鳥が餅つきをしているという聞き捨てならない状況

作者:星垣えん

●餅をつく1日
 ぺったん、ぺったん。
 真冬の民家の中庭に、小気味よい音が響いていた。
「日本の冬といえば、餅!」
「餅!」
 中庭の真ん中では、鳥さんと信者が息の合った餅つきを展開している。杵を振る鳥さんに合わせて、信者が絶妙のタイミングで臼のもち米を返す。
「そーれ!!」
「あいよー!」
 鳥さんたちの隣でも、何組かの信者たちが餅つきに励んでいる。熱々のもち米と格闘する彼らは冬だというのに半裸で汗を流している。
 それだけ、餅をついていたのだ。
「こんなもんでいいだろう」
「ですねー。やー今回も美味そうにつけましたね」
 いい具合に餅がつけたところで鳥さんが杵を置いて縁側に座る。その間に信者たちは餅を取り上げて、中庭の一角に設置していた長机で調理を始める。
 醤油や海苔、餡子やきな粉、砂糖等々……。
 それらで味付けした餅が信者の手で運ばれてくると、鳥さんは「うむ」と言って掴み、豪快に嘴の中に放りこんだ。
「美味い! さすがつきたての餅!」
「つきたていいっすよねー」
「市販の切り餅とかじゃ、この美味さは味わえない……」
 縁側に並んで座り、むぐむぐと餅を食う信者たち。
 つきたての餅の破壊的な美味さに、男たちの顔はひとつ残らず緩みきっていた。
 餅を飲みこんだ鳥さんが立ち上がる。
「やはりちゃんと臼と杵でついた餅は最高だな。電力で動く機械ではなく、人力で作ったからこそのぬくもりと味わいがある!」
「ですねー」
「餅つき楽しいですもんね」
「そう、それもある!!」
 いいこと言った、と信者を指差す鳥さん。
「餅つき機やホームベーカリーに頼るなど愚の骨頂! 餅は臼と杵を使い、人の手で生みだされるべきものなのだ! なんかこう伝統文化的な点でも!!」
 庭の真ん中へ歩いていき、鳥さんは臼にかけておいた杵を取る。
「さあ、つこう! 我々の手で! 餅を!」
「おっ、またつきますか?」
「よっしゃー本日13回目の餅つきだー!」
 うおお、と部活動の生徒みてーに縁側から飛び出してゆく信者たち。
 もう腕はパンッパンだろうに、彼らの顔は爽やかだった。

●餅食いに行こうぜ
「ビルシャナがお餅をついているのですか……」
「ついてるっす……」
 ヘリポートに着くと、彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)と黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が顔を突き合わせて何事かを話していた。
 実に真剣である。
 真剣な顔で、プラスチックのフードパックを箱詰めしている。
 あと胡麻とかチョコとかチーズとかも準備している。
 餅を食う気しかなかった。
「あ、皆さんどうもっす」
「寒い中の御足労、ありがとうございます」
 ぺこりと会釈するダンテと紫。猟犬たちも合わせてぺこりする。
 それから一同は出発準備の手伝いがてら、2人から事の仔細を聞いた。
 餅つきは臼と杵を使うに限る、と語るビルシャナが信者たちと餅つきをしていること。
 現場に着いた頃には餅がいっぱい余っているだろうこと。
 浸水させたもち米もたくさん残っているので餅つきもできるだろうこと。
 最初から最後まで餅の話しか聞けなかった。
 それでいいのか、信者の目を覚まさせなければいけないのではないか――という感じに猟犬たちが尋ねると、ダンテは用意しておいた電動の餅つき機を指差した。
「信者たちは朝から餅つきを続けてるんで、疲労が溜まっている状態っす。そこへ餅つき機がサクッと手軽に餅を作っちゃう様子を見せたら……どうなると思うっすか?」
「疲れきっていますもの、ころっと餅つき機に飛びついてしまうはずですわ」
 にっこりと淑やかな微笑みを浮かべる紫。
 餅つき機を回しときゃ、信者たちが勝手に正気に戻るみたいですね。
「携行できる電源も用意しといたんで使ってほしいっす。それで信者たちの目を覚まさせたらビルシャナを倒して終わりっすから、あとは自由にしてきて下さいっす!」
「つきたてのお餅があって、杵と臼ともち米まで用意されているなんて素晴らしいです。今日はお餅のお祭りですわね」
 期待に胸を躍らせつつ、資材を詰めた箱をヘリオンに運び入れるダンテと紫と猟犬たち。
 かくして、一同は餅をいただくために鳥さんの強襲に向かうのだった。


参加者
月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)
久遠・薫(恐怖のツッコミエルフ・e04925)
彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
エレアノール・ヴィオ(赤花を散らす・e36278)
朱桜院・梢子(葉桜・e56552)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ

●ちょっと店寄ってくる
 息を吐けば、眼前がぼわっと白く染まる。
 冷え込む1日である。こんな寒気の中で半裸餅つきなど自殺行為だ。すぐに信者たちに愚行をやめさせなくてはならない。
 ――が、そんなのはどこ吹く風。
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)とルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)は、のんびりと街路を歩いていた。
「お餅、おうちでもいっぱい食べたけど柔らかくて美味しいよね」
「ええ。気を抜くと食べすぎてしまいそうです……」
「出来立てのお餅はもっと柔らかいんだよね、楽しみだね、ルー」
「美味しいぜんざいをリリちゃんにご馳走しますわ!」
 ふふふ、と背景に花が咲きそうな仲良しトークを繰り広げるリリエッタ&ルーシィド。
 緊迫感とか、全然なかった。
 何なら近くに住む親戚の家に向かうぐらいの気楽さでした。
 餅への期待が滲み出てる2人の背中を見つつ、瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)は行く先に待つだろう鳥さんに幾分か思考を回す。
「つきたてのお餅があるのはいいことですが、今どき『苦労したほうが愛情が篭って美味しい』なんてまやかしですよね……」
「日本の伝統的な餅づくりだとは思いますけど、確かに凝り固まった考えとも言えるかもしれませんわね。特に半裸はいけないと思いますわ」
「技術は日進月歩ですからね。時代に即した方法があると教えてあげましょう」
 ため息交じりの右院にそう返したのは、彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)と久遠・薫(恐怖のツッコミエルフ・e04925)である。
「餅つきで疲れてしまっては、お餅を楽しめませんからね」
「そう! いいこと言ったわエレアノールさん! 餅つきでぜぇはぁ息を切らしていたら、せっかくのお餅が味わえないわよね!」
 3人の話に同調するエレアノール・ヴィオ(赤花を散らす・e36278)の横で、朱桜院・梢子(葉桜・e56552)が持ってきた七輪を抱え上げる。思いっきり額に汗を浮かべているが、葉介(ビハインド兼夫)がハンカチで拭ってくれたのでセーフ。
「お餅、楽しみね!」
「はい。何を食べようか今から悩んでしまいます……」
「鳥さんはチャチャッと黙らせて、皆でお餅を食べるのだー!」
 すでに餅を食らうイメトレを始めた梢子とエレアノールの後ろで、月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)が元気に拳を突き上げる。
 で、突き上げた先の青空を見た。
(「お土産持って帰るから、待っててなのだーっ」)
 食べるだけに飽き足らず、もうテイクアウトの算段を!?

●これが現代のやり方
「餅!」
『餅!』
「おいしくなぁれ!」
『おいしくなぁれ!」
 杵が餅を叩く音に、男たちの気合(?)が重なる。
 完全に男祭りと化した中庭を、右院と薫は物言わず眺めた。
「脱いでる……」
「これは目に毒ですね」
 随分と肌色だ、と半裸メンの姿に呆れる2人。
「見るからに大変そうです……」
「あんなに汗を流して……文明の利器ってものを教えてあげないといけないわね!」
 半裸男たちを見つめるエレアノールの横を通過して、梢子は男祭りのど真ん中に身を置いた。
「たしかにつきたてのお餅は美味しいわ!」
「むむ?」
「何だ。ていうか誰だ?」
 餅つきの手を止める男たち。
 すると梢子は大仰にため息をつく。
「でも、体力ないと餅つきはきついわ~……私の夫なんて病弱で、杵なんて持たせたら倒れてしまうもの……かよわい女には無理だし……」
「ええ、まったく梢子さんに同意です……」
 すすすっと歩いてきたのはエレアノール。
「わたくし、ドラゴニックハンマーと鉄塊剣より重たいものを持ったことがなくて……申し訳ないですがお手伝いはできません」
「何かすげえ嘘の匂いがするような……」
「絶対そのふたつ、重いやつだよね? 重量物だよね??」
「とても餅つきはできそうにないわよね。エレアノールさん……」
「はい……わたくしたちではとてもとても……」
 信者たちのツッコミの中、あくまでか弱い女で通す梢子とエレアノール。
 そしてちらちらと横へ視線を流した。
 気になった信者がその視線を追うと――。
「そこで皆様、これですわ」
 眩しいスマイルを浮かべた紫が、餅つき機を持って立っていた。
「これならスイッチ一つで自動で餅を作ってくれますわよ」
「これさえあれば汗ひとつかかずにつきたてのお餅が作れるわね!」
「まあ、これがあの噂の!」
 あからさまなリアクションを見せる梢子&エレアノール。
 鳥さんは、怒りに身を震わせた。
「電力に頼るなどと! それでは美味い餅は作れん!」
「ですよね、そうですよね!」
「本当にそうなのでしょうか?」
 腕組みしてふんぞり返る鳥たちに、紫は堂々と相対する。
「餅は食べてこそ、その意味があると思いますわ」
「何? つき方などどうでもいいと?」
「そうは言いません。餅をつくのは伝統的な感じがして、素敵だとは思います。けれど一番大事なのは皆で美味しく食べることですわ」
「紫様の仰るとおりです!」
 鳥と紫の問答に割って入ってきたのは、ルーシィドだ。
「餅つきの楽しみを広めるのは、とても素晴らしいと思いますわ。けれど、美味しく食べてこそのお餅! ただ突くだけでは幸せにはなれません!」
「幸せに……?」
「言われるとそんな気も……」
「馬鹿者! 何を小娘たちに惑わされて――」
「鳥さん鳥さん。あーんっ」
「ふぬんぐっ!?」
 迷いを見せた信者たちを説教すべく開いた鳥の嘴に、灯音が手近な臼からちぎった餅をぶちこむ。鳥はばたばたと四肢を暴れさせるが……。
「むぐーっ!?」
「遠慮は無用なのだ。ツキタテあっつあつのお餅、召し上がるのだ!」
 無力だった。
 相棒が隣にいない寂しさを紛らそうとする灯音さんの前では、鳥さんは喉に餅を詰まらせるしかなかった。デウスエクスじゃなかったら死んでた。
 一方、その間に。
「……すごいです、お米が! お米が回っています!」
「これで、ちょっと待つのかな?」
 ぐるぐる回り出すもち米を追ってぐるぐる目を動かすエレアノールの隣で、リリエッタが説明書をぺらぺらめくって勘で操作をする。
「まいこん? 搭載で全自動で出来上がるから、料理の出来ないリリでも簡単に作れちゃうよ。ここにヨモギを入れたらヨモギ餅も作れちゃうんだって」
「ほうほう」
「こんな手間いらずで餅が……」
「ではわたくしは隅のほうでぜんざいを作ってきますわ、リリちゃん!」
 ぐいんぐいんと稼働する餅つき機を囲み、リリエッタの話に耳を傾ける信者。その後ろをルーシィドはキャリーケース(鍋やらコンロやら)を引いて通過する。
 餅つき機が動きを止めると、リリエッタは餅を箸でつんつんしてみた。
「つきたてのお餅の完成だよ」
「こ、こんなにも簡単に……!」
「現代のテクノロジーやべぇぜ!」
 苦もなくできあがった餅を見て吃驚する信者たち。
 が、そのうち1人が言った。
「しかし本当に労力いらずで……ちょっと味気なくね?」
 自分の力でついたほうが、と言い出す信者。
 だがそれをビシッと黙らせたのが薫だ。
「餅つき悪いとは言いませんよ? ただ限度がありますよね?」
 男たちの肌色剥き出しの上半身を見る薫。
 その眼差しは、死ぬほど冷たかった。
「は、はい……」
「すいません……」
 圧に負け、謝罪してしまう男たち。
「楽しいからって夢中になってるとそのうち身体壊れますよ? そちらのビルシャナの方は、もう残念ながら手遅れな状態ですが……」
「気を付けます……」
「申し訳ございません……」
「というかどこから人が来るか判らない状態で半裸ってどうなんです? とりあえず、服を着て、お茶など飲みつつできたお餅を楽しみましょう?」
「はい……」
 ボッコボコに言いこめられた信者たちが粛々と服を着た。
 やったね! 半裸が解消されたよ!

●もう完全に食っとるだけやないか
 ずらりと並ぶ、豆大福とずんだ餅。
 それを見て信者たちは息を呑んだ。
「壮観だな……」
「餅つき機でついた餅……そう言われなきゃわかんねぇな」
 並んでいるのは餅つき機で作った餅である。
 まんまる柔らかな豆大福、ずんだ餅は鮮やかな緑が目にも美味しい。信者たちが羨望の眼差しを向ける傍らで、薫と梢子はむぐむぐ味わって熱い茶を啜った。
「日本の年明け、ですね」
「ずんだ餅も美味しいわねぇ……緑色の餡がとっても綺麗」
 縁側でまったりする和服の2人。
 食べている豆大福とずんだ餅はだいたい薫が手作りしたものだ。どちらも豆から調理してある逸品である。梢子さんも業務スーパーでずんだ餡買ってきたから頑張った。
「お汁粉もありますから、皆さんどうぞ」
「至れり尽くせりねぇ……あ、そうそう、私もみんなにお勧めの食べ方があるのよ!」
 薫の汁粉で幸せになっていた梢子が、思い出したようにバタバタと動き出す。
 持参した七輪に火を作り、味噌を塗った餅を乗せる。
 そして味噌がちょっぴり焦げたぐらいで取り上げて、梢子は餡子を乗せた。
「一回食べるとはまるのよこれが……うん、甘じょっぱくて美味しいわ!」
「お味噌とアンコって、なんだかすごいね」
「意外な組み合わせですわね。でも確かに美味しい……」
 勧められるままはむはむと味噌餡子餅を頬張ったリリエッタとルーシィドが、予想だにせぬ味わいに少し目を丸くする。
 中庭は、すっかり餅パーティーになっていた。
 餅つき機の餅も美味しい。それを信者たちに実証するために――という名目の下、猟犬たちは盛大に餅を食いまくっているのだった。
 その一環として、右院も腕によりをかける。
「さあ、苺大福ができましたよ」
「わーっ! 綺麗な苺大福なのだーっ」
「これは……映えというものですね!」
 右院が振る舞った苺大福に、灯音とエレアノールが目を輝かせる。もっちり大福を齧れば伸びる餅の中から真っ赤な苺、甘味と酸味がアクセントになって2人ともぺろりと平らげてしまった。
「お茶でもいいですが、こういった箸休めはありがたいですね……」
「右院さん、月ちゃんはもう1個食べたいのだっ」
「ええ、どうぞ。苺大福はまだまだたくさんありますよ」
 にっこりと灯音に苺大福を提供する右院。彼のそばに置かれた大皿の上には白い大福が山を形成している。しかもそれが3皿。
 つぶあん、こしあん、白あん。
 無駄にバリエーションが多かった。
「苺大福って素敵ですよね……持ち運ぶのもお手軽ですし……あ、でも生のフルーツですから今日中には食べてくださいね」
 3種の苺大福をパッキングして、仲間たちに配る右院。
 苺大福って自分と(色合い的に)似ている――という謎の親近感により、右院さんはすっかり明王じみた人になっていました。
 丁寧に苺大福を食べ終えると、今度は紫が餅を披露する。
「私は、きな粉餅を用意しましたわ。砂糖が混ぜられたきな粉の仄かに甘い味わいが、餅にピッタリと合わさって至高な味わいになると思いますわよ」
「きな粉! きな粉なのだー!」
 きな粉と聞いて跳ねるように踊り、頬張る灯音。喜ぶ彼女を見て頬を緩めながら、紫ももぐっときな粉餅を口に入れた。
 と、そこへ良い匂いが漂ってきた。溶けたバターの匂いだ。
 何だろう、と紫が縁側から家の中へ振り返ると、廊下の向こうからフライパンを持ったエレアノールが歩いてきた。
 フライパンの中には、たっぷりとバターの絡まった餅が!
「これはまた……どこか背徳的ですわね……」
「バター餅……挑戦したかったのですよね」
 ちょっと恐々としてしまう紫の前で、それを口に放るエレアノール。
 まろやかなバターの味わいと香り、魅惑のもっちり食感。
 暴力的な美味さに、エレアノールは陶然とした。
「わたくし、食べてはいけないものに手を出してしまったかもしれません……」
「エレアノール様、なんて幸せな表情を……」
「これは私たちも食べるしかないわ!」
 両手を口を覆っちゃう紫の横を風のように過ぎて、梢子がフライパンからバター餅をピックアップ。ひとつ食うとやはりエレアノールと同じ状態になったので、もちろん紫もすぐ食べた。
 餅パーティーは平和だった。
 と、ここで気になった人もいるだろう。果たして鳥はどうしたのかと。
 安心してほしい。鳥もちゃんとこの場にいる。
「鳥さん、月ちゃんがきな粉餅と苺大福を持ってきてあげたのだ」
「むぐーっ!」
「ほらほら、あーんなのだ」
「もごあっ!?」
「ところで餅つき機は文明の力作だけど、月ちゃんは電子レンジでチーンしたお餅も好きなのだ」
「もごごごっ!?」
 縁側の下に押しこめられて、灯音にまだ餅を詰めこまれていた。
 なお、信者たちはほどなくして正気に戻ったそうです。

●まだ餅食ってる
「――」
「これは……隅っこに置いておきますか」
 口に小さな兎(薫のファミリアロッド『大福さん』)を収めた鳥さんの亡骸を、右院が中庭の隅にずるずると引きずってゆく。
 鳥さんはサクッと死んでいた。
 遠ざかる大福さんを見送りながら、薫は磯部餅を食べる。
「やっぱり磯部餅も美味しいですね。お手軽ですし」
「お汁粉もホッとする味わいですわ」
「ほら、小さく切ったからこれで喉に詰まらないわよ。はい口を開けて」
 ほうっ、と汁粉で温まった体から白い息を吐く紫。その少し横では梢子が葉介に磯部餅を食べさせてやっていた。一見して完全に介護だったが、もちろん仲間たちはそんな無粋は口にしまいと固くスルーする。
 一方、縁側から離れた庭の真ん中では、ぺたんぺたんと軽快な音が鳴っていた。
「これ、力いっぱい叩かなくてもいいのかな? ルー?」
「リリちゃんの思うようでいいと思いますわ。タイミングはわたくしで合わせますので、自由についてください!」
 臼と杵を使い、せっせと餅つきをするのはリリエッタとルーシィド。
 初めはたどたどしい動きだったが、そこはケルベロス。続けるうちに要領もわかってきて、数分後には流れるようにスムーズな餅つきを展開していた。
 そうしてつきたての餅を使って、ルーシィドは手作りのぜんざいを振る舞った。
「どうぞリリちゃん。熱いので気をつけてくださいね」
「ありがとう。んっ、つきたてはやわらかくて飲み込めそうだね……もしかしてお餅も飲み物だったりするのかな?」
「飲んじゃだめですよ? リリちゃん」
 びよーん、と口と箸の間で餅を伸ばすリリエッタにくすくすと笑うルーシィド。
「ぜんざい……おしることはまた違いますね」
「皆様の分も用意していますので、よろしければ!」
 ふらふらとやってきたエレアノールに、湯気の立つ器を差し出すルーシィド。それから皆にもぜんざいを配って、宴は俄かに盛り上がりを取り戻す。
 ――そんな騒がしさを聞きつつ、灯音はせっせと餅をパック詰めしていた。
「お土産のお餅、確保なのだ♪」
 やりきった顔で何十個ものパックを荷物に詰める灯音。
 こうして、猟犬たちの餅づくしの1日は大満足で終わるのだった。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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