ノーソーメン・ノーライフ

作者:久澄零太

「クリスマス……だと?」
 ケーキの予約販売の冊子を手に、鳥さんは目を見開く。
「何が聖夜だオラァ!!」
 スパァン! 冊子を叩き付けた今回の鳥さんはクリスマス爆殺明王だと思ったあなた、鳥耐性が足りませんね。まずは醤油唐揚げでフライドチキンレベルまで鍛えて出直してください。
「つーか年末年始に贅沢し過ぎなんだよぉ!!」
 叫んだ鳥さんは南瓜をシューッ! シュレッダーにゴールッ!!
「冬至の南瓜にクリスマスのケーキに正月にはおせちでそれが過ぎたら七草粥? お前らどんだけ喰う気なんだ!? 素麺さえあれば生きていけるだろ!?」
 スライスパンプキンが量産される傍ら、鳥さんは桐箱に入った素麺を取り出し。
「むしろ年末年始は素麺の出番では? 温かくも冷たくもできてお歳暮にも最適、お腹にも懐にも優しい……まさにパーフェクツッ!!」
 素麺を大量に並べる鳥オバケはソーメンウォールを背に信者へ翼を広げる。
「行くぞ同志達! 今年から来年にかけてのトレンドは素麺なのだ!!」
『イェス歳の瀬! ゴー素麺!!』

「皆大変だよ!」
 大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)はコロコロと地図を広げて、とある廃倉庫を示す。
「ここに素麺があれば人類は生きていけるってビルシャナが現れて、信者を増やそうとするの! このままじゃクリスマスのケーキが……っ!」
「仕事に私情を持ちこむのはどうかと思いますよ?」
 じとーっとした目をするシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)だが、ユキから半眼が返る。
「そういうヴェルランドさんはなんで南瓜を抱っこしてるの?」
「くだらん」
 野菜好きとスイーツ好きのジト目合戦を、ブリジット・レースライン(セントールの甲冑騎士・en0312)が鼻で笑い。
「飯など食えればいいだろう。戦士に必要なのは娯楽としての食事ではない、腹を満たす食料だけだ」
 駄目だこいつら、話にならねぇ……。
「あ、信者は時期やイベントにあった物を食べる良さを語ると目を覚ましてくれるよ! クリスマスのケーキとか。クリスマスのケーキとか!!」
 何故か二回言ったユキ。細かい事は気にしてはいけない。
「逆に、素麺を食べる時期を絞る意味を語っても効果的かもしれないよ。ビルシャナも贈り物としての素麺を教義の一部にしてるしね。あ、でもいつでも食べられるって強みになってるから、利用するときは気をつけて!」
 割とリスキーな分、下手に利用するよりは大人しく旬のものを食べる良さを語った方が無難でしょうね。
「美味しい物を守るためにも、絶対にやっつけてきてね!」
 どことなく、普段よりも真剣な眼差しの太陽騎士に呆れ顔をしながらも、鳥オバケを放置するわけにもいかないため、番犬達は装備を整えるのだった。


参加者
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
セレネテアル・アノン(綿毛のような柔らか拳士・e12642)
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)
水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)
ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)

■リプレイ


「つーか年末年始に贅沢し過ぎなん……」
「野菜を捨てるなぁぁ!!」
「ニューメンッ!?」
 開幕早々ヒデェな今回……教義を語るべく南瓜をスロウした鳥さんだったが、パンプキンがシュレッダーにインする前にシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)がトラップ&シュート。ビルシャナヘッドにゴールッ!!
「おっと失礼。でも本当に腹立たしかったんです」
 南瓜が側頭部に直撃して、頭上にヒヨコビルシャナかグルグルしてるピヨシャナに会釈して、信者に向き直るなり、乾燥素麺を手刀で真っ二つ。
「素麺だけで生きていけるか!」
 シフカさんは普段と打って変わって、荒ぶる白鳥のポーズ。相当お怒りですね、コレ。
「季節の野菜というのは、その季節だから美味しくいただけるという以外に、その季節を乗り切るための栄養を摂取できるものだったりするんです」
「素麺推しだなんて、大層面倒くさい教義ですね!」
「なにぃ?数分茹でるだけの簡単な教義だろうが!!」
 信者がブチ切れ、北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)は遠い目。
「ツッコミを入れてもらえないって辛いな、サム……」
 実は素麺と大層面倒をかけた駄洒落(なお、彼は会議室に呼ばれた際、入室と同時にこのギャグをかましたものの、誰にも気付いてもらえず一人切ない想いをしている)だったのだが、信者的には教義の否定を前にそれどころではない。ついでにシフカから氷柱みたいな視線を感じ、慌てて。
「時期に合った料理というのは、その季節に採れる食材をふんだんに使ったものが多いんです。つまり、栄養価も高くなにより美味しい!素麺だけでは、味も栄養も常に変わらないでしょう?つゆを変えようが茹でずに炒めようが素麺は素麺ですし。炭水化物オンリーでは必ず心身に限界が来ます!」
「馬鹿か貴様は?素麺を素麺だけで食うなど、ザル蕎麦に海苔をのせないようなもの。素麺の彩に野菜を飾るのは常し……」
 ドゴオッ!
「例えば南瓜は、保存方法が少ない時代の冬場まで保存ができる貴重な栄養源だったのです。冬至に南瓜を食べるのは、そういう背景があるんですよ」
 野菜を飾り呼ばわりした鳥さんの頭部を、シフカが南瓜で強打!鳥オバケは再びピヨシャナへ。
「そこで、どんな旬の食材にも合う万能食材があるんですよ……それはサーモン!今が旬の野菜と、同じ産地で採れた新鮮な生クリームとサーモンを使ってシチューを作ってきました。芯から温まりますよ、いかがです?」
「さあ、ここに南瓜のスープと南瓜の煮物、南瓜のパイを用意しました」
 ドンッと置かれる寸胴鍋に、ズラッと並ぶ南瓜料理。どう見ても作り過ぎなそれを前に信者が目を逸らし。
「我々は素麺でお腹いっぱ……モグゥ!?」
「素麺では到底味わえない野菜の旨味をしっかりと楽しむのです……」
「食べないのであれば……このサーモンの錆にする!」
 シフカが南瓜料理を信者の口に投げ込む投擲武器として扱い、計都が構えたのは塩漬けサーモン(鈍器・新巻鮭)。
「お野菜食べろ!」
「サーモンの時間です!!」
『ぎゃぁあああ!?』


「ビルシャナって何でこう極端なのでしょうか……」
 サーモンパンプキンタルトを前に慄く信者に同情する機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は鉄板を取り出し、コンセントを自分の砲塔のコネクタにグサッ。
「な、何をする気だ!?」
 信者の瞳を覗き込むは、虚無を映した真理のアイカメラ。
「肉です」
「肉!?」
 真理が取り出したのはスーパーの焼肉セットファミリーパック・クリスマス限定仕様。
「毎日食べるならやっぱりお肉の方が良いと思わないですか?お肉だって殆ど旬とか関係無いですし……素麺にはない、本能を刺激する香りがあるのです」
 ぶぉおお……プライド・ワンを支柱で浮かせて車輪に羽をつけ、扇風機にして焼ける肉の香りを送り込む真理。騎乗機から「肉の脂でボディが汚れるんだが?」ってライトを向けられつつ。
「食べ方だって一杯あるですし……お歳暮にはハム、ちょっと気をつける相手にはローストビーフとか、選択肢の幅も広いのですよ」
 ギフトの側面から攻めつつ、ホットプレートの上で肉が焼けていく。
「野生の生物だって素麺なんて食べてないですからね。つまり、素麺は生きるのに必須ではないのですよ」
 などと、豚バラを箸で持ち上げると手を添えて、信者に向ける。
「人類の叡智とも言える原始的料理、焼肉ですよ?食べないですか?」
「だ、誰が……」
 抗う信者だが、香ばしい香りに加えて、脂が跳ねる軽快な音色を前に、ゴクリ。
「ほら、お口開けるですよ」
 あーん、自身も口を開けて見せながら迫る真理に、信者が震える。肉を取るか、教義を取るか……。
「あ、これいいお肉」
 肉を取っちゃった!?
「え、ちょ、同志……素麺は?」
「教祖様……素麺のツルツルした喉越しだけじゃ物足りないんですよ……!」
 涙ながらに胸の内を語る信者を、そっとビルシャナが慰める……んだけど、鳥さんが真理を見て。
「さっきから何してるの?」
「……お肉を待ってるですが?」
 まぶたを下ろして、口を開けてじーっと待っていた真理だが、肉の代わりに空気を食み、頬を膨らませて唇を尖らせる。
「あーんしてもらったらあーんを返す!これ焼肉のマナーですよ!!」
 タシタシッ、テーブルを叩く真理の抗議に遠くを見ざるを得ないビルシャナ。
「自分で食えばええやん……」
「そんな事いってるからボッチ流し素麺とかする事になるですよ」
「ゴフッ!?」
 真理のせいで鳥さんがもも肉を抱えて闇を纏っている隙に。
「クリスマスのケーキとか年越し蕎麦とかその他諸々が……」
 水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)さんや、アワアワしてるとこ悪いんだけど、もうカメラ回ってますよ?
「えっ!……こほん」
 視線がアクロバティック遠泳してた和奏は咳払いを一つ。場を仕切り直した……と思ったら、幽霊みたいな半眼に。
「皆さんは冬至のカボチャの代わりが素麺でいいんですか……?」
 スッとでてくる素麺の煮物。
「ケーキもチキンもない、素麺だけのクリスマスで本当に満足ですか……?」
 ロースト素麺とホール素麺が並ぶ食卓を見せ乍ら。
「年越し蕎麦の代わりに素麺で年が越せるんですか……?」
 海老天の乗っかった素麺をゴトリ。
「お雑煮とおせち料理が全部素麺でも大丈夫なんですか……?」
 出汁を利かせた素麺と、重箱に収まった素麺を展開して、最後に放つトドメの一言が。
「おせちばかり食べてカレーが恋しくなったりしないんですか……?」
『それ素麺関係なくない!?』
「私は食べたいです……!」
 鳥オバケすら参戦する総ツッコミを前に、拳を握った和奏のクッタベ(くっ、食べたい!)。どうしてこうなった?
「え、欲望がダダ漏れ……?違います、食文化を破壊しようとするビルシャナを倒すためです」
 ただ食い意地が張ってるだけとちゃうん?
「ち、違いますよ!」
 もー!などと赤くなりながら両手を上下に振った和奏は、信者達のおいてけぼり臭を感じて咳払い(二回目)。
「いいですか、素麺だけだと脂が足りていないんです」
「え、女の子が脂摂って大丈夫なの?」
 素面(ソウメンちゃうで、シラフやで)で聞き返す信者に、和奏はドヤ顔で。
「甘いです、クリスマスのケーキより甘い!女の子にも脂は必要なんです。じゃないと、お肌を守る皮脂がなくなって、かっさかさに……!」
「そして美容健康に有用なのが野菜、お財布にも優しい最強の食材こそが、もやしなのです」
 キリッ。黒い丸縁の眼鏡をかけたクラシックメイド……ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)の一言に、信者がうわぁ……って顔をする。
「けちくさ」
「ケチとはなんですか、もやしって料理人という演出家次第で、どんな役も演じきれる名女優なんですよ」
 二百五十グラム入り三十八円(税別)の袋をバシバシ。
「スパイシーで危険な女から、何だか懐かしくて落ち着く母の味にもなれるんです。もちろん、脇役どころか主役になれるポテンシャル」
 モヤシは女性だったのか、とかその辺は一旦置いといて。
「例えば、もやしをさっと湯通しして、ポン酢やごまだれでいただけばもやししゃぶしゃぶですよ。めんつゆにつけていただけば、そうめんみたいにあっさりなのに、そうめんよりヘルシー」
「なんだと、やんのかコ……」
「お野菜食べろ!!」
「もぎゃぁああ!?」
 一瞬鳥さんがブチ切れかけたが、シフカにモヤシをキロ単位で詰め込まれて撃沈した。
「軽く茹でて胡麻油であえても美味しいですし、お好み焼きの具にすればボリュームアップもできる。かき揚げにしても美味しいんですよ」
 語り終えたベルローズは七百五十グラム入り九十八円(税別)の袋を掲げて。
「どうですか……この万能感。大豆もやしや緑豆もやし、アルファルファや蕎麦もやし、豆苗と種類も豊富ですから、食べ比べても楽しい」
 すすす、何故か和奏の耳元にすり寄るベルローズがこそり。
「それに、炭水化物と油よりダイエットにいいですよ」
「ふぐぅ!?いや確かにちょっとだけ……ちょーっとだけ……その、あれですけど……私はケーキやチキンやカレーが……ッ!」
 何で味方のメンタルにクリティカルしてるの……?


「冬コミの早割が……遠のいてゆく……許すまじ、ビルシャナ」
 我々とは違う意味でデスマーチに突入しているらしいモヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)……頑張って、超頑張って。
「素麺は確かに美味しいかもしれマセンが……」
 サッと茹でてすぐ食べられる効率性を想いながらも、モヱが思い描いたのは『戦利品』を楽しむ時間の方だったらしく。
「寒い季節のほかほかの出汁系スープに合わせるのは、やはりほかほかのお餅デス。つまり……雑煮!」
 無表情なはずの彼女に効果線が入った気がする。多分炬燵に入って雑煮を食べながら本を開く瞬間、という文化の記録めいた何かでも読んで、衝撃を受けてから来たんだろうな……。
「地域によって具材等の形式のバリエーションが豊富なのもまた風流デス。このもちもちと柔らかさ、素麺には真似出来マセン」
 などと言いつつ、メモをペラペラ。
「それに……鏡開きをしてお餅を食べないなど、仏作って魂入れずも同然デス。それとも三宝に裏白を敷いて素麺を乗せて橙を飾って、鏡素麺とでも……?有り得マセン、橙がなかなか上手に乗りマセン、出直してクダサイ」
「……お前、まさか台本でも用意してるのか?」
 ずっとメモを片手に喋ってるモヱに、鳥さんが半眼を向けるが。
「チキン氏のせいで時間が足りないから、仕事道具を持ったまま来てしまっただけデス」
「チキン……!」
「こっちを見るな!?」
 和奏がジッと鳥さんを見るからビルシャナがビクッ!?和奏を警戒しながらモヱのメモを覗き込むと、びっしりと正月文化についてまとめられており。
「ナァニコレェ」
「今回はお正月をネタにして新刊を描いているのデス。もし奇跡的に生き残ったらここで売っております故、是非いらしてクダサイ」
 カタカナと数字が並んだ地図を渡され、眉間にしわを寄せる鳥さん。そこは戦場やで……。
「じゃあワタシはネームを切りますので、後はよろしくお願いシマス」
「ここで描くの!?」
「時間が……ないのデス……!」
「素麺料理良いですね~!私も好きなんですよ~!ほら~!」
『どう見ても苺ショート!?』
 蜜柑箱に紙とペンとインクを広げるモヱから引き継いで、セレネテアル・アノン(綿毛のような柔らか拳士・e12642)がケーキをもぐもぐ。信者のツッコミが飛ぶが、当のセレネテアルはケーキをぱくり、きょとん。
「え~?ちゃんとした素麺料理ですよ~?ほらっ」
「苺の天辺に素麺が刺さってる!?」
 何という事をしでかしたのでしょう。赤き三角錐の頂点には、純白の柱が突き立っていました。
「これがダメと言うなら皆さんはアレンジなしの素麺だけ食べてて下さいね~?だってアレンジOKだと、紅白かまぼこ入り素麺とか七草素麺みたいに、贅沢料理や時期物料理だってできちゃうじゃないですか~?何処までがOKという明確な線引きはないのです~!ケーキうまっ」
『料理を舐めるなぁ!!』
 これには信者も鳥オコ。
「素麺をオマケみたいに使いやがって!お前のそれはもはや素麺への侮辱だ!ケーキへの冒涜だ!!食い物をなんだと思ってやがる!?」
 掴みかかろうとした信者の腕をするりと掻い潜り、ケーキを頬張るセレネテアルが、むしろブチ切れられた事に半眼をじー。
「皆さんこそ何か勘違いしてませんか~?ケーキは素麺と違って、デザートです~!素麺では味わえない甘さや食感……」
 パクッ、話し中に食うんじゃねぇよ。
「ん~♪美味しくて幸せですっ!もしこれがクリスマスなどのイベントケーキであれば、もっと特別な美味しさが待っているに違いないです~♪」
 ……待って説得は!?
「あ、ケーキが美味しくて忘れてました~」
 この子大丈夫かしら……。
「とにかく、素麺とケーキはそもそもジャンルが別物なんですよ~。食事はお腹を満たす為に必要なものですが、デザートは心を満たす為だったり~多くは食べられないお子さんに、足りない栄養素を補填する為のものだったりするんです~」
 ケーキもぐもぐ、フォークをビシッ!
「あなた達は、人の生き方そのものにケチをつけている事になるんですっ!」
「というか、素麺しか認めない、という時点である意味破綻してないっすか?」
 この教義の根本的問題に気づいてしまったセット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)。まずはジャブ代わりに。
「こういうのって色々食べるというよりイベントなことが重要……つまりお祭りみたいなもんっすから、華やかさも必要と思うっすけどね……」
「何言ってんだ、素麺だって華やかになるだろう!?春には山菜入れて、夏には冷やし、秋にはキノコで冬には天ぷら……!」
「いや、そもそもそこが問題なんすけどね?」
 ギロリ、信者と鳥さんの視線が一斉にセットに集う。教義の根幹に触れるという事は、しくじれば怒りを買うのだが。
「一年中食べれるというっすが……素麺には熟成の過程が必要なのを忘れているっす?冬に作り梅雨を経過しておいしくなる!時間をかけて熟成されるものをオールシーズン楽しむなど供給が追い付かなくなるのは明らかっす!」
「ははは工場を増やせばいいんじゃないかなー」
 目を逸らす鳥さん。そうよね、食う事しか考えてないから作る事なんか考えてないよね。
「年末年始に限定したって、存在するのは売れ残りかヒネ!つまり素麺を気軽に楽しむベストな時期からは外れているんすよ!!」
 ちなみにヒネってのは、貯蔵していた商品の事。
「野菜で言うと、新じゃがとヒネじゃがの違いですね」
 シフカ、何故俺の台詞を奪う?
「何を言う、寝かせておいても、乾麺たる素麺の味は変わらない……!」
「じゃあ、素麺とひやむぎの違いを言ってみるっすよ」
 セットの言葉に、鳥オバケは頭羽をかき上げて。
「太さの違いだろう?」
 なんだ、その程度か、と鳥さんが息を吹き返す。
「馬鹿め!この私が素麺とひやむぎを見分けられないと思ったのか!」
「じゃあ、分かって言ってるんすよね?素麺は一年中出回ってるわけじゃないって」
『……は?』
 信者も、鳥オバケも、一部の番犬さえも、目が点になった。
「素麺は、その製造法の関係上作れる季節が決まっているんす!つまり、一年間食べている時点で、それは素麺ではないんす!仮にヒネで回していても、生産が追い付かなくなり破綻するのは確実、つまり」
 スッと、セットの指先が鳥さんの眉間を捉えて。
「その教義は矛盾しているんす!!」
『何ぃいいいい!!』
 あまりの衝撃に信者が一斉に我に返り、ガクブルする鳥さんの肩を腕に鎖を巻き付けたシフカがポムン。
「戦闘準備は既にできています……では、逝きましょうか?」
「ちょ、待っ……」
 異形を蹴り飛ばし、シフカが鎖を巻き付け異形を引きずり戻し、一直線に向かって来る敵目がけて胸を突き出せば。
「螺旋忍法……」
 ピシッ、そのたわわな乳房が硬化する音が空気を叩く。谷間目がけて異形が飛来し。
「一発乳棍!」
 嘴が砕けて頭蓋が爆ぜる。卵を床にたたきつけるような呆気なさを残し、異形は散っていった。
「酷い鳥さんでしたね……」
 残った素麺をホットプレートに丸めて焼き、コンガリさせる真理の隣でシフカも南瓜をじぅうう……ベルローズがもやしを追加したところで計都が苦笑し。
「先日はお母さんにお世話になりまして……」
「……母に伝えておきます」
 すっと、ベルローズが目を逸らす。母がシンデレラ姿で若い男性と踊ったとあっては、名状しがたい心情だったのかも?
「あ、ブリジットさん」
「なんだ?」
 鳥さんが速攻で片付いて暇してた人馬に、計都は遠い目をして。
「定命化した生物は、食事でモチベーションを維持することが非常に重要なんです。餓えと寒さは生きる活力を削いできますからね……」
「そうですよ~お腹を満たすだけの食事は最低限でしかないですよ~!美味しいものを食べる事で士気を上げて、普段以上の力を出すのも戦士には重要な役目かとっ」
 計都にセレネテアルまで便乗して、低く唸るブリジット。やや思案して。
「まぁ、覚えておこう」
 一言だけ残すのだった。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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