聖夜のグランドロン救出戦~決戦、長城要塞!

作者:雷紋寺音弥

●聖夜の決死作戦!
「グランドロン決戦に向かってくれた者は、お疲れ様だったな。お前達の活躍で、妖精8種族であるグランドロンのコギトエルゴスムを奪取する事に成功した」
 タイタニア、アイスエルフ、そしてセントールに続き、グランドロン達もまたケルベロスに協力してくれることになったと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まった者達に告げた。彼らは未だ未だコギトエルゴスムのままではあるが、それでもケルベロスの説得を受け入れてくれたのだと。
 だが、それでも手放しでは喜べない。この結果は当然のことながら、宇宙から帰還したジュモー・エレクトリシアンとレプリゼンタ・ロキにより、大阪城のユグドラシル勢力へと伝えられた。彼らはグランドロンの裏切りを警戒し、グランドロンの形態を城塞型に変化させることで、自律行動を完全に阻止。エインヘリアル王族の威光によって支配下に置き、強力な城塞としてのみ運用しようとしているようだ。
「現在、大阪城勢力の4隻のグランドロンは、大阪城を取り囲む長城へと造り変えられている。第四王女レリが完全に支配下に置く事で、彼らの意志は封じられているからな。お前達の説得も、決して届く事はない」
 だが、これはチャンスでもあると、クロートは続けた。エインヘリアルの王族の威光で無理やり従わせているのであれば、その原因である第四王女レリを取り除いてしまえば良いからだ。
「大阪城を取り囲むグランドロンの長城は、第四王女レリの白百合騎士団と、三連斬のヘルヴォール率いる『連斬部隊』、更にはユグドラシル戦力が防衛に当たっているぞ。正に鉄壁の守りといった布陣だが……今回の戦いでは、グランドロンのコギトエルゴスムが手助けをしてくれるはずだ」
 グランドロンによる堅固な城塞も、説得に応じてくれたグランドロンのコギトエルゴスムの助けがあれば、人が通れる程の抜け穴を作る事が可能となる。この抜け穴を利用し、予知によって居場所が判明している敵指揮官を狙って攻撃を決行。グランドロンを無理やり従わせている第四王女レリを撃破する事ができれば、グランドロンはケルベロスの説得を受け入れてくれるに違いない。
「今回の作戦は、大まかに分けて4つの段階を踏まなければならない。まず、グランドロンのコギトエルゴスムを持って、隠密行動で大阪城に近づくこと。次に、グランドロンの長城に抜け道を作って潜入すること。その後、有力な敵を奇襲で攻撃・撃破すると同時に、グランドロンを制御している第四王女レリも撃破すること。そして最後に、グランドロンのコギトエルゴスムを救出することだ」
 その中でも、やはり最も困難であると思われるのは、有力な敵の撃破だろう。第四王女レリも含めて、その数は10体。レリの親衛隊を率いる『絶影のラリグラス』に、『閃断のカメリア』、『墜星のリンネア』といった白百合騎士団のエインヘリアル達に加え、『紫の四片』と呼ばれる第四王女レリの配下の螺旋忍軍もいる。
 また、それとは別にシャイターンの部隊も確認されており、それを率いるエインヘリアルが『三連斬のヘルヴォール』だ。彼女を中心に『連斬部隊員ヘルガ』、『連斬部隊員フレード』、『連斬部隊員オッドル』といったヘルヴォールの配下であるシャイターンが守りを固めており、更に間の悪いことに、『連斬部隊員ヒルドル』と呼ばれるシャイターンも、襲撃のタイミングで大阪城への移動を開始しようとしている。先の三人とは異なり、ヒルドルは有力な士官ではないが、放っておくと大阪城から敵の援軍が来るまでの時間が早まってしまう。
「救出したグランドロンのコギトエルゴスムの影響なのか、今回はグランドロンの長城内の敵の様子を詳細に予知する事が出来た。最適な抜け道も用意できることから、余計な敵に遭遇する事無く、目標となる敵を急襲する事が可能となっているぜ」
 もっとも、敵の戦力は膨大であるが故に、有力敵の撃破に失敗し、敵が態勢を整えてしまえば作戦の遂行は困難となる。その場合は即時撤退を行う必要が出て来るだろう。
「今回、作戦に参加するのは15チームだ。この戦力で、10体の有力敵に対応する事になる。隠密で大阪城に近づく方法、抜け道を使った潜入時の行動、自分のチームがどの敵を狙って行動するかの選択、それに敵との戦闘方法や援軍などへの対処方法、作戦に失敗した場合の撤退手段まで、様々な状況を想定した行動を考える必要があるぞ」
 今回の作戦は、妖精8種族のグランドロンを仲間に迎える為の救出作戦。そして、グランドロンの救出に成功して帰還すれば、季節は丁度、クリスマス。もしかすると、グランドロンの救出が、思わぬクリスマスプレゼントになるかもしれない。
「エインヘリアルの第四王女レリとは多くの因縁があるが……いい加減、この辺で決着をつけたいものだな」
 年の瀬に憂いを断ち、新たな種族を迎え入れることができれば、それは何よりも素晴らしいことだ。そう言って、クロートはケルベロス達を、改めて決戦の地へと送り出した。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
イピナ・ウィンテール(剣と歌に希望を乗せて・e03513)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)
月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)

■リプレイ

●決戦、連斬隊長!
 グランドロン。妖精8種族の内の一柱である彼らは、今やエインヘリアル達の手によって、強大な城塞に姿を変えられていた。
 彼らの意思は奪われ、もはや単なる道具でしかない。だが、それでもケルベロス達が城塞に潜入できたのは、先の戦いで入手した、グランドロンのコギトエルゴスムの存在が大きかった。
 彼らは宝玉の姿でありながら、まるで導くかのように、ケルベロス達へ抜け道を用意してくれた。それにヘリオライダーの余地が加われば、どれだけ強固な防衛網を築こうと、潜入するのは容易いことだ。
「やれやれ……ようやく、副官の場所まで辿り着けたようだな」
 ズラリと立ち並ぶシャイターン達の姿を余所に、伏見・万(万獣の檻・e02075)はその奥に佇む大女へと目をやった。人間のそれを優に超える身の丈と、揺らめく炎の如く湾曲した刃を持つ剣。彼女こそ、実質的にこの城塞の守りを任されている、ヘルヴォールに他ならない。
「なるほど、あれがヘルヴォール……シフカさんの宿敵……。でも、なんかウネウネした剣もってるのだ」
「フランベルジュと言うやつか? いずれにせよ手練れなのは間違いない。油断するなよ」
 首を傾げる月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)に、四辻・樒(黒の背反・e03880)はヘルヴォールの方を向いたまま念を押した。
 湾曲した刀身の刃は斬り付けた相手複雑な形状の傷口を刻み、傷の治りを悪くする。一撃で殺すことを目的とした武器ではない。戦いの中、徐々に相手を甚振りながら苦しめる効果を狙った、悪趣味極まりない刀剣だ。
「皆さん、気合入れて頑張りましょう」
 若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)がスイッチを押して、仲間達の背後で極彩色の爆発を巻き起こす。その勢いに乗って、ケルベロス達は一斉に、ヘルヴォールを取り巻くシャイターン達の群れに突撃して行く。
「まずは有象無象から片付ける必要がありそうですね。……行けますか?」
「しばらく前線から離れていましたが、戦い方は体に刻み込んである……問題なく戦えます!」
 ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)の問いに答えながら、イピナ・ウィンテール(剣と歌に希望を乗せて・e03513)もまたシャイターンを蹴り飛ばした。そこまで強い相手ではないが、放っておけば後の憂いになり兼ねない。
「ヘルヴォール……我が嘴と爪を以て……貴様を破断する!」
 大斧を振るい、近づくシャイターンを薙ぎ払いながら、その切っ先をヘルヴォールに向けてジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が高々と叫ぶ。だが、その声に合わせて飛び出したのは、果たしてジョルディ本人ではなく。
「随分と探したわよ、ヘルヴォール。……この日を、ずっと待っていたわ。さあ、終わらせましょう」
 両腕に鎖を巻き付けたシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)が、脇目も振らずにヘルヴォールへと向かって言ったのだ。
「あたしに恨みを持ってるやつかい? 昔の殺し合いなんて、いちいち覚えていられねぇな」
 だが、そんなシフカの一太刀を、ヘルヴォールは軽々と剣を交差させていなしてみせた。おまえは、今まで自分が食料にしてきた家畜の数を覚えているのか。そう言いたげな視線を送り、強引に刃を振るってシフカのことを跳ね飛ばす。
「……っ! 覚えていない、ですって? 私の兄を死体まで利用した者が、よくも……!」
 それでも、怒りの力で強引に体勢を立て直すシフカだったが、しかしヘルヴォールの態度は変わらない。彼女からすれば、シフカに恨みを抱かれる理由もまた、地球侵攻における数多の戦いの一つに過ぎないものなのだろう。
 こいつだけは、必ず仕留める。己の人生さえも冒涜されたような気がして、シフカは刀の柄を強く握り締めると、再びヘルヴォールへと向かって行った。

●大乱戦
 混迷を極めるグランドロンの戦い。ヘルヴォールを守るシャイターン達と、総勢20名以上のケルベロス達が同時にぶつかれば、混戦になるのは自明の理。
「あっぶなっ。なにをするのだ! 危ないのだっ!」
 狙いさえ定められずに飛んで来た敵の攻撃が、灯音の前を掠めた。回復役であろうと、容赦なく狙われる戦場。後ろにいるからといって、安全が保証されるわけでもない。
「樒、褐色おっぱいに見惚れたら許さないのだっ」
 遠間から自分に向かって炎を放って来たシャイターンの姿に、灯音は御立腹のようだった。もっとも、彼女を不快にさせるような真似を、樒がするはずもないのだが。
「灯がいるのに、見惚れる必要は感じないな」
 それだけ言って、ナイフを構えて一直線に敵との距離を詰める。そのまま横薙ぎに斬り払えば、その一閃でシャイターンの女が悲鳴と共に散って行く。
「敵が多過ぎますね。できれば一気に……って、また現れました!?」
 竜砲弾で牽制するイピナだったが、その前に新たなシャイターンが姿を現した。思わず、敵の増援かと思ったが……どうやら、他の場所にいた文官的なシャイターンが、騒ぎに乗じて紛れこんで来ただけのようだ。
「邪魔だ! 大人しく狩られてろ!」
 万の呼び出した獣影が、瞬く間に文官のシャイターンを押し潰す。その間に、他の者達がヘルヴォールに殺到しようとするも、ヘルヴォールの強さは複数のケルベロスを相手にしてもなお、余りある。
「皆さん、集中です、集中」
 負傷の激しい者へのフォローはナノナノのらぶりんに任せ、めぐみは銀色の粒子を広げることで、味方の力を引き出そうとした。が、なにしろ、敵だけでなく味方もまた数の多い戦場だ。
 結果として、めぐみの放った光は拡散してしまい、軽傷の仲間達を適度に癒す程度に留まってしまった。これでは、味方を強化しながら戦うという戦法が使えない。唯一の幸いは、敵もまたこちらを狙って放った攻撃が拡散してしまうため、本来の殺傷力に比べて技の威力が劣ることだろうか。
「ハール王女の策謀、貴女ならある程度は読めていたのでしょう? レリ王女が進む道、貴女が真摯に説けば、変わったのではないですか!」
「うるせぇ!」
 自分に投げかけられた問いに答えることさえせず、ヘルヴォールは一蹴して刃を振るった。その攻撃に込められているのは、純粋な怒り。それは不甲斐なく散って行く配下のシャイターン達へ向けられたものか、それとも目の前のケルベロス達に向けられたものなのか。
「もはや、話す舌も持たないといった感じですね」
「元より、こちらの話に耳を貸すような相手でもないですよ」
 イピナの言葉に頷きつつ、ラインハルトが近くにいたシャイターンを殴り飛ばす。彼の言う通り、ヘルヴォールは地位はともかく性格としては、あまり防衛指揮官は向いていないようだ。
「退け! あたしの邪魔をするなぁ!!」
 怒りに我を失った今のヘルヴォールを、取り巻きのシャイターン達は止める術を持たない。荒れ狂うヘルヴォールの行動は、更に戦場をかき乱し、もはや末端の者達まで指揮に従わせるだけの余裕もない。
「怒りで我を見失っているのか? ……これは好機だな」
 狼狽するシャイターンを叩き伏せながら、ジョルディが言った。彼の言う通り、取り巻きが防御に専念できなくなった今こそが、ヘルヴォールを仕留めるチャンスでもある。
「ヘルヴォール……今こそ、借りを返してあげるわ」
 シフカの握った刃が、鈍く輝く。混迷を極める戦場に、終わりを告げる何かが近づいていた。

●復讐の鎖
 配下のシャイターン達を次々と倒され、追い詰められたヘルヴォール。そんな彼女が怒りに任せて繰り出す攻撃は、ケルベロス達の予想を超えて凄まじかった。
 三連斬などと名乗ってはいるが、実際はそれどころか、尋常でない数の斬撃が、驟雨の如くケルベロス達に降り注ぐ。が、他の仲間と協力しつつも、それらの攻撃をラインハルトが真正面から受け止めた。
「自分の命よりも仲間の身と勝利を優先する……瀕死になろうが構うものか!」
 それは、あまりに無謀な突出だった。複数人分の攻撃を纏めて自分で食い止めれば、いかに威力の散ったグラビティとて致命傷になり兼ねない。
「大丈夫ですか? 今癒しますね」
 癒しの力をもった菌糸を異世界より召還し、めぐみがすかさずフォローに回る。こんな場所で、誰一人として死なせてなるものか。その想いはめぐみだけでなく、この場で戦う者達全てが共通して抱く想いだ。
「貴様だけは逃がすわけには行かぬ……必ずやここで討つ!!」
 攻撃を凌ぎきった余韻も覚めやらぬまま、ジョルディは狙撃用のキャノン砲を展開した。超高速で放たれる銃弾とて、ヘルヴォールには避けることなど造作もない。
 もっとも、それはあくまでジョルディだけを相手にした際の話。彼の攻撃を皮切りに、残りの者達も一斉に攻撃を浴びせたことで、ヘルヴォールは回避に移る暇さえなく。
「今だっ! シフカ嬢!」
「ええ……因縁はここで断たせてもらうわ!」
 動きの止まったヘルヴォールの首に、シフカの放った鎖が絡み付く。力任せに引き千切ろうとするも、それよりも早く、シフカは渾身の力を込めて、ヘルヴォールの身体を振り回した。
「今すぐ此処で死に絶えろ……! 殺技肆式、『鎖拘・Ge劉ぎャ』!」
 それは、技というにはあまりに武骨で粗暴な行い。ただ、己の憎しみを込めて、相手を幾度も床へ叩き付ける。どれほどの巨体であろうと関係ない。全身の骨が砕け散り、筋肉と内臓が破壊されるまで、シフカの攻撃は終わらない。
「さあ、年貢の納め時よ、ヘルヴォール!」
 最後の一撃を叩き付けたところで、ヘルヴォールの巨体が力無く床に沈んだ。大の字に広がった彼女の身体には、もはや起き上がる力さえ残されていない。
「……レ、リ……」
 絞り出すような声で呟きつつ、ヘルヴォールの手から剣が落ちた。果たして、彼女は何を想い、何を考えてレリの下で戦ったのか。それは、誰にも分からない。
 落ちた剣を拾い上げ、シフカはしばしの間、その刀身に映る自分の顔を見つめていた。復讐は果たし、自分の因縁に終止符を打てたことは喜ばしいはずだが、しかし目の前に映る刃の中のシフカは、どこか複雑な表情のまま、何の言葉も発しなかった。

●導かれし者達
 死闘の果てに、ヘルヴォールを倒したケルベロス達。これで後は、他の敵の討伐に向かった者達が成功しているのを祈るのみ。
 そんな祈りに呼応して、グランドロンは次々とコギトエルゴスムへ姿を変えて行く。宝玉となった彼らはケルベロス達の周囲に集まり、連れて行って欲しいとばかりに、彼らの手に収まって行く。
「ちっ……! こんなことなら、袋の一つでも持って来ればよかったぜ」
 持ちきれない程の宝玉を手にした万が、未だ目の前で浮遊する宝玉を見て呟いた。その間にも城塞は宝玉へと変化して行き、ついに脱出のための足場だけ残して、その大半が宝玉化していた。
「待て! 貴様達、どこへ行……うわぁぁぁっ!!」
 途中、生き残りのシャイターンなどが襲い掛かって来ようものなら、床や壁の一部が抜けて彼らのことを排除する。ヘルヴォールが討たれ、第四王女レリが倒された今、もはやグランドロン達がエインヘリアル達に従う義理もない。
「足場は残っているみたいだが、それでも足元には気を付けないとな」
「大丈夫なのだ。こんなところで、落っこちたりしないのだ」
 樒に手を引かれながら撤退する灯音だったが、その間にも城塞はどんどん崩れ落ちて行く。これ以上は、本当に限界だ。
「これで、エインヘリアルとの戦いにも、変化があると良いのですが……」
「心配しなくても大丈夫でしょう。僕達は、第四王女を討った。その事実に代わりはないのですから」
 イピナの呟きに答えつつ、ラインハルトもまた崩れ行く城塞を後にして行く。そんな彼らの手には、宝玉と化したままのグランドロン達が、力強く輝いていた。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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