ユエの誕生日と、新年のご挨拶

作者:baron

 庭園を抜けると大きな屋敷があり、借り上げた一室に皆で上がり込む。
「あけましておめでとさんです」
「「おめでとうござまーす」」
 沢山の鍋と沢山の火鉢。
 テーブルの上には何種類ものお餅と、色々なトッピングが並んでいる。
 鍋には雑煮やお汁粉、大きな網やら小さな網の上でお餅が焼かれていた。
「寒い中、ようおこしやす。火当たりながらお餅でも食べましょか」
「「はーい」」
 まずはみなで新年の挨拶をして、お餅バイキングを楽しみながら後はお食事会だ。
 もちろん雑煮で腹を膨らませて、その後にオヤツのお雑煮、あるいはキナコ餅にお汁粉などなど食事だけでも楽しめる。
 多いな冷蔵に食材もあるようなので、お餅だけでは物足りなければバイキングなり水炊きと言うのも良いかもしれない。


「ユエさん、今回は何かゲームがあるんですか?」
「せやねえ。村の地図で福笑いゆうのもええですかねえ」
「村の地図で? あ、なんかお家がデフォルメされてるね」
 旅館やら食堂やらが描かれた家屋の絵がある。
 それぞれにデフォルメされているが、すべてが同じ大きさになっている。
「全部お同じサイズですけ、形で判らしまへんえ。そのうえで、好きな順番で並べていくんですわ」
「へー。オリジナルの村って感じだね」
「異世界転生モノの小説とかゲームに使えそうだなあ」
「畑がど真ん中にある村って、何に使うのよ? しかも間違えて張ってるから池の中に旅館があるし」
「そこはホラ……宮島みたいに湖の中のお屋敷なんですよ」
 そんな感じでワイワイ言いながら、絵を描くのが上手い物が新しい建物を描いて、それぞれのオリジナル村を作り始めた。
「本年もよろしうお願いしますえ」
「お願いしますねー」
 ユエはその間に個別に挨拶回り。
 今年の縁を繋ぎに行ったという。


■リプレイ


「あけましておめでとう! ユエ誕生日おめでとうな!」
「ユエお姉さん、お誕生、おめでとうございます……!」
 レヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)と地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)は皆を代表してご挨拶。
「あけましてておめでとさんです。お祝いもおーきにな」
 ユエ・シャンティは微笑みながら扉を開け、一同を屋敷の中に迎え入れた。
 そこは地面の上に三十センチ大の石が幾つも埋め込まれ、土を踏まずにお屋敷の中に入ることができる。
 もちろん石の上を通らずに、土を踏んでも、入り口で汚れを落とせるのだけれど。
「今年もヘリオライダーの皆には世話になるよ。宜しくな!」
「本年もよろしう願いしますえ」
 レヴィンはユエに挨拶すると、トイレに行くと称してさっそく探検を始めた。
「今年のプレゼントは雪の結晶の飾りがついた髪留めを選んでみたのですが、こういうものにあまり詳しくなくて……。ど、どうでしょうか……?」
「ありがとさんです。夏雪くんが選んでくれたなら、どれも嬉しいですがですが……。せっかくやけ、今つけてもらおーかな」
 上り口に付いた所で夏雪がプレゼントを渡すと、ユエは軽くしゃがみ込んで編み込んだ髪の一部を指さす。
 そこに付けろという事なのだろうと、夏雪ははにかんだ笑顔でそーっとそーっと付けたのです。

「おやしき、おおきい……!」
 その頃、ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)は物珍しそうにきょろきょろしながら、ハっと思い出して仲間の後ろを追いかけた。
 迷子に成ったら大変である。
「すごいお屋敷なんだよ! すごいんだよ! 大きいんだよ~!」
「おやおや、随分立派なお屋敷だ」
 火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)はカメラを片手に、ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)はピンククマぐるみのマルコを抱いて続いた。
 その後ろから翼猫のクロノワが歩き、ロナがようやく追いついてきた。
 いつも見てる尻尾が揺れるのを見て、ロナはようやく一息付けた。
(「みたことないもの、いっぱいで……きになるけどちゃんとついてかないと」)
 言葉には出さずに決意をするのだが、カコンと音を立てる鹿威しに驚いたり、活けられている花を見て微笑んだりと忙しい。
「タカラバコちゃんにも見せてあーげよ!」
「いまのとるの、はんそく! ひどいひどい」
 ひなみくが撮ったのは、ロナが置物として配置された万華鏡を覗いている姿だった。
 だって仕方ないではないか、こういうのは壺とかクマの木彫りだと思うのに、万華鏡の他にも妖怪の人形やら置いてあるのである。

「枯山水か。庭の方も立派なものだ」
「ボクは西洋風が好みだけど、こういった日本の趣も好きだよ」
 ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)は良く見る石とは色彩の違う色の枯山水を見て、ホウっと声を漏らす。
 妖怪人形をマルコと比べて『勝った』とかやっていたニュニルは、ウンウンと頷きながらアレンジを見比べた。
 枯山水の色が違うのは、おそらく大岩や木々の方に合わせたのだろうと結論付ける。人形や万華鏡は違和感があるが、もしかしたらそっちはユエが子供たちのために揃えたのかもしれない。
「それにしても、こんなでっかいお屋敷で、どんな豪勢な料理が振る舞われるんでしょう!?」
「多分……餅メインだな。焚きしめた香の匂いに紛れて、炭の匂いがする」
 楠木・ここのか(幻想案内人・e24925)が嬉しそうに尋ねると、ゼノアは目を瞑って匂いを嗅いでみる。
 変身してないのでそう鼻は強くないが、それでも炭が燃える火の香りは独特だ。
 もっとも火打石の匂いがするワインの話を聞いたことがあるので、良く似た別物である可能性はあるだろう。しかし正月である、お餅の可能性の方が高い。
「今年の運の大部分を消費してしまう気がします……ってお餅? まあいいや!」
 ここのかは豪華な食事を期待していたが、お餅と聞いて少し残念に思った。
 しかし食事には旬というものがある、正月ならば美味しいお餅というのは最高の組み合わせだろう。
「あ、こんな所に和風柄の冷蔵庫を発見。アジュアにもおめかししてあげた甲斐がありましたっ!」
「寄木作りにしては大きいと思ったんだけど、冷蔵庫だったのか。なるほどねー」
 ここのかは扉が冷蔵庫になっているのを発見し、中にお肉があるのをみーっけ。
 その様子をパシャリと映しながら、ひなみくはテレビウムのアジュアも映してあげた。正月に合わせて着飾ったのだ、一枚くらい良いだろう。


「餅だーーー!! 何ここ、楽園!?」
 レヴィンはテーブルに並べられた、無数のディップを確認していった。
 雑煮も普通のだったり白みそだったり地域色が豊かだ。
「味噌餅に、納豆餅に、うぐいす餅に、そねみ餅に、大根餅……。あとあと、ずんだにアイスにピザ餅・揚げ出し餅と……ふふふ。餅の可能性は無限大だー!」
 色とりどりの小皿にディップを取り、絵画用のパレットが必要だったかなとユエ辺りに心配されていた。

「……わ、これでおもち、やけるの……!?」
 ロナはお餅が膨らむさまを眺めて、まだかなまだかなー。
 座敷には昔ながらの火鉢に網が置かれ、上には幾つものお餅が並んでいる。
 プクーっと膨らんで来たら頃合いだ。
「ふふふ、もう少し、もう少し……。もういいかい?」
「よし……ぼちぼちいいだろう。順番に食っていけ。喉に詰めんようにな」
 ビビが入る程度はまだまだとニュニルとマルコが首ったけ。
 ゼノアが奉行に就任し、ヒョイヒョイっと焼きあがった餅を網の隅っこへ移動させていった。
「わたし、きなことあんこと……あとおさとうと……」
「お餅にはやっぱり醤油! おもちもっちもちー♪ 美味しいですけど、あんまり沢山食べすぎると後が食べられなくなるのが悩みどころです……」
 三つ目に箸を伸ばしかけていたラナだったが、危ない危ない。
 ここのかが教えてくれなければ即死だった。
「……あ。…おなべも、あるんだった……」
 悲しい顔でロナが見つめているが、あんまりはいらないの。だからしょうがないじゃない。

「それじゃ、頂きまーす♪ おっとと、黄な粉を溢さないようにしなきゃ。黒蜜もあるのはいいねえ」
「お餅~! 私は砂糖派です!」
 あっまーい♪
 ニュニルとひなみくはパクリとお餅を口にしたり……。
「んまー! これ映えるかな? 写メ撮って後で上げよ!」
 ひなみくはお皿に掛かれた金魚や駒の絵を下敷きに写真を撮った。
 ちなみに葉っぱや竹を描いた普通の皿もあるが、普通過ぎて没カットだ。
「俺もまずは醤油をつけて……それから餡子も包んでみるか。海苔?」
「磯辺揚げ風にしようかとー」
 ゼノアもようやく自分の餅を食べ始めると、ここのかが醤油に浸した餅を巻いてから、もう一度焼き直し始めた。
 更にもういっかい浸して、味をしっかり付けてから食べる。
 そのうち餅は飲み物ですと言い出しかねないか心配である。

「ユエお姉さん。今年はまた、前とは違った面白そうなゲームがあります……! 地図の福笑い……?」
「同じ大きさに切ったシールに建物やら畑の絵が描いてあるんですわ。シールはマグネットで固定できるけ、このホワイトボードにペタリとな」
 夏雪がお餅を食べ終わって見ていると、ユエがB5用紙くらいの絵を取り出していた。
 裏はトランプの様になっており、傍目からは磁石には見えない。
「いったい、どうやって遊べばいいのでしょうか……? あっ、ユエお姉さん……! ルールを教えてもらいながらになってしまうのですが、もしよろしければ、一緒に遊びませんか……?」
「ええですよ。まずはこおやって」
 夏雪がくれた髪飾りが落ちないようにユエは手ぬぐいを目の周囲に巻いた。
 そして手探りで村の絵を手に取り、適当にシャッフルしてから張り付ける。
「碁盤目状においてもええですが、この際やけ、極端な置き方をしますな」
「ペタリとくっ付きました。ええと、それ以上はホワイトボードから出ちゃいます」
 ユエはできるだけ離れた場所にピースを一枚一枚張り付けていった。

「おっ。なんか始まったな。畑の隣にお寺があって、離れた場所に井戸と池、その脇に家か」
 レヴィンが眺めていると、ユエがシールを張り付けていく。
 畑は寺社領という感じだが、井戸と池が隣接しているのはどういう事だろう。
 そこを挟んで家が数件並ぶのだが、港町という感じだろうか?
「あ、なんか面白そう」
「煮えるまで時間が掛かるからな、遊んでてもいいぞ」
 ひなみくがカメラを持って立ち上がると、ゼノアは鍋をつつきながら答えた。
 まさか奉行を放置したことで、あんなことに成ろうとは……。
「後で見せてあげるね。でも、あれはどういう感じなのかな?」
「んー。港町というよりは、河川の脇にある荷下ろしの街かな? 家は船主とか木材商なのかもしれない」
 ここのかが新しいポラロイドでパシャパシャやってると、ニュニルが適当な注釈をつけていく。
「それならこっちが商人さんで、あっちが船主さんちですわね」
「ふむふむ」
 ひなみくの言葉に頷きながら、ここのかはペンでその注釈を書き加えていった。

「あうあう……」
「どうしたの?」
 そんな風に眺めていると、ロナが青い顔で鍋を見ていた。
「とりあえず肉だろ。あと魚。それに肉、魚……」
 そこでは鍋に、お肉がザッパーンザッパン。大量に投入されているではないか。
「……おにくやだ……」
「……すまん。本能のままに入れ過ぎた。野菜メインの鍋も作ろう」
 そこにはロナが食べられないお肉の軍勢が待ち構えていたのだ。涙目になろうというものである。
 ゼノアは頭をかきながら、もう一つ鍋を用意することにした。
「私はお肉とお魚だけでじゅーぶんですっ! お野菜は差し上げますね。……み、皆さんよろしくお願いしまーす……」
「うんっ!」
 ここのかは逆に野菜がダメなのか、鍋を覗き込みながらお野菜をトレードに出すことにした。
 ロナが嬉しそうに頷いているが、これも需要と供給という奴だろうか。
 あ、アジュアもお野菜いけるんですねー……。なんだ、意外とバランスが取れてしまった。鍋が多いやどうしよう。

「ちょっと多過ぎたようだ。要らないか?」
「お、すまないな。他の卓にもおすそ分けしていくな」
 ゼノアが作り過ぎたので、レヴィンたちに持っていった。
 それを自分の分だけお椀に入れると、レヴィンはゼノアの代わりに持って移動していく。
「なんか作り過ぎたってさ。ありがたくいただこうぜ。そっちのゲームも後で交代してくれよ」
「あ、はい。いただきます。色々な村を作れて楽しいですよ……!」
 レヴィンにお礼を言いつつ夏雪は鍋にお餅をいれて雑煮にした。
 そしてフーフー言いながら、おなかがポッコリ。
「遊び過ぎたので、ちょっとだけ休憩です……。おもちもたく……さん……」
「ふふ。よーお休みになってな」
 夏雪がコテンとしたところで、ユエは上に毛布を掛けて移動した。

「お鍋ありがとさんです」
「こちらこそ小隊ありがとう、だ。……うん。これこそ冬の醍醐味というやつだな」
 ユエがお礼を言いに行くと、ゼノアは鴨鍋やら牛やら食べた後、いちばん食べやすい豚肉に戻ってきたようだ。
「なんか、こういう新年会って参加したことなかったですから、新鮮ですねぇ」
「ボクはキノコや豆腐メインで欲しいかな。皆で食べると心も身体もあったまるね」
 ここのかはお肉と魚を、ニュニルはキノコや豆腐をつついて、冷ましながらハフハフと食べていく。
 海老や貝類はどうしようかと思案し始める。
「おーにく !おーにく! おーにく! わたしはお肉が大好きなので問題ないですな! いっただきまー……っと忘れてた」
 ひなみくはそんな中で鍋をつつくみんなの写真を撮った。
 そしてタイマーを設置して、同盟を結んだ仲間たちの集合写真を一枚。
「此処にね、『今年も優勝! がんばるぞいぞい』っと……。こんな風に書いてって。これで思い出になるんだよ! 可愛いんだよ~!」
「えっとえっと、ことしもいっぱい、かてるといいね……!」
 ひなみくがピンクのペンを渡してくれたので、ロナは『「1月某日 旅団の皆と(はーと)』と隅っこに書かれた写真に自分も書き込んでいく。
 照れ顔でピースする姿は傍目から見て可愛かった。
「沢山英気を養って、今年も頑張ろう。かな? そっちは?」
「特に考えてないが……。これでいいだろう」
 ニュニルがペンを渡すと、ゼノアは躊躇なく自分を映した写真の上に『肉』と書き込んだ。
 勇者だ、勇者が此処にいる。
 眠っている夏雪のおでこではなく、ゼノアは自分の写真の上に書き込んだ。まあ、集合写真の上にはやらないけれどね。
「皆さん、今年もよろしくお願いします! これって何度言っても良いものですよね」
 ここのかはこの場に居ないメンバーに伝えようと、新年のご挨拶だ。

「……ごめん、ちょっと羽目外したみたいだ。今日はありがとう!」
「も……たべられません……」
 宴が一通り終わったところで、レヴィンは少しだけ声を潜めて退去のお礼を伝えた。
 夏雪が眠ったままなので静かにしていたのだ。
「ふふ。みなさんよーさん食べられましたな。残ったお餅はお土産にしておくれやす」
「「はーい」」
 ユエはみんなを送りながら、お土産の袋を持たせていった。
 そこにはたくさんのお餅と、それぞれが気に入ったというディップの瓶が入っていたという。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月15日
難度:易しい
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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