なぜ、あげなければいけないのか

作者:星垣えん

●炬燵の中の野望
「俺は思うんだ。なぜお年玉などというものがあるのかと」
「ほー」
 とある民家の居間。
 のんびりと信者たちと炬燵を囲んでいた鳥さんが、卓上の籠から蜜柑を取りながら世間話のように切り出した。信者は蜜柑をむぐむぐ食いながら次の言葉を待つ。
「子供はいいよ? プラスしかないからね? でも我々のような大人は、新年早々に何万も出費したくねえんだよ! ぽち袋とか用意するのも面倒くさいしさぁ!」
「あーそれは確かにっすね」
「お年玉がなければ買える物もあるのにねー」
 皮むいた蜜柑をまるごと嘴に放りこみ、だむっと卓を叩く鳥さんに、信者たちがテレビ見ながら適当に頷く。本当に信者なんだろーか。
「百歩譲って俺も貰えるならお年玉とかいう慣習があっても構わん。だが大人は現ナマを受け取れないというのなら、俺はお年玉など廃止するべきだと思っている!」
「豪気っすねー」
「テレビの音、聞こえない……」
「テレビなど見ている場合か!」
 ぷちっ、とリモコンでテレビをOFFする鳥さん。
 彼はがばっと炬燵から立ち上がると、4人の信者たちを見渡し、高らかに宣言する。
「日本の正月を変えるぞ! お年玉なんてあげなくてもいい年始に変えるんだ!」
「も、燃えてる!」
「じゃあ、日本の意識改革といきますか!」
 それまでやる気のなかった信者たちも目の色を変え、一斉に立ち上がる。
 しかし、室内でもわかる冬の寒さが、炬燵布団でぬくっていた太腿を襲った。
 流れる沈黙……。
「お年玉は絶対に廃止する。だが外出するのは暖かい日でもいいんじゃないだろうか」
「そっすね。異議なしっす」
「はー寒っ……」
 いそいそ、と炬燵の中に戻ってゆく鳥と信者たちであった。

●先々を考えてね
「大変なんだよ! お正月が大変なんだよ!」
「みんなにお仕事ですよー!」
 猟犬たちが姿を見せるなり、七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)と笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が駆け寄ってくる。
 だが絶対に大した仕事ではないことを、一同は確信した。
 2人の手に、饅頭とお茶があったからである。
「寒いから熱いお茶を飲んで待ってたんだよ!」
「お茶請けのお饅頭はねむが買ってきました!」
 お茶を啜る瑪璃瑠、誇らしく敬礼するねむ。
 それがひたすらどうでもいい情報であると教えると、2人は慌てて説明した。
 ビルシャナが民家に信者を集め、炬燵でぬくぬくしていること。
 お年玉が嫌すぎるのでお年玉のない正月にしたがっていること。
 しかし寒いので炬燵から抜ける踏ん切りがつかないこと。
『どこが大変なんだ』
 口には出さずとも、そう思うしかなかった猟犬たちである。
 放っておいても大丈夫じゃないの? 少なくとも正月のうちは安泰なんじゃないの?
「冬が終わったらビルシャナたちは行動を開始するかもしれません! そしたら信者さんがどんどん増えて、次のお正月は大変なことになってること請け合いです!」
「長期的スパンなんだよ! 芽は早めに摘むってやつだね!」
 ふふーん、と胸を張るねむと瑪璃瑠。
 なるほどそう言われればそうですかね、と一同はひとまず納得してあげた。
「おうちにいる4人の信者さんたちは『お年玉がいらない』っていうビルシャナの教えに賛同してますけど、それほど燃えてるってほどではないです! だから『お年玉っているんじゃないかなー?』ぐらいの意見を言うだけでもたぶん、目を覚ましてくれると思います!」
 もとより炬燵から抜け出せない程度の結束である。
 お年玉のない正月も結構味気ないだろうとか言ってやれば、あっさりと意見を翻して、ビルシャナのもとから去るはずである。
「それじゃあ出発なんだよ! 日本のお正月を守るんだよ!」
 てててて、とヘリオンに走ってゆく瑪璃瑠。寒いというのに元気である。
 かくして、猟犬たちはお正月の慣習を守りに行くのだった。


参加者
和郁・ゆりあ(揺すり花・e01455)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)
月杜・イサギ(蘭奢待・e13792)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)
シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)
エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)

■リプレイ

●容赦がない
 炬燵包囲陣にて蜜柑を食う鳥たち。
 しかし、無言だった。
「やっぱり日本の冬は炬燵だよね」
「脚から温まって極楽なのパオ。あかりさん、ありがとうパオ!」
 新条・あかり(点灯夫・e04291)とエレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)が炬燵に収まって、まったり会話していたからである。
 鳥たちの炬燵の横にね、もうひとつ炬燵があるんすわ。
 隣で丸まってるくらがり(飼い猫)の背中を撫でながら、あかりは呟く。
「……猫は炬燵で」
「丸くなってんじゃねええぇぇ!!」
 たまらず鳥さんがツッコミカットイン。
「どうして人ん家でまったりできるの!? 最近の若者怖いよ!」
「わたしもそう思うんだよ~」
 鳥さんの嘆きに頷くのは火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)だ。
 炬燵にすっぽり収まってるオラトリオは、火にかけている土鍋に鶏肉を落としこむ。
「お鍋の準備も少し手伝ってほしいんだよ!」
「それも違ーーう!!」
 ガン、と卓を叩く鳥さん。
「人ん家で水炊きを食うな! 少しは遠慮を――」
「あ、ぱおさん。お皿並べといて」
「了解なのパオ、ゆりあちゃん!」
「家主をスルーしないでぇぇ!」
 説教モードの鳥の横で、別の鍋の準備をしている和郁・ゆりあ(揺すり花・e01455)。煮える鍋に貝や海老をぶちこむさまに鳥は驚愕した。
「お疲れっす」
「言いたいことは言ったんじゃね?」
 敗北を認めたように肩を落とす鳥さんを、口々に慰める信者たち。
 もちろんテレビを見る片手間である。
 リーズレット・ヴィッセンシャフト(碧空の世界・e02234)は、そのさまを見て呆れた。
「少しやる気がなさすぎるのでは……」
「見るに堪えませんが、仕事をこなす上では好都合ですね」
 どすっ、とクーラーボックスを置くシデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)。そのまま炬燵に入ると彼女はボックスからアイスを取り出した。
「炬燵でアイス。これが冬場の幸せです」
「アイスか! 確かにそれは良いな!」
 アイスと聞いて目を輝かせるリーズレット。
 鳥さんたちの憩いの空間は瞬く間に、猟犬らによって侵食されていました。
 だがケルベロスとて鬼ではない。
 月杜・イサギ(蘭奢待・e13792)は鳥たちが囲む炬燵に顔を出し、ケーキボックスと5杯のアイスコーヒーを置いた。
「これは……?」
「あけましておめでとう。新年に大勢で押しかけて悪いね。これは差し入れ」
「差し入れ……こ、これはあの店の!」
 カッ、と目を見開く鳥と信者たち。
「ああ、私たちのことは気にせず。存分に味わって」
「サンクス!」
「いやー親切な人もいるもんですね!」
 わいわいとはしゃぎだす男たち。
 彼らは知らなかった。イサギがその微笑の裏で炬燵の電源コードを切っていたことを。
 ついでに卓上の蜜柑籠を回収して、後ろ手に七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)に渡していたことを。
(「巧みな技なんだよ! 流石兄様なんだよ!」)
 蜜柑の籠を胸に抱いたまま、キラキラとイサギに熱視線を注ぐ瑪璃瑠。
「……あれ、蜜柑がない」
「ってかちょっと寒くね?」
 肌寒さに震える信者たち。
 すでに若干、窮地だった。

●お年玉いっぱいやで
「やっぱこの時期は鍋よね……あ、これもう食べていいと思うわ」
「水炊きもできてるんだよ~。はいみんな食べて食べて!」
「はぁ……体が温まりますね」
 ゆりあの海鮮鍋とひなみくの水炊きが出来上がると、猟犬たちは普通に鍋パーティーを始めていた。皆思い思いに鍋をつつく中、シデルがぷりぷりの貝と鶏もも肉に唸る。
「めっちゃ鍋食っとる……」
「美味そうだ……」
 チラ見しながら、信者たちがじゅるりと垂涎する。
 けれどそんな視線などどこ吹く風で瑪璃瑠やエレコは熱々の鍋をはふはふ。
「水炊き、とっても美味しいんだよ! ひなみくさん!」
「海鮮鍋すごく美味しいのパオ! さすがゆりあちゃんなのパオ!」
「瑪璃瑠ちゃん、どういたしましてなんだよ~!」
「ぱおちゃん、これもいけるわ。とっぴーも食べなさい」
 ひなみくが瑪璃瑠の頭を撫でまわし、ゆりあが取り分けた海鮮鍋をエレコとトピアリウス(テレビウム)に振る舞う。笑顔の絶えない食卓。
 いったん箸を置くと、瑪璃瑠はあかりやエレコに目線を向けた。
「でもお年玉も楽しみだよね! 何に使おうかってとても悩むんだよ!」
「うん、お年玉は……貰えたら嬉しいかな」
「我輩も、すっごく楽しみなのパオ! お菓子でしょー、アイスでしょー、ジュースも買えるし……あっ、ゲームセンターにも行けるのパオ!」
 控えめに反応するあかり(お年玉未経験)の横で、跳ねるかのように身を乗り出すエレコ。
 信者たちはクソデカため息をついた。
「出たよ……」
「貰う側は呑気だな……こっちは身を切ってんのに!」
「それな」
 生きとし生けるすべてを憎むような表情を浮かべる男たち。それに頷く鳥は黙々とアイスケーキを食っている。完全にイサギの術中である。
 が、そんなときだ。
 ぬくぬくと鍋を食っていたリーズレットが、思い出したかのように懐を探った。
「さぁ! 子供達! お年玉の時間だー!」
「お年玉!」
「おとしだまパオー!」
「お年玉……僕も貰えるのかな?」
 当然のように素早くリーズレットのもとに集まる瑪璃瑠、エレコ、あかり。
 リーズレットから「はい」とポチ袋を手渡された3人は、その色鮮やかなちりめんの手触りを撫で、輝く瞳で天に掲げた。
「「「おとしだま……」」」
 数秒後、室内に響く3人娘の歓喜の声。
 自分のポチ袋を覗いては他の2人のポチ袋を覗く3人を指差して、リーズレットは信者たちに向かって言い放った。
「見てみろ、この可愛い子達の屈託のない笑顔! 可愛いじゃないか、尊いじゃないか! こんな笑顔が新年早々見れるのだ、お年玉の一つや二つケチらずとも良いのではないのか?」
「ウッ……」
「リーズレットちゃんの! 言うとおりなんだよ!」
 信者らへ追撃するのは、ひなみくさんだ。
「お年玉を貰った時にみんなが笑顔になる。それがすごく良いんだよ……新年一発目に可愛い子の笑顔が見れるなら、お財布が寂しくなるくらい全然ダメージにならなくない? わたしはならない! むしろあげたい!」
 さながら演歌歌手のように握った拳を振って、ひなみくは叫ぶ。
「タカラバコちゃんにお年玉あげたい……ちゃんとお留守番してて偉いねってお年玉あげたァい!!!」
「いや誰だよォ!」
「なら早く帰ればいいだろうがァァ!」
「というわけでみんなにお年玉あげちゃうんだよ。えへへ、どうぞ!」
「語るだけ語ってこいつァァ!!」
 タカラバコちゃんを想うあまり涙の粒すら浮かばせたのも束の間、けろっと瑪璃瑠たちに花柄ポチ袋(各3千円)を配るひなみくさんにキレ気味のツッコミを被せる男たち。
 そんな喧騒の傍ら、あかりはポチ袋をそっと胸に抱く。
「お年玉……何を買いに行こうかな?」
 ふふふ、とこっそり微笑んだ少女は、星空のごとくキラッキラの眼差しを信者に向けた。
 もう至近距離まで近づいて、上目遣いをキメた。
「こんなのくれる人ってすごい、僕もこんな風になりたいな。できればこんな人のお嫁さんになりたいな」
「露骨ッ……!」
「しかしこの目は精神にくるよぉ……!」
 ぱぁぁ、と擬音が見えそうなあかりの視線に煩悶する信者たち。
 そのうちの1人の肩に、イサギはそっと手を置いた。
「わかるよ。きみたちの気持ちは」
「わ、わかってくれるか……」
「お年玉は悩ましいことこの上ないよ。ポチ袋といってもどれもありきたりで、果たして気に入ってもらえるだろうか、と渡す瞬間まで不安なんだ。新年最初のおめでたいプレゼントを渡す権利をふいにはできないからね」
「「いや全然違えんですけどォ!?」」
 イサギさんへの総ツッコミが入りました。
 愛する義妹(瑪璃瑠)にお年玉をあげるのは戦い――とか思ってそうな兄馬鹿はスーツの懐から中身ギッチギチの祝儀袋を取り出した。
「メリー、あけましておめでとう。お年玉だよ。来年は高校生だね、益々成長が楽しみだ」
「わ、わ、兄様、ありがとうなんだよ! 大好きなんだよ!」
「もちろんあかり君とエレコ君にもお年玉だ」
「あ、イサギさんありがとう」
「やったー! 今年はおとしだまいっぱいなのパオ!」
 分厚い祝儀袋で瑪璃瑠を感激させたイサギが、その流れで2人にもポチ袋を手渡す。
 その間に瑪璃瑠は信者たちに近づいた。
「な、何だ……」
「いつもお仕事お疲れ様なんだよ! きっとお年玉をもらってる子たちも、たくさんたくさん感謝してるんだよ!」
「!!?」
 身構えた信者を襲ったのは、瑪璃瑠の屈託なき笑顔だった。
 その衝撃で2人ぐらい目を覚ましたのは、言わずもがなですね。

●未来のために
「あ、お肉減ってきてる? でも鶏肉いっぱい買ってきたから安心してほしいんだよ!」
「灰汁は僕が掬っておくね、ひなみくさん」
「あかりちゃ~ん、ありがとうなんだよ~!」
「ひなみくさん、はい! ひなみくさんの分、取り分けておいたんだよ!」
「瑪璃瑠ちゃんもありがとう~!」
 率先して鍋を手伝ってくれるあかりに猫なで声を出したひなみく先輩が、ほかほか湯気を立てる椀を差し出してきた瑪璃瑠に蕩けるような笑顔を見せる。
 もうね、先輩は幸せだったね。
「くっ、なんて温かい食卓だ……」
「こっちが無性に寒く感じてくるぜ……」
 アイスケーキとアイスコーヒーを見下ろす男たち。
 冷たいもの摂ってる上、炬燵もコード切れてるからね。リアルに寒かったよね。
 なので。
「ごめん、そっち入れて……」
「お断りだ!!」
「くっ、ガードが堅い!」
 猟犬たちの炬燵へ侵入しようとした。それでリーズレットにガードされた。
「お年玉をなくそうなんて考えてるうちは炬燵には入れさせないぞ。鍋も分けない」
「ないない尽くしだと……!」
「信者をやめれば考えなくもないがな!」
「くっ、どうすれば!!」
 にやりと笑うリーズレットの前で、逡巡する男たち。
 熱々海鮮鍋をつついていたゆりあは、横目でそれを見てため息をつく。
「お年玉。昔はもらう側だったゆりあも今ではあげる側ね……はい、パオさんお年玉」
「ありがとうパオ! ゆりあちゃん!」
 ゆりあから受け取ったポチ袋を抱いて、子象が小躍りした。
 しかもそれだけではなかった。
 トピアリウスもまた、とことこやってきて、エレコに蜜柑を手渡したのだ。
「え? とっぴーもくれるのパオ? どこで買ってきたのパオ……でもありがとうなのパオ!!」
 エレコにハグされたトピアリウスが気恥ずかしそうに頭を掻く。その後ろには大量に仕入れてきた蜜柑が段ボール10箱に収められていた。主人の目を盗んでいつ調達してきたんや。
 ゆりあは、嬉しそうなエレコの顔を指差した。
「見なさいこのおぱおの嬉しそうなこの顔を! ほっこりするでしょう!」
「う、うーん……」
「まあ……?」
 歯切れの悪い返事をする信者たち。
 だがゆりあの勢いは衰えず、むしろ言葉は激流のように溢れだす。
「こうやって文化っていうのは継続されていくものよ。ほらほらお年玉の袋はまっだまだあるわよ? あんたたちも素直に欲しいっていったらあげなくもないわ!」
「お年玉をくれるだと!?」
「もしくは一緒にこたつに入る? めっちゃくちゃぬっくぬっくよ! ほら、最初に素直にやってきた人には多めのお年玉を渡しちゃうわよ!」
「何ぃ!?」
 ぐぐっ、と炬燵へ向けて身を乗り出す信者。
 これは完全に揺れている――シデルは眼鏡をくいっと直し、水炊きと海鮮鍋をたらふく食べた口に一服の茶を含んだ。
「確かに大人にとって、お年玉の準備は面倒です。ですがマイナスしかない、とは私は思いませんよ」
「何だと……?」
「馬鹿を言うな! マイナスしかないだろう!」
 シデルの言葉を聞いた信者が、やいやいと文句を垂れる。
 けれどシデルはかぶりを振ってその抗議を一笑に付す。
「皆さんにも覚えがありませんか。受け取ったお金の使い道に真剣に悩み、選び取った玩具を買いに行く。或いは然るべき時の為に貯金にまわす……そういった金銭のやり繰りを学ぶ機会を、我々は子供に与えているのです」
「……そ、それは確かにそうだったが……」
「だが昔は昔! 今は今だ!」
「そうですか。しかしやがて晩年となった我々を税金で支えるのは大人になった彼ら……我々が育てた彼らなのですよ?」
「「ハッ!?」」
 男たちが、ひらきかけた口を止める。
 何かに気づいた顔だ。それを見てシデルは頷いた。
「わかりましたね? 彼らにお年玉をあげるのは未来の我々の為、そう、これは先行投資ともいえるのです」
「「なるほどッ!!」」
 シデルの言葉に開眼する男たち。
 お年玉は損ではない――そう知って彼らの目は覚めていた。
 鳥さんがその事態に気づいたのは、アイスケーキを完食した頃であった。

●それぞれ、まったり
「ぴ……ぴぃ……」
 腰を抜かし、鳥語を発するビルシャナ。
 彼を挟んで立つのは、リーズレットとホッケーマスク少女だった。
「あんまピーピー鳴いてると鍋の具材にするぞ!」
「……お正月から鳥料理も良いよねえ? 鳥すきとか、水炊きとか」
「ぴぃぃぃ!!?」
 さっと刃物をちらつかせる2人に、ヒヨコのように鳴き散らす鳥さん。
 もちろん逃げられるわけもなく、鳥さんは潔く現世から旅立った。
 昇天してゆく光――を何気なく見送っていたひなみくが、ハッとなる。
「そういえば仲のいい子たちにお年玉あげてなかったんだよ! お年玉をあげなきゃなんだよ!! うおおお! 唸れわたしのATM!!!」
 猛烈な勢いで家を飛び出してゆくひなみく。
 駅前の銀行を目指して消えたオラトリオの勇姿を見送りながら、シデルは炬燵の卓上にアイスケーキを置いた。
「さて、ではデザートタイムですね」
「デザート、いいわね!」
「お鍋で温まったから、ひんやりがいいのパオ!」
 すぐさま飛びつくゆりあ&エレコ。
 切り分けたそれをぱくぱくしながら、ゆりあはエレコをチラッ。
「ところでぱおさんの去年の年収は、お年玉何千倍ぶんだったの?」
「え。ゆ、ゆりあちゃん何を言うのパオ……そんなわけないパオ……」
「あ! 目を逸らした! どれだけ! どれだけ稼いでるのぱおさん!」
「な、内緒パオ! 年収はNGなのパオォ!」
「NG!? 事務所NGってこと!? 事務所入ってるのぱおさん!?」
 ゆっさゆっさ、とエレコを揺さぶるゆりあ。今年も恒例のやりとりは健在である。
 そんな騒がしさを聞きつつ、イサギはまったりアイスケーキにフォークを差し入れる。
 そしてそれを、膝の上で丸まってるライオンラビットの口に当てた。
「美味しいかい、メリー」
「むぃ~☆」
 ぐいぐい、と頭をイサギのお腹にこすりつける瑪璃瑠。
 明日もお年玉をあげようか――と兄馬鹿はつい考えて、笑うのだった。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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