炎の復讐

作者:崎田航輝

 迷ったというよりは、まるで導かれたような感覚だった。
「このような場所に森がござったか」
 街道から続く林道を進んで少し。豊かな翠の広がる森を、クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)は眺めていた。
 市街から遠くない場所にこんな深い木々があることに驚きはあったが──それよりも、過日を思い出させる景色にクリュティアは物思う。
「どこか、似ているでござるな」
 勿論ここにあるのは、初めて見る自然の光景に過ぎない。
 それでも不思議と脚が赴いてしまったのは、やはり心のどこかで重ねていたのかも知れなかった──と。
 がさり、と。
 ひとけが一切無かったはずの静謐に、不意に音が響く。
 何かがいると一瞬で感じ取ったクリュティアは、素早く飛び退き苦無を手にしていた。
 自身の感覚が、それがただの人ではないと告げている。
 果たして木々の暗がりより降りてきたのは、焔棚引く刃を手にした忍者──否、螺旋忍軍。
 疾い身のこなし、身にまとう殺意。
 危険な相手だと、肌に感じて判る──だが。
 敵と遭遇したことより、クリュティアが抱いたのはもっと大きな驚きだった。
「アイリ……?」
 口に出すのは懐かしき名。
 脳裏に過ぎらすのは故郷での日々、その友人と過ごした光景。
 けれど螺旋忍軍は僅か程も貌の色を変えず、その声音に敵意を滲ませる。
「私はウルカ」
 師のためにあなたを討つ、と。次には刃を握りしめ、激しい炎を燃え盛らせて。一切の迷いを介在させず、クリュティアへと襲いかかってきた。

「クリュティア・ドロウエントさんが、デウスエクスに襲撃されることが判りました」
 冬風の吹き荒ぶヘリポート。
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロスへ説明を始めていた。
「予知された未来はまだ訪れてはいません。それでも一刻の猶予もないのが事実です」
 クリュティアはすでに現場の森にいる状態。
 こちらからの連絡は繋がらず、敵出現を防ぐ事もできないため、一対一で戦闘が始まるところまでは覆しようがないだろう。
「それでも、今からクリュティアさんの元へ向かい加勢することは可能です」
 時間の遅れは多少出てしまうけれど、充分にその命を救うことはできる。だから皆さんの力を貸してください、と言った。
 現場は木々の深い森の中。
 市街からさほど離れてはいないが、周囲は無人状態。一般人の流入に関しては心配する必要はないだろう。
「皆さんはヘリオンで現場に到着後、戦闘に入ることに注力して下さい」
 周辺は静寂。クリュティアを発見することは難しくないはずだ。
「敵は螺旋忍軍のようです」
 その正体や目的に不明な点はあるが──クリュティアを狙ってやってきたことは紛れもない事実。放置しておけばクリュティアの命が危険であることだけは確かだ。
 それでもクリュティアを無事に救い出し、この敵を撃破することも不可能ではない。
「クリュティアさんを助け、敵を倒す為に。さあ、急ぎましょう」


参加者
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)
クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)
カーラ・バハル(ガジェッティア・e52477)

■リプレイ

●紅焔
 無限に重なる翠の枝葉を縫っていく。
 それはまるで別の世界へと堕ちていくような感覚だ。
 深い森の木々を、能力で以て退けながら──マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)は戦場を目指し直走る。
「もう、現場は近いはずよ」
「この中で探すのは、骨が折れそうだが。確か敵は炎を纏った武器を扱うんだったな」
 後に続いて奔りながら、ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)は目を凝らす。
 陽光も遮られる暗き森なら、その明るさが目につく筈だ、と。
 そこで遠方より、焔の光と共に音が響き、霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)は素早く方向と距離を特定する。
「見つけましたよ。すぐ先のようですし、急ぎましょうか」
「ああ」
 声に力を含めるのは、ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)。識らされた情報から、それがただの敵でないと推察はついていた。
(「クリュ……どうか無事でいてくれよ!」)
 心に強く念じて。
 木々の向こうに見える、二つの人影を目指していく。

 燃え盛る焔から、クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)は素早く飛び退いて事なきを得ていた。
「拙者を襲うとは一体……」
 警戒を浮かべながら、心で脈打つのは確かな喜びの感情。“アイリ”が生きていてくれたという望外の思い。
 けれど同時に緊張が精神を覆い尽くすのは──彼女が紛れもない螺旋忍軍であるから。
「何故──アイリ!」
「私は“ウルカ”」
 愚かな事を、とでも言うように。ウルカは刃に焔を湛えていた。
 漂う風すら膚を灼きそうで、クリュティアはその熱さにはっとする。
「その炎ジツ。まさか……、っ!」
 直後、とっさに術を行使。分身体を身代わりにして飛来する刃から身を守っていた。
 そしてその苛烈な威力で確信を覚える。
「アイリ! 待つのでござる! お主の言う師とはサラマンドラの事でござるか!」
「……師は死んだ。殺された。だから仇を取るの」
 声と共に、ウルカは腕に炎を渦巻かせていた。
 クリュティアはその焔を見つめて拳を握る。
「違う……奴こそ拙者たちの故郷を焼いた仇の一人でござる!」
「私に故郷は無い。私には師が全て。その記憶が全て」
 焔は龍の形を成して、雷光を纏っていた。
 喰らえば、危険だ。それでもクリュティアは刃を握る気にはなれなくて。
「憶えていないのでござるか」
 ──子供の頃、一緒に行った花畑で花冠を作った事も。
 ──家に帰るのが遅くなって二人して怒られた事も。
「全て忘れてしまったでござるか!」
 喉が裂けるような声を劈かす。
 けれどウルカは僅かにだけ黙ったのみで、首を振る。
「敵の甘言になど乗らないわ」
 刹那、心の切り離されたような声で焔の濁流を放とうとしてきた。
 触れれば、或いは命すらも灼く温度だろう──が、その瞬間。
「見つけたァ……ぜ!」
 彼方から声が響くと、小さな影が飛来してウルカの腕を弾く。駆けつけたジョーイが握力鍛錬用の胡桃を投げつけていたのだ。
 はっとしたウルカに、走り込むのが裁一。
「いやぁ、どうもどうも。そして唐突ですが此度は悪縁を斬りますよ~!」
 眼前に迫ると『嫉妬縁切鋏』──巨大鋏を抜き放ち、風すら切り裂く鋭さで痛烈な斬撃を加えていた。
 下がったウルカは、反射的に焔龍を飛ばす。
 だがその滂沱の熱を、真正面から一身に受ける姿があった。ひらりと跳躍して面前に滑り込み、己を壁にするジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)。
 その躰で焔を弾き返しながら──後ろへ声をかけていた。
「ここからは、私たちも共に戦うわ!」
「皆……来てくれたでござるか」
 クリュティアは驚き交じりに視線を巡らせる。その頃には地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)もふわりと光翼で降り立っていた。
「クリュティアお姉さん、大丈夫でしたか……!? 傷は今、治しますね……!」
 手を翳すと、燦めく雪を周囲に展開して。炎で出来た傷を優しく冷やすように、魂を注いで癒やしていく。
 同時にランドルフもオーラを与え、痛みを拭っていた。
「クリュ、何とか無事そうだな」
「うむ。助けられたでござるな」
「あなたには、常日頃お世話になっているもの」
 目を向けるクリュティアに、マキナも治癒の光を施しながら応える。危機というのなら、友人の一人として何を置いても駆けつける、と。
「……かたじけない」
 クリュティアは返しながら、それでも表情は翳っていた。
 カーラ・バハル(ガジェッティア・e52477)にはその原因が敵だと判る。瞳を微かにだけ細めて、ウルカを見据えた。
「ドロウエントさん、あの敵は……」
「以前クリュティアお姉さんを襲撃してきた炎使いさんと何か似ています……?」
 夏雪も嘗ての戦いを想起して呟いている。
 クリュティアは頷いた。
「同郷の、友でござる。おそらくは……サラマンドラが原因でござろう。今はもう、記憶は──」
「……そんな。本当の自分を失くしたまま戦わされるなんて」
 ジェミは小さく息を呑む。
 見れば、ウルカは今しも反撃に移ろうとしていた。
 それは敵であれば戦わねばならないという事。
 ただ、それでもカーラはガジェットを握り締めて。
「……まだ話したいことあるんッスよね」
 ならばやるべきことは決まっているのだというように、戦槌の概念を与えたその穂先に圧力を集中する。
「うっし!」
 ──少しでも話せるようにしてやらねェとな!
 気合十分、いつもとは違うやる気に満ちた心で衝撃波を発射。まずはウルカの足元を崩して動きを鈍らせる。
 ウルカはそれでも焔を放とうとした。が、ジェミが掌打で腕を払って阻害する。
「アイリ、さん? クリュティアさんの言葉、しっかり聞いてよね! あなたを心から思ってるんだから」
「そうでござる──アイリ! 拙者を……失った記憶を思い出すでござる!」
 クリュティアは歩み寄って、身を晒すのも厭わない。
 それでもウルカは焔を手のひらに凝集していた。
「私に過去の記憶などない」
「奪われたんだろ。だったら、取り返せ!」
 ランドルフは怯むことなどなく、声で空気を震わせる。
「クリュだけじゃない、お前さんの笑顔も守りてえんだ俺はッ!」
「──。邪魔するなら全て斬る 」
 けれど、ウルカはどこまでも瞳に光を宿さない。刃に炎を滾らせ、鋭利な殺意を乗せて腕を振り抜いた。

●決意
 強烈な金属音が響く。
 振るわれた刃を、ジョーイが受け止めて鍔迫り合いをしていた。
「ちったァ話聞いてやれや」
 相手に劣らぬ膂力で回転刃を弾き返すと、そのまま連続斬撃でウルカを後退させる。
 ただ、ジョーイも自身の言葉が届いていないと判っていた。
 ウルカは心を動かさない。ただ静謐な敵意で刃を構え攻撃を狙うばかり。
 カーラはそれでも足止めに徹した。一時間でも二時間でも、戦いを長引かせるつもりだったから──けれど。
「……くっ!」
 ウルカが眼前に迫り、カーラはとっさに飛び退る。それでも避けきれず、足先を刃で掠められて血が散った。
 カーラもそれで理解する。
 間近で見たウルカの瞳には、心はなかった。
「無駄よ」
 そう小さく紡がれる声にも、躊躇いなどない。
 彼女はただ敵を討とうと刃を握り締める。
 番犬全員を見回すのは、クリュティアだけでなく、阻むなら何人も殺してみせるという意志の顕れだった。
「……アイリ」
 だからクリュティアは静かに俯いている。
 どこかで、もしかしたらという思いはあった。その可能性に盲目的に賭けてみたかった、けれど。
「仲間を傷つけるならば、拙者はそれを認められないでござるよ」
 それは静かな決意。
 武器を握る手は、僅かに震えていた。けれどクリュティアは逃げるつもりはなかった。
「Shit! やるしかねえのか──!」
 ランドルフは歯を噛む。
 だがこのままでは全滅するのは此方。仲間の命は、天秤には掛けるには重すぎる。
「クリュ! やれるか!? ……いや」
 ランドルフはそれでも、クリュティアを見つめると。すぐに解したように目を伏せた。
「お前にしかできねえな。あの娘を救えるのは……」
「うむ」
 頷くクリュティアは真っ直ぐに、挨拶を述べる。
「ドーモ。アイリ……、いや、ウルカ=サン。クリュティア・ドロウエントにござる」
 ぎちりと鎖を鳴らし、木々を縫って跳ぶ。その動きにはもう澱みはなかった。
「お主が冥府魔道にフォールダウンしたと言うなら。……せめて拙者の手でアノヨに行くでござる」
 刹那、宙を奔った鎖がウルカを打ち据え、同時に縛って動きを止める。
 カーラはショックを受けたように立ち竦む。
「そんな。止められないんですか」
「彼女は心を取り戻せない。だとしたら、出来ることは終わらせることだけよ」
 マキナは静かに、言葉で事実を突きつける。
 同時に自身の胸に手をやってもいた。身体だけでなく、心にも確かな痛みを感じていたから。
 夏雪は拳をぎゅっと握り締めた。
「幼馴染とこんな形での再会なんて、とても、悲しいですよ……」
「それでも敵ですからね」
 踏み出す裁一には、元より迷いはない。
 ウルカが今抱いているのは復讐心一つだということも判っているが──。
「とはいえ、定番の『復讐は何も生まない』などという事言っても無駄ですからね、あの手合は」
 ならば敵を敵として取り締まるだけだと。
 手のひらに顕現するのは、空間を歪めるほどの濃密な魔力塊。球形を成したそれを、投げつけるように剛速で飛翔させると。
「ではでは、木っ端微塵になぁーれ!」
 強烈な重さでウルカの膚と命を削り取ってゆく。
 唸るウルカは、業炎を撒いて反撃。だがジェミは退くどころか腕を交差させ、相対するように防御姿勢を取っていた。
「この鍛えた体があれば、これくらい!」
 爆炎の如き衝撃が訪れ、熱量の滝が視界を埋め尽くす。それでもジェミは斃れず──背に居る仲間を護りきっていた。
 それは同じく盾役を務めるジョーイも同じ。
「クッソ寒い中温めてくれんのか? 気が利くじゃあねーか。コイツはお礼だ!」
 言ってみせると、炎を裂いて冷気の斬撃をウルカへ叩き込んでいた。
 直後にはランドルフがバレットアクセラレーション──回復弾を注ぎ傷を治癒。
 夏雪も残る熱気の全てを濯い流すよう、雪片を含んだ涼風を生み出し始めていた。
「これで全部を、治します……!」
 爽風は氷風となり、火花の一片も残さず消滅させていく。同時に傷をも失せさせるように、強力な癒やしを齎していた。
「それじゃ、反撃よ!」
 ジェミは即座に疾駆し、膂力を以て強烈な刺突。
 ウルカが後退すると、カーラは『G戦闘術』──ガジェットに含むデータを利用することで格闘術を強化。一瞬の内に距離を詰めて体を掴み、鋭い打撃を加えた。
「頼むッス!」
「ええ」
 頷くマキナも手は止めない。砲身に燿く光を集束すると、空間を貫くが如き射撃。ウルカの腹部を深く穿って血潮を散らせた。

●静風
 ウルカは膝をつき、浅い息を繰り返す。
 その姿をカーラは短い時間、見つめていた。
「……」
 何かを言いたくて、それでも黙っていることしか出来ない。自分の痛みよりもずっと、クリュティアの方が辛いと判っているから。
 クリュティアは戦いに心を向けている。
 だったら自分がそうしないでどうする、と。カーラは痛いくらいに手を握りしめ、ウルカへと射撃を重ねた。
 体勢を崩すウルカへ、ランドルフは肉迫し掌打。吹き飛んだ彼女へ、ジョーイもオーラを纏い刃を振り上げていた。
「悪ィが遠慮はしねェぜ」
 繰り出す『鬼神の一太刀』は縦一文字に傷を刻み、血煙を零させる。
 ウルカがそれでも起き上がりざまに灼熱をばら撒いた。が、ランドルフがその身を以て受け止めると──。
「大丈夫、です……」
 夏雪が粉雪状のグラビティを風に踊らせて、きらきらと輝かす。『晩夏の雪融け』──触れた冷たさが体内に優しく融け込むと、傷が祓われるように消えていた。
 同時にマキナが『CCP A.I.M』。青に燦めく粒子で体を包み、視界を澄明に澄み渡らせると共に苦痛を拭い去った。
「これで問題ないわ」
「後は──」
 やるべきことを、と。ジェミは体を廻して蹴撃を打ってウルカの護りを突き崩し、仲間へ行動を繋ぐ。
 視線はクリュティアへ向いていた。
 悔いないよう、とは言えないけれど。それでもどうか幕引きを、と。
 次撃を引き取る裁一は、鋏を滑らせて足元を裂き、ウルカに再度膝をつかせる。
「後は好きなように」
「クリュ!」
 時を同じく、ランドルフは月光の如き祝福をクリュティアへ与えた。それが今の自分に出来る、最大限の支えだから。
 地に手をつき、満身創痍のウルカへと──クリュティアは歩み寄り苦無を振り上げた。
「カイシャク致すでござる……ハイクを詠むでござる」
「……どうして泣いているの?」
 朦朧とした吐息と共に、ウルカは見上げて言った。
 物言わぬクリュティアへ、そう、とウルカは呟く。
「あなたの言葉はきっと真実なのね。……でも、今の私にはあなたはやっぱり、仇だから」
 あなたの心には応えられないわ、と。
 ウルカは静かに言った。
「記憶が無くても、アイリは優しいでござるな」
 滲む視界でも、狙いは違わなかった。クリュティアは刃を振るい、一閃。ウルカの命を両断し、森に静寂を齎した。

「終わったようですね」
 裁一が武器を収めると、あぁ、と頷くジョーイも剣を下げる。
 戦いの終わりに吹くのは静かな風だ。
 そんな中、カーラは少しだけクリュティアを見つめていた。クリュティアは亡骸を見下ろしていて──夏雪は小さく声をかける。
「大丈夫、ですか……?」
「うむ。皆、助かったでござる」
 クリュティアはしっかりとした声音で応えて、皆に礼を述べた。拭った目元は、少しだけ赤くなっていたけれど。
 それから、クリュティアは亡骸を埋葬。故郷に咲いていた花を供えた。
 穏やかに揺れる花弁を見つめて、少しの間座り込むクリュティアと共に、ジェミは黙祷を捧げている。
 隣でマキナも黙祷をしながら──暫しの後に、クリュティアを労るようにそっと触れた。
 クリュティアが小さく頷き返すのを見て、ランドルフは笑いかける。
「今ならHandkerchiefと一緒に俺の胸もServiceするぜ?」
「お主は変わらぬでござるな」
 クリュティアがそう微笑んだから、ランドルフはきちんと彼女に元気があることが嬉しくて、また笑みを返して。
 それから花と、そして木々を仰ぐ。
「お前は憶えていてやれ。この森があの娘の墓標だ」
「勿論でござるよ」
 クリュティアは花を見つめて、再びしゃがみこんで。
 それから二、三の言葉をかけると立ち上がって歩み出す。
 ここは故郷とは違うし、幼き思い出の地ではない。けれどふわりと薫る風は、どこか懐かしくて、そして少しだけ優しい匂いがした。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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