大阪市街戦~滅望の名の下に

作者:柊透胡

 ――主を、配下を喪って、2年と半年近く。
 未だ、生き永らえている事が、疎ましく、忌々しい。
 デウスエクスにとって、永劫の生は本来、当然のものであろうが……ドラグナーは、生まれついての神に非ず。所詮は、ドラゴンの属性を移植された「人間」だ。
「潮時であろう」
 ビルの屋上から、地上を見下ろし、独りごちる。
 自分は、何度も死に損なった。あのスパイラル・ウォーから、ドラゴンオーブを巡る熊本滅竜戦、リザレクト・ジェネシス――幾度となく、ドラゴンは巻き返しを謀り、その度に番犬共に阻まれてきた。
 そうして。ドラゴン・ウォーに於いて、事もあろうに竜十字島のゲートを破壊された。
 今、大阪城に身を寄せる他なる主らは……攻性植物の庇護から外れれば、定命の病を得る寄る辺なき生き残りとなってしまった。
 口惜しい……究極の戦闘種族たるドラゴンの、僅か数年の凋落が。何ら働きを得られぬ己の不甲斐なさが。
 だから、せめて。
「我が武勲、最期迄、ドラゴンの御方々に捧げん」
 あの、千々に引き裂いても飽き足らぬ不俱戴天の犬共は、エインヘリアルが築いた長城に懸り切りであろう。大事の傍らの小事、だが、大阪の一隅でも血の海に沈めれば、他なる主の、ドラゴンの『同盟』に於ける地位も向上しようもの。
 あたかも竜の気の如き闘気が立ち上り、左手にはめられた戦籠手が鈍く輝く。
 彼女の名は、梁・天華――今は亡き天地殲滅龍に、変わらず忠実なるドラグナーの武人。
 
「りゃん・てぃえんふぁ……?」
 首を傾げるパンダ耳の武闘家に慇懃に頷き、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は集まったケルベロス達を見回す。
「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 グランドロンの長城攻略、及び救出に慌ただしい情勢ではあるが、ヘリオンの演算により、又1つ、大阪城のデウスエクスの襲撃が察知された。
「攻性植物のゲートがある大阪城に居るのは、エインヘリアルだけではありません。ダモクレス、螺旋忍軍、ドリームイーター……そして、ドラゴンの生き残りもまだまだ健在です」
 現状、1番大きな動きはエインヘリアルが築いたグランドロンの長城であるが、他の種族も相変わらず、大阪城周辺地域の制圧を目論んでいる。
「だからこそ、かもしれませんが……単体のデウスエクスの襲撃であろうと、被害が出れば、大阪市内の住民に不安が広がってしまいます」
 大阪城周辺、長城の外縁部とて集団避難で無人と化せば、デウスエクスの勢力が拡大してしまう。
「小規模の襲撃であっても、けして看過出来ません。今回も、被害を出さずに防ぎ切って下さい」
 襲撃者は、ドラグナー――梁・天華。かつては、『天地殲滅龍』に仕え、『滅望兵団』を率いていたという。
「うわ……何か、懐かしい名前だナ」
「『天地殲滅龍』が斃されたのは、2年以上も前の『スパイラル・ウォー』ですから」
 屈託なく漆黒の双眸を瞬く除・神月(猛拳・e16846)の呟きを粛々と捕捉して、ドラゴニアンのヘリオライダーはタブレット画面の地図の一角、ビジネス街のビルを指差す。
「ヘリオンの演算により、確たる遭遇ポイントは判明しています。深夜、こちらのビルの屋上にいる所へ打って出れば、一般人の避難などは不要でしょう」
 見るからに武人肌、寧ろ格闘家の様相に違わず、ドラグナーの武器は闘気と戦籠手のようだ。
「かつては、指揮官であったかもしれませんが、長らく単体で行動しているようです。一般人の虐殺に動かれる前に、必ず、撃破を」
 尚、逃亡の恐れは無さそうだ、と創は静かに付け足して。
「大阪城の決戦も何れは避けられませんが……少なくとも、グランドロン救出に主眼を置いている『今』ではありません。散発的な襲撃は、確実に阻止していきましょう。宜しくお願い致します」


参加者
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
除・神月(猛拳・e16846)
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)
ブレア・ルナメール(軍師見習い・e67443)

■リプレイ

●滅望の名残を
 寒気凄烈な夜空を、ヘリオンが往く。大阪市上空に至るまで、今少し――ケルベロス達は、思い思いに戦いの時を待つ。
「今日の相手は、武人のドラグナーですか……」
 幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)の脳裏に過るのは、竜牙拳士や竜闘姫。戦いの昂揚を思い出せば、身の内から滾るよう。
「不謹慎だけど、ちょっとわくわくしちゃうね。敵がどれだけ強くても……みんながいるから、怖くないんだよっ!」
 屈託なく微笑むシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)はもっと判り易く、ゆらりと闘気が上る。或いは、最愛の彼女の意気に反応してか。
「強者と拳を交えるのは楽しみです。けして負けはしませんよ!」
「うん! 虐殺なんか絶対に止めるからっ!」
 頷き合う少女達が微笑ましい。目を細めたイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)は、ヘリオンの窓から外を見やる。
 冬至を過ぎたばかりで早々に暮れた空は、深夜となれば漆黒。ドワーフの夜目を通しても判然としない。だが、見下ろせば、人々の営みが地上に瞬く星のようだ。
「今回の敵は、神月さんと縁があるんですよね?」
「ア? 別ニ、暗い因縁とかはねぇけどナ」
 イッパイアッテナの確認に、除・神月(猛拳・e16846)はあっけらかんとしたものだ。
「天地殲滅龍の配下なラ、寧ろケルベロス全員の宿縁だロ」
 火竜焔神洞の天地殲滅龍の首が全て死に絶え、竜牙竜星雨も止んで久しい。それも、本体たる天地殲滅龍をスパイラル・ウォーで亡ぼした結果ならば。
「今日も、大阪城勢力の影響圏拡大阻止だな!」
 一般人の被害が出る前に仕留めて見せる! なんて、豪快に拳を打ち鳴らす相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)は、ふと首を傾げる。
「にしても……滅望兵団の生き残りがまだいたのか」
 滅望兵団は天地殲滅龍の麾下。その団長とは……泰地自身、天地殲滅龍の首は数え切れない程狩ってきたが。
「スパイラル・ウォーの戦場にもいなかっただろ? 何故、今の今まで出てこなかったんだ?」
「2年間近く、大阪に雌伏してきたって事ですよね」
 ブレア・ルナメール(軍師見習い・e67443)は、素直に感心している。
「油断がならないのと同時に、高貴な方のようですね」
 本が大好きなブレア。特に英雄や英傑の話は、男の子らしく関心も尽きない。
(「大阪城といえば、真田幸村ですけど」)
 敵の境遇に準えて、徳川家に徹底抗戦の人生を全うした名将に思いを馳せる。
「大阪城の周りに潜んで、機会を窺っていたんだろうが……ゲートが破壊されちまってちゃ、帰ってこないわな、ドラゴン」
 水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)は寧ろ気の毒そうに眉根を寄せる。
(「堕ちても尚、武人で在り続ける、か……」)
 ドラグナーに望んでなったかどうかは知らない。だが、こうなってしまえば、空しいものだと思う。
「地球ではドラゴン勢力が鳴りを潜めても、ドラゴンを崇め奉るドラグナーは未だ健在、という事であろう」
 ドラゴンが究極の戦闘種族というのも伊達ではない、とジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)は肩を竦める。
「狂信者の方が滅ばぬ限り、今後もこのような事案が発生するやも知れないな」
 尤も、ジークリットの参戦は、そんな情勢を見越してばかりが理由ではない。神月とは、様々な作戦を共にしてきた戦友でもある。
「滅望残党討伐、助太刀致そう」
「オウ、楽しんでやろーゼ!」

●梁・天華
「潮時であろう」
 その呟きは、寒風に紛れた。
 ビジネス街のビルの屋上に立ち、女は――夜空を一瞥するや、鉤爪具えた両脚でコンクリートを蹴る。
 ドガァッ!
「……む、流石に微調整は難しいか」
 流星の如く、夜闇を切り裂く降下攻撃。ヘリオンからの落下スピードも加味すれば、大振りも仕方あるまい。
「……チッ」
 憮然と呟くジークリットに続き、鬼人の一閃も空を切る。青年の舌打ちの間に、炸薬式・急降下装置を以て降下したイッパイアッテナは、空を蹴って華麗に着地する。
「邪魔されたくないからね……さぁ、目一杯やろっかっ!」
 次々とビルの屋上に立つケルベロス達。降下しながら殺界を形成したシルを、昏い眼差しが睨め付けた。
「……重力の底を這いずる犬共か」
 ドラグナーの女――梁・天華は身構える。
「漸く、嗅ぎ付けたと見える」
 あたかも竜の気の如き闘気が、爆ぜる。
「……っ!?」
 弧を描いた気弾がブレアに喰らい付かんとした寸前、テレビウムのイエロがその軌道を遮った。
 既に、戦いの火蓋は切って落とされている。逸早く燃え上がったのは、神月の殺意。烈しく狂おしく、闘争の悦びは漆黒の牙を剥く。
「援護は任せろ!」
 だが、クラッシャーの初撃は敵を捉えるに至らず、すかさず泰地は全身に力を籠める。寒気に筋肉質の上半身を晒し、放出したオウガ粒子は後衛――シル、鳳琴、ブレアの3名へ。列強化の成功確率は五分五分であるが、ジャマーの強化は心強い。
 更にやはり次なる攻撃を見越し、イッパイアッテナルドルフも爆破スイッチを握る。色とりどりの爆風が上がるも――ミミックと魂分かつイッパイアッテナルドルフの列強化は、1人叶えば重畳だ。
「シルさん、行きましょう……!」
 それでも大きく声を張り、鳳琴は軽やかに全身のバネをたわめる。
「流星を纏いし拳士の蹴りです、さぁ行きますよっ!」
 刹那、見交わし、少女らは天翔ける。
「流星の煌めき、受けてみてっ!」
 鳳琴の蹴打と同時、シルの戦靴も風を切る。白銀の翼が夜の灯に煌めいた。
「全力でお相手させて頂きます」
 そうして、ブレアはケルベロスチェインを振う。黒鎖は守護魔法陣を描くも……前衛は、クラッシャーの神月とジークリット、ディフェンダーたる鬼人とイッパイアッテナ、更にはサーヴァントを加えて合計6。やはりサーヴァント伴うブレアの列強化に列減衰も重なれば、成功率も3割を下回る。メディックの立ち位置ですら回復量も芳しくなければ、前衛への列ヒールは相当に使い難い。
 列減衰の発生は、けして悪い事ばかりではない。敵の列攻撃を防ぐのに有効であろうし、単体ヒールには影響がない。敵に不利を、味方に有利を齎すグラビティの選択が肝心となるだけで。列減衰が生じるのは、サーヴァント伴う編成であるケースが多い。手数の多さを、余さず発揮出来る作戦が重要となろう。
「……」
 険悪な表情のまま、ドラグナーはケルベロス達を睥睨する。
 ――――!!
 戦籠手に包まれた左の拳が、轟音上げて急加速。
「う……グ……」
 ディフェンダーが動く暇も無く、神月の腹部を抉った高速の重拳撃は、辛うじて効力を発したブレアの守護魔法陣を容易く消し飛ばす。
「お、前……」
 カハッと息を吐きながら、神月は真っ向からドラグナーを見返す。
「この威力……クラッシャーってやつカ?」
「それがどうした」
 冷えた表情のままの梁・天華に、神月はニィと笑みを浮かべる。
「すっげぇあたし好みダ」
 人生を楽しむ為に強さを求め続ける神月にとって、打撃戦は望む所。狂月病が無くなろうと、月下の格闘は色々と歯止めが効かない。

●耐えて忍びて
 神月には喜悦であっても、デウスエクスのクラッシャーは脅威の一言。ブレアは急ぎ生命の炎を生み出す。
「命の炎の輝きよ……再び」
 Revive the Reincarnationは強力な回復魔法であるが、共鳴させて漸くサーヴァント伴わぬメディックと同等の回復量だ。ブレアも唯一のメディックとして奮闘する決意であるし、相棒のイエロも庇いながら応援動画を流す事になるだろう。しかし、他が攻撃中心の算段であるだけに、一気に押し切られる不安が少年の表情を強張らせる。
「全てを撥ね返す力を」
 何があっても身を粉にして盾となる決意を胸に、イッパイアッテナは肩並べる前衛に護言葉を唱えるが、頑健の暗示とて掛かり難さに反して、ドラグナーの拳が早々に掃ってしまうだろう。となれば。
「個として及ばずとも、皆で合わせる力の強さこそが!」
 そう、鳳琴の言う通り――攻撃手の多さこそ、クラッシャーへの対抗策。
「琴ちゃん!」
「はい! シルさん!」
 どんな強力な攻撃も、命中しなければ意味はない。足止め技が早々に功を奏した幸い、スナイパーの2人は相次いでマインドソードとスカルブレイカーを繰り出す。
 泰地がメタリックバーストを重ねたお陰で、狙い澄ました一撃はより痛打の可能性が向上している。
 ――――!!
 更に鎧装騎兵の高速演算を以て、ジークリットが敵の構造的弱点を見抜けば、すかさず力強い痛撃を見舞った。
(「もう少しもたせれば、流れ弾の心配も無いか」)
 元より、夜も更けたビジネス街のビル屋上。殺界も形成されている。この界隈は、警備員も含めて程なく無人となるだろう。
 一般人が巻添えとなるなど、けして許さない。敵を屋上から逃さぬ心算で、鬼人の刃は雷気を帯びて突撃する。
 イッパイアッテナの相箱、ザラキも大口開けて喰らい付いた。
「ドラゴン共もあたしら相手に負けてばっかだったシ、ムカついてんのはよーく分かるゼ?」
 神月の電光石火の蹴りが、敵の急所を鋭く抉る。
「それでも今日まで暴れねーでチャンスを窺ってたってんなラ、あたしにゃ出来ねー忍耐力ダ。褒めてやんヨ」
「余計な口上などいらぬ」
 寧ろ挑発に聞こえているだろう。淡々と答えるドラグナーの右拳は音速を越え、神月の強化を吹き飛ばす。
 ちなみに、ディフェンダーの「庇う」挙動は反射的で、誰かを目して庇う余裕はない。故に、ドラグナーと神月の殴り合いは、寧ろ幸いだったかも知れないが……神月の防具はドラグナーの攻撃に合致していない。
 ブレアが懸命に癒し続けるもクラッシャー同士の殴り合い、どちらが先に膝を突くか。
 ――――!!
 梁・天華の拳は攻撃の質こそ違え、戦籠手の左も、闘気帯びた右も、敵の強化を吹き飛ばす。オーラの弾丸を交えたとして生半可な強化なら剥がされていた所を、攻撃による弱体化を主眼としていたのは、やはり幸運であったと言えた。
 ある程度の強化に動いていた泰地もイッパイアッテナも、今ではドラグナーの武威を削ぐべくグラビティを繰り出している。
「神月さんは、私が護る!」
 オーラの弾丸の軌道を遮ったイッパイアッテナは、懸命に歯を食い縛る。防具の耐性が合致したとして、クラッシャーの一撃は苛烈。それでも、それでも――先刻より火力が減じたように感じるのは、けして気の所為ではない!
 時にディフェンダーが神月の盾となりながら、ケルベロス達は着々と厄を積み上げていく。

●滅望の名の下に
「そういや、元は人間だったんだよな?」
 ふと思いついたように、鬼人は口を開く。
「って事は……家族や、知り合いなんか、心配してないのか?」
 生まれ育った『地球』を捨ててまでドラゴンに忠誠を誓い、ドラグナーとなった理由を知りたいと。
(「ま、理解は出来ないだろうがな」)
 話し掛け、気を引き、隙を作る――鬼人の意図は、見事なまでに黙殺された。
 耐え難きを耐えて来た武人の堪忍袋の緒は、口八丁で切れるものではないのだろう。だが、鬼人の手段はそればかりではない。
「鬼さん此方、手の鳴る方へってな?」
 俄かに漂う蠱惑の芳香――自らに般若を宿した鬼人は、ゆるりと舞う。
(「さあ……鬼の舞に酔いな」)
 ほろ酔いを誘い、舞に閃く斬撃が刻む。本来ならば、夢心地のまま死に至る――だが、全身朱に染めながら、ドラグナーの竜の脚はコンクリートを砕かんばかりに踏ん張る。
 ドゴォッ!
 強かに、戦籠手の左拳に胸板を抉られた。それでも、ディフェンダーの守りは篤い。怒れるドラグナーの攻撃が鬼人を叩き付けられ、ブレアのテレビウムの応援動画が流れる間に。
「牽制は任せろ、オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
 筋力流が技の一、牽制怒涛蹴り――無数の蹴りで攻撃し、敵を牽制する泰地。
 ザラキが振り撒く愚者の黄金を目くらましに、イッパイアッテナの破鎧衝は、ドラグナーの護りを確実に貫く。
「龍の気よ、六芒に集いし精霊達と共に、我が腕に集いて撃ち砕きし力となれ!」
 黄龍六芒収束砲――近接型複合精霊魔法。闘気と収束した魔力を左腕一点に収束させ、接近と同時に解き放つ。
「あなたに敬意を払って……格闘術と精霊魔法の複合攻撃、その身で味わってっ!」
 黄龍象る魔力砲を撃つシルと同時、鳳琴も又、コンクリートを蹴る。
「心から愛する人から学んだ魔法を加えた拳技……これで、砕きます!」
 幸家・六芒精霊龍――シルより学んだ、増幅魔法応用した拳技。魔力で強化されたグラビティを踏み込みと共に叩き込む輝ける一打は、鳳琴の拳より目標を蹂躙し貫く。
「これが、絆の一撃ですッ」
 互いに技を教え合い、己のものとして昇華させたグラビティを誇らかに放つ2人。誇らかな連撃は相次いで、竜身半ばの長躯を穿つ。
「風よ……闇を切り裂き、竜の信徒を飲み込め!」
 更には、体内で練り上げたグラビティ・チェインを刀身に集中させるジークリット。
「烈風!!」
 鋭く切り上げ、真空の刃を撃つ。地に放てば大地を削り、空に放てば重い風斬り音を奏でる不可視の破は、狙い過たずドラグナーを襲う。
「……っ」
 ケルベロス達の集中攻撃は、確実に効いている。それでも、まだ、膝突かぬならば。
「私は助っ人、若しくは見届人にすぎんさ」
「今です、除さん!」
 ブレアの放ったブレイブマインが、満を持して神月を彩った重畳。大きく肯いたイッパイアッテナが横合いに飛び退き、神月は梁・天華と真っ向から対峙する。
「そら……あたしらが踏み越えた龍の一撃ダ」
 悠然と、片腕を天に向けて掲げる神月。俄かに夜闇に立ち込める暗雲。
「喰らって消える覚悟は出来たかヨ!」
 あたかも号令を下すかのように、拳を握り、振り下ろす。
 ――――!!
 目も眩む閃光が視界を灼いた。一条の雷撃、それは天地壊滅の雷――スパイラル・ウォーの折、神月が天地殲滅龍の魂から会得した降魔の業。

「梁・天華。確かに強敵でした……貴方の事も忘れません」
 彼女は、ケルベロス達に背を向ける事なく逝った。最期まで武人たる事を選んだ。
 その強さを乗り越えられた事を、鳳琴は誇りに思う。肩並べるシルも同様だろう。
(「……でも、本職は魔法使いなんだけどね?」)
「折角集まってんダ、こいつの慰めも兼ねて飲み行かねーカ?」
「そうだな、ついでに夜食もどうだ?」
 いっそ明朗な神月の誘いに、ロザリオ握る鬼人も肯いて。
「オウ! 暫く独りだったろーシ、天国行く時くれーは騒いで送ってやろーゼ」
「その前に、除の手当てが先だろう」
 生憎と、シャウトで他者は癒せない。些かもどかしげに神月に肩を貸すジークリット。急いで駆け寄ったブレアは神月に、イッパイアッテナは鬼人に、それぞれ気力が注がれた。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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