回転する刃を止める者たち

作者:塩田多弾砲

「?」
 その日、日暮憂葉は、現場で作業中に。
『それ』の音を聞いた。
 彼女は今、『廃屋の解体作業』のバイトに従事していた。解体対象である木造家屋は、内部には何もない事は確認がとれている。
 重機の駆動音とも違う。何か……気に障るような甲高いモーター音だ。
「おいバイト、どうした?」
「いえ、なんでもありません」
 いけないいけない、今は仕事中。集中しないと……と、彼女は仕事に戻る。作業服に身を包んだ憂葉は、目前で破壊された家屋……の廃材を、一輪の手押し車に乗せては、トラックへと運んでいた。
 この家屋は結構古く、住民もおらず、一時期はお化け屋敷扱いされてたとか。
 取り壊しの際に、内部に入り値打ちものがないかと、同僚と探してみたが……何も残されてなかった。
 やや拍子抜けした後に、取り壊し開始。重機での取り壊しを終えた後、憂葉たちは廃材をトラックへ運ぶ作業に取り掛かっていた。
 だが、あらかた運び終えたその時。
「!? まただ!」
 先刻聞いた『音』が、また聞こえて来た。聞き間違いではない。何かの『駆動音』だ。
「……なっ」
「なんだっ!?」
『駆動音』の源。それは、家屋の瓦礫の中心から出現した、巨大な塊。
 塊は『人型』だった。全高7mの『それ』は、その全身を現し、佇む。
 それは、オーソドックスなヒューマノイド。しかし、その頭部は……『髑髏』のそれ。
 そして、両手首は。円形の丸鋸になっていた。
 その刃を、胴体前面で交差させていた『髑髏』は、
 まるで生ける屍のように、動き出した。
 回転刃を、二刀流のように構え……、
 駆け出し、切り付ける。それが憂葉が生涯最後に見た光景だった。

「まえに、大きなハンマーを持つダモクレスの事件があったけど、今度はハンマーじゃなくて、『刃物』のダモクレスが出るの」
 ねむの言う事件は、以前に機理原・真理(フォートレスガール・e08508)たちにより解決している。
 が、前の機体は『ハンマー』だったのに対し、今度の機体が武器とするのは『刃物』。
 そいつは標準的なヒューマノイドタイプのロボットの形状をしており、頭部は髑髏のような形状、両手首から先は『回転する丸鋸の刃』になっていた。
 通常はこれで切り付けて攻撃。それだけでなく、全身の表面にも、太短いスパイクとともに、短剣を埋め込んでいるかのように、短い刃が突き出ていた。蹴りや体当たりでの攻撃時、それらの威力が増すのは言うまでもない。
「今回のダモクレス、『切り裂くもの』というとこから『リッパー』って呼ぶけど……、これを倒してほしいの」
 そして、今回もまた。七分間のタイムリミットが存在する。420秒の間に倒さねば、暗黒回廊が出現してこの機体が回収され、大量殺戮に用いられるだろう。
『リッパー』は人型、ゆえに、刃を用いての接近戦および格闘戦で戦うが……、
「このダモクレス、体術が得意みたいで、遠距離からの攻撃も感知して、両手の刃で切り払ったり、蹴りで弾丸や砲弾を弾き飛ばしたりすることができるの」
 それに加えて、パルクールのように動き回り、攻撃そのものを容易に回避できるとの事。
 フルパワー攻撃は、両腕を広げ、そのまま高速回転し、周囲に切り付ける、というもの。この状態で下手に攻撃を仕掛けても、反対に弾き飛ばされ切り刻まれてしまうらしい。
 その状態では、回転の中心部……つまり、『頭部』への攻撃は効果があるようだ。ただし……そこに攻撃を当てる事は、かなり困難だが。
 周囲は住宅街で、平屋が多い。そのため、高い場所からの攻撃などは見込めない。
「現場は、取り壊し中の古いお屋敷なの。木造の大きなお家だったんだけど、古くなって誰も住まなくなったから、不動産屋さんが取り壊ししてたの。そしたら、その最中に地下から出て来たみたいなのね」
 この家屋は、結構前に……1970年代から80年代くらいに建てられたものらしく、十年近く前までは所有者の老夫婦とその息子が住んでいた。
 その夫婦が相次いで亡くなり、孫も病気で急死。相続する人間もおらず、不動産会社が土地ごと所有する事に。建物を取り壊し、更地にして新たに売り出す事になったが、その矢先に今回の事件が発生したという。
『リッパー』は、魔空回廊へと向かう前に、周囲に存在する人間を含めた生命体を襲い、その命を奪うように設定されているらしく……予見でも、優先して人を襲っていたという。
「でも、軽快に動けるぶん、装甲はそれほど厚くはないみたいなの。だからまず、その『動き』を止める事を考えた方がいいかもなの」
 ともかく、このダモクレスを放置するわけにはいかない。なんとかして回収される前に破壊して、量産化を食い止めねばならない。
「なので皆さん、おねがいなの。このダモクレスも破壊して、回収を防いでなの」
 いわれるまでもない。ねむの言葉を聞いて、君たちはこれの攻略法を練り始めた。


参加者
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
湯上・伊織(ゆがみちゃんは歪みない・e24969)
草薙・美珠(退魔巫女・e33570)
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)
ケル・カブラ(グレガリボ・e68623)

■リプレイ

●回転開始
「つまり、こういう事か?」
 現場監督が、念を押す。
「これから電動鋸の怪物ロボットが出てくるから、避難しろ、と?」
「そうです」と、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は受け合った。
「……仕方ねえ。おいお前ら! すぐ引き上げろ!」
「はっ、はいっ」
 と、憂葉が作業途中で、そのまま現場を離れていく。
 周囲では他のケルベロス達が、避難誘導にあたっていた。
「コッチ、早ク! デモ、慌てナイ!」
 ケル・カブラ(グレガリボ・e68623)も、誘導している。
「いつ奴が現れるかわからん、すぐに避難するんだ!」
 ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)もまた、ケルと真理とともに、作業員や業者たちを急かしていた。
「ここは危険だ、避難を」
 周辺住民の避難誘導を行っているのは、エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)。光の翼で、空を舞いつつ誘導していた。
「さてと……避難の方はあらかた終わったみたいね」
 数刻後。
 湯上・伊織(ゆがみちゃんは歪みない・e24969)の言う通り、人の気配が消えつつあった。
「ええ。あとは……んっ……罠を仕掛けて、敵を待つだけですね……んっ……」
 草薙・美珠(退魔巫女・e33570)が、お尻をもぞもぞとしている。
「? 美珠ちゃん、どうしたの?」
「いえ……神様から頂いた下着なんですが……緩いみたいで、すぐにずれてしまうんです……」
 伊織は、美珠が付けているその下着を知っていた。女性向けの『褌』のようなそれは、サイドを紐で結ぶのだが……おそらく、サイズが合っていないのだろう。
(「そう言えば、『巫女服は下着付けてはならんのじゃ!』って神様の嘘を見抜いた後に、その下着贈られたのよね。美珠ちゃんは」)
 そんな事を伊織が思い出していると、
「それより、見て下さい! 草薙流退魔術に伝わる、捕縛罠を仕掛け終えました! ここを通れば、『禁縄禁縛呪・玄武の型』で捕縛できます!」
 美珠が得意げに見せびらかす。要は、亀甲縛りみたいに緊縛されるものらしい。
「それでは、他の皆さんのお手伝いもしますね」
 美珠に続き、伊織も腰を上げるが。
「? ……何これ」
 妙なものが落ちていた。それを拾って仕舞った伊織は、ジークリットの方へ向かう。
 彼女は今、マンホールを開けている最中。その位置は……間違いなく、ダモクレスが逃走時に通るだろう事は予測できた。
「ジークリットちゃん、手伝う?」
「ああ、頼む」
 彼女は……マンホールに『爆弾』を仕掛けていた。梯子とマンホールの裏に、テープで固定し、蓋をし直す。
 仕掛け終えたマンホールには、キープアウトテープを貼って、目印と人除けを。
 数か所のマンホールに仕掛け終え、二人は一息つくと……、
「こちらも、終わったわ」
 真理も同じく、マンホールの仕掛けを終えていた。
 と言っても、こちらは爆弾は無い。水と油とを大量に撒き、蓋を取ってシートなどで隠し、落とし穴としていた。
「こちらにも、水と油、ローションなどをまいて、滑りやすくはしたが……」
 エメラルドは、自分の仕掛けを確認していた。これで足元を掬えるようになれば、有利に戦えるかもしれない。
「さて、細工は流々、仕上げを御覧じろ……ってとこかしら。あとは……」
 ダモクレスが出るまで待機。真理がそう言おうとしたその時。
『駆動音』が、響いてきた。
 それは徐々に接近し、そして……、
 全容を、その場にさらけ出した。

●回転数上昇
 すぐに、全員が身構える。
 全員の視線の先に……、ダモクレス『リッパー』が現れていた。
 身長7m。顔面は、『髑髏』の意匠。両腕は、丸型の『扇』を手にしているような『丸鋸』。
『リッパー』は、交差させていた両腕を広げ……目前の、ケルベロス達へと顔を向けた。
 ケルベロス達を『獲物』と認識したのか、そいつは両手首の『回転鋸』を、回転させ始めた。
 回転させつつ、その『駆動音』も響かせつつ……、ケルベロスの方へ、飛び跳ねるように歩き出し、走り出す。
 事前に合わせておいた、全員のタイマーのスイッチが押され(電子機器を壊しがちの美珠のみ、砂時計をひっくり返し)。
 420秒間の戦いが、ここに始まった。

 アラームが鳴るのは、300秒……五分後。
 ジークリットは、即座にブレイブマインを使用する。
 そして、最初の三十秒。『リッパー』はバレリーナのように、くるくると体を回転させつつ……、ケルベロスらへ切り付けてくる。
「くっ……早いです!」
 立ち向かわんとする美珠だが、回転鋸の前にたたらを踏んでいた。丈の短い、スカート状の袴を翻しつつ……、
「早いですが……負けません!」
 後方へと下がり、呪符を……シャーマンズカードを放った。
『氷結の槍騎兵』。冷たき槍を手にした鎧の武人が召喚され、『リッパー』に氷結の一撃を食らわせる。
 さらに足元には、
「ウラッ! コッチだ!」
 ケルが組み付く。細身の身体なれど、その攻撃はやわではない。
「あんっ! 太スギ!! ソレどころじゃナイ! 痛いデス!」
 が、ダモクレスのスパイクの一部が突き刺さり、出血してしまった。
 しかし、『リッパー』は、『ドガッ』という音ともに、組み付いている足ごと……近くの家屋の塀へ、ケルを叩き付けた。
「……グッ……ハァッ! ……コッチも……痛い、デス……!」
 組付きが外れ、地面に転がされるケル。
 すでに『リッパー』は玄関を越え、外の道路へと足を踏み出していた。
 ぴょんと飛び跳ね、地面を踏み込み、走り出そうとするも、
「プライド・ワン! 行って!」
 真理の命を受けたライドキャリバーが、炎を纏い突撃し、体当たりする。
「ほら、こっちだよんっ!」
 更に伊織が、背中側からの飛び蹴り……スターゲイザーを。
 さすがに『リッパー』も、たたらを踏んだ。ボディが、デッドヒートドライブで熱せられ、爆ぜている。
 そのままよろけた『リッパー』は、ずるり……と、撒かれたオイルとローションを踏み、滑り、バランスを崩す。
「これも……くらうがいい!」
 エメラルドが空中から放った、ライトニングボルトの直撃。『リッパー』は体表面をスパークさせ、そのまま倒れ……、
 すぐにブレイクダンスを踊るダンサーのように、両足を回転させ、立ち上がった。
「無傷? ……でもないようね」
 真理の言う通り、『リッパー』には凹みや破損が見受けられた。
 攻撃を畳みかければ、破壊は可能。
 そんな希望を抱いたケルベロスたちは……、
 次の一分で、その希望が打ち砕かれるなど、知る由も無かった。

●回転速度最高
 やがて。『リッパー』は動きを止めると、その場に立ち尽くした。
「刃物の九十九神! 人に仇なすならば、退治します!」
 美珠が駆け出そうとした、その時。
「……まさか、もう?」
 ケルを『黄金の果実』で回復させていた真理は、『リッパー』が、両腕を広げるのを見た。
「……みんな、気を付けて!」
 胸中にたぎる『嫌な予感』。猛烈な『警戒心』とともに、真理はヒールドローンを展開させる。
「「「!?」」」
『嫌な予感』が、『事実』となり、周囲を巻き込みはじめていた。
 両手を広げた『リッパー』は、そのまま自身を巨大なプロペラまたは竹トンボよろしく、その場で回転し……凄まじいスピンとスピードをもって、周囲を破壊し始めたのだ。
 住宅が、塀が、木々が、『切断』……もとい、『粉砕』され『すり削られ』ていく。しかも、あちこちに素早く寄ってはぶつかり、ぶつかっては破壊し反射するため、動きが読み取れない。かわしきれない。
 プライド・ワンが接触し、弾き飛ばされた。
「こっちだ! さあ来い!」
 空中から、エメラルドが誘い出し、
「くっ……こいつは……」
 ジークリットは、そいつの風圧に気圧されていた。
「……まさか、こんなに早くフルパワー攻撃するなんて! ……きゃあああっ!」
「な、ナンダッ! ……クウウッ!」
 ヒールドローンを展開させていなければ、おそらく真理はケルとともに巻き込まれ、更なる重傷を負っていただろう。
 が、なんとか回避し、事なきを得る。
「ここからならばッ……!」と、エメラルドが空中から攻撃を仕掛けようとした刹那。
「……え?」
『リッパー』は、その巨体を跳躍させていた。ヒールドローンが、エメラルドを守るも……予想外の動きに、完全には防ぎきれない。
「……ッ! ああああああああっ!」
 エメラルドは、『リッパー』の両腕の回転半径内に、わずかながら巻き込まれていた。
「エメラルドさんっ!」
 真理の叫びに答えるかのように、エメラルドが近くに放り出される。
 彼女はまさに、『血みどろ』のダメージを食らっていた。
 僅かに、『リッパー』の回転に掠っただけだというのに、エメラルドの半身は『巨大な挽肉器の中に放り込まれた』かのような傷を負っていた。
 服が切り裂かれ、肌はむごたらしくも深く切り裂かれ、ズタズタにされている。エメラルドは痛みに震え、叫びながらのたうち回るのみ。
 かけつけたケルが、
「待ってロ! スグ治ス!」
 シャウトでの治癒を始めた。
 それと同時に、『リッパー』は己の回転を止めると、
 歩行を再開し始めた。

 二分が過ぎ、残り300秒。
 フルパワー攻撃に、あっけに取られていた美珠と伊織だったが、
 すぐに駆け出した。
「美珠ちゃん!」
「あの九十九神、動きが若干鈍くなっています。攻撃するなら、今が好機!」
「わかったわ、私を踏み台に!」
「はいっ!」
 伊織がバレーのレシーブの体勢で手を組み、美珠の足場となる。そのまま……巫女の少女を、空高く跳躍させた。
 ……彼女の袴と、その内部へと視線を向けながら。
 巫女に対し、気が付いた『リッパー』が、再び身体を回転させる。が、先刻よりも精細さが欠けていた。
「……思った通り、回転の中心部はがら空きです! ならば……草薙の剣、受けてくださいっ!」
 空中で鞘を払った、『草薙剣』の刃が光り、
「剣よ、魔を祓い清め給え!『剣の祓魔(スサノオ)』ッ!」
 その刃が、髑髏の頭部へと突き刺さされ、回転し、ねじ切った。
 頭部を半壊させた『リッパー』は、回転したままよろけ……先刻に仕掛けてあった『落とし穴』に片足がはまる。
 頭部が爆発し、吹き飛ぶと……『リッパー』の動きが止まった。
 巫女服の袴……丈が短い、スカート状の袴を翻しつつ、美珠は着地し……、息を整える。
「ふう……なんだか、体中がすうっとしますが。どうやら、九十九神は倒したようですね」
 でも、何かすぅっと『し過ぎ』なようですが。そういえば、先刻からパンツのずれがないようですけど……、
「待って! まだよ!」
「え?」
 伊織の警告が飛ぶと同時に、『リッパー』の回転鋸が美珠に襲い掛かっていた。

●回転低下
「な、なぜっ! 落とし穴からは離れているのにっ!」
 距離を取っていたため、リッパーの鋸が届くわけがなかった。なのに『届いた』。
 その理由は、『リッパー』が己のはまり込んだ足を、己の鋸で切断していたから。片足になった『リッパー』は……『鋸の回転を利用し、即席の車輪にして移動し突進』していたのだ。
「くっ!」
 その勢いは、美珠を攻撃するのに十分。もしも草薙剣で受け止めなかったら……彼女の胴体は真っ二つになっていただろう。
「っ! ああっ!」
 草薙剣が弾き飛ばされ、鋸、腕の刃やスパイクが、美珠の巫女服を切り裂いていく。
「離れなさいっ!」
 ガジェットガンで射撃する伊織だが、美珠への攻撃は止まらない。
 とどめとばかりに、斬撃が二度、繰り出された。
 一度目は美珠の巫女服を両断。二度目は美珠の身体を両断……、
「ああああっ!」
「伊織さん!?」
 ……するのを庇う、伊織の身体を切り裂いたのだ。
「……だ、大丈夫?」
「い、伊織さんこそ! 大丈夫なんですか!?」
 返答するより早く美珠を抱きしめ、その胸を触る伊織。
「……ふふっ、こういう時なら、美珠ちゃんのおっぱい、触り放題ね……」
 そのまま力尽きたように、崩れ落ちる。
「プライド・ワン! 行けーっ!」
 真理の命を受け、キャリバースピンの直撃が、『リッパー』に炸裂する。
「オカエシ、だーっ!」
 続けざまに、ケルのスターゲイザーが。
 頭部と片足を失った『リッパー』は、たじろいだかのように、その場から逃走した。片足立ちで飛び跳ねる。
「……まだ、逃げるつもりか! だが……『逃がさない』ッ!」
 全員のアラームが鳴り、五分を告げた。
 それとともに、マンホールの上を踏んだ『リッパー』は、ジークリットが仕掛け、『爆破スイッチ』で起爆させた爆弾の爆発を受け……、
 その下半身を、完全に吹き飛ばされた。
 頭部のない上半身が宙を舞い、地面に、道路上に転がる。
 しかし、まだ動きを止めていない。
「……風よ」
 ジークリットがその前に進み出て、
「……血も通わぬ、切り裂き者を打ち倒せ! 『烈風』!」
 ゾディアックソードの刀身から、強烈な真空の刃を放つ。
 残された上半身が完全に破壊されるのと、暗黒回廊が出現したのは、ほぼ同時の事だった。

●回転停止
「エメラルド、大丈夫カ?」
 ケルに対し、
「……大丈夫、問題ない」
 エメラルドは、力なく微笑んだ。彼女の傷は深かったが、かろうじて急所は外れていたのが不幸中の幸いであった。
「出血は止まったけど……しばらく、休んだ方が良いわ」
 真理の言葉に、力なくうなずくエメラルド。
「じゃ、あとはヒールを……」
「待て、私はしないぞ」
 真理の言葉に、ジークリットが拒否。
「前のような失敗は、するわけにはいかんからな。間違いは二度と繰り返さん」
 というような事がありながら、ヒールは終了し、事件は解決した。
 ……一つの問題を除いて。

「休憩できる宿があって、良かったですね」
 美珠はラブホテルに、伊織と入っていた。彼の『休憩、していきましょ?』という誘いに、わけもわからず乗っただけなのだが。
「あの、傷は……」
「大丈夫、真理さんたちのおかげで、ほぼ完治したわ。それより……」
 と、伊織は先刻に拾った『あるもの』を、美珠に差し出した。
「……美珠ちゃん、ずっとノーパンで戦ってたの、気づいてた?」
「え? ……そ、それは!」
「どうやら紐が緩んで、勝手に脱げちゃったみたいね。さっき私を踏み台にして、ジャンプした時……あそこが丸見えだったわよ」
 つまり、『はいてない』状態で、今の今までずっと……。
「そ、そういえば……攻撃した直後にスース―してたのは……気のせいじゃなかったん……ですね……」
 あまりの羞恥に、真っ赤になる美珠。
「……ねえ、美珠ちゃんのきれいなお尻と……あそこをずっと見て、私……ちょーっと『したく』なっちゃったし、良いでしょ? ね?」
 そのまま美珠は、伊織にベッドまで運ばれてしまった。
 その後、使用時間は延長。
 二人がホテルから出てきたのは、翌日の朝だった。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月12日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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