学校を襲った脱ぎパソコン!!

作者:大丁

 職員室の扉を開けておいて、なんの挨拶もしない生徒には、ちゃんと注意がとんでくる。
 私立一貫で、そうした校風の学園だった。
 授業が終わって、部活に清掃と、校舎内での移動がおこる時間帯。件の職員室には、20人ばかりの教師や生徒がいた。
「こらー。黙って入ってくるやつがい……」
 絶句に、視線が集まる。戸口に立つ人影が、異様だ。
 まるで鋼鉄で作った人体模型といった姿で、左手にノートパソコンを広げ、突っ立ったまま、右手でそれを忙しく操作している。
 教師たちは、危機管理にも行き届いており、それが廃棄家電ダモクレスとはわからなくても、生徒をかばうような位置に、じりっと動く。
「君たち、逃げなさい……ああっ!」
 最初に声をかけた男性教師が、ダモクレスに距離をつめられ、右手にネクタイを掴まれている。
 全員の口から悲鳴があがったのは、襲撃への恐怖からだろうか。
 それとも、ネクタイごと着衣が全部、引っこ抜かれたからだろうか。

 軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)は、白いポンチョ型のレインコート姿で、予知を伝えた。
「職員室、私立の一環校が襲撃の現場よ。こんな感じで戸口から入ってくるのぉ。真理ちゃん、ダモクレス役でごめんねぇ」
 冬美の合図で、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)がブリーフィングルームの扉を開けた。
「大事な情報ですから、平気なのですよ。でも、私にマネできるですか?」
 左手でノートパソコンを支えている。冬美は笑って頷くと、そばに寄るように促した。
「今回の敵は、故障したまま放置されていた教材用のノートパソコンに、コギトエルゴスムが憑りついた、廃棄家電ダモクレスよぉ」
 真理の身体を示しながら、家電が本体で、そこからロボットが生えていると説明する。
「それじゃあ、真理ちゃん。右手で『破鎧衝』よぉ」
 構造的弱点を分析したうえで、一撃を放つグラビティ。本体が演算し、端末のロボが攻撃してくるという、敵の攻撃のデモンストレーションだ。
「やってみるです!」
 右手が、冬美の胸元の結び目を掴んだ。そのまま振り上げると、レインコートはまるごとすっぽ抜けた。
 ショートボブの髪型がふわっと浮く。
「こ、こんな感じです?」
「うまい、うまい! ノートパソコンロボと戦う人は、この脱ぎ技に気をつけてねぇ」
 被害にあった場合の身体を見せつけたあと、冬美は敵出現の少しまえに現場に到着できると語った。
 最初の男性は、服を奪われるだけだ。窓を破って突入してもいいし、心配なら何らかの策を講じて潜入してもいい。ただし、事前の避難誘導はできない。
「レッツゴー! ケルベロス! ……さ、さすが真理ちゃん、弱点の分析が適確でぇ」
「効き過ぎですか……?」
 冬美は、胸元をおさえてモジモジしだした。


参加者
日向・向日葵(向日葵のオラトリオ・e01744)
白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)
ノーヴェ・プレナイト(レアエネミー・e07864)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
毛衣・かげり(書を擦る指先・e26125)
黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)
ピヨリ・コットンハート(ぴょこぴょん・e28330)
ココット・ズッカドーラ(臭い立つ雌肉・e32243)

■リプレイ

●作戦変更
 とうとう、日が暮れた。
 学園内はほぼ無人だが、すべての照明がついている。運動場もナイター設備が充実していて、中庭のようなところにも、ライトアップされている箇所があった。
 しかし、ノートパソコンロボは、発見されていない。
 敵の攻撃から生徒・教師を守ろうとするあまり、学園側にデウスエクス出現の情報が洩れてしまった。
 事前避難が起こり、予知に示されていたとおり、予知そのものを不確実にさせ、職員室への襲撃はなされなかった。
 ケルベロスは、やむをえず学園内への捜索に入る。
 コギトエルゴスムの憑りついたパソコンは教材用だったのだから、発生は建物内だ。しかし、時間がたつにつれ、学外に逃亡された懸念が増し、不安も募ってくる。
 遭遇した際の危険を承知しながらも、手分けして捜索範囲を広げざるを得ない。
 もちろん、単独行動は避けるとし、前・中衛からと後衛からの二人で、4組をつくった。

●部室棟
 ほんの微かに、物音がした。
 ノーヴェ・プレナイト(レアエネミー・e07864)と、日向・向日葵(向日葵のオラトリオ・e01744)は、それを聞いたと確認しあう。
 スカートをひるがえし、部室棟の階段を上がって廊下に出ると、全部の扉が開いていた。
 一度探したところは開け放っていたからだ。それよりも、さっきは何もなかった廊下に、運動部のユニフォームが散乱している。
 バサッと、柔道着がほうり出された。
 該当の部室に駆け付ける。はたしてノートパソコンロボは、そこにいた。
 ロッカーからユニフォームを抜き取る……いや、本人的にはたぶん、脱がしていたのだ。
 向日葵は即座に、仲間へ連絡をとる。ノーヴェは胸元からブラックスライムを開放して突進した。
 帯を手放し、ロボ頭部もこちらを見る。向日葵は続いて、ビジネスからフィルムへとスーツを早着替えすると、ノーヴェにむけて、ヒールドローンを射出した。
「これで多少はマシに……って、ええ!?」
 盾役を従えて、ブラックスライムは槍に変形した。本体たるパソコンのディスプレイ裏に届いたはずだ。
 それなのに、ケイオスランサーは元の黒い液体に戻り、ドローンは浮力を失って、乱雑な部室の床に転がった。
「はう……ああ」
 ノーヴェがうめいている。ロボットの右手は、手刀で随伴機を叩き落としたあと、制服の片胸を掴んだのだ。
「う……いい、いいの」
 甘い声に変わってきている。胸を揉みしだきながら、スルスルと制服を取り去っていくのは、機械らしい精密さ。脱がすと下着はつけていない。つまり、ノーブラである。
 かたちのいい膨らみを直接にいじられると、手足は無抵抗になってしまう。
 そう、ノーヴェの弱点は、胸なのだ。
「あ、あ、あん、はあ、あああっ!」
 スカートの裾から、細く液体が散って、それはスライムのように黒くはなく、気絶するほどにイってしまう。
「ノ、ノーヴェさん?! なんてスケベな敵!」
 向日葵はアームドの照準を合わせようにも、仲間の背中で遮蔽をとられていた。確かに計算がうまい。
 倒れた彼女には悪いが、今ならトリガーを引ける。
 一斉発射に、鋼鉄人体模型の部品のいくつかは歪んだ。しかし、ジャマーを失ったメディックには、近接攻撃は届くのだ。
「イッキには丸裸にされないと思いたいけど、そんなのないよね、……ないよね?!」
 主砲にミサイル、レーザーと喰らわせても、伸びてくる腕は止まらない。
「奥の手行くよォッ」
 時を制する力で弾を増やしたが、胸元を掴まれたら武装もなにも、フィルムスーツは天井にむかって破り取られた。
 親指くらいの乳首に、乳輪は手のひらなみ。片乳でも顔サイズのバストが、ばいーんとモロ出しになった。仰向けに倒れるまで、何度も上下に揺れ続けた。
 このデカさを晒すことこそ、向日葵のコンプレックス、つまり弱点だったのだ。

●渡り廊下
 白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)と、ココット・ズッカドーラ(臭い立つ雌肉・e32243)が、中庭を抜けて部室棟へ急いでいると、目の前の渡り廊下を、パソコンを弄りながらダモクレスが横切った。
 ドラゴニックハンマーを抱えて、まゆはダッシュする。
「一撃必砕! 全・力・全・開っ!」
 パソコンロボの直前で一回転し、遠心力を乗せて叩きにいった。相手は、キーボードから手を離して、防ごうとする。
 ロボの右腕が、肩からもげた。
 渡り廊下の支柱に当たって、支柱のほうが折れ、破鎧衝を使う武器は失われたかに思えた。
「このノートパソコン、よほどアブないソフトのインストールでもされていたのでしょうか?」
 まゆの驚きに、ココットがあやふやに返答する。
「学校の教材なんだから、あんな不潔なモノ、あるはずないわ!」
 ふたりが見ているうちにロボの下腹部が、ういぃーんと開いて、男性がよくつけているアレとそっくりな形が突出したのだ。ロボそのものが端末なのであり、武器への変形方法は複数あるらしい。
「服がピンチならまだしも。禁縄禁縛呪でへし折るわ!」
 半透明の「御業」が、新たに出現した武器を鷲掴みにする。
 まだしも、と言ったココットは、女子相撲部の想定で、全裸にまわし一丁で行動していた。当然、乳丸出し。ヘソまでつながる濃さまでわかる。
 敵が捕縛されているうちに、まゆは再び突撃の姿勢をとった。キャバリアランページで端末ごと破壊をこころみる。
 だが、この動きも読まれていた。
「あぐうう、はああん!」
 まゆのほうから、吸い込まれるように、突撃がぶつかりあって、挿入が成立してしまった。
「そんな、まゆさん!」
 衝撃に白い着衣はすっとび、平坦な胸部をむきだしにされている。ココットには、自分にこそ愛でる機会が欲しかったと悔しい。
 ならば、せめて激しく前後させている腰の熱だけでも奪おうと、冷凍光線を当てたが、交わりは解けない。
「イク、イク、イッちゃいますぅ」
 まゆは、果てた。
 ココットの心には想定外の無力感が広がり、草地に膝をついてしまった。
 あるいは、母性を逆手にとられたのかもしれない。
 まわしは緩んで解け、お腹に溜まっていたものも、気付けばひり出していて、それは戦闘不能の証となった。

●教室
 高等部3年の教室にて着席し、ロボットは堂々とパソコンを操作している。
 あるいは、パソコンはロボに操作させている。机に置かれて、左手でキーボードを触らせているが、ボディのどこかで合体されているのだろう。
 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)と、毛衣・かげり(書を擦る指先・e26125)は、問答無用に挑みかかった。
 実演できるほどの破鎧衝を、真理も持っている。真っ先に、机上の樹脂製ケースを掴んだ。
「全力で潰すのですよ!」
 だが、ロボは椅子から半身に向き直り、勢い余った真理は、膝に対面で座らされてしまう。すなわち、座位。
「うぎ、はああうっ」
 ペトリフィケイションの石化で止めようと、かげりは古代語を唱えた。彼女も女子相撲部を想定し、乳房丸出しでマワシ着用。
 席に近寄ってあらためると、ロボ部分のモノは、真理の後ろに接続されてしまっている。
「キ、キミ?! 肛門に入っているッ!」
「自分で判っているのです! 口に出して言わないでほしいのです!」
 真理には、『破剣衝(ハケンショウ)』という武器破壊技も備わっていた。敵と密着しているのを良しとし、武器たるロボにも打撃を与えるつもりだと言う。
 メンバー中でも優れた頑丈さを持ち、ディフェンダーを務める真理は、破鎧衝との交互使用で、3巡目まで耐え抜いた。
 彼女のライドキャリバー、プライド・ワンもスナイパー位置から支援する。
 かげりは『無貌の従属』、『シャドウリッパー』と、ロボの機能不全を広げようとグラビティを繰り返した。
 激しくなる一方のピストン運動にも感化され、マワシに広げたのはシミ。手入れしてない脇からも汗が滲む。
「ああん、ヒッ、ヒッ、ひっぎい!」
 真理は達し、その勢いで、掴んだロボ頭部を引っこ抜いた。
 配線がバチバチとスパークするのに、動きは止まらない。かげりはその、頭のない上半身によじ登ると、湿ったマワシを真理の口元に寄せる。
「キミ、しっかりするんだ!」
 浴びせた叫び声に、わずかに返事があるものの。
「クッ! 私たちもここまでか。せめて……」
 首の切断面のメカが、マワシを外している。生物でいう食道にあたるパイプが、尻に挿入されていく。
「ふぬぅッ!」
 渾身の一本を、喰らわせてやった。太く途切れずに、トラウマ級の反撃ではあった。

●運動場
 教室に到着した時には、窓を破って飛び降りるところだった。
 ダモクレスを追って制服姿のふたり、黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)と、ピヨリ・コットンハート(ぴょこぴょん・e28330)も窓枠を越えると、ナイター設備に煌々と照らされた運動場に着地した。
 逃げたと思った相手は、中央でくるりと向きを変え、一転して襲いかかってくる。
 まるで、解析はもう済んだ、とばかりに。
 教室に倒れていた真理、かげりに戦闘はもう無理だ。自分たちが、ここで撃破せねば。
 ロボは、走り幅跳びの要領で腰をつきだしてきた。紫織の前に、ボクスドラゴンの箱が割り込む。
 突起に箱はバラバラにされ、中身のナハトが目を回しながら地面に落っこちた。
 弾き返されたダモクレスは後方宙返りをうち、難なくまた距離をとる。
「服の構造上の弱点を的確に突いて脱がせる……。演算能力の高いコンピューターならでは、といったところかしら」
 紫織の口調は冷静だが、すぐさまナハトのそばに寄って、抱き寄せる。
 ピヨリも竜の顔を覗き込み、お礼を言った。
「ナハトさん、紫織さん。矢面に立ってくれてありがとうございます」
 頭にのせていた、ひよこのファミリアたちを手元に降ろす。
「私たちは攻撃に集中しましょう。パソコンさんは、裸を見ると作業が捗るとか、そういう感じみたいですが、計算型の敵にも、それなりの弱みがあるはず」
 ピーピーと鳴くピヨコに言い聞かせると、『ぴよこボム』として投擲をはじめた。
 命中とともに、爆発が起こる。ピヨコたちは、泣きながらも頭に帰ってくる。
 煙のなかで、ロボはよろめいたようだが、走り出すシルエットが見えた。
「大地の精霊よ、彼の者を束縛せよ」
 紫織は詠唱を続ける。運動場の地面から、砂の蔓が次々と生い茂る。一部はダモクレスに巻き付くものの、その助走を妨げるには至らない。
 蔓を突破した根は、その先に紫織の服を引っかけて、すれ違った。
 全部、脱げる。
 紫織はそれでも冷静に振り返り、敵を見据える。
「裸にはされましたけど、これでどうやって、みなさんを倒したのかしら……あら?」
 ロボの挙動がおかしい。頭と右手がないとはいえ、足取りがアンバランスだ。せっかく奪った制服も、取り落とした。
 左手に抱えた本体ノートから、黒く染み出しているものがある。
 部室でノーヴェが植え付けたスライム。その毒が、コンピューターにウイルスのような感染を引き起こしていたのだ。
「あなたの急所……! 弱点はそこです」
 ピヨリの蹴りは、まさに電光石火だった。
 樹脂製ケースの感染部を貫いて、液晶ディスプレイから、靴先が飛び出す。
 機械の左手首がついたまま、電子回路をばら撒き、ノートパソコンは土埃に沈んだ。残されたロボット体は、崩れ去る。
 ダモクレスの撃破は叶った。
 裸身で校庭にたたずむ紫織のために、ひよこたちが毛布を引きずってきてくれた。
「ありがとう。みなさんにも渡してあげて」
「風邪をひいてなければいいのですが。……やっかいな敵でした」
 教室へ、中庭へ。そして部室棟へとケルベロスは合流する。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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