白雪の祭

作者:崎田航輝

 雪で作られた雄大な芸術に、愉しげな歓声が華を添える。
 人物やキャラクター、或いは自然の景色。あらゆるものを象った巨像が並ぶ壮観な景色を、歩む人々が眺めていた。
 仄かに白雪も降る中で、催されているのは雪祭り。
 緻密に、そしてダイナミックに創られた像を観賞しながら、人々はカフェテリアで温かな飲み物を、露店で食べ物を楽しんで。
 氷のベンチとアイスクリームで、敢えて冬の冷たさも楽しむ者がいれば、かまくらに入って雪の温かさを実感する者もいる。
 雪で作った作品を展示できる一角では、像に負けじとオリジナルの雪人形を作る人々も垣間見えて。広場では子供達が元気に雪遊びをして……皆が季節の楽しみに興じていた。
 けれどそんな雪を踏みつけるように、場に歩み入る巨躯がいる。
「真っ白で一辺倒な景色──面白みもねぇ」
 何が楽しいんだか、と。
 退屈を顕にした声を零し、剣を握り締める甲冑の男──エインヘリアル。
「嗤うのは、殺しを始めてからにしようぜ」
 剣を振り上げて、目の前の人間を切り捨てると顔に笑みを含んで。
 絶望の悲鳴が響き、人々が逃げ惑うと、その罪人は段々と嬉々とした声を上げながら──目につく全ての命を切り刻んでいった。

「冬らしい気候が続きますね」
 澄んだ風が寒さを運ぶヘリポート。
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へそんな言葉を口にしていた。
「とある街では雪祭りも開かれているようですが……そんな催しの只中に、エインヘリアルが出現することが予知されました」
 やってくるのはアスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人ということだろう。
「人々の命を守るために、撃破をお願いいたします」
 現場は祭りの会場となっている場所の道。
 特に人通りも多い一帯だが……今回は事前に避難が勧告されるという。
「皆さんが到着する頃には人々も丁度逃げ終わっているはずです」
 こちらは到着後、敵を討つことに専念すればいいと言った。
 それによって、周囲の被害も抑えられるだろうから──。
「無事勝利できた暁には、皆さんもお祭りを見ていってはいかがでしょうか」
 沢山の雪像がならぶ一角や、カフェテラスに露店、中に入って休めるかまくらもある。
 雪で作品を作って飾れる場所もあるし、単純に雪遊びに興じても良い。
「そんなお祭りの時間の為にも、ぜひ撃破を成功させてきてくださいね」


参加者
神宮時・あお(彼岸の白花・e04014)
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)
灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)
クロミエ・リディエル(ハイテンションガール・e54376)
芳野・花音(花のメロディ・e56483)

■リプレイ

●銀景にて
 雪の城に、雪の姫君。
 鎧を纏った戦士や、幻想世界の生き物までもを模った像が並ぶ会場は、白銀一色に彩られた美しき冬の世界。
「雪まつりなのです!」
 そんな中へ降り立った八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)には、全てが新鮮。映像でしか見たことのなかった景色に心が躍っていた。
 芳野・花音(花のメロディ・e56483)も寒空限定の芸術に、華やいだ表情だ。
「雪で作られた作品って、とても幻想的で素敵な感じがしますよね」
「そうだね」
 と、頷くクロミエ・リディエル(ハイテンションガール・e54376)も心は祭りに向いているように、わくわくとした色を含む。
 だからこそ、と視線を止めると──。
「雪の芸術の風情が分からないエインヘリアルは、退治するしかないね」
 真っ直ぐに伸びる道の先。
 そこに雪を踏みしめ歩む、鎧兜の巨躯の姿が見えていた。
 堕ちた罪人──街に入って人の匂いが遠くないと感じたか、その貌には捕食者の嗤いが浮かんでいた、が。
 それが誰かを喰らう事をこそ、阻止しに来たのだから。
 寒風を裂くように、高速で駆ける灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)が僅か一息でその眼前へ接近。刃を抜き放っていた。
「ここは、喜びの笑顔に溢れる場所だ! 醜い笑顔しかできん貴様には相応しくない!」
 故にご退場願おうか、と。
 一閃、繰り出すのは雪をも凌ぐ零下の斬撃。
 強烈な衝撃にたじろぐ巨躯へ、続けて迫るもう一つの影がある。
「ああ、その通りだな!」
 新雪と見紛うような美しい白銀の毛並み。声と共に跳び、宙で旋転する──ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)。
「俺もSmileKeeperを名乗っちゃいるが、生憎テメエのニヤけ面は守備範囲外……いや、排除対象としか見えねえ!」
 だから討つ、と。刹那、轟と鳴る風音を伴う蹴撃を叩き込んだ。
 罪人はたたらを踏みながらも、怒りを含んで番犬へ視線を注ぐ。
「……随分なご挨拶だな! 俺の狩りを邪魔するつもりか?」
「狩り、か。要は無辜の人間の虐殺だろう」
 ゆっくりと、陽炎を纏うダブルセイバーを構えるのは緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)だった。
 こつりと歩みながら、投げるのは挑発的な声音。
「相変わらずエインヘリアルは何の力も持たない相手にしか剣を振るえないらしい」
「……何だと」
 罪人は歯を噛んで斬りかかってくる。だが結衣はそれより疾く懐に入り込み、刃を廻すように巨体の腹を抉っていた。
「おまけにどいつもただ力任せに武器を振り回すだけの、戦い方もわかっていない素人以下の雑魚ばかり。これでは単調すぎて面白みも何も無いな」
「……どいつもこいつも、馬鹿にしやがる!」
 だったら殺してやると。
 叫ぶ巨躯は形振り構わず、暴力的に剣風を飛ばしてきた。が、狙いが此方に向くなら寧ろ狙い通りだと、盾役がしかと防御すれば──。
「任せてくれ!」
 暴風の中でも真っ直ぐに、濁りなき声が響く。
 それは衝撃の嵐を吹き飛ばすように、眩いオーラを生み出すラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)。
 燿くのは嘗て喰らった敵の再生の力、『降護・聖龍鱗』。凝集して放出された光が聖なる龍の如く宙を翔けながら、厄を祓う力を仲間へ齎していた。
 同時に暖かな心地が傷をも浄化していくと──。
「あと少しだ!」
「では、あこが頑張るのです!」
 あこも動物型の霊力を周囲に踊らせて、防護と回復を兼ねていた。
「攻撃はよろしくなのです!」
「……、わかり、ました」
 静かに頷き応えるのは神宮時・あお(彼岸の白花・e04014)。
 仕草はおずおずと小さい。けれど淡紅の翼でふわりと翔んで、罪人の巨体へと飛び込むその心に躊躇いはなかった。
 白妙の髪を揺らし、透明な水中を泳ぐかのように翻り。痩身から蹴撃を繰り出して巨躯を傾がせる。
 そこへ花音が手を伸ばし、蕾の如き光を開花させていた。
「エクトプラズムよ、敵の動きを止めなさい!」
 瞬間、放たれた煌めきの奔流が罪人を縫い止める。
 時を同じく、クロミエが地に手のひらを当てていた。
「土の中に潜む竜よ、その姿を現せ!」
 地鳴りが轟くと、罪人の足元の地面が蠢く。
 『土竜帰り』──零の術により送られたオーラが土竜を模って。飛び出るように爆発的な衝撃を齎し、巨体を吹き飛ばした。

●烈戦
 雪を血潮で穢しながら、罪人は膝をつき苦渋の息を零す。
「ちっ……認めねぇぞ。こんな退屈な眺めの中で……下らねぇ場所で斃れるなんて」
「退屈、か。雪って面白いもんだろ? 真っ白で、ふわふわして、キラキラして」
 ラルバは景色を見回し心から言ってみせる。
 言葉に、あおも心は同じだった。
 純な白で作られる、その芸術を見つめる程に。
(「雪とは、こんなに、素敵な、ものに、変身、する、のです、ね……」)
 けれど、この咎人にはそれが判らないのだろう。
 ならば出来ることは一つしか無い。
(「真白な雪を、真紅に、染めるわけには、いきません、ね」)
 思いと共に、あおは淡い表情の中にほんの僅かにだけ力を込める。
 そしてそれはラルバも同じ。
「お前は祭りをくだらないって思っても。みんなはそれが、そこでみんなで過ごす時間が楽しくて笑うんだ」
 だから、と。
 翼を広げて空へ翔け上がると、雪空に陽光を顕すかのように眩く熱き光を抱く。
「それを、みんなの笑顔を壊そうとすんじゃねえ!」
 刹那、高速の滑空と共に燿く蹴り落としを見舞った。
 巨体が地を滑ると、そこへ走り込むのは加勢していた相馬・泰地。
「ここは任せろ、オラオラオラ!」
 敵が反撃をする前に、『牽制怒涛蹴り』。連続の打撃を打ち込んで行動を許さない。
 その一瞬に、あおは『永眠りの謳』を詠っていた。
『──』
 理を翻す歪曲の調べは、嘗て世界が負った痛みの記憶を読み取る古代の魔法。
 それに触れることは、痛みと無縁ではいられない。それでもあおに迷いがないのは、痛覚がなく自身が痛みを感じないと識っているから。
 そして自分ではなく、誰かがそうなるのが嫌だから。響く声は罪人の魂だけを蝕み苦痛を生んでいた。
 呻きながら、罪人は感情を顕にする。
「……全部、破壊してやる」
「いいや、この祭りは多くの人々の笑顔が溢れる大切な催しだ」
 しかと否を唱える恭介は、鋼を纏った拳で砕けろと巨体の鎧を破砕した。
「大切な思い出を作る祭りを、殺戮ショーになど決してさせん!」
「ああ、祭りの余興にしちゃ物騒すぎるからな」
 速攻でかたをつけてやる、と。ランドルフが抜き放つのは刃。
「ニヤけ野郎にゃ勿体ねえが見せてやらあ! 舞え、曼珠沙華!」
 踊らせる斬閃が、無数の傷を巨体に刻む。
 罪人は抗おうと剣を握る、が。即座にその眼前へと結衣が剣圧を飛ばし、巨躯の頭を爆裂する衝撃で包み込んでいた。
「道理も弁えない馬鹿の多い種族だ。こちらの言葉を理解も出来ない頭なら、もう必要ないだろう?」
「テメェ……っ」
 苦悶に激憤を交え、罪人は剣撃。だが誘い通りの一撃を、結衣は刃で受け衝撃を抑えた。
 直後にはあこが猫型オーラを飛び跳ねさせてその痛みを治療。同時に翼猫のベルも燦めく翼で羽撃けば、体力に憂いは残らない。
「では反撃するのです!」
 あこはそのまま攻勢に入り、『にゃんこのおまじない』。獲物が取れますようにと願いを掛けて、巨躯の挙動を堰き止めた。
 そこへ翼を輝かせ、高空へ飛翔するのがクロミエ。
「それ、私の突撃を避けきれるかな?」
 刹那の間、姿も見えぬほどの高度に昇るとその体を光の粒子へと変遷させる。
 煌めきの塊となったクロミエは、重力をも置き去りにする速度で降下。衝撃音が響き渡る頃には巨躯の腹に風穴が空いていた。
「皆も続けて!」
「ええ」
 そっと頷き、花音は巨大な薔薇を抱く杖を掲げている。
 そこに収束された魔力は、八重咲きの花弁のように光を重ねて彩度を増していく。瞬間、散り散りになった光の全てが鋭利に変化していた。
「全てを痺れさせる針の嵐よ、飛んでいきなさい!」
 声に応じて一直線を描く『パラライズニードル』は、巨体の全身に突き刺さり──内包した魔力を弾けさせて体から自由を奪う。
 地に手をつく罪人へ、恭介は『地獄炎竜・煉獄追炎葬』を顕現。獄炎で竜を成して巨躯を飲み込ませていた。
「跡形なく焼き尽くしてくれる!」
「……そして忘却の彼方に消え去るんだな」
 続けて駆け抜ける結衣は、業炎を抱いた魔剣で空間を斬る。
 桜火<消えぬ傷痕>──記憶として留まった斬撃は、永劫に罪人を刻み続け、焔の桜吹雪と共に鮮血を散らせた。
 同時、ランドルフは爆砕する弾丸を放つ。
「コイツで仕舞いだ、喰らって爆ぜろッ! コギトの欠片も残さず逝きな!」
 着弾と共に弾ける『バレットエクスプロージョン』は──濃密な魔力と衝撃、高温で巨体を千々に散らせてゆく。
「雪より先に消えるのがテメエのDeadEndだ。喜びな、あの世じゃ退屈してる暇はねえぞ」
 その声が響く頃には、雪景色に静寂が戻っていた。

●雪祭り
 白雪が作る世界に、笑顔と愉しげな声が交わってゆく。
 戦いの痕を直した後、祭りは程なく再開されていた。既に会場は賑わいに満ち、人々が行き交っている。
 その中であおも雪像を見ようと、ふらりと歩んでいた。
 薄い翅が精緻な妖精の像を見つけると──触れてもいいらしいということで、小さな手をそっと当ててみる。
(「……雪の、温度」)
 その冷たさに、すぐに離しながら……暫し、仄かに赤らんだ自身の手を見つめていた。
 それからお店に寄ってホットココアを購入。真白い湯気を上げるその温度で、手も温めながら──後はゆったり散策する。
(「やっぱり、綺麗、です……」)
 雪の花園を抱く雪の城は、荘厳にして緻密。
 王子と姫が踊る一幕を活写した雪像は、ロマンティックで。
 そんな眺めに歓声を上げる子供達や、店の賑わいも見やりながら──あおは静かに祭りの中を歩んでいった。

 適当に様子を見て帰ろうと思っていた結衣は、その途中で足を止めていた。
「居るんだろう、ネフティメス」
「……はっ!」
 結衣の視線の先。ぴくりと反応して、物陰から静々と出てくるのは──ネフティメス・エンタープライズ。
 戦闘時も隠れて支援していたことを、結衣はしかと把握していた。
 ネフティメスはぱたりと羽を動かす。
「バレてましたか」
「俺がお前に気が付かない筈が無いだろう」
「うーん、そうですよね。あれです、こないだシャルンとケーキを買ってきてくれたお礼をと思って……」
 ネフティメスは応えるが、それは建前でもある。本当は自分ももっと結衣と一緒に居たいと、そんな純粋な思いがあった。
 結衣は深くは聞かず、歩み出す。
「わざわざこんなところまで来たんだ、少し見て回るぞ」
「本当ですか? じゃあ行きましょう!」
 ぱっと笑んだネフティメスは、早速結衣を引っ張り連れ回し始めた。
 勇壮な、或いは可憐な雪像を眺めた後は、自分達も作ってみようと広場へ。
 ネフティメスが奔り回って転びそうにならないかと、結衣は一応注意しつつ見ていたが……ネフティメスは雪の結衣を作って満足げだ。
 それからまた歩き回ろうとすると、体が冷えたかネフティメスはくしゃみ。
「へくちゅっ。うう~寒いですね」
「温かい飲み物でも買っていくか」
「それでもいいですけど──」
 と、歩む結衣を見つめたネフティメスは、くっつくように隣に並んだ。
「やっぱり、側にいるとぽかぽかして暖かいですね~」
「歩きにくいぞ」
「いいじゃないですか。落ち着くんです」
 結衣の視線にネフティメスは笑顔。
 文句は言っても、結衣は振り払ったりはしないから、それもまた嬉しくて……ネフティメスは上機嫌に肩を触れさせていた。

「さ、さむーい!」
 ぷるぷると震えながら、あこは広場までやってきていた。
 そこは自作品を飾れる自由展示場も遠くなく、大人達が制作に励んでいたり、子供達が雪遊びに興じたりしている。
 故に雪一色。
 戦闘時はいつもより多く動いて温まっていたけれど、こうして少しでもじっとするとやはり真冬だった。
「毛皮の上からでもタイツを履いたほうがいいのでしょうか……!?」
「この寒さが雪祭りって感じでもあるよな」
 ラルバは少々愉しげに、尾をぱたりぱたりと揺らす。
 何せ雪遊びなんてずっとやっていなかったのだ。
「うし、いっちょ雪だるまでも作ってみるか」
「なら、俺もやってみるとしよう」
 共に歩んできた恭介も、皆や子供達と一緒に広場に入り、制作開始。早速雪を丸め始めてみる。
 そんな姿を見つつ、ランドルフも雪を固めていた。
 こんな場だ、気になる“アイツ”の姿を雪像にしてみようと思ったのだ。
「さて、上手くいくかな……」
 と、イメージを浮かべて人型を形成しようとするが──これが難しい。一応最後まで仕上げたが、フォルムはいびつと言ってよく。
 自己評価でも、とてもモデルにした人物に見せられないという代物だった。
(「……うん、無かった事にしよう。画像ですらアイツには見せられない」)
 ならば雪の欠片も残さず逝かせよう、と。
「気合一閃!」
 強烈な手刀で雪像を爆発四散させ、欠片すら残さないのだった。
 そんな近くで、ラルバはどんどん雪を盛っていく。
「せっかくだし、オレの身長くらいにするか。ついでに、表情は笑顔だな!」
 どうせ作るなら出来上がりも楽しく、と。
 真ん丸で大きな顔を、さりさりと削って整えていく。
 その間、あこはわーっと勢いよく雪を転がし、ぽんぽんと重ねて雪だるまを作っていた。綺麗な雪は見るのも好きで、こうして遊ぶのもいいけれど──やはり寒い。
 出来上がりはちょっぴり雑だけれど、それでもにゃんみみをぴこりとつければ可愛らしく。記念撮影していい思い出が出来た。
「それじゃあ、めちゃさむなのでかまくらに急ぐのです!」
「お、出来たのか。オレももうすぐだ」
 それを見つつ、ラルバもその内に完成。ラルバ自身に負けず劣らず爛漫な印象を与える、笑顔の雪だるまとなった。
「成程、凄いな」
 と、視線を向ける恭介は、少々手間取っている。作れていないことはないが、どうしても歪んでしまったり、時に頭が転がってしまったり。
「これでは皆のほうが上手いな」
 周りの子供達を見て、その上手さに感心していた。
 ただ、そんな子供達が恭介の雪だるまを見て笑ってくれると──心が温かくなるようで。恭介は自然と微笑みを浮かべていた。
(「この笑顔を、俺は守れてよかった……」)
 そんな恭介や皆の笑みに、ラルバもまた嬉しそうに笑う。
「みんなもいい笑顔だぜ。雪みたいにキラキラだ」
 そうして温かな時間が流れる中──あこもまたかまくらでぬくぬくと。
「はぁ~極楽なのです!」
 ベルと一緒になって丸くなっているのだった。

 雪像を観賞しながら、露店で温かなものを買って。ノチユ・エテルニタは巫山・幽子と共に雪景色を歩んでいた。
 冷えればかまくらに入り、ぬくさに感心しつつ。
「沢山食べてね」
「ありがとうございます……嬉しいです……」
 たい焼きをはふはふ齧る幽子を眺めながら、ノチユは外の子供を見る。
「幽子さんは子供の頃、雪遊びって、した?」
「冬は、偶に……。エテルニタさんは……」
「僕は、したことないんだ。ええと……病気がちだったから」
 言いながら、幽子の視線には大丈夫と応えて。
「今は、そうだな。誰かのそういう光景を見られるのは……尊いことだと、思うよ」
 だから、あとで雪兎の作り方、教えて、と。
 言えば、幽子は穏やかに笑んで頷き。二人は暫し隣り合って座っていた。

「ふう、終わったね。後は色々と祭りを楽しもうね!」
 皆と解散後、賑やかさの戻った街の中で……クロミエは早速元気に見回している。
 子供達が居る広場や、雪像を作る展示場。
 どれも魅力的ではあるけれど──。
「まずはカフェかな?」
「それなら、ご一緒していいですか?」
 と、ぽんと手を合わせるのは花音。
 丁度自分も散策を嗜もうと思っていた所、折角ならば誰かと共に愉しむのも良いと思っていのだ。
「うん、それなら行こう!」
 クロミエが朗らかに頷くと、二人はカフェテラスへ。
 人々が銀世界を楽しみながら寛ぐ中で、自分達も席につき──クロミエは紅茶を頼む。
「いいですね。では私も」
 花音は明るい声音になって自身も紅茶を注文した。
 やってきたのは上品なカップに注がれた一杯。鮮やかな色味が美しい、本格的なものだ。
 クロミエは早速一口飲んで、温かな吐息を零す。
「わぁ……やっぱり寒い日は温かい飲みものに限るよね!」
「ええ。それに、とても味わいが良くて。これは南インドの茶葉ですね」
 紅茶を好む花音にとっても、それは美味。芯芽の香味と、旬の風味が感じられた。
 それから二人は一息つくと──。
「次はどこに行こうか?」
「少し雪像を見ましょう? それから、かまくらとか、入ってみたいです」
 決めれば行動は早く。
 カフェを出た二人は幻想的な像の数々に感心を浮かべながら、かまくらへ。悠々と入れる大きさの入り口をくぐると。
「中はぽかぽかしてるね!」
「雪で出来ている割には、結構暖かいですね」
 花音は踊るようにくるりと見回し、興味深げだ。
 何より、真冬の中の暖かさが心地良く──二人は暫くそこでのんびりと過ごしていった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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