猫々カフェと珈琲明王

作者:坂本ピエロギ

 とあるカフェの入り口で、鳥人間の男は言った。
『珈琲は素晴らしい。珈琲は最高だ』
 男の名前は珈琲明王。カフェでは珈琲こそ至高というそれっぽい教義の割に、信者はゼロという少し寂しいビルシャナであった。
 だが、信者がいない事など彼にとっては些事でしかない。
 深く煎った焙煎豆の香り、マキネッタが立てる小気味よい音……そうして淹れた一杯があれば、彼は全てを忘れられるのだから。
『だというのに。だというのにッッッ!』
 明王は入り口に張られたチラシを睨みつける。
 そこには可愛らしいポップな字体でこう書かれているのだ。
 ――猫カフェで、可愛い猫と一緒に素敵なひとときを!
『なんじゃこりゃあああああああああああああああ!!』
 明王は翼で器用にチラシを剥がし、ばりべりびりばりと破り捨てて吠える。
『神聖なる珈琲に猫の毛が入ったらどうする! 猫カフェ絶対滅ぶべし!』
 騒ぎを聞いて駆けつけた店員を、明王はアッパーカットで殴り飛ばして青空のお星さまに変えると、ひとり孤独に猫カフェを破壊し始めたのだった。

「猫カフェが、ビルシャナに……!?」
「うむ。クラリスが懸念していた事件が、現実となってしまった」
 クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)に、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は頷いた。
 カフェでは珈琲こそが至高――そんな個人的な主義主張によって誕生したビルシャナが、とある街中の猫カフェを襲撃するというのだ。
「敵の名は『珈琲明王』。この敵は猫カフェを滅ぼそうと、予知のあった猫カフェまで一直線で向かって来るゆえ、お前達は進路上の公園で明王を待ち伏せ、これを撃破して欲しい」
 ヘリオン降下後は、公園で猫カフェの話題を語り合うなどしていれば、索敵などを行わずとも、敵の方から怒り狂って襲ってくるはずだと王子は付け加えた。
 ちなみに珈琲明王はそこそこの戦闘力――平均的なダモクレスやエインヘリアルよりもやや劣る程度――を有しているので、戦いには油断禁物で臨みたい。
 いっぽう信者は一人もいないため、説得などを考える必要はないだろう。
「無事にビルシャナを撃破できたら、猫カフェで羽を伸ばして来ると良かろう。カフェ内では猫と遊んだり、ドリンク付きで読書を楽しんだりできるぞ」
 カフェの猫は皆人懐こい性格で、本など読んでいるとそっと寄って来たりする事だろう。店では猫じゃらし等の玩具も貸し出しているので、一緒に遊ぶときっと喜ぶに違いない。
「分かった。この事件、絶対に解決しないとね!」
 それを聞いて闘志を燃やすクラリスに、王子はうむと頷くと、
「ビルシャナの撃破、よろしく頼む。では出発するぞ!」
 ケルベロス達を乗せて、猫カフェの待つ現場へと飛び立っていった。


参加者
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)
三和・悠仁(憎悪の種・e00349)
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)
ヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)
クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)
秦野・清嗣(白金之翼・e41590)
犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)

■リプレイ

●一
 冬の肌寒い昼下がり。
 ラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)は公園のベンチに腰掛けて、仲間の番犬達と世間話に花を咲かせていた。
「猫カフェっていいよね。ふわふわな毛並みに、気まぐれに揺れる尻尾に……そんな可愛い猫達と、思う存分遊べるんだもんね」
「ええ。どんな子達がいるのか、とても楽しみです」
 相槌を打つのは三和・悠仁(憎悪の種・e00349)。そこにクラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)も、白猫のぬいぐるみ『Meow』を手に加わる。
「私も楽しみ。猫好きの人が沢山いるのって、それだけで心が温まるよね……!」
 番犬達の話題は、猫カフェ一色。
 一見すると長閑な光景だが、彼らはいま公園の随所に神経を張り巡らせていた。何故ならこれは、デウスエクスを誘き出す作戦の一環だからだ。
「ねえ、ヨハンは猫カフェ初めてなんだっけ?」
「ええ。猫さん達と戯れながら、お茶も出来る場所なんですよね?」
 クラリスに話を振られ、話の輪に加わったヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)の重低音ボイスはちょっぴり弾んでいる。仲間や友達と過ごせる素敵な時間に胸を弾ませているようだ。
「……絶対に、守りたいですね」
「うん。頼りにしてるからね」
 クラリスの殺界形成は、既に公園全体を包んでいた。
 つい先程マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)も、キープアウトテープで各所の封鎖を終えたばかり。市民が迷い込む恐れはゼロだ。
「珈琲明王か。まあ、オレはどっちかと言えば紅茶派かな。スコーン、ショートブレッド、ヴィクトリアサンドイッチケーキ。生菓子だったら――」
 紅茶の事を熱っぽく語るマサムネの傍では、スマホを手にした秦野・清嗣(白金之翼・e41590)が、護衛対象である猫カフェの情報を集めていた。
「このお店はサーヴァントの同伴も出来るのか。楽しみだね、響銅」
 丸い毛玉を思わせる箱竜を胸に抱き、微笑む清嗣。店には沢山の猫達がいるようだという清嗣の情報に、藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)は微笑を浮かべた。
「猫、可愛いですよね。あまり行く事のない場所ですし、興味があります」
 景臣は猫に寄られ難い性質ゆえ、カフェでは本を読んで過ごす予定だ。猫が仲間とじゃれる傍らで楽しむ読書、それもまた良い時間になる事だろう。
(「けれど、もし。猫と少しでも触れ合えたら、もっと素敵なのですが」)
 そんな淡い期待を胸に抱きつつ、景臣は仲間達へ語り掛けた。
「……来たようですね」
「ええ。手早く終わらせましょう」
 犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)が凝視する先、公園の門を突破してきたのは撃破対象の鳥人間。理想の珈琲を追い求めるあまり、猫カフェは滅ぶべしという悟りに至った、狂えるビルシャナ『珈琲明王』の姿だった。
『うおおおお! 感じるぞ、猫カフェ愛好者の匂いを!!』
「サポートは任せるわ、ソラマル。お願いね」
 バトルガントレットを装着し、翼猫を前衛に送る志保。
 番犬達は息の合った動きで陣形を組み、迫りくる明王を迎え撃つのだった。

●二
『珈琲最高! 猫カフェ滅べ!』
 問答無用で発せられる珈琲経文。
 重力を帯びた説法に足を捉われるのも構わず、ラウルは真正面から明王に仕掛けた。
「猫カフェは愛らしい猫達に癒される憩いの場だ――」
 精神力を極限まで集中。
 一変した口調と共に怒りを込めて、明王の胸元に派手な爆発を巻き起こす。
「荒らす輩は何が好きだろうが関係ねぇ。ぶっ潰す!」
 サイコフォースをもろに浴び、珈琲経文の一部が焼き焦げた。続く景臣が直刃の斬霊刀を抜き放つと、彼の周りを紅蓮の炎が舞い始める。
「――さあ、」
 吹き抜ける冬風に乗った炎は、それ自体が意思を持つように襲い掛かった。
 明王は炎に覆われ悶絶しながら、珈琲豆の袋を取り出す。回復を図る気だ。
『神聖なる珈琲豆よ、我に力を!』
「珈琲が欲しければ普通のカフェに行け。猫カフェの主体は『猫』だ」
 悠仁が竜砲弾で明王を吹き飛ばしながら言った。悠仁は家で黒猫を飼う程の猫好きだが、デウスエクスに向けるのは憎悪のみ。容赦する気は欠片もない。
「難癖付けるにしても、せめて趣旨を理解してからにしろ――ウェッジ!」
 悠仁のライドキャリバーが、炎を纏い突撃。体当たりを浴びて火だるまになった明王を、クラリスの攻性植物が絡め捕る。
 対する明王は珈琲豆を噛み砕き、負傷を癒し始めた。クラリスは明王が状態異常の耐性を得た事に気付くと、中衛のヨハンを振り返る。
「ねえヨハン。九尾扇で猫じゃらしの予行演習しよう!」
「ええと、こうでしょうか?」
「そうそう。上手だよヨハン!」
「ほ、本当ですか!?」
 クラリスの称賛に発奮したヨハンは百戦百識陣で前衛に破剣を付与すると、さらに続けて轟竜砲を発射。悲鳴をあげて宙を踊る明王を仰ぎ、ぽつりと呟く。
「この寒空の下でただ一人、猫さんのいるカフェも許せないとは。悲しい事ですね……」
 猛攻を浴びて早くも追い込まれ始める明王。そこへ更なる追い打ちとばかり、マサムネがダークなメロディに乗せた呪歌で足を封じる。ネコキャットは清浄の翼で回復支援だ。
「前衛のダメージが一番大きそうだな。頼んだよ相棒!」
『おのれ、我が布教の邪魔をするな!!』
「やれやれ頑固な事だ。君がどんな考えを持とうと自由だけどさ」
 清嗣は肩を竦め、嘉留太の札を引いた。
 映し出されるは凋落の切欠。白光に包まれ悶絶する明王へ清嗣は淡々と言葉を投げる。
「他人の趣味に口を出すのは、いわゆる余計なお世話ってやつ。喫茶店は茶を飲む所だから珈琲滅べって言われたらどうよ?」
「そうです。猫カフェを滅ぼすなんて、許す訳にはいきません!」
 志保の怒りが鉄拳型の弾丸となって、トラウマに呻く明王を穿つ。
 弾丸を浴びて凍りつき、ソラマルのキャットリングに経文を弾かれ、珈琲明王は瞬く間に窮地へ追い込まれた。

●三
『わ、我がこんな所で終わるはずが――』
「いいや、終わる。俺達が終わらせてやる」
 悠仁のサイコフォースが明王の土手っ腹に直撃。続けて清嗣の音速拳が、珈琲豆がもたらした耐性の力を崩していく。
「おや、壊しきれないか。しぶといね」
「では、これで試してみましょう」
 景臣はパズルを掲げ、破剣を帯びた竜の雷を明王に叩き込んだ。
「知っていますか? 可愛い猫を愛でるひとときに頂く一杯は格別だそうですよ?」
 微笑を浮かべた景臣が首を傾げる。
 笑顔こそ柔和だが、雷の力は凶悪そのもの。明王の保護は跡形もなく粉砕された。
「その至福を知らないとは、素人と言われても仕方ありません。明王は廃業されては?」
『うるさい、黙れ!』
 明王は景臣に炎を浴びせるも、武器封じに威力を減じられた一撃は悲しい程の傷しか与えられず、マサムネのサキュバスミストにすぐ傷口を塞がれてしまう。
 ここまで来ては、明王も敗北を悟るしかない。
 何故だ。珈琲は最高なのに。猫カフェは滅ぶべきなのに――無念の呻きを漏らした彼に、ラウルが指先を宙に翳して告げる。
「確かに珈琲は良いよな、俺も好きだぜ。けどな」
 指が描く軌跡を辿るように、美しい花々が咲き誇る。
 視界を埋め尽くす『弥終の花』。それは明王の心を、動きを、全てを封じ込めていく。
「カフェでの楽しみ方は人其々。他を認める度量も無く、手前勝手な主張を押し付けて飲む一杯が、美味い筈はねぇ」
『ぐ、ぐぬうぅ!』
「さあ、あたし達の怒り、その身に焼き付けろ!」
 志保が体重を乗せた回し蹴りを浴び、炎上しながら珈琲明王がよろめく。
 それを見たヨハンはクラリスと視線を交わし、降魔で錬成した鋼竜を遣わせた。
「せめて最後は、もふもふ達と遊びませんか? ――出番ですよ、水より親しき鋼の竜」
 鉄の重さを誇る竜が、嬌声をあげて明王に飛び掛かる。
『ぐおおぉっ……!』
「教えてあげる、珈琲明王。猫カフェっていうのはね――」
 竜に圧し潰される明王が最後に見たのは、きらめく七色の光。
 『鼻唄猫の散歩路』が奏でる旋律と共に、五線譜の上を滑って突撃して来るクラリスの姿だった。
「美味しい珈琲に、かわいい猫。相乗効果で最高に癒される、最高の場所なんだよ!」
『お……おのれええぇ!!』
 断末魔を遺して爆発四散する明王。
 清嗣は平穏を取り戻した公園を仲間達と修復しながら、
「気に入らないものばかりに目が行ってしまうのは、とても不幸だよな。なぁ、響銅」
 そう言って箱竜を優しく撫でるのだった。

●四
 番犬達が猫カフェのドアを潜ったのは、それから程なくしての事。
 綺麗な店内のあちこちで寛ぐ猫が、可愛い鳴き声で番犬達を迎える。
 ――嗚呼、ここは天国だ。
 そうして至福のひと時は始まりを告げた。
「素晴らしい、最高だね……!」
 艶やかな毛並みの猫達にラウルの目はすっかり釘付け。スマートな子も、ふわもふ毛並な子も、どの子もみんな個性的。見ているだけで心が癒される。
(「よし。ここはひとつ……」)
 ラウルは童心に返った笑みを浮かべ、絨毯に寝そべっていた黒猫の前に座った。
 相手を驚かさないよう、目線の下からそっと手を伸ばす。すると黒猫もラウルの掌に頭をこすりつけ、もたれるようにして甘えてきた。
 優しく抱いた猫の体はもふりもふりと暖かい。心惹かれる仕草に、眦がふわりと和む。
(「これは、お家に連れて帰りたくなる愛らしさ……!」)
 しばらく戯れた後、ラウルは鈴付きの猫じゃらしを手に持った。
 途端に猫はがばっと跳ね起き、小さな狩猟者の本能が赴くまま、跳んで跳ねて転がってと元気に遊び始める。
 ――家の猫で鍛えた腕も、まんざら捨てたもんじゃないね。
 猫じゃらしを相手にすっかり満足した黒猫に、ラウルはにっこりと微笑むと、
「友人を連れてまた会いに来るね」
 そう言って小さな約束を交わす彼の向かいでは、珈琲で祝杯を上げたクラリスとヨハンもまた、傍に来た猫達と遊んでいた。
「凄いよヨハン、楽園だよ……!」
「ええ、楽園です……!」
 頷きを返すヨハンは、猫を抱きかかえて恵比須顔。可愛くて柔らかい猫達と思う存分遊び戯れる。これを楽園と言わずして何と言おう。
「ヨハン見て、あの窓際。メインクーンがいるよ」
「ああ、あの大きな猫ですか?」
 メインクーン。別名「穏やかな巨人」とも呼ばれる大猫にクラリスはそっと近寄ると、長い毛並みに覆われた体躯をふかふかと撫でる。
「わあ、ふわふわ。温かい……!」
 猫はどっしりした体躯でクラリスを受け入れながら、喉を鳴らして寛ぎ始めた。
 ヨハンは猫じゃらし片手に、通りがかった白猫を誘い始める。
「長い尻尾にふわふわの毛……可愛い猫ですね」
「うんうん。温かくて包容力があっていいよね」
 何だかヨハンに似てるかも。それを聞いたヨハンは、つい苦笑を浮かべてしまう。
 かたや白猫はなかなか手強く、猫じゃらしに食いついてこない。
(「むむ、うまくハートを射止められませんね。メインクーンさんはすっかりクラリスさんを虜にしているというのに」)
 僅かばかりの羨望を感じながら、膝元の猫を優しく撫でるヨハン。
 それを見たクラリスが、お手本を示そうと猫じゃらしを握る。
「えいっ、とう!」
「おお、猫が近寄って……あっ惜しい」
「ねえヨハン、一緒にもう一度やってみよう!」
 仲良く猫じゃらしを振る二人。
 クラリスの手捌きを見て、懸命にアタックを続けるヨハン。
 そして――。
「それっ……あっクラリスさん、白猫さんが来てくれました!」
「やったねヨハン、おめでとう!」
 そうして二人は、仲良く猫達とのひと時を満喫する。
 一方その頃、景臣は窓辺で本をめくりながらカフェの猫達を眺めていた。
「やはり猫は良いですね……おや?」
 カップに手を伸ばそうとして、ふと景臣の指が柔らかいものに触れる。視線を向けた先にいたのは、ふわふわの灰猫だ。
「これは失礼。怪我はされていませんか?」
 猫は怒るでもなく逃げるでもなく、すたすたと景臣の前にやって来た。そして向かい合う形で、テーブルの上にのしっと座る。
 ――まさか、これは? 撫でても良いと?
 本と珈琲をそっと除け、恐る恐る手を伸ばして撫でていると、灰猫は自分から景臣の膝に乗って丸くなる。悪くないからもっと撫でさせてやる、そう言いたげな態度で。
「ああ……ありがとうございます。では遠慮なく」
 喉を鳴らし始めた猫を撫で、景臣は幸せな時間をのんびりと堪能する。
 いっぽう最後に入店してきた志保は端のテーブルに腰を下ろし、近寄ってきた猫にそっと触れているところだった。
「よしよし、いい子ですね」
 猫達と打ち解けたソラマルを傍に、志保はホットコーヒーでほっと一息。しばしのんびり寛ぎながら、手元の猫じゃらしを戯れに振ってみる。
 すると――。
「……あら?」
 一匹、二匹、四匹、八匹……彼女の周りに、猫がわらわらと寄って来るではないか。
 これは、まさか。
「えっ? あの、そんなに集まらないでもらえますか?」
 助けを求める視線を送るも、ソラマルはソファでふて寝の真っ最中だ。
「ソラマル、助けて! お願い、拗ねないで!」
 押し寄せる猫の群れにかき消される志保の悲鳴。
 各人各様の時間を過ごす仲間達を眺めつつ、清嗣は珈琲カップ片手に箱竜へ微笑む。
「なかなか素敵な場所だね、響銅?」
 響銅は先ほどから、毛玉のような尻尾を猫じゃらしのようにして猫と遊んでいる。中々に満更でもない様子だ。
「ふふっ。やっぱり猫って可愛いね」
 マサムネもまた、猫じゃらしで猫を相手に遊んでいた。
 楽しい遊びだが、あまり熱は上げられない。なにしろ、先程から無の表情を浮かべて彼を眺める相棒の姿があるからだ。
(「もう少し構ってあげたいけど……ごめんね!」)
 楽しいけれど、うちの子を嫉妬させては悪い。
 マサムネは最後に猫をそっと撫でて、相棒の翼猫の所へ戻っていく。
 悠仁はといえば、ソファの上で液体のように伸びた猫をそっと撫でていた。
「よしよし……ここですか?」
 猫は最初こそ多少の警戒を見せたが、すぐにお腹を見せて転がり、今ではすっかり悠仁の為すがままだ。喉元を撫でればくいっと頭を伸ばして「もっと」とせがみ、お腹を撫でればぐるんと丸まってうたた寝を始めた。
 そうして今、悠仁が目を向けるのは、無防備に曝け出されたピンク色の肉球。
(「ここはやはり、むにむにを……」)
 しばし逡巡したのち、意を決して肉球をむにむにする悠仁。
 温かく、柔らかい肉球の触り心地に、戦いの疲れが溶けるように消えていく。
(「折角ですから、もう少し……」)
 それから尻尾の付け根や肩回りを揉み解すうち、すやすやと寝息を立て始めた猫に、彼は細やかな声で感謝を捧げる。
 人のために、寄り添い生きてくれて有難う――と。
 こうして番犬達は、思い思いのひと時を猫カフェで存分に過ごしたのだった。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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