電腦寨城

作者:天枷由良

●予知
 近づくことを躊躇うほど錆びた鉄扉。およそ通路と思えぬ暗さで張り紙だらけの路。
 怪しげな光を放つ看板。今にも壊れそうな昇降機。謎の調理場と生肉の模造品。
 まだ人が住んでいそうな部屋。干しっぱなしの衣類。止まりかけの換気扇。
 薄汚れたガラスと奇妙な蝋人形。あちこちに残る弾痕らしきもの。
 それらの合間にずらりと並べられる――ゲームの筐体。
 一見して意味不明な光景だが、しかし。
 スラム街のような世界における真の主役は、大小新旧様々な種類の筐体。
 そう、此処はゲームセンターなのだ。その名もずばり、電腦寨城。
 繁華街に存在する異郷とも言うべきこの場所は、ゲーム愛好家だけでなく風変わりな内装目当ての観光客も呼び込み、それなりに繁盛していたのだが――。
「――――!!」
 尋常ならざる雄叫びに、真剣なゲーマーたちですら手を止める。
 そして彼らが目にしたのは、この場に在るまじき異形。
 使い捨ての駒として放たれた巨躯の男。
「――――!!」
 簡素な甲冑を纏う男が、戦士だったのは遥か昔の話。
 今や同胞からも見放された咎人でしかないそれは、力の限りに両腕を振るう。
 その度に壁が破れ、筐体が砕け、誰かが死んで、血飛沫が飛んだ。
 混沌とした景色が凄惨で上塗りされて、本物の不気味さを醸し出していく。
 やがては悲鳴すら途絶え――それでもまだ満たされないのか、男は衝動に突き動かされるまま、ありとあらゆるものを破壊し尽くすのだった。

●ヘリポートにて
 寒さから逃れるべく、ヘリオンの中で始まったブリーフィング。
 予知を語り終えたミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は、手帳からケルベロスたちへと目を移し、小さく頷いてから言葉を継いだ。
「皆には、このエインヘリアル討伐を頼みたいのだけれど――」
 現場は既に語られた通り、ちょっと風変わりなゲームセンター。
 そこそこ広い三階建て。その最上階にある非常口を破壊して侵入した敵は、一階まで順繰りに殺戮を行っていくという。
「……と、それは予知での話。先方には連絡を入れてあるから、既に避難や入店禁止などの対応がされているわ。皆は現場に到着したら、現れた敵を倒すことに集中してちょうだい」
 その敵、エインヘリアルは己の肉体を武器として戦う武闘派――もとい、荒くれ者だ。
「けれど仲間がいるわけでもなし。皆が協力すれば、決して苦戦する相手ではないでしょう。むしろ、どうやっても被害が出そうなゲーム筐体の方を心配したくなるくらいだわ」
「……そこは、ほら。後始末までしっかりするのが一人前のケルベロスだから」
 黙って話を聞いていたフィオナ・シェリオール(はんせいのともがら・en0203)が、抱いた期待を隠しきれずに言う。
「エインヘリアルを倒したら、ゲームセンターの大切な、たーいせつな商品に問題がないか、ボクらがしっかりと時間をかけて遊――確かめてあげようよ」
 それがケルベロスの務めだ――と、漏れかけた本音を無理やり隠して、フィオナはケルベロスたちに同意を求めるかのような目線を送った。


参加者
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)
カッツェ・スフィル(しにがみどらごん・e19121)
七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)
エリオット・シートン(謎武器の所持者・e85450)

■リプレイ

●聖夜の奮闘
 雄叫びが轟く。
 巨躯の男が衝動に任せて腕を振り回す。
「――っ!」
「真理!」
「大丈夫、なのです!」
 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)の気丈な台詞を聞き、マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)は駆け寄るのでなく、光弾による援護射撃を選ぶ。
「すぐに治してあげますからね!」
 バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)が呼び掛けつつ、雷光の如き青い闘気を真理へと差し向けた。
 それを浴びた機械の身体からは不調が幾らか消えて、しかし彼女は反攻に転じる機会を見出せないまま敵と相対す。
 そうならざるを得ない理由、思考と行動に生じた差異の原因は、真理自身が理解しているだろう。
 ならばと盾に専念する主に代わり、ライドキャリバー“プライド・ワン”が唸りを上げた。
 炎纏う一輪は巨躯の正面から挑み――奪い取った以上を奪われ、床に叩きつけられる。
「――――!!」
 真っ当な戦い方とは呼べない、けれど千の斬撃にも等しい暴力の嵐。
 辛うじて逃れたプライド・ワンの軌道は蹌踉めき、それを見た男は執拗に食い下がる。
「しつこいのは嫌われるよ!」
 元より、同族にすら好かれていないだろうが。
 カッツェ・スフィル(しにがみどらごん・e19121)が言葉で牙剥きつつ、漆黒の大鎌でも襲いかかった。
 簡素な鎧、屈強な肉体、それらを纏めて斬り裂いて、滴る血から溢れた魂を掬い取る。
「美味しくないね、黒猫!」
「そりゃそうでしょうよ!」
 返答は愛鎌でなく、斬撃に続いてバールを投じたフィオナ・シェリオール(はんせいのともがら・en0203)から。
 途端、男は傷を毟るようにしながら吠え猛る。
 嘲りを理解した訳ではないだろう。そも、獣未満の叫びから汲み取れるものなど無い。
 それでも、ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)は断言すべき事実を得た。
「同じエインヘリアルでもレリやラリグラスとは違うな。君は誇りなどとは無縁のようだ」
 だが――と、言葉を継いだハルは得物を手に取る。
「安心するがいい。私もどちらかと言えばそちら寄りだ。君がそう在るならばそのように断じよう」
「――――!!」
 振り上げられる拳。
 刹那、刃が弧を描く。ゲーム筐体が力任せに砕かれて、其処に何の成果も得られなかった男は刀傷に悶え苦しみ荒れ狂う。
 そうして無秩序に齎される破壊は一見して近寄りがたく、けれどもケルベロスからすれば隙以外の何物でもない。
「この蹴りを、見切れますか?」
 酷な問いと共に、七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)が回し蹴りを見舞う。
 細身の少女が繰り出したが為か、大柄な敵を討つには心許なく感じられるそれもまた、不死を死で穿つケルベロスの術技。
 名刀と見紛う鋭い一撃に巨躯の膝が折れる。すかさず半人半馬のエリオット・シートン(謎武器の所持者・e85450)が飛び掛かり、位置を下げた頭に強烈な後ろ蹴りを叩き込む。
「これ、で――!」
 此方も半人半馬のオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)が、鋭い眼光で敵を睨めつけながら猛進。
 態勢を崩したままの男へと巨大杭を打ち込めば、オルティア自身が意図して纏う冷ややかな雰囲気を凝縮したかのような凍気が流れ込み、敵の肉体を侵した。
 程なく、雄叫びが細く小さくなって。けれども瀬戸際に立たされた男は己の拳以外に頼るものもなく。
 遮二無二繰り出したそれは――綴やカッツェなど、自身より遥かに小さな娘子を僅かに後退らせる事すら出来ない。
「豊穣の実りよ――!」
 ダメ押しとばかりに、バジルの治癒術が仲間達を癒やす。
 そうして万全に近い状態を保ったケルベロスは、次々に繰り出す技で咎人を擦り潰した。

●幕間
 かくして、戦いは終わった。
 終わったったら終わったのだ。その程度の相手だとは予知にて語られた通りだ。
 しかし、ケルベロスの務めはまだ終わっていない。
 ふと見回せば、辺りにはプラスチックや鉄の残骸、残骸、残骸。
 哀れ、戦火に巻き込まれてしまったゲーム筐体の亡骸である。
 それは不可避の被害であり、九分九厘が咎人の拳によるもの。
 つまりケルベロスに咎はない――ないが、しかし。
 どうにか出来る事を、どうにかしないまま帰っては寝覚めが悪い。
 況してや、クリスマス・イヴである。
 何があろうとなかろうと、何となく世間様が浮ついて仕方ない今日この日に、電腦寨城の従業員(と熱烈なゲーム愛好家達)だけをお通夜ムードで帰す訳にはいくまい。
 デウスエクスから人々を守る、とは命ばかりの話でないのだ。
 彼らの健やかな日々を維持できてこそ、真の意味で「守った」と胸を張れる。
 故に――故に。
 ケルベロス達は、破損した諸々の修繕を行うことにした。
 決して、決して遊びたいからではない!!

●本命
(「遊ぼう……!」)
 長尺のフォローも甲斐なく、オルティアは極めて本能に素直な呟きを溢した。
 いや、いいのだ。むしろ電腦寨城は常日頃から彼女のような者を求めている。
 そして、彼女には楽しむ権利もある。極悪非道の咎人を裁き、余力を施設の修繕に注いだオルティアは、まだケルベロスと従業員しか居ない空間で大いに楽しむべきなのだ。
「遊ぼう……!!」
 三階から二階、二階から一階。降りる最中にまた呟けば、身体は風のように疾走る。
 それもそのはず、オルティアは半人半馬のセントール族。
 地球の民となったばかりの彼女達には、様々な物事が刺激的かつ魅力的に映るはず。
 其処に種族の特徴――速さを備えた身体があれば、もう落ち着けと言う方が難しい。
 しかし何度でも言おう。いいのだ。これでいいのだ。楽しむのだ、オルティア!
 さて何から楽しむオルティア! いや、実はもう目星をつけているのだ、彼女は!
 それは煌々と輝くフロアに敷き詰められた大型の箱。
 夢と欲望を詰め込んだ現代の猟場。
 ずばり、クレーンゲーム!
「あ、ああっ……!」
 透明なガラスに頬をべったりと寄せて、オルティアは唸る。
 欲しい。あれも、これも、それも! 取れるだけの“ぬいぐるみ”が欲しい!!
 今まさに眼前でオルティアを待っている(としか思えない)大きめのゆるゆるデザインな白熊とか蜥蜴とか猫とか――何か緑の塊とか茶色の塊とか! 欲しい! いや下さい! お金なら――お金――。
「……ええと」
 頭と背筋が些か冷えた。
 懐に収めていたオルティア王国の国庫を開く。其処は冬空と同じくらい乾いていて、戦いに臨めば国民の困窮は不可避だと財務大臣が訴えてくる。
 成程、全くその通り。極めて現実的な意見だ。
 それを十分に咀嚼したオルティアは――大臣を罷免した。
 無いと言うだけなら誰にでも務まる。
 無いものを何とか絞り出すのが金庫番の仕事ではないのか。
 心中のオルティアは中々に傍若無人。それを踏まえて新たな財務大臣は策を述べる。
 ――食事を一日二回、ないし一回にするのです。
 ――うん、いける。
 ――それでも駄目ならお仕事増やして。
 ――わかった。
 こうしてどんぶり勘定同然の予算案は可決され、オルティアは筐体を指差して高らかに宣戦を布告した。
「勝負、です!」

 ――大きめのぬいぐるみを抱きしめたセントールが跳ね回っている。
 余程嬉しいようだ。その割に顔が青白く見えるが……多分、あれだ、照明の当たり具合がよろしくないのだろう。
 さておき、歓喜に浸る彼女の邪魔をするべきではあるまい。
 綴は踵を返す。まだまだうら若き娘と呼べる年頃の彼女だが、庇護欲掻き立てる可愛さ方面に振り切ったぬいぐるみなど興味はない。
「……化石とか標本のクレーンゲームはないのでしょうか」
 あるはずもなかった。
 いや、ギリギリで『恐竜化石模型』とかくらいなら無いこともなかったが。
 模型は模型。綴が食指を伸ばす程ではない。
 マンドラゴラ育成キットとかもない。使い魔召喚セットとかもない。
 それなら大して用もない。
 綴の足は、自然と上階を目指す。
 獲物の存在しない狩場より、気になるものは其処にある。
「……あら」
「おや」
 目星をつけていたそれには、知らぬ訳でもない顔が座っていた。
 バジルだ。修繕作業を終えた彼も同じところに――ある格闘ゲームの筐体へと流れ着いていたらしい。
「……こういうの、お好きなんですか?」
「まあ、好きかと聞かれれば好きですね」
 バジルはスティックの感触を確かめるように動かしつつ、さらに言葉を継ぐ。
「近頃は家庭用ゲームばかり触っていたので、最新の情報にまでは通じてませんけどね」
「そうですか……」
 何やら思案する綴。その間にもバジルはボタンを叩き、ついには硬貨を入れてキャラクターを選ぶ。
 趣味なのか偶々なのか。何かと植物を武器にして戦うそれは、何人かとの激しい戦いを勝ち抜いた末、如何にも中ボスっぽい剛毅な敵に打ちのめされて終わりを迎えた。
 初回プレイにしては上出来だろう。
 もう一度やれば越えられる壁のような気もするが、はてさて。
 連コインする前に、バジルは一人きりのギャラリーを見やる。
 そして綴は、まだ迷うようにしながらも尋ねる。
「面白そうだとは思うのですけど、その、私でもプレイできるでしょうか?」
「それは――やってみれば、すぐに分かることですね」
 ではではどうぞどうぞ。
 椅子を空けたバジルに促されるまま、綴は腰を下ろすと仮想の戦士たちを見やり――。
「これ、この人にしましょう」
 ぽちり。ボタン一つで運命共同体に指名されたそれは、黒魔術という字を女性にしたようなキャラクター。骨とか持ってるし魔法陣も描く。THE・魔女。
(「なるほど……」)
 これは、間違いなくプレイヤーの趣味だろう。
 バジルは一人頷きつつ、まずは静かに見守る事にする。

「ねぇ、何か遊びたいやつないの?」
「えー? うーん……あ、じゃあこれとか」
 引きずられるがままのフィオナが示したのは、何だか騒々しい筐体。
 大きめのボタンが幾つも付いていて、それを画面上方から落ちてくるマークと音楽に合わせて押すだけ、らしい。
 対戦も出来るし――と、言うが早いかコイン投入、モード選択。
 Are You Ready? なんて聞こえたかと思えば、赤白黄色のマカロンみたいな奴が次々に降り注ぐ。
 終わってみれば大した事もないのだが、それでもゲームセンターに足を運ばないような人種には初見殺し。
 軽快にボタンを叩くフィオナとは対照的に、カッツェは四苦八苦。
 勿論、スコアなど比較するまでもない。
「……ちょっと、あっちの同じやつでやり直し!」
「別に構わないけど、カッツェさんがヒールした筐体だからって有利にはならないよ?」
「ぐっ……!」
 まさか見透かされるなんて一生の不覚――でもないが。
 しかし、フィオナの言う通りだ。修繕された筐体の機能は以前と同等。
 残念ながら(?)少なくとも今日中に勝敗が変わる気配はない。
「終わり! はい終わり! こういうのじゃなくてあれ、運動会のパズルないの!?」
「ないよ」
 フィオナがけらけらと笑う。それにぐぬぬと唸るカッツェは――。
「……ところでさ、フィオナ」
 何故だか突然、神妙な雰囲気を作ってから尋ねた。
「今日って何の日か知ってる?」
「何って、クリスマス・イヴでしょ?」
「正解! なのに良い歳の娘が二人でゲーセンだなんて寂しいよねー?」
「……え、別に」
「さーみーしーいーよーねー!?」
「あ、はい」
 不承不承で頷くフィオナ。対するカッツェは視線を彷徨わせたり腕を後ろに回したりと、何やら落ち着きなく。
「やっぱり、今日くらいは恋人同士で過ごすのが普通だと思うんだけど」
「はぁ」
「……ちょっと! 鈍いな! この辺でわからんか!」
「え? ……え、えぇ?」
 もしかして。
 そう、もしかして。
「実はさ、前からフィオナの事が……」
 そこまで言ったきり、カッツェは口を噤んで目を逸らす。
 あな恐ろしや、クリスマス・イヴ。
 何とも名状しがたい空気が二人の間に漂い、体感温度を氷点下まで突き落とす。
 それから――フィオナは覚悟を決めてカッツェの手を取ると、言った。
「分かった。その気持ちを理解できるように努力はするよ。だから――」
「真 面 目 か !」
 すぱーん。
 耐えられなかった。笑いを堪えきれなかった。
 キレの良い手刀を、ハリセンのように叩き込むしかなかった。
「本気なわけないでしょ! なんで真剣に悩んでんの! ばっかじゃないの!」
「いてて……いや、大丈夫だよ。むしろ打ち明けてくれて嬉――」
「だから真面目か!」
 すぱーん。
「暫く見ない間に色々鈍ったんじゃないの? これはもう反省だ、大反省だ超反省だ! 反省の仕方からきっちり思い出すくらい反省させてやるからな!!」
「そんなぁ」
 悲鳴にしては緩すぎる声が響く。
 そして、二人の姿は薄暗い店内から寒空の下へと消えていった。

 一方。
「真理、あのダンスゲームはチェックの必要がある」
 そんな事を言いながら、マルレーネは汎用筐体とにらめっこしている真理の肩を叩く。
「少し待つのですよ。これだけ確認してから――」
「真理」
 やたらと切迫した呼び掛け。
 実際のところは抑揚に欠けているのだが、ただならぬ仲だからこそ感じ取れたものがあるのだろう。真理がモニターから視線を移すと、マルレーネは大型のゲーム筐体をずびしと指差して。
「あれは二人で同じ動きをしないと高得点にならないらしい。詳しくチェックしないと」
 そう言うが早いか、今度は肩叩きでなく腕を組むようにしてきた。
 其処まで来るともう、だだ漏れである。
 真理はマルレーネの望みを理解して、それ故に――こう言ってみるのだ。
「でも、先に此方を済ませないとです」
「……真理」
 ああ、揺れている揺れている。隠しきれない心が赤い瞳に滲んでいる。
 真理にしか解らない程度だが、それが解るのは真理だけで良い。
「はい、はい。分かったのですよ」
 そもそも、この筐体に確認する事などない。
 子供っぽい悪戯心が、少しだけ顔を覗かせてしまったのだ。
 謝る代わりに髪を撫でて、真理の方からマルレーネの手を引く。
 向かう先は勿論、彼女が望んだダンスゲーム。
 その淡く煌めく舞台に二人で上がれば、否応なしに気持ちも昂ぶる。
 ギャラリーは居ないが、それすらも幸いだと思うだろう。音楽とモニター上のラインに合わせてステップを踏む度、感じられる息遣い、色付いていく頬、靡く髪、華麗な足捌き、艶かしい腰使い――それら全ては、互いが独占すべきもの。
 一頻り一緒に踊ってみて、今度は一人ずつの遊戯を見つめて、真剣なゲーム攻略期間も挟みつつ、また一緒に踊る。
 慣れてくればゲーム画面から目を離す時間も増え、抱き合うのと違わない距離で視線を交えながら踊って踊って。
 体力を程々に使い切ったところで、ようやく二人はステージを下りた。
 そのまま互いに身体を預けつつ、向かう先は――プリントシール機。
 肩を並べてカメラに向かえば、そこそこ激しく運動したせいだろうか、画面越しの二人からも何処となく色香が漂う。
 それに当てられたか、どうか。
「……マリー」
 カウントダウンが0を迎えるかというところで為された、不意の呼び掛け。
 反応してしまったマルレーネが、僅かに身体を震わせたのも束の間。シャッター音を挟んで満足げな様子の真理は、小さく舌舐めずりして。
「……ふふ。奇襲成功、なのです」
 そう言ったかと思えば、まだ残る撮影数をすっ飛ばして落書きモードへと移った。
 其処に何を書き入れるか。そもそも何が映されていたかは、二人の秘密である。

 そうして甘い世界を築く者が居る一方。
 ハルは闘争を求め、新たな戦いに身を投じていた。
 二本の操縦桿、メイン・サブモニター、ブーストペダル、etc。
 動作に支障なし。やはり機能面は修復以前と同一だ。
 つまり“ヒールされた筐体だから”などと言い訳は出来ない。するつもりもないが。
「取り繕う必要はあるまい。今は遊ぶ<戦う>時だ」
 ペダルを踏み込み、今一時の愛機で空を翔ける。
 接敵まで5、4、3――。
「――此処だ」
 急制動を掛けつつ降下。馬鹿正直に向かってきた敵機の下へと潜り込むような形で操縦桿のトリガーを引く。
 雨の如く撃ち出された光弾の幾つかが命中し、爆発、炎上。勢力の優劣を表すゲージが、ハルの所属する側へと傾く。
 それを見ながらも、サブモニターをタッチして兵装選択。新たに近づいてくる敵をロックしてミサイルを撃つ。
 白煙を噴いて迫りゆく破壊の塊は、惜しくも獲物の手前で爆ぜた。
 だが、元より戦果を望んでのものではない。それは敵に防戦させて様子を窺い、次に繋げる為の布石だ。
 どうやら――敵は僅かな損害すらも嫌う質らしい。
 僅か一発でも迫る危険があれば、其処から逃れようとしているように見える。ならばとミサイルを浴びせ続けて誘導。戦線を確実に押し上げつつ、僚機にも合図を飛ばせば――利口な仲間は側面から攻め掛かった。
 同時にハルもペダルを踏み込んで、急加速。大型筐体の揺れすら楽しみながらトリガーを引き、敵機を墜とす。
「……よし、このまま迅速に目標を撃破する」
 段々と調子も上がってきた。目指せ、エースパイロットだ。
 聖夜だとか関係ない。ハルはひたすら、ひたすらに闘争を味わい続けるのだった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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