怪兵器? 超鋼パンツァーあらわる

作者:大丁

 自家用車のロックを外したところで、違和感にとらわれた。
 その男もふくめた近隣の、住民が利用している月極駐車場だった。
 住宅街のなかにあって、平面にアスファルト舗装されている。
 周囲は、金網フェンスで取り巻かれ、出入り口は一ヶ所。ゲートやバーなどの閉鎖設備はなく、係員が常駐する場所もない。
 出入り口から伸びた一本の通り道に、左右それぞれ10台づつ、20台ぶんの駐車スペースがあり、その半分が埋まっていた。男の車は出口を前にして左側、6台目だ。
 7台目の空きスペースに、影が立つ。
 3mの巨漢だった。メタリックなビキニパンツだけの裸だ。
 運転席がわのドアの前で、いぶかしんだままの男に両手を伸ばすと、腰を掴んだ。
「うわああ!」
 突然のことに悲鳴があがる。巨漢は構わず、男の腰を自分のパンツの前まで持ち上げていき……。

「なんだか、大変な敵よお」
 軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)は、集まったケルベロスたちに、首をすくめてみせた。
「オウガメタルの装備部位って、胴とはなってるけど、標準は鎧みたいなものよね。この罪人エインヘリアルは、メタルでパンツつくっちゃったみたいね」
 罪人エインヘリアルとは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者。
 放置すれば、多くの人々が危険にさらされるばかりか、恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることも考えられる。
「戦術超鋼拳と、性質はよく似てる。近くの1体に破壊ダメージと服破りを与えるから。でも、拳で殴るんじゃなくて、パンツの中身で殴ってくるのねぇ」
 たしかに、タイヘンな敵だ。ケルベロスたちの数人はのけぞった。
 出現場所は、月極駐車場。タイミングが正確にわかっており、手順を守れば敵との戦闘だけに持ち込める。
「入り口の外で張ってると、予知に出てくる被害者がやってくる。駐車場に入る直前で引き留めてね。前に立ちふさがるくらいで十分よ。そうすれば、予知と同じ地点にエインヘリアルが現れてくれるのお」
 あとは、全員で駐車場に突入し、倒すのみ。
「レッツゴー! ……パンツ? そうよぉ、超鋼パンツァーなのね!」
 冬美は合点がいったようだ。
 パンチ(拳)とパンツ(下着)にパンツァー(装甲)が、かかってるらしい。


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
除・神月(猛拳・e16846)
神居・雪(はぐれ狼・e22011)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
ホニゥニ・コルピラーレ(眠り羊は夢を見る・e50586)
ケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)

■リプレイ

●メタル合戦
 歩道も中央線もないようなアスファルト道を、男はとぼとぼと歩いてきた。行く手を遮る、金属パンツ。エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)のビキニアーマーだ。
 男はギクリとして、思ったことを口に出した。
「コスプレぇ?! あ、痴女か。すみません、僕はこの先で嫁さん子供と暮らしているんで、見逃してもらえませんか?」
「驚かせてすまないな。貴殿の駐車場に、凶悪なエインへリアルが出る。指示に従って欲しい。……コスプレでも痴女でもない!」
 他に一般人は見当たらず、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)たち、7人のケルベロスはフェンスや車体を乗り越えて、出現ポイントを取り囲んだ。
 凶悪なほうの金属パンツが実体化する。
「アレを狙うです。デットヒートドライブなのですよ!」
 真理の黒いライドキャリバー、プライド・ワンが、一輪のタイヤ跡を路面につけながら、駐車スペース7番に、突っ込む。
「おのれ、女ばっかりとは。オレはまだ囚われの身なのか?」
 罪人はサンダルこそ履いているが、他は裸。報告どおり、腰まわりにメタリックな素材を纏っている。
「なんか、凄い格好なのですね。あの状態でも良いってオウガメタルは思ったのですか……」
 つい顔を背ける真理に、燈家・陽葉(光響射て・e02459)は、まぶたを閉じてこたえる。
「きっと、泣いてるよ。ひっどい使い方もあったものだねー」
 道着と袴には、艶やかな花模様が染められていた。手にした和弓には、矢をつがえず、弦だけを弾く。
 大地の音色が響いた。
 耳で察知し、攻撃するために、目をつぶっていたのだ。陽葉(あきは)の『鳴弦』が、超鋼パンツァーの足元を揺らし、アスファルトがめくれる。
 体勢を崩したところへ、除・神月(猛拳・e16846)の横すべり気味の蹴りがきまった。
 中華拳法の胴衣に、黒のズボン。腰に締めた青い布が、足技の勢いを残して渦をまく。
「鬼が出るか蛇が出るカ」
 ビキニは面積が狭い。どこに納まっているか、外から判別がついてしまう。
「それとも鬼みてーな蛇が出るカ、ってとこカー?」
 右に曲がってフニャリと押さえつけられていたモノが、はっきりと形を主張しだして、神月(しぇんゆぇ)は手を口にあてて笑った。
 パンツの中で武器が屹立すると、その腰を落として重心を低くし、足は左右均等な位置。両手とも肘からを前へ。
 まるで、レスリングの構えだ。
 低重心といっても、3mもの身長では、オウガメタルの装備部位は、まだ相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)の胸筋の高さくらいにあった。
「やはりか。衣服の破りを効果的にしようと……!」
 その動作をうかがうだけで、相手が自分と同ポジション、すなわちジャマーを担当していると判る。
「まさにうってつけの奴。きっちり止めねえとな」
 泰地(たいち)もパンツ一丁だ。と言っても、相手と同じ変態ではない。格闘技用のトランクスである。
 脛当てはあるが裸足で、舗装の亀裂にジリッと沿わす。避難させた男の車に隠れて、まずは後衛のスナイパー陣に、オウガ粒子をまくことにする。
 ケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)は、元兵器開発者ということもあって、超鋼パンツァーの機構には興味深々であった。粒子により、感覚を増してもらえるのは有難い。
「泰地さんも、パンツの中からメタルを出したのかしら? ……極寒の地で、金属を素手で掴んだりすると、皮膚が張り付いたりしますが、パンツァーには同現象は起きないようです」
 滑らかにテント張り形状に移行し、突出したそれは、ふいに乗用車へと振り返って車体を殴打した。
「フォーウ! オレの狙いは最初からあんただけだあ」
 すくいあげるようなバット振りで、遮蔽物をどかすと、メンバー唯一の男性の居場所が露呈する。
 神居・雪(はぐれ狼・e22011)が、狼の耳をたてて反応した。
「泰地ぃ! イペタム行け、後で新しいオイルさしてやるからっ」
 ライドキャリバーは、嫌そうなそぶりを見せたが、雪はけしかける。彼女だって、ゲンナリだ。
 白いカウルに、金の飾り彫りが、駐車の枠線に侵入して、超鋼の突進を受止めた。
 そのまま、一輪で轢きつぶそうとするも、ギュルギュルと空転するばかり。エインヘリアルの両手がサイドを掴み、あろうことかタイヤを頂点に。
「だああああ!?  くっつけんじゃねえっ!!」
「フォフォーウ! いいマッサージ器だなあ」
 モノは、反り返りつつある。オウガメタル製なら、もっと伸縮してもいいはずだが、股ぐりの穴が引き延ばされて、根元のあたりがチラチラと見え始めた。
 ミミックの『安眠マクラ』を抱きかかえながら、ホニゥニ・コルピラーレ(眠り羊は夢を見る・e50586)はゴクリ、と喉をならして凝視する。
「すごそう……。いやぁ、真理くんの意見にさんせー。すごい恰好だね。私が言うのもなんだけど」
 そのホニゥニの服装は、羊を思わせるモコモコ感。自分のサーヴァントもそこから離れたがらないのを知って、声に不安が混じる。
「イペタムくん、大丈夫かなー」
「ホニゥニ! 安眠マクラ! アタシだってアレに触んのは嫌だけどよぉ、助けてくれ!」
 雪は叫ぶと、ローラーダッシュからの蹴りを敢行した。黒のプライド・ワンがつけた炎に追従できたが、相棒はまだ道具にされている。
「うん! ちゃんと気合い入れていかないと」
 ホニゥニは、おのれとツレとを律すると、鬼神角を加えて、もう一発の蹴りにいった。
 エインヘリアルの股間からライドキャリバーが離れる。かわって、ミミックがかぶりついた。
「ヌ~~ハッ……!」
 罪人は、思いもよらない拷問に、声なき声を上げる。

●暴れんぼう
 ハンマーは、轟竜砲に変形した。担ぐケイトは、セーラー服。住宅街への立ち入りを意識してのことだ。
 2足形態での変装もさまになってきた。
「超鋼なのは、あなただけじゃないです」
 ドラゴニック・パワーも、そう呼ばれている。間合いをとっての砲撃で、パンツ男をたじろがせる。
「一方的な攻撃かもしれませんけど、男の人の方が好きみたいな感じですしね」
 本人の発言もあったし。真理が、うわずった声をあげる。
「では、やはり、相馬さんばっかり狙ってるです?!」
 ナニカを期待したわけではない。真理には、盾役として敵の攻撃対象を庇う務めがある。
 神月も笑ってばかりはいられなくなった。
「脱げても覚悟ありそーな奴らがディフェンダー陣に揃ってるのにナ。野郎の意識を引きつけらんねーゼ」
 いやまて、嫌がってるのいた、と思い直す。
 雪が、相棒のかたきとばかりに、ホーミングアローを打ち込み、矢は執拗に罪人を追う。
 噛みついていたミミックを引き剥がして、駐車場内を走りだしたエインヘリアルは、ミニバンへの体当たりで包囲を崩そうとするが、動きの速さではケルベロス側が勝るらしい。
 陽葉はするりと車体を避け、さらに援軍のビキニ姿を見つけて、はしゃいだ声を上げる。
「おーい! 避難誘導、早かったねー!」
「ああ、念のため、付近を検索したが、出歩いている一般人はいない」
 エメラルドは、ゲシュタルトグレイブを突きつけた。陽葉は和弓のほかに、自分のメタル『雪と星の導き』も纏う。
「じゃあ、潰しちゃえばいいよね」
 罪人エインヘリアルは、オウガメタルよりも、選ばれし者の槍を警戒したようだった。
「女め。どっちのパンツが優れているか、勝負してやる」
 陰部は復活したのか、再びひくひくと押し上げる。エメラルドは真っ赤になって穂先を伸ばした。
「こ、これはヴァルキュリアの伝統的な鎧だ! おまえと一緒にするな!」
「だから、気に入らねぇんだよ、フォウ、フォフォーウ!」
 槍のリーチに果敢にも、突端で打ち合い、いなし、返してくる。
 高速の数合のあと、稲妻をおびた一刺しが、竿を抜けて、キン……基部を痺れさせた。
「泰地殿、助太刀に感謝する」
 オウガ粒子による超感覚が、エメラルドにも宿っていた。ゆえに、血管の浮きまで察知して征したのだ。
「けん制なら任せろ」
 泰地は、続けてトランクスからの無数の蹴りで、敵に迫った。
「オラオラオラ!!」
「ぐふうっ! あんた、女を助けたりして……!」
 身勝手にも嫉妬するような発言。
 だが、執念の超鋼パンツァーが、格闘技用のトランクスをかすめると、サポーターもろとも、破りとられた。蹴り足に合わせて、開脚時を捉えたらしい。
「てめぇ。俺にピンチを味わわせるとは」
 ピンチというか、もともと一丁だったので、筋肉にひきしまった臀部もあらわに、全裸になった。
 しかし、泰地は心では笑っている。自分も裸だからこそ、あらためて相手を見るに、巨躯を覆う筋肉はすばらしい。
「クソッ! 今度はケツ狙いか!?」
「フォーウ!」
 レスリングの構えから、バックをとろうとしてくる。直線的な動きからの変化。泰地は認めながらも、ゆえに本腰をいれて応じた。
 ホニゥニが、星型オーラを蹴りこむと、女性の開脚時も狙われた。
 脚を掴まれて、極薄に被さる一撃を、股間に喰らう。
「いやいやいやいや、それは駄目だって!」
 片足ケンケンで逃れようとするも、羊のモコモコは刈られていく。やがて、本気の挿入に抵抗できなくなった。
「ほんとだめっ……ああああんっ」
 後はされるがまま。仲間たちの前で、こちらも本気のイキ顔を。
 そこからの、超鋼パンツァーは、届く範囲のケルベロスに、見境いがなくなった。
「フォウフォー!」

●粉砕のとき
 白昼の月極駐車場で、軽自動車のボンネットに手をついて神月は、全裸をバックから突かれていた。
「あン。中身も外も、鬼だったよーだナ……ああン」
 もう一度いった旋刃脚が、みごとに捕まった。いや、捕まえさせた。
「あン、あン、あン!」
 妙にしおらしい声をあげているのも、彼女のがわから誘う作戦だったからだ。すでに演技かそうでないか、神月にも判らなくなっているが。
「ゴムつけてんだロー。出してもいーゼ」
 当初は、オウガメタルと共生関係にあるのか疑ったが、ここまでフィットしているなら、同意があるのだろう。
「もったいない。女ひとりでイケ」
「はぐうう、オニふとイッ!」
 かのエメラルドの鎗裁きに対抗した前後動が、神月を絶頂に昇らせた。
 先に倒れたホニゥニは、メディックの位置に復帰したエメラルドによって、気力溜めを施され、回復しつつある。
「酷い相手だったけど、すごかったなぁ。オチ……」
「ホニゥニ殿、傷は浅いぞ、しっかりしろ」
 よからぬ言葉で、詳細を告白しそうになったので、オーラをさらに注入する。
「って、私ったら何考えてるんだろ!」
「気が付いたか。まだ戦闘中なのだ。自分で動けるか?」
 エメラルドの介抱が効いたと知って雪も、巨躯の蛮人への攻撃に注意を戻した。
 安眠マクラが『愚者の黄金』をばら撒いて参加してくる。彼女のと真理の、2台のライドキャリバーも炎と旋回とを繰り返していた。
 しかし、ためらいもある。
「本当は破鎧衝も使うつもりだったけど、どう考えても弱点ってあそこだしなぁ」
 その部分が、ついに白いスク水型だったフィルムスーツを剥ぎ取った。真理は、エインヘリアルの大きな手で、後ろから首根っこを摘ままれている。
「うっ……くう……」
 よくよく、後ろからの攻撃が得意のようだ。猫みたいに持ち上げた真理にも、中身の鎌首を浮きだたせたメタルを深く突き入れた。
「そんな……奥に、届くですか……」
 快楽におぼれそうなところを、雪が手をとって引っ張りあげてくれた。イペタムに騎乗しており、そのまま裸のお尻を、タンデムシートに座らせてもらう。
「雪さん、ありがとうです」
「真理……! アンタの答えはなんだ? アタシは何度演算しなおしても、ひとつの解答しかでない」
 タイヤが地面を擦ると、一回りして戻ってくる。真理も同意していた。
 プライド・ワンが単独で、キャリバースピンをきめる。足元をすくわれたパンツ使いに向けて、二人乗りのイペタムから、2本の手が伸びた。
「「破鎧衝!!」」
 掴む、ビキニの上端。バツンッと音をたて、ぶっちぎれる。
「フォワガッ!」
 巨躯は、両手を掲げて、衝撃をあらわした。下部のふたつ付いてるヤツには、メタルが残っているものの、湾曲した長いほうは、剥きだしになって、腹筋をポンと打った。
 ケイトは、よく見えるように、敵の正面へと回り込む。
「私も同様です。真ん中の拳、超鋼パンツァー攻略への計算結果はでました」
 セーラー服のスカートをひるがえし、白と水色のしましまぱんつを丸見えにしながら、フォーチュンスターを蹴る。
 ふたつの星形が、1個ずつに刺さった。
 罪人は、苦悶の表情を浮かべるかと思いきや、逆だった。泰地がサイコフォースを使っている。
「てめぇの硬さは3ランクダウンだ!」
「フォー……ッ!」
 何もないところで、暴発した。びゅるびゅると先端から白く吹いて、その1回で、みるみる萎んでいく。
「ア、アンタにイカせられたのなら……オレはもう、地球に来て良かったと思ってるぜ」
 和装の陽葉が飛び掛かり、トドメを刺しにいく。
「あはは、念入りに潰してあげるね?」
 罪人は賢者になりつつあったが、構うことは無い。恐怖と憎悪を生みにきたヤツなのだから。
 陽葉の腕を覆うメタルが、スタンダードな戦術超鋼拳を形成し、股間を殴りつける。
 履いていたサンダルもすっとんで、玉のほうも剥けた素っ裸になり、出口付近のアスファルトを背中で削りながら、エインヘリアルの男は大の字になって、止まった。
 もはや、復活は叶わぬ。
 ケルベロスたちは、現場の修復に入るまえにしばしこの、大変で凄い相手のことを思ったのだった。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。