もてなせメイド! 送り出せ冥土!

作者:星垣えん

●怒りの来店
「メイド死すべし」
「お帰りなさいませご主人さ……ま……?」
 からんころん、とドアベルを鳴らした客を見て、ミニスカメイドが絶句する。
 鳥だ。
 ひらいたドアの枠を塞ぐような偉丈夫の鳥類が、2本の脚で立っているのだ。
 その場にいる者たちは――メイド喫茶で楽しんでいた客ともてなしていたメイドたちは一時停止した映像のように固まった。鳥さんはそんな人々を一望して……。
「メイド死すべし!!」
「きゃあああーーー!!?」
「に、逃げろ逃げろ逃げろーー!?」
 踊るように手羽を振り回して暴れ出した。
 曲がりなりにも食べ物を扱う店で羽毛をまき散らす姿は、立派なテロリストである。
 暴虐の徒から逃れようと、客もメイドも裏口へと急ぐ。しかし表口方向から鳥さんが迫るほうがはるかに早く、人々は、というか主にメイドさんは次々と犠牲になった。
 詳細を述べるならば、ふわふわの手羽先でべしべしされた。
「何だその短いスカートは! 似非メイドめが! ろくに奉仕の精神も持たん連中をメイドと称するメイド喫茶など絶対に許さん! 二度と営業できぬよう貴様らを折檻し、恐怖のゾンドコに落としてくれる!」
「ゾンドコ!?」
「よくわからないけど誰か助けてぇーー!!」
 手羽先ラッシュを繰り出してくる鳥さんから逃げ惑うメイドさんたち。
 こうして都心の裏通りにあるメイド喫茶は、恐怖のゾンドコに叩き落とされたのだった。

●ミッション! メイドになれ!
「――まあ、そんな感じだ」
「そんな感じだそうです」
 資料を淡々と読み上げるザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)を見ていたアリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)が、そのつぶらな瞳を猟犬たちに向けた。
 とりあえず、鳥さんがテンション高めでメイド喫茶を訪ねたらしい。
 そう認識しとく一同だった。
「メイド喫茶を許せない鳥さんですか……これは急いで当たらないといけませんね」
「ああ。すぐに現場のメイド喫茶に向かい、被害が出る前にビルシャナを倒してもらいたい。幸い信者は連れていないようだから、戦う上では苦戦することはあるまい」
「……戦う上では、ですか?」
 ひっかかるものを感じたアリッサムが訊き返すと、王子はこくりと頷いた。
「実は今回のビルシャナだが……メイド喫茶を許せない思いが強すぎるのだ。そのため現場からメイドがいなくなった瞬間に、どこか別のメイド喫茶を求めて逃走するかもしれん」
 面倒くさい情報を提供してくれた王子。
 鳥さんを現場に留めておくには、メイドの存在が不可欠であるらしい。
 だがメイド喫茶のメイドさんの安全を考えれば、鳥が来る前に避難させるのがベストだ。
 護衛しながら戦う手もないわけではないが、正直それはデメリットばかりで一考する価値すらないだろう。
 つまりメイドさんを現場に残すのは無理だ。
 だが、猟犬たちがその結論に達しただろうことを察した王子は、にやりと笑った。
 何着ものメイド服がかけられたハンガーラックを持ってきながら。
「なるほど……メイドさんがいなければ、自分たちがメイドさんになればいいということですね!」
「そういうことだ」
 なんか感心しちゃってるアリッサムさんに、ピッと人差し指を立てる王子。
 どう見ても他人事でした。
 しかし猟犬たちがメイド化することが唯一の解決策であることは確かである。なので一同は色々言いたいことは飲みこんで、黙ってメイド服を受け取った。
「ちなみにメイド服は逃亡阻止だけではなく戦闘にも役立つはずだ。メイドとしてそれらしくもてなすことができれば、似非メイドに怒っているビルシャナは感心して敵意を解くだろう」
 そこを不意打ちでボッコボコにすれば簡単に殺れる。
 王子の話のすべてを聞いた猟犬たちは、察した。
『コレほとんどメイドになるだけの仕事やないか』
 と。
「メイドさん……うまくできるでしょうか……」
 アリッサムも自分の体にメイド服あてがってるからね、もう完全にノリがアレだよね。
 何ともいえない顔をする猟犬たちの横で、がーっとヘリオンの搭乗口をひらく王子。
「さあ、乗りこめケルベロスたちよ! おまえたちの全力の奉仕をぶつけて、ビルシャナをおもてな死させてやるのだ!」


参加者
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
一之瀬・白(龍醒掌・e31651)
アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)
カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)
ルイーゼ・トマス(迷い鬼・e58503)
八刻・白黒(星屑で円舞る翼・e60916)

■リプレイ

●メイドがいる!
「慌てず騒がず、店から退避してくれ」
「は、はい……」
「少しの間ですので心配しないで下さいね」
「わかりましたぁ……」
 鳥の来店が予期されるメイド喫茶。
 そこには、人々を裏口へ誘導する2人の竜人――フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)とアリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)の姿があった。
 鳥に先んじて店に着いた一同が着手したのは、まず避難だった。
「なるべく店から離れておくのだぞ」
「お店のことはご心配なさらず」
 裏口に立つ2人、ルイーゼ・トマス(迷い鬼・e58503)と八刻・白黒(星屑で円舞る翼・e60916)が店を出てゆくメイドさんの列を見送る。
 ちなみに言っときますね。
 全員、メイド服です。
「さて、ではラナウェイな気まぐれボーイをパニッシュするお仕事でござるな」
 人がいなくなって広々とした店内を、カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)はメイド服のスカートを翻しながらインラインスケートで滑る。
 なかなかに攻めたメイド姿だった。
「メイドさんに代わって我々が『ゆっくりしていってね!!!』と歓迎でござる」
「うむ、われわれこそがメイドさんである」
 裏口を閉めて戻ってきたルイーゼが、こくりと頷く。
 膝丈の黒ワンピにエプロンを合わせた姿は、カテリーナと打って変わって可憐。結わえた髪もまた可愛らしかった。
「これは完璧にメイドさんであると言っても過言ではないな、うむ」
「郷に入っては郷に従え。メイド喫茶に入るのでしたら、やはり可愛いメイドさんになるのがエチケットですよね」
 うふふ、と笑うアリッサム。自分のメイド姿を見下ろして、くるっとターンしたりなぞしているのを見るに、超ノリノリ。
 ついでに、小柳・玲央(剣扇・e26293)も超ノリノリだった。
「これが私の(戦争時の)正装なのですにゃ」
 と、カメラ目線を決める玲央。ぴょこんと動く猫耳と猫尻尾が雄弁に彼女の悪ノリを告げていた。真面目に仕事する気がない。
「それはまた随分と愛らしいですね」
「ありがとうございますにゃ。白黒様も似合ってますのにゃ♪」
 こちらを見てくすりと微笑んだ白黒に、猫の手を作って応じる玲央。白黒もロングドレスでヴィクトリアンメイドに扮していて、それがまた何とも堂に入る感じだ。
「私に勤まるかどうかわかりませんが、精一杯おもてなしは致しましょう」
「ビルシャナ様を御接待ですにゃ」
 きたるおもてなしタイムへ張りきる2人。
 しかし陽があれば陰もあるのが世の常。
 くっそ楽しげな人たちの一方で、シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)とフィストは店の片隅で棒立ちだった。
「私こういうキャラじゃないと思うんですけどねぇ」
「……ドラゴンメイドの銘を名乗る身でまさか本当にメイドになる日が来るとはな」
 きゃっきゃしてる仲間の声を聞きながら、何ともいえない表情の2人。
 正統派メイド服に身を包んだシフカは居心地悪そうである。1秒でも長く脱いでいたい人種の彼女にとっては今の状況は辛かった。なんでこの依頼受けたん。
 対してフィストも、ロングスカートのクラシカルなメイド服を持て余している。ちなみにドラゴンメイドとは別にドラゴニアンがメイドしちゃった的な意味ではありません。
「大変な戦いになりそうだ……」
「そうですね……」
 お互い違う方向を見ながら、会話だけはかみ合うフィストとシフカ。
 そんな2人の横では、1人の少年が追い詰められていた。
「あ、アリッサムさん……? その、手に持っているものは何なんでしょうか……」
 壁に背中をはりつけ、汗を浮かべる一之瀬・白(龍醒掌・e31651)。
 猟犬たちの中で唯一の男である14歳の少年の眼前には、メイド服を持ったアリッサムがにじり寄っていた。超笑顔で。
「……ふふふ、白さん。安心して下さいね」
「何を安心!? ま、まさかソレを僕に着せようって言うんじゃ……!」
「白さんは色白で赤い瞳の美少年ですから、これなんて似合いそうです!」
「やめ……あーーーーっ!!?」
 アリッサムに飛びかかられ、するすると衣装替えさせられる白。
 襲いくるウサ耳カチューシャから逃げる術は、なかった。

●メイドぱらだいす
「似非メイド、死すべし!」
 大きくドアベルを響かせ、堂々と来店する鳥。
 すると彼が荒々しく店内に踏みこむその前に、行く手を阻むかのように立ったフィストと白黒が深々と腰から礼をした。
「お帰りなさいませ、御主人様」
「お帰りなさいませ、旦那様」
「むむっ?」
 折檻するべく意気込んでいた鳥が、肩透かしを食ったように威勢を弱める。2人のしっかりした迎えっぷりに頑固おじさんは少なからず感心していた。あとロングスカートなのもでかかった。
「ご主人様、外は寒かったでしょう。どうぞ席について体を休めて下さい」
「だ、旦那様……僕達が精一杯の奉仕をさせて頂きますので……どうか、ごゆるりとお過ごし下さいませ……」
「お、おう」
 すかさず両脇を固めてきたアリッサムと白に導かれ、テーブルにつく鳥さん。
 しかし椅子に座ったと思われた瞬間、彼は跳ねるように身を乗り出した。
「貴様……貴様ァ!」
(「くっ……やはり無理があったか!?」)
 鳥さんに怒号を放たれた白が、咄嗟に身構える。
 メイド服を着ようとも彼が男であることに変わりはない。人派になろうともビルシャナを欺くことなど土台無理だったのだ、と白は如意棒に手を伸ばしかけた。
 ――が。
「なんだそのウサ耳はァァ!」
「えっ。ウサ耳? ウサ耳カチューシャのこと?」
「それ以外に何がある!」
 訊き返した白に鳥さんはきっぱりと言い返した。
 女装メイドだとバレたわけではなかった。白は安堵した。だがそれはそれで少し虚しい気もする白くんであった。
「ウサ耳など似非メイドめが! まったくメイドの風上にも――」
「お客様」
 椅子の上でふんぞり返る鳥さんに、凛と一言を放ったのは玲央だ。
 これ見よがしに猫耳を動かすと、玲央は厳しい眼差しを鳥さんに向けた。
「メイドとして在ろうとするなら皆れっきとしたメイドなのですにゃ。メイドは主人に仕えるもの、お客様はあくまでもお客様ですにゃ。その家のメイドの在り方に口を出してはいけませんにゃ。家のルールがありますにゃ」
「ご主人様、旦那様って迎えられた気がしたが……」
「気のせいですにゃ」
 有無を言わさず言いきる玲央。
 主人ではなく客――という設定でメイドさんしてる玲央は、そっと鳥さんの背中に手を添わせる。
「きっと、お客様は焦っておられますのにゃ……一度、お茶を飲んで落ち着かれてはいかがですかにゃ? ルイーゼ様、お客様にお茶を」
「うむ、わたしにまかせろ。とっておきの玉露を用意してあるぞ」
 玲央の合図を受けて、茶器の一式を持ってくるルイーゼ。
「お茶をお出しするぞだんなさま」
「やっぱり旦那様って言うとる……」
「気のせいですにゃ」
 ちらと顔を見てきた鳥から目を逸らす玲央。その横でルイーゼは湯で温めていた湯呑みを用意し、同じく温めておいた急須に茶葉を入れた。
 で、じぃっと待つ。
「この茶葉はとっておきなのでな、ごく低温の40度でじっくり3分半の抽出だ」
「ほう、こだわりの茶のようだな」
「うむ」
 鳥さんに返事をしつつ、頃合いと見て湯呑みに茶を注ぐルイーゼ。
 ことん、とテーブルに置いた湯呑みからは芳醇な香りが立ち昇っていた。
「わが渾身の玉露を召し上がるがよい、ふかふかのだんなさまよ。お茶請けにはかすていらもあるぞ」
「ふむ、苦しゅうない」
「ご主人様。こちらには羊羹と饅頭も用意してあります。どうぞこれもお茶請けとしてお楽しみください」
「おお、これはいいな」
 ずず、とお茶を飲む鳥さんへ、横から小皿に乗せた和菓子を差し出すシフカ。
 それを置くや、彼女は静かに鳥さんのそばに立つ。姿勢を正して主人の傍らに仕えるその姿はまさしくメイドである。内心で脱衣の衝動と戦っているとは誰も思いません。
「美味い。茶も菓子も美味いぞ!」
 ふはは、と機嫌よく笑う鳥。
 ――が、そこに『シャーッ』という不吉な擦過音が、聞こえてきた。
「ふふ、拙者を忘れてもらっては困るでござるな! 拙者もアメリカンにファミリーのテイストなアップルパイとかチェリーパイとか用意し――」
「似非メイドがァァァーーー!!!」
 インラインスケートで颯爽と登場したカテリーナに、鳥さんが食い気味にツッコんだ。
 パイを乗せたトレーを片手に、床を滑ってくる。
 そんなアクティブなメイドさんを鳥さんが許容するわけねえのだった。
 しかしカテリーナはお構いなしにパイを並べる。
「ご所望ならクリームもりもりのパイも手配するでござるよ? 飲み物はコーヒーやコーラがよいでござろうか?」
「いやそんなことよりも――」
「おっと、拙者のふたつのパイは非売品でござるよ?」
「誰も求めてないですよォ!!」
「ならアップルパイでいいでござるな。ではパイがおいしくなるおまじないでござる。さあ、ご一緒に! おいしくなーれ、おいしくなーれ、にんにん☆」
「だからそれが似非メイドだっつってんだよォォーー!!!」
 激昂した鳥さんが拳をテーブルに叩きつける。
「御主人様、落ち着いて下さいませ」
 ぜぇはぁ、と上下する鳥さんの肩に手を置くフィスト。
「宜しければ膝枕にてゆっくりお寛ぎになっては如何ですか?」
「……膝枕だと?」
「ええ。膝枕です。さあこちらに」
 その場に座るなり、ぽんぽんと腿を示すフィスト。手には耳かきすら持っている。
 結果。
「うぅむ、極楽……」
「お気に召して何よりです」
 鳥さんはあっさりと膝枕されていた。その間にテラ(ウイングキャット)はすべての窓の鍵が閉まっていることを確認し、逃亡の予防を徹底。
 出入口を掃除する白黒が逃げ道を塞いでいるのも相まって、密室殺人の準備が整った。
(「そろそろでしょうか……」)
 鳥の様子を一瞥する白黒。
「ご主人様、ここはどうですか?」
「あ~いい……そこそこ」
 白黒の視界に映るのは、アリッサムに腰回りや手羽先をマッサージされて蕩ける鳥さんの姿だった。
 うん、完全に油断しとるねコレ。

●せっかくだから
 鳥さんが天国を垣間見た、その数秒後。
「……それでは娑婆から解脱なさいませ、御主人様!」
「おらっ、死ねぇえええええ!!!!!」
「ぐあああああああああああああっっ!!?」
 ご主人様は、悶絶していた。
 反旗を翻したフィストが出現させたタンスに足先をぶつけ、ぴょんぴょん片脚跳びになったところへ白の鉄拳がぶちこまれたせいだと思う。
 あまりに、あまりに無慈悲な暴力であった。
「おのれメイドが主人に逆らうなど……と言ってる場合ではない! 今はどうにか逃げなくては……!」
「おっと、逃がさないですにゃ」
「ぎゃーーっ!?」
 ずりずり、と匍匐前進する鳥さんの後頭部に、玲央のスターゲイザーが炸裂する。
 顔面で床を砕くその姿に、白黒は時空凍結弾をぶちこんだ。
「ぎにゃあーーっ!!」
「主人の威厳も何もありませんね。メイドを仕えさせるのであれば、それなりの振る舞いをしてみるべきでは?」
「そのとおりでござるよ!」
 ひょっこりと顔を出したのはカテリーナだ。
 その手には――どっから持ってきたのか、1本のDVDが。
「『緊縛メイド調教』……こんなとんでもないものをベッドの下に隠しておくなどお主も大概でござる」
「何の話!?!」
 鳥さんは心の底からビビり散らした。
 冤罪だったからね。
 完全に冤罪だったからね。
「メイドさんをいぢめて、自身の責めに耐えられるマゾいメイドさんを探すという……人生という名の旅路でござったか」
「いや違うよ!? 絶対それ私のじゃ――」
「ご主人様、不埒です!!」
「アァァーーッ!?」
 やれやれと首を振るカテリーナに抗弁しようとした鳥さんが、アリッサムが背中に振り下ろしたブレイズクラッシュでぐいーんと海老ぞり。
 伏せていた上体が起き上がり、胸部が露になる。
 ルイーゼはそこに、とりあえず「えいやっ」と鬼神角を飛ばした。
「召されるとよいだんなさま」
「ぐふーーっ!?」
 ずぼぁっ、と胸の中央を貫くルイーゼの角。
 これが致命打になった鳥さんはぱたりと倒れ、光となって消えてゆく。
 上昇してゆく燐光を見つめながら、シフカはメイド服の襟に手を添えた。
「戦闘終了……では!」
 躊躇いなく、メイド服を脱ぎ去るシフカ!
 当然のように下着まで脱ぎやがったので、皆そそくさと離れていったよ!

 数分後。
「初めての勤め先でこれを薦められてからは、ずっとこれが正装なんですにゃ」
「ほうほう。薦めた人物は相当なツウだったのでござるな」
 鳥さんの処理が終わった店内を、玲央とカテリーナはたわいない話をしながらヒール修復していた。
 メイド喫茶にはもうちらほらとメイドさんが戻っている。損壊もそれほどなかったために、もう営業再開はなされていたのだった。
「はーーー、終わった終わった!」
 本来のメイドさんがてんやわんや動く中、メイド服を脱ごうとする白。
 だが確認しよう。
 彼はなかなか美少年であり、メイドに扮している。
 そしてウサ耳カチューシャも着けている。
 つまり――。
「確保です!」
「よくわかりませんが、わかりました」
「えっ、えっ!?」
 アリッサムの指示を受けた白黒に羽交い絞めされ、着替えを封じられる白。
 どうして、と少年はアリッサムを見た。
 アリッサムさんは超ニコニコしながら、カメラを持っていた。
「…………それはだめ、絶対だめぇ!?」
「大丈夫ですよ白さん。綺麗に撮りますね」
「だからだめぇぇぇ!!?」
「ふふ、楽しそうで良いな」
「フィストさん!? お茶飲んでないで助けてぇぇ!!?」
 のほほんと玉露を味わいつつ見守っているフィストに、白は手を伸ばしたが、その手は何も掴まなかった。このあとめちゃくちゃ撮影された。
 一方。
「おいしくなぁれ☆」
「もえもえきゅん♪」
「ふむ。これは何だかいいですね」
「うむ。メイドさんになるのも良かったが、だんなさまになるのも悪くない」
 シフカとルイーゼは普通にメイド喫茶を堪能していた。
 渾身のおまじないを受けたオムライスをぱくっと頬張る2人。
 特段に味が優れているものではなかったが、何だか美味しい……気がした。
「これがメイドさんの力、ですね」
「そのようだな。……ところでシフカせんぱい、さっきは裸になっていたのにどうして今は服を着ているんだ?」
 首を傾げるルイーゼが見るのは、普通に服を着たシフカだ。
「それはですね、メイドさんにご奉仕される時に全裸は非常識だからですよ」
「……そういうものだろうか……」
「そういうものです」
 堂々と言ってのけるシフカに、ルイーゼはそれ以上は何も言えなかった。
 メイドさん云々以前に非常識なのではないだろうか、とか言えなかった。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。