新風の日

作者:崎田航輝

 新しい年の息吹が、柔らかな風になって蒼空に吹き抜ける。
 人々は謹賀の挨拶を交わし、笑顔を見せながら。愉しげな足音を響かせて参道を歩んでいる。
 鳥居を抜けて拝殿に着くまで、列は連なり賑やかしく。美しく晴れ渡った空のもとで──多くの人々が初詣に訪れていた。
 神社の外も含め、長い道には多くの出店が構えられて、たい焼きに焼きそば、苺飴と彩りに事欠かない。
 歩む者はそんな味覚を楽しみ、参拝して、おみくじを引いて。涼風に冷えた躰を供された甘酒で温めながら、新年の幕開けを明るくその身に感じていた。
 けれど、そんな新しい年への希望に満ちる道に、ふらりと一体の巨影が踏み込んでいる。
「夢、展望、期待。未来に望みを寄せるその心、何とも素晴らしいじゃないか」
 それは鎧の金属音を響かせて、人波を睥睨しながら闊歩する罪人──エインヘリアル。
「けれどそれは夢想だ。期待も希望も泡沫さ」
 全ては血の海に沈む。
 それだけが真実だ、と。恍惚の様相を作った罪人は、長剣を振り翳して人々を切り刻み始めていた。
 希望の道が絶望の痕に変わりゆく。血塗れた景色の中で、刻々と静寂になってゆく時間を、罪人は楽しむように笑顔を浮かべていた。

「新年の神社にて、デウスエクスが現れるようです」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へ説明を始めていた。
 マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)はこくりと頷きつつ自身の拳を少しぎゅっと握る。
「警戒はしてたけど、本当に現れちゃうんだね」
「ええ。ですが予知することが出来からこそ悲劇を未然に防ぐことが出来ます」
 是非皆さんの力を貸してくださいとイマジネイターは言った。
「出現するのはエインヘリアルです」
 アスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれるという、その新たな一人だろう。
「参道周辺にいる人を狙って現れることでしょう」
 ただ、今回は警察の協力で避難が行われる事になっている。こちらが到着する頃には、現場の人々は丁度逃げ終わっているはずだと言った。
「わたし達は、戦いに集中すればいいんだね!」
「ええ。それによって周囲に被害を及ぼさず終わることが出来るでしょう」
 ですので、とイマジネイターは続ける。
「無事勝利できた暁には、皆さんも初詣などしていっては如何でしょう」
 沢山の出店が並び、温かな甘酒は無料で供されている。おみくじなどを引いていってもいいし、参拝して願い事をするのもいいだろう。
「楽しそうだね!」
 マイヤの言葉に、箱竜のラーシュが鳴き声を返して応えると──イマジネイターも頷いた。
「ええ。そのためにも是非、頑張ってくださいね」


参加者
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)
レヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
天瀬・水凪(仮晶氷獄・e44082)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ

●始まりの刻に
 爽やかな風が鎮守の森を撫ぜて、さわさわと翠の音色を奏でる。
 新しい年に吹き抜ける気流は快く魂を濯ってくれるよう。だからこそ、そこに侵入する邪の気配が強く感じられて──。
「……来たか」
 参道に降り立った天瀬・水凪(仮晶氷獄・e44082)は蒼の瞳を細める。
 林に挟まれた道の先。
 そこに巨躯の罪人の姿が見えていた。
「……あやつらは好かぬ」
 現れるのならば止めるまで、と。
 敵意を以て水凪が呟けば、頷くのはレヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)。ゴーグルを掛け、戦いの態勢を取る。
「折角の新年の始まり。みんなに悲しい想いはさせたくないしな。早く倒してしまおう!」
「うん! 新しい年、おめでたい日を好き勝手になんてさせないんだから。──ラーシュ、行くよ!」
 ダリアを薫らせ、優美なる翼で宙へ踊るのがマイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)。
 箱竜のラーシュの鳴き声を背に、空を滑り一撃。痛烈な蹴りを罪人へ叩き込んだ。
 後退した巨躯は、剣を構える。
「番犬か。切り刻まれに来たのかい」
「新年早々血なまぐさいことこの上ないね」
 言いながら白銀の刃を振るうのはジェミ・ニア(星喰・e23256)。白妙の髪を揺らしながら、刀身を輝かせると──。
「神様の領域に相応しくない貴方は退散願いましょう!」
 白梅の花風に乗って鮮麗な剣撃を喰らわせた。
 傷を刻まれながらも、罪人は反撃の機を窺う。が、そこへ燿く無数の星があった。
「暇は与えねぇよ」
 ラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)が奔らせる『游星』──弾丸の驟雨。容赦なく、鋭い心で放たれる星灯りは、光の交錯となって巨体を穿つ。
 罪人は呻きながらも、炎波を放った。
 が、前衛を取り巻く焔を、切り裂くように鉄塊剣で踊る影がある。
 脚を軸にひらりと廻り。艶めく髪を靡かせてリズムを取る小柳・玲央(剣扇・e26293)。
「乱暴な炎は、消してあげるよ」
 剣線の残像に光を結実させて。ステップに合わせて燿く魔力で仲間を回復防護した。
 同時、レヴィンも舞い散る花弁を顕現。風に流して治癒を進めると──。
「あとは宜しく頼むよ」
「承った」
 頷く水凪が短剣より星の加護を招来。天より降ろした光を千々に弾けさせ、星座を象らせて癒やしと護りを成していく。
 罪人は即座に連撃を狙う、が、それを凌ぐ速度で奔る端麗なるシルエットがあった。
「……やらせない」
 静かな声音で風を置き去りにする、オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)。
 靭やかに馬体を翻し、迫る刃を躱しながら連撃。鋼を抱いた拳で罪人の肋をへし折った。
 血を零しながらも、罪人は斃れず顔に憎しみを宿す。
「……やってくれるね。ここで、皆殺しにしてあげるよ」
「新年早々、罪人どもは変わらずか」
 ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)は云いながら、声音に在るのは深い慈愛。
「而して、忌々しい殺気に中てられても、我が身は最後まで黒山羊なのだ」
 即ち如何なる存在でも子供であり。
 されど“お仕置き”が必要な場合もあるという事。
 なれば、と──顕現させるのは『Eraboonehotep』の力。
「貴様の存在を否定し、抱き、還して魅せよう」
 ──おいで。我が仔よ。
 相手の存在を否定し証明を混濁させる業は、罪人に自身の在り方を見失わせ──魂を捻じ曲げる根源的な衝撃を抉り込む。

●決着
 血溜まりに、罪人は膝をついている。
 苦悶を吐きながら、それでも番犬が社を護るように戦っていると気づくと、嗤った。
「……神に願おうとも、ただの夢想だというのに」
「願い事は確かに夢も示すけれど、ね。これからの目標でもあるんだよ」
 玲央は真っ直ぐに言い返す。
「叶えるための努力ごと否定してほしくなんてないね」
「そういうことだ。未来への幸せを願う人々の希望を、絶望に変えたいらしいが──」
 声と共に月灯りが空より舞い降りる。高く跳躍していたラウルだ。
「残念だったな。俺達が居る限りソレは叶わねぇよ」
 刹那、燦めく蹴撃が巨躯の脳天を穿つ。
 玲央は『炎香・月塵撫子』──不可視の獄炎で己を纏い護りを強めると、連撃。軽やかに跳んで蹴り落としを重ねた。
「どんどん行きますよ!」
 奔りながら腕を白光させるジェミは、『Egret』。煌く手刀を掲げると、白鷺の疾さで巨体を刻む。
 同時にジェミが視線をやれば、ユグゴトが踏み込んだ。
「把捉している。追随して打つ」
 躊躇いもせず迫ると、振り抜いた鉄塊で一撃、暴力的な衝撃で巨体を吹き飛ばす。
 罪人はそれでも起き上がり、雷を伴う刺突を打つ。が、ユグゴト自身が防御すると──水凪が手を翳し治癒の魔力を収束している。
「心配は要らぬ、すぐに治そう」
 水塊の如き煌めきを内包した魔法の光は、ユグゴトの傷を浚って浄化した。
 同時にレヴィンもブレスレットを耀かせ、『黒猫の加護』を顕現。魔除け・勝利・円満の願いを具現し苦痛を治していく。
「あと少しだ!」
「ではこれで仕上げとしよう」
 と、拳気を放つのは偶然街に立ち寄っていた天月・緋那衣。残る傷を吹き飛ばしユグゴトを癒やしきった。
「それじゃあ、いくよ!」
 マイヤは両手を空に上げ、蒼空に光を招く。
 燦めくそれは『Hexagram』──きらきらと眩い程に天を満たす流星。踊り、弾け、連なる輝きが巨躯を眩ませた。
 苦痛を顕にしながらも、罪人は嘲笑う。
「全ては、無為だよ。君達の命は短すぎるのだから……」
「それでも未来を望み、次の一年を楽しむことと──無駄だと喚き、真実を知った気でいること。果たして、どちらが夢想か」
 オルティアは最後まで、咎人の諦観へ肯かず。
「あらためて考えるといい」
 自身の心を告げるよう、突撃で巨体を貫いた。
 同時、水凪は鋭利なる大鎌を携えている。
 声音に拭えぬ敵意と殺意を抱き、強く柄を握りしめ。瞬間、投擲した刃で罪人の半身を切り裂いていた。
「後は頼む」
 ユグゴトはそれに応えるよう、罪人へ歩み寄る。
 もう眠らせるべきだと、判っているから。刹那、混沌と地獄を鉄塊に宿すと──直下に振り下ろし、罪人の命を頭蓋から破壊した。

●新風
 戦いの痕を癒やせば、道に賑わいが戻ってくる。
 人々は改めて神社へと向かいながら、番犬達に明るい顔で礼を言っていた。
「人々の平穏を直すのも我々の仕事だ」
 ユグゴトは応えながら、そして、と──自身も歩み出す。
「楽しむまでが番犬と説く。皆の笑顔が私の微笑みだ。脳内に幸福を齎し給え」
「では、また面白そうな場所を探すとするか」
 と、ふらりと歩み出すのは緋那衣。隠れスポットを探し、神社を巡ろうと姿を消していった。
 マイヤと水凪、ユグゴトも参拝へ。
 厳かながら美しい拝殿の前で、お賽銭を入れて拍手と礼をする。
 マイヤの願いは“今年もたくさん楽しめるように”。
「ラーシュと一緒にね」
 そう言ってラーシュと共に笑い合っていた。
 水凪は“今年一年、皆が恙なく過ごせるように”と。願うと参拝を終えて歩み出した。
 すると甘酒が供される一角を見つけ、マイヤは足を止める。
「わたしでも飲めるの、あるかな?」
 尋ねると、アルコールのない米麹の甘酒を渡してくれたので、頂いた。優しい甘さで、ほっとするような温かみだ。
「おいしいね!」
「では、頂こう」
 水凪も共に啜ると、ユグゴトも共に飲んで。皆で温まってから──ユグゴトが人の集まる場を見つける。
「御神籤か」
「おみくじもあるの?」
 マイヤが興味津々に歩むと、近くに巫山・幽子が居るのを発見。幽子がぺこりと頭を下げると、マイヤは笑みを向けた。
「幽子も引いていこうよ」
「ご一緒してよろしければ……」
 ということで皆で引く。
 ユグゴトは大吉。家庭に良い運気があるという結果だ。
「成程、母としての前途は暗くないという結果だ」
「幽子はどうだった?」
 マイヤが向くと幽子は引いたものを示す。
「大吉でした……」
「わたしもだよ、良かったね!」
 と、笑うマイヤも大吉。友人との仲が一層良好になるという結果だった。
 水凪も仕事運に優れるという大吉。
 皆揃って一年に弾みをつけると、ユグゴトは最後に夫婦円満のお守りを買った。
「これで問題ない」
「今年も素敵な一年になりそう!」
 マイヤが実感と共に言えば、皆も頷いて。新たな年の風をその身に感じていた。

 ラウルと九条・小町は、先ずは新年の挨拶。
 明けましておめでとうと、微笑みを交わしていた。
「今年も変わらずよろしくね」
「ええ、よろしくね。さぁ、先ずは参拝へ向かいましょう」
 言って歩む小町は、花が描かれた曙の振袖。
 髪は花簪で飾り付けアップにして、可憐だ。
「小町の着物姿、とても綺麗だね」
「ありがとう。少しは貴方の近くを歩いても平気になった?」
 並ぶラウルに、小町が袖の触れない距離を取りつつ聞くと──ラウルは得意げだ。
「女の子と距離が近いとやっぱり緊張しちゃうけど。少しは大丈夫になったよ!」
「そう? よかった!」
 小町が笑みを返していると、その内に拝殿に辿り着く。
 ラウルは手を合わせて願いを込めた。
 ──今年も大切な人達が笑顔で在れますように。
 それが素直な心からの望み。
 そんなラウルの隣で、小町は願いを口に出す。
「家族が幸せでありますように」
 勿論、それは飾らぬ本心。
 ただ、気恥ずかしい願いもあって──それは心の中で呟いた。
(「隣の彼も私の家族の様な存在です。とても辛い想いをしたから、どうか幸せにしてあげてください」)
 それから最後に“広義的に全ての猫も私の家族です”と。
「じゃあ、願いが叶うか御神籤に聞いてみましょ」
 と、次は運試し。
 二人で御神籤を授かると──結果は両方共大吉。ラウルは“幸多し”、小町は“万事良好”と出た。
 ラウルは眦を緩める。
「日本に来て初めての初詣を思い出すね。参拝の仕方とか、色々教えて貰ったなぁ」
「4年前になるのね」
 日本の良さを伝えたくて頑張ってたな、と小町は懐かしむ。
「君と出会えて本当に良かったと思ってるよ」
「私も貴方と出会えてよかった」
 だからこれからも、貴方の思い出に私を刻んでね、と。笑う小町に、ラウルも優しい頷きを返していた。

「お待たせ!」
 ジェミは待っていたエトヴァ・ヒンメルブラウエに合流すると、ふわり。
 大判のストールで、先ずは彼をくるんであげていた。
「ありがとうございマス」
 その温もりに頬を和らげて。エトヴァも空色のマフラーを広げてジェミを包みこむ。
 もらった温度にジェミも微笑みを返して──エトヴァの手を引いた。
「それじゃあ、甘酒飲みに行こう?」
「ハイ……一緒に、あたたまりまショウ」
 エトヴァもそっと握り返し、二人で人の集まる一角へ歩み出す。
 早速温かなカップを受けると、ジェミはふーふー、と冷ました。するとエトヴァはその仕草に惹かれて、真似をするようにふーふーと吹く。
 そうして一緒に一口啜ると──。
「……あつ、あったか……」
「暖かくて、優しい甘さだね」
 ジェミが白い息を昇らせると、エトヴァも頷いた。
「まろやかデ、優しいお味デス。……とても、沁み入りますネ」
 ほっとする温かさに、二人で笑い合う。
 その後、再び手を繋いで歩み、店を眺めた。置物にお守り、ストラップ等々──。
「……今年はネズミが沢山なのですネ」
「子年だからね。みけ太郎が好きそうな物がいっぱいだ」
 愛猫の姿を過ぎらせつつ、ジェミは視線を巡らせる。
「お土産に何か買って行こう。……飲み込んで騒ぎにならない大きさの物を」
「ふふ、何が良いでショウ」
 ジェミの苦笑にエトヴァも小さく笑んで、選んだのはぬいぐるみ。何処にでも置いておけるし、サイズも大きめだ。
 お土産も決まると、拝殿へ。
 ──今年も家族と皆が健やかに過ごせますように。
 ──今年も大切な家族たちと、皆が健やかに、安らかな日々を過ごせますように。
 ジェミとエトヴァは一緒に手を合わせ、厳かに、そして清心に祈り──温かな心で、また歩み出した。

 レヴィンは御巫・かなみと一緒に境内へ。
「あっ、おみくじ引きましょう!」
 かなみが瞳を耀かせて指差すと、レヴィンも頷き二人で御神籤を引いていた。
 レヴィンは表情を明るくする。
「大吉だ!」
 見ると恋愛も仕事も“良し”。大満足の結果だ。
「わぁ、レヴィンさん大吉すごいです!」
「ああ、幸先良いぜ! かなみは?」
「私は……はわわわわ……」
 と、かなみは自分のを見て半ば涙目になる。
「どうした?」
「凶です……」
「え、凶?」
「『生死:危うし』って書いてます……レヴィンさん今までお世話になりました」
 かなみはぺこりと頭を下げ、辞世の句でも詠みそうな勢いだった。
 レヴィンは慌てて顔を上げさせる。
「待て待て!」
「でも……終活を急いだ方が……」
「諦めるな! よし、お互いの運を半分交換しよう!」
 レヴィンはどんと自分の胸を叩いた。
「え、半分交換なんてそんな事出来るんですか!?」
「まあな。そうすりゃ2人で小吉ぐらいになるだろ!」
「でも、レヴィンさんに悪いですよ」
 眦を下げるかなみに、レヴィンは笑った。
「はは、気にするなよ。新年の始まりだ、笑っていこうぜ!」
「レヴィンさん……!」
「じゃあ、そういうことだから……」
 レヴィンはさりげなーく手を取ろうとする──と、かなみは感極まって胸元で手を組む。
「……うぅ、ありがとうございます……! この御恩は一生忘れないです……!」
「あ、ああ」
 レヴィンが空振った手を、再び重ねようとすると……かなみは元気に歩みだした。
「それじゃあ、行きましょう!」
「お、おう」
 レヴィンは再度空振ってこけそうになる。
 けれど、二人で歩むうち、いつしか手を繋いでいたから──翼猫の犬飼さんも、見守るようにふわりとついていった。

 ノチユのお願いに対し、幽子は嬉しそうに肯き参拝の作法を教えた。
「いつもは教えて頂くばかりなので、お役に立てるなら嬉しいです……」
 そう言って説明する通りに、ノチユは倣って拝殿に手を合わせる。
(「45円で始終ご縁とはよく言ったものだ」)
 思いながら、ノチユが願うのは彼女の身に不幸が起きないように、そしてこの縁が切れないように、ということ。
 その後は共に甘酒を飲むと──。
「いこっか」
 ノチユは出店を指す。お決まりだけど、これがきっと一番喜んでくれるから。
「今年も、よろしく」
 歩みながら言えば、幽子も微笑んで挨拶を返していた。

 参道沿いで、玲央と草間・影士は落ち合っていた。
「お疲れ様と明けましておめでとう。今年もよろしくお願いするよ」
「あけましておめでとう。それと、手伝いもありがとう♪」
 今年もよろしくお願いするね、と。
 玲央が応えれば、影士もああと表情を和らげて、二人で歩み出す。
「色々と出店もあるみたいだからゆっくりと行こうか。何か気になるところはある? 俺は、冷えるし甘酒でももらおうと思うが──」
 と、顔を向ける影士に玲央は笑みを零す。
 影士の言葉が、歩速が、自分を労る心遣いだと判るから。
「軽く食べられそうだし、ベビーカステラとか。甘酒のお供でも構わない?」
「いいね。そうしよう」
 玲央のその笑みに、影士も自然と笑顔になって──出店へ。ベビーカステラを買うと、甘酒も受け取って二人で頂いた。
 優しい温かさと甘味を楽しむと……その足で拝殿へ。
 共にお賽銭を入れ、二人で手を合わせる。
 玲央の参拝は、今後の抱負を伝えるという思いがあってのことだった。
「側に、今隣に居てくれる影士と。二人での理想の在り方にもっと自信が持てるように努力を重ねたい」
 だからそんな思いを確固と抱いて。参拝が済めば、そのために御守りも欲しかった。
「無病息災、常勝祈願、家内安全……影士はどれがいいと思う?」
「この手の事には詳しくないけど──」
 と、影士は考えつつ、説明を聞いて心に決める。
「二人の理想に近づくなら。縁結び……いや、成功祈願でどうかな」
「それにする!」
 早速受けにいこう、と玲央が歩むと──。
「俺も一緒のをもらおう」
 こういうものはあまり持たないけれど、玲央と同じものを持ちたい気持ちがあるから。
 影士もまた隣に並んで、共に歩いていった。

 澄んだ空気に、温かな湯気が昇る。
 神社を訪れたオルティアは、とりあえず甘酒から頂いていた。
「……無料、素晴らしい言葉」
 カップを傾け、そっと啜ると──。
「……ん」
 じんわりと沁みる風味に瞳を細める。
 初めて飲むけれど名前の通りに甘い。ただ、ジュースに比べると優しい味だと思った。
「不思議な風味……でも嫌いじゃない。それに温まる」
 一杯を飲み切ると、ほう、と甘い吐息をして。
「もう一杯もらおう、かな……無料、とても素晴らしい言葉」
 暫し甘酒を楽しむと、次は参拝に赴くことにする──出店には惹かれるけれど、最近の出費を鑑みて心をぐっと抑えつつ。
「ええと、作法があるって聞いた、けど」
 見ていれば判るだろうかと周りを観察する。
 そうして手水舎で手を洗い、参道を少しずつ進み。お賽銭を入れ、二礼二拍手一礼。
「拍手や、お辞儀……、でき、た!」
 皆の行う通りに倣うことが出来て満足した、けれど。
「……あれ、願い事って、いつやれば……?」
 皆を見て、何となく察すると──ちょっとだけ遅れてから、心の中で願い事を呟いてみるのだった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 4
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