寒いのは君がまだ適応していないからだ

作者:久澄零太

「人は常に、進化する生き物である」
 進化論めいたタイトルの学術書を開いていた鳥さんがぱたむ、本を閉じたら翼を広げて。
「度重なる環境変化の中、生き残ったのは強者か? それともその環境に適した種か? 否!」
 翼を翻し、背を向けた異形は肩越しに。
「常に変化を続けた者だ。そして今、我らもまた一つの岐路に立っている」
 ここで高尚な教義が来ると思ってしまったあなた、シリアス依頼に浸かりすぎています。ここから先を読むとネタネタした気配に魂が拒絶反応を起こす可能性があります。覚悟して続きをお読みください。
「寒さが本気を出した今こそ、脱ぐのだ」
 全裸な変態めいたサムシングだと思った人、あなたは無意識に露出趣味がある可能性があります。風邪をひかないようご注意ください。
「冷え込むこの時期に薄着になる事で、人類はさらなる高みへ到達する……行くぞ同志達! 寒いからこそ人々の着物を薄くするのだ!!」
『イェスコールド! ゴー薄着!!』

「みんな変態だよ!」
 ドストレートに言い切った大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)はコロコロと地図を広げて、とある山中の小さな宿をしめす。
「ここに寒い時こそ薄着ってビルシャナが現れて、信者を増やそうとするの!」
「!?」
 その瞬間、水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)に衝撃が走る。この手のビルシャナは相手の服装を勝手に変えてくるものだが、冬至にクリスマスチキンとケーキ、年末は蕎麦、正月は餅……お腹周りがお餅(意味深)な(ドゴォ!)。
「何としても倒さなくてはなりませんね!」
 決意表明で撃つなや……。
「此度は仮に脱がされても風邪をひかないように、私が同行します」
 なんかもう、苦笑しか出ない凶が焚火とかであっためてくれるって!
「信者は厚着の良さを語ると目を覚ましてくれるけど……今回は殴っちゃった方が早いかも?」
 ユキが細かい説明を省略するレベルで酷い現場のようだ。
「現場は温泉宿だし、早く片付いたらゆっくりしてきてもいいと思うよ。場合によっては体が冷えちゃうかもしれないし、あったまってから帰ってきてね!」


参加者
モモ・ライジング(神薙桃龍・e01721)
七星・さくら(しあわせのいろ・e04235)
一之瀬・白(龍醒掌・e31651)
水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)
ルフ・ソヘイル(嗤う赤兎・e37389)
ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)
デュオゼルガ・フェーリル(月をも砕く蒼狼拳士・e61862)
グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)

■リプレイ


「昨年の十一月十九日はうちのパン屋が申し訳ありませんでした……」
「いきなりどうしたの!?」
 モモ・ライジング(神薙桃龍・e01721)の土下座で始まった今回の太陽機。モモはそのまま目を逸らし。
「ちょっと事案が……」
「あー……」
 ユキもフライングパン籠事件を想起して遠い目。
「気にしなくていいよ、もっと酷いのがいるから……」
 虚無笑みを浮かべるその時の顔は、窺い知れぬ感情があったとかなんとか……。
「……新年早々酷い話だわ。私、温泉だけ入って帰りたい」
 七星・さくら(しあわせのいろ・e04235)は窓から眼下の町に向けて小さな呟きを溢す。
「あ、温泉まんじゅうの幟が見える……」
 もう到着したから地上行くぞオラァ!!
「薄着になる事で、人類はさらなる高みへ……」
「いやいや……脱いで薄着になった所で、風邪引くだけで百害あって一利無しだよ……」
 宿の前で演説してた鳥さんと会敵するや否や、一之瀬・白(龍醒掌・e31651)が溶けた。何かこう、マネーゲームで資産をドゥルってさせた人みたいな顔になってた。
「あと、暑さで死ぬ人も多いけど……凍死する人はそれ以上に多いんだよね。それなのに、薄着を推奨するなんて……既にテロの域だよ?」
 軽いドン引きスタイルの白は「そうでなくても」と人差し指と親指を丸めて。
「年末年始とあっては、よく飲むでしょう?勢い余って飲み過ぎて、道端で寝こけてしまった時、厚着ならまだしも薄着だったら翌朝には冷たくなっちゃうんじゃないかな……?」
 実は凍死は、意外と街中で起こる。理由は白が言った通り。泥酔して街中で寝落ちして、冬の寒さの中で永遠におやすみなさい……お酒は程々にネ!
「それよりも……ほら、あそこの焚火は暖かいよ」
 スッと白が示した先には、青い焚火に下から顔を照らされホラー顔の凶。
「ぎやぁあああ!?」
 信者の一部が逃げ出した!
「何故!?」
「凶さーん、僕も当たらせてー」
 ショックを受ける凶の隣に白がしゃがむのだが。
(あれ、一之瀬さんてこんなよそよそしい人だったっけ……)
 白の声音に違和感を覚えたが、凶は気にしない事にした。
「軟弱な。冷たい空気と一体化することで寒さを感じなくなるのだッ!」
「寒い時に脱ぐって……ねぇ、馬鹿なの?」
「あ、ちべたい……」
 ビルシャナですら寒気を覚える極寒の眼差しを向けるのはさくら。
「風邪ひくし、下手したら死ぬわよ?」
 春の花とは名ばかりで、氷柱な視線を投げかけるさくらはグッと拳を握って。
「それに!いもくりかぼちゃな食欲の秋から、クリスマスに忘年会にお節に新年会に餅つき大会等、美味しいイベントが続くこの時期は、目一杯厚着してもちもちぷにぷになお腹回りを隠す……」
「やっぱり食べ過ぎちゃいますよね……」
 水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)が死んだ目で、もうすぐ脱ぐことになるのだろう学生服のスカートに連なるコルセットの上から、ぷにぷにぼでー(意味深)を撫で……。
「脱ぎませんよ!?」
 お前もうすぐ高校卒業やろ?留年したんか?
「ごめんなさい!脱ぎます!!」
 お腹の次は顔を隠す事になった和奏を見やり、さくらが微笑ましい物を見る眼差し。
「私にもあんな初々しい頃が……いやいや!もうアラサーとはいえ、まだアラサーだもの!!」
 と、幼さの残る心を見つめ直すいい機会になるのだった……。
「じゃなくて!」
 脱線した説得の軌道修正お疲れ様です。
「真に薄着が主役になれる夏のアバンチュールシーズンに向けて、厚着して健康管理に気をつけ、力を温存しておくべき時期だと思うのよ!」
「薄着の冬眠期間だと……?」
 さくらの言葉に訝し気な鳥さんだが、ここでモモが待ったをかける。
「薄着って具体的にどんな所がいいの?」
「それはもちろん……」
「長くなりそうだから黙って」
「酷い!?」
 鳥さんを放置、モモは信者の方を向き。
「動きやすいとか、ボディラインがよく見えるとか、いろいろあるけど、ちょっと想像してみてくれない?」
 信者達が視線を虚空に投げた所で。
「いつも薄着の彼女が真冬の寒い日に完全防寒して、あなた達を待つ姿とか。自分自身のスタイルを気にして、おしゃれのつもりで厚着する女子や、自分の背丈に合わないセーターを着込んで、あざとく萌え袖する女子とか!」
 ほわんほわんほわんらいじーん。

 雪の降る夜の事、待ち合わせの時計台の前でコートにマフラー、手袋でフワフワした彼女が頬をふっくらさせて。
「遅い!寒くて凍えるかと思った!」
 言葉とは裏腹に、手袋を外してその手を伸ばし。
「責任とって、温めてよね?」

 秋も始まったばかりのイチョウ並木、歩く彼女は白のセーター、ブラウンのポンチョまで重ねて冬を先取りし過ぎた気もするが、胸の前で指を組み、頬を染めて目を逸らす。
「確かにちょっと暑いけど……その、これなら小っちゃくても目立たないかなって……」

 とある冬の日、彼女を家に招いてココアを淹れ、部屋に戻ると自分のセーターを着て余った袖をパタパタする彼女が……。
「えへへ……やっぱりちょっとおっきいや」

「厚着には『見えない』って事自体に魅力があるのよ!」
 などとフルコーティングなモモが力説しつつ、ポケットからチョコを口に放り込んで燃料補給。
「そうでなくても、好きでしょ?見えそうで見えないとか、そういうの」
「何がいいたい?」
 手羽先を組む鳥さんを前に、モモがニタリ。
「厚着の隙間から垣間見える物も乙なんじゃないかなって?」
「さすがは教祖様……」
「あれー!?」
 一部の信者がモモの信者に!
「さぁ、厚着によるチラリズムを世に広めるのです!」
「違う!違うから!?」
 必死に否定するモモだが、信者横取りとあっては鳥さんが黙ってない。
「同志を洗脳するとは……貴様も薄着にしてくれる!」
「服を、奪うのですか?」
 ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)がジトォ……ブラウスにセーター、紺のブレザーの上からブラウンのコートまで着込んでマフラーを巻き、スカートは膝下まで伸びて黒タイツと冬仕様。眼鏡の向こうから、冷たい眼光を飛ばす彼女に鳥さんが片眉を上げた。
「制服姿の女子高生を脱がすつもりですか?いきなり事案発生の予感ですね」
 言葉のナイフを突きつけて、牽制しながらジリジリと迫る。
「新年早々……わいせつ事案発生の容疑者として、盛大にワイドショーを賑わす主役になりたいと?家族や会社にばれて……人生終了宣言が出てもいいんですか?」
「通報が怖くて宗教やってられっかぁ!!」
「いや教祖様落ち着いて!」
「発言を録音されて、編集して都合のいい証拠品にされますよ!?」
「ちょっと同志!?」
 信者が鳥オバケを押さえるという謎の事態を前に、ベルローズは持ってきたパイプ椅子に腰かけると足を組み。
「でも、脱がせたりせずに制服姿の女子高生を眺める位なら、罪にはなりませんよ……だからって、ガン見されても困るんですが」
 遠回しに、「黙って大人しくしていろ」って言ってるベルローズだが、座った際に少しめくれたスカートの裾を直したり、コートの裾を弄ったりと、厚着故の仕草を振舞うも、鳥さんを押さえこんだ関係で平伏スタイルの信者の眼が、ベルローズの脚へじー。
 あれ、タイツ引っ掛けたかなーなんて不安になるベルローズだったが、スカートで脚組んだりするから微妙に中身が見えてたりするんですよ。まぁ、タイツのせいで布の中身は漆黒でしたが。
「俺は袖を破いてるけど寒くねぇぞ?脱いだって寒くねぇし! 全身モフモフだからなっ」
 などとドヤるデュオゼルガ・フェーリル(月をも砕く蒼狼拳士・e61862)。彼を信者が取り囲み、鳥オバケが肩ポム。
「ようこそ、新たな同志よ」
「えっ」
「進化したばかりではまだ寒かろう。安心したまえ、君ならばすぐに順応できる」
 薄着でも寒くないめいた発言するから、新手の信者だと思われてますね。
「いやいやいや!俺はお前の矛盾を指摘しに来たんだ!」
「ほう?」
 穏やかな表情の鳥オバケを、デュオゼルガがビシィ!
「薄着がどうとかいって、お前が一番羽毛を着込んでるじゃないか!その羽毛を刈ったら、さすがに寒いよな?これで「薄着は正義」だなんて言えねぇだろ!」
「ハッハッハ!」
 デュオゼルガ渾身の叫びを、鳥さんが笑って受け止めて。
「君自身、モフモフだから寒くないと宣言したばかりじゃないか」
「……あれ?」
 自分の言動を顧みるデュオゼルガへ、体が内側から温まるピリ辛味噌煮込みうどんを用意する鳥さんは微笑み。
「そう、我らは服などなくとも、寒さを感じない至高の肉体である。それが、筋肉か、羽毛か、獣毛かというだけで、貴賎はないのだよ……」
「こんな寒い中で薄着とか正気の沙汰じゃねぇっすよ……早く解決して、温泉に入りてぇっす!」
 うどんをモグモグするデュオゼルガと鳥さんに向かうのはルフ・ソヘイル(嗤う赤兎・e37389)……あれ、赤きモフモフのウサピョンになってる!?
「普通に獣人形態って言ってくれないっすか!?」
 咄嗟にツッコむルフは、改めて鳥さんに向き合うと番犬外套を羽織り。
「コートとかジャケットとか……冬を凌ぐために作られた文明の力を今使わずにいつ使うんすか!昔の人が寒さを過ごしやすくする為に作ったのに……君達がしてるのは進化じゃねぇっす……退化っすよ!」
「モフモフウサピョンに進化しておきながら、文明なぞ、頼ってんじゃ、ねぇえええ!!」
「ぎゃー!?何するっすか!ていうかその言い方なんなんすか!?」
 外套を奪われ寒さに震えるルフがバックステップ、青い焚火で暖を取りながら。
「高みに到達とか言われても寒いもんは寒いんすよ!冬はもふもふふわふわが一番に決まってるっす!!」
「だから君はもうその領域に達しているだろう?さぁ、おいで……」
 鳥さんの魔の翼がウサピョンに迫る!
「せめて名前で呼んでくれないっすか!?」
「寒い時に薄着になると進化する……んん、それはなんだか違う気がするなー。だって私も、ずっとこんな薄着なんだけどー……ぜんぜん進化、しないぞー?」
 ルフのツッコミが飛ぶ傍ら、グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)がきょとり。このクソ寒い時期に、サマードレスかなって薄手の生地のワンピースに身を包んだ彼女は、スカートの裾をパタパタさせて内側に冷たい空気を取り込みながら。
「もしかして氷が足りないのかなー?もっと冷やさないとダメかー?」
 むー、むくれたグラニテは蹲ると両手を握って両目もぎゅー。小さく丸まって力を溜めて……。
「んー……やぁ!」
 跳ね上がりながら両手両足を広げてパッと目を開く。小さな花火はその頭部に生えた氷の結晶を枝分かれさせて伸ばし、肩甲骨を基点に無数の氷晶が伸びて翼の如く。四肢まで氷柱を繋ぎ合わせたような外殻に覆わせて、指先に似た氷柱をニギニギ。
「んんー……やっぱり、変化ないなー……」
「それ変化って次元じゃないよね!?」
 鳥さんすらツッコミたくなるグラニテの姿はもはや氷の怪物。見ているだけで寒々しいその中心で、グラニテは小首をこてり。
「寒くても寒くなくても進化しないなら、自分が快適だって思うように過ごすのが一番じゃないかなー」
「そう、結局至るのはそこなんです……」
 話を聞いていた和奏は、脱がされる前に冬服の制服を脱ぎ捨てる。衣擦れの音を立て、一枚ずつ着物を落とした和奏は、白地を黒で縁取ったような演算回路に身を包んでおり。
「……大丈夫、食べた分ちゃんと消費してますしお腹周りはお餅じゃないはずです……!」
 ぷにぷに、自分のお腹をつついて、贅肉はついていない事を確かめてから。
「薄着になる事で進化する?何を言ってるんですか?私のフィルムスーツ……夏でも冬でも、なんなら月面でも戦闘中はこれ一枚ですよ?」
 月までその格好で行ったの!?
「でも何も起きていない……つまり貴方の教義は間違っているんです!」
 ビシッ、たゆん……堂々と指を突きつけて、その衝撃で二つの御餅(意味浅)を揺らす和奏に、鳥さんは。
「それは君がまだこの境地に至ってな……」
『ぎゃあああああ!?』
「同志!?」
 信者の悲鳴に振り向けば、グラニテがでっかい氷のおててで信者を掴み上げて冷凍保存。
「信者さんは確保できたよー」
『よし、刈るか』
 番犬達はあるいは鋏を、あるいはバリカンを手に。
「え、待って、君達何持って……トリカワァ!?」


「貴様ら覚悟しろよ!?」
 全身の羽毛を刈られて調理前の鶏肉みたいな鳥オバケだが、奴が動く前にさくらが服を脱ぎ捨てて、赤いアーマーと黒のフィルムから構成されるスーツ姿に移行。和奏と背中を合わせて。
「私たちの着る演算回路こそ最大の薄着にして最強の装備!」
「これ以上脱がす事など、できはしな……へくちっ!」
 和奏がビシッと決めたのに、さくらがくしゃみして台無しに。
「え、そっちのスーツ寒いんですか?」
「そんなはずは……プログラムが夏仕様にされてる!?」
 鎧装騎兵が身に纏う、着る演算回路は体に貼りつき、温度調整機能なんかもある。ていうか無いと冬寒く夏暑く、ただ恥ずかしい格好になっちゃうし。
「「恥ずかしい格好って言うな!」」
 あ、はい、さーせん。
「く、でも一体誰が……」
 震えながら冬用プログラムに変更するさくらを焚火の側で眺めていた白が、にやり。
「くくっ、スイッチ一つで変更できるんだもの、そりゃー悪戯するよね」
「……砲弾が飛んできそうですから、絶対にバレないでくださいね」
 この人はもー……って半眼になる凶なのだった。
「なんだか知らんがとにかくチャンス!」
 モモ目がけて飛びかかる異形……しかし。
「おっとそうはさせねぇっす!」
 滑り込んだルフが兎必殺のサマーソルト。やや角度をつけて鳥さんをオーバーヘッドシューッ!
「来た!皆、受け止めて!!」
 飛んでいく鳥さんをさくらが呼び出した無数の雛鳥が一斉攻撃。全身をつつき回してトラップ&ダウン。落下地点には拳を握ったモモがいて。
「安心して、刈った羽毛はダウンジャケットにしてあげるから」
 メギョォ……顔面に拳がめり込んで、ぶっ飛んだ先で和奏の浮遊砲台が展開。
「このビルシャナは絶対に倒さないといけません……!女性の敵です!!」
 一斉掃射する弾幕に引っ掛かり、爆破されながら吹き飛んでいく異形。その先で漂う怨霊を撚りまとめ、黒い巨腕を作ったベルローズがその腕を引き。
「やはり鳥さんは、お空がお似合いです」
 盛大な腹パンにより、くの字に折れた鳥さんがヒューン!そこ目がけて、グラニテがピャッ、にゅーん。直線と弧を描けば虚空に残り、弧を弓にして直線から生まれた矢を番える。
「いっくよー……冷たく冷たく攻撃!」
 放たれた矢は異形を射抜き、その身を凍結させていく。ただし、物理的にではなく、その精神から熱を奪うのだ。肉体の内部より熱を奪う幻術に囚われた鳥さんが落ちてくると、デュオゼルガが両手に凍気を纏い、握り込む。
「俺の拳で冷やして凍えさせてやる……!」
 落下する異形が滞空する程の拳の連打。フィニッシュブローで打ち上げれば、更に上へと白が跳び。
「コンガリ仕上がる覚悟はいいかい?」
 拳を重ねたスレッジハンマー!叩き落とされた鳥さんは青い炎に焼かれていった……。


 かぽーん……。
「ほぁー……あったまるっす……」
 温泉に浸かり、夏場の兎の如くどぅるーんとしたルフが呟く。どんだけ寒いのが苦手だったのだろう?
「あの技使うと、手が冷えるんだよな……」
 デュオゼルガは温泉の中でグッと伸びをして、腕の血行を良くするように、自分でニギニギもみもみ。
「……」
 そんな二人を眺めるのは、脚だけ入れてた白。
「僕も入ろっかな……」
 竜派の彼は湯につかると体毛が体に張り付きぺしゃる為、足湯にしていたが、目の前には脱力して赤い毛並がユラユラしてるルフと、お湯から出した腕がピッタリ毛並が貼りついてるデュオゼルガ。自分もぺしゃった所で、目立ちはしないだろう……。
「あー……やっぱり温かい……」
 肩まで浸かった白含め、三人のぺしょり系獣竜人が鏡の前で爆笑するのは、もう少し後の事である。


 かぽーん……。
「んー!やっぱり温泉はいいわー!!」
 グッと伸びをして、主婦業で疲れた肩腰を癒すさくら。たゆん。
「演算回路って、氷も通さないのに耐寒性はないんですよね……」
 温泉の熱が体に染みわたり、長いため息をゆっくりと吐き出す和奏。ぽいん。
「椅子の高さに視線を合わせてくるなんて……」
 邪な視線を向けられた事を忘れようと、口元まで沈むはベルローズ。ぷかぷか。
「温泉、前に一回入ったことあるー!……けどその時は、熱くてふらふらーってしちゃったんだよなー」
 お湯を叩いて遊ぶグラニテだが、ここはプールじゃない。すとーん。
「……」
 女性陣のスタイルを眺めていたモモが視線を落とせば、お湯に揺れる二つの膨らみ。すすすっと、グラニテの肩をポムン。
「ほぇ?」
 振り返った彼女に何も言わず、モモは静かに微笑んでいた……。
「あ、ちょっと、冷ましてみてもいいかー?」
 温泉の湯気の中に氷柱を生み出すグラニテに、全女性番犬が立ち上がり、四人分のたわわな果実が揺れる。
『絶対にダメ!!』
「えー……」
 唯一のスレンダー、グラニテは温泉の隅っこでへにょるのだった。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 5
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