冬枯れの坂

作者:崎田航輝

 遥かな高さに生っていた花が、はらはらとほどけていく。
 真紅の花弁が優しい風に乗って降ってくると、仰ぐ子供達はそれを掴もうとするかのように手を伸ばしていた。
 楽しげな声が響くそこは、小学校の登校路。
 長く伸びる坂に沿って、高い位置に山茶花が咲いていて──その花が落ちる頃には、花弁が舞う美しい景色が見られる。
 集団登校する子供達は、一年ぶりに、或いは初めて見る光景に目を輝かせて。鮮やかな花の雨の中を、足取りも軽く歩いていた。
 けれどそこに、突如大きな声が響く。
「……逃げろ!」
 声を上げたのは、同行する保護者の一人だった。
 切迫した声に、子供達が驚き、他の大人達も目を向けると──坂の上から、闊歩してくる巨躯の影が見えていた。
 鋭い剣を握りしめ、獰猛な表情に愉悦の笑みを含む罪人、エインヘリアル。
 遅れて声に反応し、他の大人達も声を上げて子供達を逃がそうとし始める。けれど人ならざる存在に対して全てが遅い。
「餌だ餌だ。狩りの始まりだぜ?」
 先頭に居た大人の一人へ、その罪人は嗤いながら接近。剣を突き刺して血に沈めた。
 恐怖と混乱で、子供達の泣き声と悲鳴が劈く。
 虐殺の始まり。絶望の光景。
 大人達も体を震わせ、顔を蒼白にしていた。それでも彼らは勇気を振り絞るよう、子供達の盾となって立ちはだかるが──。
「あぁ? 俺の行く手を阻もうってか? 笑わせんなよ」
 その罪人は、嘲るように唾を吐き、剣を振るった。
「テメェらが盾になんてなれるかよ! 弱ぇ奴が何やっても無駄だ!」
 無力を恨めよ、と。罪人は大人達をものの数秒で切り捨てると、悠々と子供達に追いついて、剣を振り上げた。

「集まって頂いて、ありがとうございます」
 静かな風の吹くヘリポート。
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、ケルベロス達へと説明を始めていた。
「本日は、エインヘリアルについての事件となります」
 出現するのはアスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人ということだろう。
「放っておけば、人々が危機に晒されます」
 だからこそ確実な撃破を、と言った。
「現場は市街にある、小学校の登校路です」
 長い坂がのびている場所で、景色の美しい場所として近隣では有名なようだ。
「敵はその坂の上方向から現れるようです。人を見つけ次第、無差別に攻撃するでしょう」
 こちらが到着する頃には、既に敵も坂に入って人々を発見している状態だろう。
 その段階では被害者は出ていないが、時間的には紙一重と言える。
「皆さんは坂の中腹に降り立った後、急ぎ人々とエインヘリアルの間に割り込み、戦闘に入ってください」
 敵を抑えつつ、人々に避難を呼びかけておくと良いと言った。
「敵は獰猛。力の弱い者を蹂躙して喜びを得る……そんな性格を持っているようです」
 殺戮を楽しみすらする相手だ。だからこそ、そんな敵の好きにはさせられないと言う。
「子供達も、子供を護ろうとする大人も。死ぬべきではない方達です」
 そんな人々を、敵の手にかけさせることは避けねばなりませんと、イマジネイターは力強い声で言った。
「ですから──行きましょう。皆さんのお力が、頼りです」


参加者
伏見・万(万獣の檻・e02075)
戯・久遠(紫唐揚羽師団の胡散臭い白衣・e02253)
奏真・一十(無風徒行・e03433)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
天原・俊輝(偽りの銀・e28879)
ラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)
ローゼス・シャンパーニュ(セントールの鎧装騎兵・e85434)

■リプレイ

●救う者達
 散り始めた美しい紅を、見上げる者はいなかった。
 視線の先、坂にいる子供と大人の目は前方に奪われている。絶望の権化──剣を振り上げる巨躯の姿に。
「見通しの良い路であるのが幸いでしたね」
 一秒の猶予もないその光景を見据えながら、それでも坂へ入ったローゼス・シャンパーニュ(セントールの鎧装騎兵・e85434)は焦っていなかった。
 何故ならこの程度の距離、有って無いも同じだから。
「それでは皆様に私の脚をお見せしましょう」
 瞬間、蹄を鳴らし疾駆。
 先陣を切って人々の間を縫うと罪人──エインヘリアルの眼前へ迫っていく。
 勇壮な鎧装騎兵人馬の姿から、流れる長髪が“赤”の通り名の由来。鮮やかな風を吹かすように、ローゼスは『Aimatinos thyella』──槍での強烈な一手を叩き込んでいた。
「……っ!」
 罪人は急襲に驚愕し、後ろへたたらを踏む。
 この一瞬に横を向くローゼスは、震える脚で立つ大人達の姿を見た。
「その覚悟に敬意を、貴方のお陰で私が居るのです。誇りを胸にお下がりなさい」
「……!」
 彼らは初めてはっとして、状況に変化が訪れたと気づく。
 罪人も踏み留まり、とっさに剣を握り直そうとした、が。
 轟、とそこへ風が唸る。
 次には巨躯の足元に爆裂する衝撃の塊が訪れた。小柳・玲央(剣扇・e26293)が狙いを定めて刃を振り抜いていたのだ。
 地を蹴った玲央は、燦めく白の髪を棚引かせ──自身こそが壁とならんと罪人の前へ立ちはだかる。
 同時に、背へ声をかけるのも忘れずに。
「そこの勇気あるお父さんお母さん方、子供達を連れて避難を!」
「ああ──待たせたな! もはや心配は無用だ!」
 徐々に人々の間に希望が宿る、それを確固なものとするように奏真・一十(無風徒行・e03433)も朗々と声を響かせていた。
 洗練された見目で人々の心を鼓舞しながらも、巨躯が攻撃を狙っていると見れば──冥く燿く銀の流体を放ちその腕を弾いてみせる。
「脚は逃げるために使うがよろしい。これの相手は僕らがやる。──行け。このおぞましい声も聴こえぬ処まで!」
 一十のその言葉に、大人達は急ぎ子供達を逃し始めていた。
 罪人は、己が進行を邪魔した面々をねめつける。
「俺を阻むつもりか?」
 そうして嘲るように剣で排除にかかろうとした、けれど響くのは硬質な金属音。
 素早く滑り込んだ天原・俊輝(偽りの銀・e28879)が、細身の槌を横に構えて刃を受けきっていた。
「貴方の行く手は阻まれるのではなく」
 と、小雨のような静やかで、そして怜悧な声音を聞かせると腕に力を込めて。
「此処で終わるのですよ」
 瞬間、娘たるビハインド──美雨に花吹雪を生ませて巨躯の視界を塞ぐと、一撃。巨体へ真っ直ぐの拳を喰らわせた。
 がっ、と零し後退する罪人へ、ローゼスは槍を突きつける。
「兇徒よ、この時より此処は戦場なり! 卑しくも未だ戦士と名乗るならば我が槍を受けて立て!!」

 人々が敵から離れ始める中、ラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)は壁となる位置へ立ちながら声を響かせていた。
「守るから、振り向かずに走って」
 ざわめきの中でも届く声音に、混乱していた者も我に返って坂を下りてゆく。
 それでも平静を欠く者はいたが、戯・久遠(紫唐揚羽師団の胡散臭い白衣・e02253)は焦らずに隣人力を発揮し、一人一人に声をかけていた。
「敵は引き付けるから急いで走れ。動けない奴も任せろ、纏めて面倒見るぜ」
 言いながら、転んだ子供を見つければ怪力で数人を抱え上げて。軽々と傾斜を走り、逃げゆく大人達に託してゆく。
「さて、敵は──」
「問題ねェ、きっちり塞いでるぜ」
 上方から声を飛ばすのは伏見・万(万獣の檻・e02075)。
 敵と味方前衛の位置を具に見取り、下方へ被害が及ばぬよう、罪人の進行ルートを常に塞いでいた。
 見た目で子供に怖がられる事も多い万にとっては、フォローを仲間に任せられたことが何よりという気分でもある。
「避難は問題なさそうだな」
「ええ、あとは万全を期します」
 周囲を確認しながら坂を登ってくるのは羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)。手間取る者に手を貸して、退避を助力していた。
 それが滞りないとみれば、意識を集中して。濃密な殺界で辺りを包むことで人の逆流を完全に遮断していく。
 程なく、場に静けさが訪れた。
 久遠は敵を仰ぎながら、軽く短い柔軟をする。もし自分達の到着が一瞬遅ければと考えれば。
「相変わらず胸糞悪い連中だぜ」
 それから唐揚げを頬張って。
「ま、いつもの験担ぎってな。それじゃ──行くか」
 躰に金色の闘気を纏い、一息に坂を駆け上がっていく。

「いいぜ、やってやる」
 罪人は誘いの言葉に対し剣を振り翳していた。邪魔がいるなら力づくで退ければいいというように。
 だが、対する玲央は思い通りにさせるつもりはない。
「通さないよ。ずっと、ね」
 剣を受けるといなすように滑らせて。リズムに乗るように流麗に攻撃を逸らしてみせた。
 それを繰り返す頃には包囲も完成。罪人はそこに至ってようやく、人々が殆ど逃げ終わっている事に気づいている。
「……ちっ、いつの間に」
「まだ逃げたやつのことを気にしてるのか?」
 その上で万は、彼方へ視線をやることを片時も許さずに。呆れをたっぷり含めてため息と声を零してみせていた。
「俺ァ、弱い者虐めに説教くれてやるほど出来ちゃいねェが。……ガキ追い回して大はしゃぎたァ、小せェ奴だな」
「……何だと」
 罪人は声に忿怒を含める。
 万はそれを歓迎するように、星剣から護りの加護を広げながら眼光を注いだ。
「違うってんなら俺らを倒してみろよ」
「……言われなくても、そうしてやる」
 腕を振り上げ、罪人は万を切り伏せようとする、が。
 その手が突如影に絡め取られ、止まった。
 それは紺が顕した『まつろう怪談』──罪人自身の奥底に潜む恐怖の具現。
「自身が弱き者となることを、恐れているのですか」
 言葉に罪人が僅かに惑う。
 その一瞬に一十が粒子を輝かせて仲間の意識を澄み渡らせれば──久遠も眩い雷壁を展開して戦線を整えていた。
「守りは固めておくぜ。思う存分やってきな」
「うん」
 応えたのは喰霊刀を握り、喰らった魂を呼び起こすラグエル。
 CoDe:【Venator】──顕現した氷の矢が違わずに飛翔して。巨体の腹部を穿ち血潮を散らせていく。

●剣戟
 ふらついた罪人は、遅れて此方の正体を把握したようだった。
「……そうか、テメェら番犬か」
 弱ぇ奴らを狩りに来たのにとんだ邪魔だぜ、と。苦渋を交えながらも、溢れる言葉はあくまで自分本位な毒づき。
「狩り、ね……」
 だからラグエルは抑えた声音で呟く。
「……こういう『弱いものイジメ』が大好きな輩には覚えがあるよ」
 想起するのは、昔弟と生き別れた時の事だった。
 自分は大人などではなく、弟も小学生よりはもっと幼かった。けれど理不尽な暴力とそれを守れない無力さを感じたことは、きっと同じ。
 思い出すだけで腸が煮えくりかえる。だから今もずっと苛立ちを覚えていた。
「そんなことをして、自身を省みすらしないなら、叩き潰す」
「……ええ」
 紺も拳を小さく握っている。
「未来ある子供達を狙った行いも、それを守ろうとした者たちの思いを踏みにじる振る舞いも、何もかもが許し難いです」
 だから手には無骨な刃を握り、攻撃の姿勢を取って。
 ここで確実に倒すのだから。
「──無力を恨めというその言葉、そっくりそのままお返しいたします」
「ああ。弱いから狩られるというのなら、お前も狩られてろ」
 ラグエルは黒き靄が一瞬、空を覆う程にまで狂気を発散させる。
 過去の後悔にサヨナラを。
 そして前へ進むために。
 深い衝動を前面に押し出す事も厭わず、氷の嵐で巨躯の膚を暴力的に切り刻んでいく。
 呻く罪人は反撃を狙う、が──風も止まぬ内から万が眼前に迫っていた。
「遅ェよ」
 喧嘩に作法は無いのだと、跳んだ勢いで敵の目を蹴りつけ視界を阻害する。巨体が傾いだところへ、改めて体を翻し旋風の如き蹴撃を見舞っていた。
「どんどんやれ。隙を与えんなよ」
「ええ」
 応えるローゼスもまた、油断も抜かりもなく。
 フルアーマーの体で大きく速度をつけると、重量と膂力をそのまま打力に変えて蹴りを打ち込んでいく。
 重い衝撃に巨体が吹っ飛ぶと、俊輝が追いすがるよう疾駆。
 銀粒子を花風に踊らせ、仲間の視界を澄明にしながら──美雨が金縛りで敵を止めた直後に跳躍。焔を抱いた蹴りで脳天を打ち据えた。
「……皆さん、警戒を」
 罪人が後退しつつも剣を下段に構えると、俊輝は素早く声を伝える。
 直後には剣圧が襲ってきたが──護りの体勢に入った盾役が既に前面に移動。暴風の如き衝撃を防いでいた。
 受けた傷は小さくない、だがすぐ後には久遠が魔力を発光させている。
「なかなか厄介だが、対処出来ねえ程じゃねえな」
 自身を覆う闘気の光量までもを魔力に加え、杖から生成するのは治癒の稲妻。
 滝が逆流するように、前衛の皆の体を地面から通り抜けた雷光は、防護を一層厚くしながら傷も苦痛も灼き払っていった。
「これでもう少しってとこだな」
「では、継がせてもらおう。サキミ」
 と、一十は傍らの箱竜へ目を向ける。
 ふわりと翔ぶサキミは、鳴き声も視線も返さない──けれどそのそっけなさも信頼の裏返し。意を汲んで水面の如き光を燦めかせ、治癒の魔力で一十を癒やしきった。
 一十自身は既に植物を操り、麗しき蔓を伸ばしている。
 この戦いは自分にとっては仕事始め。
「ならば景気良くやろう」
 無論、番犬の仕事は少ないに越したことはないと思っている。だからこそ眼前の敵には容赦なく──鮮やかに花を咲かす翠で膚を喰らう。
 そこへ奔りゆく玲央の姿を、紺は見つめていた。
 無辜の命を弄ぶ敵。こんな相手には、彼女が無茶をしてしまわないかと心配になるから。
(「それでも」)
 自分の事を気にして彼女の戦いに支障が出ることを、紺は望まない。だから敢えて何も言わずに見守った。
 先を行く玲央は、一瞬だけそんな紺へ振り返る。
 玲央自身、実際に敵に思うところはあった。
 血の繋がりはなくとも兄姉も弟妹も居る。だから年若い子供達が狙われることに怒りを覚えるし、彼らを守ろうとする大人達の持つ愛も尊いと思う。
 そしてそれを踏みつける咎人の所業は許せない、と。
「……」
 それでも、玲央は焦らない。この戦意も蛮勇ではない。
 後方を任せられると信じている、そんな親友だって傍にいるのだから。
 瞬間、『炎祭・彩音煙舞』──蒼の獄炎を無数生み出し、眩い火花とリズミカルな音色を弾けさせた。それに罪人が聴覚と視覚を惹きつけられた瞬間。
「任せるよ」
 玲央は翻り位置を譲る。
 紺は頷いて、信頼に応えるよう前進。刃を天から地へと振り下ろし、罪人の胸部を深々と斬り捌いた。

●花風
 紅の花弁に濁った血潮が零れ落ちる。
 罪人は立つのも苦心するように、よろけながら血を拭っていた。
「……畜生、俺がこんな奴らに……」
 信じられぬというように。そして敗北を拒もうと再び躍りかかってくる。
 だが相対するローゼスに隙は無い。
 凛々しく勇壮に、己が勲を得る為に。
「穢れた心を暴力に顕す狂戦士に、決して譲りはしない」
 声音を具現するよう、槍の穂先で巨体を抉っていった。
 下がる罪人へ、一瞬で踏み寄るのが一十。透徹な瞳で敵の動きを見通すように──躱す猶予も与えずに、冷気を宿した打撃で足元を固めていく。
「次を、頼む」
「ああ」
 待たせたな、と。攻勢に入るのは久遠。体内で高めた陽の気を拳に凝集させ、陽炎を棚引かせていた。
「さあて、お仕置きの時間だ」
 その声音には、いつもの飄々とした色はない。
 脳裏に過ぎらせるのは過日──幼少期にダモクレスに拐われた経験。
 思い出せば、罪なき子供を手に掛けようとする敵へ容赦を与えるはずもないから。繰り出す『万象流転』で陰陽の均衡を崩し巨体を内から破壊する。
 血を吐きながらも、罪人は刃を縦横に振るった。が、受け止めた玲央が獄炎纏う剣舞を踊って体力を逆に吸い取ってゆく。
「奪い返された気分はどうだい?」
「……っ」
 罪人は苦痛に最早言葉も紡げない。
 その隙に紺が影を渦巻かせ、魔弾にして巨体を貫くと──俊輝が『翡雨』。山茶花をつゆ濡らす恵みの雨で玲央を癒やした。
 憂いが消えれば、万が幻影を喚び出している。
 それは己を構成する獣達。『百の獣牙』──餓えた牙が罪人へ飛びかかり、全身を喰らうように刻んでいった。
「まァ要するにアレだ。……テメェの無力を恨むんだな」
 万の言い捨てた言葉と共に、罪人は血煙の中に斃れゆく。
 その姿へ、ラグエルは鋭利な鎌を振り上げていた。
「これで最期だ」
 欠片の迷いもなく、振るわれる刃は罪人を両断。命を刈り取り魂を消滅させていった。

 敵のいなくなった坂には、芳しい花風が吹く。
 はらりと舞う紅花の中で、俊輝は武器を収めていた。
「勝利、出来ましたね」
「皆様が力を合わせた、その結果ですね」
 ローゼスも剣を下げて声音を和らげている。
 そんな皆の姿を見つつ、久遠は軽く息をついていた。そうして周囲に異常が無いことも確認すると──。
「やれやれ、しぶとかったぜ。それじゃ、怪我の具合を見せてみな」
 と、それぞれに残った傷の状態を見て、必要があればヒールをかけていく。
 それも済めば、皆で一帯を修復。逃げていた人々へと無事を伝えた。
 程なく子供達の賑やかな声が帰ってきて、大人達の感謝と喜びの声が明るく響き渡る。そんな景色を、万はスキットルを傾けつつ見ていた。
「ま、良かったな」
「ええ」
 紺は頷きながら──隣の玲央を見やる。
 心配していた、と言おうとしたけれど……いざとなると照れくさく、迷って口を開いた。
「傷などは……」
「ん、大丈夫」
 ありがとう、と応える玲央は、人々を見ていた。
「色んな感情があって、色んな愛の形があるよね」
 言いながら、声音には紺への特別な友愛も込めて。
 それから花を仰ぐ。
「こんなに、この星のあるがままは愛しいものなのに。剣を振るう彼らはどうして、傷つける事ばかり望んでしまうんだろうな」
 敵からはきっと、満足のいく答えは得られまい。それでも思わないでは居られなかった。
 ただ、今この時守るべきものを守れたのは事実。
 だからラグエルも人々を見守っていた。
 未だ狂気が収まらず、近づけば傷つけてしまうかも知れない。だから遠巻きだけれど。
「よかった……」
 声音にはただ安堵だけを滲ませていた。
 人々が学校へと歩み始めると、一十も散歩をするように同道する。
「綺麗だな──」
 美しい景色は大好きだし、それを愉しむ人の様子も同じだけ好き。だから笑顔と風に踊る紅色を、柔い表情で見つめていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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