めていた。
「本日は、エインヘリアルについての事件となります」
 出現するのはアスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人ということだろう。
「放っておけば、人々が危機に晒されます」
 だからこそ確実な撃破を、と言った。
「現場は市街の一角にある剣道場です」
 竹林に囲まれた一帯で、静かな環境の中で人々が鍛錬に励んでいるという。
「敵は竹林からその道場に現れ、人々を斬り捨てようとするでしょう」
 ただ、敵がやってくるまでは多少の時間的猶予はある。
「皆さんは道場の人々を避難させ……その上で敵を待ち構えて迎撃するといいでしょう」
 事情を説明すれば、道場の者は従ってくれるはずだ。人々が皆逃げれば、被害を気にせず敵と戦えるだろう。
「ただ、敵もそれなりの実力を持っているので警戒をしておいてください」
 強者との戦いを求める性格のようで、此方へも無論、強い戦意を向けてくるだろう。
 それでも皆さんならば、勝利をつかめるはずですから、とイマジネイターは言う。
「是非、撃破を成功させてきてくださいね」


参加者
ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
レヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)
天原・俊輝(偽りの銀・e28879)
御手塚・秋子(夏白菊・e33779)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
伊礼・慧子(花無き臺・e41144)

■リプレイ

●雪下
 嫋々と降る粉雪が、翠の林に純な白を刷く。
 森閑とした道場は冷たくも美しい景色の只中にあった。
 けれどルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)はそんな景色に見惚れるいとまも惜しんで──剣士達へ事情を説明している。
「此処はもうすぐ危険な場所になります、早く避難をお願いします」
「後はわたし達ケルベロスに任せて、今は身の安全を」
 ざわめく門下生達へ、ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)もまた凛然とした声音と共に。光り物めいた美しきドレスで皆の心を惹きつけて鎮ませた。
 その内に、彼らは冷静に事態を把握し、退避に賛同し始める。
 敵の相手を任せることに、師範は深々と頭を下げていた。
「かたじけない」
「いいえ」
 と、丁寧に言葉を返すのは瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)。
「安心していてください。それほど、時間はかかりませんから」
 心強い声音で言ってみせると、後は皆の背を押すように避難を促していく。
 二十を超える数の剣士達を、御手塚・秋子(夏白菊・e33779)は竹林に導き始めていた。
「こっちよ! 急いで、でも足元も気をつけて!」
 避難経路は既に確認済み。障害物がないかともつぶさに注意し、止まらず進んでいく。
「離れないようにな!」
 と、レヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)も最後尾側からついて行きながら、皆が遅れないように注意を欠かさなかった。
 恙無く避難が済むと見れば、よしと呟いて。ゴーグルをかけて心新たに戦場へ戻る。
 道場前の野外では──伊礼・慧子(花無き臺・e41144)が丁度、避難した者から確認の連絡を受けていた。
「皆さん、しっかりと遠くへ離れてくれたようです」
「此方も、逃げ遅れた方はいません」
 と、場内から出てくるのは天原・俊輝(偽りの銀・e28879)。傍らのビハインド──娘の美雨と共にはぐれた者がいないかと見て回っていた。
 それもないと判れば、後は林を前に、待ち伏せる。
「……」
 俊輝自身、剣道場に通っていた事もある。だから少し懐かしい心で、そしてその記憶を大切にするように。
「護らねばなりませんね」
「ま、後は正面からのドンパチだ」
 だったらやられるつもりはねェよ、と。
 避難を助力し戻ってきた伏見・万(万獣の檻・e02075)は、言いながら。そこで足を止めて林を見据えた。
「丁度、来たみてェだぜ」

 竹林が揺れて、巨躯のシルエットが形を取る。
 ばさりと雪を落とし、歩み出てきたのは刀を提げた罪人、エインヘリアル。居並ぶ此方が剣士でないと見てか、問うように言った。
「強き者と、戦いに来た」
「ここの人達はいないよ。と言うより、一般人じゃ相手にならないと思うんだけどな」
 と、返したのは秋子。
 道を塞ぎながら、包囲するように緩く歩を踏む。
「力量の差のある一方的な攻撃はただの暴力だよ」
「その通りだな。お前はあの人達を殺せるけど、あの人達はお前に死を与える術がない。……そんなぬるい試合がしたいのかよ、エインヘリアルは」
 続けて挑発的に言ったのはレヴィン。
 言葉に、罪人は切り傷の入った瞳を細めた。
「そう思うてか」
「違うなら俺達とやってみろよ」
 万はスキットルから一口含みつつ、声を投げる。
「強い奴と戦いてェんだろ? やられそうだから嫌とか言わせねェぜ」
「貴方が強いなら複数相手でも大丈夫だよね?」
 だったら、死合いましょ、と。
 秋子が自身の拳を握ってみせれば──罪人は一度瞑目。後は是非もなしと言うように。
「いざ」
 直後、刀を抜き放ち先手を担おうとした。
 が、それより疾くビスマスが槌を構えて一撃。飛魚の如き速度の砲撃を撃ち当て、烈しい飛沫と共に巨躯の足元を挫く。
「さあ、今のうちです」
「ええ」
 淑やかに返したルピナスは、その間に防御構築。
 菫色の髪を揺蕩わせ、風を渦巻かせるように自身の魔力を練り上げると、生み出したのは茫漠としたシルエット。淡い光を湛えて万の体の輪郭に溶け込ませていく。
「分身の幻影です、これで安心ですよ」
「悪ィな」
 応える万も燦めく粒子を風に乗せ、仲間の知覚を澄明にしていた。
 その感覚を活かすよう、秋子が罪人に打突を打ち込めば、レヴィンも眼前へと迫り。
「行くぞ、真剣な勝負をしようじゃないか!」
 一閃、光を纏う刺突を畳み掛けてゆく。
 罪人は喉の奥に声を含みながら、それでも一刀を返そうと居合に焔を乗せた。
 降る雪を気化させる程の熱量、だが直後には右院が龍笛を唇に当てている。
『──』
 奏でる旋律は寂寞の色。淋しくも美しく、灼かれた傷を優しく癒やしていた。
「後はお願いします」
「分かりました」
 頷きながら、俊輝が操るのは雨露に輝く蔓。そこに黄金を結実させることで皆を光で包み、癒やしと護りを両立していった。
 同時に美雨が吹雪を吹かせて罪人の視界を塞げば──生まれた一瞬の隙に、ビスマスも匣竜を飛び立たせている。
「ナメビスくん、突撃です」
 鳴いて応えたナメビスは、アーマーを固めて体当たり。強烈な打力で巨躯を傾がせる。
「では、征きます」
 そこへ慧子も冷風に紛れて疾駆。
 羽飾りを靡かせて跳躍すると、魔力を編んで仲間へ光の盾を与えながら──鮮やかに体を旋転。鋭い蹴撃で罪人の膚を斬り裂いていった。

●剣戟
 一瞬の静寂に、竹のそよぐ音が仄かに響く。
 己の血潮を払うように、罪人は剣先を軽く振るっていた。苦悶を顕さぬ代わりに、聞かせるのは微かな喜色を含んだ声だ。
「見事な腕なり。貴殿らと戦えた事は幸運だったようだ」
 これで自らの剣の道も一層高みに至るだろう、と。
「高み、ですか」
 と、ルピナスがふと返すと罪人は頷く。
「敵を斬る、その鋭さの事だ」
「……剣道は、単に剣の腕前を磨くための物ではありませんよ。武道を通して相手を思いやる精神を育むものです」
「そういう道もあろう。だが我が剣は敵を斬るもの」
 あくまで己の剣が己こそ真理だと、罪人は構えを取ってみせた。
 ルピナスはそうですか、とそっと瞳を伏せる。
 ならば此方がやることも一つ、と。
 柔らかな声音で言いながらも意志は強く。静かに踏み出すと、速度を増して宙へ跳び上がり──空から星が落ちるよう、燿きの尾を描いて蹴り落としを叩き込んだ。
 微かによろける罪人へ、一息に奔り寄るのが秋子。
 とっさに間合いを取ろうとする巨躯を許さずに、躊躇いもなく懐へ入って抜刀する。
「逃さないからね!」
 声音は溌剌と、剣閃は冴え冴えと。滑らせた斬撃が巨体の足元を的確に捕らえて血煙を噴かせていった。
 微かに唸る罪人は、それでも下がりながら刃に気を溜めている。
 それを素早く見取った慧子は、ふと不思議がるように言った。
「遠くの敵を砕く技、ですか。刀だというのに、相手を斬るより破壊する能力が多いのは意外ですね」
「斬るも砕くも同じ事。敵を見て技を選ぶだけ──そうして今まで勝負を重ねてきた」
 故に真っ向勝負で負けたことはないのだと罪人は言ってみせる。
 慧子は緩く首を振った。
「そんなに強かったら、おとなしくしてれば戦うチャンスはあったかもしれないのに……」
「そうだね」
 と、右院は頷き、すらりと美しい太刀を抜いている。
「同じ刀使いとして。こんな出会い方でなければ アスガルドで手合わせを願った運命もあったかもしれないね」
 尤も今は明確に敵対する相手、だから純粋たる殺し合いをしよう、と。低空を翔けると掬い上げるように剣撃を叩き込んだ。
 罪人は地を滑りながらも右院を見据える。
「嘗ての導き手か。……ならば言葉通り此処で勝負をつければ済む事」
「最後まで全う出来るかな。小さな道場を襲うしかないあたり、貴公には強者ひしめく都に出る度胸もおありではないようだし」
「……言うてくれる」
 罪人は剣先を下げて攻撃の助走を取った。
 そんな遣り取りに、慧子は……ちょっとだけ半眼。右院を知る人間としては「あんな事いって大丈夫なんでしょうか」という心持ちでもあったのだ。
 実際──敵の飛閃を真正面から刀で受けた右院は、内心は恐々としていた。
(「やっべーこんなの一対一じゃ絶対に死ぬ……」)
 それでも狙い通り、敵の注意を引いた上で耐え抜いたのは事実。
 直後には、俊輝が空気を撫でるように黒い刀身を振るっている。
「すぐに、癒やしを」
 すると触れられた風が穏やかな気流を生み出し、空に優しい風を吹かせ始める。
 ぽつり、ぽつり、と。
 誘われるように注いだのは『翡雨』──邪を祓う恵みの雨。
 美しく清廉に、露濡れる青葉がより瑞々しく輝くように。膚を滑ったその雫が苦痛を濯い去ってゆく。
 同時、手を掲げた万も掌に月色に輝く魔力を招来していた。
 それを投げてぶつけると、光を飛散させながら傷を吹き飛ばして膂力も引き上げていく。
「後は、もののついでだ」
 言うと、万は更に爆薬を投下。七彩の爆炎を上げて魂を鼓舞するよう、皆の力を更に増強させていった。
「ま、こんな感じでフォローはしてやらァ。だから思いきり暴れてやれ」
「では遠慮なく」
 と、応えて魔力の刃を握るのは慧子。前傾に素早く走り抜け、巨体をすり抜けるように連続斬撃を与えてゆく。
 ふらついた罪人は剣を振るおうと足掻く、が。
 レヴィンは既に右腕を真っ直ぐにのばし、その手に嵌めた天然石のブレスレットに光を抱かせていた。
「力を借りるぜ……!」
 刹那、顕現する煌きは『黒猫の呪縛』。そこに込められた願いと意志を虚空に顕すように、魔除けの力が宙を翔ける。
 まるで素早く跳ぶ黒猫のように、一瞬で罪人へ肉迫したその力は──巨体を縛り付けるように不可視の呪縛で自由を奪い去っていた。
「後は、よろしく頼むよ」
「了解です」
 応えたビスマスは地を滑るように疾走。陽炎の如き揺らめきを足先に凝集していた。それはなめろうの気によって形作られた刃。
「合わせて行きますよ」
 と、視線を向けるとナメビスが応じるように飛翔。椿を薫らす烈火のブレスを放って攻撃の端緒とする。
 その只中へ、突き抜けさせるようにビスマスが刃を発射。加熱されて煙を帯びた一閃が、罪人の腹部を深々と斬り裂いた。

●雪風
 剣先を地に刺して、罪人は肩で息をする。
 その声に既に余裕の色はなく。自身の敗北が垣間見えることに、信じ難いとでも言いたげだった。
「……、まさか此れ程までとは」
「強い者と戦いたい──ンな事いっても結局自分はやられねえ、自分は狩る方だって余裕ぶっこいてやがったんだろ」
 万はその心を見透かすように、乱暴な声を落として見せる。
 罪人はそれを否定せずも、尚立ち上がった。
「慢心があればこその現状だろう。だが……まだ勝負は決していない」
 死なぬ限りは、と。剣気を集中して自己を癒やし、同時に力を獲得する。
 だが、俊輝はそれを予想済み。
「美雨」
 静かに呼んだ娘に、巨躯を金縛りで蝕ませると──自身は高速で一直線に駆けて肉迫。握り込んだ拳に破魔の力を込めて、苛烈な打突を打ち込んでいた。
 罪人の加護に罅が入ると、その巨体へレヴィンも走り込む。その手は銀色の銃を一度握っては居たけれど。
(「いいや」)
 今はこの拳で砕いてやるさ、と。放つ裂帛の一撃を胸部へ打ち込み、肋をへし折りながら罪人が得た力を破砕した。
「よし、最後まで休ませず行くぞ!」
「勿論です」
 穏やかな声音で、鋭利なエナジーを無数に想像するのはルピナス。
 刃の形を成したそれは、宙を覆って雪空すらも隠してしまう──『暗黒剣の嵐』。細指が示す先の罪人へ、一斉に注いで体を切り刻む。
 罪人は堪らず数歩下がろうとした、が。
「させないよ」
 僅かな逃げの行動すら許さず、右院が踏み込んでいた。
 そのまま自身の刀へ水の霊力を帯びさせると、燦めく飛沫を靡かせ一刀。『雨花仙』──冥府深層の冷気で斬閃を半凍結させ、艷やかなる氷花を咲かせた。
 罪人は苦渋の呻きを零しながらも、炎の剣撃を放つ。が、素早く補助に回ったレヴィンが癒やしの花風を吹かせて皆の健常を保てば──。
「では反撃に移りましょう」
 ビスマスが褐色が目を惹く鎧──水戦鎧装アナゴクオンをその身に装着していた。
 瞬間、背中から分離させた穴子型ユニットを大剣に変形。非物質化させることで煌々と輝く刃と成す。
「その身に受けなさい……アナゴなめろう神霊剣!」
 刹那一撃、振り抜いた刃は霊魂を直接裂き、外傷を生まぬまま命を削いでいた。
 よろける巨躯へ容赦を与えず、万は『百の獣牙』。己を構成する獣を幻影として喚び解き放つ。餓えた獣は牙を立て、巨躯の体を食い破っていった。
「あと少しだな。やってくれ」
「ええ」
 応える慧子が縦横に斬撃を奔らせ、罪人の全身を抉り裂いてゆくと。時を同じく、秋子が握った刃を振り上げて、真っ直ぐ大地へ突き立てていた。
「これで、終わりよ」
 衝撃に隆起した地面が、鋭き岩と石を飛散させる。『La risposta della Terra』──爆破の如き衝撃が罪人を穿ち貫き、命を千々に砕いていった。

 優しく吹く雪風が、快く戦いの熱を冷ましてくれる。
 静謐の戻った中で、ビスマスは皆へと振り返っていた。
「終わりましたね」
「ええ」
 頷きながら慧子は敵の亡骸を見下ろす。
 それは淡い光となるように消滅しつつあった。
 この魂をここで弔うことが正しいのかは、判らないけれど──それでも剣に生きた人であったことは確かなのだろうと、慧子は完全に躯が消え去るまで見つめていた。
 万はまたスキットルを傾け喉を鳴らすと──よし、と見回す。
「後は、必要なところだけ直しとくか」
「わたくしも、手伝わせていただきますね」
 ルピナスもヒールを始めると、皆も助力して周囲を修復。雪化粧の明媚な景色を取り戻していた。
 それも済むと、右院は小さく一息ついたように。
「これで、道場の人たちに安心して戻ってきてもらえますね」
「じゃ、早速連絡するね」
 と、秋子が退避していた人々へ無事を報告。道場へと帰還してもらうことにした。
 程なく戻ってきた剣士達は……真摯に礼を述べてゆく。中でも師範は、皆の命を護ってくれたことに深い感謝を伝えた。
 もし番犬がいなければ、彼は己の身を顧みず盾になっていたろう。そういう精神を得る為の鍛練こそが日本の剣道の本筋なのだろうと、俊輝は彼に思う。
「此処は素晴らしい師をお持ちの道場なんですね」
 その言葉には、弟子達も掛け値なく頷いて。志も新たに再び鍛錬へと戻っていった。
 秋子が場内の掃除を手伝いに同道していくと、レヴィンも稽古を見ていこうかと少しだけ残ることにする。
 そうして一糸乱れぬ素振りが始まると──。
「見事なもんだな」
 気迫と真っ直ぐな心を感じて、レヴィンはその光景を暫し眺めていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。