●埼玉県某山中
そこにあったのは、誰かが捨てた削岩機であった。
おそらく、それは何処かの工事現場で使われていたモノ。
だいぶ年季が入っており、あちこちが錆びてはいるものの、まだまだ現役と言った感じのモノだった。
そこに握り拳程の大きさのコギトエルゴスム(力尽きて宝石化したデウスエクス)に、機械で出来た蜘蛛の足のようなものがついた小型ダモクレスがカサカサと音を立て、削岩機の中に入っていった。
小型ダモクレスが入り込んだ削岩機は機械的なヒールによって体を作り替えられ、家電製品っぽい雰囲気のダモクレスに変化した。
「バリバリバリバリィ!」
その途端、ダモクレスが破棄された削岩機の残留思念のようなモノを受け継ぎ、山の麓にある市街地まで滑るようにして下りていき、一般人達の命を奪って、グラビティ・チェインを奪うのだった。
●セリカからの依頼
「サロメ・シャノワーヌ(ラフェームイデアーレ・e23957)が危惧していた通り、埼玉県の山中に不法投棄されていた削岩機が、ダモクレスになってしまう事件が発生しているようです。幸いにもまだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまう事でしょう。その前に現場に向かって、ダモクレスを撃破してください」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
ダモクレスが現れたのは、山の麓にある市街地。
そこには沢山の人々が生活をしているため、ダモクレスを放っておけば、取り返しのつかない事態に発展してしまう事は間違いなかった。
「このダモクレスは削岩機が変形した、ロボットのような姿をしており、攻撃方法も元になった削岩機由来のモノとなっています。そのため、アスファルトの地面を砕きながら、まっすぐ進んでいるらしく、例え障害物があったとしても退く事はありません」
セリカがケルベロス達に対して、ダモクレスに関する資料を配っていく。
そこにはダモクレスのイメージイラストが添付されており、何処かのアニメに登場しそうなデザインだった。
なお、ダモクレスを倒す事がメインであるため、建物が倒壊したり、一般人が命を落としたとしても、依頼の成否には関係ないようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。
参加者 | |
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伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099) |
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771) |
柄倉・清春(大菩薩峠・e85251) |
シド・ニンクヌ(平原の守護者・e85514) |
●山の麓
「またダモクレスが悪さしているようだね。削岩機なんて危ないものになってるなら、絶対に止めないとだねっ」
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)はダモクレスと化した削岩機を足止めするため、山の麓から山道を駆け上がるようにして、現場に向かっていた。
普段であれば、登山者が行き交い、まったりとして空気が漂う山道も、ダモクレスが現れた事で、パニック状態。
登山者達が我先にとばかりに山を駆け下り、酷い状況になっていた。
「サク・サク・サク・ガガガガガァァァァァァァァァァァァア!」
そんな登山者達を嘲笑うようにして、ダモクレスが機械音にも似た咆哮を響かせ、まわりにある木々を薙ぎ倒して、山を駆け下りていた。
「うわっ! 誰かあああああああ!」
その事が原因で登山者達は不安になっており、今にも腰を抜かしそうな勢いで、ケルベロス達の横を通り過ぎていた。
「んうー。削岩機……もともとは、こわすがおしごと、だったかも、だけど……こわすの、ダメなものも、ある。町とか人とか、こわすなら、ぼくがとめる。……それが、ぼくのやくめ、なー」
そんな中、伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)が、自分なりの考えを述べた。
ダモクレスとしては、自分が果たすべき役目を実行に移しているのかも知れないが、それならば勇名もケルベロスとしての役目を果たすだけ。
すべての元凶であるダモクレスを倒すだけである。
その原因となった粗大ゴミの山が、参道の脇に何ヶ所もあり、それがまるで墓標の如く、そびえ立っていた。
そこには『ここにゴミを捨てるな!』と書かれた立て札が突き刺さっていたが、不法投棄をした者達の心には響かなかったようである。
「不法投棄よくないっ。こういう迷惑な不法投棄がなくならないとダモクレスにいいように動かれちゃうね。いっそ、みんなで各地にお掃除しにいったほうがいいのかなぁ」
それを目の当たりにした苺が、複雑な気持ちになった。
そもそも、誰かが不法投棄をしなければ、この場所でダモクレスが生まれる事もなかったはず。
そういった意味でも、不法投棄が無くならない限り、ダモクレスが生まれ続ける事だろう。
ならば、ダモクレスを倒す事よりも、不法投棄を無くすため、頻繁にパトロールしつつ、ゴミ掃除をした方が効率的であるかのように思えてきた。
「機械、私の生活していたところにはなかったものですが、自然、人、壊すの、止めなければいけません。私、地球来たばかり。それ破壊するもの、許すできません」
シド・ニンクヌ(平原の守護者・e85514)が片言の日本語で喋りながら、セントールランを発動させ、先陣を切ってダモクレスに体当たりを食らわせた。
「サク、サク、サク、サクゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
だが、ダモクレスは全く怯んでおらず、 機械音の混じった咆哮を響かせ、ケルベロス達に迫ってきた。
「ククク、もう一度ガラクタにしてやんよ。悪いが俺達は強ぇ! あっと言う間に、ぶっ壊してやるから、そこでジッとしていやがれ!」
それを迎え撃つようにして、柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)がダモクレスの前に陣取った。
次の瞬間、ダモクレスが辺りの木々を薙ぎ倒し、地面を抉り取りながら、さらにスピートを上げていくのであった。
●山道
「……って、マジか!? まさか、このまま俺を轢き殺すつもりか!? この様子じゃ、途中で止まるつもりもないようだしなぁ。そうなると俺はペチャンコ……って、ふざけるな! まあ、脳みそ空っぽのクソ機械と違って、人間様は柔軟な思考っつーもんが出来るからな! 轢かれる前に、ぶっ潰す! ……オラッ! ぶっ壊れろや、このゴミが!」
清春が過剰摂取 ibogaine(カジョウセッシュ)を発動させ、腰ほどのある高さに岩に駆け上がり、勢いよく飛び上がってダモクレスにバットを振り下ろした。
その途端、バットを通じて激しい痛みが両腕を走ったものの、ググッと歯を噛み締め、気合と根性で何とか耐えた。
だからと言って、完全に痛みが消えたわけではない。
未だに両腕がジンジンと痺れ、バットを持っているのが、やっとなほどのダメージを受けていた。
「すぐ治す。元気になる。大丈夫」
その事に気づいたシドが黄金掌を発動させ、光輝く掌をかざすことで、清春の両腕を治療した。
「お、すまねぇな。これで、また……ヤツをぶん殴る事が出来る!」
それに気を良くした清春が、ダモクレスを睨みつけて、再びバットを握り締めた。
「サク・サク・サクククゥ!」
ダモクレスも『相手にとって、不足なし!』と言わんばかりの勢いで、地面をガリガリと削りながらケルベロス達に迫ってきた。
「いっぱいなぐる、ぼくのしごと。……よし。がんば、るー」
その間に、勇名が自分自身に気合を入れ、素早く死角に回り込むようにしながら、ポッピングボンバーを仕掛け、ダモクレスの足元すれすれに小型ミサイルを撃ち込んだ。
次の瞬間、ダモクレスを巻き込むようにして爆発が起こり、カラフルな火花が辺りに散った。
それは俗にいう『汚ねぇ花火』。
「サク、サク、サクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
その事に腹を立てたダモクレスが、削岩機部分をガタガタと鳴らし、ケルベロス達に再び襲い掛かってきた。
「動き単純。先、読める。だから……負けない!」
シドが仲間達の回復に専念するため、ダモクレスと距離を取りつつ、後ろに下がっていった。
幸い、まわりには登山者達の姿がない。
みんなダモクレスを恐れて、山を下りてしまったため、戦いの途中で誰かを巻き込むような心配もなかった。
その安心感があるおかげで、ダモクレスの動きを冷静に分析しながら、もっとも被害が少ない場所を選んで移動する事が出来た。
「サクサクサクサクゥゥゥゥゥゥゥ!」
それとは対照的に、ダモクレスは思うように、ケルベロス達を追い詰める事が出来なかったため、かなりストレスが溜まっているような感じであった。
「随分と殺気立っているようだけど、ここから先には行かせないよッ!」
そんな空気を察した苺が地裂撃を仕掛け、大地を断ち割るような強烈な一撃で、ダモクレスを足止めした。
「サ・サ・サ・サ・サ・クゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
それでも、ダモクレスが削岩機部分をガタガタと響かせ、ケルベロス達に迫ってきたが、足場が悪くなっているせいで、なかなか先に進む事が出来なかった。
「すごく、かたくて、つよいけど……ぼくはまけないよー」
その隙をつくようにして、勇名がダモクレスの死角に回り込み、旋刃脚を仕掛けてダモクレスを牽制した。
「サ、サ、サ、サク・ガン・キィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
その一撃を喰らったダモクレスが、怒り狂った様子で削岩機をフル稼働され、大地をガリガリと削りながらケルベロス達に迫ってきた。
「つーか、しつけぇんだよ! いい加減に大人しくしやがれ!」
それを迎え撃つようにして、清春が再びダモクレスめがけて、勢いよくバットを振り下ろした。
だが、ダモクレスの装甲は無駄に硬く、清春も涙目。
両腕がジンジンと痺れてきたため、シドを二度見。
『あとで治療をよろしく頼むぜ!』と心の中で訴えつつ、その怒りをダモクレスにぶつけた。
しかし、ダモクレスの装甲は硬く、破壊するよりも先に、心が折れそうな感じであった。
「どっかーん!」
次の瞬間、勇名が勢いよく飛び上がり、ダモクレスの上部に降魔真拳を叩き込んだ。
清春が地道にダモクレスを攻撃したおかげもあり、上部に無数のヒビが入り、そこからブスブスと黒い煙が立ち上った。
「マカロン、お願い」
その事に気づいた苺が、ボクスドラゴンのマカロンに合図を送り、ボクスブレスで攻撃された。
その影響でダモクレスのボディが歪み、削岩機部分からキィキィと耳障りな音が響いてきた。
「ダモ・ダモ・ダモ・ダモ・ダモォォォォォォォォォォォォオ」
それと同時に、ダモクレスの背中に生えたミサイル状の削岩機が射出し、雨の如く大地に降らせた。
「こ、こ、殺す気かああああああああああああああ!」
その攻撃をモロに喰らった清春が涙目になりつつ、ミサイル状の削岩機を避け、逃げるようにして岩陰に隠れた。
それと同時に地面にめり込んだ削岩機が爆発音を響かせ、さらに大きな穴を作り出した。
「たくっ! よくも、やりやがったな!け」
これには清春も腹を立て、ダモクレスの上部に飛び乗り、脆くなった部分を狙って何度もバットを振り下ろした。
そのたび、上部に入ったヒビが広がっていき、削岩機部分から耳障りな機械音が響き渡った。
「皆の思い……ひとつにする!」
次の瞬間、シドがセントールチャージを仕掛け、回避を許さぬ超高速の突撃で、ダモクレスに正面からぶつかった。
「ダモ、ダモ、ダモ、ダモ、ダモォォォォォォォォォォォォォ!」
その一撃を喰らっても、ダモクレスが機械音を響かせ、シドの身体ごと削岩機に巻き込もうとしたものの、大量のパーツが血飛沫の如く飛び散り、ボロボロになって動かなくなった。
「さすがに、つかれた、かも……」
その拍子に勇名が疲れた様子でぺたんと座り込み、木の幹に倒れ込むようにして、スヤスヤと眠りについた。
思ったよりも硬い敵を相手にしていた事もあり、身も心もヘトヘトになっていたのか、その寝顔は実に安らかであった。
「でも、これで、みんな無事」
その寝顔を見ながら、シドがホッとした表情を浮かべた。
ダモクレスが木々を薙ぎ倒しながら移動したもので、山肌があらわになってしまったが、幸い一般人達には被害が出ていないようである。
「だいぶ被害が出ちまったけどな。まあ、ヒールで何とかなるか」
そんな空気を察した清春が、辺りをヒールで直し始めた。
「とりあえず、ここに不法投棄されたゴミをきっちりと片付けて、二度とここにダモクレスが現れないようにしないとね。やっぱり、綺麗なのが一番だよっ」
そう言って苺が仲間達に声を掛け、ゴミ掃除するため、そのまま不法投棄の現場に向かうのであった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年1月10日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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