聖夜のグランドロン救出戦~長城潜入作戦

作者:白石小梅

●グランドロンの救出
 作戦室の中で、望月・小夜が資料映像を映し出す。
「ブリーフィングを始めます。先に行われた宇宙のグランドロン決戦の結果、私たちは妖精8種族『グランドロン』のコギトエルゴスムを確保いたしました」
 彼らは未だコギトエルゴスムのままながら、こちらの説得を受け入れた。すなわち。
「これは人類文明への参加表明です。我らは同胞を決して見捨てない。残るグランドロンを、救出しなければなりません」
 居並んだ面々の目にも、決意が宿っている。
「ですが、この情報はすでに大阪の連合勢力に知られています。宇宙から帰還したジュモー・エレクトリシアンとレプリゼンタ・ロキによって」
 事態を重く見た大阪ユグドラシル勢力は、グランドロンの裏切りを警戒してその形態を変化させた。作戦中に説得されて寝返る危険があるのでは、これまで通りの運用は不可能と考えたのだろう。当然ではある。
「今まである程度は自律的に行動が可能であったグランドロンたちを、エインヘリアル王族の威光によって完全支配したのです。大阪の連合勢力が確保していた4隻のグランドロンは全て繋ぎ合わされ、大阪城を取り囲む長城型の城塞へ変化させられました。強大な城壁として運用し、拠点防御のみに特化運用するつもりでしょう」
 グランドロンの長城を支配しているのは『第四王女レリ』。グランドロンたちは完全に意志を封じられ、説得が届く事はないという。
 それはこちらにとって、同胞を人質として並べられた肉の壁に等しい。
 一部の番犬たちも渋面を作るが、その状況で呼び出されたということは……。
「ええ。彼らを救出するチャンスは、まだあります。エインヘリアル王族の威光で強引に支配しているのならば、その原因を取り除けば良いのです」
 すなわち狙うべきはグランドロン長城の城主……第四王女レリ、その人だ。
「大阪城を囲むグランドロンの長城は、第四王女レリ率いる『白百合騎士団』と、三連斬のヘルヴォール率いる『連斬部隊』、更にユグドラシル戦力が合同で防衛しております」
 その守りは堅い。正面から挑めば、跳ね返されるのが関の山。しかし。
「今回の作戦では、こちらが確保したグランドロンたちが助けになってくれます。グランドロンのコギトエルゴスムの助けがあれば、堅固な城壁に人が通れる程度の抜け穴を作る事ができるのです。更に潜入時の敵指揮官の居場所は、すでに予知しております」
 抜け穴を利用して潜入し、居場所が判明している敵の各指揮官を強襲。第四王女レリを撃破できれば。
「グランドロンは皆さんの説得をきっと受け入れてくれます。妖精8種族・グランドロンを新たな同胞として迎え入れる事が出来るでしょう」
 小夜の言葉に、番犬たちも力強く頷いた。

●長城潜入作戦
「改めて確認します。今回の作戦は『グランドロンのコギトエルゴスムを持ち、隠密行動で大阪城に接近。グランドロンの長城に抜け道を作って内部へ潜入し、城主・第四王女レリを撃破。グランドロンのコギトエルゴスムを救出する』……というものとなります」
 最優先目標は、エインヘリアル『第四王女レリ』だ。
「彼女がグランドロンを強制制御する、長城の城主です。曲がりなりにも魔導神殿群ヴァルハラの一つを率いることを誇りに思い、その性格上まず撤退しないでしょう。誇りを失わせるほど心を折れば別かもしれませんが」
 融通の利かない彼女だけなら策に嵌めるのは容易い。
 だが、それぞれ長城防衛を担う厄介な敵戦力が他にもいるという。
「まず、白百合騎士団の幹部が三体います。レリの親衛隊長『絶影のラリグラス』は強襲があれば親衛隊を統率し、レリの救援に向かうでしょう」
 更に、新たに抜擢された幹部格『閃断のカメリア』と『墜星のリンネア』の二体。
「カメリアは城内警備部隊の長で、速やかに撃破しなければ警備部隊が侵入者の排除に動き出します。リンネアは外部哨戒部隊の長であり、緊急事態を察知すれば外敵への警戒部隊を再編成し城内侵入者の撃破に向かわせます」
 そしてもう一人『紫の四片』なる螺旋忍軍がいるという。
「レリ配下の螺旋忍軍ですが、第二王女ハールの命でレリの監視もしているようです。緊急時にはハールへ連絡を行うため、即座に援軍を派遣されてしまいます」
 白百合騎士団からは以上。だが、更にシャイターンで構成された連斬部隊の面々がいる。
「まず、長城副城主『三連斬のヘルヴォール』。レリの役割はグランドロンの制御である為、実際に城主として指揮を執っているやり手のナンバー2です。撃破しなければ城内の混乱を素早く制圧し、こちらを駆逐すべく動き出すでしょう」
 そして、連斬部隊にはその幹部がいる。
「連斬部隊員の『ヘルガ』『フレード』『オッドル』という三体の士官が、ヘルヴォールを慕って補佐についています。襲撃があれば、配下と共にヘルヴォールの元に駆けつけるでしょう。彼女らも撃破、もしくは阻止が必要です」
 これで目標は9体。そして、最後に一人。
「連斬部隊に『ヒルドル』という隊員がいます。彼女は有力士官ではないのですが、間の悪いことに襲撃時に大阪城へ移動しようとしているのです。作戦が大阪城に伝われば当然、援軍を寄越されてしまいます。運の悪い女ですが、始末しなければなりませんね」
 以上10名が、作戦を成功させるために、手を打たねばならぬ敵たちだ。

 加えて小夜は、潜入時の注意点を挙げる。
「今回は救出したグランドロンのコギトエルゴスムの影響なのか、長城内の敵の様子を詳細に予知できました。更に最適な抜け道を用意できる為、敵に遭遇する事無く、目標を急襲する事が可能です」
 だが潜入作戦である以上、彼我の総戦力の差は圧倒的だ。有力敵の暗殺に失敗し、敵が態勢を整えてしまえば作戦遂行は不可能。即時撤退を行う必要がある。
「動員可能な戦力はこの班を含め15班。この戦力で、10体の有力敵に対応しなければなりません。隠密で大阪城に近づく方法、抜け道を使った潜入時の行動、各班がどの敵を狙うかの選択、敵との戦闘方法、万一の援軍などへの対処方法、作戦に失敗した場合の撤退手段……様々な状況を想定し、行動を考えてください」
 作戦をどう展開するかは番犬たちに委ねられる、というわけだ。

 ブリーフィングを終え、小夜は頷いて一同を見回した。
「第四王女レリは長らく因縁のある相手……相手にとって不足はありません。ここで決着をつけ、グランドロンたちの救出を人類文明へのクリスマスプレゼントとして持ち帰ってくださることを期待しています」
 では、出撃準備をお願いいたします。
 小夜はそう伝え、頭を下げるのだった。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
城間星・橙乃(歳寒幽香・e16302)
霧崎・天音(星の導きを・e18738)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
四十川・藤尾(七絹祷・e61672)

■リプレイ


 蔓に呑み込まれた大阪城の輪郭を睨み、番犬たちは大地を踏む。城間星・橙乃(歳寒幽香・e16302)が、後ろでヘリオンが切り返していくのを見やって。
「十五機も拠点近くを飛んだら目立つものね。後はただ走るのみだわ。行きましょう」
 そう。ここは、日本第二の都市に穿たれた、巨大な空白地帯。
(「随分長く闘って来たわ……それでも、終わりが見えてきた。希望はある。ここも、きっと……」)
 地下鉄の廃墟を駆け抜けながら、リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)は息を吐く。敵の支配から解放され人々の賑わいが戻った地もまた、無数にあるのだ、と。
 メンテナンスホールから地上を伺い、予測していたマップに地形や哨兵の配置を打ち込みながら、廃墟の壁から壁へ、静と動を繰り返す。
 敵の哨戒を掻い潜った、先にあるのは……。
「すげえ……コイツは特別、壊しにくそうだぜ。解析しても、弱点なんか全然、思い浮かばねえ」
 尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)が見上げたのは、一種族の特殊能力を全て注ぎ込んだ長城の外壁。部分的に警戒が薄いのも当然だ。この壁を破るなど、何者にも不可能だ。
 だが。
「寄り集まり肥え太った獅子とはいえ、正面からは手に余る。滅ぼすならば」
 四十川・藤尾(七絹祷・e61672)は、城壁を指でなぞった。針のように肌を突き刺す緊張の中、取り出すものは煌く宝玉。
 その途端、壁面はまるで継ぎ目から折りたたまれるようにぽっかりと口を開く。
「……腹の中から」
 頷いた藤尾に、霧崎・天音(星の導きを・e18738)が突入のハンドサインを送る。仲間を先行させつつ、彼女はその手に光る宝玉を、きゅっと握る。
「ありがとう……私達が成すべきことは、新しい友達に出会うこと……! 必ず、解放するから」
 滑り込むように中に入れば、それは一人が通り抜けるのがやっとの大きさのメンテナンス通路だった。少なくともエインヘリアルが入ることは、まず不可能だ。
 隠密するに完璧な場所へと導かれたことを見て取り、メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)の口の端に皮肉が浮かぶ。
「意志を封じたりなどするからだ。そも、種族として尊重する心があればこんな事態にはならなかったろうにね」
 音を立てぬように梯子を上り、通気口を潜り、番犬たちは城塞の奥へ浸透していく。
 やがて、小柄を活かして先頭を行く伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)が、ぱっと手を上げた。
(「目標、はっけん」)
 足元の金網から漏れる明かりを覗き込めば、そこでは城内の立体映像が映し出され、コンソールらしきものを弄っているシャイターンがいた。
『全箇所チェック終了。耐久に異常ありません』
『出力は正常。動作に問題なし。安定しています』
『警備シフトの交代は、少し手間取りました』
 映し出されるデータを確認しながら、三人の部下が報告を行っている。
『よし。お前はヘルヴォール様に定期連絡し、シフトを交代しろ。このままぶっ通しで状況を安定させる』
 その中心で指示を出す、碧鎧の女。あれが連斬部隊員フレードだろう。その指示に従い、一人の部下が部屋を出ていく。
「んう……サーバーの稼働テストみたいなことくりかえしてる……」
「部下は残り二人。急ごしラえの城塞機能を安定させルため、不眠不休といっタところか……」
 キリノを下がらせ、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)が敵情を分析する。
 実働警備は主に白百合騎士団が担当し、連斬部隊は城内の管理や事務を担っているのだろう。
「この様子だと周辺にも数人は部下がうろついているわよね」
「ああ。闘い始めたら流石に何人か、驚いてここに来るんじゃねーかな」
 狭い中で橙乃と広喜が周辺に耳を澄ます。
「敵は倒してもまた……増える……そう見るべき……だね」
「でもフレードを除けば質は低いわ。きっと兵站管理要員なのよ」
「恐らく、この区画はほぼ全員がそうだろウな。管理区画なのダろう」
 番犬たちは狭い通気口の中で視線を交わす。
「いそいで部下を、やっつけてー……上司もたおしてー……すぐ帰る。でいい?」
「ああ……仲間たちを待たせるわけにもいかない。仕掛けるとしようか」
「忍び潜む楽しさは、まるで恋のようでしたわね。では……」
 そして藤尾の指が、竜砲の引き金を押し込んだ。


 爆音が轟き、立体映像に指を這わせていたシャイターンが一人、弾け飛ぶように吹き飛んだ。
『な……!?』
 口を開け、動きを止めた敵兵たち。だが、将官の反応は流石に速かった。もう一人の部下に向けて橙乃が放った雷撃に割り込み、その盾で弾き飛ばして見せる。
『増援を呼べ!』
「部下を庇った……それにあの堅さ。やはり、護り手ね」
 敵兵は慌てて放送機材らしきものへ飛び付こうとする。だが奇跡を希う歌がすでに、部屋に満ちていた。歌は室内を反響し、室内の管理機能を粉砕してシャイターン達を壁面に叩きつける。
「強襲しといて、それを許しちゃ間抜けすぎだわ。同胞の救出の足を引っ張るのはもうごめんよ……!」
 そう語るのは、リリー。部屋機能を破砕され、警報が響き始める。だが、この混乱の出所を掴むまでの時は稼いだはずだ。
 キリノのポルターガイストを弾き、緑鎧の女が扉へ走る。しかし、その眼前にはすでに、大柄な影が割り込んでいた。
「どこに行く気ダ……? 貴様の相手はワタシ達だ。付き合ってもらウぞ、シャイターン」
 ワタシの贖罪に……という言葉を呑み込み、眸は稲妻を放つプリズムで緑の盾と競り合う。
『狗ども、だと……!』
 外敵の襲撃より内部の裏切りと思ったのか、敵将の目には驚愕があった。
「えぇ。わたくし達は貴女達を屠る為に放たれた死の猟犬。刺客に相違ありません。そう……例えば貴方、ね」
 藤尾が相手を指した瞬間、その呪いに縛られた敵兵が喉を詰まらせたように悶える。
 フレードは舌を打ちつつも、闘う覚悟を決めたらしい。部下へのとどめと、メイザースが描きあげた竜の幻影の前に跳び込むと、咆哮と共にそれと激突した。
『フ、フレード様!』
『援護しろ! 恐らくヘルヴォール様らの所にも手が回っている!』
 その予測に、部下たちは息を呑む。更に身を呈する指揮官の姿に勇気づけられ、こぞって指先から癒しの蛇を解き放つ。
「部下は癒し手が多めかな。厄介だが……こちらもグランドロンに支配からの解放というプレゼントを贈らねばならないのでね」
 サンタとして、頑張らせてもらうよ。と、紳士は不敵に微笑んで見せる。
 何故ケルベロスが城塞へと侵入出来たのかを察し、部下の一人が天音の腰に煌く宝玉を睨んだ。
『裏切り者が! それを寄越せ!』
「嫌だ……友だちになれるかもしれないのに、この手が届かないなんて。絶対に……!」
 飛び付いてくる敵兵目掛けて、天音の影から一人の男の幻影が現れる。天地氷炎、二人が織り成す対消滅のニ球が、舞い踊って。
「この束縛を、砕く……!」
 それは敵の胸倉を貫き、息を詰まらせるシャイターンを弾き飛ばした。と、その時。
『フレード様? 何の騒ぎで……』
 部屋の扉が外から開き、書類を抱えたシャイターンの女が顔を出した。そのすぐ隣に天音に撃ち抜かれた女が激突し、目を剥いたまま溶けて消えていく。
『っ……!?』
 驚いた女に、無数の小熱弾が襲い掛かる。爆発は廊下まで及び、女はそれに巻き込まれる形で、部屋へ転がり込んだ。
「この辺のてした、は、武器ももってない……基地のかんりにん、だしね。すぐに、終わらせる、よ」
 熱弾の主は、勇名。その観測の通り、敵はフレードを除いて武装もしていない。恐らく使えるのも、種族共通の魔術のみ。読みの通り、敵のほとんどは基地機能のメンテナンス要員ばかりで、フレードは守備特化のようだ。だが。
『騒ぎ立てろ! 味方が来れば我らの勝ちだ!』
 そう。フレードが叫んだように、断続的にここに来る敵増援は、途切れることはない。そして時が掛かるほど、騒ぎに気付く敵は増える。
 潜入強襲……それは時間との闘いなのだ。


 闘いが始まって、数分。
『失礼します! 至る所で、何か……っ!』
 異変に気付いて飛び込んで来た敵兵が、思わず硬直する。目の前で展開するのは、リリーの歌声の援護の中、シャイターンの放つ煉獄の火焔と、天音の地獄の業火が激突する光景。
「みんな、もう部下に構う暇は、ないよ。私はもう……誰も失いたくないから……絶対に、誰も……!」
 その身に宿るオウガメタルから伝わる、激情。天音の地獄は煉獄を押し破り、敵兵を丸ごと呑み込む。生命を喰われていく悲鳴と共に、女は蝋燭の様に溶けてなくなっていく。
『こ、これは?!』
 その時、冷風と水仙の香りが、飛び込んで来た敵を巻き込んだ。
「ええ。敵将ごと狙うわ。冬の訪れよ、鳴り響いて。冷壁となって立ち上り、敵を包み込んで」
 それは橙乃の歳寒天声。その術中で、花びらは刃となり竜巻と化す。
 響く雷鳴の、その中から。
『怯むな!』
 フレードが盾を振りかざして、飛び出した。短刀が煌いた瞬間、キリノがそこに割って入る。刃が突き立ち、その姿が砕け散ると同時に、敵将の傷は癒えていく。そしてすぐさま、影の槍を展開するメイザースと打ち合って。
「あの惨殺ナイフ、厄介だぜ……」
 僅かに眉を歪めるのは、広喜。
『押し返し、あの方をお救いするのだッ!』
 その決意が、部下たちを奮起させる。室内には対抗するように幻惑の砂嵐が舞い、癒しの蛇が飛ぶ。
「自身は防御とドレインでひたすら時間ヲ稼ぎ、部下には攪乱と回復を任せル、か。的確な状況判断ダ。だが」
「そいつを跳ね除けるのが、今の俺たちの役目だ、だろ? ああ。行かせてもらうぜ」
 眸の頷きと共に、二人の男の咆哮が室内を揺らす。大地を打つが如く迸った気迫は、敵勢の奮起を上回り、幻惑を引き裂いた。
「成程。ヘルヴォールさんのお役に立ちたい、と? ならばこの程度の火の粉は掃ってしまわなければ……ねぇ?」
 その気炎を宿した藤尾の言葉は、闘いの恍惚に酔った女の戯言だったかもしれない。だが、追い詰められつつあった敵将は、その誘いに目を見開いた。
『舐める、なァアッ!』
 怒りに満ちた女の短剣が、藤尾の肩口を刺し貫く。その瞬間。
「捉えましたわ」
 額の角が、伸びあがった。渾身の刺突が、火花を散らして交差する。腿を射貫かれつつも、フレードは着地する。
『この程度……!』
「しゅーっと、飛んでけー」
 だが敵将は、しかしその足元すれすれに舞い跳ぶ刃に気付いた。跳躍の際、腿の傷に痛みが走る一瞬を突いた、白刃に。
『がっ……!』
 敵将の片足が地に転がり、勇名は戻る刃を受け止める。
 だがその時、敵将と勇名は、同時に部屋向こうから聞こえた騒ぎに振り返った。激戦の最中、ここまで届く足音に。
「……みんな。いそがないと。てきの……えんぐん、だよ」
 混乱の中、指示を仰ぐべくこの区画の責任者の元へ、敵が殺到しつつあるのだ。
 よろめきながら身を起こす敵将に、天音が突進する。とどめのパイルバンカーを振りかざした、その時。
『私を守れッ!』
『へっ?』
 フレードは前衛に出ていた部下の足首を掴み、その刺突へ向けて突き飛ばした。
(「庇わせた……! 強引に!」)
 悲鳴を上げて貫かれた部下を尻目に、フレードはタールの翼を舞わせて跳ね飛ぶ。
 ……扉へ向けて。
「部下を盾に逃げる気かね……! 其は山を斬り裂く槍、誇り高き女王騎士の加護をここに」
 瞬間的に、メイザースが紋章を描き出していく。だが敵の跳躍に追いつくには、紋章魔法の発動速度は僅かに遅い。更に、最後に残った部下が放った砂嵐が、他の仲間を阻む。
『あの方の、下へッ!』
 敵将が扉へ手を伸ばす、その一瞬。
「させない、わよっ!」
 眸と広喜に守られて、螺旋の舞いが砂の嵐を突き破る。
 リリーの放つ抜き胴の如き一閃と、敵将の盾が馳せ合った。リリーがもつれて転び、敵がその脇を抜ける……その、瞬間。
(「信頼する仲間たちの為だもの……なってやるわよ! 盾にでも、剣にでも……囮にでもね!」)
 弾けるのは、稲妻。蛇の如く、フレードの身を縛り上げる。
『なッ……にィイ!』
「残念。これも全て、仲間を道具としか見ていなかった結果、ということかな。さて……終わりにしようか」
 にやりと笑ったメイザース。ビリヤードの如く槍を構えた先は、むき出しの女の背。
『っ……!』
「貫き、穿て!」
 放たれた女王騎士の風槍が、悲鳴を上げる女を貫いた。暴風は一瞬でその身を紅霧へ変え、壁面をぶち抜く。その衝撃は廊下を突き崩し、向こうから来ていた敵群の上に瓦礫を降らせて、止まる。
 振り返れば、最後に残った敵兵も、藤尾と勇名に畳み掛けられて、その姿を消失させていくところだった。
 ……闘いは、終わったのだ。


 強襲は、成功した。
 狂乱した蜂の巣のような城内で、番犬たちはダクトへ逃れて帰路を走る。
『侵入者だ!』
『炙り出せ!』
 叫び声と共に床を爆炎が貫き、橙乃が穴を跳び越える。その手を、眸が引っ張って。
「っ……第四王女に向かった班は、まだ成功していないのかしら」
「第四王女の方が部下の数も質も高く、本人も強大だろウからな」
「助けに行きてーけどよ。これじゃ、一歩でも止まったら取り囲まれちまうぜ」
 広喜が後方からめったやたらに撃たれる炎弾を弾きながら、仲間たちを急かす。
「任務成功後に、こんな状況に陥るって珍し……待って! 前方からも敵よ!」
 苦笑いを浮かべて走っていたリリーが、はたと立ち止まる。
『あそこだ!』
『挟み込むぞ!』
「むう……たたかって、ごういんに、切り抜ける……し、か……?」
 勇名が身構えたその時。低い音と共に城全体が光り輝き、前を塞いだ敵の足場がふっと消えた。咄嗟のことで飛翔することも出来ないまま、敵は穴に滑り落ちる。後方も同じように、番犬たちの足場だけを残したまま、床が消えていく。
「床が……いや、長城全体が……これっ、て。そっか……助けてくれてるんだね」
 天音が手を広げると、天井が輝いて宝玉に変わり、その手元へと落ちて来る。
「あら。寄ってきてくれるなんて助かりますわ。持てるだけ持たなくては」
 藤尾が次々と落ちて来る宝玉を受け止めながら、飴細工が溶けるように消失していく外壁を見る。その向こうには、すでに外が見え始めていた。
「ご親切にどうも。では遠慮なく、帰路で第四王女のご冥福でも、祈るとしよう」
 メイザースを先頭に、番犬たちは開いた穴から城外へと身を躍らせる。
 その背後に、流星群のように寄り集まる宝玉たちを引き連れて……。

 ……この日、白百合騎士団と連斬部隊の首脳は壊滅し、長城は消失する。
 その混乱の中、番犬たちは大阪の街へと脱出した。宝玉を一つ残さず、抱え込んで。
 この綺羅星の如き輝きが、地球の新たな仲間、そして新たな希望となる日は……。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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