春の味覚、ふきのとうの悲劇

作者:白鳥美鳥

●春の味覚、ふきのとうの悲劇
 丈太郎は山菜採りに林の中に入って行っていた。そろそろ、春の味覚であるふきのとうが採取出来るからだ。
 その頃、謎の花粉が上空を飛んでいた。そして、その花粉はふきのとうに憑りついてしまったのだ。……そう、丈太郎が山菜を採りに入っていた林の中のふきのとうに。
 花粉によって憑りつかれた攻性植物化してしまった、ふきのとう。それは、採取しようとしていた丈太郎に容赦なく襲い掛かり、丈太郎自身に寄生してしまったのだった。

●ヘリオライダーより
「春の味覚の一つに、山菜があるよね。有名な所では、ふきのとうかな。てんぷらとかにして食べる事が多いよね」
 そう、デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は言ってから話しはじめた。
「そろそろ、そのふきのとうが採れる季節に入って来て、山菜採りに出かける人も増えてきた。そんな中、謎の胞子を受けて、ふきのとうが攻性植物化してしまったんだ。そして、丁度、山菜採りに来ていた丈太郎さんを襲って宿主にしてしまったんだよ。急いで、向かって、丈太郎さんを助けて欲しい」
 デュアルは話を続ける。
「この攻性植物化してしまったふきのとうは、丈太郎さんを宿主にしたことで、そのままの姿で巨大化しているんだ。だから、見て、直ぐに分かると思う。……それで、この攻性植物に取り込まれてしまった人は一体化してしまっていて、普通に倒してしまうと、宿主となった丈太郎さんも一緒に死んでしまうんだ。……でも、助ける方法がある。その方法は、この攻性植物にヒールをかけながら戦うんだ。ヒールって回復するイメージがあると思うんだけど、実はヒール不可能なダメージもあって、これが少しずつ蓄積していく。だから、粘り強くヒールをかけ続けて戦う事によって、この攻性植物化したふきのとうを撃破すれば、宿主となってしまった丈太郎さんを助け出す可能性があるんだ。……だから、出来れば丈太郎さんも助けて欲しいって思う。お願いできるかな?」
「春の味覚である山菜を楽しみにしている人って沢山いるんだ。丈太郎さんもその一人。その楽しみを奪うなんて許せないよね。無事に攻性植物を倒して、丈太郎さんも救い出して欲しい。……それで、回復して貰って、また美味しいって思って貰いたいんだ。みんななら出来るって信じてる。彼を助けてあげて欲しい。みんなの力、信じているからね!」


参加者
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)
アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)
ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)
ラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)

■リプレイ

●春の味覚、ふきのとうの悲劇
 春の来訪、山菜の季節。その一つのふきのとうに悲劇が起きてしまった。謎の胞子を受けて、攻性植物化してしまい、山菜採りに来ていた丈太郎を取り込み、寄生してしまったのだ。
「まだ寒い日もあるが……そうか、もうすぐ春が近付いているんだな」
「山菜ですか、春が近づいた感じがしてきますね。ですが、そんな中でも攻性植物の脅威が絶えないので、気を付けないといけませんね」
「一足早い春の味覚を楽しもうとしていただけの人を見捨てるわけにはいかないからね……出来る限りで救出を試みよう」
 ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)の言葉に、彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)が頷き、バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)は、そう返す。
「ふきのとうといったら天ぷらですよね。苦いのは少し苦手ですけれどもアレも美味しいです」
「ふきのとうは少し苦いですけど、それが美味しい春の味覚ですよね! 丈太郎さんもそれを楽しみにしていた1人です。必ず助け出します!」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)の言葉に、イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)が、力強く頷く。
「春の始まりを告げるかのように顔を出すふきのとう。ふきのとうは春の芽吹きと生命の象徴です。ふきのとうを助けてあげられないのが残念ですが、せめて丈太郎さんは救いたいですね」
 如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)の言葉に、皆、強く頷いた。
 そして、現場に辿り着いてみると、凄い光景が広がっていた。丈太郎を宿主としたふきのとうは、見事に巨大化してしまっていた。周囲に生えていた木々も無残に倒れている。
 そして、攻性植物と化してしまったふきのとうは、見るからに頑丈そうだ。
「ほんと、どこから胞子が飛んでくるのでしょうね」
 ミリムの言葉に、皆、頷くしかなかった。

●攻性植物・ふきのとう
「銀天剣、イリス・フルーリア―――参ります!」
 初手を取ったのはイリス。まずは、惑星レギオンレイドを照らす『黒太陽』を具現化、絶望の黒光を、ふきのとうに浴びせかけた。更にアルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)のヌンチャク型化した一撃を加える。
「大丈夫です、僕達はケルベロスです。必ず助け出しますからね!」
 バジルは丈太郎に声をかけつつ、高速の一撃をふきのとうに放った。
「助けにきましたからね!」
 ミリムも声をかけつつ、無数の黒鎖を放って、ふきのとうへの動きを制限する。その間に沙耶は雷の力による壁を展開してバジル達へと護りの力を高めていった。
 勿論、ふきのとうの方も黙ってはいない。イリス達を一気に地面へと引きずり込んでしまう。
 しかし、直ぐにウリルは大鎌を振って斬りつけ、その動きを抑えにかかった。
 ラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)は紙兵を展開させてウリル達の護りを高めていく。
 相手が固い事もあり最初に一気に攻勢をかけたが、固いが故に丈太郎を救う為に行う回復のタイミングを失敗すると厳しい。
「これも、丈太郎様を救出するためですわ」
 紫がふきのとうに対して施術を行い癒す。
「私は皆様の意識を取り戻します」
 ミリムは紫達へと惨劇の記憶による癒しの力で回復を施した。
 一方、イリスは暴風を伴う回し蹴りでダメージを抑えていく。逆にアルシエルは強攻撃に打って出た。
「……血に、沈め……」
 アルシエルは自身の血を媒介にして弾丸にし、ふきのとうに撃ち放つ。
 沙耶は雷の壁を用いてミリム達の加護の力を高めて、ふきのとうからの攻撃に備えた。
 ふきのとうが狙うのは、高火力を持つアルシエル。蕾から花を咲かせると、炎を渦巻かせて襲い掛かった。花を閉じようとするタイミングを狙って、ウリルは輝きを伴う重い蹴りを放つ。ラグエルは紙兵を放って沙耶の護りの力を高めた。
「次はどう行きましょうか。僕は相手を回復しようと思います」
「私も念のために回復に回りますわ」
「では、私は、一旦、全力で行こうかと思います。勿論、臨機応変でいきますが」
「私も強打でいこう。一応、弱めの攻撃手段は持っているから、それも必要に応じて使うよ」
「私は皆さんの回復のサポートに全力をかけます」
「私は様子を見つつ、攻性植物に回復をしていこうと思います」
 バジル、紫、イリス、アルシエル、ミリム、沙耶は相手の先手が今の所取れそうなので、一旦作戦をすり合わせる。
「俺は攻撃に専念で良いだろうか」
「私は皆の回復や支援をメインにしつつ、様子を見る形で行こう」
 ウリルとラグエルの方針は基本的に変わらない。先手の5名のタイミングの摺合せが一番重要になってくるだろう。
「攻勢をしかけます!」
 イリスの言葉にアルシエルも頷く。イリスの弧を描く急所攻撃に合わせ、アルシエルはふきのとうに高速の一撃を与える。バジルと紫と沙耶は施術による回復をふきのとうに施していく。一方、ミリムはルーンの力を使い、アルシエルの傷を癒した。
 ふきのとうが取った行動は……再び地面を揺らすものだった。イリス達が一気に地面に引きずり込まれていく。この調子だと長期戦になりそうだ。
「必ず助けるよ、だから頑張ってくれ」
 ウリルは丈太郎に向かって声をかけつつ、大鎌をふきのとうに対して大きく振るい斬り裂いていく。
「やはり、前衛がまともに狙われているな」
 仲間達のふきのとうへの回復は、共鳴。破剣の必要はなさそうだ。ならば、前衛の護りを固めた方が良いだろう。ラグエルは紙兵を再びアルシエル達に向かって放ち、護りの力を高めていく。
「皆さん、目を覚まして下さい!」
 ミリムは紫達に目覚めの為の癒しの力を送る。
「ミリムさん、ありがとうございます。やられてばかりではいられません。この鎖で、縛り付けてあげますよー!」
 バジルの放つ鎖がふきのとうを縛り上げていく。
「その身を、石化させてあげますわよ」
 紫も魔法光線を放ち、石化症状をを与えていった。
「もう一発なら、沙耶の回復だけでなんとかなりそうかな」
「固い相手です。恐らく、まだいけるのではないかと……」
 ふきのとうの様子を見つつ、先程の回復である程度は向こうも持ち直しただろう。アルシエルとイリスは相談しつつ、次の一手に出る。
 アルシエルは如意棒をヌンチャクの様に操りつつ、ふきのとうに打ちつける。
「光よ、彼の敵を縛り断ち斬る刃と為せ! 銀天剣・零の斬!!」
 イリスの全天から刀と翼に光を集めた一閃はふきのとうを斬りつけるだけでなく、光の力で抑え込んだ。
「丈太郎さん、頑張ってください」
 沙耶は施術の力を持ってして、ふきのとうへの回復を図る。
 ふきのとうの次の狙いは、確実にダメージを与えてくるウリルだ。花弁を使い、動きを拘束してくる。それを受け止めつつウリルは重い蹴りを叩き込んだ。
 ラグエルは、その攻防の間を縫いつつ、紙兵をウリル達へと放ち護りの力の更なる向上をさせていく。
「次は回復でいきましょうか」
「そうですわね。いくら固い相手とはいえ……気を付けなくては」
 バジルと紫は頷くと、ふきのとうへの施術で回復を図る。
 イリスも『黒太陽』による黒光を放ち、アルシエルも礫をばら撒いて、ふきのとうの動きを牽制する。ウリルの大鎌による斬り裂く一撃が入ったタイミングで沙耶は施術に依る回復をふきのとうに施した。
 ミリムはウリルへとルーンによる治療を行い、ラグエルは狙われやすいアルシエル達に再び紙兵を放って護りを固めた。

●ふきのとうと耐久力
「思ったより硬いです。それに傷つけては癒して……とコレは長くなりそうですね」
 ミリムの言葉通りだ。
 正直な所、淡々と攻撃を繰り出してくるふきのとうの耐久力は見えてこない。元々、守りが高いので、力の加減が非常に難しいのだ。余り強く攻撃に出過ぎて撃破してしまったら、丈太郎は助からない。
「私はある程度、加減が出来ますが……」
「私の方は見切りを考えると全体的に強い攻撃になる。場合によっては、命中率を落とした方が良いかもしれないね」
 イリスは攻撃力が高いものと低い物を交互に分けて戦う事が可能だが、アルシエルの場合、見切りを考慮すると高火力のものが多いのだ。とはいえ、常に相手に対して回復を行う状態であれば高火力の攻撃も必要になって来る。
 一方、安定した中間の威力をもってして攻撃できるのはウリル。
 攻撃と回復の両刀使いが可能なのはバジル、紫、沙耶。
 ミリムとラグエルは基本的に味方の回復がメインだが、ミリムは攻撃手段を持ち、ラグエルは支援特化している。
 ラグエルは仲間達の支援で問題ないだろう。ウリルも一定した攻撃力なので、後は残りのメンバー……特に攻撃主体のイリスとアルシエルのバランスが大事になって来る。
「私は相手への回復に専念した方が良さそうですね」
 沙耶の提案に、皆も頷く。沙耶が主に回復に回ってくれるだけで状況はかなり変わってくるからだ。
「私の方も最終撃破の時に加わった方が良いかもしれませんね。後は、相手への回復が足りない時に動きます」
 相手からの強打の攻撃は来ないものの、回復は重要だ。ミリムの役割も大きくは変わらない。
 そうなると、もうアルシエルには高火力の攻撃に専念してもらい、イリスには時々に応じての攻撃、バジルと紫の攻撃と回復の見極めが大事になりそうだ。
「特に僕と紫さんのタイミングが重要そうですね……。ですが、丈太郎さんを助ける為にも頑張りましょう」
「ええ。必ず、助け出してみせます」
 バジルと紫は頷きあった。
 一先ず、大体の作戦は整った。後は、丈太郎が完全に宿主となってしまう前に倒さねばならない。事は急を要する。
 まず動くのはアルシエルだ。高速の一撃をふきのとうに殴りつける。次いで動くのは紫。直ぐにふきのとうの回復に回った。
「……判断が難しい所ですが、今までの回復量を考えて今回は……」
 イリスは全天から刀と翼に光を集めて一閃する。その後を沙耶が施術を用いてふきのとうを回復していった。
「これならいけそうでしょうか」
 バジルは青薔薇を咲かせる茨をふきのとうに飛ばす。攻撃としては、一番弱いものだ。ウリルも重い蹴りを叩き込んでいく。
 相変わらず特に変化を見せる事の無いふきのとうは、再び地面をぐらぐらと揺らし始め、イリス達を一気に沈め込む。
「皆さん、しっかりして下さい!」
 直ぐにミリムの回復したので事なきを得、ラグエルは紙兵を紫達に再び放って護りを更に高めていった。
 その後もアルシエルの強打の後に、沙耶の回復が入り、イリスの攻撃の後にはバジルか紫、あるいは両方の回復が入る。ウリルも確実にダメージを蓄積していき、ミリムは回復に、ラグエルは支援にひたすら回った。
 そんな攻防を繰り広げている間に、ふきのとうの方に少しずつ変化が見られる様になってきた。今まで、特別ダメージを受けている様子が無かったふきのとうの動きが少しずつ鈍くなってきたのだ。蓄積されてきたダメージが影響を及ぼしてきつつあるのだろう。
 しかし、油断は禁物。寧ろ、ここからが撃破に向けてダメージを出来る限り落とさなければならなくなってくる。アルシエルも敢えて命中率を落としたり、イリスもダメージを出来る限り減らしていく。しかし、ウリルの一定ダメージは変わらない為、バジル、紫も適時回復を施していく。
 ……そして、少しずつ弱っていったふきのとうは……遂にその姿を壊し、丈太郎と思われる人物が倒れ込んだのだった。

●いつか、また
「大丈夫ですか、意識はありますか?」
 バジルが駆けつける。そして、癒しの力を用いて彼の体力を回復させた。
「……ここは?」
 ぼんやりと意識を取り戻した丈太郎に、イリスや紫、沙耶、ウリルも安堵の息をつく。
「まだ寒い時期ですので低体温症になっている可能性もありますね」
「必要であれば病院まで送る必要がありそうですね」
 ヒール等の手当てをしつつ、沙耶とイリスは彼への手当てと救援の準備を始める。
 他のメンバーは荒れ果ててしまった木々等をヒールして、元に戻していった。
 色々な場所をヒールしていると、小さなふきのとうを見つけた。巨大なふきのとうを相手に戦っていたので本当に小さく見える。
 ふきのとうを食べた事が無いウリル、アルシエル、ラグエルは興味津々に覗き込む。まだ食べられない事だけは分かるのだが、春の味というものには興味がある。
 ふと、アルシエルは自らがふきのとうを食べていないので、生き別れの兄であるラグエルも食べた事が無いのではないかとそう思った。
「……兄……いや、ラグエル。……今度、食事に行こうか? ほら、ふきのとうって食べた事無いし」
 思ってもいなかった弟の誘いに、ラグエルは嬉しくなる。
「ああ、行く! 一緒に行こう!」
 余りに喜ぶ兄にアルシエルは苦笑する。でも、食事に一緒に行くのは楽しみだ。
 ……季節は廻っていく。春本番ももうすぐだろう。……回復した丈太郎がまた、山菜を楽しむ事が出来たら、そう思う。――今度は、楽しい時間を過ごしてくれる事を願って。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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