聖夜の軌跡

作者:四季乃

●Accident
 はじめ、真っ赤な服を着ているので「サンタさんかな?」と思ったのだ。
 でも、違う。
「良い子はプレゼントが貰えるんデショ? だったらさぁ、悪い子もプレゼントが貰える日があったって、いいよねェ!」
 ”これ”だけは、絶対に違う。
 キャハハハハ! 甲高い笑い声はまるで超音波みたいに耳を刺す。
 怖くて、怖くて、たまらないから妹の耳を塞いでうずくまる。それでも聞こえてくるのは何かを叩きつける音と、切り裂く音。それから、とっても苦しそうなみんなの悲鳴。
「そもそも良い子とか悪い子とか何をもって区別してんのー? そんなの誰が決めたのー?」
 きっと大人に違いないのに、言ってることはめちゃくちゃだ。四歳の妹ですら、おもちゃを壊しちゃダメだとか、お友達をケガさせちゃことがダメなことくらい分かってるのに。
 腕の中で震える妹をぎゅうっと抱きしめて、なるべく息を止める。
 あっち行け。あっち行け。
 おまじないみたいに頭の中で呟きながら、泣き出したい気持ちを我慢する。
 ああ、それでも――。
「かくれんぼしてるのー? オレも混ーぜて♡」
 にんまりと笑った男の顔が、目の前にぬぅっと現れた。そのほっぺは、あかい色がたくさん付いていた。

●Caution
「クリスマスマーケットに罪人エインヘリアルの出現が予知されました」
 重々しく吐息したセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、集まったケルベロスたちの眉間に皺が寄るのを見つけて、こっくり頷いた。みな思うところは同じらしい。
「一体、凶悪犯罪者とやらは何名いるのでしょうかネ」
 肩をすくめて見せたエトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)の呟きに、いくつもの同調が続く。セリカはむん、と胸を張ると、気合を入れなおしたようで概要を話し始めた。

 出現するエインヘリアルは一体のみ、武器は氷結輪をひとつ。
 現場は屋外のクリスマスマーケットで、敵が現れるのは丸く作られた区画だそうだ。そこは唯一森林と面しているため、外部からの侵入がしやすかったのだと思われる。
「この区画は東の森林を背にした状態で、円を描くようにヒュッテが連なっており、西側に一つだけ道が開いています」
「森林にはイルミネーションが飾り付けられていテ、いわゆる天然のツリーみたいなものですネ」
 あいにくとモミの木ではないようですガ。
 ちょっと悪戯っぽく笑って場を和ませるエトヴァの様子に、眦をやわらげたセリカは口元に笑みを刷いた。
「丸いこの区画は、お菓子やケーキ、ホットワインといった飲食ができるブースのようです。広くスペースを取っているので、戦う分には問題がないでしょう」
「クリスマスですからネ、一般人も多いようですガ、そこはスタッフの皆さんが協力してくれるようデス」
 ただし、避難できる道は西側の一本だけ。避難が完了するまでは協力して敵を抑え込む必要がありそうだ。とくに敵は子供を主に狙うらしい。
「予知では迷子のお子さまがいらっしゃいました。何事もないと良いのですが……」
 言葉を区切ったセリカは不安そうだ。
「相手は随分と常識が通じない……体だけ大人になったと言いますか。そのような敵みたいです」
「あちらが力で抑え込んでくるナラ、こちらも力で抑え込むしかなさそうですネ?」
 敵はアスガルドで重罪を犯したような性質だ。まともに取り合うこともないだろう。下手をすれば疲れるだけ、かもしれない。
「どうか皆さん、クリスマスマーケットを救ってあげてください……!」
「面倒なことはさっさと終わらせテ、美味しいシュトーレンでも頂きまショウ」
 このマーケットではナッツをふんだんに使ったシュトーレンが人気だそうですよ。エトヴァの微笑みにケルベロスたちは小さく笑った。


参加者
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
天原・俊輝(偽りの銀・e28879)
エレアノール・ヴィオ(赤花を散らす・e36278)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)
ルイーゼ・トマス(迷い鬼・e58503)

■リプレイ


 静謐な星が囁くような音がする。
 大地に滲み渡る白き霜となって領域を拡大するそれは、あたかも魔法陣の如く。ちらちらと花びら紛いの氷を舞わせ、クリスマスマーケットに集う人々を一網打尽に絡め取る――そのつもりだったのだろう。
「キャハハッ!」
 ヒュッテを飛び越えて広場の中央に派手な着地を決めた罪人エインヘリアルは、氷結輪を振り回しながら纏う冷気をあちらこちらへ吹きすさぶ。蜂の巣を突いたような喧噪に呑まれる罪人は、にんまりした。
「ホワイトクリスマス! みんな大好きでしょー?」
 ほらほらほら、と得物を振り回し周囲の人々にちょっかいを出す、その獣の肩を射抜くものがあった。焼けつくような痛みを覚え、尻目に睨み付ける罪人の瞳に映っているのは、ガネーシャパズル・掌空を掲げたエトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)。白銀の瞳を細めて正視を寄越すエトヴァの傍らには、フェアリーレイピア・Flowery meteor showerの切っ先をこちらに突き付けるジェミ・ニア(星喰・e23256)が居た。
「極悪エインヘリアル。日本の冬はね、良い子にはサンタさん。悪い子にはなまはげが来るんだよ!」
 言うなり、剣先から噴き出した花の嵐が三メートルはゆうに超える巨体を閉じ込めた。
「ちょっと、なぁにこれー!」
 腕で顔を覆い、襲い掛かるフラワージェイルに眼を眇める罪人は、束の間とはいえ身動きが取れなくなっていると言うに妖怪みたいにケタケタ笑っている。その隙に、動き出した人波の中にあって、身を寄せ合うちいさき者たちを見つけた天原・俊輝(偽りの銀・e28879)は、ポルターガイストで敵に立ち向かうビハインドの美雨をその場に残し、駆けだした。
「遊ぶならこっちですよ!」
 颯爽と抜けていく俊輝の脇から飛び出したカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)が、天を焦がす炎を纏い敵のふざけた表情を真横から蹴り飛ばすと、その足元でほんの少しの切なさを滲ませながら愛おしげにガネーシャパズル・百花を両手に包むルイーゼ・トマス(迷い鬼・e58503)と、穏やかな碧眼に秘めたる苛烈さを滲ませたレフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)が怒れる女神を呼び起こす。
「ええと、ええと……やーい!」
「サンタからの贈り物でなくブラックサンタからのお仕置きが必要そうですね。悪い子には」
 身を穿つような幻影の挟撃に双眸を細めた罪人は、至近にいたルイーゼへと氷結輪を投げ飛ばした。元より盾役のルイーゼだ。おのれを囮にできないものかと考えていたのだから、その繊細で華奢な躯体に傷を負っても、堪えることは容易である。
「俺達が相手をします。皆さん落ち着いて、スタッフさんの指示に従って下さい!」
 割り込みヴォイスで周囲の人々に避難の呼びかけを行っていた筐・恭志郎(白鞘・e19690)は、視界の端で氷を負ったルイーゼを見つけると、マインドリング・蒼華から具現化した光盾を素早く付与。誰一人として欠けさせない、その意思を強く感じられる手際の良さだ。
「どんなに綺麗でも壊したら無くなってしまうんです。そんな簡単な事すら、貴方には判らないまま終わるのでしょうけれど」
 視線誘導を兼ねたクラッカーを鳴らす恭志郎の言葉は、罪人の耳を通り抜けていく。楽しそうに笑う口唇からちらちら覗く歯は、今にも肉を食らいそうな剣呑さだ。
 そのようにして仲間たちが奮闘しているさなか、子どもたちを両腕で抱き込むように引き寄せた俊輝は「もう大丈夫」「妹を守って、流石お兄ちゃんですね」「妹さんもよく頑張りました」穏やかに笑んでいた。
「あと少しだけ頑張ろうね。一緒に怖くない所まで行きましょう」
 くるりと体を回転させ、避難する人々の背中を指さすと、ヒュッテの影になる道を選び、そろり駆けだしていく。
「良い子の二人の事はきっと、サンタさんが見ていますよ」
 恐々走る二人の後ろをついていく形で身を屈める俊輝は、そんな風に二人を励ましながら、転びそうになるちいさな背中に手を添えて後押しした。
 後衛から広く現場を見渡し、状況を把握していたエレアノール・ヴィオ(赤花を散らす・e36278)は、そんな三人の姿を視認すると、俊輝が場に加わるまであと少しといったところに気が付き敵を振り仰ぐ。
「このグラビティは、悪い子に贈るわたくし達からのプレゼント……どうぞお受け取りくださいね?」
 わずかに上体を傾げ、受けた攻撃その衝撃を逃がすようにバランスを取るため氷結輪を振り払う罪人へと一気に駆け込んだ。ダン、と力強く飛び上がり、やわらな金の髪が聖夜を揺蕩う。白き両翼を羽ばたかせて加速した彼女の華奢な身体は、敵の空いた懐に潜り込むと、
「……メリークリスマスだ、デウスエクス」
 パンッ、と顎の下を蹴り上げた。強烈な蹴り技にくらくら、眩暈がする。脳天を揺らされた罪人が、ふやけた声を上げて数歩後ろによろけた。
「さテ、楽しい楽しい根競べなどいかが。どちらが長く立っていられるカ、こっちのなまはげサンと遊びまショウ……?」
 光り輝くルーンアックスを片手で大地に突くエトヴァが双眸を細めて笑うと、胸部を変形展開させて発射口を展開させたジェミが、
「悪い子はいねいがー!」
 エネルギー光線を撃ちだした。
 エトヴァはそんなジェミの姿にちいさく笑むと、霜を展開させてジェミもろとも周囲の前衛たちを一絡げにしようと企む罪人の頭上にまで、飛び上がる。獲物の重量など露とも気にせず高々と振り上げられたアックスが、巨体の肩口にめり込んだ。頭蓋を狙ったはずなのだが、見下ろす男の唇が引きつっているので、どうやらスレスレで躱されたらしいことを伺い知る。
「今のはちょっとヒヤっとした! キャハハ! たーのしー!」
「不死の存在でも精神の成長度って色々なんですね」
 ダラダラと肩から止めどない血液が流れてもケロリとしているさまを見て、カルナは吐息交じりに呟いた。さっさと片付けてしまいましょう。独語のように呟いた彼は、翡翠の瞳を僅かに細め、高速演算で敵の構造的弱点を見抜くと、たちまち地を蹴った。叩き潰す要領で振り下ろされた氷結輪を、パイルバンカーで受け止め道を切り開くレフィナードの脇をすり抜け、ファミリアの白梟ネレイドと共に撃ち抜かれたのは痛烈な一撃。
「ぐ、ぅ……効くぅ」
 クラッシャーの強烈な攻撃をまともに浴びて、さしもの多少の危険は覚えたらしい。
「おや、逃げるのですか?」
 逃げるわけではなかったものの、間合いを取ろうと身を引いた間際に放たれたレフィナードの言に、ぴたりと巨体が止まる。
「では不戦敗と言うことで私の勝ちですね」
「はぁ~~? ちょっと距離とろうとしただけだし」
 まんまと挑発に乗ってズンズンやってくる罪人に、フとちいさな吐息が漏れる。しかしそれはレフィナードのものではなく――。
「何が悪いのか。それを想像しないから貴方は『悪い子』なのですよ」
 背後から聞こえた言葉。
 殺気を覚えたエインヘリアルが咄嗟に背後を振り返る――しかしそれより素早く背面目掛けて突き出されたスパイラルアームが、男の広い背中をズタズタに斬り刻むほうが、早かった。
 吐息すら感じられそうな距離にまで迫られていた事に、まったく気が付かなかった。完全に油断していた方向からの攻撃に、罪人が膝を突く。
「休んでる暇はない」
 その瞬間を好機と見たエレアノールは、砲撃形態に変形させたドラゴニックハンマーを構えると、竜砲弾を撃ちだした。
「罪人、つまりわるい子だ。きさまにくれてやるプレゼントもなにもないぞ」
 まるで雪が降り積もったみたいに真白な髪に留めたアリアデバイスに左手を添えたルイーゼは、前衛たちの足元にケルベロスチェインを展開した恭志郎のヒールに重ねるように、想捧を歌い始めた。奏でられる歌声が傷ついた仲間たちをやさしく包み込むと、深く傷付いた怪我を、身を内側から癒していく。
「回復は任せてください。きっちり治すので」
 恭志郎の心強い声援に頷きを返すことで返答を示したレフィナードは、パイルバンカーを担ぐと悔しそうに歯噛みする罪人へと螺旋力をジェット噴射させて突撃。
「ほら、痛いですよ」
 ハッ、と息を呑んだ罪人が咄嗟に得物を構えて衝撃に備えるも、装甲ごとぶち抜く気概を以て寄越されたデッドエンドインパクトは重く、金縛りで躯体の自由を奪おうとする美雨の助力もあってか厚い腹に風穴が空くのは到底避けられない。
 カフ、と口から大量の血を零し、前のめりに傾いたのを見て、俊輝は力強く、けれど軽やかに地を蹴って前に飛び出すと摩擦を利用して生み出した炎を纏いし脚で蹴りを放つ。心臓、その真上を蹴りこまれ、罪人の息がわずかに止まる。
 古代語の詠唱をすでに始めていたカルナは、敵の眼裏を貫くような眩い魔法光線を放ち貫くと、ジェミが放った幻の薔薇が舞う剣戟の果てより現れたエトヴァがスターゲイザーで蹴りを見舞う。息つく暇もない連撃だが、敵も防御をしつつ反撃の冷気を噴出させると、悪戯が成功した子どもみたいな表情で笑い声を漏らしている。
 カランコエの花を揺らして身を翻したエレアノールは、罪人の元にひとっ飛びすると、氷結輪を持った太い手首を引っ掴んだのだ。
「潰れろ!」
 それは渾身の力が込められた、いわゆる握り潰しであった。エレアノール自体が非力であったために、痛手にはなり得なかったものの、敵の意識を一瞬奪うだけの効果はある。ぶんぶん、と虫みたいに彼女を振り払った罪人は、落ちた得物を拾おうと身を屈め――。
「其は主が課したる試練なり」
 ぐらり、と足元がふらつく感覚を覚えた。
「えっ……」
 思わず息を呑む。顔を上げ、視線を辿るとそこにはルイーゼが居た。
 泥濘のウヴェルテューレ――それは口伝の聖句より始める序曲。旋律を耳にした罪人の胸に押し寄せる強い不安は焦燥となって身を射竦める。もたついた手元で氷結輪を払った罪人だが、しかしちらつく氷に当初の勢いはなく、的外れだ。だから、見当違いの方向へと飛んで行った氷結輪をひょいと躱すことが出来たレフィナードが、懐に真っ直ぐ距離を詰めてきたときは、流石に命の危機を感じただろう。
「待っ――」
「待てませんよ。残念ですが、もう終わらせていただきますね」
 翻る蹴りは鮮やかに胸部を撃った。くるりと宙返りをして地面に着地したレフィナードと入れ違うように前へと出た俊輝は、フェアリーレイピアから雨のように透き通る花嵐を掻き立てた。美雨はその嵐に衝撃で破壊された瓦礫をそっと紛れ込ませ、ポルターガイストの一撃を添えると、見事にそれは命中。おでこにガンと激突した衝撃で巨体が仰向けに倒れこむ。
「少し、遊んでもらいましょうか」
 刹那、カルナは足元に時空干渉破壊法陣を展開。倒れこんだ罪人の時の流れを一瞬だけ停止させると、次元ごと切り裂く一撃、裂空崩天陣を叩き込む。ジェミがすかさず白熱するエネルギーを圧縮して手刀で太い足首に見舞うと、上体だけ起こそうとした巨躯の瞳にエトヴァが映る。不意に間合いを詰め、己の瞳で相手を囚え、映した相手自身の姿を対象の認識へ刷り込む――Doppelgaenger。見事その術中にはまった罪人の口から、鎮痛な声が漏れ落ちる。
「わりぃごはいねぇがぁ」
 その無様な姿を見て攻撃の機会がありそうだと判断した恭志郎は、全身を覆うオウガメタルを鋼の鬼と化し罪人の上体に乗り上がると、心臓目掛けて拳を一発、振り抜いた。
「クリスマスってつまんなぁい。……でも楽しかった」
 ケルベロスとの戦いに敗れた罪人エインヘリアルは、白い息を空に吐き出しながら、そのまま静かに瞼を閉じた。


「シュトーレンってクリスマスまで少しずつ食べるんでしたっけ?」
 肩にネレイドを乗せたカルナが、購入してきたチョコやドーナツなどのお菓子を振る舞いながらそのように問うと、初めてのクリスマスマーケットにそわそわしてあちらこちらへ視線を飛ばしていたルイーゼがパッと振り返る。
「シュトーレンはナッツの食感がすっごく良いですね。あ、ドライフルーツ多めの方も甘酸っぱくて美味しい」
「こんなに美味しいと、1日で無くなってしまいそうですね」
 頬張りながら笑う恭志郎の言葉にカルナが頷くと、知識欲旺盛で博識な事もあってか、レフィナードがまつわる話を聞かせてくれたりして、ケルベロスたちのテーブルは他に負けないくらいの賑やかさだ。
 ちょうどその隣で、ホットミルクとシュトーレンを交互に口へと運ぶエレアノールが至極幸せそうに顔をとろけさせるので、居ても立ってもいられなくってシュトーレンに手を伸ばす。ルイーゼは雪化粧を施したみたいに白いそのひと切れをまじまじと観察したあと、ぱくり。
「熟成させた方が美味しいんだっけ。でも、今も充分美味しい」
 皆で食べるからかな。
 エトヴァおすすめの赤葡萄ジュースのホットワイン風で喉を潤しお腹を温めるジェミは、
「メリークリスマス! 皆一年ありがとう。そして来年も良い事いっぱいありますように!」
 カップを掲げて朗らかに音頭を取った。
 赤のグリューワインを片手に、仲間たちの様子に優しく瞳を細めて見守っていたエトヴァは、遠くに見えるあのおさなごたちの笑顔を見つけ、睫毛を伏せた。長い冬。人々のこころに灯りをともすマーケットを、素晴らしき仲間たちと共に過ごせるひと時を味わいながら。
「メリークリスマス、皆」

「クリスマスって良いですよね。いつもは静かな場所も、この時期だけはとても華やかで。年の暮れのお祭りみたいです」
 ホットワインに口を付けていた俊輝は後ろから聞こえてくるカルナの言葉に、心の中で同調した。きらきら眩しいマーケットを美雨と共に散策していた彼は、ふとシュトーレンを販売するヒュッテを見つけて、歩みを止める。
「ウチのシュトーレン好きにお土産を買っていきますか」
「私も、友への土産を見繕いますか」
 レフィナードも人の波に消えていく。
 そんな彼らを見送っていたエトヴァとジェミは、背後から聞こえてきた声に振りかえった。
「美味しそうなケーキがありますよ!」
「ホットワイン風のノンアルコールドリンクがあればそれも試してみたいのだ。ぶどうジュースから作るらしいのだが……あるだろうか?」
「では探しに行きましょう!」
 エレアノールとルイーゼたち女子が飲食ブースのヒュッテへと吸い込まれるように消えていく。その足取りは踊るように軽く、華やかだ。
「冬の冴えた空気に、輝く灯り、夢のように美しいデス」
「空気が澄んでいるから余計にきらきらが映えるのかな」
 久しぶりに繋ぐ手はあたたかくて、灯る温もりに微睡んでゆく。それはやさしくてあまい、軌跡を残して。

作者:四季乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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