恐怖のナイフは罪人の使者

作者:大丁

 ふたつの路線が交差する鉄道の駅を、出たところすぐにはバス停留所とタクシー乗り場のロータリー。駅舎の側面には駐輪場も見える。
 出勤時間で混みあっているものの、日常と同じで淀みなく、人は流されていく。
 ナイフを振り回す巨漢が、出没しなかったのなら。
「切れ~! キレ~!」
 どこから現れたのか、3mの身長をもつ半裸の男は、左手のナイフをかざし、ロータリーを走りまわって、通行人に次々と斬りつけた。
 血はとんでいない。裂けた布地がとぶ。

「急いで、急いでえ! 罪人エインヘリアルを倒しに、すぐ出発するよお!」
 軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)は、ヘリポートに直接、ケルベロスたちを集合させていた。
 調査を務めたガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)が、説明を加える。
「このエインヘリアルは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者らしく、放置すれば多くの人々の命が無残に奪われるばかりか、人々に恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることも考えられます……ということなのです」
 惨殺ナイフを左手に持った罪人。
 ジグザグラッシュに似た、切り刻みをしてくるが、よく見るとナイフはアイスエルフのアイススパイクのように掌から直接生えている。そのせいか、この攻撃により、周囲の服がじわじわと切り裂かれるのだ。
 冬美は、皆をタラップに呼び込む。
「ヘリオンをブッ飛ばしても、最初の犠牲者が出たあとにしか到着できない。でも、その人たちは服を切られてるだけだから安心して。罪人は、そのままバス停ロータリーを走りまわっているから、倒してほしいのお」
 搭乗を確認し、操縦桿を握った冬美は、掛け声をかけた。
「レッツゴー! ケルベロス!」


参加者
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
蒼天道・風太(独太刀・e26453)
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)
ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)
カフェ・アンナ(突風はそよ風に乗って・e76270)
狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)

■リプレイ

●バスロータリーの凶刃
 着地と同時に鎧の重さが戻ってきた。ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)は、目配せだけで仲間の配置を確認する。
 風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)が地域情報を、アイズフォンで各自の端末に送ってきた。
「えーっと、頭のネジが緩そうな敵だけど、こっちはネジ締めていかないとね……」
 駅前ロータリーの内周にそって停留所が3つある。待ちのタクシーはなく、路線バスが一台入ってきたところだ。
 カフェ・アンナ(突風はそよ風に乗って・e76270)の緊迫した声が響く。
「し、私立学校の送迎バスも停車します」
「おっと、ナイフ使いが、もういるっすよ!」
 避難誘導役の蒼天道・風太(独太刀・e26453)は、ギリと歯を食いしばった。やはり予知は覆らない。
 待ち客だった、出勤途中らしき女性のひとりが罪人に捕まった。
 次の瞬間、女性のみならずバス待ちの一般人がみんな、全裸になってしまう。日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)も驚かざるを得ない。
「走りまわるって、そういうスピード感なのかよ!」
 ケルベロスだから目視できたが、ロータリーを3周はしている。蒼眞(そうま)は、被害者に着せようと、上着とコートを脱ぐ用意をし、ヤツの起こした風力に、バサバサと煽られる。
「切れ~! キレ~!」
 なおも走るエインヘリアルの通り道のむこうに、登校中の男の子たちが震えていた。機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は、アームドフォートの重装備に、改造チェーンソー剣を起動して立ちふさがる。
 だが、敵の腰布の一部を切り裂いたくらいだった。
「抜けられたです!?」
 もう一振りのチェーンソー剣、狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)は、自らロータリーの周回に入る。
「俺たちにも、同じ芸当はできるぜ! 服が切られる前にてめぇの体をズタズタにしてやらぁ!」
 加速し、追いすがって、切れ目をつなげ、腰布は剥がした。
 闘犬の狂ったような追いかけっこを、プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)は、やや引いた位置から眺める。
「よそ見しちゃ嫌だよ」
 ガネーシャパズルをかざす。カーリーレイジの幻影が付きまとう。アスガルドの、たぶん性犯罪者に。
「切れ~!」
 すでに、狂乱に陥っているようなエインヘリアルだったが、幻影を追って、周回の外側へと注意を引けたようだ。
「こんな奴に、これ以上良いようには……させない!」
 3人の攻撃に加えて、ガートルードが抑え役となり、残りの4人が避難誘導へと駅前に散開するのだった。

●きられた人々
「まさか、……趣味ですか!?」
 ガートルードの鎧が剥がれた。甲冑騎士に残るのは、肩アーマーとガントレットだけ。
 立ちふさがるだけでは高速ナイフに対応できない。
 敵からみてジグも、周回遅れになった。背中から斬られる。
「俺の服がぁ! 特注品で高ぇんだから弁償しろやごらぁ!!」
 かわりのジャージを着込むしかない。
 真理は、ライドキャリバーのプライド・ワンを呼んだ。
「レースなら、あなたの出番なのです……ああっ!」
 そのまに、フィルムスーツを掴まれ、刺される。
 またも抜き去られた真理は、アームドを残してスーツも抜き取られた。
 奪ったボロ布をコンクリートタイルに叩きつけてエインヘリアルは、プランに向かう。女神カーリーへの復讐か。
 パズルを持った巫女をのけて、騎士が庇いにはいった。
「今回は……前に出る!」
 ビキニアーマーの上をいく、ハダカ肩アーマーのガートルードが、逆走をかました。
「……へ? 丁度、顔の高さに敵の」
 武器は左手から生えていると聞いたが、股間からも太く生えていた。
 衝突したはずのガートルードの姿が、プランの視界から消える。
 甲冑騎士として、敵の攻撃さえも応用し、組み付いたのだ。
「むちゅ……まさか、咥えさせるなんて……じゅる、けほっ」
 ガートルードが連れ去られているのか、エインヘリアルが拘束されているのか。
 走る巨漢の、股間の巨根にしゃぶりつき、怒(張)りを釘付けだ。
 4人が抑え役として戦ってくれている。
 蒼眞は、ロータリーへの車両の流入を、発煙筒を焚いて防いでいた。白いレインコートだけを着て、誘導している。
 自前の服はみんな、被害者に貸した。
 まだ裸で逃げてくる男女を、錆次郎(せいじろう)が駅舎へと呼び寄せ、黄金の果実の光をあてる。
「きゃ、なにこれ」
「うわあ、どうなってんだ」
 ヒールで、ミニスカナース服やら童貞殺すセーターやらにされる人が続出。
「うーむ、中々に変態、いや大変な依頼だ。みなさん、ごめんなさい」
「いや、ケルベロスさんが謝ることはないですよ。わたしらハダカだったんだし」
「そうそう」
 と、ハイレグ水着のおじさんにフォローされた。
 駐輪場がわでは風太が、用意した着替えを手渡していた。本人はすでに全裸だが、一般人もそうなのだから、咎められるはずもない。
「ありがとう、かわいい……さん♪」
 その若い女性は、命が助かった安堵か、駅前で裸の気恥ずかしさからか、風太の元気に礼を言う。背後で自転車のベルが二回鳴ったので、聞き漏らしたけど。
 ところで、風太はスナイパーなので、近距離攻撃のナイフは受けていないはずだったが。
 カフェも、なにも着ていなかった。正確には、パンツ状のベルトを巻いており、風太のものよりそそり立った人工物を、ナカと外に同じ長さで装着している。
 意外にもレスキュー装備として実績があった。外側には、自作の粘質を塗布してある。
 それでも、自信なさげに、震えるのだ。
「すぐに助けますから……落ち着いて!」
 母親に連れられて、送迎バスを待っていたような集団に、がんばって呼び掛ける。
 走るエインヘリアルの残像の、内側に入り込んでいる人たちは、自力で脱出できない。3mの高さをもつ壁があるようなものだからだ。
 胸元からつたった汗が、カフェのベルトに染みていく。

●避難誘導班集合
 連れてかれたガートルードは、すでに残像の外に弾かれて、口に出されたものを吐いている。
「けほ……おえ」
 うずくまる背中を、さすった蒼眞は、一回だけ手がすべってお尻に触ったあと、残像へ特攻を試みた。
 あえなく、レインコートも切られそうなところを、真理が抱きつく形で防ぐ。
「日柳さん……あぐう!」
 聞いたこともない悲鳴。真理のからだは、斜めに浮いていた。罪人の股間のほうの武器が、深々と刺さっている。
 蒼眞は、抵抗も虚しく突き倒されたが、その一瞬を、ケルベロスの動体視力が捉え、記憶していた。
「あぶねえ。刺さったのは、真理の肛門だったぜ……」
 言ってもよかったっけ、と蒼眞は頭をかきつつ、瞳に知的な光を宿らせる。
 一連の接触によって生まれた隙に、カフェは要救助者のところへ、入り込んだ。
 年齢の低い者から順に、レスキュー装備を施す。
 ベル二回の風太は、戦場に合流し、警告を発した。
「ケルベロスなら、超反応して、通過できるっす! でも、一般人に同じ動きをさせたら、身体への負荷で危険っすよ!」
 大人の女性の裸が、もんどりうって苦しむさまが想起された。
「変態が走り回ってる内側から助けられねぇのかよ!?」
 がなり立てるのは、ジグ。
「人の裸体見るのが趣味の超弩級のクソ変態めぇ!」
「ごめん」
 蒼眞は、一言あやまった後で、仲間や一般人のあられもない姿を思い浮かべ、その超記憶でもって打開策を見い出した。
「ロータリーから逃がすんじゃなくてさ。停車しているバスに乗り込ませ、そのバスを守ればいいんだぜ!」
 仲間たちは頷きをかえす。プランは、今一度パズルをかざした。
「そうね。また、引きつけ役が必要だね。私がやるよ」
 罪人エインヘリアルは、女神カーリーの薄絹を裂かんばかりに襲ってきた。
 幻影がイヤンとか言わないし、プランの巫女服も露出度が高くて、ナイフで切れない。最初から穴が開いているから。
 それでも、袴を切られれば、なかに履いてないのは露呈した。
「キレ~!!」
 奴が叫んでいる間に、錆次郎はロータリー内側へと渡り、冷静にハダカの女性らを車内に運びこむ。元衛生兵が、ヘンに惑わされたりなどしない。
 カフェは、股間のもので、救助対象をついて運ぶ。
 気弱な感じの彼女が、激しく興奮して、下半身を働かせているのを見ると、さすがに錆次郎もちょっとは焦った。
「えーっと、とりあえず……誘導役はまた手伝って。本当に大変な依頼だよ……」

●高速周回戦闘
 プライド・ワンが、エインヘリアルを越える速度で、後ろから、デッドヒートをかました。
 武器を生やした罪人は、高速移動をさらに激しくさせる。バスに乗り込んだ一般人の目線では、残像が重なって、かえってその場で止まっているように見える。
 ケルベロスらは逆走し、デウスエクスとの激突が、まるで、ポーズショットのように展開されるのだ。
 アームドも分解した真理は、身体内装武器を使用する。
「『マルチプルミサイル・クロスファイア』です!」
 乱舞させている余裕はない。発射口を直に向けなくては。
 ふくらはぎを見せる。自分から尻を打ち付けていくような姿勢になった。車窓にさえ映り込む痴態。その向こうに、仰天している男の子たちの表情。
 腿に背、肩からと、ミサイル攻撃しているはずなのに、体位をいれかえつつ、尻で抜き差ししてしまう。
「ぜ、全弾命中……です」
 こちらの穴にも、何発か撃たれたのが、白く漏れ飛ぶ。
 バスの中から見ていた婦人たちは、ジグのジャージが裂けたのを、つい歓喜してしまい、慌てて目と口を塞いだ。
「またかよ! もうめんどくせぇ! これで相手してやらぁ!」
 ジグはジャージを脱いで、幾度もぶつかり合う。降魔真拳の乱打も、身体部位の各所を使った、魂の奪い合いだ。
 ご婦人は、戦う上半身裸のスライドショーを、目隠しの指の間から、しっかり見ているのだった。
「危険だぜ。窓から離れてくれ」
 蒼眞は、手をふって座席のひとつに割り込んだ。レインコートの下がバレて、女性たちは今度はその中に手を突っ込んでくる。
「お礼だって? まだ早いよ、ウッ!」
 焦りつつも、気持ちよくなってる仲間に、錆次郎は同情の念を抱いていた。
「うん、なんだか変なことになってると思うよ……」
 車内でも、ヒールを提供する。出てくる服は、TバックやらVストリングやら、調子が悪くなる一方なのに、一般人には妙にウケがいい。
 風太も、大きくしたベル二回を、もう二回くらい発射させられてしまった。
「駐輪場で避難させてるときから、おかしかったっす。みんなで開放的になっちゃったんすかね? ……ううっ」
「あの……、私も……、凛とした風を送って、礼儀正しくしてもらっているはずなんですが……はぅ」
 カフェは、身体の下に救助者を置きながら、腰を動かしている。
 凛とした風って確か、見本となる行ないで、一般人を紳士的にさせるという能力だったはず。
(「紳士向けになってるんだ」)
 蒼眞に風太、錆次郎は納得がいった。そして、別段変更は求めなかった。
 バスの窓から風太は、腕だけ出して斬霊斬を繰り出す。身体は、車中でおねえさまの自由になっていたから。
「ナイフ使いが相手とか、剣士としてワクワクしてたっすよ。刃物なら俺の得意分野ってね」
 刀を非物質化しての斬撃だ。いい加減な姿勢に見えて、エインヘリアルの(本物のほうの)ナイフが、切っ先から欠けた。
 後部座席に寝転びながら蒼眞は、この上空でヘリオライダーに飛びついたさい、レインコートをまるごと剥いでしまい、それを手に持ったまま、落下したことを思い出していた。
 遠のく光景の中で、なぜか彼女は、豊満な身体に何も身に着けてはいない。
(「あ、今の俺と同じで、裸レインコートだったな」)
 という、再現イメージの攻撃が、エインヘリアルを捉えた。『太陽機蹴落顕現(ヘリオンダイブ・リライト)』である。
 蒼眞の実体が背中から、敵の頭に落ちた。本人は、跳ねかえって、バスにもどる。
 ようやく、巨躯の暴漢が、足を止めた。
 素っ裸の女ケルベロスふたりは、うずくまる罪人を取り囲んでボコスカと攻撃している。
 するうち、ガートルードは、左の地獄で殴り飛ばし、真理がミサイルの爆風で打ち上げ、上半身裸男のジグが赤い右手で掴んで、再び地面へと叩きつけた。
「女性陣の尊い犠牲は忘れないよ。僕も踊るからね」
 錆次郎が、バスの屋根に上がって『BULLET BALLET(デブノダンス)』。天使っ子銃を撃つと、プランの服が元通りに直る。巫女服だったからかもしれない。
 まあ、袴のはずが、ミニスカなのだけれども。
「どうも。たまには格闘っぽい技を使ってみるよ」
 ふらふらと立ちあがってきた罪人に、逆肩車の形で飛び乗る。この時点で、ミニスカの中のものが押しつけられていたはずだ。
 その顔を太腿で挟みながら押し倒し、後頭部を地面に叩きつけ、最後はアヒル座りで顔に跨ったまま押さえつける。
「顔面騎乗だね、御褒美かな」
 いわゆる、フランケンシュタイナーだ。『跳躍する白い淫魔(フェイスライディング)』と名付けている。
 罪人エインヘリアルの、左手のナイフはぽっきりと折れた。
「きれぇ……」
 腰のほうは、最後にひと噴きすると、へなへなと倒れた。
 蒼眞が窓から顔を出し、つぶやく。
「切れ~キレ(布)~とシャレをかますとはやるヤツだ、と思ってたぜ。綺麗も掛かっていたとはな」
 女性陣にウインクすると、ガートルードは恥ずかし気になって、用意した着替えを取りに行くと言った。
 プランも、先に帰ると、ミニスカのお尻をはたきながら。
「じゃあ、返しておいてよ。バスと一般人は任せろ」
 レインコートを投げてよこした。そのまま、ジグに渡ってくる。戦闘中のご婦人の視線を思い、どうやって帰るか迷っていたからだ。
 錆次郎のヒールはアレだし、着替えとやらは女性用。
「さて……」
 車内での、カフェの救助は、まだ続いている。年少者は元気になったので、母親を手当てしていた。
 パパのよりもいいという、意見も聞く。風太も、可愛がられていた。
 真理が、男の子を助けに乗り込む。
 バスのステップを駆け上がり、真理のアレを見た彼らの、何かに目覚めたであろう表情から察するに、ここは大人のステップも登らせてやるべきだと。
 ガントレットに左手を収めて、ガートルードは一息ついた。ハダカ肩アーマーで、もうしばらく。着地した場所まで通りを歩く。着替えはプランに借りるから。
「私も、続きをしたかった、なんてことありませんよね?」
 などと自問したりして。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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