年賀状は手書きの物以外許せない!

作者:神無月シュン

「イラスト印刷済み? 宛名印刷サービス? ふざけるな! 年賀状は手書きでなければ意味がないだろう。そんなことも分からないとは許せない!」
 郵便局の前で叫ぶ、羽毛の生えた異形の姿のビルシャナ。
 年賀状の裏は予め印刷された干支のイラスト。表さえも、パソコンやスマホで手続して印刷してもらう。最早誰が出しても同じ物。それのどこに意味があるのかと、ビルシャナは怒りを顕わにすると、郵便局へと乗り込んでいった。


「個人的な主義主張でビルシャナ化した人間が、郵便局を襲撃するっす」
 会議室にメンバーが集まったのを確認し説明を始める、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)。
「確か『手書き以外の年賀状は許せない』ですわね。その気持ちは分からないわけではないですけれども」
 そのような主張で人々を襲うこと自体許せないと彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)。
「けど、そういう主張にも賛同してしまう人がいるっす」
 ビルシャナの主張に賛同した一般人はビルシャナの配下となって、共に郵便局を襲うようだ。
「ビルシャナの主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、戦わずに配下を無力化する事ができるかもしれないっす」
 もしも、説得に失敗したとしても、ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能だ。だが配下が多いほど、戦闘は不利になるだろう。

「配下になってしまう一般人の数は8人っす」
 戦闘に参加した配下たちは、ビルシャナを庇う可能性がある。攻撃するときは注意したい。
「ビルシャナの方は、炎や氷を放ってくるっすよ」
 何の心配もなく戦闘を行う為にも、説得はぜひとも成功させたい。
 配下となった人たちは『手書きの方が思いが伝わる』『流石に全部印刷は手抜きが過ぎる』とビルシャナの主張に賛同している。
「時間がない人にとっては便利だと思うっすけどね。それに裏に一言添えるだけでも大分違うっす」
 そう言いつつ、ダンテはファイルを閉じた。

「被害が大きくならないうちに、皆さんの力でビルシャナを止めて欲しいっす」


参加者
彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)
ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)
エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)
如月・高明(明鏡止水・e38664)
フェルディス・プローレット(すっとこどっこいシスター・e39720)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)
ブレア・ルナメール(軍師見習い・e67443)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ


 寒空の下、郵便局の前で声を張りあげる異形の姿があった。ビルシャナ――全身を羽毛で覆われた鳥と人間を混ぜたような姿をした化け物が、配下を引き連れ今にも郵便局へと乗り込もうとしている。
 その理由が『年賀状は手書きでなければ許さない』というもの。そのような理由で郵便局を襲撃したところで、何も変わらないだろうが……当の本人は気づいていない様子。
「年賀状ですか、私は手書きでも印刷でも、送って下さった事に感謝しますので、どちらでも良いのですけどね」
 遠くから聞こえてくるビルシャナの主張に、彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)は自身の考えを呟く。
「年賀状を送って頂ける……それ自体がとても有り難い行為のはずなのですよね」
「ええ。年賀状は、手書きだとやっぱり嬉しいですけど、決して印刷した物には心が籠っていないわけでも無いとは思いますね」
 年賀状を送るという行為自体に、心が籠っていると、エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)とアクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)の2人は言う。
「年賀状は手書きのものしか認めない、ですか。確かに手書きの方が一枚一枚しっかりと書く必要がありますし、有難みもあるでしょうが、手書きだと流石に限界もありますよね」
「そうね。送る相手の数にもよるけれど、一人一人手書きというのは、ちょっとした手間だと思うわ」
 年賀状を書く手間について語る、如月・高明(明鏡止水・e38664)とルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)。
「送る側、だけでなく、受け取る側の都合も、考えないと……一方的では、押し付けと同じ」
 オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)は呟きながら、先頭を歩いていく。
「年賀状を書くという日本の文化、素晴らしいと思います」
 年賀状を書く習慣の無かったブレア・ルナメール(軍師見習い・e67443)は、日本の文化に興味を示す。
「それじゃ、行くか!」
 郵便局はもう目と鼻の先。ビルシャナの襲撃を止める為、気合を入れるとフェルディス・プローレット(すっとこどっこいシスター・e39720)が走り出す。それを追うように、他のメンバーも歩く速度を上げた。


「見て下さい、最近の年賀状はイラスト印刷がこれほどにも綺麗になっているのですわよ」
 配下の目の前へと印刷された年賀状を出し、話しかける紫。
「機械で作る年賀状は、手抜きと言う訳ではなく、進歩した科学技術の賜物です」
 隣へとやってきた高明が続く。
「受け取る側も、やっぱり綺麗に描かれた年賀状の方が嬉しいとは思いませんか? 手書きで、この印刷のイラストと文字以上に、綺麗な物を描けますでしょうか?」
「人々が電気やガスなどの科学技術で生活が便利になっている様に、年賀状もまた技術の進歩に則っただけですので、心が籠っていない訳では無いのです」
 印刷された年賀状が決して手抜きではないと説明する。
「年賀状は普段お世話になっている方以外にも、昔の同級生、職場の同僚や上司や部下、親族など送る相手は際限なくいます」
「いやいやちょっと待てよ、一枚一枚全部手書きで書くとしたらどれだけ時間がかかるんだよ。友達100人いたら100人分の時間がかかるだろうがぁッ!」
 送る人数が多くなればなるほど、準備に時間がかかると、アクアとフェルディス。
「全てを手書きにしたら、徹夜作業になってしまい、結局全員分書けずじまいになると思いませんか?」
「全部手書きで書こうとしたら、その内集中力も切れて汚い字になりますよ……そしたら、受け取った側にとっては汚い字を『手抜きされた』って感じてしまわないでしょうか?」
 紫も加わり、手書きの大変さを語る。
「そんなのは、1日でやろうとするからだろう?」
「速いうちから空き時間で書いていけばいい」
「その為に早くから年賀状が売られているんだし」
「だよなぁ」
 配下たちの反論に、少し離れたところでビルシャナが頷いているのが見える。
「時間が足りなくて全部書ききれないかもしれません。それなら、印刷でも良いので全員分きっちりと書いてあげる必要もあると思います」
「機械の年賀状も、画像を探してダウンロードしたり、文章のレイアウトを決めたりと、なかなか大変ですので、決して手抜きでも無いと思いますよ」
「印刷っていうのは手抜きじゃ無い、効率的って言うんだよォ! お前達にこの印刷物と同じような絵はかけまい! どうしても手書きをするのなら一言添えておけば良いのです。それだけでも随分と違うぞ!」
「手抜きかどうかは、すべては送り手さんの心の持ちようだと思います。例えば……はがきの裏に、一言だけ、ペンで『あけましておめでとう』とだけ書いた年賀状。例えば……はがきの裏に、丁寧な絵柄と丁寧な文章で思いをたくさんたくさん、書き連ねてある年賀状。好みは分かれるかもしれないですけど、僕は決してどちらも手抜き……だとは思いません」
 アクア、高明、フェルディス、ブレアの4人は印刷するのは手抜きではない。一言添えることで、手間を減らしながら手書きの良さも加えられると説得の仕方を変えて話を続ける。

「私は受け取る側として、言わせてもらうけれど……届いた年賀状が、仮に手書きばかりだったと、したら、正直……思いが云々以上に、重い……なんというか……『お前も手書きで出せよ?』って、プレッシャーをかけられているように、感じる」
 送り手側の言い分で話が進んでいる中、オルティアは受け取る立場の側として説得を試みる。
「SNSの発達で、年賀状はもう数を減らしているわ。私も、いざ手書きの年賀状を貰ってしまっても、かえってその労力に恐縮してしまうもの」
 オルティアに同意する形で話すルベウス。
「みんながみんな、年末年始にゆっくりできる、わけじゃないのに……そんな中、印刷込みのものがあってくれたら……私は、ほっとする。『こういうのでもいいんだよ』と、優しさまで感じる」
 分かってもらえると、いいな。と願いを込めてオルティアは話を続けた。
「年末は忙しいものだわ。手紙を送り合う相手なら、繋がりさえあればいいのではないかしら。それに、ね。今はパソコンなどを使って手書き風の年賀状なんていくらでも作れるわ。それはそれで手間ではあるけど、そこまでいくと手書きとどう違うのかしら。書面とは違った拘りが、そこにはあると思うの」
 と、ルベウス。
「……私の例は、極端かもしれないけれど、手書きで思いを伝えたいという、主張。それがただの自己満足に、なっていないか、受け取る側を、本当に思ってのことなのか。今一度、考えてみてほしい」
「それは……」
「うーん」
 そんなこと今まで考えたことなかったと、オルティアの話を聞いていた配下たちは戸惑い始める。
「イラストが印刷された年賀状でも『贈る相手を考えて選ぶ』という想いが込められています。それに市販のイラスト年賀状だからこそ起こりうる楽しみもあります。例えばイラストが被った時を想像してみてください」
 もう一押しと、エレスも受け取る側として語り始める。
「いつも厳格な感じの人と、ハイテンションで賑やかな人から同じ絵柄の年賀状が届いたりしたらどうでしょう? 『全然違う感じの人なのに同じ絵柄を選んでいる』と新年から微笑ましい気持ちになりませんか? それに相手と自分が同じ絵柄の年賀状を選んでいたら『近しい感性の方なのかも』と親近感が湧いたりしませんか?」
「そういう考え方もあるのか……」
「もちろん手書きは素敵だと思いますが、手書きではない楽しみがある事を否定してはいけません」


 8人のうち、4人は説得に応じこの場を去った。
 残りの4人はビルシャナと共に、こちらへと襲い掛かってきたが、ケルベロスたちの手によって、早々に無力化。今は道路脇でのびている。
「音速の拳で、吹き飛んでしまいなさい!」
 紫の拳を受け、ビルシャナが宙を舞う。
 落下地点で構えるエレス、フェルディスの2人。その手には如意棒『幻影棍』、バスタードソード『聖剣アーサー』がそれぞれ握られている。
 地面へと落下する瞬間、2人の攻撃が交差する。更に地面へと叩きつけられたビルシャナをライドキャリバーのエルデラントが激しいスピンと共に轢いていく。
 ルベウスは氷結輪を操り魔法の霜の領域を地面に展開。ビルシャナが地面へと貼り付く。そこへオルティアの後ろ足による強烈な蹴り。
「さぁ、燃え盛りなさい!」
 更に高明の炎を纏った蹴りがビルシャナに襲い掛かる。
「命の炎の輝きよ……再び」
「薬液の雨よ、仲間を浄化せよ」
 その隙に回復を行うブレアとアクア。テレビウムのイエロも回復にまわる。
 ビルシャナは堪らずに光を放ち回復を試みる。
「貴方の時間ごと、凍結させてあげますわよ」
「それはもう、使い物になりませんね」
「行くぞぉー、爆砕!」
 回復を上回る攻撃を。紫、エレス、フェルディスの3人が一斉に動き出す。
 紫の放つ弾丸がビルシャナの足を貫き、幻影で覆うエレス。フェルディスは腕をビルシャナへと押し付け、衝撃を送り込む。
「轍のように芽出生せ……彼者誰の黄金、誰彼の紅……長じて年輪を嵩塗るもの……転じて光陰を蝕むるもの……櫟の許に刺し貫け」
 ルインが魔力を込めた宝石を天に放る。宝石を触媒に生み出された魔法生物は黄金色をした巨大な槍の様な姿で空中に漂っている。合図と共に飛翔しビルシャナを刺し貫く。
「機に立つ術にて吹き荒び。気を断つ術にて凪を呼ぶ。一過で残るは如何程か、見える程にも遺るか否か。――言って解らないなら、退け!」
 巻き起こる追い風によって加速するオルティア。一瞬でビルシャナへと詰め寄り連撃を浴びせる。オルティアの影から飛び出したブレアが更に斬撃を繰り出す。
「水よ、光よ、煌く万華鏡の様に皆に届け」
「私の剣術からは逃れられませんよ。その動きを封じてあげましょう」
 魔力を込めたシャボン玉を展開するアクア。癒しの輝きが超感覚を覚醒させ、高明が日本刀『静蓮月下』を抜き放つ。放たれた居合の一撃がビルシャナを真っ二つに切り裂いた。


 ブレアとオルティアは周囲のヒール、更に気絶させた配下の治療を行う。
「そもそも……メールで十分じゃないかしら……」
 そうすればこの事件は起きなかったのではと、ルベウスはふと思った。
「家に帰ってから、仲の良い方々に年賀状を用意したいです。少しだけ遅れてしまいましたけれど、想いは伝わるのでしょうか……」
「きっと伝わりますわ。私も出そうかしら」
 日本の文化に触れたいと言うブレアに、紫が微笑んだ。
「それなら、皆さんで色んなイラストの年賀状を買って送りあいましょう?」
「それは楽しそうですね」
「では郵便局に寄って行きましょう」
 アクアの提案に皆が賛成し、ケルベロスたちは郵便局へと足を向けた。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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