転変の夢

作者:崎田航輝

 頬を雨粒が濡らし、天崎・祇音(忘却の霹靂神・e00948)は夜天を仰ぐ。
 つい先程までは星も見えるほど、空が澄み渡っていた。けれど今は天穹は雲に隠れ、嵐も遠くないように思える。
 それ程に、空模様が刻一刻と変わる夜だった。
「──ふむ」
 秋も終わったのに目まぐるしく変わる天気を、単に珍しいとも思った。
 けれどそれ以上の何かを感じて、祇音は紅の瞳を巡らせる。
 前触れだと思ったわけではない。けれど確かに、そこに現れた“変化”は天候だけではなかったのだ。
 光の残滓のような色の粒が明滅して、祇音はそこへ視線を向ける。
 無人の景色だったそこに、降り立つ一人の影があった。
「おぬしは……」
 その輝きと気配に、祇音は既にそれがデウスエクスだと気づいている。ただそれだけはない感情もまた、少なからず心に抱いていた。
「アエテルヌス、か──!」
『私は、求めるものを見つけた』
 水流のような髪を揺蕩わせ、静かに歩み寄るそれは──ドリームイーター。静謐なる美貌に宿すのは、憂いでも迷いでもなく。
『そして他者に与えるべきものも見つけた』
 澄明な水面のような、ただ確信に満ちたような──淀みなき戦意。
『“死”。それこそが、己を──誰かを変化させるもの』
 故に純粋なる死を、と。
 目を見開く祇音へ対し、彼女はその殺意を向けてきた。

「天崎・祇音さんが、デウスエクスに襲撃されることが判りました」
 夜半のヘリポート。
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロスへ説明を始めていた。
「予知された未来はまだ訪れてはいません。それでも一刻の猶予もないのが事実です」
 祇音は既に現場にいる状態。
 こちらからの連絡は繋がらず、敵出現を防ぐ事もできないため、一対一で戦闘が始まるところまでは覆しようがないだろう。
「それでも、今から祇音さんの元へ向かい加勢することは可能です」
 時間の遅れは多少出てしまうけれど、充分にその命を救うことはできる。だから皆さんの力を貸してください、と言った。
 現場は海辺に近い自然の景色。
 辺りは無人状態で、一般人の流入に関しては心配する必要はないだろう。
「皆さんはヘリオンで現場に到着後、戦闘に入ることに注力して下さい」
 夜間ではあるが、周辺は静寂。祇音を発見することは難しくないはずだ。
「敵はドリームイーターのようです」
 その正体や目的に不明な点はあるが──祇音を狙ってやってきたことは紛れもない事実。放置しておけば祇音の命が危険であることだけは確かだ。
 それでも祇音を無事に救い出し、この敵を撃破することも不可能ではない。
「祇音さんを助け出すために──さあ、急ぎましょう」


参加者
天崎・祇音(忘却の霹靂神・e00948)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)
草間・影士(焔拳・e05971)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
安海・藤子(終端の夢・e36211)
アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)

■リプレイ

●海嘯
 漣と雨音が共鳴し、混沌とした音の畝りを生む夜。
 暗雲に翳った海辺は闇の世界のようで──不気味さまでもを感じさせた。それは心にも不穏な予感を抱かせるほどだった、けれど。
「藤姐ーーっ。かわいいワンワンなのだっ!」
 浜に降り立った月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)はその中でも明るい。
 安海・藤子(終端の夢・e36211)のオルトロス、クロスをふかふかと撫でていると可愛らしく、気分が上がるのだ。
 藤子は面の奥に笑みを湛える。
「ふふ、くーやんも喜んでいるみたいよ」
「くーやん、おやつ食べるのだ? 一緒にがんばるのだ」
 灯音の言葉に、クロスも鳴き声を返してみせていた。
 それを微笑ましく眺めて、四辻・樒(黒の背反・e03880)は夜色の瞳を細める。
「犬や猫は良いものだ、和むからな」
 だが、と、その視線を遠方にやって。
「あとは天崎を無事に救出してからだな」
「もちろんなのだ!」
 灯音も見据える、瞳の先。
 闇の帳の向こうに、確かに戦いの気配が感じられ始めていた。
 藤子は奔り出しながら、それでも笑みの中に憂いは欠片も垣間見えない。
「頼もしい仲間もいるんだし。みんな無事に帰れるわよね」
「ええ!」
 力強く頷いて、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)も、真っ直ぐにその仲間の元を目指して。
「今、助けに向かいますからね……!」
 きっと持ち応えてくれると信じて、戦場へと駆けてゆく。

 夢の残滓が光の粉になって、夜を彩る。
 そこに確かに彼女の心の“変化”を感じて、天崎・祇音(忘却の霹靂神・e00948)は瞳を伏せていた。
「そうか、お主はそう至ったのじゃな……」
『ええ。これできっと、何かが変わる』
 夢喰い──アエテルヌス・モルスは静かに応えて杖を掲げる。確信にも似た思いは空間を七彩に揺らがせて、滂沱の魔力を生み出していた。
 眩いほどの輝きに、しかし祇音は退かない。
 着物の袖を紐で纏めて気合を込めると、懐に忍ばせていた不変水晶を見せて問うた。
「お主がわしを狙うのは、“これ”を持つからか……?」
『……』
 アエテルヌスは見つめながら、敢えて物言わない。
 けれど否定もしない。次には七色を渦巻かせて──。
『その“不変”が、私の“不変”が。あなたの死で如何に変化するのか、私は見てみたい』
 否、見る必要があるのだと。
 色の洪水を放ち祇音の膚を斬り破いてくる。
 祇音は烈しい痛みを覚えながらも、雷の軌跡を迸らせて接近。弾ける蹴撃を与えて攻撃を中断させる。
 その間に黒竜のレイジが霊光を輝かせ、祇音を包んで傷を癒やしていた。
 が、此方の傷の全ては癒えきらず──下がったアエテルヌスの表情には苦痛も見えない。次には溢れ出る魔力を圧縮し、発射してきた。
 とっさにレイジが羽ばたき庇い受けるが、その威力に体力を大幅に持っていかれる。祇音とて、彼女の連撃を受ければ無事で居られぬと頭で理解していた。
 このままでは斃れるのは此方。
 アエテルヌスはその未来を掴むというように杖を翳す。
『あなたに死を齎し、変化を手に入れる』
 けれど放たれる魔力を、遮るように飛来する煌めきがあった。
 それはふわりと柔らかく、厳寒の冷たさを纏った光の翼──風を切って眼前に降り立ったアルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)。
「……死が変化、とか……そんなの、させるわけ、ないだろ……」
 零れるのは自己を抑えようとしながらも、強い感情を含んだ声音。瞬間、細剣を抜き放つと迫る魔力を正面から受け止めていた。
 アエテルヌスははっとして、次撃を試みようとする。が、その視界にきらりと針形の炎弾が飛翔してきていた。
「好き勝手をしてくれる。しかし、それも此処までだ」
 静やかで、けれど厳然とした言葉。
 アエテルヌスが視線を向けると、遠距離から草間・影士(焔拳・e05971)が焔を滾らせている姿があった。
 突き刺さった衝撃は“紅針”。直後に影士が放つ焔は、それを追尾して不可避の轟炎を与える──幻灯【不知火】。
 燃え盛る紅に、アエテルヌスは耐えきれずにふらつく。
 そこへミリムが跳んで黒き大斧で斬打を見舞えば、強烈な衝撃にアエテルヌスは後退せざるを得なかった。
 くるりと着地し、ミリムはドヤッと笑顔をきめて見せる。
「百戦錬磨の私が来たらからにはもう安心です!」
「治療は、任せてくださいね」
 声を継いで駆け寄るのはイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)。相箱のザラキを敵の抑えに回らせておくと、自身は魔力を集中した。
 必ず助けるという意気込みと共に。
 そして祇音が思うままに戦うことが出来るように。思いを眩いオーラへ篭めると、凝縮された光で祇音の傷を祓ってゆく。
「では、態勢を整える」
 と、樒が雲を切り拓く斬閃で星灯りの加護を降ろせば、アルシエルも霊力を広げて仲間を護る。灯音が銀槍を操って白光の雷壁を描けば後方にも防護が齎され、戦線は強固だ。
 面を取り払った藤子が、祇音へ気力を与えれば──態勢は万全だった。
「これで、ひとまずは安心だろう?」
「うむ……」
 祇音は藤子へ肯きを返し、皆へ視線を注ぐ。
「助けに来てくれて……感謝じゃ」
「友人の命の危機と聞いて黙ってはいられませんからね!」
 ミリムが応えれば、灯音も頷いて──漸く体勢を直したアエテルヌスへ向いていた。
「そうなのだ! 天女様を襲おうなんて一億年早いのだっ!」
「ああ。そして天崎が一人のうちに倒しきれなかった時点で、お前の勝機はなくなったぞ」
 樒の冷えた声音に、アエテルヌスは一瞬だけ口をつぐむ。
 それでも直後には杖を握り直し、色彩の光を宙へ踊らせた。
『変化を求める限り、未来は確定していない』
 舞い散る煌きは無数の刃となって襲いかかろうとする。が、それよりも疾く翼で風を叩いたのはアルシエルだった。
「……届かせるかよ」
 それが思う誰かを傷つけるのだとすれば、猫を被った態度でなんて居られない。
 無限の花弁を風に舞わせながら、アルシエルは刃を振るって一撃。苛烈な刺突で色彩ごとアエテルヌスを穿ってみせた。

●転変
 光の欠片を散らせながら、アエテルヌスは大きく下がっている。
 それでも戦意を揺るがす様子のないその佇まいに、藤子は軽く息をついた。
「しかし、また大変なのに絡まれてるもんだな。深い縁なんだろう?」
「……幾度と相見えておるからのう」
 祇音はその全てが死戦であったと想起する。それだけ、あの敵の思いの強さを実感する心地だった。
「死が変化をもたらす、か。随分と哲学的だな」
 樒は呟きながら、しかし首を振る。
「だが、変化し続けることは出来なくなる気がするがどうなんだろうな?」
「……その通りじゃ。死は確かに大いなる変化を齎す。だが、そこが終着点となる」
 祇音は歩み寄って言ってみせた。
「次なる変化は生まれない。死すれば全てが静止し、不変へ至るのじゃ。お主はそれでも良いというのか?」
『……』
 差し向けられた言葉に、僅かに黙りながら。それでもアエテルヌスは、静謐の瞳に純な殺意を宿したまま声を返す。
『変化を求めなければ、何も変わらない』
「平行線だな」
 呟いた樒は、ふと視線を隣にやる。そこで灯音が珍しく不機嫌に嫌悪を示していた。
「なぜだかイラっとする顏なのだ……」
 自身の心にだけ触れる何かを、感じ取ったように。頬をふくらませ樒を見ると、敵に向かって指を指している。
「あの女、気に入らないのだっ」
「成程、灯もお前が気に入らないようだ」
 応えて言う頃には、樒は既に刃を手に地を蹴っていた。
「だから、消えて貰う」
 刹那、篭める雷光は闇を纏った漆黒。
 全く同時、灯音が『白ノ焔』を輝かせ自身と樒の能力を増大させると──その力を十全に活かすように、樒は突き抜ける刺突でアエテルヌスの腹部に傷を刻んだ。
 反撃を目論む夢喰い、だがそこで影士が影色の魔力球体を掲げている。
 自分もまたこの戦いに手を出させてもらおう、と。
「其方の因縁も事情も知らないが。戦う事は出来るからな」
 相手が力を行使してくるなら、それを返すだけだというように。放つ影球で敵を押し潰さんばかりに躰を削り取っていた。
 下がる夢喰いへ、容赦なく飛翔するのはアルシエル。
「──これでも呉れてやるよ」
 冬色の霊力を湛えて握り込む拳は、一瞬たりとも守るべき者へ手を出させはしないという、色濃いほどの意志の表れ。
 けれど同時にあくまで冷静さを欠かないのは──そうでなければ助けられるものも助けられないと、自身を俯瞰する沈着さも兼ねているため。
 故に放った拳は確かに直撃して相手を大きく突き飛ばす。
 地を滑ったアエテルヌスは、反撃に水晶の周囲を歪ませていたが──そこへも間髪を入れず、ミリムが屠竜の構えから砂を蹴って肉薄していた。
『──!』
「させませんよっ!」
 僅かに目を見開く敵へ、爆発的な加速で掲げるのは、青い炎を纏う大剣。夜を照らすほどの眩い焔を長く棚引かせて──振り下ろす斬撃が杖の水晶へ罅を刻む。
 散る破片と共に空間の揺らぎは確かに薄まっていた。だがアエテルヌスはそれでも攻撃を強行する。
『──変化を』
 異界と繋がったかのように大気が撓んで明滅し、現実との境界が刃となって襲う。
 けれどイッパイアッテナはそこへも怯まず、ザラキと共に壁になった。
 全ては、仲間を護り切るため。アルシエルも共に滑り込むと、衝撃を受けきって──。
「じゃ、回復はやっておくぜ」
 直後には藤子がひゅるりと鎖を操って、淡い光を帯びた魔法円を虚空に描き出していた。
 赫ける円陣は治癒の秘法となって、それに触れた仲間の傷を拭ってゆく。
 ばかりでなく──。
「守りも手堅く、ってな」
 弾けて消えた光が躰に宿るように、厚い防護もまた与えていた。
 同時、イッパイアッテナも刃を地に突き立てて『龍穴』と次元を繋ぎ、清浄なる癒やしの気を呼び込んで皆を癒やしきってゆく。
「いくら凶行を働こうとも無駄です。夢喰いの思い通りになどさせはしない!」
 イッパイアッテナの言葉に、尚反抗するようにアエテルヌスは連撃を狙う。けれどその手に刺さるは慈悲無き炎弾──影士が投げる不知火による楔。
「勝手はさせない。そう言った筈だ」
 そのまま素早く影士が視線を向ければ、それを受けた祇音は既に駆け出している。
「わしは、死というお主の糧になるつもりはない」
 それを力を以て示そうと。
 祇音が電気石から顕現させるのは稲光を帯びた光刃。振り抜いたその一刀がアエテルヌスを袈裟に深々と斬り裂いた。
「繋げますっ!」
 よろける敵へ、そのまま連撃を連ねるのがミリム。斧を大ぶりに振るって縦一閃、視認できぬほどの速度の斬打で肩口を斬り潰してゆく。

●静雨
 血煙にも似た光の靄を零して、アエテルヌスは砂に手をつく。
 声音は平坦でありながら、苦痛に途切れ途切れでもあった。
『死を見なければ……変化を得られない──』
「死はたしかに自身にも誰かにも変化を齎すものでしょう。人の生において究極、最終的な変化でしょうけれども」
 ミリムは声を返しながら、最後には否定するよう刃を突きつける。
「死してもなお不変なモノは世にありますからね……!」
『……』
 アエテルヌスの微かな視線の動きは、迷いの顕れか。それでも死を求めるより無いのだと、半壊した杖で魔力の奔流を放とうとした、が。
 そこへ灯音が距離を詰めている。そこに並ぶも樒もまた、刃を閃かせて。
「援護する。存分にやるといい、灯」
「了解なのだっ! その綺麗な髪を、切り落としてやるのだ」
 肯く灯音は、樒が風の刃を飛ばすのに合わせ、銀槍で冷気の斬閃を生んで有言実行、相手の髪を切って落として躰をも抉ってみせた。
 至近から反撃を狙うアエテルヌス、だが跳んだイッパイアッテナが宙で輪転し、真っ直ぐの蹴り落としで体勢を崩させる。
「さあ、今です」
「ああ」
 応える影士は、暗色の月を魔力で作り出して。その塊を弾丸の速度で飛ばし敵の足元を縫い止めていた。
 アエテルヌスはそれでも残る力を注ぐよう、光を踊らせてくる。だが藤子が即時に大地から朽ちた記憶を引き出していた。
「手を貸してくれ」
 喚びかけに応じ、顕れた陽炎が魔力を発散、番犬の傷を余さず浚ってゆく。
 戦線の憂いが無くなれば、ミリムは手元で描いた『奇術師ゼペットの紋章』から無数のカードを踊らせて。消失マジックを披露するように敵の魔力の残滓を消し去って、魔法のロープでアエテルヌスを縛り上げた。
 そこへ花舞う剣撃を叩き込んだアルシエルは──視線を横へ。
「祇音」
「──うむ」
 応える祇音は、四肢を獣化させて巨大な雷を己の内に宿している。
「大いなる変化のためにその他の変化を否定すること。お主が望もうとした“変化”を──もう一度、死して思い知るがいい」
 獰猛なまでの威容を以て、繰り出すのは加速しての一撃。強大な雷撃を伴った斬撃は、アエテルヌスの躰を切り裂き命を両断した。

 祇音が見据える視線の先で、夢喰いの体は薄い光になって消えていった。
 影士は見つめてから呟く。
「……終わったか」
「ええ、そのようですね」
 ミリムも頷き、武器を収めていた。イッパイアッテナは皆へ視線を巡らせている。
「皆さん、お怪我はないでしょうか?」
 それに皆は肯定の声を返していた。
 祇音も周囲を確認して──安全であると判れば、一息ついて瞳を皆に向ける。
「……皆のおかげで、助かったのじゃ。礼を言うぞ」
「祇音も、傷は残ってないわね?」
 面で顔を覆い直した藤子が聞くと、祇音はしっかり、うむと応えていた。
 アルシエルはそれに良かった、と呟いている──祇音へと駆け寄りたい気持ちを抑えながら。
 樒もまた一つ頷いていた。
「何はともあれ、無事で良かった」
 言うと、後は抱きついてきた灯音の姿に目を細めて、自身もまた抱き寄せる。灯音もそれに満足気な表情をすると、そのうちに二人で帰路につき始めていった。
 藤子もまた歩み出す。
「さぁ、みんなで帰りましょ?」
「そうじゃな」
 祇音は言って歩む。その声音には皆への深い感謝の念と、思いが籠もっていた。
 ただ、時折見せるのは──寂しげな笑顔。
 アルシエルは歩みながら、少しだけそれを見つめていた。
 彼女が色々と危うい事も、自分がそれを止める手立てを持たない事も判っている、だから悔しくて。
 それでも、自分の出来うる限りで守れればいいと、ただそう願うばかりだった。
 祇音は一度だけ足を止め、皆と距離を置く。アエテルヌスとのやりとりを思い返して、不穏な考えが過ぎっていた。
「……」
 すぐに頭を振るって払うと、落ちていたモザイク水晶の破片を拾う。
 そうして誰にも気づかれぬよう、海へ流すと──また皆に追いついて、夜空の下を歩いていった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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