あっ! 空に浮かぶ脱衣クレーン

作者:大丁

 歩行者用の信号が、いっせいに青になる。
 スクランブル交差点には、雑然と人が行き交いだした。
 歩きスマホなどしていたら、ぶつかってしまうほど、休日の商業区画は賑わっている。
 信号の変わり目を気にして、顔をあげた少年は、奇妙なものが浮いているのを、発見した。
 銀色の弁当箱みたいだが、距離感がわからないから、もっと大きいかもしれない。ものを挟めるようなツメがついている。
「クレーンゲーム……?」
 直感的にそう思い、それは当たっていた。
 スルスルと、ツメが人ごみに降りてきて、前を歩いていた女性を掴んだのだった。

 軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)の操縦するヘリオンが、ヘリポートに集まったケルベロスたちの上でホバリングしていた。
 今度の敵は、クレーンゲームの廃棄家電ダモクレス。
 ただし、ゲームコーナーなんかにある業務用とは違い、それを模した電動玩具に、コギトエルゴスムがとり憑いたものらしい。
 いずれにせよ、空中を水平に移動する直方体と、そこから垂直に上下するツメで構成されている。
 いったんツメで持ち上げたあと、定位置に戻って、服をうばい、人間は裸で落とされるという。
 冬美は、ヘリオンの操作で、その動きを再現するつもりなのだ。
 直方体がヘリオンなら、ツメの役割は、扉から顔を出している獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)の持つ、攻性植物である。たぶん、借り物だ。
 ヨコタテと移動したあと、練習用のマネキンを攻性補食で持ち上げた。
 おー、と歓声がおこる。
 脱がして落とすところまでは実演しなかったが、十分だ。敵は10mほどのところに浮いており、遠距離単体攻撃の服破りと、理解できた。
 これが、休日のスクランブル交差点に現れるのである。
 事前の避難はできないが、出現の少し前に現場に入れる、とのことだった。
 拡声器から、冬美の声が響く。
「みんなー。わかったぁ? 着陸するから、乗ってねぇ!」
 身を乗り出したままの銀子が、警官らしく敬礼していた。


参加者
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)
除・神月(猛拳・e16846)
黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)
エル・ネフェル(ラストレスラスト・e30475)
日下部・夜道(ドワーフの光輪拳士・e40522)
皇・露(スーパーヒロイン・e62807)
レイファ・ラース(シャドウエルフの螺旋忍者・e66524)

■リプレイ

●避難誘導
 休日の空は、商業ビルに四角く切り取られ、交通整理のホイッスルが、こだまする。
 喧騒を引き留める、路上パフォーマーの調べ。
 スクランブル交差点の中央には案内台が置かれ、その上に立って信号棒を降ってる警察官は、獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)だ。
 驚くには当たらない。彼女は本職の婦警だ。
 脇の歩道で、ちょっとした人垣をつくっているのは、エル・ネフェル(ラストレスラスト・e30475)。
 ダンス音楽と、スマホの撮影音がぴろんぴろん鳴っている。全裸でぴろーんと踊っているからだ。
 通常ならお巡りさんが呼ばれる内容だが、すぐそばで銀子が交通整理しているのに、おとがめナシ。そんなものなんだろうと、通行人には納得されている。
 アソコも開いて、ぴろぴろん。
 通行の邪魔にならないところで、私服の皇・露(スーパーヒロイン・e62807)は、晴天を見上げている。
(「クレーンゲームに憑りついた……また変わったダモクレスですわね」)
 行き交う声は楽しげだけれど、露(つゆ)にとって、この数百人がいるのは、檻の中も同然。
 元ダモクレスとしては、早く危険から解放してあげたい。
 それは、敵が姿を現しさえすれば、かなうのだ。
 視界は良好であり、銀色の弁当箱とやらを見つけるのはたやすいはず。
 買い物客にまぎれた黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)が最初だった。
 折しも、信号は歩行者用に変わる。真下と思われる位置まで走りこむと、仲間にわかるように自分の箱、ボクスドラゴンのナハトを収めたものをぶん回した。
 レイファ・ラース(シャドウエルフの螺旋忍者・e66524)は、宙にキラッとした反射を確認して、殺界を形成する。
 もう、事前という段階ではない。これ以上の車両や人並みの流入を、300m規模で防ぐのだ。
 案内台では銀子が引き続き交通整理だ。大声で歩行者の横断を禁じ、四面で信号待ちの自動車を、うまくUターンさせる。
 事前の路上撮影会で、フェスティバルオーラとラブフェロモンを施していたエルの声掛けも、歩道によく通る。
「服を脱がせるダモクレスが出現しました! ケルベロスが対応致しますので充分離れてください!」
 一般人の被害を最小限に抑える。露はヒロインコスに変わると、けん制攻撃を空中に浴びせるべく、×字に轢かれた横断歩道に進みでた。
 『怒號雷撃』が、エレクトリックなメカを痺れさせる。
 紫織も詠唱に入っており、アスファルト舗装を割って、『アースヴァイン』が芽吹いた。
 砂の蔓が、クレーンのツメまで伸びていく。
 囮になって守る手段もある。日下部・夜道(ドワーフの光輪拳士・e40522)は、ゲームセンターの景品にあるフィギュアを参考にした。
 透明な台座を敷いて、手を頭の後ろに組んだポーズで、静止する。
(「どうじゃ♪ 釣れてくれそうじゃな?」)
 ショートパンツにヘソ出しのベスト、マントを羽織った冒険者スタイル。釣りにきたヤツを釣ろうとする頭上に、ちゃんと移動してきた。
 弁当箱は同じ位置で浮いたまま、クレーンが夜道(よみち)の胴を挟もうとする。
 ところが、ツメが胸のところでスカって、失敗したまま、戻っていってしまった。虚しく、後ろ・右と去っていくカラッポのクレーンに、夜道は怒鳴った。
「おい! 失礼じゃろ!」
 その手があったかと、除・神月(猛拳・e16846)も静止してみた。
「クレーン野郎が掴みたくなるよーな格好になってきたゼ」
 去年の夏にコンテストでみせた、シールとヒモしかない水着だ。頂点だけを隠した膨らみに、ツメが食い込んで持ち上げられる。
 この状態なら、至近攻撃も可能と分析しつつ、神月(しぇんゆぇ)は定位置まで運ばれていった。
 クレーンゲームロボは、一度に一体しか掴めないのだ。
 あと、1分もあれば、混雑していた交差点周辺といえど、避難を完了するだろう。
 シールを剥がされたとき、突起はすでに硬くなっていた。ヒモごとすべて持ってかれて、神月は全裸で落とされる。
 日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)が待ち構え、ジャンプとともに空中で、抱き留めた。
 エアライドで丁寧に着地して、衝撃を無くす。
 建物から逃げる人々のなかには、歩道を通過する必要があり、周囲が完全な無人とはならないが、以後はケルベロスが戦闘していれば、一般人に被害がでることはなさそうだった。
 ただし、脱出まぎわに戦場の様子を見る眼は、後を絶たない。数枚の写真を撮影していく者もいる。
「おイ、蒼眞(そうま)、わりーナ。助かったゼ」
「問題ない。落下には慣れているんでな……じゅる」
 返事は股の下から、聞こえてくる。結局は支えきれず、蒼眞の顔に、神月が馬乗りになっていた。

●上下するバトル
 ツメに感情はみられない。しかし、銀子は怒っていた。
「私たちが景品だってことかしら」
 自分の上に降りてきたタイミングで、両手にチェーンソー剣を構える。閉じるツメとスカーレットシザースが交錯する。
 銀子の抵抗に、蒼眞が助けに入る。バトルオーラに溜めた、気力でもって抱きつけば、あるいは。
「あんま見ないで!」
 結果、婦警の服だけ宙につり下がり、クレーンからは下着がパラパラと落ちてくる。蒼眞のヤツは、裸にしがみついただけ。銀子の鍛えられた腹筋に頬を寄せる。
 一応ちゃんと、回復はした。
「わかってるぜ。お、今度は露がピンチみたいだな」
 何がわかっているのか、銀子の肉体をもう一回視てから、庇いにいった。
 露は、さきほどの神月の動きを理解していた。クレーンに捕まったうえで、至近距離から本体を叩けるかもしれない。
「はあああっ」
 掌を尻タブに当てて、エネルギーを満たす。しかし、降りてきたツメは、露の準備された武器、すなわち下半身の自由を奪ってきた。
 オシリの争奪戦は、蒼眞が制す。尻肉を両手で押し出して位置を奪うと、自分がツメに挟まれるというディフェンス。
「どうなったんですの?!」
 露が顔をあげたときには、男性自身をむきだして落ちてくる男性だけが、目に留まった。
 それでも絶やすことなく、ケルベロスの遠距離攻撃は続いたが、クレーンも昇降してくる。紫織の衣服が脱がされて、宙に放り出された。
 裸の紫織はしかし、何食わぬ顔で着地する。
 10mくらい、ケルベロスにとっては何でもない。ではあの蒼眞は、仲間が怪我しないと、自分が一番判っていたのでは。
 もちろん、役に立っているのだ。例えば神月は、彼に馬乗りになり、シタにイったおかげで、いまはスッキリと戦いに集中している。
 夜道もついに、服を奪われた。
「どんなもんじゃ♪」
 なんの自慢かはわからないが、また手を頭の後ろに組んでポーズをとる。
「ほれほれ、蒼眞殿。寄ってはこぬか」
「無事そうなので結構」
 いろいろ生えてない体が、蒼眞をUターンさせた。
「失礼じゃろ!」
 赤みを増したスベスベの肌を、紙兵が撫でて回復する。紫織にも傷はなくなる。
 メイド服、それも胸元が大きく開いたロングスカート姿で、レイファが後衛にお世話したものだ。仲間の女性たちの裸身を眺めながら。
「吊り上げてから服を奪うとは……。敵ながら随分とイイ趣味してますね」
 夜道は気を取り直し、如意棒を垂直に伸ばすと、ダモクレス本体を突く。
「ぬう? こう、横移動から縦移動、クレーンを下ろして、あとはその逆。動作のルールが決まっておるんかのう」
「それじゃーヨ、直接狙ってみるワ」
 通り道を見定めると、神月は跳躍して飛び掛かる。股間を晒して、かかとは敵の高度の上をいった。
 旋刃脚は避けられもせず、金属の箱を斬る。
 箱は、揺れたが、そのまま見えないレールをたどるように、過ぎて行った。
「なーんダ。届くじゃねーカ。クレーンロボ本人もやりづれー感じだゼ」
 蹴り足を上げたまま、降下する。湿り気がまたひとすじ、上に昇る。
 それを追って、紫織の氷結輪がダモクレスに投擲される。
「憑りついた製品のせいなんだから、自業自得よ」
 クリスタライズシュートは放物線の下りぎわで、玩具が元だった本体に亀裂を生じさせる。
 裂け目からは氷が広がっていき、ボクスドラゴンのナハトが吹いたブレスは、さらに氷結を進めた。
「あら……?」
 戻ってきた武器を受け取った紫織は、ビルから逃げる人々のなかに、目立つ格好の数人をみつける。
 そのとたん、まるはだかでの戦闘に頓着しなかったはずなのに、何かの感情が沸き上がってきていた。
 クレーンが向かっていたのは、回復支援をしていたレイファの所だった。
 ロングスカートの内側へと、ツメが前後から閉じる。
 持ち上げられるメイド服に、エルの庇いはわずかに届かない。
「わたしを相手してくれれば、逆に有利でしたのに……。ここは追撃させてもらいます」
 M字にしゃがむと、さらに腰を浮かせるようにした。
「秘奥の舞を御覧あれ……♪」
 じょぼぼぼ……。
 前に飛んだ放水が、やがて10mに届く。『陰陽有頂昇天波(コイカ・トエ・ハカ)』が、浮いた金属箱にかかる。
 エルは、吹き上げながらも交差点の外に、紫織の気付いた一団を見る。
「テレビ局……?」
 肩に担ぐほどのカメラをはじめ、マイクや照明のついた竿を運んでいる人々。
 ただ、撮影はしていないようだ。現場からは逃げる。地方局のロケ隊が、偶然に出くわしたらしい。
 しかし、女性のひとりが留まろうとしている。
 この晴天にカサを持っているのは、お天気コーナーのキャストか。
 下からの光景では、レイファはガーターストッキングにTバックであり、前後からのツメ先は、前後に突っ込まれていた。
「くっ! ウッ!」
 足をバタつかせたら、よけいにスカートが捲れて、ツメも深く食い込んでいく。
「うぐぅ。ダメ、もう……ああっ!」
 声に驚きが混じった。眼下に、お天気キャストの様子が入ったのだろう。
 女性はガン見している。パッとカサを差した。
 プシッ。じょばば。
 レイファも吹き出す。交差点に黄色い雨を、降らせてしまう。
「お漏らししながらイッてるの見られてる! 見られてまたイグのぉ!」
  絶頂は、クレーンが定位置で放してくれるまで続いた。この獲物を気に入ったのだろうか。次は、二回目の銀子だった。
 すでに、全裸のお尻に、またしてもツメが挿入される。
「こ、こんなクレーンゲームは叩き壊すわよ……!」
 高度がゆっくりと上がるにつれ、穴へは深くなる。強気の言葉も、空回り。
(「裸で戦うことには慣れてきたけど、往来で、人もまだ居て、それにお尻の穴を広げられて……恥ずかしい!」)
 気持ちがたかぶり、声が出そうになったところで、落とされた。
 お尻と言えば、この人。露の頭上にダモクレスが移動してきたとき、彼女もその行動を読んでいた。
「はあああああーー!!」
 再度のエネルギー充填を施すと、『破纏撃(ハテンゲキ)』のヒップアタックで上昇した。
「レプリカントの技をお見舞いしますわ!」
 先に降りてきていたクレーンをぶち抜いた。ツメが丁番から外れてブラブラになる。
 なおも臀部が、弁当箱に当たると、出現以来乱さなかった高度がズレて、潰れたボディからメカニックがはみ出す。
 服を着たまま、帰還したのは、露だけ。
 クレーンゲームロボは、爆発四散した。

●ケルベロスは有名人
 銀子の落ちた先には蒼眞が、やはりというか受止めてくれていた。気力の回復を施されたあとは、オーラを介さず、直接に抱きついてしまう。
「興奮してしまって。もう覚悟してね」
「もちろんさ……むちゅ」
 唇を吸われた蒼眞は、クレーンゲームのツメに囚われるかのように、銀子の手足に拘束されたのだった。
 テレビクルーは戻ってきて、取材を開始した。キャストが見当たらないので、ディレクターの男性が代わりにマイクを向けてくる。もちろん、オンエアだ。
「実益と趣味を兼ねていつも全裸です、はい」
 エルの肯定を、紫織が否定する。ケルベロス全員がではない、と。
「いえ、勿論恥ずかしいですよ? でもそれが快楽エネルギーの源泉なので……」
「私は別に恥ずかしくはありません」
 否定と肯定が逆になった。紫織は、やわらかく微笑んだが、内股がベタベタになりつつあるのも映ってしまっている。
「あの方たちは……」
 インタビューの背景には、交差点中央の案内台に手をつき、うしろから蒼眞にしてもらっている銀子がいた。
「皆さんとの交流も大切だと。ええ、見かけたら、あんな感じで是非仲良くしていただければ」
 エルはまたガニ股になってみせた。
 そんな中、私服に戻った露は、秘密のヒーローらしく、群衆に紛れて消える。
「取材とか、出なくていいの? 正義の味方さん」
 お天気おねえさんが、ビルの谷間でレイファと情事にふけっていた。
「あなたこそ、仕事なのでしょう?」
 裸にエプロンだけ。それもたくしあげると、下着姿になった女性の口元に近づける。
「今日はもういいのよ。さ、今度はカサなしで浴びせて……」
 ずっと眺めて動きを追っていただけあって、すっかり得意になっていた。
 神月と夜道である。
「すげーナ。1プレイで連続ゲットしてるゼ」
「ふっふっふっ。わしの実力をもってすれば、造作もないのじゃ!」
 ぬいぐるみとフィギュアと、Tシャツを抱えて、ふたりは近隣のゲームセンターで、本物のクレーンゲームを遊ぶ。
 ギャラリーも大盛り上がりだ。
 そのTシャツを着ればいいのでは? とは誰も言わなかった。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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