綿菓子に身も心も埋もれる1日

作者:星垣えん

●綿菓子de巣作り
 夜の闇に覆われ、ひっそりと静かな神社。
 その裏手には、これまた虫の声ひとつない林がある。凍えるような寒さから逃れ、生き物たちどこかへと身を隠した林は、風の音だけが聞こえるほど静寂だ。
 残っている物といえば、何処かの誰かが不法に捨てていった品々ぐらい。
 しかしその中にひとつ異彩を放つ物があった。
 業務用サイズの綿菓子機である。金ダライっぽい底部にオレンジ色の覆いが組み合わさったフォルムは、まさに縁日とかでよく見るアレ。
 なぜ林に……と思うしかないが、残酷な現実として綿菓子機は土を被って死んでいた。
 しかし、そーゆーときに空から落ちてくるのがダモクレスである。
 葉くずのようにひらり舞い落ちた極小ダモクレスは、引き合うように綿菓子機にすぽーんと入りこんだ。
 その結果。
「フッフゥゥーーーーーー!!!」
 屍からパリピにクラスチェンジしていた。
 鋼鉄の脚と腕でもって林を舞台に踊り出し、捨てられて動けずにいた年月を取り戻すかのように縦横無尽にステップを踏む。
「フゥゥーー!! フワッフゥゥーーーー!!」
 そしてうるさい。
 たぶん綿菓子の『ふわふわ』を意味してる声なんだろうけど、それにしてもテンションが高すぎてうるさい。
「フゥー! フーワッフー! フーワッフー!!」
 賑やかにダンシンしながら、ダモさんはふわふわ綿菓子をまき散らした。
 巻き取るもののない綿菓子はそのまま、さながら蜘蛛の巣のように辺りの木々に、枝に絡まり、白くて甘くてふわふわなパラダイスを形成するのだった。

●あいつら通常運行だな
「なるほど。つまり今日は綿菓子を食べに行くんですね?」
「まあ、そうだな」
 すべての事情を把握した巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)の一言に、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)はヘリオン内を掃除しながら頷いた。
 もう空気が緩い。
 もう仕事の空気ではなくなっていることを、猟犬たちは一瞬で察しました。
「ダモクレスになってしまった綿菓子機だが、放置しておけばいずれ人々を殺し、グラビティ・チェインを収奪するだろう。そうなる前に破壊してきてくれ」
 掃除を続けながら説明してくれた王子によれば、綿菓子機ダモクレスは人がいないのをいいことに綿菓子まき散らし放題で、綿菓子の国と言って差し支えない空間を作っているらしい。
 そしてその綿菓子は食べても害はないらしい。
 むしろふわふわ甘々で美味しいらしい。
「つまりは私たちの出番ということですよ……」
 瓶底ぐるぐる眼鏡をきらーんと光らせる菫。
 猟犬たちは彼女に言葉に同調し、鋭い眼光で頷くしかなかった。
 綿菓子を無限に作ってくれるダモさんが待ってるらしいからね、仕方ないね。
「とはいえ、何の装備もなしにダモクレスと対峙するのは危険だろう。これを持っていけ」
 抱えてきた段ボール箱を皆の前に下ろす王子。
 中を覗くと……ぎうぎうに詰められた割り箸があった。しかもお誂え向きに長いやつ。
「綿菓子といえばこれなのだろう?」
 ふっ、と微笑む王子。
 箱買いしてくれるなんてヘリオライダーの鑑ですね。
「さあ、割り箸を持ってゆくのだケルベロスよ! ダモクレスは節操なしに綿菓子を放出しているからな。きっと近くで割り箸を振り回してるだけでも立派な綿菓子ができるはずだ」
「超ビッグなやつとかも作れそうですね!」
 バッと腕を振った王子の横で、運動会の大玉サイズの綿菓子を夢想する菫。
 かくして、猟犬たちは好きなだけ綿菓子が食べられる林に行くのでした。


参加者
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)
葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)
御手塚・秋子(夏白菊・e33779)
巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)
ブレア・ルナメール(軍師見習い・e67443)
ミルファ・イスト(美幼女ガンナー・e85339)

■リプレイ

●雪国のような
 まるで、雪景色。
 綿菓子まみれの林へ着くなり、オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)は幼子のように目を輝かせる。
「うわあー……! 綿菓子、いっぱいだあ……!!」
「な、なんて事だ……森が雪みたいに綿菓子で覆われてる……」
 木の幹にこんもり付いてる綿菓子をちぎり、はむっと頬張る御手塚・秋子(夏白菊・e33779)。
 ブレア・ルナメール(軍師見習い・e67443)も行く手を遮るふわふわを掴み、興味津々に口に放りこむ。
「甘くて、ふわふわ……夢のようです。ね?」
 ちぎった綿菓子を落とすと、足元でイエロ(テレビウム)がキャッチ。
 そのたびにイエロは熱中してふわふわを楽しむので、どうにも落とすのを止められないブレアである。
「わたあめいっぱい……! ここは夢の国なのかな……?」
「とってもおいしいの。こんな綿菓子を作ってくれるダモクレスには敬意を表するしかないの……もうダモさんと呼ぶしかないの」
「いやこれはもうダモさまだよ……! ありがとうダモさま、本当にありがとう……!」
 道を行きながらあちこちの綿菓子に手を出し、はむはむするエヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)とミルファ・イスト(美幼女ガンナー・e85339)。
「しかし、この綿菓子まみれの空間……」
「どうしたんだい? 菫」
 綿菓子の林に分け入りながら辺りを見回した巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)に、ともに進んでいた小柳・玲央(剣扇・e26293)が尋ねる。
 菫はぐるぐる眼鏡をキラッとさせた。
「子供の頃の夢だった、綿菓子の雲に乗って冒険するっていうのも可能かと思いまして。おなかが空いたら雲を食べる感じの」
「なるほど。それはロマンだね」
 くすり、と笑う玲央。
「ぜひ大きな雲で冒険したいね。原材料なしで作られる綿菓子なら実質カロリーゼロかもしれないし」
「夢がひろがりますね」
 無意味に拳を合わせる玲央と菫。
 と、そのとき、2人のすぐ後ろにいた葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)が前方を指差した。
「あ、あれ!」
 咲耶が示す方向には――。
「フー! フワッフー!」
 所狭しと踊りまくる、巨大な綿菓子機がいた。
 辺り一帯に白ふわをまき散らしてダンスする姿は、とても常人のテンションではない。
「あ、もうすごいパリピっぷりっ! クラブで朝まで踊りそうなパリピっぷりだよぉ! アタイそういうの行ったことないけどっ!」
 彼のそばまで走っていった咲耶は、その昂揚感にわっくわっくするしかなかった。

●たぶん一番戦ってるシーン
「フワッフー! フワッフー!」
「綿菓子! 綿菓子! 綿菓子綿菓子!」
 依然としてステップを踏むダモさんの横で、騒がしく動き回る者が1人。
「大きいの作るぞー!」
 秋子である。
 秋子が割り箸を持って走り回り、宙に漂う綿菓子を巻きつけているのである。
「ふふ、秋子さん、楽しそうですね」
「仕方ないよね。綿菓子だから……ぐるぐるー……!」
 テンションのまま動いてる秋子を眺めつつ、自身も割り箸をくるくるさせて綿菓子を作っているのはブレアだ。その周りをオリヴンは自転しながら地デジ(テレビウム)と一緒に周回している。
「あ、少し振っただけでこんなに……」
「おっきい綿菓子できました……!」
「みてみてー。私も巨大綿菓子できたー!」
 出来上がった綿菓子をはむっと食べるブレアの傍らで、完成させた綿菓子を披露して比べあうオリヴンと秋子。
「皆さん堪能してますね」
 その様子に、菫は微笑んだ。
 木々の枝に積もってた、もふもふ綿菓子の雲に寝そべりながら。
「全身で綿菓子を味わう……夢のような時間ですね」
 じたばたと手足を暴れさせる菫。厚い綿菓子を手でちぎっては食べ、直に顔をうずめて食べ、女は幼少のころの夢の限りを尽くす。
 そしてその直下で疾走しているエヴァリーナもまた、夢を味わっていた。
「ふわふわで口どけ軽くって……これはもう気体だよね」
 うっとり、と語るエヴァリーナだが、その脚は猛牛のごとく爆走している。
 爆走しながら、無差別に綿菓子を吸っている。
「わたあめは空気。だからいっぱい吸ってもだいじょーぶ!」
 キリッ、と言いつつ目の前の綿菓子を口に、腹に収めるエヴァリーナ。空間を埋め尽くす綿菓子にぽっかり軌跡が通ってくさまは、まさに人間掃除機。
 その光景は村を荒らす山賊とか言えなくもない。
 しかし、ダモさんはむしろ喜んでいた。
「フッフー!」
「ふふ、ご機嫌だね。ダモクレス君」
 どたどた、と重いステップで跳ね回るダモさんと向かい合い、軽やかに舞っているのは玲央である。元ダモクレスである彼女にはわかっていた。
 仲間たちの昂揚にあてられたのか、ダモさんも楽しんでいるということが。
「フワッフー!」
「いいさ、私もしばらく付き合うよ。綿菓子も美味しいしね」
 持っていた割り箸にひっついた白ふわを噛み取る玲央。
 ケルベロスとダモクレスが踊りあうさまは、控えめに言っても和やかでした。
 しかし、だ。
 両者を取り巻く現実は甘くない。
「フワッフー、フワッフーなの」
「フワッフ!?」
 ずどぉぉぉん!! と横合いから飛んできた猛風が、ダンシンしていたダモさんを豪快に吹っ飛ばした。
「あー……」
 木々をなぎ倒して横転してくダモさんを、見送る玲央。
 その後ろでミルファは愛用のリボルバー銃(ダモさんを転がした凶器)を、ふっと吹いた。
「敬意をもって吹っ飛ばしてやるぜ、なの」
「……綿菓子食べる?」
「食べるのー」
 玲央がちらつかせた綿菓子に、銃を放り出して飛びつくミルファ。
 一方、大木に当たって止まったダモさんはよろよろと起き上がった。
「フ……フワッフ……」
「追撃しないほど、ケルベロスは甘くないよぉ」
「ワッフー!?」
 間髪入れず駆けこんできた咲耶が、稲妻突きを打ちこむ。強烈な刺突に穿たれたダモさんはまたもやごろごろと地面を転がった。
 そう、咲耶は甘くない。
 敵を前にして、何もしないなどありえないのだ。
 たとえ突き出した薙刀『無極偃月刀』をくるくる回し、綿菓子を巻き取っていたとしても!
「……お、お掃除だよっ! お掃除っ!」
 誰にともなく言い訳する咲耶。
 切っ先にまとわりついた綿菓子を頬張る瞬間はね、至福でしたよ。

●全力で楽しんでやがる
「フワッフー……」
 手痛い攻撃を受けたからか、ダモさんは元気なく木にもたれかかっていた。
 だが綿菓子は止まらない。
 綿菓子は変わらず林の空間に舞い上がり、割り箸の二刀持ちで乱舞するエヴァリーナと菫を喜ばせていた。
「2本持てば……食べるのも倍!」
「面白いように綿菓子ができあがりますね」
 両手に50cぐらいある巨大綿菓子を、贅沢にも交互に食べる2人。
 だが何も、大きいというだけで喜んでいるのではない。
「ダモさまダモさま。ピンク色の綿菓子を……できればパチパチも入れてほしい……!」
「あ、私も青と赤の綿菓子が欲しいですね」
「フワッフー」
 おずおずお願いする2人に、ぐっと親指を立てるダモさん。すると彼の体からしゅごーーっとカラフルな綿菓子が排出される。
 そう、色付け機能を楽しんでいたのである!
「こう、彩りがあるのは目にも楽しいですね」
 レモンのように鮮やかな黄色の綿菓子をもぐもぐと食べるブレア。2本持った片方をイエロにあげて遊ばせつつ、じっくりと甘ふわ食感を堪能している。
 しかし完全に常識人かというと、そうでもなかった。
「ところで何で、ブレアさんはメイド服なんですか?」
「綿菓子を美味しくするためです」
 菫の質問に、ブレア(メイド服)はけろっと返した。
 綿菓子を美味しく食べるために平然とメイド服を着てくる。ツッコミどころしかない衣装を完璧に着こなす姿は、まさにスイーツ男子の鑑である。
 一方、そんなメイド服仕様ブレアの横には――。
「いやぁ、ことちゃんがいて助かったなぁ」
 全身を妖しくうごうごする泥スライムに包んだ咲耶がいた。
 綿菓子を楽しむあまり全身がべたべたになってしまった――ということで、ことちゃんことブラックスライムの『別天津渾沌泥濘』にぺろぺろしてもらっていました。
「べたべたしてるのは嫌だからねぇ」
「わかります。手から谷間までベッタベタになりますよね」
 しみじみと頷く菫。綿菓子に寝っ転がっていたから言うまでもなくベッタベタである。
 そんな女は、手にサインポール(床屋の看板的なアレ)を持っていた。
 正確には、赤青白でサインポールっぽくした綿菓子を持っていた。
「なんだか工作の愉しみもありますよね」
「なるほど。そういう合わせ方もあるんだね」
 綿菓子片手に近づいてきたのは、玲央だ。
 彼女の手にある綿菓子は紫色に染まっている。菫と同じ赤と青の綿菓子を、玲央は交互に巻いて重ねることで紫色を作り出していたのだ。
「私は色を合わせてみたよ」
「やりますね」
 にやりと笑いあう玲央と菫。
 が、2人はすぐに肩を竦めた。
「でもあれには敵わないかな」
「そうですね」
 苦笑する2人の視線が向く先には――オリヴンがいた。
 その手には地デジを抱いている。そして彼の隣にも地デジがいる。
 地デジが、2体いた。
「地デジ風ワタアメの出来上がり……です!」
 ぼんやりした顔に、気持ちドヤ感を滲ませるオリヴン。拍手する地デジ。
 そう、少年が手にしているのは、白黒オレンジで形成した綿菓子だったのである!
「……ちょっと、たべづらい……」
 まじまじ地デジ風綿菓子を見つめるオリヴン。
 仲良しの地デジに歯を立てるのは、ちょっとばかり躊躇われました。
 しかしその躊躇も数秒だ。あむっと食べた地デジは口の中でパチパチと弾け、柑橘系の爽やかな味が舌の上で踊った。
「あまくっておいしい……もっとおかわり……」
 確保しておいた白黒オレンジの綿菓子で、またせっせと地デジを作るオリヴン。地デジがなんともいえない顔画像を浮かべたのは言うまでもありません。
「色が違うと味も違うらしいけど……これは何味になるんだろう?」
 あむっ、と紫のふわふわと齧る玲央。
 すると不思議なことに芳醇なグレープ味が彼女の体に染みわたった。決して『紫色の綿菓子』を注文したわけではないのに。
「不思議だ……」
「私のはグレープ味じゃないんですけどね」
 ダモさんの粋(?)な心遣いを、しみじみいただく玲央。
 一方、そんなテクを見せたダモさんのほうでは――。
「ダモさん、苺味の綿菓子出来ますか? なの。ミルファの頭くらい、おっきいのくださいなの」
「フワッフー!」
 ミルファが普通にダモさんに綿菓子を注文していた。
 そこにはもうグラビティをぶっ放した武闘派はいなかった。ただ出てくる綿菓子をキラキラと見つめ、せっせと割り箸でキャッチする幼女しかいなかった。
「フワッフーなの。とっても甘々なの」
「何でも応えてくれるなんて素敵……ほらほら見て。虹色クッション!」
「ふわふわなの。食べちゃうのがもったいないの」
 大人しいダモさんのそばに座りこみ、きゃっきゃするミルファと秋子。
「あっ、そうだ」
 何かを思い立った秋子が、パチパチキャンディ入りの綿菓子を何色もプラカップに詰めこむ。
 そしてそれを一列に並べるとミルファにカメラを持ってもらい、ドヤ顔でカップに炭酸水を注ぎこんだ。
 ドリンクの上にもこもこ綿菓子が浮かぶ、綿菓子ジュースの完成である!
「うゆ、すごいの。とっても映えなの」
「でしょー。去年動画で見てねー、やってみたかったんだー」
 カメラを受け取り、ふふふとほくそ笑む秋子。
 一緒に動画を見た夫に『やってやった!』とばかりに録画データを送るさまは極悪人です。

●夢ってやつ
 提灯から溢れる優しい光が、綿菓子まみれの林を照らす。
 その下で、菫はどろどろの乳白色の液体を飲み干した。
「超濃厚なメロンミルク味……こいつは綿菓子にも負けないぜ……」
 ぷはーっとやる菫が飲んだのは、ドリンクバーで出した飲料である。綿菓子の口直しのつもりで出したらもっと甘いの出てきた。
「それはまた随分と重そうだね」
「ヘビーに胃もたれする感じだよねぇ」
「飲みます?」
「「いやそれは」」
 ペットボトルを差し出す菫に、さっと手をかざす玲央と咲耶。
 2人とも、両手に装備した綿菓子でいっぱいいっぱいなのである。
「さっと溶ける……♪ ダモ君、持ち帰り用に、もっと貰ってもいいかな?」
「あっ、私も商店街の皆に綿菓子わけてあげたい」
「フッフー!」
 テイクアウトと聞くや、しゅわーっと綿菓子を放出しはじめるダモさん。
 綿菓子といえば持ち帰りが主だからね、当然だね。
 巻きあがる白ふわが、中空を白く染めてゆく。
 すると、オリヴンとブレアも慌ててダモさんの近くに走ってきた。透明な袋を抱えて。
「ぼくも、おみやげ……」
「お師匠様や友人の皆様に、私も持ち帰らせていただければ……!」
「袋の口を止める輪ゴム、いるかい?」
「「ありがとうございます!」」
 箱で買ってきた輪ゴムを差し出す玲央に、平伏する2人である。
 そうしてどんどん、猟犬たちは綿菓子袋の量産を始めた。縁日でよく見るアレが瞬く間に増えてゆくさまを見て、エヴァリーナはハッとなる。
「私も綿菓子つめつめしなきゃ……でも食べる手も止められない……!」
「ふわふわ綿菓子から、ぽたぽた雨が落ちてるなの」
「ね、綺麗だよねこれ。しかも美味しいんだよ」
 ホットコーヒーの上に浮かぶ綿菓子を観賞していたミルファに、持ち帰りの用意も忘れてニコニコと応じるエヴァリーナ。
 2人の間には、コーヒーのほかにパンケーキ(綿菓子つき)もある。
 どちらも綿菓子を溶かして味わうものだ。コーヒーは溶けた綿菓子が甘味を足し、パンケーキは熱いフルーツソースやチョコソースで溶かした綿菓子がまったりした味わいを添えてくれている。
「おいしい……これやりたかったんだよね……」
「溶けた綿菓子もおいしいの。画期的なの」
「えっ、何それ。私も食べてみたい!」
 むぐむぐ、とパンケーキを頬張るエヴァリーナとミルファに声をかけてきた――。
 綿菓子。
 人間大の巨大綿菓子が、2人の目の前に歩いてきていた。
「綿菓子……!」
「綿菓子が喋ってるの……」
「ふふ、いいでしょ。綿菓子になるの夢だったんだよね!」
 くわっ、と言い放つ綿菓子の声は秋子である。
 上のほうの綿菓子をむしると、そこから秋子の顔が出てきた。ぐるぐるその辺をバレリーナのように回転していたら綿菓子になっていた。
「どこを齧っても綿菓子……!」
「す、すごい!」
「うゆ、ふわふわで不思議なの」
 自慢げな秋子を、憧憬の眼差しで見つめるエヴァリーナとミルファ。
 すぐ真似したのは言うまでもない。

 そしてそんなふうに遊んでたせいで、ダモさんを破壊するときに慌てて綿菓子の袋詰めを始め、仲間にとどめを待ってもらったのは言うまでもない。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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