漂うは昭和の香り

作者:神無月シュン

 年末の大掃除によって出たのであろう、住宅地のごみ捨て場には大量の粗大ごみ。
 その中の一つ、数枚のレコードと共に捨てられていたレコードプレーヤーの中へと入っていく、握りこぶし程の大きさの小型ダモクレス。
 機械的なヒールを施されたレコードプレーヤーには、音を鳴らすためにスピーカーまでもが追加されていた。
 レコードプレーヤー型ダモクレスは、大音量でクラシックを流しながら、民家へと向かい始めた。


「家庭から出された粗大ごみの家電製品の一つが、ダモクレスになってしまう事件が発生します」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は集まったメンバーに説明を始める。
「レコードも、それを再生できる物も、今となっては結構貴重な気がするのです」
 捨ててしまうのはちょっと勿体ないと、話を聞いていた機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が呟いた。
「幸いにもまだ被害は出ていませんが、ダモクレスを放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまいます」
 その前に現場に向かって、ダモクレスを撃破するのが今回の任務だ。

 このダモクレスはレコードプレーヤーの左右にスピーカーが取りつけられた様な見た目で、ドローンの様に浮遊しながら移動するようだ。
「スピーカーからの大音量攻撃に加え、レコードを射出して攻撃してきます」
 ダモクレスが出現するタイミングには周囲に人は居ないが、場所は住宅地。いつ家の中から人が出てくるか分からない。人払いくらいはした方がいいかもしれない。

「人々の命を守るため、どうか皆さんの力を貸してください」


参加者
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)
エリザベス・ナイツ(焔姫・e45135)
アルベルト・ディートリヒ(レプリカントの刀剣士・e65950)
ブレア・ルナメール(軍師見習い・e67443)
ローゼス・シャンパーニュ(セントールの鎧装騎兵・e85434)

■リプレイ


 1年も残りわずかといった寒空の下、ケルベロスたちは住宅地を事件発生場所へと向かって歩いていた。
「私の足なら大分早くに現場に着けるでしょう」
 本気で走れば時速80kmは出ると、ローゼス・シャンパーニュ(セントールの鎧装騎兵・e85434)は避難指示を行う為に一足先に駆けていく。
「これから、ここにダモクレスが出現します。速やかにここから退避するか、家から出ない様にお願いします」
 拡声器を使いながら住宅地を走り抜けていく。
「あの機械と変わらないような、いやいや」
 騒音をばら撒いているという点では、今回出現するダモクレスと変わらないのでは? そんな考えがローゼスの頭に過ったが、これは人命の為と、すぐさま頭を左右に振り否定した。
「危険だから、家からは出ないでくれな」
 先の方は任せておけばよさそうだと考え、避難指示を行っていないこの一帯を、歩きながらアルベルト・ディートリヒ(レプリカントの刀剣士・e65950)は拡声器を使って呼びかける。
「マリー、私たちはあっちを」
「わかった」
 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)とマルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)の2人は短い言葉と視線を交わすと、ごみ捨て場の方へと走っていく。
 一通り避難指示を終えると、辺りに出歩く者は居なくなる。
 念には念を。ブレア・ルナメール(軍師見習い・e67443)が殺気を放つ。その間に田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)が所々に『キープアウトテープ』を貼り付けていく。何重にも人払いを行っておくことで、戦闘時の心配事を確実に減らすことが出来る。

「重厚な音楽ですね。これがクラシックというものですか。肌には合いますが、この機械が今は奏でるだけではないのが残念です」
「この曲は――で――」
 遠くから聞こえる音楽に、ローゼスが聞き入っている。その横でジークリート・ラッツィンガー(神の子・e78718)が流れている曲について解説を始める。
 遠くにいる状態で丁度良い音量という事は……。
 ダモクレスが浮遊しながらこちらへと近付き大音量で流れる音に、説明途中だったジークリートの声がかき消されていく。
 最早音楽とは呼べない音にケルベロスたちは耳を塞いだ。
 こちらに気が付いたのか、レコードプレーヤー型のダモクレスは流していた音を一度止め、警戒するように漂っている。
「ショーワとは前世紀の事ですの? あのレコードプレーヤーはジャンクということですわね。それともアンティークの域に入っているのかしら」
 音楽の冒涜だと、怒りを顕わにするジークリート。
「最近、レコードが見直されていると聞いた。だけど現物を見るのは初めて」
「現代ではレコードプレイヤーとCDラジカセがセットになったオーディオ機器もあるが、当時に使われたプレイヤーは趣きがあるな」
 マルレーネとアルベルトは、興味深くダモクレスを観察する。
「うちの実家の診療所には待合室にレコードプレーヤーがあるんですよ、今でも現役で音楽流しとるんです。やから、こうやって捨てられとるんを見ると寂しい気持ちになるんですよ」
 悲しそうにダモクレスを見つめるマリア。
「一生懸命働いてくれたのよね。きっと、廃棄されて悲しかったと思う。これまで使ってきてくれたたくさんの人の想いを込めて、今までありがとう。罪を犯すことなく、静かに休んでちょうだい……」
 エリザベス・ナイツ(焔姫・e45135)が語り掛ける。もちろんそれで、ダモクレスが止まってくれることはない。それどころか、敵意を見せ今にも襲い掛かってきそうである。
「ダモクレスに使われなければ単なる廃棄物ですか。些か悲哀はあれども、加減する理由にはなりませんね」
「ダモクレスとの戦いは、少し寂しいものがありますね……」
「残念だけど、壊す」
 ダモクレスの様子にケルベロスたちは応戦する為、武器を構えた。
「この槍に勝利と栄冠を誓おう! さあ征くぞ!」
 槍を掲げたローゼスの宣言を皮切りに、ケルベロスたちとダモクレスの戦いが始まるのだった。


「行くですよ……」
 戦闘開始と同時、真っ先に飛び出した真理はダモクレスへと蹴りを浴びせる。
 真理の後ろをついてきていたライドキャリバーのプライド・ワンは走りながら炎を纏うと、そのままダモクレスへと突撃していく。
「こいつも喰らいな」
 更にその後ろに続いていたアルベルト。腰元から抜かれた『士魂刀』が弧を描く。
 エリザベスとブレアの起こした爆発が仲間たちの士気を高め、マルレーネが地面へと描いた星座が前衛のメンバーを守護する。
「まずは手堅く」
 ドラゴニックハンマーを砲撃形態へと変形させ構えるマリア。狙いを定め、撃ち出された竜砲弾は真っ直ぐにダモクレスの元へ。
 直撃を受けバランスを崩している所へローゼスが飛び出す。地面に叩きつけるように放たれた上空からの蹴りに、ダモクレスは一度、二度と地面を跳ね住宅の壁へとぶつかり止まった。
 空中に再び浮かび上がるダモクレス。そこへ襲い掛かるのは捕食形態へと姿を変えた真理の攻性植物『咲き誇る白の純潔』。
 アルベルトは空の霊力を込めた『士魂刀』を上段に構え、縦に一文字。
 仲間の支援の為、更に爆発を起こすエリザベス。合わせるようマルレーネ、ブレアも続けて爆発を起こしていく。
「マルレーネさん、ブレア君。もしかしたら、立て続けに爆発を起こしている私たちの方がダモクレスよりも騒音被害を出している気がするのよね」
「確かに、そうかも」
「ナイツ様、ユングフラオ様。そんなことを言っていては、こちらがやられてしまいます。これは仕方がない事なのです。はい……。ですから、後で謝りましょう」
「そうですね」
「賛成。怖がらせたのは事実」
 家の中でじっとしている人たちにとって、状況が分からない中、爆発音が聞こえれば、不安と恐怖に怯える事だろう。心のケアもしっかりとしておきたい。
 ダモクレスのスピーカーからブツッという音が鳴った矢先、耳を塞ぎたくなるほどの大音量の音楽が辺りに響き渡る。
 大きな音が振動となり民家の窓ガラスが次々と割れていく。
 音が鳴り止んだ一瞬の隙に、マリアはバスターライフルの引き金を引く。放たれた光線がダモクレスの右側のスピーカーを凍らす。
「この剛脚の真の威を知れ」
 ローゼスがグラビティを込め、地面を力いっぱいに踏み込む。込められたエネルギーが地を揺るがし、隆起した地面がダモクレスを突き上げた。
「真の音楽とは、こういうのを言うのですわ」
 ジークリートは『ドメスティックバイオリン』を構えると、ダモクレスが先ほどかけた曲を奏で始める。先ほどの騒音とは違い、美しい旋律が辺りへと鳴り響いた。


 ダモクレスが音楽を再生する度、建物にヒビが入り、ケルベロスたちの鼓膜にまでダメージを与えてくる。
 再生が終わり、曲を変える為かダモクレスがレコードを射出する。撃ち出されたレコードの前へ身を乗り出す真理。
「うぐっ」
 高速回転しながら飛び、刃と化したレコード。襲い掛かる痛みに真理は歯を喰いしばり耐える。服ごと斬り裂かれた腹部からは血がジワリと滲んでいた。
「貴重なレコードを武器にして投げ飛ばすのはいただけんな。CD化していない名曲が、どれだけ存在してるのか計り知れないんだぞ」
 真理の横を通りアルベルトが前方へ飛び出す。超高速で放たれる斬撃がダモクレスを斬り刻む。
「そろそろ回復をしないとまずそうね」
 エリザベスが踊ると、花びらのオーラが舞い仲間を癒していく。
「思うようにはさせへんよ」
 マリアのバスターライフルから放たれるエネルギー光弾。続いたマルレーネが繰り出した突きがダモクレスを貫く。
 ダモクレスが再び音楽を再生する。今度はクラシックではなく歌謡曲だ。
「命の炎の輝きよ……再び」
 ブレアが生命の炎を生み出し真理を包み込む。テレビウムのイエロもブレアの指示を受け回復の補助へと回る。
 ローゼスの放つ斬撃が、ダモクレスの傷跡を斬り広げていく。
 ジークリートは先ほど流れた歌謡曲を器用に奏で、仲間を癒す。
「そこを動くなよ」
「まずはその動き、止めてもらいますよ!」
 アルベルトの強烈な刺突が、マリアのグラビティチェインを抑制する光の麻酔弾が次々とダモクレスを襲う。
 エリザベスが全身に力を溜め、筋力を載せた一撃を見舞う。
「これもいかがでしょう」
 その間に背後へと回っていたブレアが斬撃を放つ。
「マリー、行くです」
「霧に焼かれて踊れ」
 真理がアームドフォートを一斉発射。弾丸の雨を縫うように先行した、マルレーネの強酸性の桃色の霧がダモクレスを包み、続いて弾丸の雨が降り注ぐ。
「この一槍にて、神妙に貫き穿たれよ!」
 ローゼスが地を駆け、雷を纏った神速の突きが爆煙を裂き、ダモクレスを捉える。中心を貫かれ、力尽きたダモクレスは地面へと墜落した。


 戦いが終わり、マリアはキープアウトテープを剥がしていく。
 ブレアは殺界を解くと、周辺へと安全が確保できたことを知らせに回る。
「クールダウンには丁度良いですね」
 ローゼスもまた、ダモクレスを倒し安全になったと知らせる為一帯を駆け回る。
 周辺への連絡と騒音の謝罪を一通り終えると次は、戦闘で壊れたガラスや壁。ブレアとジークリートは手分けして修復を始めた。
「ここまで壊れてもうたら多分直せへん、これでもうお休み、やね」
 マリアは先程までダモクレスとして向かってきた、レコードプレーヤーだった残骸を少し寂しそうな眼で見つめていた。
「レコードが無事に残っとったら持ちかえってもええでしょうか? 実家の診療所でかけてもらおうかと思います。使えるんやったらまだ使った方が物も嬉しいやろうし」
「運良く残ったものがあれば幸いです」
「俺も聴きたいと思ってたところだ」
 いくら廃棄された物とはいえ、勝手に持っていくわけにもいかない。マリア、ローゼス、アルベルトの3人はレコードの持ち主を探しにここで別れた。
 住宅地を後にし、歩き出す残りのケルベロスたち。
「ねぇマリー、こんなお店見つけたんだけど、一緒にどうです?」
「うん、それじゃこのままデート、だね」
 アイズフォンを使い、気になる店を見つけた真理は早速マルレーネを誘う。マルレーネは頷き微笑むと、そっと真理の手を握った。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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