聖夜に煌めく

作者:四季乃

●Accident
「シャンシャンシャン~シャンシャンシャン~」
 心地の良いベルの音色が、クリスマスソングを”歌っている”。
 ここは街で一番大きなショッピングモール。クリスマスを迎えるためか常よりも来客は多く、月と星のモビールイルミネーションがきらきら輝いて、どこを見てもどこに居てもクリスマスの気配を感じられる。
 その、吹き抜け。
「ママー、ツリーがお歌を歌ってるよー」
 それは青白い光を放つ、ツリー型のイルミネーションだった。てっぺんには蒼いお星さまがちかちか輝き、虚空に瞬く星のようなちいさな光が明滅する。
「あら、ほんと。綺麗ねぇ。……でも、どうしてあれだけ形が違うのかしら?」
 今年のツリー型イルミネーションは白を基調としているようであった。現に向かいの雑貨屋前に飾られたツリーも、アパレルショップも、カフェも全部同じ型、同じサイズのもので統一されている。てっぺんのお星さまも、白かった。あれはもしかして、どこか目立つ場所に飾られているものなのだろうか。
 そこまで考えて、ふと気が付いた。
「わあっ、ツリーがこっちに来た!」
 そう、ツリーは独立して動いているのだ。
 わさわさとイルミネーションを揺らしてあっちへふらふら、こっちへふらふら。およそ五メートルほどもあるイルミネーションが、近付いてくる。
「メリィィィクリスマァァァス!」
 にょき。
 きっとそんな効果音がぴったりだった。
 ツリー型のイルミネーションのあちこちから突如生えた、蜘蛛のような”脚”。ひとつひとつに意思が宿っているかのように、それは気味悪く蠢いて飛びかかってきたのだ。

●Caution
「お察しの通りです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は苦笑を一つこぼした。
「廃棄されていたツリー型イルミネーションに、小型ダモクレスが入り込んでしまったみたいです」
「この場合は、モールの倉庫で長いことを眠っていた、ってことになるのだけど」
 そう言って、腕の中の少女人形から視線を持ち上げたアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)は、少し肩を竦めてみせた。「今年のクリスマスが終われば、他と一緒に本当に廃棄される予定だったのだろうね」と。
 役目を終えてしまったイルミネーションは、ずっとショッピングモールで人々を照らし、心をあたためてきた。わくわくした面持ちを何人も見てきたであろうこのイルミネーションが人を傷つける前に、どうか食い止めてくれないだろうか。

 ツリー型イルミネーションは全長五メートルほど、下部に生えた蜘蛛のような機械脚で動き、ツリーから突出したそれらが体のイルミネーションを鞭のようにしならせて攻撃を仕掛けてくるのだとか。
「現場はショッピングモールの中央、吹き抜けのホールです。幸い、ホールで行われるイベントの小休止時間だったようで、人もそこまで密集はしていません」
「避難誘導などはイベントスタッフとか警備員に頼むとして、ケルベロスは敵があっちこっちフラフラしないように引き付けることが出来ればベストだと思うよ」
 どうもこのツリー型イルミネーション、残留思念のようなものがあるらしく、クリスマスソングを鼻歌で歌ってみせたり、イルミネーションをぴかぴか光らせて喜ばせようとしたりと、少し攻撃にムラのようなものが出てくるらしいのだ。
「もし相手が子どもだったり、あるいはイルミネーションを嬉しそうに見てくれる人が居ると、そっちに気が散ってしまうのでしょうね」
「ツリー自体は人を傷つけたい訳じゃない、ってことかな。あまり強敵ではないようだけど、現場には一般人も多いから気を付けてね」
 アンセルムの呼びかけに、ケルベロスたちはしっかりと頷いた。
「クリスマスのお買い物がダメになってしまうのは忍びないですからね、あまり憎めない敵かもしれませんが、きっちりと倒して来てください」
「ボクからも、よろしく頼むよ。無事に終わったら、みんなも買い物を楽しんできて」
 ひらりと手を振るアンセルムとセリカの笑みにつられて、ケルベロスたちも口元に笑みを刷いた。


参加者
新条・あかり(点灯夫・e04291)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)
エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
夜歩・燈火(ランプオートマトン・e40528)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ


「わー! きらきらー!」
 ダモクレス・ツリー型イルミネーションは聞こえてきた声にピタリと静止した。
 どこに視認できる器官が付いているのかは謎であったが、半身になったツリーはこちらをキラキラとした目で――否、炎をぽっぽとゆらゆらさせる夜歩・燈火(ランプオートマトン・e40528)を見つけて不思議そうに全身をしならせる。どうやら首を傾げているつもりらしい。
「イルミネーションってこんなに綺麗なんですね! ツリーの形がクリスマスらしくて素敵です!」
 ぴょんこぴょんこと飛び跳ねて喜びを示す燈火を見て、どうやら褒められているらしいことを窺い知る。ダモクレスは「それほどでも」とでも言うかのようにくるくる回ると、全身をちかちか瞬かせることで応えたようだった。
「綺麗だなあ、大きいなあ。吸い込まれてしまいそう」
「キレイキレイ!」
 新条・あかり(点灯夫・e04291)が金眼を細めて仰ぎ見るその傍らで、手を打って賛辞するエルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)。シャンシャン歌うツリーはご機嫌で、華やかな装飾にクリスマスソングまで聞こえてくるものだから霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)は感服しきりだった。
「移動式ツリーとか斬新だなおい。うまいこと動けりゃ大ヒット商品だろうに」
「動くツリー……! 歌も歌う……! とても斬新……!! も、もうちょっと、良く見てみたい……!」
 避難誘導の配置につく警備員たちに目線で合図を促す鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)の横でオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)が来い来いと手招きすると、ツリーの脚がわちゃわちゃ動く。どうやら来てくれるらしい。
 シンプルな電飾だけが蒼を彩るツリーの体は、まるで雪原の花のようだ。くるくる、ちかちか。リクエストにお応えするダモクレスは、ふんわりなびく見覚えのないサンタやトナカイ、雪だるまといった人形にハッとした。背後を振り返ると、まるでレディにネックレスをプレゼントするみたいに飾り付ける仕草を見せたカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)がそこに居て、彼はやわらかな橙色の双眸を細めてにっこりした。
「おおー! 似合うじゃないですか!」
 お星さまもピカピカに磨かれて、まるで見違えるようだ。
「あ、レインズのデコレーションいいね。元から素敵なツリーだったけど、さらに素敵になった感じ」
「レインズさん、お見事です!」
 やったね、とハイタッチするアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)と和希の脇をすり抜けてきたエルムとあかりが、ダモクレスに見せつけるみたいにオーナメントを掲げている。
「僕も飾り持ってきたんですよ。飾ってあげますね」
「メリークリスマス。きっと、ずっと、きらきら頑張ってきたんだね」
 あかりが持ってきた雪の結晶型の蒼いオーナメントを上のほうに括って、その下に輝くエルムのちいさな星。綺麗な絵が描かれた玉のオーナメントをあちこちに飾れば、カロンが最後の仕上げとばかりにゴーストスケッチも併用して彩色する。プレゼントボックスを掲げたフォーマルハウトがそっと足元に置くと、モミの木のクリスマスツリーに負けないくらい立派なツリーの完成だ。
 まぁ、これがわたし? 機械の脚で頬っぺたを抑えるようなポーズをしてみせたツリーにスマホのレンズが集中する。
「すごい、更に綺麗に……!」
「わぁもっと素敵になりましたね!」
「お前この場所で一番輝いてるぜ。天辺の星も一等綺麗じゃねぇか」
「僕も写真撮ります! だって綺麗ですもの!」
 ぱちぱち拍手するオルティアと燈火に乗じて道弘が褒め殺すと、エルムがシャッターをたくさん切る。
「ふむ……一段と素敵ですね……!」
 ゴーストスケッチでノートに描写していた和希は、視界の端で赤い蛍光棒を振って合図を寄越すものに一瞥をくれると、
「……それだけに、残念です。破壊しなければならないとは」
 嘆息した。
「大丈夫、ちゃんと鮮やかになっていってる、私が保証する。だからもうちょっとだけ……じっとしていてください、ね」
 オルティアの言葉に、イルミネーションが弱弱しく光る。ピリっと膚を噛むような鋭さが奔ったのは、その直後であった。
 まだ状況をよく分かっていないダモクレスのその後ろで。ゆらりと鞘からナイフを引き抜いたあかりが音もなくその身へと距離を詰めると、宙を掻くような仕草で刀身を躍らせた。瞬間、パッとイルミネーションが強く発光する。
 わたわたと驚きを見せるダモクレスが、あかりの方を振り返り、反射とも思える動きでワイヤーの一本を振り上げた。しかしすぐさま左右から斜線に割って入るカロンとフォーマルハウトペアが阻害、一瞬の硬直。その隙を逃せるはずもなく。
「ごめんね」
 アンセルムはツルクサの茂みの如き触手でダモクレスを締め上げる。ギリギリギリ、と総身を砕きへし折ってしまうのではないかと思えるほどの苛烈な攻撃に、じたばたもがくダモクレスが振り向きざま光線を放った。はたから見ればお星さまの輝きだが、真っ直ぐに射出されるそれは決して可愛いものではない。
 ちゅん、と肩口を貫いた熱線に眉をしかめたカロンは、道弘から放たれる小型治療無人機のヒールを得ると一息ついて、それから感謝の念を示し駆け抜ける。ウェアライダーに相応しいしなやかな脚力で高く飛び上がった彼は、ケルベロスチェイン・infinityを巧みに振りかぶると、生まれた遠心力によってぐるりとダモクレスに巻き付き、それらが重たい痛みを食い込ませる。
「足が生えたり歩いたりしなければ綺麗な姿だったのだろうな」
 カシャカシャと耳障りな音を立てて地団駄を踏む下肢を見て、思わずといった風にカロンから呟きが漏れた。フォーマルハウトはそんな彼をちらりと見上げたあと、ムンと胸を張って具現化した武器を両手にえいやーっと斬りかかる。
 半馬状態を維持するオルティアは、バスタードソードの柄をきつく握りしめると後ろ足を強く蹴り上げ一気に加速。スターゲイザーで敵へと向かう和希と入れ違うように前へと出た彼女は、燈火による竜を象った稲妻に撃ち抜かれたダモクレスの機械脚に向かい、一撃を叩き込む。
 バキン、と小気味よい音を立ててへし折れた脚がのたうち回る。それがあんまり気持ち悪くて思わず「わあ」と小さく飛び上がったエルムは、ダモクレスが仲間へと攻撃に飛びかかっているのを見て、すぐさま六華を展開。
 ふわり、ふんわり。
 雪が降り積もる。それらは仲間を癒し盾となる白き華。
 モール内はすでにあかりによる人払いが済んでおり、あの喧噪が嘘のように静まり返っている。ダモクレスはそのことに気が付いていないのか、ビシバシワイヤーをしならせることに夢中のようだ。
 明滅するお星さまの輝き、その強弱がまるでダモクレスの感情の起伏のように、あかりは思えてなからなかった。すぅっと小さく息を吸い込み、総身に纏うバトルオーラ・Kalanchoe blossfeldianaを弾丸に形成。あかりが至近から気咬弾を撃ち込むと、それはしなるワイヤーごと喰らいついてダモクレスを貫通する。
「あれだけ褒めたんだ、きっと訳がわかんねぇだろうなぁ」
 でもきっと、必要なことだった。
 じっくりとその仔細を観察していた道弘だから、ダモクレスの挙動が未だ覚束無いことを察している。元々が人を喜ばせるものであったので、こちらの要求にも快く応じてくれたのだろう。ツリー自身を子供に見立てて、なるだけ大げさに関心を寄せていたのだ。こうも傷つけられれば、困惑するのも無理はない。
「ただまぁ、加減が分からねぇってんじゃ、安全上壊すしかねぇわなぁ」
 そう言って、チェーンソー剣をギャルンッと轟かせる。ギリギリバリバリと音を立てて回転する刃、その苛烈さにぴょんと飛び跳ねたダモクレスは「きゃー!」といった風に道弘へお星さまビームを放つ。
 けれどあかり、カロン、フォーマルハウトのディフェンダーたちが即座に立ち塞がるので、彼の動きを止めることが出来なかった。道弘は強い踏み込みで間合いを詰めると、わたわたするダモクレスの下肢あたりを狙って刃を払う。その斬撃で機械脚が数本斬り刻まれ、切り落とされたことで「ぎょわーっ」とのたうち回るそれらを「えいやっ」とばかりに後ろ足で蹴り上げたオルティアは、砲撃形態に変形させたドラゴニックハンマーを担ぐと、竜砲弾を撃ちだした。
 頭部の炎をちらちらと揺らして敵の動きを追いかけていた燈火は、仲間と積極的に声掛けをしていくことで連携をキープ。自分はガジェット・蒸気匣ロマンスミスを拳銃形態に変形させて、フロストレーザーを撃ち込む和希の攻撃に重ねるように魔導石化弾を発射。
「悪いのだけど、休ませてはあげられないんだよ」
 そこへアンセルムから放たれた気咬弾がダモクレスのほぼ中央あたりに命中すると、ツリー型イルミネーションはぽぉんと弾かれたように吹き飛んでしまった。ツリーから生える脚がワキワキ動き、起き上がろうとするが自重を支えられないのか多少もたついている。
「フォーマルハウト、今だよ」
 カロンの呼びかけにこっくりと頷いたミミックは、大きく口を開けると漸う起き上がったばかりのお星さまに向かってガブー! びっくりしてビタンビタンとワイヤーで床を叩く危なっかしさを掻い潜るように、カロンから放たれたペトリフィケイションがダモクレスに命中すれば、敵はシュンとおとなしくなる。
 けれど。
「あっ」
 果たしてそれは誰の言葉だったのか。
 ゆらり、とツリーを彩るオーナメントたちが一斉に揺れた――そう思ったとき体中のワイヤーが解き放たれ、至近の者たちの身体を一絡げにして撃ち付けたのだ。まるで意思を放棄したみたいに、動きの予測が出来ず防御を取る事も難しかった。ディフェンダーたちは何とか瞬発力で庇うことは出来たものの、皮膚に走る赤いものは苛烈さを示している。
「いま回復しますね……!」
 エルムはすぐさまフェアリーブーツの踵を鳴らして舞い踊ると、傷付いた仲間たちの身体に花びらのオーラを降らせ、傷を癒す。
「あぁ、そうか……」
 道弘は理解した。
「ありゃ手負いの獣と一緒だ。多分、相当追い込まれてる」
「それなら、早く終わらせてあげた方がいいね」
 ちいさいころ夢に見たイルミネーション。自分と同じ位、色んな子供たちがキラキラした瞳で見上げてきたはず。伏せた瞼の裏で思う。そっと指先を持ち上げたあかりは、何千本もの針金のような氷柱を召喚。
 Liar――それは小さき傷だけれど、やむことのない氷の雨。
「――術式展開」
「来たれ、来たれ、来たれ……」
 アンセルムと和希の言葉が、重なった。二人が何をしようとしているのか気付いた燈火が、星型のオーラを敵に蹴り込むことで一瞬の隙を作ると、その傍らより蠢く異形の術式が、闇と光の混ざり合った形なき精霊達を産み落とす。儚げに揺らめく小さなそれらは、ダモクレスへと飛翔し、力を解き放つ。ぎゃー! と飛びあがるその背後。展開される陣より顕現せし黒白の精霊と氷の楔、魔術は容赦なくダモクレスの脚を削ぎ、身を穿ち、喰らいつくす。
「機に立つ術にて吹き荒び。気を断つ術にて凪を呼ぶ」
 呼気を吐く。
 眼前に聳える一切を穿ち砕くオルティア。それは追い風巻き起こす支援魔術にて己が繰り出す攻撃の速度を飛躍的に高め、装備した武具による怒涛の超連撃。
「やるじゃねぇか。それじゃ最後の加勢といきますかね」
 コキ、と肩を鳴らした道弘はひぃひぃ喘ぐダモクレス、その脇腹あたりから生える機械脚を狙い惨殺ナイフを躍らせた。的確に斬り除かれた脚を踏みつけ、カロンは聖剣ミストルティンと同名の剣を召喚。
 絢爛華麗な外観とは対照的に残酷で無慈悲な斬撃でダモクレスを両断すると、お星さまの明かりが――消えた。小さく息を呑んだエルムはアンセルムの方を振り返り、そして彼が頷くのを、見た。
 そうっと空を撫でるように持ち上げられた指先から、雪が舞う。しんしんと静かに、音もなく。ただ静謐に落ちていく。
 ダモクレスはもう、沈黙していた。


「これでまた使ってもらえるようになります?」
 不安そうに背後から呼びかけてくる燈火の言葉に、道弘は肩を竦めてみせた。科学で飯を食っているだけあってツリーの修復に難航した様子はないものの、ヒーリングだけではどうやら上手くいかないのか表情はかたい。アンセルムを仰ぐと、彼はゆっくりと首を振った。そしてゆるりと立ち上がるとそっと脇に退いて――。
「終わりましたよ」
 にこりと微笑んだ。
「何とか、といった感じではありますが」
 ふう、と額を拭った和希が身を引くと、そこには五、六個の小さなツリーがちょこんと並んでいた。
「あれっ。可愛らしくなりましたねぇ!」
 目をまんまるさせて喜色を滲ませるエルムが問うと、パーツを搔き集めて復元するにはどうやらこれが限界だったらしい。
「恐らくダモクレス化した影響なのかもしれないですね」
 とカロンは言う。
 姿は少し小さくなってしまったし、ヒールの影響で幻想化してはいるものの、一つひとつに個性が出ているというもの。ケルベロスが持ち寄ったオーナメントを彩れば、どこに出しても恥ずかしくない代物だ。
「とてもとても綺麗だったね。ベツレヘムの星のようなあなたの蒼い光。僕、絶対に忘れないから」
「……お疲れ様。綺麗に輝いて、良くがんばりました、です」
 あかりはその内の一つを両手で持ち上げると、ちかちか瞬く輝きに目を眇める。オルティアも気が抜けたのか、ほうっと深い安堵を零すと、天辺のお星さまをひと撫で。
「これくらいの大きさなら、テナント側も受け取ってくれるだろう」
 じわじわと戻ってきた人々を広く見渡しながら掛けられた道弘の言葉に、いくつもの頷きが返ってくる。燈火は頭の炎を嬉しそうに大きく膨らませると、ぴょんぴょんと飛び跳ねるようにして喜んだ。
「それでは店員さんにお願いしに行きましょうか! ついでにお買い物もしちゃいましょう!」
 エルムの提案に乗ったケルベロスは、一つずつ手に取って賑わいを取り戻すモールを散策する。クリスマス限定の雑貨にあれこれ目を輝かせて目移りしたりして。
 でもそれは、まるであちらこちらの風景をツリーに楽しませるようなひと時でもあった。
「その思い出は綺麗なまま眠りに付けますように。頑張ったね。綺麗だね。――その姿のまま、どうぞおやすみなさい」
 そんな風に願うあかりのずっと後ろで、サンタ熊のぬいぐるみを小脇に抱えたエルムが居たとか居なかったとか。きっとそれは、彼が運んだツリーだけが知っている。かもしれない。

作者:四季乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。