怨念の狙撃兵

作者:雷紋寺音弥

●始まりの場所
 夕陽に佇む廃墟ビル。未だ借り手がつかず、さりとて壊すわけにもいかないまま、ただ残り続ける都会の影。
 そんな場所へ足を踏み入れながら、ジェニファー・キッド(銃撃の聖乙女・e24304)は静かに壁を撫でた。
「変わらないですね……この場所は」
 黒く焼け焦げた壁に、未だ残る弾痕。誰も使用することのない廃墟ということもあり、ヒールさえ施されず放置された跡。
 ジェニファーにとって、この場所はある意味では始まりの場所だった。あの日、1年と半年ほど前に、女子高生の姿をしたダモクレスに襲われたこと。それの戦いに始まり、その後も様々なアンドロイド型のダモクレスが、彼女を狙って現れた。
 だが、それら全ての制作者であり、同時に裏で彼女達を操っていた黒幕、ドクター・アニーは倒された。そう、もはや悪夢は終わったのだ。ダモクレスの科学者による、ケルベロスを狙った暗殺作戦は、全て阻止されたはずだと……そう、思っていたのだが。
「……誰です、そこにいるのは!?」
 崩れ落ちた壁の向こう側に気配を感じ、ジェニファーは思わず叫びながら振り返った。これだけの殺気、只者とは思えない。少なくとも、初めてこの場所で戦った時の自分であれば、間違いなく奇襲を受けた上で倒されていた。
「接敵、失敗……。これより、通常戦闘に移行する……」
 抑揚のない冷たい口調で呟きつつ、薄暗がりの中から男が湧いて現れる。物陰に隠れていたのではなく、本当に何もない空間から姿を現したのだ。
「熱光学迷彩!? まさか、この男もダモクレスですか!?」
 そんなはずはない。ドクター・アニーは間違いなく、自分がこの手で撃破した。
 では、目の前にいる、この男はいったいなんだ。見たところ、螺旋忍軍のようにも思われる風体だが、しかし微かに関節から響く機械音が、彼が紛うことなきダモクレスであることを物語っている。
「目標、確認……。最優先任務、ケルベロスの抹殺……。データに存在する個体の殲滅を開始する……」
 男の手にした銃がジェニファーへと向けられる。この間合いでは逃げられない。覚悟を決め、彼女が腰の銃に手を伸ばして構えたところで、男の銃が同時に火を噴いた。

●ドクター・アニーの亡霊
「召集に応じてくれ、感謝する。街外れにある廃ビルで、ジェニファー・キッドが、宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けることが予知された。こちらからも連絡を取ろうとしたが、お約束の通り、敵はジャミングを仕掛けているようでな。おまけに熱光学迷彩まで使用して接近する、念の入りようだ」
 大至急、救出に向かわねばジェニファーが危ない。そう言って、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)手短に、集まったケルベロス達に説明を始めた。
「出現する敵はダモクレス。コードネーム、Z-J-B。ドクター・アニーによって制作された、射撃戦に特化したダモクレスだ」
 もっとも、製作者であるドクター・アニーは、昨年の冬にジェニファー達によって倒されている。故に、この機体は主を失い、起動時の命令にのみ従って動いているのだ。
 その命令は、データに登録されているケルベロス達の抹殺だ。ジェニファーは勿論、今までにドクター・アニーの繰り出して来たダモクレスを、彼女と共に撃破した者も含まれている可能性が高い。そして、その手始めとして、Z-J-Bはまずジェニファーに狙いを定め、行動を開始したというわけだ。
「敵の使用する武器は、古めかしい見た目の銃が一丁だけだな。だが、見た目は古くても、油断は禁物だぞ。中身はダモクレスが誇るハイテクノロジーの塊だからな」
 単純な構造に見えて、実際はスモーク弾に追尾弾などを撃ち分け、更には機銃顔負けの連射も可能とする強力な武器だ。得意な間合いは、当然のことながら狙撃。その命中精度の高さから、急所を確実に射抜いて来る可能性もあり、あらゆる面で油断のできない相手である。
「ジェニファーが襲われるのは、彼女が初めてドクター・アニーの造ったダモクレスと戦った場所だ。色々と想うところもあるだろうが……今度こそ、一連の襲撃事件に、お前達の手で終止符を打ってやってくれ」
 ドクター・アニーは倒されたが、しかしその亡霊がうろついているようでは、枕を高くしては眠れない。そう言って、クロートは改めて、ケルベロス達に依頼した。


参加者
西院・玉緒(夢幻ノ獄・e15589)
カタリーナ・シュナイダー(断罪者の痕・e20661)
ジェニファー・キッド(銃撃の聖乙女・e24304)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)
 

■リプレイ

●追いかけて来た死神
 薄暗い廃ビルの中、迫り来る暗殺者。暗がりの中から、文字通り溶けるようにして現れたそれは、かつての強敵が生んだ忌むべき残滓。
(「なんてかっこいい登場……って、そんなこと考えている場合じゃありませんでした!」)
 目の前に現れた敵に思わず見惚れそうになりながらも、ジェニファー・キッド(銃撃の聖乙女・e24304)は辛うじて正気を保ち、冷静に間合いを測って出方を窺った。
 こいつは危険だ。ジェニファーの本能が、そう告げていた。迂闊に銃を抜けば、その瞬間を狙われてやられてしまうが、しかし銃を抜かなければ、より不利な間合いに追い込まれる。
 チャンスは一瞬。相手がこちらに狙いを定め、引き金に指を添えた瞬間。敢えてその場から動かず、ジェニファーは敵の動きを見定めながら、腰の銃へと手を伸ばし。
「目標……相対距離、反応速度算出……。抹殺する」
「……っ!?」
 敵が銃を構えるのと同時に、素早くリボルバーを抜いて連射した。この状況だ。狙いなどつけていられず、牽制として時間を稼げれば十分だと……そう、考えていたのだが。
「……う……ぐ……」
 気が付くと、いつの間にか左肩と右足を射抜かれ、ジェニファーはその場に膝を突いていた。
 速い。想像していた以上に、相手の動きも狙いも正確無比。そして、何よりも信じられなかったが、こちらより後に銃弾を発射したにも関わらず、その弾数は敵の方が多かったということだ。
(「秒間の連射力では相手の方が上……。拙いですね、これは……」)
 殆ど相討ちに近い状態で攻撃できたことで、辛うじて敵の銃弾が急所に当たることは防げたものの、これを繰り返されれば遠からずこちらが押し負けてしまう。
 純粋な強さであれば、相手の方が数段上手だ。そのような場合、搦め手や技術で対抗するのがセオリーだが、今回の敵は技量も高い。
 万事休す。その言葉がこれ以上になく相応しい状況だった。敵の銃口が再び向けられ、その先はしっかりとジェニファーの額を捉えている。相手の動きを止めるための連射ではなく、今度は確実に急所を射抜いて仕留めるつもりだ。
(「ここまで……なのですか? ようやく、ドクター・アニーを倒せたというのに、こんなところで……」)
 運命は変えられない。今まで悉く覆して来た死の定めに、最後の最後で追い付かれてしまった。奇跡でも起きない限り、万に一つも勝ち目はないと……そう、諦めかけた時だった。
「……目標補足。排除開……っ!?」
 冷徹な殺人マシーンでしかない敵の表情が、一瞬だけ曇る。自分とターゲットの間に、異物が紛れ込んだことが原因だ。
「どうやら、間一髪で間に合ったようだね……」
 気が付くと、巨大な鉄塊剣を携え、小柳・玲央(剣扇・e26293)が立っていた。敵の放った銃弾は彼女の剣に阻まれて、ジェニファーまでは届いておらず。
「大丈夫? ドクター・アニーを倒した後なのに、因縁って簡単になくならないものなんだね」
 同じく、駆け付けた那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)が地脈とジェニファーの魂をリンクさせることで、彼女が敵から受けた負傷を回復させていた。
「す、すみません。助かりました……」
 足に残った痛みに耐えながら、ジェニファーはなんとか立ち上がる。グラビティによるヒールとて、負傷の全てを無効にできるわけではない。急所を正確に射抜いて来るような相手に、長期戦は不利だ。
「皆さん、気を付けて下さい。あいつは……強いです」
 火力やスピード、そして砲門数等で押して来る、今までの敵とは訳が違う。シンプル故に、極限まで研ぎ澄まされた技は、ただ純粋に強い。そう言って仲間に注意を促すジェニファーだったが、それでも倒せない相手ではないと、カタリーナ・シュナイダー(断罪者の痕・e20661)は銃を抜いた。
「如何に精巧に作られようと、所詮相手は機械だ。機械である以上、人の手で葬れぬ道理などない」
 相手はなにも、異界の怪物というわけではない。そして、ケルベロス達は時に身の丈よりも巨大なダモクレスでさえも、退けてきた実績がある。
 もっとも、そんなカタリーナの主張は、敵のダモクレスにとっては理解し難いものだった。
「……敵、思考パターンに論理的矛盾を発見。出力、速度、耐久性……全てにおいて、機械が人に劣る面は見受けられず……」
 純粋な能力値だけならば、ダモクレスが人に負ける要素はなにもないのだ。確かに、彼らの高度な演算能力を以てすれば、そのような結果しか導き出せないのだろうが。
「それじゃ、試してみるかしら?」
 突然、部屋の隅から声がした。そちらへ敵が振り向いた瞬間、襲い掛かって来たのは凄まじい勢いで繰り出される、足技と銃撃の連続だ。
「耐えきって頂戴。これぐらいで逝かれちゃあ、愉しめないし……ね?」
 相手の不意を突いて接近し、そのまま七色に輝く蝶の羽を展開して宙へと舞う。空中で体勢を整えることさえ許さず、続け様に踵落とし! 最後は相手を踏み付けたまま、至近距離からありったけの銃弾を叩き込んだ。
「……ふふ。抹殺対象って、一人だけだったかしら……ね?」
 ドクター・アニーの制作したダモクレスを倒したケルベロスは、ジェニファー以外にも存在する。まさか、見落としていたわけではないだろうと迫るのは、不意打ちで大技を食らわせた西院・玉緒(夢幻ノ獄・e15589)だった。
「わたしも、抹殺対象に入ってるんでしょう? ……なら、先手を打っておこうと思ってね」
 自分も以前に、ドクター・アニーの開発したダモクレスを倒したことがあると、玉緒は告げた。もっとも、彼女の口から告げられなくとも、敵は既にデータの照合を開始していたが。
「……照合完了。対象データに該当あり……」
 案の定、あれだけの猛攻に晒されたにも関わらず、敵は平然とした様子で起き上がって来た。ダメージを受けていないわけではないのだろうが、そもそも狙撃に特化した機械兵だけに、痛覚なども失っているのだろう。
「ターゲット確認……最優先任務、ケルベロスの抹殺……」
 何ら揺らぐこともなく、動じることさえもせずに、敵のダモクレスはケルベロス達へ再び銃口を向けて来る。
 コードネーム、Z-J-B。ドクター・アニーによって作られた、忌むべき置き土産との死闘が幕を開けた。

●非情の狙撃兵
 始まりの地にて現れし、最強にして最後の刺客。単純に狙撃能力を特化しただけの存在でありながら、しかしZ-J-Bはともすれば、今までにケルベロス達が戦って来たドクター・アニー製のダモクレスに勝るとも劣らない強さを誇っていた。
「行くぞ。まずは、敵の動きを止める」
 弾幕を張ることで行動を阻害しようと目論むカタリーナだったが、正面から無数の砲弾を食らっても、Z-J-Bは怯みもしない。効いているのか、いないのか。感情を表に出さない相手というのは、その挙動から状態を読みにくく、戦い辛い相手だ。
「相変わらず、無駄に頑丈ね。でも、そっちの方が蹴り飛ばし甲斐があるわ」
「あまり、楽しんでいる余裕はないと思いますけどね」
 あくまで余裕の態度を崩さない玉緒に、ジェニファーが苦笑しながら言った。互いに跳び、左右から挟み込むようにして、爆風の中から現れたZ-J-Bに蹴りを食らわせる。相手の足を止めることで、回避性能を低下させようという作戦だが。
「……機動力、30%低下。だが、任務遂行に支障なし」
 壁際まで吹き飛ばされながらも、Z-J-Bは顔色一つ変えずに銃を構え、態勢を立て直すこともしないまま弾を撃ってきた。
「これは……スモーク弾!?」
 瞬く間に煙で覆われるジェニファーの視界。これでは、いくら相手の機動力を低下させたところで、こちらも狙いが定まらず堂々巡りだ。
「君の相手は私だ。ジェニファーはやらせない……」
 敵が次弾を装填する隙を狙って、玲央が鉄塊剣を大きく振り被り、叩きつけた。その隙に、摩琴がベルトから薬瓶を引き抜き、ジェニファー目掛けて投げつける。
「みんな、備えて!」
 霧を払うのは、自分の仕事。相手が視界を奪う霧なら、こちらは肉体の限界を調節させえる薬品で対抗だ。
「みんなの情熱に一陣の風を! アンスリウムの団扇風!」
 赤、白、緑、それぞれの色をしたアンスリウムの幻影が現れて霧を払うと共に、ジェニファーの身体に眠る潜在能力を極限まで引き出す。これで、狙撃手として火力は五分。後は、どちらが先に相手の急所を狙い撃ち、勝負を決めることができるか否か。
「任務遂行の障害を確認……。危険度、レベル・中と判断。障害排除ではなく、ターゲットの抹殺を優先する……」
 玲央の妨害を受けながらも、Z-J-Bは未だ目標を見失うことなく、ジェニファーや玉緒を狙っていた。
 ターゲットを暗殺するためだけに造られたダモクレス。その存在が戦いを止めるのは、任務を完了した時か、もしくは己が完全に破壊された時だけなのだ。

●宿命か、信念か
 廃ビルに響く鋭い銃声。徐々に力を削がれつつも、しかし一向に衰えないZ-J-Bの猛攻は、確実にケルベロス達を追い込んで行く。
 今までの敵と比べ、派手さはない。しかし、だからこそZ-J-Bは恐ろしい相手だった。感情の起伏がない故に状態を掴み難いのは勿論だが、それ以上に、こちらの言葉や行動に対しても怒りや焦りすら見せることはない。
「折角の任務だけど……やり遂げたとしても、誰も褒めちゃくれないわよ?」
「……褒める? 理解不能。任務の遂行に私情を挟む必要はない」
 燃え盛る蹴りを放ちつつ煽る玉緒だったが、Z-J-Bは彼女の蹴りを銃身で軽々と受け止め、自身の身体に火が燃え移ることさえ気にしておらず。
「確かに、機械であれば無駄な感情を挟むことなく、冷徹非情に任務を遂行できる。だが、そいつは機械の専売特許ではない」
 己以上に、非情に徹することができる者がいると知れ。そんなカタリーナの言葉にも、Z-J-Bは何ら興味さえ示さなかった。
「無意味な比較だ。感情という電気信号は、エラーに過ぎず。それを持たぬ状態は正常であり、そこに優劣は存在しない」
 非情は非情、それ以上でも以下でもない。真正面から光線の直撃を食らいながらも、Z-J-Bの行動原理は揺らがない。
「凍結による装甲の劣化を確認。しかし、任務遂行に支障なし……」
 既に擬態皮膚の半分は損壊し、内部の機械が露出していたが、それでも任務遂行を優先するZ-J-B。別に、痩せ我慢しているのではない。恐らく、彼はフレームだけになったとしても、最低限の任務はこなせるだけの性能を持っているのだろう。
 そういう存在として造られた。だから、自分の損傷も厭わず戦う。言葉だけ拾えば不屈の信念を持つ者に見えなくもないが、しかしZ-J-Bが従っているのは、あくまで自身の中枢に刻まれた、プログラムによる命令のみ。
 信念などという感情的なものではなく、単なる指令に過ぎないものなのだろう。そして、それに対し忠実に行動するよう造られたZ-J-Bにとって、それ以外の選択肢は存在していない。
「ここまでやられても戦う……危険過ぎる相手だね」
 敵の狙いがジェニファーに集中し出したことを察し、玲央は地獄の炎で生成した爆竹を握り締めた。
 このまま戦いが長引けば、いかに数の差で勝っているとはいえ犠牲は免れない。ならば、そうなる前に決着をつけるのみ。そして、そのためには敵の足を止め、確実に大技を当てられる隙を作らせねば。
「釘付けにしてあげる♪」
 爆竹を足元に投げつければ、瞬く間に広がる狂乱の色と音。極彩色の光で注意を逸らし、敵の機動力を奪う作戦だったが。
「……視覚、及び聴覚回路に異常を確認。自動追尾弾による攻撃へシフトする」
 完全に足を止められているにも関わらず、Z-J-Bは火花の散る空間の中で銃を構え、一発の銃弾を発射した。
「あれは……誘導弾!?」
 ジェニファーが気付いた時には既に遅く、敵の放った弾が彼女の胸元を狙い迫り来る。たった一発、何の変哲もない弾でありながら、それは狙った獲物を逃がさない。ここで急所を射抜かれれば、確実にやられる。避けることが不可能なら、せめて何かで勢いを殺すか、弾を逸らすかしなければ。
「くっ……!!」
 光の翼を広げて飛翔し、両腕を胸の前で交差させて構えるのが、ジェニファーの取れる防御の全てだった。当然、それだけでは敵の攻撃を完全に防ぐことなどできず、Z-J-Bの放った弾が着弾すると同時に、ジェニファーの身体が爆発した。
「やられた!? そ、そんな……」
「いや、待て。その判断は時期尚早だ」
 思わず最悪の事態を考えてしまった玲央を、カタリーナが制した。そう、あれば爆発などではない。あの爆風……否、煙は、敵の銃弾が命中したことによるものではなく。
「残念だったね。そっちが煙を使うなら、こっちも煙で対抗だよ」
 スチームバリア。蒸気の力を使って戦う、摩琴が得意とするグラビティ。先の煙は爆発などではなく、ジェニファーの受けた傷を癒すために、摩琴が間髪入れずに放った蒸気障壁だったのだ。
「ターゲット、ロスト……。索敵を……!?」
 煙が晴れ、しかしその中にジェニファーがいなかったことで、索敵を開始するZ-J-B。しかし、そんな敵の隙を、千載一遇のチャンスを、ジェニファーが逃すはずもない。
「始まりの場所で最終戦……なんて、趣があって良いじゃない。……ねぇ?」
「そうですね。だからこそ、負けられません!」
 ニヤリと笑う玉緒に答え、銃を構えるジェニファー。その声に気付き、Z-J-Bも銃を構え直すが、残念ながらジェニファーの方が速い。
「ヴァルキュリアの弾丸よ、敵を貫け!」
 放たれた光の弾丸が、非情なる狙撃手の頭に炸裂する。廃ビルの闇を光が照らし、ドクター・アニーの残した亡霊を、この世から抹消した瞬間だった。

●悪夢の終わり
 始まりの場所にて、終わりを迎えたジェニファーの戦い。集まってくれた者達に感謝の言葉を述べつつ、ジェニファーは大穴の開いた天井から、日の落ちた空を見上げていた。
「彼等も、レプリカントや人間に生まれ変われればいいのですが……」
 感情の起伏に乏しいダモクレスは、定命化に強い耐性を持つ種族の一つ。だが、それでもと考えてしまう。命令を下した者が亡くなっているにも関わらず、その命令だけが生き続けるのは皮肉なことだ。
「これで……因縁も、全て断ち切れたでしょうか?」
 全ての因果から解き放たれたことに安堵しつつ、ジェニファーは静かに溜息を吐いた。
 非情のスナイパー。しかし、それは哀しき狙撃手でもあった。彼は最後までドクター・アニーの呪縛から、逃れることができなかったのだから。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月17日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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