聖夜の思いやり

作者:四季乃

●Accident
「今日は忙しくなるぞう」
 むん、と腕を組んで気合を入れている割に、男性の表情は半分眠っていた。
 それもそのはず。時刻は日が昇ろうとしている夜明け前。ようやく空が白んで、東の空が淡い桃色で浸された、その頃である。だけど今日と明日の二日間限定イベントのために、彼は心血を注いで幾日過ごしてきた。表情はまだ眠たげでも、やる気は満ち満ちている。
 そんな彼を励ますように、深紅の色が一斉に揺れ動く。
 ポインセチア。
 一般的には鉢植えのイメージが強いこの花を、彼は庭園に植えることに成功。一万本の花がこの十二月、一斉に開花したのだ。そこで急遽、市からの依頼でイルミネーションの催しを行うことになり、その当日を迎えたといった次第である。
「鉢植えじゃないとムリとか言ってた奴らもようやく見返せたし、あとはイベントを成功させるだけ!」
 ここまで来るのに随分と長い時間がかかってしまった。
 思わずほろりとしそうになったけれど、男性はぐしぐしと鼻を啜ると、花に不備はないか、動物に何か悪戯をされていないかとランタンを片手に小道を往く。
 そんな、時だった。
「うわあ!」
 目の前でぶわり、と深紅が飛び上がったのだ。
 まるで翼を広げた大きな鳥が、昏い空へと飛び立とうとするみたいに。でも、違う。庭園にそんな大きな鳥は存在しない。そうして彼は、瞬時に理解した。
 気が遠くなるくらい毎日向き合ってきたのだから、わからないはずもなかった。まるで母親が子を抱くような優しさで、強さで、身体を抱きしめるそれは――。
「どうして……?」
 それは疑問というよりは、悲痛に近かった。

●Caution
「宿主とされてしまった男性は、郊外にある植物園の職員だそうです」
 正式には公園らしい。セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が言うには、広大な敷地の中にバラ園やビニールハウスといった植物園があり、件のポインセチアはその区画で飼育されていたのだとか。
「鉢植えが一般的なポインセチアを、彼を始めとした少ない職員たちで懸命に育てたそうよ。その花が攻性植物に変化して襲うだなんて、やりきれないわね」
 そう言って、小さな嘆息を交えたのはアウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)である。何でもその植物園ではイルミネーションのイベントが二日間限りで行われるらしく、男性はその両日のために私生活を投げ打って臨んできたというのだ。
「このままでは宿主とされてしまった男性職員だけでなく、植物園に訪れる人々が危険に曝されてしまいます」
 急いで現場に向かい、攻性植物を倒してほしい。

 攻性植物は一体のみで、配下といったものはない。
 植えられたポインセチアのおよそ五十株ほどが変化してしまったらしく、それはもはや怪物と言って良いほど巨大である。内には宿主とした男性を取り込んでおり、普通に倒してしまえば彼も命を落としてしまうことになるだろう。
「彼を救うには、相手にヒールをかけながら戦うことになります」
「いわゆるヒール不能ダメージを蓄積していく、ということね。夜明け前ということもあって周囲には一般人もいないみたいだから、そういった手間は省けるわね」
 ただ、変質していないポインセチアが密集しているため、戦闘に集中したいのであればその場から引き離す必要がありそうだ。幸いポインセチアの区画に入ってすぐのところの花が変質し、襲われたようなので、その手前に誘導できれば他の花に被害を及ぼすことはないだろう。
「区画に入る手前はモビール型のイルミネーションに彩られた広い空間になっていて、どうやらここにヒュッテなどを設置して飲食などができるようになるみたいです」
「おそらくその運搬前に花をチェックしようとしていた……といったところだったのでしょうね。もしそこで人死にがあった、なんてことが知れればイルミネーションのイベントはご破算でしょう」
 それはきっと、被害者男性が最も望んでいないことに違いない。アウレリアの言外に匂わされた言葉に、同調が続く。
「寄生されてしまった男性を救うのは大変ではありますが、もし可能性があるのならば救出してあげてほしいのです」
「一万本も花を植えるだなんて、軽い気持ちじゃ出来ないわ。せめて彼の想いが報われるように、どうかお願いできないかしら?」
 二人から真っ直ぐに向けられる視線を受け止めたケルベロスたちは、しっかりと強く、頷いた。


参加者
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)
葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)
香月・渚(群青聖女・e35380)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)
ブレア・ルナメール(軍師見習い・e67443)
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)
アルケイア・ナトラ(セントールのワイルドブリンガー・e85437)

■リプレイ


 凍てる風が地平線から押し寄せてくる。
 頬を嬲る冷たさに紫眼を細めた香月・渚(群青聖女・e35380)は、朝が雪崩れ込んでくる東の空を背にするとその唇を開いた。
「さぁ、皆。元気を出すんだよ!」
 満面の笑みで始まったのは”躍動の歌”。それは生き生きとして身が内側から弾むような元気な歌だった。
「さぁ行くよドラちゃん、サポートは任せたからね!」
 夜明け前の仄暗さなど吹き飛ばしてしまえるような歌声に、やさしげな微笑を浮かべた如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)は、彼女の歌によって背中を押された前衛たちが、真っ直ぐ攻性植物に向かって駆けだしていくのを横目に見ながら、同じ中衛を担うこととなったアルケイア・ナトラ(セントールのワイルドブリンガー・e85437)に運命の導き「節制」を齎す。
「丹精込めてポインセチアを育てていたカヅキさん。全ては聖夜を楽しむ人々の笑顔の為に、そんな心優しい方の命を奪わせはしません」
 一方ブレア・ルナメール(軍師見習い・e67443)は後衛の位置につくビハインドのアルベルト、ボクスドラゴンのドラちゃん、そして自分自身に対してスターサンクチュアリの守護を付与しており、戦闘準備はばっちりだ。
 空より現れたケルベロスに気付いた攻性植物が、くるくると手裏剣のように赤い葉を回転させて斬り付けてくる。一見すれば玩具に見えなくもないが、膚を裂く痛みは本物だ。即座に仲間を庇うように前に出た嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)が、くるり舞うように半身になった状態から混沌の一撃を叩き込む。
「花ではなく葉のような部分が紅いのだな」
 ほんの僅かに睫毛を持ち上げ、至近で目にした赤は鮮烈であった。
 押し寄せてくる赤の群れが槐を目掛けているので、ライドキャリバーの蒐はエンジン音を掻き立てると、接近するその一部分をガトリング掃射で削ぎ落す。おのれの身体が地に落ちたのを見て驚愕、あるいは憤慨といった様子でぶるぶる震える攻性植物が、今度は地団駄を踏む。大地を揺らして至近の者たちを一絡げにしてしまおうというのだ。
「ああ……駄目よ。その様に強く抱きしめすぎては」
 咄嗟にアウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)が、そのように呼びかけた。片手には強く発光するガネーシャパズルが掲げられており、彼女の仕草ひとつで現れたのは怒れる女神カーリーの幻影だ。周囲一帯のポインセチアを傷付けぬよう、自分たちの方へと誘導を兼ねた一撃は真っ直ぐ身を貫き、幾らかのポインセチアを散らしていく。はらはらと、それはまるで雪のように舞って、地に落ちると朽ちたセピアに枯れていく。
「植物相手に蜜を垂らす。奇妙な光景だが、救済の為ならば霧も集めよう。兎角。久方振りに慈悲を齎さねば。母親たる私は温かな肉体に違いない」
 おいで、と穏やかに呼びかけながら、慈愛に富んだ眼差しでゆっくりと後退するユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)は、地鳴りを起こすポインセチアを瞳に閉じ込めながらも、けれど――。
「貴様の物語を否定する」
 相手の存在を『否定』し証明を混濁させる、それは”Eraboonehotep”。回避を奪われた攻性植物は確かにケルベロスを一絡げに巻き込んでいる、そのはずなのに。まるで己自身も渦中にあるような錯覚を覚えていた。
 未だ胎の奥底に隠した一般人――カヅキの姿は見えないが、植物自体に元気が有り余っている。
「いっぱい頑張ってきた人にはいっぱい報われて欲しいものねぇ。完璧に助けられるよう頑張っちゃうよぉ!」
 そう言って、おそらく今日一番の火力を誇る稲妻突きで下肢を叩き切ったのは葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)であった。華奢な身体からは想像もつかぬ破壊力を以て叩き込まれたその一撃で、ポインセチアがパッと乱舞する。敵の動きをつぶさに観察していたアルベルトはその瞬間を狙い、休む暇を与えぬようポルターガイストで臨む一方で、ドラちゃんとイエロが最も負傷している槐へと属性インストールと応援動画の合わせ技で回復にあたる。アルケイアが前衛たちの怪我を等しく癒すスターサンクチュアリの輝きを放てば、ケルベロス側の維持は常に最高を保つこととなった。
「花は見えども実をつける、夢見し日々は甘露となりて裡に有り」
 癒えていく傷のあたたかさを覚えながら、小さな吐息を漏らした槐は蠢く植物の息吹を肌で感じながら、その敵へとヒールを施した。花咲く過程が存在しないとろけるような甘い果実の力が、ポインセチアの赤を取り戻す。
 転じて深紅の牙を剥く攻性植物の腔内を、竜を象った稲妻でアウレリアが穿つと、病的かつ頽廃的な禍々しい混沌とした痛みを齎す、形容し難い鉄塊剣のような得物を持ち上げたユグゴトが、伸びてきた触手のような攻性植物を叩き切った。
「顔色が悪いぞ。養分ならば此処に在る。おいで。私の仔――違うな。彼の仔だ。貴様の中に存在する、彼の仔なのだ。親孝行を忘れたのか」
 問いかけの意味を図りかねる攻性植物の動きが、いささか鈍い。
 グラビティブレイクで更に追い打ちをかけるように全身から伸びるそれを削ぎ落していく咲耶は、ちらりと何か青いものを見た、気がした。けれど、蠢く緑の葉がさわさわと密集して覆い隠してしまう。恐らく重厚に折り重なるあの箇所に、彼が居るのだろう。
「カヅキ様……とても素敵な方とお見受けします。助けてみせますので、心を強く持っていてくださいませ」
 キーッと言うようにじたばた暴れる赤の雪崩に目を眇めながら、ブレアが呼びかける。攻撃を受けた仲間たちの様子を伺いつつも、少しでも異変があろうものならフローレスフラワーズの花びらを降らして、決して油断を見せることはない。
 注意深く仲間を気に掛けるブレアの傍ら。
 アルベルトが心霊現象による金縛りで敵に食らいついた瞬間、ギュンッと方向転換をした蒐がガトリング掃射でポインセチアを撃ち抜いた。それは後衛に向かってスターサンクチュアリの守護を描いていたアルケイアに忍び寄る触手を撃ち抜いており、地に落ちたそれが悔しそうにうねり、暴れ、朽ちていく。
 短く息を呑んだアルケイアは、視線で感謝を示すと、敵の方を振り仰ぐ。
「辛くても頑張って下さい! 無事な花たちが、あなたのお世話を必要としてるんです!」
「めでたい日に悲劇なんて起こさせない、必ず助けてみせるよ」
 ドラちゃんとイエロたちの回復でこの場が補えると判断した渚は、断罪の戦鎌を大きく回転させて真正面に構えると、刃に”虚”の力を凝縮させながら、敵の懐に潜り込むように一気に駆け抜けた。振り抜かれた刃は赤を散らし、その身が竦む。
 その仕草に違和を覚えた沙耶は一度待ったをかけると、ウィッチオペレーションで攻性植物へのヒールを施してみせた。削がれた下肢に豊かな葉が芽吹くとするすると赤い色があちらこちらに咲いていく。けれど、その鮮やかさは、赤に一滴の黒を落としたような、そんな彩度のくすんだ赤だった。
(「ポインセチアは救えなくとも、せめてカヅキさんの命は助けたい」)
 その茂みの少し上のあたり。中腹よりやや下の方といったところに人の脚がちらちらと見え隠れしている。どうやらあれは、彼の穿いたジーンズだ。恐らく先ほど見た青はあの色だったのだろう。
「特別な草木の在り方に想いを寄せる気持ちは、祈りに近いのだろうか」
 色を違えたポインセチアの異物を仰ぎ、ぽつり零れた槐の言葉に沈黙がよぎる。
 彼女はふるふるっと頭を振ると、仲間へと迫りくる深紅の牙を受け止めながらも状況に応じてオウガナックルを仕掛けていく。そのようにして一巡、二巡は危なげなくダメージを蓄積して確実なものとなるよう、細心の注意を払うことで状態を維持。徐々に明るくなっていく世界にタイムリミットを感じながらも、焦りは禁物だ。ここで取り逃せば、結果は火を見るより明らかである。
「辛いでしょうけれど、必ず助けるから頑張って」
 薬液を詰めたカプセル型特殊弾を装填し、リボルバー銃・Thanatosの引き金を引いたアウレリアは、攻性植物へヒールのバラ・クラシオンを撃ちだした。身に食い込む特殊弾が、じわり浸透すると、ポインセチアが一斉に開花する。しかし。
「深紅っていうより、蘇芳色?」
 小首を傾げた咲耶の言に視線が集まる。ポインセチアの海を背にした攻性植物だからこそ、あるいは朝日を正面から浴びているからこそ、その違いが顕著であったのだろう。簒奪者の鎌・陰陽虚々呪鎌を振り抜いた咲耶の一撃で地に落ちた花を摘まんだユグゴトは、ほろりと雪のようにほどけて消えていった欠片に目を眇める。
「親不孝者め」
 屑を風に乗せたユグゴトは、その存在を否定する。
 ぐう、といった風に身を屈めてのたうち回る攻性植物はしかし、まだ余力を残しているので積極的に牙を剥き、葉を以て切り付けてくる。単純な攻撃ではあったが、だからこその苛烈さといったところか。的確に急所を狙ってくる厭らしさが鼻につく。
「ドラちゃん、お願い」
 庇いに走った渚が首だけで振り返ると、黄色い翼を羽ばたかせたドラちゃんが天高く飛び上がる。上空から一望できる眼下を見下ろし、あらかじめ話しておいた優先順位に沿ってヒールを付与。
 共にディフェンダーを担うイエロもそれに合わせて、応援動画をちかちか瞬かせて手厚い回復に当たれば、渚のオラトリオヴェールと相まってケルベロスの体力は均等になる。厄介なものさえ無ければケルベロスが倒れることはなさそうだ。
「もう少し耐えて下さい! もっと植物を育てたいですよね! 人々を喜ばせる花を!」
 魔術切開を行いながら呼びかけられる沙耶の決死の言葉に、覗き見えるカヅキの青白い唇がわずかに動いたのが見えた。
「きっとイベントは成功します。人々の笑顔を、ご自身の目で見てあげてください!」
 たまらず駆けだしたアルケイアが、カヅキを縛り付ける蔓を阿頼耶光で悉く撃ち抜くと、蒐のガトリングとアルベルトのポルターガイストがそこに重なりポインセチアが一気に減っていく。
 その時だった。
 パンッと破裂するような鋭い音が鼓膜を震わせたのは。瞠目するブレアの瞳に映ったのは、全身で作り上げた刃で斬り付ける攻性植物と、それを至近から喰らい前足を折り曲げたアルケイアの背中であった。咄嗟にディフェンダーたちが前に出ることでアルケイアを隠すのを見て、ブレアはすぐさま生命の炎を生み出した。
「命の炎の輝きよ……再び」
 生命の炎に全身を包まれたアルケイアの代謝能力・再生能力が亢進。あらゆる傷は細胞レベルで瞬く間に復元されてゆく。その様子を尻目に見ていた咲耶はホッと一息つくと、敵の正体を真正面から見上げていった。
「もう終わらせちゃうよぉ」
 朝がすぐそこに居るから。
 言うなり、御札に封じられた呪を解き放つ咲耶。彼女の横顔を一瞥したしたアウレリアは攻性植物を視認して、「そうね」それから一言、独語のように呟いた。
「この美しい光景を哀しみではなく喜びで染められる様に」
 幾らその方が愛おしくて心が燃えていようとも、離し難い位に慕わしくとも。
「哀しみの赤い血に染まる事なく祝福され育まれた貴方のままで」
 Thanatosの銃口が上向く。撃鉄を起こし、引き金に添えられた指先は細く、けれど確かに意思が籠っている。察したアルケイアはポインセチアの全身に向けて妖精族の加護である治癒結界を展開。
「シンセイナルイノリ」
 呟きによって発動する癒し。
 癒えた花や葉が形と色を取り戻す。けれど――。
「今再び禁を犯せ! かつて在りし呪いの言祝ぎよ!」
 咲耶の輪唱再臨呪が攻性植物に纏わりつき、身を内側から蝕む呪いを打ち込んだ瞬間、アウレリアは引き金を引いた。乾いた音を立てて真っ直ぐ、牙剥くポインセチアを貫くと、沙耶の魔術切開が身を癒し再びの花を咲かせ、槐の甘い果実が彩を添えるもすでに蓄積されたものは大きくて。
「もう、眠ってくれ。朝だけど、二度寝は気持ちがいいものだろう?」
 むくりと起き上がるポインセチアに人差し指でトンと叩く。槐の仕草に、あっけなく仰向けに倒れこんだ攻性植物の”首”を、ユグゴトのデストロイブレイドが叩き切る。最も大きなポインセチアが地に落ちると、末端がわあわあと慌てふためくように右往左往していたが、ざあっと吹き荒れた風に煽られ空へと一気に立ち上る。空中で風に揉まれた赤が、溶けて消えていく。
 あとに残されたのは、パラパラと崩れたポインセチアを全身に浴びて、横たわるカヅキその人であった。
「う、ううん……」
 むにゃむにゃ、とでも言いだしそうな目覚めであった。目を擦りながらむくりと上体を起こしたカヅキは、たくさんの女の子たちが自分を覗き込んでいることに気が付くと「きゃー!」と絹を裂いたような悲鳴を上げた。
「おはよう。気分は如何だ」
 口端を吊り上げて笑うユグゴトに問われた彼は、ぽかんとした。


「ヒールだとおじさんの意図から外れる治し方になっちゃうかもだから、自分の手でやってこうねぇ」
「お、おじ……」
「大丈夫、庭いじりはアタイ大好きだからっ!」
「そ、そっかぁ! じゃあこの際だからお願いしようかなぁ!」
 咲耶にぶんぶん振り回されているカヅキの様子に、渚は小さな笑い声を漏らした。
 大した怪我もなく、自分たちのヒールで元気を取り戻したカヅキのハキハキした背中を見守っていた沙耶は、波打つ心臓にそっと手を添えてやわらかな微笑を刷く。多くの命を育む彼の生き方はとても眩しくて、だからこそ彼を救えたことにただただ安堵の想いが広がっていく。
「きっと、とても長い時間がかかったのでしょうね。カヅキ様、良ければ植物のお話を聞かせてくれませんか?」
「自分なんてまだまだ若輩者だよ。でも、うん。興味があるのはとてもいいことだ! ようし、それならせっかくだし冬にまつわるものを教えてあげようかな」
「あっ、私にもぜひ聞かせてください!」
「私も聞きたいぞ。この星の事をもっと知りたいから、たくさんの草花の話を聞かせて欲しい」
 ブレアとカヅキの会話が聞こえ、土を均していたアルケイアはパッと笑みを浮かべると、彼らの方へと駆け込んでいき、槐もいそいそと輪に加わった。楽し気な様子に双眸を細めたユグゴトは眠りにつく夜を仰ぎ、睫毛を伏せる。抱擁すべき、捕食すべき対象が今日もまた一つ、還っていった。

 ポインセチアの花を光が照らす道を、夫と二人で歩く。
「綺麗ね」
 花も、喜ぶ笑顔も、この光景も。
 アウレリアの囁きに対して、死すら超えて心燃やす愛のままに共に在り続ける伴侶は穏やかに笑んだ。

作者:四季乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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