女は男の要求を全て受け入れろ！

■リプレイ

●廃墟と化したビルの前
「随分と素敵なところに集まっているようね」
　セレスティン・ウィンディア（墓場のヘカテ・e00184）は曼珠沙華の着物姿で、仲間達と共にビルシャナが拠点にしているビルの前に立っていた。
　そのビルは日本がバブル景気で浮かれている頃に建てられたものだが、不景気になるにつれて借り手がいなくなり、廃墟と化した場所だった。
　そのため、まるで巨大な墓標の如くそびえ立っており、背筋に寒気が走るほど不気味な気配が漂っていた。
「それにしても、前世紀の亭主関白路線ですか。その時代の大黒柱と呼ばれるに値する男性の器があるなら、一応の理はあると思いますけど……」
　若生・めぐみ（めぐみんカワイイ・e04506）が、事前に配られた資料に目を通した。
　おそらく、ビルシュナ達に、それだけの器もなければ、度胸もない。
　そこまでの器があるのなら、わざわざビルシャナと化して、教義を広めるような事もなかっただろう。
「一体、いつの時代からワープして来たんですか、このクズ鳥は？　信者共々、女の怖さを骨の髄まで思い知らせてやる必要がありそうですね」
　ジュスティシア・ファーレル（シャドウエルフの鎧装騎兵・e63719）が和服姿で、自分自身に気合を入れた。
　事前に配られた資料を見る限り、ビルシャナには相手を洗脳する力があるため、強い意志を持って立ち向かう必要がありそうだ。
「確かに、何も分かっちゃいねぇ。抵抗する女の子にこそ美学があんのになぁ……って、何か俺……変な事を言ったか！？」
　その途端、柄倉・清春（大菩薩峠・e85251）が仲間達から冷たい視線を浴び、驚いた様子でビクっと身体を震わせた、
　何やら余計な事を言ってしまったせいで、仲間達の冷たい視線が清春の心をザクザクと貫いた。
「まあ、いいなりになる相手など、先の分かる人生と同じくらいつまらないものだと思うがな」
　そんな空気を察した四辻・樒（黒の背反・e03880）が、小さくコホンと咳をした。
　だからと言って、抵抗する女の子に美学があると思っている訳では無いのだが、ビルシャナの教義よりはマシと言う感じのようである。
「それに、女性をモノ扱いするようなクズは、今の社会にいらないのだ。母親に感謝できないおバカに情けも容赦もいらないのだ」
　月篠・灯音（緋ノ宵・e04557）が、プンスカと怒った様子で答えを返した。
　もしかすると、そんな考えに至ってしまうほど、女性達から酷い扱いを受けていたのかも知れないが、だからと言って何をやっても許される理由にはならない。
「こんな横暴な鳥と男共は全員この宇宙から消えればいいんですけど！　そう言う訳にも行きませんから、鳥だけでもこの場で始末しておきましょう」
　そう言ってアルケイア・ナトラ（セントールのワイルドブリンガー・e85437）が仲間達を連れて、廃墟と化したビルに足を踏み入れた。

●廃ビル内
「いいか、お前ら！　女は男の要求をすべて受け入れるべきだ！　それなのに、最近の女は、やれアッシーだ、メッシーだ！　実にけしからん！　そんな奴は、俺達の手で再教育してやるべきなんだ！」
　ビルの一室ではビルシャナが男性信者達を集め、自らの教義を語っていた。
　それは、かなり時代遅れで残念な教義であったが、男性信者達はビルシャナの言葉を鵜呑みにしており、妙に強気な態度を取っていた。
「ア・ホ・ン・ダ・ラ！　わかってねぇなぁ、女の子ってのはな、自分の好きなことしてる時が、いっちばん油断もあるし、可愛いんだよ！」
　そんな中、清春が呆れた様子で、ビルシャナの教義を固定した。
「それは単なる思い込みだ！　それこそ、女が俺達を利用するために使うテクニック。お前も、それに騙されているだけだ！」
　ビルシャナがクワっと表情を険しくさせ、清春の言葉を頭ごなしに否定した。
　この様子では、そう言ったやり方で何度も騙された経験があるのだろう。
　ビルシャナ達の瞳には、薄っすらと涙が浮かんでいた。
「ここにおわす方々がなぁ、これからテメーらを好きに料理（説得）してくださるぞ！　嬉しいだろ、嬉しいよなぁ？　オレだってされてぇが、まっ、今回だけはテメーらに譲ってやる。そんじゃ、先生方お願いします」
　清春がビルシャナ達を煽るだけ煽り、素早くササッと部屋の隅まで移動した。
「あなた方が女性に要求するものは、主に家事と……大変言いにくいのですが性欲処理？　あと人によっては金品を貢いだり、愚痴の垂れ流しを文句一つ言わずに聞いたりしてもらうことですか？」
　清春と入れ替えるようにして、アルケイアがビルシャナ達の前に立ち、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、汚物を見るような目でジロリと睨みつけた。
「ああ、その通りだ」
　ビルシャナが躊躇う事なく、キッパリと答えを返した。
「……殿方、お呼びでしょうか」
　その気持ちに応えるようにして、セレスティンが曼珠沙華の着物姿で三つ指を立て、赤い紅をさした唇でビルシャナ達に微笑みかけた。
「私は殿方の皆様に尽くします。まずは従属の証として手作りおせちをご賞味下さいませ」
　ジュスティシアも楚々と和服姿で、セレスティンの横に並び、ビルシャナに重箱を手渡した。
「……お、気が利くじゃないか！　やはり、女はこうでなくっちゃな！」
　ビルシャナが上機嫌な様子で、手作りおせちを口にした。
　だが、重箱の中に入っていたのは、ハバネロと生クリームの紅白かまぼこ＆紅白なます、キムチとマヨネーズとパイン汁をぶちこんだ田作り、ワサビたっぷり栗きんとん、大量の砂糖と蜂蜜を塗ったくった鰤の西京焼き、砕いたサルミアッキを混ぜた伊達巻き、チュロスの昆布巻きと言った地雷の盛り合わせ。
「なんだ、これは……！」
　それを口にした途端、ビルシャナの顔色がみるみるうちに青くなり、怒りに身を任せて、重箱を床に叩きつけた。
「そんな時は、月ちゃん特製のあったまる御茶なのだ！」
　すぐさま、灯音がビルシャナに、激辛タバスコ茶をサッと手渡した。
「わ、悪いな！　……って、辛いィィィィィィィィィィィィ！」
　ビルシャナが激辛タバスコ茶をごきゅごきゅと一気に飲み干し、顔を真っ赤にしながら、御茶を床に叩きつけた。
　何度も酷い目に遭ったせいか、ビルシャナは怒り心頭。
　今にも殴りかかっていきそうな勢いで、拳をぶるりと震わせていた。
「これでお分かりになりましたか……？　例え一時従わせても、女は反撃の機会を虎視眈々と狙ってるんです。決して諦めることはありません。定年退職後に家事が全く出来ない夫に離婚届だけ残して去る妻とか、若くて未婚でも閨房で従順に致したら、男性機能と技術の貧弱さや恥ずかしい特殊性癖などを周囲とSNSにぶちまける人もいます。こんなのは序の口で、夫に保険金掛けて食事は糖分塩分脂肪分山盛り、急ぐ時は車にちょっと細工とか、酔い潰れてる間に風呂へ沈めて……なんてね、ふふ」
　ジュスティシアが養豚場の豚を見るような冷血な目で、ビルシャナ達の不安を煽るようにして答えを返した。
「亭主関白を気取るのは自由ですけど、それに値する器があなた方にありますか？　あるというなら、そうですね……女性を守れるだけの力があるか、見せてもらいましょう。それでは、一人ずつ試してあげます」
　それに合わせて、めぐみが手加減攻撃を仕掛け、男性信者達の意識を奪っていった。
「お前らだけは、俺の手で……！」
　ビルシャナが殺気立った様子で、傍にいたセレスティンを殴ろうとした。
「……いいわ、もっと厳しくしてちょうだい。まさか、これだけ……？　この程度の事しか出来ないの？　そんな訳がないわよね？」
　セレスティンが舌舐めずりをしながら、物足りない様子でビルシャナ達に迫っていった。
　その気迫に圧倒されて、ビルシャナの拳が、セレスティンの顔面ギリギリで止められた。
「自分の思い通りにならなれば、暴力ですか。しかも、相手を選んで暴力を振るおうとするなんて笑うしかないですね。……あ、だから非モテでこんな所にいるんですね」
　めぐみが心底軽蔑した目で見つつ、ビルシャナ達を嘲笑した。
「なんだと、貴様！」
　ビルシャナが顔を真っ赤にしながら、興奮した様子で鼻息を荒くした。
「横暴なあなたでは、誰も相手にくれないのも納得ですね。例え、そう言った相手が出来たとしても、裸足で逃げ出すでしょうし……。その末路は荒れ果てた部屋で孤独死といったところですか。それが嫌ならまず、女性が同じ人間であることを理解して下さい。女王様扱いしろとまでは言いませんが、せめて対等な関係を目指しなさい！」
　アルケイアが絶対零度の冷たい目で、嫌悪感をあらわにしながら、ビルシャナ達を叱りつけた。
「お前に俺達の何が分かる！　やはり、教育ッ！　再教育が必要だ！」
　ビルシャナが鬼のような形相を浮かべ、殺気立った様子で迫ってきた。
「まあ、落ち着け。相手を尊重すれば、相手も自分を立ててくれるものだ。どうしても相手を自分の思い通りにさせたいなら、最低でもそれなりのものが必要だが、 お前にはあるのか？」
　樒が男装して灯音をエスコートしつつ、ビルシャナの前で値踏みした。
　しかし、ビルシャナは見るからに、貧相。
　金もなければ、権力もない感じであった。
　だからと言って、ルックスが良い訳でもなかった。
「う、うるさい……」
　そんな空気を察したビルシャナが、気まずい様子で視線を逸らした。
「それより、お互いに尊重し合える方が色々可能性はあると思うが……」
　樒も残念なナマモノを見る感じで、ビルシャナの顔を見返した。
「はい、樒。熱いから気を付けてなのだ」
　そんな中、灯音がコーヒーを淹れ、笑顔を浮かべて樒に手渡した。
「ん、ありがとうな。灯の淹れたコーヒーは美味しい」
　樒が灯音を抱き寄せ、ビルシャナ達に見せつけるようにして、優しくキスをした。
「心が通じ合っていれば、言葉はいらない……という事か！」
　ビルシャナがイラッとした様子で、激しくこめかみをピクつかせた。
「……ん？　死にたがりがいるなら、私が喜んで引導を渡してやるぞ」
　その気配に気づいた樒が灯音を守るようにして陣取り、警告混じりに呟くのであった。

●ビルシャナ
「俺の前でイチャイチャしやがって！　もう頭に来た！　お前達だけは……ぶっ殺してやる！」
　その途端、ビルシャナが全身の筋肉を隆起させ、強力な破壊力を秘めたビームを放とうとした。
「ここまで言ってもわからないなら、しょうがないな」
　樒がやれやれと言わんばかりに、深い溜息を漏らした。
「さすがに教祖様は信者みたいな情けなくないですよね……では、遠慮なく」
　それに合わせて、めぐみの懐に潜り込み、苦痛の指先（フィンガー・オヴ・ペイン）を仕掛け、ビルシャナのツボをつきまくった。
　そのため、ビルシャナは全身の力が抜け、ビームを放つ事が出来なくなった。
「……再教育するんじゃなかったんですか？」
　続いて、アルケイアがランスインパクトを繰り出し、ビルシャナにプレッシャーを与えた。
「それに……食べ物を粗末にするのも、よくありませんね」
　そこに追い打ちを掛けるようにして、ジュスティシアが激マズおせちをビルシャナの口に押し込み、ガトリングデストラクションを仕掛けて、その体に幾つもの風穴を開けた。
「うぐぐ……こんなはずでは……」
　ビルシャナが悔しそうな表情を浮かべ、虚ろな表情を浮かべて、ケルベロス達を睨みつけた。
「あぁ、足りない、私の愛はそんなんでは埋まらない」
　その隙をつくようにして、セレスティンがビルシャナに抱き着き、骨が軋むほどの力を込めた。
「ちょっ、痛い、痛い、痛いッ！」
　ビルシャナが涙目になって、必死に両手をバタバタとさせた。
「……あなたは全てを受け入れろと言っていた癖に、あなたが私に差し出してくれるものに、それだけの価値はないようね。私の愛は、その程度では埋まらないのよ。だって、私は……殺してしまいたいほど、あなたの事を愛しているから」
　その態度に幻滅したセレスティンが、ビルシャナを突き飛ばし、ピンヒールで踏みつけ、勢いよくハンマーを振り下ろした。
　次の瞬間、ビルシャナの頭が花火の如く弾け、主を失った身体が痙攣した後、動かなくなった。
「迷わず、成仏するのだ」
　灯音がビルシャナに見下ろし、なむなむと両手を合わせた。
「ここは、一体……」
　その間に、男性信者達が我に返って、訳も分からず首を傾げた。
「何があったのか説明しますので、一緒に御茶でもいかがですか？」
　それに気づいためぐみがラブフェロモンを使い、男性信者達の心を鷲掴みにした。
「強気な女がいかに美しいか、教えて欲しいヤツは、オレについてこい！」
　清春も男性信者達の肩を抱き、イイ笑顔を浮かべて、男性信者達をイケない店に誘った。
　男性信者達は未だに状況を理解していなかったが、愛想笑いを浮かべつつ、ふたりと一緒に部屋を出た。
「……樒。月ちゃん、疲れちゃったのだ。あとで、パフェ食べさせてほしいのだ。あとケーキも食べたいのだ」
　そんな中、灯音が甘えるようにして、樒にギュッと抱き着いた。
「パフェか。それじゃ、今から近所のカフェに行くか」
　そう言って樒が灯音に手を引かれ、一緒に部屋を出ていった。

作者：ゆうきつかさ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2020年1月6日 難度：普通 参加：7人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 3／キャラが大事にされていた 2
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