虹の架け橋

作者:秋月諒

●冬の時雨虹
 年明けのまだ寒い頃に、この地は虹を望む。冬の時雨虹。
 天地の架け橋。虹を招く鈴を鳴らし、水と共に良き年を招くのだ。

●虹の架け橋
「明けましておめでとうございます。皆様、今年もどうぞ宜しくお願い致します」
 ぴん、と狐の耳を立てて、新年の挨拶を告げたレイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)は集まったケルベロス達に微笑んだ。
「実は、とある街で神事が行えなくて困っているそうなんです」
 神事と言ってもそう堅いものではなく、参加者の皆と参道で行われるちょっとした祭りだ。
「新年の良き日に、虹を招く。古くは、市場は虹の見えるところに立てられた……という逸話から派生したものだそうです。ですが、街がデウスエクスの攻撃によって被害を受けてしまったんです」
 参道は破壊され、新年に行う予定であった神事は延期された。少しずつではあるが、片付けは進んでいるのだがーーそれでも、無事に行うには時間がかかりすぎる。
「まず、1月中に行うのは難しいだろう、と。そこで皆様にヒールのお願いが来ているんです」
 ケルベロス達によって参道を修復することができれば、新年からは遅れてしまうが虹を招く神事は行うことができるだろう。
「被害が一番大きかったのは参道だったそうです。大きな穴が空いたり、木々が倒れていたりするそうです」
 参道に面した店の被害も大きい。
 死者が居なかったのだけが幸いだと、神主は言っていたがーーだからこそ、新年を祝う為の神事が欲しいのだ。
「皆様が、今年もまた、一年が始まり続くのだと。そこに少しでも幸いを感じていただけるように」
 今すぐは無理でも、いつか。
「その為に、皆様にヒールの依頼です。参道を修復し、それともしよかったら神事に一緒に参加しませんか?」
「……ヒールは良いけれど、神事って勝手に参加して良いものなの?」
 小さく首を傾げた千鷲に、レイリはにこりと微笑んだ。
「はい。虹招きの神事は、皆さんで集まってやるお祭りのようなものでもあるそうで。こう、おっきな水鉄砲やバケツを使って水を撒きます」
「水を」
「はい」
「冬に?」
「はい」
 にこにこにこにこ、と微笑むレイリの前、いや、と千鷲は眉を寄せた。
「風邪ひくんじゃないかな」
「対策はしっかりしてきてくださいね、っていうお祭りですから」
 それに、とレイリは微笑んだ。
「ちょっと楽しそうじゃありませんか? 虹を招くのって」
 天気の架け橋。龍の渡りとも言われるそれを、新年に招くのがこの地の神事だ。
 冬の虹は珍しいが、全く見ない訳ではない。幸いを自ら招くのもまた、良き一年を過ごす為の祈りであるのだから。
「それでは皆様、街の良き一年の為。どうぞよろしくお願い致します」
 皆様にも良き一年になるように願って。
 レイリは微笑んでケルベロス達を見た。


■リプレイ

●虹を招く
 さぁさ、準備は万端。風邪だけはひかないように。 煌めきの中、荒れた地面も大きな穴もすっかり消えて。瓦礫を片付けたレイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)が時間ですよ、と笑って告げる。
 神主が始まりを告げればほら、バケツに水鉄砲を手に持って。虹招きの始まりだ。

●出会いと願いに
 参道の一角、無事にヒールを終えたその場所に唄う大窯のメンバーは集まっていた。水鉄砲にバケツ、なんかすごいおっきいバケツも揃えば季節なんて吹き飛びそうな光景だった。
「虹が見られたら神様に願い事をしてみない?」
「願いごと、っすか?」
 瞳をぱちくり、とさせたシャムロックに春燕は微笑んだ。
「えぇ。折角だもの」
 バケツにたっぷり水を汲んで。準備はもう万端だけれど、折角皆で集まって虹を招くのだからもうひとつ、何かをしてみたかったのだ。よく晴れた空は、きっと綺麗な虹を見せてくれる。
「うん。願いごとしよう!」
 光の精霊たちを見送って、シルは頷く。すちゃり、と手に構えた水鉄砲も準備は万端だ。
「皆は何をお願いするのかしら?」
「……ん? 願い事? ぼくは、そうだな……無病息災、かな」
 水鉄砲の二刀流で、準備を終えていたクローネはそう言って瞳を細めた。
「新たな一年も皆とたくさん遊ぶ為にも、自身の健康は大事かなと、思って」
「自分は、地球に来て約二ヶ月程の身ですが、有り難いことに素敵なご縁がいくつも出来たんで。新たな一年も良き縁に恵まれるように、っすかね」
 明るい笑みを浮かべて、シャムロックは無事に直った参道を見る。罅も焼けた跡もーーもう無い。きっと此の場所を駆け抜けても気持ち良いのだろう。
(「今は、虹っすね」)
 良き縁に恵まれるようーーそれに、繋いだ絆を育めるように。
「私の願いは……そうねぇ、なんだか照れるけど恋の良縁でも祈ってみましょうか」
 ふふ、と春燕は笑った。
「去年は日本に来て友達が沢山出来たし、今の縁も勿論大切にしながらね」
 今日という日の、お出かけのように。
 この国に来て知ったものも沢山ある。
「シャムロックにも、春燕にも、佳きご縁が結ばれると良いね。シルなら、何をお願いする?」
「わたしのお願いはね、みんなで楽しくいっぱいの思い出を作っていくことかな」
 クローネの言葉に、シルはゆっくりと視線を上げた。
「こうやって素敵な縁でつながったみんなとも、たくさんの思い出作っていきたいから。かけがえのない、大切で愛おしい日常をね」
 あとは……、と薄く口を開く。
「大切な人と、素敵な時をたくさん過ごせること、かな」
 大切なその姿を思い浮かべて、そっと微笑んだ少女の頬が赤く、染まる。
「……なーんてねっ!」
 ちょっぴりの照れ隠しは、妙に微笑ましげな視線に出迎えられて。
「ほ、ほら。始めよう」
「そうだな」
 小さく笑ったクローネが水鉄砲を二つ持つ。二刀流で二倍の虹を、だ。二丁拳銃は伊達じゃないのだ。
「それじゃぁ、私は上から行くわね」
 翼を広げて、春燕はバケツを持って飛び上がる。皆に水が飛ばないように注意しながら、晴渡った空で合図の声を待つ。
「せーの!」
 シャムロックの声で、晴れ渡った空から。地上から、ざばーっと勢いよく水が巻かれる。水鉄砲が煌めきの中を潜っていけば、チカ、チカと水が光る。
(「天気の架け橋が、良縁の架け橋となるように。龍の渡りが、幸せの橋渡しになるように」)
 願いを込めて、クローネは虹を呼ぶ。
 2回目も合図を合わせて、せーので水を撒けばふいに、空の色が変わった。
「虹だ」
「虹っすよ!」
 きらきらと輝く虹がゆっくりと姿を見せる。たもとには宝物があるのだったか。
「クローネさんにも、シルさんにも、春燕さんにも」
 眩しそうに虹を、みんなを見ながらシャムロックは笑う。キラキラと輝く虹と水を見ながら。
「今まで出会った方々、これから出会う人達にも、今日招いた虹が、幸せを呼んでくれると良いっすね」
 煌めきの向こう、沢山の幸せを。

●二人にかかる虹
 ひとつ、見えた虹にわぁあ、と集まった人々が声を上げる。参道のあちこちで水を撒く人々と、この時期に水を撒くのって結構冷えません? と正論をひとつ齎した青年の声が賑やかに響いていた。
「ルル、水鉄砲で虹を作る動画を観てきたの」
「へえ、動画をチェックしてきたとは念入りだな。これは期待できそうだね」
 小さく、瞬いたウリルにリュシエンヌは微笑んで頷いた。お揃いね、と嬉しそうにする彼女が、動画で見たというやり方を辿るように水を入れていく。こうやって、と威力を調整して、うん、と頷いた奥さんはそれはそれは勢いよく水鉄砲を持ち上げた訳で。
「……って、ルル!」
 えい! とリュシエンヌは大きく腕を振って水鉄砲を空に構えた。
「思い切りが肝心なんですって」
 力いっぱい撃ち出した彼女の瞳に、きら、きらと輝きが乗る。青空を穿つ、水流は虹を描いてーー。
「あ! 虹! 見て見て、うりるさん! 虹!」
 ばしゃん、と頭の上から降ってきた。
「にゃっ!?」
 ローズブラウンの髪がぺしゃりと濡れて。思わず頭を振るったリュシエンヌに、ウリルは小さく笑った。
「うん、綺麗な虹だったよ。君も俺もびっしょり濡れたけどね」
「ごめんね? ……お風邪ひかないでね?」
 慌てて伸びてきた白い手が、ぎゅっとタオルを握る。心配そうに見上げてくる彼女に、大丈夫だ、と笑ながらウリルは膝を折る。届かないとぱたぱたとする愛しいひとに小さく笑って、まだ少し、湿ったままの髪をかきあげる。
「まあでも、せっかく虹を作るなら派手にいかないと?」
 水鉄砲を構えて、空に放つ。
「ほら、ルルも一緒に、早く」
「あ……うん! せーのっ!」
 二人で作った虹は、さっきの虹よりも大きくて。緩やかに弧を描いていく煌めきに、ウリルは笑みを溢した。
「どうだった?」
「わぁ! おっきい! きれい!」
 うりるさん、すごかったね? と振り返る彼女に、頷く。知らず、笑みが溢れる。
「二人いっしょに虹を潜れるなんて、素敵ね」
「ーーうん」
 瞳を輝かせる彼女が、愛おしい。キラキラと晴天の空に輝いて架かる虹がこの先の未来まで導いてくれるようで……。
(「これから先も描いていけたらいいな」)
 願うように祈るように、そう思った。

●宵に虹を見て
「虹は、大気光学現象だと思っていたんだけど」
 これほどまでに、人々の笑顔を誘うものなのか。驚き、よりはこれは感慨に近いのだろうか。世にある虹の伝承をつらつらと思い出していればーーふいに覚えのある気配がした。
「オイオイ、千鷲クンたらお水被って問題ねえの」
 バシャァアア、と吹っかけられる水と一緒に。
「ちょ、は? バケツ!?」
 足音も無いのに狙われる感覚だけがあった。だからこそ、先んじて避けた筈だったというのにーー。
「命中」
 バケツだ。満杯のバケツ。
「やってくれたね、サイガ君」
 口の端、口笛一つ吹きそうな顔で笑ったサイガに、千鷲はざっくりと髪をかき上げた。
「そいや。風邪引いたりすんの?」
「それやった後に聞くやつかなー? まぁ引かない訳でもないんじゃないかな。経験ないけど」
 錆びる訳でも無いし、と息をついた、千鷲に、ふぅーん、とサイガは息をついた。
「ネギ巻きいってやんね」
「それはどーも。……それにしても、サイガ君も虹に興味があったんだ」
 虹のたもとに探し物でもあるのかな? と緩く笑った男に、サイガは肩を竦めた。
「虹が出るだとか信じるメルヘンさ持ち合わせちゃいないが、オッサンから持たされちまったもんでな。そりゃ撒くっきゃーーふァブ!!」
「あははは。僕、ガンスリンガーなんだよねぇ」
 いつの間にか構えられていた水鉄砲に、反射的に身を飛ばす。濡れた地面程度ですっ転ぶつもりはない。たん、と手をついて身を空に回して、ダッシュで水鉄砲をもらい受ける。
「ご利益ありそな水なんだし飲んどけよおい」
「サイガ君も。風邪ひいたらネギを巻きに行ってあげるよ」
 というか、と水鉄砲バトルは終わらないまま、千鷲が息をつく。
「こういう遊びで良かったんだっけ?」
「かてえこと言うなし、おら虹出てんぞ」
 指差した先、キラ、と何かが光れば、え、と声がして。
「隙あり!」
 一撃必中。届いた先で、虹がーー見えた。

●虹を追いかけて
 冬の昼間に、構わず水が撒かれればキラ、キラと空が瞬く。真昼の空に見えるのは虹の煌めきだった。ヒールで蘇った木々が、その端を隠してしまえば、自分たちの虹は自分たちで招くようにということか。
「キソラも今日は両手が塞がって写真撮れないな」
 桜の向こう、見えた虹が遠ざかっていく。派手な水音が続くあたり、まだ十分に虹は招けるのだろう。バケツを手にしたまま、ティアンは長身を見上げる。
「撮るのは作った虹をこの目で確かめてからだなあ」
「まずはそこ、だよね。ねぇ、これって霧状にもなるのかな」
 ウォーターガンの調整をしながら、ゆるく夜が首を傾げ、どこ? とキソラが覗き込んだ瞬間ーーカシャン、と音がした。
 そう、カシャンだ。
 それがバケツの音だと気が付いたのは同時に、バシャン、と派手に振り上げられた水を見たからで。放り投げられたバケツも一緒になって見つければ当たり前にーー……。
「あ」
 大量の水が空団の三人に落ちてきた。
「ぬれたな……」
 極めて局地的なゲリラ豪雨。100%を叩き出した水を頭っから受けながら、ティアンは空を見上げてーー二人を見る。
「虹、みえた? みえなかった?」
 くしゅん、とくしゃみをしながら向けられた言葉に、夜と二人顔を見合わせてキソラは笑った。
「ティアンちゃん今のはちょっと惜しかったなぁ」
「……ウン、見レナカッタネ」
 水も滴る男が二人、可愛いお嬢さんも一人。
 濡れた前髪をとりあえず軽く振るったキソラが豪快に笑えば、むむむ、とティアンは小さく眉を寄せた。
「……見れなかったか。残念。どうやると虹が出やすいのだろう」
 お手本してくれ、とこてり、と首を傾げてーーまた、クシュンと。むむむむ、と眉を寄せるティアンに小さく笑って、夜はふかふかのタオルを差し出した。
「どうぞ」
「ありがとう」
 ぱふり、と頭から被って、小さく顔を上げたティアンを視界に、キソラはバケツを用意する。夜が水鉄砲ならこっちはがっつりバケツで。
「よっしゃ、ではご期待に応えて!」
 張り切って、たん、と地面を蹴ろうとしたところで水がたんまり入ったバケツの方が先に弧を描いてーー。
「あ」
 ばしゃん、と濡れた地面に足を滑らせて、盛大に足元にバケツの水が飛び込んだ。
「……いいか、今のは悪い手本だ」
「そうだね」
 ふくふくと笑った夜に、そのまま笑っておいてくれと告げて、組み直した水を遠く高く撒く。空に軌道を描いた水を瞳に、夜は太陽を背に水鉄砲を構えた。濡れた前髪の隙間から、瞳は空を捉え、ゆっくりと掲げた腕が一撃をーー放った。
 パシュン、と空へと向かった水はキラキラと輝いて。時間差で落ちてきた水と一緒に放たれた飛沫が、キラ、キラと輝いて。足元から見えたのは、旅立つ虹の姿だろうか。
「……その霧っぽいの、バケツだとむずかしくないか? キソラみたいにやればいい?」
 少しばかり悩みながら、ティアンがバケツを手に取る。夜とキソラ、二人して空を見上げた後、見えた? とそれぞれに振り返った頃にはまたーー降り注ぐ雨。
「ーーあ」
 虹に負けない位、陽光に照り映える飛沫のきらめきを。写真にも残らぬ一瞬、刹那の光の綾をーーきれいだとおもったから。
「虹」
 ぱち、ティアンの瞳が瞬く。空へと伸びていく光は、緩やかに色彩を変えていく。
「夜サン、オレにもタオルくれない?」
「タオルは無いから走って乾かそう? 虹を追いかけてさ」
 悪戯っぽく小さく笑った夜が、虹に目をやる。参道の其処此処で沸く歓声も、大気や地を潤す水飛沫も清々しく朗らかだから。
「胸を弾ませた好奇心旺盛な虹が、姿を見せてくれたみたいだ」
 招き誘った虹が、その色彩を重ねていく。七色の淡い虹に、笑う声が重なった。

●七色に願って
 参道に、賑わいが満ちてきた。ヒールをする前のあの重い空気はそこにはもう無い。笑い合い、はしゃぐ人々の声にエトヴァは、ふ、と柔らかな笑みを溢した。穏やかなその顔は、ふんわりと空気も和らげてーー。
「おお、バケツを選択とは」
 いたのだが。
「繊細な見かけに寄らず、豪快なうちのお兄ちゃん」
 お揃いのレインコートに身を包み、蒼穹を仰いだエトヴァはジェミに笑みを見せた。
「冬晴れの空に、虹を描くとハ……気持ちがよいではないですカ」
 雲一つ無い青空は、人々に待ち望まれていた虹の日によく似合う。駆け抜ける子供たちは兄弟だろうか。追いかける猫の姿も見つけてしまえば、二人目を合わせて笑って。
「でハ、虹を招いてみせまショウ。時にハ、豪快に参りますよ」
「景気よくいってみましょう!」
 バケツにいっぱいの水を入れて。そーれ、の合図で二人頭上へと思いっきりバケツを振り上げた。ざぁあああ、と勢いよく放った水は空で弧を描いて。キラキラと水しぶきが光る。
「――虹、見られるでショウカ?」
 パラパラと落ちてくる水しぶきは、日の光を受けて、キラキラと光る。指先で遮るのもなんだか勿体なくて。エトヴァと一緒になって見上げた先、ジェミは笑みを溢した。
「冷たいけれど、何だか楽しい!」
「ふふ、水遊びみたいデス」
 バケツの中、ほんの少しだけ残っていた水を指で弾けば、キラキラと見えていた光がふいにーー変わる。
「わ……、ねぇ、エトヴァ! あれ!」
 手を引かれた先、一緒になって顔を上げれば欅の枝から滴り落ちていた水が消えてーー代わりに緩やかに色彩が変わっていく。木々を飛び越すように七色が美しい橋に変わる。
 ーー虹は架け橋だという。
「綺麗だね……」
「……美しい七色ですネ」
 傍らの眩しい笑顔に微笑み、エトヴァは青空を彩る虹を瞳に映す。
(「今年も家族たちと過ごす日々が、こんなふうに彩られていますように」)
 二人で招いた虹に届くようにそう、エトヴァは願う。
(「うん、家族皆で、鮮やかで素敵な未来を作っていこう」)
 幸いを招いて。幸いに頷くようにして。
 口元、笑みを浮かべてジェミは大切な家族を思う。家族を。大切な家を。
「ジェミ」
「わ」
 ふかふかのタオルが頭に乗っかる。髪が濡れていたのか。ついでにレインコートを脱いだ先に厚手のコートまで待っていれば、エトヴァの心配性の保護者ぶりは健在らしい。
「エトヴァ」
「ーージェミ?」
 つい、と少しだけ足を伸ばして。背伸びして、もう一つのタオルをエトヴァの頭に乗せた。わしゃわしゃ、と少しだけ濡れた髪を拭けば、きょとんとしていたエトヴァが小さく笑った。
「……風邪をひかないように。温かいものでも頂いテ、帰りましょうカ」
「暖かいもの、良いね!」
 重ねて招いた虹は、どこまでも煌めいて。
 冬の参道を彩った水の煌めきは、さあさこちら、と温かな飲み物を用意した人々の声も招かれる。やがて、真昼の光が傾けばわぁああ、と声が上がった。
「見て、大きな虹……!」
 招き招いた虹が重なりあったか出会ったか。
 大きな虹が、参道を渡るようにかかっていた。人々の、祈りと願いを乗せて。七色の虹は美しく輝いていた。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月22日
難度:易しい
参加:12人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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