白き忍びは雨の中、笑った。

作者:中尾

●クリスマスの終りに
 年末を控えた街は活気付き、新年に向けての飾りや季節商品が目につく頃だった。
 天気予報では雪だと言っていたが、空は朝から曇りのまま。
 閉じた傘を片手に、街に来ていた時雨・乱舞(純情でサイボーグな忍者・e21095)は、クリスマスの飾りつけの撤去が始まったショーウィンドウの前で足を止めた。
「クリスマスも終わりですか」
 サンタの帽子を被った猫のぬいぐるみが運ばれていくのを目で追いながら呟く。
 ショーウィンドウが乱舞の表情のない顔を映す。その背後に、人影が見えた。
 背が高く、真っ白な忍装束を着たこの場所に不似合いな男だ。
 反射越しに目が合い、次の瞬間には男から突き出された拳を、乱舞が振り向き様に受け止めていた。
「ッ!」
 一撃が、重い。
 衝撃で触れてもいない真後ろのショーウィンドウが崩れ落ちる。
 先程までショーウィンドウの片付けをしていた従業員は、いつの間にか消えていた。
 それどころか周囲に人の気配はない。この男が何らかの術を用いて人払いをしたのだろう。
 だが、それは乱舞としても好都合だった。
「ほぅ、俺の拳を受け止めたか。なかなか楽しませてくれそうだな」
 ニヤついた顔が言った。
「これは純戦のお誘いという事でよろしいですか?」
 好戦的な男に呼応するように、乱舞の口元にも笑みが差す。
 ぽつり、ぽつりと小雨が降り始め、二人の肩を濡らした。
「天気予報は外れてしまいましたね」
 持っていた傘を放り投げ、乱舞は男に向かって構えるのだった。

●その男の名は、白鯨
「み、皆さん、大変です!」
 雨宮・シズ(オラトリオのヘリオライダー・en0197)の声に、ケルベロスが振り向く。予知を見た後に走って来たのだろう、シズは肩で息をしながら続けた。
「時雨乱舞さんが、白影衆の男から襲撃を受けるみたいなんです……! 急いで乱舞さんに連絡を取ろうとしたのですが、残念ながら返事が……」
 息を整え、シズは顔をあげる。
「お願いします。今すぐに、乱舞さんの元へ救援に向かってください。一刻の猶予もありません」
 シズが続けて言うには、乱舞は街中で襲撃を受けるが、辺りに一般人の気配はなく、また配下の気配もないという。
「敵の名は、白鯨。彼はどうやら組織の人間としてではなく、彼個人の戦闘欲を満たす為に乱舞さんに襲撃をしかけたようなんです」
 白鯨は忍術の他に格闘術にも長けており、主に使う技は次の三つである。
 渦巻く水と共に拳を打つ『水拳渦潮』。水をクナイのような形状に加工し、相手へと放つ『クナイの雨』。相手の体内の水分を操り、触れた場所を内部から破壊する螺旋掌の応用であろう『螺旋水掌』。
「どれも危険な技ですが、ケルベロスの皆さんならきっと対処できるでしょう。白鯨を撃破し、乱舞さんと無事に帰ってきてください。今日は冷えますからね、温かな紅茶かコーヒーをご用意してお待ちしています」
 そう言って、シズは説明を終えるのだった。


参加者
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
時雨・乱舞(純情でサイボーグな忍者・e21095)
レヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)
櫻田・悠雅(報復するは我にあり・e36625)
長田・鏡花(アームドメイデン・e56547)

■リプレイ

●ケルベロスの到着
 迫りくる男の攻撃を己の拳で弾きながら、時雨・乱舞(純情でサイボーグな忍者・e21095)は相手に言葉を投げかけた。
「その忍装束、白影衆とお見受けしますが」
 乱舞は彼の正体に心当たりがあった。
 ――白影衆。乱舞とも因縁がある螺旋忍軍の一角である。
 任務以外での殺人も良しとする組織に乱舞は怒りを感じていた。久々に姿を見せたと思ったら、まさか自分を襲撃してくるとは。
「おっと。そういえば、挨拶がまだだったな。俺の名は、白鯨」
「白鯨……」
「ああ、お前の名は知っている。別に名乗らなくていいぜ。それより」
 拳を繰り出せと、金色の目が訴える。
 乱舞への期待は男を饒舌にさせるが、それでも話している時間が惜しい。
 つまりは戦闘狂。つまりは同類。
 ならば思う存分戦える。そう思うと乱舞の期待もより高まった。
「色々聞きたいことはありますが……まあ戦闘中に聞きますかねぇ!」
 拳と拳のぶつかり合い。それがビリビリと空気を振動させる。
 それを肌で感じながらハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)は戦場に足を踏み入れた。
「おお、やってるな。敵はバトルマニアか。 ま、それなりに楽しめそうかね。 正面からくるなら乗ってやろうか」
「水の武術、ですか。わたしが使うものと、似ているのでしょうかね。まぁ、わたしのものは、そんなに正面からぶつかるようなものでは、ないのですけれど」
 白鯨の動きに截拳道の使い手である一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)が目を細めた。
 白鯨は螺旋の力で水を練り乱舞へと振るうが、それを無骨な鉄塊が受け止めた。
「貴方達は……」
 小柳・玲央(剣扇・e26293)の鉄塊剣である。巨大な剣をぐいと押し込み相手を弾く。
「水使いか……」
 それは、地獄から蒼い炎を生み出し従える己とは相反するもの。
「鍛える相手として不足はないな」
 玲央はフッと笑って剣を握り直した。
「袖触れ合うも他生の縁、助太刀しよう。しかし、私ができるは場を支えるのみ、故に、決着をつけるは君自身だ」
 乱舞に向かって櫻田・悠雅(報復するは我にあり・e36625)が静かに言った。
 火焔を思わせる扇をあおげば、地獄から鎖が顔を出す。それは冷たい雨を蒸発させながら、蛇のように白鯨を見据え、悠雅の左手に従う。
「年の瀬に襲撃してくるとは無粋な……いや、一般人を巻き込まない所を見ると純粋なのかもしれない」
 ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)は人の気配を感じない街並みを見た。
「乱舞が思い切り戦えるように加勢させて貰うぜ! 全力で戦って良い新年迎えようぜ」
 笑顔でそうサムズアップをするのはレヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)だ。緊張した空気が緩み、それがまた有難い。
「ターゲット『白鯨』と遭遇。戦闘に入ります――ケルベロスとして活動している方が襲撃されていると聞きました。助太刀させて頂きます」
 黒いマスクを被った長田・鏡花(アームドメイデン・e56547)が言った。
「あんたはあんたの戦いを続けろ。私達はあんたが受けきれなかった分を相手してやるから。相手も大した戦闘狂のようだし、七人対戦相手が増えたぐらい軽い誤差だろ?」
 ハンナの言葉に、乱舞が確かにとフッと笑った気がした。
「おうおう、ますます面白くなってきたじゃねーか。ひい、ふう、みい……てめぇを入れてざっと八人か。来な、まとめて相手をしてやるぜ」
 挑発するような敵のジェスチャーに、乱舞が駆けた。

●地上の流星群
 まるでピアノを演奏するかのような優雅さで、鏡花は機械兵装へとコードを打ち込む。
 するとアームドブラスターが白い蒸気を吐き出して、仲間達を包み込んだ。
「今宵の空模様は曇り――後、落雷と吹雪に見舞われるでしょう」
 周囲をパチパチと電気がハジケ飛ぶ。
「お前はインファイトを楽しみたいんだろ? 正面から、あたしも少しばかり遊んでやるよ。お前の拳とあたしの拳、どっちが砕けるか……楽しませてもらうぜ」
 ハンナがマーシャルアーツの動きを取り入れた拳を放ち、白鯨がそれを受ける。
「偶にはぶつかり合うのも悪くねぇな」
「いつもじゃん、それ」
 瑛華の軽口に鼻を鳴らして応える。
 瑛華は次は私の番、と燃え盛る蹴りを放つ。
 白鯨が反撃とばかりにクナイの雨を降らせるが、それを瑛華は流水の如くに受け流し美しい銀髪が雨の中動きに合わせて靡く。
「ほぅ」
 その動きに相手が楽しそうに目を細めた。
「戦闘中によそ見はいけませんね!」
 乱舞が螺旋掌を食らわせ、身を引いたタイミング。
「ばーん!」
 レヴィンの明るい声が響く。白鯨の足元が爆発しコンクリートが砕け散った。
 悠雅が紅焔紋扇を片手に雨の中ひらりと舞えば、仲間の傷が治っていく。
「綺麗な舞だね、まさに心も癒されるよ♪」
「ありがとう、君の舞いも素晴らしい」
 その姿に賛辞を贈る玲央もまた、剣を扇に見立てリズム良く戦場を舞う。
 両腕の蒼が美しく燃え盛り、戦場を華やかに照らす。
「釘付けにしてあげる♪」
 己の地獄の炎で作り上げた爆竹。それを、白鯨の足元で散らす。
 それは視覚や聴覚、あらゆる感覚を楽しませる魅惑の花火。心を奪われまいと白鯨は頭を振るう。
「ッ……!」
 そして、瑛華、ハンナ、レヴィンの三人はスターゲイザーという流星の煌めきを宿した蹴りを舞う。見切られぬ様に対策を立てられたその動きは、まさに地上の流星群。
 流れ星のように美しく一瞬に終える蹴り、重力を味方につけたような蹴り、それぞれの個性が見えた。だが、星の輝きを受け、体は痛みを伴うも白鯨の表情は変わらない。
 鏡花の凍結光線に自身を庇った片腕が凍りつき、ハンナの放ったオーラに喰らいつかれても尚、戦意を失わず、ニヤニヤとして白鯨がクナイを放つ。
 悠雅が構築した雷の壁が乱舞を守り、ヒエルが氣を操り回復をサポートをする、その間に乱舞が手裏剣を放った。
 手裏剣が刺さったまま、己を殺めようと向かってくる白。
「ヒ……」
 肺から出た息を吐くような音。感情を揺さぶられ、自然に出た感情。それは、乱舞の口から発せられていた。
「ヒャハハハ!!!!」
 相手の戦意に己の中の戦いを愛する心が顔を出す。
 魂が燃えるような、ぞくぞくとした高揚感。
 乱舞は目をギラギラとさながら、獲物へと螺旋掌を打つのだった。

●白鯨
 激しい戦闘の中、浮かぶ疑問。
「……ところで、『白鯨』さん。貴方の行動は、本当に白影衆の作戦とは関係がないのですか?」
 白鯨は地面に血の混じった唾を吐き出し、口元をぬぐう。
「ああん? 白影衆? 関係ねぇな。確かに俺は白影衆に属しているが、俺はとにかく強いヤツと戦いたくてね」
 つまらなさそうに言う白鯨を、鏡花は正面から真っ直ぐと見据える。
「貴方の言う通り、己の欲求の為だけに戦闘を仕掛けたのだとしたら。身の破滅を早めるだけでしょう。理解に苦しみます」
 己の欲望を優先してまで己の命を危険に晒すとは。それは生物としても、組織の手足としても理にかなわない。鏡花にはとてもじゃないが理解できないモノだった。
 相手が本気で聞いているのだと理解した白鯨は、己の顔を抑えるように笑う。
「ははっ、ははははっ、はは、腹いてぇ。お前は生より優先される感情ってのを抱いたことがねぇのかよ。胸の奥に渦巻く熱いモノを感じたことがないのか? いや、ある筈だ! 見ていてわかったぜ、お前、零式忍者の力を秘めているだろう? ならば、見せてみろよお前の怒りを!」
 そんな事を言われても、わからない。わからない、けれど。
 この力の使い方だけならわかる。
 鏡花が纏っていた電気は激しい雷となって、白鯨へと降り注ぐ。それを受け、白鯨が歓喜の声をあげた。
「盛り上がってるところ悪いね」
 高いモーター音。そこへ玲央が地獄の炎をドリルの如く突き出した。
 広がる蒼。その様は戦場を駆ける蒼獅子のようにも見えて。
「どうだ? 君の真似をしてみたんだ」
「フンッ」
 ヒエルは拳に魔を降ろし、白鯨へと振るった。魂を食らうという拳を腹に受け、白鯨はぐぐもった声を出す。
「俺の拳は二つだけではない。魂現拳!」
 するとヒエルの背後から大きな拳、否。一台のライドキャリバーが激しいスピン攻撃をお見舞いする。
「シラヌイ!」
 乱舞に名を呼ばれ、忍の一文字を背負ったライドキャリバーが、赤い炎を纏い白鯨へと猛スピードで突撃した。
「ぐっ」
 二台の攻撃をモロに受ける白鯨。地面に残る二台分の黒いタイヤ痕が衝撃を物語る。
 白鯨は大気中の水分を己へと集中させると、それを螺旋の力で練り上げながらヒエルへと突き出した。大量の水を纏い高速で向かってくる拳。
 拳本体は避けられるが、その周囲の水までは避けられない。
 予知にもあった水を渦のように纏う水拳。それはまるで渦潮に似ていて。
(「いや違う、これは……!」)
 ヒエルは己に氣を巡らせ耐えようとするも、体ごと水に巻き込まれる。
 そして、その衝撃を耐えながら思い直す。
 これは渦潮なんかじゃない。
 まるで海の中で巨大な何者かと出会い、その巨大さにされるがまま、水の流れに翻弄される感覚に似ていた。
 そこで、彼の名を思い出す。
「白鯨……」
 水が消え空中に放り出されヒエルは体勢を立て直し着地をした。
 そこへ、悠雅が薬液の雨を降らせる。
「これでは薬なのか雨なのか、分からないな」
 だが薬液の優しい雨に打たれる体は、微かに温かみを感じた。
「喜びな、俺の財布の中身を犠牲にしてお前に全弾プレゼントしてやるよ! 」
 レヴィンはリボルバーを手に、得意の早撃ちで装填された弾丸全てを白鯨へと撃ち込む。
「ナックルモードに移行」
 ――ready!
 ベルトの声に鏡花が拳打形態に変形させたガジェットを拳に装着する。
「行きます―― ハイボルテージ・インパクト」
 身軽な動きで白鯨の懐に入り込むと相手の胸に拳を打ち出した。その殴打する瞬間に、高圧の攻撃的グラビティを送り込む。
 上手く息ができずに後ずさると、ハンナの鋭く美しい回し蹴りが横切った。そのスピードから生み出される衝撃波はどんな刃物よりもよく切れる。
 よろめく白鯨に、終わりが近づいていた。
「ハハッ、そろそろ、首を差し出す気になりましたか?」
「よく言う、お前の首を持ち帰るのは俺だ」
 忍びと忍びの戦い。両者とも互いの拳で血を吐きつつも、その感情は歓喜に近い。
 強者を目の前にして、脳内から分泌されるアドレナリンに目をギラギラとさせる。両者は戦いを楽しんでいた。
 だが、その動きこそキレているものの白鯨の体は既にこの戦いでボロボロであった。
 もし目の前の獲物が消えれば、ふと、倒れるのではと思う程に。
「私を討とうとしたこと……後悔しなさい!!!!」
 乱舞が吼える。
「わたしはあなたを……逃がさない」
 落ち着きながらも鈴を転がすような声。瑛華は自らのグラビティを鎖状に具現化すると、白鯨の両足を拘束する。解こうともがくも、鎖はより一層足に喰い込む。
 ヒエルが乱舞の右肩へと手をあてる。
「お前の攻撃は必ず当たる。――俺が保障しよう。乱舞、お前が培ってきた経験が生きるはずだ」
 それは『当てる』という意思を増幅させる技。体を流れる氣の力に視界がクリアになった気がした。そして、悠雅とレヴィンによる電気ショックと光の蝶が戦場を舞う。
「あとは頼んだ」
「いっけぇ……!」
 乱舞は全身が活性化されるのを感じながら力強く頷いた。
 仲間達の力をその身に感じながら、乱舞はその両腕で印を結ぶ。
「さあ、我が幻影達よ……!」
 乱舞の輪郭がブレた気がした。すると、幾人もの人影が現れる。
 みれば、どれも乱舞ではないか。白影が舌打ちをして一人の乱舞へと攻撃を繰り出すも、それは幻影。手ごたえのなさに本物の乱舞を見つけようと必死になるも、何人もの乱舞の動き翻弄され本体を見つけることができない。
 幻影に囲まれた白鯨に焦りの色が見えた、その時、本物が白鯨へと攻撃を繰り出した。
「ぐっ」
 次々に繰り出される拳。本体を見つけたと手を伸ばすもそれは偽物だった。
 連続で拳を受ける白い体は徐々に弱弱しくなり、やがてふらふらと己の体を支えられず後ずさりをした。
 そこへ入る、最後の拳。
「ッ……!」
 周囲の幻想は消えていた。目の前に居る乱舞の姿に、カッと見開かれる金色の瞳。
 まさか自分がという驚愕、そして。白き忍びは雨の中、笑う。
「時雨乱舞、か……」
 まるで自分を鏡で映したかのような戦闘狂。黒い忍装束の似て非なる男。
 乱舞の名は以前から聞いていた。強い男がいたと。その痕跡に、全力の戦いができるとずっと期待をしていた。
 己に死を与える男を見つめ、白鯨は砂となって消えていった。

●年末の街は賑やかで
 雨の中、乱舞は仲間達へと振り返る。
「皆さん……この度はありがとうございました」
 その表情は、いつも通り。落ち着きを取り戻した彼がいた。
「いいってことよ、オレとお前は同じ旅団の仲間だろ!」
 レヴィンが乱舞の肩をバンバンと叩いて白い歯を見せ笑った。
「私も因縁の相手と戦った時、他の人に助けてもらえてうれしかったから」
 玲央が笑む。
 集まってくれた仲間達に礼を言い、乱舞は白影衆の打倒をその心に誓うのだった。
 ハンナはシガレットケースからタバコを一本取り出し、オイルライターに親指をかける。しかしカチカチと何度やっても火は点かない。
「雨が降ってりゃ、なかなか火も点かねぇか」
 ぼやいていると、ハンナが咥えていたタバコを横から白い指先が奪っていった。
「点かない煙草は、仕舞っておきましょうか。さ、風邪をひいてしまう前に帰りましょう」
 瑛華が軽く笑む。どうやら帰るまで禁煙するしかないようだ。
「ゲートを封じたとはいえ、単体でこれだけ強い敵がまだ居るのだな」
 ヒエルはそうしみじみと呟くと、これからも精進して己を鍛えていかなければと心に誓う。
 悠雅は懐から銀時計を取り出し時間を確認する。
「私ができることは限られている故」
 皆の無事も確認した。さて、帰ろうとその場を去ろうとした時だった。
「ハハ、結構雨で濡れちゃったな。みんな大丈夫か?」
 笑いながら言うレヴィンの視界に入ったものは、ひらひらと空から舞い降りる白。
「雪だ!」
 思わず声に出して指さす、その声に悠雅も振り返った。
 雨はいつの間にか雪へと変わり、うっすらと地面に積もり始める。
 鏡花が己のマスクを外すと、流れるような黒髪が現れた。
「はぁっ……」
 その赤い瞳に映るのは空からやってくる白。
「さ、シズが温かい飲み物用意してくれるって言ってたぜ、貰いにいこうか」
「では私は珈琲を頂こうかな」
 レヴィンに玲央。ケルベロス達はそんな会話をしながら歩んでいく。
 周囲は、いつも通りの賑やかな街並みに戻っていた。

作者:中尾 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。