今年は買いました?

作者:星垣えん

●福がねえ
「許さん」
 民家の一室で、鳥さんが低い声を出した。
 窓から差しこむ夕陽が照らすその顔は、まるで虚無である。何の感情も見えない。
 しかし、福袋と書かれた袋を持つ手はわなわなと震えていた。
「福袋を買うときは多少なりとも期待するものだ。俺もそうだし、おまえたちも」
「そうですね……」
「得したいっす……! 高い物を安く手に入れたいっす!」
 鳥とともにテーブルを囲む男たち――信者が涙ぐみながら頷く。
 彼らの手にも空いた福袋。雑貨屋だったり服屋だったり、あるいはリサイクルショップだったりと様々だが、浮かない表情を見るに結果は想像に難くなかった。
「どうせ売れ残りが詰められている……そう思いつつも心のどこかで期待することはやめられない。何か良い物が入っている。そう信じるからこそ人は福袋を買うのだ。だが!!」
 小脇に抱えた福袋を卓上で逆さまにする鳥さん。
 すると、ごとごとっ、と無数のコップが落ちてきた。
 その数――20個。
「要らない物を詰めこみすぎなんだよォォォォーーーーーー!!!!」
「教祖ォォーー!!」
「コップ20個……使いきれるわけがねぇぜ!!」
 その場にいる者すべてが嗚咽した。
 ウキウキで福袋を買ったら中身がコップ20個だった残酷な事実に、慟哭した。
「おまえたちはどうだった!」
「俺はよくわからない異国風のキモい置物が20個……」
「僕はどぎついカラフルなベルトが10本……」
「福袋を買ったら紙袋が30枚入ってました」
「同志ッッ!!」
 信者たちの肩を抱く鳥さん。
 彼らを慰めるように揺すると、福袋に裏切られた男は吼えた。
「ゴミしか詰めこまない福袋など許してはいかん……今からこいつを売った店をぶっ潰しにいこうぜ!!」
「「「うおーーー!!」」」
 あーこれは一揆。一揆の予感がしますよー。

●鎮圧依頼だぜ
「ど、どっちがいいでしょうか……」
「何がだ」
 服選びするみてーにハンマーとガトリングガンを持ち出したケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)に、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)が冷たい視線を送る。
 どっちを選んでもロクなことにならない気が、したもんでね。
 ケイトが辛抱たまらずハンマーに頬ずりを始めたところで、王子は猟犬たちが見ていることに気づいて振り返った。
「来てくれて感謝する。実はビルシャナが信者を集めて何やらしようとしているようなのでな……おまえたちに止めてきてほしいのだ」
 また鳥が馬鹿やっているっぽい。
 王子が言うには、鳥さんは福袋に要らない物ばかり入っていることにキレたらしい。
 それで信者を集めて討ち入りに向かおうとするまでになったらしい。
「奴らの怒りは強い。だが信者はまだ完全に毒されてはいない。どうにか奴らの目を覚まさせて、ビルシャナを倒してきてくれ」
「やっぱりハンマーですかね? でもガトリングガンならまとめて一掃できますし……」
「おまえは私の話を聞いていたのか……?」
 ふたつの凶器の間でまだ迷ってるっぽいケイト。
 ガトリングガンとか信者も蜂の巣ですからね、明らかに話聞いてないですね。
「ともかく、信者たちはまだ話を聞ける状態だ。どうにか説得して正気に……そうだ、おまえたちは福袋を買ったか? それで良い物を引いていたら一発で解決する気がするのだが……」
 探るように猟犬たちを見る王子。
 確かに、福袋で良い思いをした実例があれば、信者たちも目を覚ますだろう。
「まあ、買っていなくても話をするだけで説得は十分に可能だ。まだ年が始まったばかりだというのに変なことをさせるわけにもいかん……対処を頼んだぞ、ケルベロスたちよ」
 猟犬たちを見渡して頷き、王子はヘリオンの操縦席に乗りこんだ。
 かくして、一同は新年早々に阿呆どもの鎮圧に向かうのだった。


参加者
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)
チロ・リンデンバウム(ゴマすりクソわんこ・e12915)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)
ケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)

■リプレイ

●敵が増えている
 一揆が起こる前に止めなくては。
 とゆーことで猟犬たちは寒空の下を歩いていた。
「まったく困った鳥さんなのだ」
「ああ、そうだな」
 段ボール箱を抱える月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)が首を振ると、四辻・樒(黒の背反・e03880)は同じく段ボール箱を持ちながら同意する。
「まあ、あまりにも露骨な店に関しては警告の一つはしたいところだがな」
「でも樒。竹槍GOだけは回避なのだ?」
「それはもちろんだ」
 じぃっ、と見てくる妻に頷く樒。『頼もしいのだー』と灯音が前を向くと、2人の後ろからルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)が顔を出した。
「福袋はいわばギャンブル! 遊ぶつもりで臨むものですよと教えてあげましょう!」
「ギャンブル。それは確かニ」
 控えめに握り拳を作るルーシィドに応じたのは、モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)だ。
 モヱは空を飛ぶ鴉を見上げた。
「好きなブランドの福袋を購入したら合うサイズがひとつも入っておらず、古着屋に持ち込んだ苦い思い出が御座いマス……」
「そ、それは……」
「災難だったな」
 ルーシィドが手で口を覆い、樒が抑揚のない声で慰める。
 そしてその後方で、カポカポと蹄音を鳴らすオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)もひっそり心を痛めていた。
(「モヱ、かわいそう……ビルシャナと、信者も……福袋なのに……」)
 普段そっけない顔に少し同情を滲ませるオルティア。
 それを感じ取ったのか、褐色猫耳メイド――小柳・玲央(剣扇・e26293)は「にゃん♪」と笑った。
「でも何も得られなかったわけじゃないですにゃ? それをお伝えしてあげればよいのですにゃ!」
 ピン、と猫耳を張る玲央。耳と尻尾のデバイスは無線で完全に操作可能、つまり猫耳メイドとして完璧なパフォーマンスを発揮できる。なお意味はない。
「確かに玲央さんの言うとおりですね。では彼らがゴミといって捨てる前に早く説得しないと!」
 先頭を歩いていたケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)が、しかとドラゴニックハンマーを手に取る。
 数m先に、もう鳥の家が見えていた。
 玄関の扉を見たケイトの目が、見開かれる。
「あーこれは堅牢な扉ですね! 急いでハンマーで突破しないと……っとと、そうじゃないですよね」
 パカラパカラと走りかけたケイト、寸前で思いとどまることに成功。振りかぶったハンマーを下ろして普通に扉を開ける。
 ――が、その先は信じられない光景だった。
「ヒャッハー!!! 新鮮な紙袋だぜぇー!!! イエヤッフゥー!!!」
『イエヤッフゥー!!!』
 チロ・リンデンバウム(ゴマすりクソわんこ・e12915)が、先回りしてめっちゃ信者たちを煽っていました。

●使えないこともない
 説明しそびれたから言っておこう。
 チロは20枚の紙袋という兜を被り、無数のコップを吊るした紐というベルトを腰に回している。ついでに木刀と竹槍の二刀流である。
 そう! 狂気の沙汰!
「ど、どうなさったのですか……?」
 おずおずと尋ねるルーシィド。
 対して不審者は、2枚の破れた袋を見せた。
「紙袋袋にコップ袋……新年早々、年収(お年玉)の全てを福袋ならぬクソ袋に費やしてしまったチロに未来はねぇ……」
 自嘲気味に笑い、足元の鞄を拾い上げるチロ。
「この犬袋なぞ『5万円前後のグッズが入っています』と書かれてたのに、なんでカバン入っとんねん……こんなん、煮ても焼いても喰えやしねぇ……」
「ちゃんと『bag』って書いてますけど……」
「は? bag袋? dog袋じゃなくて?」
 ルーシィドの指摘に一瞬黙りこむチロ。
 しげしげと袋を見つめる。
 で。
「……知るかぁー!!!!」
 怒りのままに! 破り捨てたァ!!
「15歳児に読める言語で書けやー!!!」
「そうだァー!」
「消費者ナメんじゃねぇー!」
 チロに呼応するようにボルテージを上げる信者たち。
 もはやチロと愉快な仲間たちである。後方でクエクエ言ってる鳥の存在感が薄い。
 このまま勢いづかせてはいけない。
 樒は持参した袋から、中身を取り出してみせた。
 その手にあるのは――カッティンググラスだ。
「奇遇だな。私もグラスの入った福袋を手に入れたが、こんな感じだったぞ」
「ど、同志ッ!」
 使えねえ福袋を買った者と捉えるや、途端に表情を和らげる信者たち。実はそれがン万するブツだと知らない彼らの眼差しは温かかった。
 そんな信者らに対して、樒は凛然と告げる。
「だが私は福袋を買ったことを後悔はしていない。売れ残りを掴まされたとしても、店にお布施したくらいに思えるだけの広い心を持ってほしいものだな」
「広い……心だと……!」
「ああ。笑う門には福来るって言うだろう?」
「樒の言うとおりなのだ!」
 眉をひそめる信者たちの前で、ぴたっと樒に体を寄せる灯音。
 その手には巾着袋がふたつ。
「栃の実亭の福袋を持ってきたのだ。樒、開けてみるのだ」
「そうしようか」
 これ見よがしに福袋を開封する2人。
 出てきたのはそれぞれ違う焼き菓子とジャム、紅茶葉とティーカップだった。
「開けるまでの少しのドキドキとワクワク。開けた後のちょっと得した感がプライスレスなのだ。ちなみに中身は全部、月ちゃんがセレクトした品だから間違いないのだ。袋も丈夫な布だから使えるのだ!」
「ありがとう灯。大事に使う」
 樒と福袋を見せ合って、笑いあうと、灯音は信者らへ向き直った。
「あと福袋にも色々あるのだ。普段から通ってるお店の福袋は買わないのだ? お店の人とはお話したのだ?」
「店の人間と……?」
 信者が訝しげに問うと、灯音はこくりと首を振る。
「月ちゃんなら好きなお店に通って、事前に福袋の情報を仕入れておくのだ。買う方も作る方も毎年、真剣勝負のドッキドキなのだ!」
「そ、そこまで……!」
 目から鱗、とばかりに地面に膝をつく信者たち。
 福袋とはかくも過酷な戦いだったのか――と衝撃を受けたっぽい。
 そんな彼らへ灯音と樒は歩み寄った。
 栃の実亭の福袋が詰められた、段ボール箱を持って。
「良かったらみんなも選んで開けてみるといいのだ」
「い、いいのか!?」
「もちろんなのだ!」
「ヤッター!」
「ヒャッハー! 新鮮な福袋だぜぇー!」
 我先にと段ボール箱に群がる信者たち。みな袋から物を出しては盛り上がり、チロに至っては略奪を始める始末だった。
 その様子を見守っていたオルティアは、胸をなでおろす。
「みんな、楽しそうで、よかった……」
「ええ、福袋はやはりこうでなくテハ」
 遠い目で天井を見つめるモヱ。
「ワタシも、ブームの後の大量に売れ残ったグッズ福袋(女性オタ向け)を買うと、なんともいえない気分になりマス」
「あ、私もハンマーとガトリングと眼鏡の福袋があったらたまらないですね」
「……」
 どうしようもねえ趣味を告白するモヱ。それに便乗してケイトとかいうクレイジーセントールもダダ漏れの欲望を見せる。オルティアは5歩ぐらい離れた。
 一方、信者のほうでもアクションが起きる。
「何を浮かれている貴様らァ!」
「はっ!?」
「チ、チロたちは何を……」
 鳥さんの怒号により、信者とチロが福袋フィーバーから冷めた。
「危なかった……」
「福袋に魅了されかけちまった……」
「何が入ってるかも知れねぇ福袋なぞ、根絶しなければ!」
 再び一揆の気運を高める信者たち。
 そこへ、玲央の声が聞こえた。
「中身のわからない代物を買うと決めた時点で文句を言っては駄目ですにゃ。皆様は浪漫を求めたのでありますにゃ? ならば、結果を誇りこそすれ、ゴミと蔑んでは駄目ですにゃ。皆様の心意気まで貶めていらっしゃいますにゃ!」
「ろ、浪漫とはいえ限度ってもんが……!」
 声に振り向いた信者たちが、固まる。
 玲央がティーカートを傍らに置き、にっこりとドリッパーを持っていたからである。
「なんかすごいメイドっぽい!」
「喉が渇きませんかにゃ? 珈琲もお茶請けも福袋の成果ですにゃ。ちょうどコップもたくさんあるのでコレに淹れますのにゃ♪」
「至れり尽くせりやないか!!」
 うおおお、とメイドさん登場に歓喜する男たち。玲央は結構慣れた所作で、着々とコップに珈琲を淹れてゆく。
 熱い一杯を飲み干すと、鳥さんは豪快に笑った。
「ふっ……まさかこんなコップが役立つ日が来るとはな!」
「喜んでもらえたようで何よりですにゃ」
 空いたコップにもう1杯、珈琲を淹れる玲央。
 こうして、鳥さんは大事な武器をさりげなく奪われたのだった。

●おかげで目が覚めました
 数分後。
 室内は玲央の珈琲のおかげで、なんかすっかり和気藹々となっていた。
「さ、焼き菓子もたくさんありますのにゃ。どうぞですにゃ」
「おっ、ありがとう」
「ちょうど小腹が空いてたんだよな」
「ところでさっきからケツが痛ぇんだけど、これどうにかしてくんない?」
「フゥーッ! ぶっ刺し甲斐のある尻だぜぇーー!」
 玲央が振る舞った菓子の詰め合わせを食べていた信者が、執拗に竹槍で尻を攻撃してきやがるチロとかいう生物を指して笑う。
 一揆衆の一番槍だったのも今は昔。早々に飽きたチロさんは一般人の尻を刺す遊びに熱中していたのだった。もちろん死ぬほど怒られた。
 一方、ただただ静かに珈琲を飲むオルティア。
 ほっと気分を落ち着かせた彼女は、コップを置くと信者たちに話しかけた。
「どうせ売れ残り、そう思いつつも心のどこかで期待して買う……私も、これが福袋の全て、だと思う」
「お、おう……」
「それだよ。それを裏切る行為が、俺たちは許せないんや」
 当初より些か静まったテンションで信者たちも答える。珈琲効果スゲェ。
 彼らの言葉にオルティアも頷いた。
 頷いてから、でも、と返した。
「福袋は詰まる所、何が入っているかなという、わくわく感。中身がどうでも、開ける前にしっかりとそれを、感じたのなら……その時点で福袋は、役割を果たしている。わくわくを……楽しめた、なら、損なんてしていない」
「そう、なんだろうか……?」
「ええ。オルティア様の仰るとおりですわ」
 話に心揺らがせた信者たちの横で、ルーシィドが破けた袋の切れ端を拾う。
「何が当たるか分からない福袋……それを買おうと思ったのは、自分の予想しない新しい世界への期待だったのでは? 例え残念な結果だとしても笑いのタネにできればいいと思ってたのでは?」
「それは……」
「ないとは言えんが……」
 男たちが言葉を濁す。
 ルーシィドは眼鏡の下の眼差しを、緩ませた。
「みなさんの福袋の中身、とっても残念だったのかもしれないけれど。でも、同じ思いをした人を慰める力はあったじゃないですか」
「そう、だから……大丈夫、嘆かないで。楽しかった、得だったと、中身のことなんて、笑い飛ばしてしまって……じゃないと、見てられないから……」
『……』
 ルーシィドとオルティアに諭され、考えこむ信者たち。
「期待値やお得感を重視するのであれば……」
 少し続いた沈黙を破ったのは、モヱだ。
 レプリカントの貴婦人は、掌から立体映像を作り出す。
 表示されたのは――福袋の内容物を詳細に記した、家電量販店のウェブサイトだった。
「今どきはこのような『中身の見える福袋』が御座いマス。損が嫌ならこういうものに手を出すべきデショウ」
「中身が見えるだと……」
「噂には聞いていたが……!」
「これなど、ロボット掃除機の定価でコードレスハンディクリーナーまで付属シマス。そして何と何と~、20回まで金利手数料無料!」
「急に声が高くなったけどどうした!?」
「分割払いとかしねぇよ!?」
「そうデスカ……」
 信者のツッコミでしれっとサイト表示をやめるモヱ。
 渾身の物まねを披露してちょっとスッキリしたモヱは、手近にあった異国風置物とカラフルベルトを拾い上げた。
「悪徳店で購入してしまったことは気の毒デスガ、正月からこんな訳の分からないアイテム数十個掴まされたなんて中々パワーのあるバズりネタに思いマス。いっそ面白おかしく拡散して笑いを提供シマショウ」
「なるほど、バズりか……」
「確かにSNSでバズれば多少の救いにはなる……か?」
「そうですよ。バズらせましょう。同じのが被ってもいいじゃないですか」
 モヱの提案にスマホを取り出した男たちの背後に、ずざーっとドリフトしてくるケイト。
「コップ20個あれば皆にコーヒーとココアを出しても足りなくなることはないんですし、カラフルなベルトで戦隊ごっこもできるし、紙袋で幸せをみんなにおすそ分けできます。ほら、ゴミなんかひとつもない。こんなにも使い道があるじゃないですか!」
「そ、そうだな! ゴミに思えても考えひとつで――」
「例えばもしハンマーが20個あったら、ですよ!」
 もう納得してくれた信者を、ケイトの有無を言わせぬ迫力が黙らせる。
 彼女はどこからともなくドラゴニックハンマーを取り出すと、それをかざし、まるで宝玉を愛でるかのように頬ずりを始めた。
「布教用に添い寝用に鑑賞用に緊急時の脱出用に痴漢撃退用に……あ、保存用や実戦用、フォーマル用も必要ですね? 枕元に置いておく護身用や、玄関に置いておく押し売り撃退用も必要ですし、メンテナンス中に代わりに使うスペアも必要です。これじゃあ……いくつあっても足りないよ!!」
「知るくぁぁぁーーーーーー!!!」
 目が覚めるようなツッコミだった。
 というか目が覚めた男たちのツッコミだった。
 ハンマーへの愛を語られてもね、共感できるはずもなかったよね。なんなら紙袋のほうがマシとさえ思った彼らだよね。

●戦わずして勝つみたいな
 男たちが正気に戻って、数分後。
「おのれけるべろすきたない」
「ふふっ、やっぱりコップが無ければただの鳥みたいだね?」
 鳥さんは、悪戯っぽい笑みを浮かべる玲央に見られながら、しゅわしゅわと消えていた。
 経緯を説明しよう。
 珈琲でコップ使う作戦により、鳥さんは投擲する武器がなかった!
「おまえとは一緒に旨い雑草が喰えると思ったんだがな……」
「同情には値するが、仕事は仕事だからな」
「今度は中身見えてる福袋を買った方がいいのだ。それか数量30個限りとか整理券配られるやつにしとくといいのだ」
「ナル……ホドォ……」
 チロの心のこもってない敬礼、樒と灯音のほんのり憐憫の滲む眼差しに見送られ、鳥さんは冬の星になった。

「では、帰りマショウカ」
「そうですわね。お疲れ様でした!」
 モヱが引き上げる素振りを見せると、ルーシィドもぺこりと頭を下げ、それぞれてくてくと帰路についた。猟犬たちも次々と現場を後にする。
 ケイトももちろん、長居はすまいと鳥邸を発つ。
 ――が道中、悶々と考えては、彼女は顔をだらしなく緩めるのだった。
「ハンマーとかが20個もあったら興奮で眠れないよう……ふひひ」
 うん、これダメな人の顔だね!

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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