冬こそバーベキューだ!

作者:星野ユキヒロ


●バーベキューグリルの目覚め
 電動バーベキューグリル。
 キャンプでの調理といえば炭火か焚き火だが、外で料理するという雰囲気さえ楽しめれば満足である人も少なくない。そんなライトなアウトドア人のために、群馬県のそのキャンプ場では電動バーベキューグリルを何台も貸出していた。
 毎日複数の利用者が使うため、最初の頃に揃えたものは順番に壊れたりするものも出てきていて、そういうものは倉庫にしまわれ、数が増えたら廃棄されていた。
 そんな折、壊れたバーベキューグリルが廃棄を待ちながら眠る倉庫に忍び寄る禍々しい影がひとつ。カサカサと蜘蛛めいた動きで一つの故障グリルに入り込み、中枢部分に取り付いた!
『B・B・Q!!』
 バーベキューグリルは車輪つきの足を生やし、倉庫のドアをブチ破るとグラビティチェインを求めてキュルキュルと動き出した。

●バーベキューグリルダモクレス討伐作戦
 群馬県のキャンプ場でバーベキューグリルのダモクレスの事件が起こることをピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)は懸念していたという。
「ピジョンサン、見事に的中ネ。皆サンにはバーベキューグリルのダモクレスを倒しに行ってもらうヨ」
 クロード・ウォン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0291)が今回の事件の概要を話す。
「都会の喧騒から離れてアウトドアを楽しむための施設ネ。利用者がいなければ人がわざわざ入り込んだりはしないヨ。山の上にあるし、山自体の持ち主に頼んで立ち入り禁止にしてもらって、この日の利用者はキャンセルしてもらうアル。けどこのままじゃダモクレスが下山して人を襲い始めてしまうネ。ケルベロスの皆サンにはそうなる前に対処してもらいたいヨ」

●バーベキューグリルダモクレスのはなし
「このダモクレスは電動バーベキューグリルに車輪が付いたダモクレスヨ。熱線を温めて材料を焼く機械だから、その機構がバスターライフルの役目を果たしているネ。シンプルに高熱になる機械だし、危険さは容易に想像できると思うアル。気を引き締めて対応して欲しいヨ」
 クロードは手持ちのモバイルで山の航空写真を見せて戦闘区域を説明した。
「ここからここまで、警察に封鎖と避難をお願いしたアル。だから人払いは気にせず、純粋に戦闘頑張っチャイナ」

●クロードの所見
「山のオーナーは任務成功の知らせがきたらキャンプ場を開けるつもりでいるようだから、そうしたらキャンプ場を使ってもいいと言ってくれているヨ。しっかりキッチリ仕事を遂行したならご好意を受け取って遊んできてもいいんじゃないかとウォンサン思うネ」


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
ピジョン・ブラッド(銀糸の巫術士・e02542)
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)
八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)
カーラ・バハル(ガジェッティア・e52477)

■リプレイ

●キャンプ場へゴー
 ヘリオンから降りたダモクレス一行は現場のキャンプ場へ徒歩で向かっていた。
「キャンプ場にまでダモクレス……仲間たちとバーベキューを囲むのハ、幸せで楽しいこと。長ク、大切に使われてきた調理器具ならバ、なお……人を襲わせるわけにはいきまセン」
「確かに夏よりは暑くなくていいかもだけど、迷惑かけるようなダモクレスはいらないよね。しっかり倒してバーベキューやりたいなあ」
 エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)は冬の山の冷たい空気に青い髪を揺らしながら呟く。その呟きを拾うのはメリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)。彼女の細い腕に巻き付いた攻性植物のケルスは山の中で生き生きとしているように見える。
「野外でできる電動のバーベキューグリルっていうのがあるのか。進化してるなぁ。ダモッてしまったのは残念だが戦うしかないよね。どうやら誰もいないようだし、手早く片付けよう」
「焼ければ良いというのは確かにそうなのです! 盲点だったのです……! 着火剤とかで苦労しなくても良いのです! 後でおにくをいっぱい焼くために敵をやっつけるのです!」
「侮るなかれです! 近年はBBQ関連の資格もあるとのこと、奥深いものなのです」
 ピジョン・ブラッド(銀糸の巫術士・e02542)、八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)、そしてジェミ・ニア(星喰・e23256)は新しいスタイルのバーベキューに興味をそそられているようだ。
「……よもや人間を焼くグリルマシンになるだなんて機械自体も夢にも……む、バスターライフルという事は、寧ろ冷やす方が得意そうだな?」
「どんなやつだってしっかり倒して、戦い終わったらバーベキューだ!たっくさん食うぞォ!!」
「そろそろ見えてきたようだが」
 ダウンとアップで対照的な祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)とカーラ・バハル(ガジェッティア・e52477)を尻目に八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)が指差す先には広く明るいキャンプ場の入口があった。

●バトルバーベキュー開始
『B・B・Q!! B・B・Q!!』
 バーベキューグリルに車輪の付いたダモクレスは、ギュルギュルと車輪を鳴らしながらうろうろしていたが、ケルベロス達に気がつくと威嚇するように鳴いた。
「そんなにウロウロしていてはおにくが焼けないのです!」
 一番最初にキャンプ場に踏みいったあこが掌を獣化して重量のある一撃を見舞った。サーヴァントのベルが清浄の翼で後衛に耐性を行き渡らせる。
「それならわたしは前衛に、ケルス!」
 メリルディが攻性植物に合図を送ると黄金の果実が実り、前衛に耐性を付与した。
『B・B・Q!!』
 グリルの蓋が開き、赤く光るビームが先程先制攻撃したあこに向かって放たれる。
「させませんよ!」
 あこの前にディフェンダーのジェミが躍り出て、空の霊力を帯びた武器で斬り払い攻撃を相殺した。
「グッド、デス!」
 ジェミの行動を目の端に置いて、エトヴァは耐性のかかっていない中衛に向けて守護星座の加護を施す。
「火力には火力で! 早めに仕上げたいな!」
 カーラは高々と飛び上がり、戦斧を振り下ろした。
「……ヒュ!」
 続けて、鋭く息を吐いた紫々彦が電光石火の蹴りで敵を蹴り抜く。
「……此方を見ろ、そして縛られるほどの呪いを受けるといい」
 イミナの美貌の呪いがグリルダモクレスの動きを縛った。
「まずは動きを止める、自明だね」
 マギーの応援を受けて、ピジョンが流星の煌きと重力を載せた蹴りで足止めをはかる。まずは走り回る敵を一箇所にとどめることが出来た。戦いはまだ始まったばかりだ。

●広く使えるワイドグリル
「餮べてしまいます、よ?」
 ジェミの影から漆黒の矢が現れ、グリルダモクレスを貫き生命力を奪う。
「気が早いでスネ!」
 続けて飛び出したエトヴァが日本刀、濤切を抜刀し斬りかかった。
『B・B・Q~~~~!!!!!!』
 機動を奪われ連続で攻撃されていたグリルだもクレスはブルブルと震えると、ぐわっと大きく蓋を開いて巨大な魔力の奔流を前衛に向けて解き放つ!!
 ジェミ、エトヴァ、あこのサーヴァントのベルが前衛の切り込み三人の前に立ちはだかり攻撃を受けた。
「回復はお任せなのです~!」
 あこが得意のバイオレンスギにゃーで立ち止まらず戦い続ける者達の歌を奏で、傷を追った仲間を奮起させる! 治してもらったベルはお返しとばかりに引っかきに行くが、まだしびれていたのかよけられてしまった。
「まだ動くなら……ケルス!!」
 メリルディに呼ばれた攻性植物は蔓触手形態に変化し、敵をぎりぎりと締め付ける!
「ナイス! よけないんならこれで行くぜ!」
 攻性植物の捕縛を利用し、カーラが魂を喰らう降魔の一撃を放った。
「雪しまき、影は遠く音も失せ」
 紫々彦が放った吹雪がグリルダモクレスを包み、覆い、さらに捕縛を強いものにしていく。
「……ここが駆動しているか。……祟り留めてくれる……弔うように祟る。祟る。祟る祟る祟る祟る祟る祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟……封ジ、葬レ……!」
 凍りついた敵に取りすがったイミナが呪力を込めた杭を敵に激しく打ちこんだ!
「強火で行くよ!バーベキューだけに!」
 数週間店の仕事メインだったため、ややテンションの高いピジョンはイミナの激しさに当てられたのか少し高揚したように半透明の御業を放ち、炎をけしかける。マギーはちょっと引き気味に応援した。
 熱と冷気の応酬がキャンプ場を奔る戦いは最高潮を迎えつつあった。

●火の始末が肝要
 激しい攻防戦が続いた。ケルベロスとダモクレス、互いに満身創痍である。
「すべすべでぷにぷになのです!」
 あこが癒しの肉球を飛ばし、ベルも清浄の翼で仲間を癒す。回復役は大忙しだ。
「うー……じゃない。くー、りーーー!」
 メリルディは麻痺毒を詰め込んだ特製イガグリを敵頭上に召喚する。どすどすと降り注ぐイガグリの攻撃を受け、鬱陶しそうに焼き捨てるグリルダモクレスが、突然カッと光輝いた!
『B・B・Qーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!』
 大きく叫んだダモクレスの周りの空気が急速に冷えるのを感じるやいなや、違和感は凍結光線となってメリルディに降り注ぐ……!!!
「危ない!」
 前衛で守っていたジェミが中衛に飛び、凍結光線を受けて吹っ飛ぶ。叩きつけられた肌や髪が凍り、衝撃でパラパラと砕けた。
「ジェミ!! Das Zauberwort heisst――」
 エトヴァの投げかけた純度の高い一声が共振を起こし、ジェミの凍傷を癒していった。エトヴァとジェミを中心に一面の青空のヴィジョンが広がる……。
「この距離なら外さねーよ!」
 ビジョンの中をカーラが駆けていく。確実に当たるように接近してからの零距離射撃をダモクレスに叩き込み、大きく削った。
「なかなかの削りだ。ではこちらも割り削っていこう」
 紫々彦の手にするルーンアックス、玄帝が光り輝き、呪力とともに振り下ろされる。
「呪力は満ちた……もう少しで祟りきる……!」
 イミナは呪力のこもった紫々彦の玄帝の風圧を心地よさそうににたりと笑い受け、達人の一撃を放つ。あと少し……!!
「これが産業革命斬だ……!」
 叫びながら振りかぶったピジョンのグラビティを載せた一撃が、グリルダモクレスに叩きつけられ……!!
『B・B・Qーーーーーーーーーー!!!!』
 断末魔の叫びとともに、グリルダモクレスは爆発四散した!!!

●打ち上げバーベキューだ!
「服が破れてる人はいない? クリーニングできれいにするよぉ」
「ジェミの服ガ……!」
「ああ、ありがとうございます。広いキャンプ場で助かりましたよね、人目もないし」
 メリルディは戦いが済んで汚れ破れた仲間の身なりを整える。熱と冷気、爆発などで荒れた足場をみんなで協力して片付けてから任務完了を電話で伝えると、キャンプ場の管理人さんが出勤してきてくれるというので準備をしつつケルベロスたちは待った。
 やがて電気が通り、お疲れ様バーベキュー大会が幕を開ける……!
 ケルベロス達の前にダモクレスになってしまったバーベキューグリルの後輩機たちがずらりと並び、食材が焼かれるのを今か今かと待ちわびているようだった。
「どんどん焼いていくよ。なるほど、外で料理もオツなものだなあ」
 料理用の手袋に付け替えたピジョンが待ち時間に下ごしらえしておいたチーズ入りピーマンの肉詰めをはじめいろいろな食材を焼き始めると、だんだんといい匂いが漂い始める。
「う~ん良い匂いが……お野菜は玉ねぎが好きです。魚介も焼いていいですか? 魔法瓶に熱々の卵スープを作ってきたのでよかったらみなさんどうぞ」
「キャベツ、キャベツ焼きまショウ。お肉はもちろん、海の幸も良いですネ……イカに、エビも焼いてみまショウカ。皆様の好物ハ、何でショウ? どんどん焼きマス。ジェミの焼いた玉ねぎ、甘くて美味しいデスネ。……おかわりくだサイ。あっ、イカが丸まって……ジェミ、ほら」
 気配りをしながら隅っこの方でホタテを焼くジェミ。エトヴァも魚介を分け合い笑いあった。
「はふはふ……お肉おいしいのです……野菜も、合間合間に……がつ、がつ、ベル、玉ねぎはダメなのです……」
「……肉の怨嗟の声を聴きながら焼いて食べる肉は祟りたいほど美味……滴る血! バーベキューソース!! せっかくなのだ、BBQを堪能しよう」
「俺は好き嫌いをしない男!でも肉系を多く食べる男!!」
 あこ、イミナ、カーラは三者三様の肉への情熱を見せる。戦いのあとの空腹に焼きたての肉は染み入るほどの美味!!
「みんながお肉お野菜を準備してくれると思ってたからわたしはスイーツを持ってきたんだ。焼きマシュマロは定番だよね」
 メリルディがマシュマロやりんごなど甘いものを広げ、比較的綺麗なところの網で焼いていくと、じゅうじゅうとろとろと肉とはまた違った香ばしい香りでケルベロス達を魅了していく……。
「ちょっと寒いけど、焼きリンゴにバニラアイスを乗せると美味しいよ、はい!」
「……!!???」
 少し離れてマイペースに食事をしていた紫々彦の前に突如アメリカサイズのリンゴとアイスが置かれ、少し目を見開いた紫々彦の反応にみんなは朗らかに笑った。
 もくもくと立ち上る美味しい煙が、暮れ始めた空に登る。それはきっとダモクレスになってしまったバーベキューグリルがかつて何度も見てきた風景に違いなかった。

作者:星野ユキヒロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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