猫の格好をするな!

作者:baron

『なにがニャンだ!』
 とある貸衣装屋に何者かが乱暴狼藉を働いた。
 もちろん店主もお客も身に覚えはなく、ニャーでもナァンでも激怒していただろうなと判るくらいだ。
 何しろ部屋の中では猫風の格好、あるいは猫の衣装を着たコスプレ・パーティ中だった。
 鼠年だからといって、襲い掛からないで欲しい……だなんてジョークを交えながら抗議できる勇気ある者はいなかった。
『ウェアライダーですら多いのに、猫の格好なんかするな!』
 そういって侵入者は、表に張ってあったポスターを突き付け、客の目の前でビリビリに破いてしまう。
 そいつは鳥人間ビルシャナであること、そして周囲に信者らしき者が数名いることから、逃げ出すこともできなかったのである。


「個人的な、良く判らない主義主張により、ビルシャナ化してしまった人間が、その個人的に許せない対象を襲撃する事件が起こるので、解決してほしい」
 ザイフリート王子が務めて冷静に用件だけを話し始めた。
「どうして猫さんの格好がダメなんでしょうか?」
「知らん。だが過去に何かあったのだろう。ともあれ事件を起こす対象は放置できん」
 地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)がおずおずと尋ねるのだが、王子は首を振るばかりだ。
 ビルシャナの個人的な理由と言うのは多岐に渡り、猫を過剰に愛しているからか、猫が大嫌いなのか、その辺でも結構変わってくるからだ。原因を特定するのは難しいのだろう。
「場所は貸衣装屋を兼ねた喫茶店だ。ようするに特定の格好をして、飲食する店という訳だな。そこが特定の催しの日に襲われるので、成り替わって待っていれば良いだろう」
「っ! 猫さんの格好でお待ちするのですね……」
「それもいいかニャー」
「いいですナァン」
 夏雪だけでなく、周囲のケルベロス達は想像してみた。
 猫の格好やペイントをした自分、猫の服や着ぐるみを来た友人たち。
 できれば本物の猫に小さな衣装を着せても良いかもしれない……とか。
「パーティ会場だけに広いので戦うには問題なかろう。むしろ信者の方が問題だな」
「殺してしまう訳にもいかねーもんな」
「そのくせカバーしやがるからなあ」
 信者たちはまるでサーヴァントのようにビルシャナを守ろうとする。
 攻撃力はともかく、殺してしまう可能性があるので問題が大きかった。
「とはいえ個人的な考えにそこまで賛同する者も多くはあるまい。洗脳と思われるため、インパクトのある説得でその連携は崩せるはずだ」
「仲間として信じあったケルベロスと違って、洗脳じゃあねえ」
「……説得が得意でない人も、残った信者の人を気絶させればありがたいかと」
 一つの理論を皆で話しても良いし、複数人がそれぞれ話してもよいだろう。
 夏雪が言うように特に話さない者が中心になって、残った信者を気絶させれば問題ないはずだ。
 こうしてケルベロス達は、事件の起きる貸衣装屋兼喫茶店の予約をしながら相談を始めるのであった。


参加者
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
ピヨリ・コットンハート(ぴょこぴょん・e28330)
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)
秦野・清嗣(白金之翼・e41590)
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ


 扉には猫の衣装が描かれたポスターが張ってあり、奥には喫茶店。
 パーティ会場である広間は椅子なしのビッフェだ。
「あの……予約していたものですけれど……」
「まぁ、随分と可愛い子ね。いらっしゃ~い」
 地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)がさっそくもみくちゃにされる。
「あ、あの。この後……」
「随分と腕の振るい甲斐があるわ~」
 仕事で疲れたお姉さんとか、ダンディに見えるオジサマ達が付け耳や付け尻尾を手に迫ってきた。
 別に脱がされる訳でもないし、尻尾もベルトに結わえるだけなので仲間たちも夏雪を温かい目で見守っている。
「さて、時間まで待機するか。……ネコは苦手なんだが……」
 犠牲者(違)に祈りを捧げつつ、ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)は着ぐるみを手に取った。
 クマネズミのウェアライダーゆえに猫は苦手ではあるが、本物でなければ問題ない。
 ならば徹底するのは彼の流儀だった。
「猫の着ぐるみもいいなあ。メイドカチューシャとエプロン付けたりしてもいいなあ」
 その様子を見て小柳・玲央(剣扇・e26293)はウットリとした。
 質実剛健な軍人気質のヴィクトルだが、着ぐるみを来たらファンシーな外見だけが残る。
「……Miau miau」
 マイクテス、マイクテス。
 ヴィクトルの生まれた地方のでは『にゃー、にゃー』はこう発音する。
「私は付け耳にゃーん」
「でも猫と喫茶店といったらこれだよね♪ にゃーん」
 渋い声から目をそらすと、ピヨリ・コットンハート(ぴょこぴょん・e28330)が付け耳して可愛く啼き声あげている。
 玲央はニコニコして啼き声を合わせつつ、猫尻尾デバイスや付け耳を稼働させた。
 だが着ぐるみは良い文化である。しばし自分のメイド服を眺め……。
「やっぱり着ぐるみも捨てがたいなあ。上から着れるように大きいサイズ、ないかな?」
 と玲央は衣装室を漁り始めるのであった。

「ネコの扮装なんてそうそう出来ないものね。響銅も猫耳つけて楽しもうか~」
「ベルもタキシード風の猫衣装を着せてパーティーなのです!」
 秦野・清嗣(白金之翼・e41590)と八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)はそれぞれ男女に分かれた衣裳部屋に突入。
 ノリノリで自分だけでなく、翼猫や箱竜たちの衣装も漁り始める。
「猫の格好って良いよね。あと語尾ににゃ、をつけるといい感じだよねっ」
「コスプレ趣味はないですが、ダメだと言われると何故かしてみたくなりますニャン」
 東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)と ピヨリの何気ない会話。
 少女たちが猫の装束で語る姿は実に微笑ましい。
「ん……そうか、扮するなら、語尾もそんな感じになるのか……」
 それを聞いていたオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)は、恥ずかしそうな表情を引き締める。
 ……ちょっと、恥ずかしい……いや、でも、きっと地球ではそういう文化なのだ。
(「文化なら……うん、住むからには、私も慣れないと……にゃん」)
 口に出す勇気もないオルティアは、まずは心の中で練習した。
 にゃん、にゃん、にゃ……。
「衣装……セントール用のもの、あるかな……?」
 段々と麻痺してきたオルティアは考えるのを止めた。
 四足歩行形態で猫の格好をすれば、本格的かなあと思う辺りだいぶ麻痺している。
 だが悲しいことに、最近になって地球に土着化したセントール達のグッスは少ないのだ。遊び人が多い(偏見)タイタニアとの差が悲しい。
「かっこいいイケニャンっぷりでメロメロにしてやるのです……!」
「いけるいける。もふもふで触ってもよし、猫動画も可愛さいっぱいで再生回数は多いしにゃー」
 あこが翼猫のベルともども衣装を披露目すると、苺がニコニコしながら眺めていた。
 女の子は可愛い物が大好きなのだ。
「う~ん素敵にゃ。でも響銅だって負けてないのだにょ」
「眼福眼福。あとで集合写真とてもいいんじゃないにゃっ」
 ……失礼、大人の男性人だって可愛い物は好きですよね。
 着ぐるみを着た清嗣は、苺と顔を見合わせて、ねーっと笑い合った。

 だが、そんな和やかな雰囲気もここまでだ。
「っ……。良いところを邪魔しやがるのです!」
「あ、えーと、お姉さん達。デウスエクスが来るので、避難してください。ボクらはケルベロスなので」
 あこが耳をピーンと立てて警戒を発すると、夏雪は囲んでいるお姉さんたちを避難させ始めた。
 猫さんパジャマ姿を名残惜しそうに見ながら、みんな奥の非常口から下がっていく。
「準備は良いかね? では奴らに猫のなんたるかを教育してやるとするmiau」
「「了解にゃー」」
 ヴィクトルの号令とともにケルベロス達は大部屋の中を左右に展開し、避難する一般人たちへの視線を遮った。
 ガラリと大扉を開けて、広間にビルシャナがやって来る。
『なにがニャンだ!』
「なーな」
「なあん」
 ビルシャナ慣れしたケルベロスたちは即座にネタで返した。
『う、ウェアライダーですら多いのに、猫の格好なんかするな!』
「miauen!!… …こうネズミが鳴いちゃあダメかい?」
 ヴィクトルは着ぐるみの頭をヘルムの様に掲げ、猫にしては背筋をピンと伸ばして顔を晒した。
 お前のような猫がいるかというツッコミが入る前に、ネズミとしての顔を晒す。
『猫がネズミで? アベコベだと!?』
「俺は過去に猫絡みで嫌な夢を見て以来、猫は嫌いというよりは苦手でね。同族は動物変身でなければ平気だが、普通の猫や猫の姿のサーヴァント相手に冷や汗をよくかかされる」
 ヴィクトルは信者たちの戸惑いを無視して、滔々と説明を続けた。
 何の意味もなくとも、インパクトというならば猫の着ぐるみを着たネズミというのは相当だ。
「……でだ、お前さん方の中には猫が嫌いって奴はいるだろう。猫の振りすら見たくないというなら、今ならネズミの格好でもしてネズミの振りはどうだい。日本ではネズミの年、というのだろう今年は?」
『ふざけるな 何の解決にもなっていないだろう!』
 ヴィクトルは思わず肩をすくめた。
 ビルシャナのやってる事だって解決にはなっていない。
「するなと言われても……ネコ科ウェアライダーなのです! 存在するな系はむつかしいのです……! しかーし、猫が嫌いというなら……あこは虎なのでノーカンなのです、がおー!」
 続いて立ち向かったのは、あこである。
 ベルを抱えて抗議し始め、自分の属性は虎だ、虎なのだと猛烈にアピール。
 二年後の干支ですし、縁起も良いのです! と猫ッポイ仕草をするが、野生の虎を見たことないので仕方ないのです。
「百獣の王ライオンさんも含むネコ科というカテゴリーを絶滅させるというなら、とっても強いそれらを絶滅させる必要があるのです!」
『い、いや。虎とかライオンは……なあ?』
『まあ、なあ』
 あこがサバンナでも同じ事が言えるのかと問い詰めたら、信者たちはさすがに苦笑せざるを得ない。
 でもでも、そんな生半可な覚悟で大丈夫かな? なのです!

 さて、多少強引だがインパクトのある説得で目を引いた。
 となれば次は、整合性のある説得だ。
「世の中みんな、嫌いな物はそれぞれに違うんです。自分と違う者を排斥しようとしたら、世界中から殆どの人が消えてしまいますニャン」
『だが我々は迷惑している!』
 無表情でピヨリが述べるのは、ド正論だ。
 直球も直球、余計なことは言わずにど真ん中のストレート。
「だとしても。大人なら、嫌いな猫にゃんに関わらないというスルー能力を身に付けてください。みっともニャイですよ」
 ピヨリはそう言った後で仲間に具体的な話を譲る。
 彼女の役目はあくまで中継ぎ、スムーズに話を進める為なのだ。
「それはそれとしてにゃー。まずもってこう言うのって普段出来ないとかーやり難いとか、世間の目も気になるじゃにゃいね?」
 清嗣は言葉を間延びさせつつ、ことさらにニャ調で話しかける。
「だからワザワザ人目を忍んでにゃ、こういう機会を持つって事なんだけども」
「そうなんです。得意や苦手は人それぞれあると思いますが、そういう苦手な方々を配慮して、好きな人だけが集まれるようなお店を開いてくださっているのです……にゃん?」
 だが清嗣が言いたいのは見せないようにしているいうことだ。
 夏雪がそれをフォローし、この場はそういう隠れた集まりなのだと説明した。
「こういう集まる場所が無くにゃったら、猫さん衣装を着たい方々が町中で見かける様になってしまいますにゃん。良いのでしょうかにゃ……?」
『そ、それは……』
 夏雪は頑張って随所にニャ調をちりばめ始めた。
「好きなものに、好きなように、扮する場。否定される謂れは、どこにもないはず……にゃん」
 その姿に打たれたものは、ここにいる。
 あんな小さな子が頑張っているならと、オルティアは恥ずかしながらも猫耳・猫尻尾姿を晒した。
「誰に迷惑を、かけたでもない。ワザワザこういう場の中だけで、楽しんでいたのに……。そこに自分から突入して、喚き散らしてそんなの、理不尽……にゃん」
 そろそろ頭がポーっとしてきた。
 ここまで来たら、踏み越えてしまうのが良いのではないだろうか?
「あなたたちは趣味とか、ないの? その最中に、いきなり外の他人から、否定されてそれで頷いて、止められる? 想像して、考えて欲しい……にゃん」
 ぜーぜとオルティアは熱いため息をつきながら言い切った。
 何だか川を渡っているような、何とも言えない抵抗感を渡っているような気がする。
 天使(理性)がやめろと言っているような気がするが、感情(悪魔)がやってしまえと後押ししている。

 ここで一同は話を締めに掛かった。
「わざわざ猫の格好してるところにくるとか本当は猫の格好したいんじゃないのかな。自由な猫さんにみんなにゃっちゃおう」
『そんな訳があるか!』
 苺はむしろ、これまでの信者たちの言葉は裏返しではないかと告げた。
「寧ろ自由にやって良い訳よ。本当は歯止めが効かないだけで、やりたいんじゃにゃいの? 君らの中にもいるだろ? 今なら、此処でなら大歓迎だからおいで。許された世界に!」
「猫さんは自由だしきっと猫の気持ちになれば癒されるよっ」
 清嗣と苺は半減した信者をさらに減らす為、めくるめく猫の世界へ誘おうとする。
 浮世を忘れるための空間は誰にでも大切。好きなものになりたい願をだれに邪魔する権利があるだろう。
 息苦しい世の中なんて願い下げにょ。
「ビルシャナさんも本当はやりたいだろうし、まずは猫耳だけでも付けてみるのはどうかにゃー」
『い、いや。私は……』
 苺は信者を気絶させる為、『大丈夫、猫なら許されるし、猫は正義なんだよっ』と猫耳を持って接近する。
『ま。待て! そんなことなど望んではいな……』
「猫様になりきるなら人目は気にしたらいけませんのにゃ。何故なら猫様は孤高の自由な存在! 誰の言葉にも影響されない素晴らしい存在ですのにゃ!」
 反論しようとするビルシャナに対し、玲央はキッパリと言い切った。
「恥じらいなど言語道断、むしろ誇るべきですにゃ! メイドな猫はお気に召しませんかにゃ? では逆に、猫なメイドはいかがですかにゃ」
 猫の着ぐるみがエプロンごと外されると、中から猫耳を付けた玲央の本体が出てくる。
「珈琲でも紅茶でも、貴方のお好きな物を淹れさせていただきますにゃ♪」
 と給仕をし始めた。
 最近流行りのデバイスゆえに、ウインウインと尻尾や耳が動くのが特徴である。
『ええい! 話を聞け!』
「「お前がいうな!」」
 こうして戦いが始まった。

「諦めな。You vill not VIN!お前さんに勝ち目はないさ」
 ヴィクトルが葬送の敬礼をすると、猫型ロボットに変形したガジェットがトドメを刺した。
「いやあ、苦戦でしたニャン」
 ピヨリは涼しい顔で先ほど放り投げたファミリアのひよこ軍団を拾い上げた。
 ひよこの方は顔が青く成ったりしてるが気にしてはいけない。
「こう云うのは楽しんだ者勝ちにゃよ~。にゃむあみだぶつ」
 清嗣は肉球を重ね合わせて合唱。
 黙祷を捧げて祈りを捧げるニャン。
「ヒールも終わりましたし、どうします?」
「せっかくなので、最後まで楽しんでいくべきですニャン」
 夏雪が壊れた机やポスターに雪を降らせて修復すると、ピヨリは真顔でリピートアフタミーですニャン。
「いろいろ衣装あるし、全部と言わずとも着ちゃおうか」
「ふむ。他にもいろいろあるようだな。こういうのも悪くはない」
 苺の提案にヴィクトルは頷き、全部着てしまっても構わないのだろう? と新しい着ぐるみを手に取った。
「むむ……スコティッシュ・ホールド……これはどんな技なのでしょうか?」
「猫さまの名前ですにゃ。というよりも、そろそろ現実逃避は辞めておくですにゃ」
 オルティアは猫の名前を読み上げながら目線をそらせていると、玲央が回り込んだ。
 触られそうになったら逃げようと思うが、一定以上近づかない機械のスタンスでそのタイミングがつかめない。
「知らなかったのですかにゃ?」
「猫の視線からは逃げられないにゃ」
 玲央とピヨリが真顔で回り込んで来る。
「猫の世界はマイペースで行くにゃ~」
「あこはこれをいただくのです。ベルは活躍したので、今日ばかりは食べても大丈夫なのです」
 追い詰めるのはかわいそうだと清嗣は関わらないことにして、あこと同じくビッフェに向かった。
 そこは入室料金以降はお代わり自由なので、いくら食べても、いくら猫に食べさせても大丈夫にゃ。
「あう……どうしましょう」
「諦めましょう……にゃん」
 オルティアは同じくつかまった夏雪に相談するのだが、玩具にされた経験から少年は諦めが早かった。
「ドリンクをお代わりするのです!」
「にゃい! よころんで」
 あこが手を挙げて注文すると、玲央は紅茶を入れていく。
 こうしてケルベロス達は猫ねこファンタジーで一日を満喫したというニャン。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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