実は家電なクローゼットもある

作者:baron

『グラビティ回収』
 車が過ぎ去った後、バタンと音を立てて街頭が圧し折られた。
 見ると衣装棚が街頭を抱き込むようにしており、まるで大きな口の様に動いていた。
『く・く・クロー! ぜーえええっと!』
 再び扉を開いた衣装棚は、逃げようとした車に向けて光線を放つ!
 それはビームか何かの様に薙ぎ払い、乗車していた運転手ごと貫いたのである。


「とある県にある山中に不法投棄されていた家電製品……の一つが、ダモクレスになってしまう事件が発生するようです」
 セリカ・リュミエールは珍しく歯切れが悪かった。
 だがそれも、見せられたメモを見ると氷解する。
「家電と呼んで良いのか分かりませんが、内部に機械のある衣装棚がダモクレス化するようなのです」
「あー。偶にあるわよね。明かりを付けたり、香料を設置できるやつ」
 ケルベロスの中には知っている者もいるのか、成るほどと手を打つ者も居る。
 なんでも着替えのためにライトが付いていたり、匂いや温度の対策ができるものもあるという。
「という訳で、相手は家電機能を備えた衣装棚になります。扉を口のように開閉して格闘を行い、ライトをビームの様に放ってきます。匂い対策の部分も何かに使うかもしれませんね」
「まあその辺はミサイルとか、武装のグラビティかな?」
「参考にしてるだけで、ダモクレスだしね」
 セリカのくれる情報をケルベロス達は考えながら能力を推測していく。
 ダモクレスはヒールによる変異強化をするが、あくまでベースになる家電を参考に再構成している場合が多いからだ。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。対処をお願いしますね」
 セリカがそう言って出発の準備に向かうとケルベロス達は相談を始めるのであった。


参加者
笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)
颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)
エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)
芳野・花音(花のメロディ・e56483)
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)

■リプレイ


「この辺りのはずですね。まだ現れては居ない様ですが……」
 他に何もない一本道で、目印は特徴的な曲がり角。
 予定地点まで辿り着いたが、芳野・花音(花のメロディ・e56483)が周囲を見渡すと何もない。
「そだねー。車とか来ないように、先に道を封鎖しちゃおっか」
 颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)は慣れた様子で、キャリバーのちふゆにテープの片方をペタっと張り付けた。
「ちはるちゃん達で封鎖して来るねー」
「今のうちに誰も居ないか念のために探しておくわねー」
 ちはるが右側に、ちふゆは左側に捜索を兼ねて移動しながらテープを大きな木に巻き付けていく。
 その様子を眺めていた心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)は、仲間と一緒に周辺を探してみた。
 田舎道なので近くに店などはないが、畑などがないとも限らないからだ。
「では私は怪しい場所の方を探りますね」
「気を付けるのよー。相手を見つけても、うっかり一人で向かわないようにね」
 花音が森の奥の方を覗き込むと、括は忠告しながら自身は村人を探し始める。
 家電型ダモクレスはファンシーな物も居るが、ケルベロスならまだしも、一般人にとってデウスエクスは危険な存在だからだ。
「クローゼットの家電でしたか、そういう物は初めて聞きましたね。どんな物なのか興味あります」
「私も実物を見たことがないので見てみたくはあるな。普通の物ならば無くはないのだが」
 無表情ながら興味深そうに周囲を探す花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)の言葉に、僅かなタイムラグを伴って嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)が頷いた。
 槐は目を閉じたままだが……いや、だからこそ、人よりも多めに記憶の中にある衣装棚を思い出していたのだろう。

 彼女たちの気持ちを知ってか知らずが、既知の仲間がシンプルに答えた。
「家電クローゼットねぇ……。灯りがついてるぐらいなら知っているが、多機能なのもあったんだな」
「へー。どんなのだよ」
 懐かしそうな笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)に、長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)は適当に促した。
 興味があったというよりは、間を持たせるために相槌だけ打ったようなものだ。
 土台が衣装棚である。脳筋のケがある豪快な男が興味を持つはずはない。
「そうさなあ。祖母の家ではランプ付きがあったな。とはいえ香料付きなんて聞いたこともないが」
 鐐は大きな顔を上に向けてニコリと目を細めた。
 懐かしき過去に思索を馳せる姿はほのぼのしていた。
 白熊としての毛並みがモコモコとして、箱竜の明燦は気持ちよさに頬ずりを返す。
「造り付けではなく予め大量生産で用意しておくのなら、そういうこともあるのか、な……?」
「むしろ、より良いものを試行錯誤していく中で生まれた家電家具でしょうね。一点物の可能性もありますが、過渡期という方がありえるんじゃないでしょうか」
 槐の推論にエレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)が幾つかの案を挙げた。
 技術の進歩が日進月歩であったころ、大企業に混じって中小企業などが、様々な種類の製品を生み出した。
 中には計算しつくされた物もあれば、愚にも着かない試作品同様の物もあっただろう。
「香料とかは虫避けを入れたりする場所の一種なのかしらねえ。空気を入れたり空気を循環させるとか?」
 括は昔を思い出してクスっと笑った。
 明かりをつけるだけの物でも数種類あり、電球の位置も奥だったり上だったり、中にはハンガーを吊り下げる物干し状の部分がランプな物まであった。
 そんなものは要らないし、中に何か入れるにせよ結局のところ、クローゼットの中に防虫剤や除湿剤を入れておけば、ハイテクな機械をつけなくてもそこまで困らないのであるが……。
「あー……それは、便利だと思ったけど使うのが難しかったやつか。やっぱり単純明快なのが一番なんだろうな」
「なんでも機能を追加すればいいってものじゃないんだよねー……。うんうん、本末転倒は良くないよ、良くない」
 千翠の結論はストーレート過ぎるが、一利あった。
 ちはるも頷くが、オブラートに包んで少しだけ軟らかめに表現を言い換える。
「棚には不要な物ですよね。ダモクレス化されてしまった今回の家具も可哀想な被害者なのかもしれません」
 ストレートか婉曲的kは別にして、内容としてはやり過ぎという事だ。
 二人の意見にエレスは頷くのだが、無駄話はここで終わりにしておこう。
「来ましたね。さぁ、行きますよ夢幻。サポートは任せましたからね」
 森の奥から音がしたことで、綾奈が斧槍を構えて警戒態勢に入った。
 翼猫の夢幻を引き連れて挑むそこには、大口を開けて迫るナニカが存在したのである。

 現れたそいつは、大きな扉をバタンバタンと口のように開閉している。
 なぜかコンセントが幾つかあって、電源として挿せるようだ。
『敵対者発見』
 汚れているガードレールがついでにように食いちぎられる。
 事故車で曲がったらしきポールごと、ブチリとやられてしまった。
 白かったであろう棚が薄汚れているのだが、その色も含めてまるでサメか何かの様だ。
「いけ、蒐。共に食い止めろ」
 槐はキャリバーの蒐を前衛に発進させ、自らは戦場全体を見渡した。
 狙撃役はあまりやらないので、仲間の動きを見ながらどう援護したものか探りを入れる。
『く・く・クロー! ぜーえええっと!』
「来るなら来い、よっこらせっ!」
 飛び掛かってくるダモクレスに対し、鐐が盾を構えて迎え撃った。
 そのまま暴れそうなところを、抱き着くようにして無理やり抑え込む。
「そんじゃ、先に行くぜ! 仲間を離しやがれ!」
 正面に居た千翠は足を振り上げると、下駄をイメージした闘気を放つ。
 勢い余って地面ごと蹴りつけ、大地に跡を刻みながら烈風が駆け抜けた。それは衣装棚の横合いを打ち、たまらず離させることに成功する。
「さて、そろそろこちらも行くとしようか」
 槐は千翠たち前衛を基軸に、仲間たちが簡単な陣形を築いていくのに気が付いた。
 ならば自分もその路線に従おうと、道を塞ぎながらハンマーを砲撃形態に変えて打ち放つ。
「大丈夫かしら~?」
「この身体、そうそう食い千切られはせんぞっ!」
 括が念のために確認すると、相手の攻撃を受け止めた鐐は衣装棚を投げ捨て、逞しく手で腹を叩いた。
 カポーンと肉球が鎧ごしに腹を叩き、仲間たちは微笑ましい動きに笑みを浮かべる。
「些少ではあるが、援護させてもらうとしよう!」
 そして鐐は咆哮に意味を持たせ、メロディを付けて歌に変えた。
 それはビリビリと振動し、体を震わせ心を震わせる。明日に向けて放たれる応援歌だ。
「じゃあ、私もそうしようかしらー。回復もだけど防御も固めないと同じことを繰り返すだけですものね~」
 括はそう言って胸元から包帯を取り出すと、闘気を乗せて周囲に舞わせた。
 その包帯は気を流し易くできており、新体操のリボンのようにはためかせるだけで、仲間の傷を癒し周囲に闘気による結界を築いていく。
「あ、ちはるちゃんも便乗しちゃおっかなー。みんなでやった方が効率良いし、誰守られてないと不安だもんねー」
 ちはるも同じようにチェーンを動かし、輪っかをバラバラにして解き放った。
 その輪はグラビティで連結されて、やはり結界を作り上げて前衛陣を守る為に機能する。

 何重もの結界が取り囲み始めたところで、ケルベロス達は本格的に戦端を開く。
「幻影で縛り付けてあげますね」
 エレスは素早く走り込みながら、自身の幻影を置きにして移動。
 分身というよりは残像で攻撃タイミングを見切らせず、更にグラビティで偽物の爪先を作り上げる。
 存在しないはずの爪先による蹴りは、針の様に鋭かった!
「念のために援護をもう一幕。オウガ粒子よ、仲間の超感覚を覚醒させて下さい!」
 綾奈は羽を広げると、周囲に流体金属の幕を広げ始めた。
 羽ばたくたびにそれは拡散し、仲間たちに情報を伝えて攻撃を導くのだ。
「……誰もkないようですね。これで安心して戦えます」
 最後まで周囲を確認していた花音は、一般人が誰も居ないことを確信してホっとため息を吐いた。
 そして様々な花が描かれたカードの内、一枚を取り出して眼前に掲げる。
「さぁ、騎士様よ、敵を氷漬けにしてしまいなさい!」
『反撃、反撃』
 花音はカードから氷で構成された騎士を召喚し、その槍を持ってダモクレスを串刺しにする。
 すると今度は扉が腕の様に力強く、外側に開いて騎士を引きはがしにかかった。
 もちろんそれだけではなく、中から光が漏れ始める!
「攻撃……来ます。下がって」
「やらせはせんよ!」
 光は鏡で反射して一点に集約されるが、そこへ綾奈と鐐たちが立ち塞がる。

 戦いが続いて暫く、当たりに奇妙な匂いが充満し始めた。
 鼻を刺すような臭いであり、同時に甘ったるさも持っている。
「……この香気、まさか」
「ええ。ちょっと面倒なことになったみたいねぇ。まあ、相手は妨害専門じゃないし、時間も重要じゃないから何とかなると思うけど」
 槐の所まで達した時には、もう何度か使われた後だ。
 途中で何度か括が解除したこともあり、臭い消しのタブレットにグラビティを乗せたミサイルが猛威を振るっていた。
「野生の鼻にこれはツライなあ。まあ防壁があるから被害は大したものでもないけど」
 鐐が鼻をしかめながら飛び出し、大きな手にナイフを握って振りかざした。
 ただそれだけだが、白熊のパワーで引っ掻き回されればバランスが崩れても仕方ない。
 浮遊していたダモクレスは、グラリと体をよろめかせ……ケルベロス達がその隙を見逃すはずはなかった。
「回復は私が何とかするから、みんなは攻撃お願いよー」
「せっかくのチャンスだしな!」
 括が回復と共に仲間に掛かる制限を解除する為、歌を唄う事で対抗する。
 その間に千翠は自身を蝕む呪いを逆利用する為、心臓でも掴みそうな勢いで指先で胸を抉る。
「噛み砕け! 食い散らかせ!」
 千翠は体を巡る呪いと、大地から立ち上る龍脈の力を混ぜ合わせた。
 そして闘気のように固めて龍の顎として放ったのだ。噛みつこうとするダモクレスを、逆に千切り取っていく。
「援護しよう。合わせられるか?」
「問題ありません」
 槐が蔦を伸ばしてダモクレスを絡めとると、ガードレールを利用して飛びあがったエレスは力一杯に斧を振り下ろした。
 本来ならば届くはずのない位置だが、雪が降るような幻影が迸りグラビティによて衝撃を発生させる。
 着地と共にブルンとナニカが揺れるが、エレスは気にせずに元の位置に下がった。
「おいで、有象無象。餌の時間だよ。――忍法・五体剥離の術!」
 ちはるは手早く指を動かして印を刻むと、手刀で敵の元に切り込んだ。
 するといつのまに潜り込んでいたのか、虫たちが暴れまわり始める。それが自然の物なのか、それとも作り出したものなのか。ちはる以外に知る者はしない。
「夢幻は回復の援護を。……空を切り裂く、この一撃を受けなさい!」
 綾奈は翼猫の夢幻を回復に置いたまま、自身は斧槍の周囲に空間の断層を作り上げた。
 横薙ぎに振るうと、空間の裂け目がまるで刃の様に衣装棚を切り裂いていく!
「全てを痺れさせる針の嵐よ、飛んでいきなさい!」
 ダモクレスは既に扉の一部が大きく割れ、蝶番がねじ曲がっている。
 花音はこの機を逃すまいと、魔力で生成した無数の針を飛ばした。
 それは敵の周囲に突き刺さり、動きを阻害し始めたのである。

 いや、その表現は正しくないだろう。限界が近かったダモクレスの、最後の抵抗が剥がれ落ちたのだ。
 既にボロボロだったダモクレスは、とうとう限界に達し地に落ちた。そのままの態勢で攻撃するところが、諦めの悪いダモクレスならではだろうか。
「逃げられないとは思うが、包囲網を崩さぬように行こうかな」
「はっ! ヨユーじゃねえか」
 鐐はビームで顔を焼かれるのを眩しそうにして、大盾で遮ってダメージを半減させる。
 その間に千翠は袈裟懸けに刃を振り抜き、ダモクレスの上半身(?)を斜めに切り裂いた。
「倒せなかったら後は頼むよ」
「了解。まあ必要とも思えないが」
 鐐が豪快にベアハッグを決めると、力任せにバックドロップ。
 その様子を確認していた槐は、ハンマーから手を離し拳に癒しの力を籠め始めた。
「ふう、終わりましたかね? 後は周囲をヒールしておけば良いでしょうか?」
「……やはり問題なかったようだな。それが終わったら敵が辿ってきた道筋も念のため見ておくか」
 花音が『お疲れ様です』とねぎらいの言葉を掛けると、槐は頷いて仲間の元に向かった。
「んじゃ、こいつ込みで色々かたずけておくか」
「終わったと思ったら一仕事があるの、結構大変だよねー。ちふゆちゃん、オプションでヒール機能とか付けられないかな? 無理?」
 千翠が残骸の整理を始めると、ちはるは相槌を打ちながら手伝い始める。
 彼が砕けたアスファルトやガードレールを持ち上げるのを待って、その部分をヒールしていく。
 荷物持ちを手伝うキャリバーのちふゆは、どうツッコミを入れようかと暫く悩んだ。
「こんな物かな? まあ今回は皆で手分けしたしね」
「これで一通り終わりましたかね。皆さんお疲れ様でした」
 一通り終わったところで、鐐と綾奈はヒールを手伝ったそれぞれのサーヴァントを撫でてあげる。
 明燦も夢幻も嬉しそうにパタパタと翼をはためかせた。
「クローゼットで思い出したのだけど、着ない服が溜まってきたのよー。もしかしたらエレスちゃんに似合いそうな服もあるかもしれないし、この後うちに見に来ないー?」
「括さんが不要になった服を頂けるのですか? ……そうですね。色々な服を着てみたいですし、折角ですから顔見せも兼ねて貰いに伺いましょうか」
 帰り際に括が声をかけると、エレスは頷いて着いていくことにした。
 お礼には食事代でも出して、みんなで食べればよいだろう。
 いずれにせよ、ケルベロス達はダモクレスを倒し帰還の徒に付いたのである。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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