白光のゲレンデ

作者:崎田航輝

 さりさりと板が雪を咬み、スピードを増していく。
 時に真っ直ぐに、時に蛇行しながら、人々が銀世界を駆け抜けていた。
 雄大な山を抱く中に広がるそこはスキー場。天然の雪が降り積もるこの時期はシーズンの真っ只中で、純白の景色の中を多くの人々が訪れている。
 緩やかな傾斜で楽しむ家族に、高い急斜面で滑る熟練者。リフトに乗るついでに景色を楽しむ者で大いに盛況。
 少し疲れれば、暖炉のある暖かなカフェで飲み物や食事を楽しんで。休んだ後にはまたスキーに行こうと、人々は冬の楽しみを存分に味わっていた。
 けれどその白妙の眺望へ、ふらりと踏み込む巨躯の姿がある。
「綺麗な雪景色じゃないか。美しくて、澄んでいて」
 それは氷色の鎧を纏い、ゆっくりと歩む罪人──エインヘリアル。
「けれど不要な存在ばかりだ。白く輝く、冷えた世界に、無駄な温度は要らない」
 だから全て凍らせてあげよう、と。
 冷気を纏った刃で、罪人は人々を凍結させて切り刻む。全ての命が絶え、静寂の中に零下の温度だけが漂うと、彼はただその冷たさを味わうように一人佇んでいた。

「スキー場にて、デウスエクスが現れるようです」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へ説明を始めていた。
 頷きながら、ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)は静かな瞳を向ける。
「注意していた通りのことが起こったということですね」
「ええ。だからこそ、この事件を防ぎましょう」
 是非皆さんの力を貸してくださいとイマジネイターは言った。
 出現するのはエインヘリアル。アスガルドで重罪を犯した犯罪者で、コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれるという、その新たな一人だろう。
「この敵は、ゲレンデにいる人々を狙う事でしょう」
 ただ、敵は山中から現れることもあり、人々の元へ辿り着く前に接敵することが可能だ。
 ヘリオンにて人々から離れた位置に着地し、後は待ち伏せて撃退すれば問題はない。
「こちらは戦いに集中できるということですね」
「ええ。スキー場や景色にも、被害を及ぼさず終わることが出来るでしょう」
 ですので、とイマジネイターは続ける。
「無事勝利できた暁には、皆さんもスキーなど楽しんでみてはいかがでしょうか?」
 スキー板などの用具は自由に借りる事ができる。
 ホテルにある暖かいカフェにも寄れるし、疲れを癒やすことも出来るでしょうと言った。
「スキーですか。そのためにも、先ずは敵を倒さねばなりませんね」
 ミントが言えば、イマジネイターも頷く。
「皆さんならばきっと勝利できますから。是非、頑張ってくださいね」


参加者
クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
曽我・小町(大空魔少女・e35148)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)
灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)

■リプレイ

●冬の戦場
 純白の稜線が青空を背に輝いている。
 遠くに視線をやれば、その傾斜を滑る人々の姿が見えるから──山中に降り立った灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)は瞳を仄かに細めていた。
「綺麗な雪山だ……そして、皆とても楽しそうだ」
「うん、そうだね」
 だからこそ、と。
 吹き下ろす風に蒼の髪を揺らしながら、クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)は目を逆側へ向ける。
「ゲレンデに舞い降りるのがエインヘリアルでは、ロマンも何もあったものじゃないね」
 見据える先、木々の奥から現れる巨体の影が見えていた。
 剣を握り獲物を求める、異星の罪人。
 ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)はゴスロリドレスの上に白のマントを纏い、雪に溶け込むように身を潜める。
 自身の危惧した事件が現実に起こるのは不思議な気分だ、けれどそれ故に。
「何としてでも被害を食い止めないといけませんね」
「うんっ! みんなが遊んでいい思い出作って帰れるようにがんばっていこうっ」
 東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)がぐっと拳を握り、明るく八重歯を見せれば──皆も志を同じく頷いた。
 そうして番犬の皆が待ち伏せ態勢を取り、気づかぬ罪人が踏み込んで来たところで。
「ここから先は、行かせないわ」
 髪を飾る二彩の薔薇を薫らせながら、曽我・小町(大空魔少女・e35148)が幹の影からふわりと飛び出ていた。
 罪人がこちらへ向く前に、横合いから細指を伸ばすと──弾けるのは鮮烈な稲妻。花弁の如き火花を明滅させながら強烈な衝撃で巨躯を射抜く。
「……っ!」
 鮮やかな不意打ちに罪人が驚愕を浮かべる、その最中にも苺がひらりと跳躍し、地を砕かんばかりの蹴撃を脳天へ加えていた。
「マカロンもお願いするよっ」
 次いで、声に応えた白の箱竜もブレスを花って巨体の傷を刻む。
 追随して迫る恭介の刃を目にして、罪人はとっさに剣を以て受け止めようとした、が。
「武器が剣だけだと思ったか? 俺自身が武器だ!」
 恭介の初撃は刃を使わぬ一撃。零距離に入って身を翻し、旋風の如き蹴りで巨躯の脇腹を抉っていた。
 傾いだ巨体へ、飛び蹴りを重ねたミントは視線を横に流している。
「今のうちです」
「ん……」
 と、その目線へ声を返すのが、空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)。翼で低空を滑りながら、星空の如き彩を抱く重鎗を握っていた。
 速度のままに地へ穂先を刺すと、瞬間、無数の槍が巨体の足元から突き上がる。
 摩天槍楼──鋭利な衝撃が巨躯を縫い止めた。
 呻く罪人は、そこで漸く事態を把握し見回す。
「……番犬、か」
「ええ、そちらは──成る程」
 と、巨躯を見て得心したように頷くのはモヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)。無表情から、敢えて挑発的な言葉を零した。
「スキー中に冬眠から覚めてしまった動物と出会う事も御座いマスガ。随分と大きな害獣のようで御座いマスネ」
 気を付けて、駆除致しマショウ、と。
 煽って見せれば、恭介も続く。
「そうだな。気をつけて……場違いな者にはさっさとご退場願おう」
「……言ってくれるじゃないか」
 罪人は忿怒を交えて、氷風を放ってくる。
 それは膚をも凍らす程の衝撃、だが敵の狙いが此方へ向く事こそが番犬の狙いであるから。
「問題ないわ。すぐに治療をするわね!」
 可憐に、けれど凛然と。
 刺すような風の中でも怯まず、ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)が朗らかに星剣を掲げていた。
 くるりと廻って剣先で星座を描けば、眩い光を伴う加護を生み出して──皆を守護しながら温かな感覚を与えて傷を癒やしていく。
 そこへモヱが治癒の霊力を舞わせれば、煌めきと共に苦痛が風に流されて消えていた。
 小町の翼猫、グリが金翼で薙げば、後衛の護りも固まり戦線は万全。罪人が連撃を目論む前に、クリムが奔り始めていた。
 罪人は一瞬遅れて気づき後退する、が。
 ──私の槍からは逃げられない。
 魔力で引き上げたクリムの動きは神速。急進『ダート』──刃の残像だけが辛うじて視認できる程の刺突で、巨体の腹を貫いた。
 そこへ恭介が刀を振り抜けば、罪人は体勢を崩す。
「これで自由には動けまい! ──やってくれ!」
「ええ。雪さえも退く凍気を、受けなさい!」
 同時、跳んだのはミント。
 パイルバンカーから杭を飛ばし、雷が落ちるかのような苛烈な衝撃を与え──罪人に血煙を噴かせていく。

●決着
 雪の中に膝をつき、罪人は浅い息を繰り返す。
 零す声音には苦渋の色が浮かんでいた。
「君達はどこまでも、僕を阻みたいようだね……」
「当然よ」
 と、ローレライはスキー場に目をやりながら──顎に指を当て逆に言葉を投げる。
「家族連れもカップルも、お一人様も、皆楽しい時間を過ごしているっていうのに……あなたこそ、そんなに邪魔したいわけなの?」
「……静謐の世界に、余計な温度はいらないだろう?」
 罪人はそれを当然というように言ってみせた。
 無月はそっと、けれど確かに首を振る。
「静かな雪景色を楽しみたいなら、最初からそういう雰囲気の場所に行けばいいだけ。ここは楽しむことが許容されている場だから」
「その通りよ」
 小町は頷き、その手に魔力を湛えていた。
「雪景色に余計なものは要らない、そこは同意するけれど──それなら余計な血の色も、粗暴なデカブツも要らないでしょ?」
「そうだな。エインヘリアルは、この雪景色には相応しくない」
 なればご退場願うだけだ、と。
 木立の間を抜け、一息に巨躯へと奔りゆくのがクリムだった。
 氷のルーンをブーツに刻むことで、足は雪深い地面でも自在に動く。一瞬後には巨体の眼前へ迫り、槍で一撃。痛烈な刺突で鎧に罅を刻んだ。
 たたらを踏む罪人は、刃を振り上げ反撃を狙う。
 が、そこへ無月がライフルの銃口を向けていた。刹那、流星の如く燦めく冷気の奔流が巨躯の足元を固めていく。
「お前も、凍ってみる……?」
「……っ!」
「そうね。冷えた世界が好きだってなら、あたしもプレゼントしてあげるわ!」
 同時、小町も氷片渦巻く魔弾を形成。罪人を穿って表皮を零下の苦痛で蝕んでいる。
 唸る罪人は躰を動かそうと足掻いたが──それより疾く、苺がマカロンと両手を繋いでくるりくるりと回転し始めていた。
「白いゲレンデは汚させないよっ」
 だから踊っちゃうよ、と。
 ふたりで舞うそれは『わたしとマカロンのものすごいダンス』。
 名の通り凄まじき竜巻を生み出すと、マカロンに投げ飛ばされた苺が巨躯に激突。弾丸の如き衝撃を与えていた。
 後退した罪人は、苦渋を顕しながらも冷気を飛ばす。が、モヱの傍らから跳んだミミック、収納ケースがそれを受け止めると──。
「助かりマシタ。修復に移りマス」
 モヱが手を翳し、己が熱量を治癒の魔力へと転換している。
 淡い輝きがその傷を浚っていくと、ローレライが翼の如き七彩の煌めきを顕現。『ある英雄の思い出の為に』──輝かしい未来を示すように、虹の光が負傷を癒やしきっていた。
「シュテルネは攻撃を!」
 声を受けてテレビウム、シュテルネが真っ直ぐ罪人へ打撃を加えれば──。
「ではこちらも反撃ニ」
 モヱの足元から収納ケースも駆け出して、蓋と躰で巨体を挟み込む。
 その隙に無月とミントが視線を合わせて頷いていた。
「大空に咲く華の如き連携を、その身に受けてみなさい!」
 先ず閃くのはミントの銃撃による輝き。
 直後、その間を縫う無月が槍を踊らせて斬線を描けば──罪人の全身を襲うのはまるで花咲くが如き『華空』の連撃。
 息を合わせた最後の一撃で罪人が吹き飛ぶと、小町は光の粒子を拳に集め、輝く鉄拳を形成していた。
「このまま最後まで行くわよ──グリッター……グラインドッ!」
 放たれる『―烈光の拳撃―』は一瞬で巨体を貫き、風穴を開ける。
 血潮を溢れさす罪人は、最後まで抗うように朦朧と藻掻いた。
「僕は……邪魔者、を……」
「邪魔はどちらだ。人々が楽しむこの綺麗な場所を、血塗られた殺人現場にはさせん!」
 恭介は厳然と、滾る獄炎に竜を象らせて放っている。
「貴様の邪悪な氷諸共溶かし尽くしてくれる!」
 燃え盛る焔は、『地獄炎竜・煉獄追炎葬』。獰猛に罪人の巨体に食らいつき、その全身を残滓も零さず焼き尽くした。

●銀世界
 山中をヒールすれば、事後処理は完了。
 番犬達は晴れてスキー場を訪れ、その賑やかさを目の当たりにしていた。
 皆がそれぞれに歩み出していくと、ローレライもそれに交じりスキー板とウェア一式を借りてみる。
「初めてだけれど、上手く行くかしら?」
 ジャケットとグローブを着込み、板をつけて緩やかな傾斜へ。初心者らしき人々と共に見様見真似でストックを使ってみる。
「わっ、すごい滑る──!」
 けれど思ったより摩擦がなく、まるで氷を滑るよう。
「きゃっ!」
 周りを見ながら板をハの字にするけれど、間に合わず転倒。ころころ転がって雪に埋もれてしまった。
「よし、もう一度……わっ?」
 起き上がり再チャレンジするけれど──今度はブレーキが効きすぎて前転。ぼふっと目の前に倒れた。
「うーん、難しいわね……」
 体から雪を払いつつ、一息つくと、それでもめげずに。周りと合わせて一歩一歩始め、段々と滑ることが出来るようになっていくのだった。

 苺は皆が滑り始めるのを見つつ、自身もやってみようとスキー板を履いていた。
「あんまり滑った事ないけど──」
 と、周囲を見つつ暫し練習すると、少しずつ要領が判ってくる。ストックで加速すると予想よりスピードが出て、さりさりと長い距離を進み始めた。
「わぁ、気持ちいいねっ」
 止まるのは慣れなかったけれど……それもマカロンに力を借りつつ無事に済んだ。
 運動したあとはカフェ。
 暖炉のあるゆったりした煉瓦造りの空間で、頼むのは紅茶だ。
「ご褒美にケーキも食べちゃおう」
 イチゴの乗ったショートケーキがやってくると、苺は瞳を輝かせて。甘いクリームに瑞々しい果実、そして香ばしい紅茶のハーモニーを楽しんだのだった。

 山々と天然雪が織りなすスキー場は、美しい自然が広がっている。
 巡る程にそんな眺望を味わえるのが、モヱにとっては嬉しいことだった。
「雄大デスネ」
 初心者用の傾斜を出てずっと先にある、蛇行した道。
 そこをモヱはすいすいと進んでいた。
 自然の色濃い道だが、モーグルに使うような人工的なコースよりこういう景色のほうが好きだった。
 雪を抱く山々のシルエット、曇りなき空。
「空気が綺麗デス」
 と、モヱは途中で止まる。
 数歩先が、急角度の下り坂になっていた。
「こんな場所ガ……!」
 唐突な変化も自然ならではだが──初心者ではないが上手ではない、そんな自覚もあるモヱには難所。
 ただ、やれないこともないと判断すると……注意しつつ丁寧に斜滑降。何とか白銀の上を滑り切り、カフェに到着。
「休みまショウカ」
 留守番していた収納ケースと合流し、店内へ入ってゆくのだった。

 スキーを楽しむ人々を見やりながら、無月も歩み出していた。
「……少しだけ、滑ってみようかな」
 何事も経験。
 折角だから挑戦してみようと一式をレンタルし、ゲレンデの下方へと向かう。
 そこには自身と同じくらいの初心者の人々が沢山いて、そこに交じって丁寧にストックでバランスを取り、ゆるゆると滑る。
 慣れてくると、緩やかながら速度に乗れるようになって浅い坂を進めるようになった。
 と、そこでミントがするすると上方から降りてくる。
「一緒に滑りませんか?」
「……ん」
 無月は小さく肯き、暫しそこで共に雪上を進んだ。
 毎年スキーには行くミントは比較的慣れていて、滑るのにさほどの苦労はしない。だから時にボーゲンに、時に滑降にと──無月に教えたりもしつつ、一緒に楽しんだ。
 緩い傾斜も端までくると、ミントはゴーグルを上げる。
「この後、どうしましょうか」
「カフェで過ごすつもり……」
 無月が言うと、丁度近くにあるということでミントもそこに寄った。
 温もりのある煉瓦模様が美しいそこは、ほっと和む空間。無月が早速席につき、ミントも続くと──丁度近くに座っているのが小町だ。
「あら、スキーしてきたのね」
「ええ」
 ミントは頷きつつ、無月がカフェオレを頼んでいるのを見ると自身もそれを注文。一緒に飲んで優しい甘味と香ばしさを味わった。
 無月はほう、と寛いだ吐息を零す。
「……温まる」
「美味しいですね。小町さんは、先程からここに?」
 ミントが尋ねると小町は頷いた。
「のんびり雪景色でも見ながら、ね」
 と、スマホに打ち込んでいるのはメモ。歌詞に使えそうな言葉があれば都度取っておいて、後でまとめるつもりだ。
 外を見れば純白が眩しくて、少しの非日常がインスピレーションを刺激する。
 雪に空、光、温かな焔に人々の笑顔。
 材料となるものは無限にあった。
「歌い手にとってもここは、いい場所ね」
 勿論味覚も、と紅茶を一口含みつつ小町は微笑む。そうして暫し三人で過ごす時間は、ゆっくりとした穏やかなものだった。

 カフェは徒歩でも滑っても、リフトでも寄れる丁度いい立地にある。
 伸びる煙突が景色に美しく調和するその建物に──クリムもまた訪れていた。
 席に着くと、店員が笑顔で話しかける。
「スキー終わりですか?」
「いや、私は滑ってきていないんだ」
 柔和な笑みを返して、クリムは外の景色に瞳を向けた。
「苦手という訳ではないよ」
 こうして滑る皆を眺めるのもウィンタースポーツの一つの楽しみ方だから、と。
 視線の先で、人々が活発に滑り、時に転び、笑い合っている。洗練されたテクニックも、そうでないものも、見つめてクリムは穏やかに笑んでいた。
 そうして注文したカフェラテを一口。
「うん。美味だね」
 滑らかなミルクを含んだコーヒーが香り高く。何よりその温かさが身に染みる。
「冬の楽しみも、いいものだね」
 そうしてまたクリムは人々へ視線を注いでいた。

「おお、ここは暖かいな」
 短い時間でも冬風に当たると体が冷える。
 雪道を通ってカフェに訪れた恭介は、店内の心地良さに息をついていた。
 席につくと、頼んだのはコーヒー。
 濃色が渋みを含んだ香りを上げているけれど、甘党の恭介はミルクをふんだんに入れて、砂糖もたっぷりと溶かし込んでから啜った。
「うん、美味い」
 甘くしても芳香は残っていて、それに満足げな息を零す。
 そしてガラス越しに眺めるのは、スキーを楽しんでいる人々の姿だった。
 愉しげに笑い、そして滑っていく。そんな眺めを目にすると、この笑顔を守れたのだという実感が湧いてくる。
「ああ、良かった」
 守ることが出来て、と。
 安堵の声と共にまたカップを傾けると、その味も一入。
 それが嬉しいから──恭介はまた暫し、ゲレンデを見つめてその表情を和らげていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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