クリスマスなど祝わず、仕事しろ!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
「……私は悟った! クリスマスなど祝わず、年末は仕事をするべきだ、と! そもそも、何故クリスマスを祝う必要がある。私達にはまったく関係ない行事だろうが! クリスマスが近づくたび、私の心に宿るのは、闇だ! 『ロンリーは悪! だから、今すぐ死んでくれ!』……。そう言われているような気持ちになりながら、過ごす日々がどれほど辛い事なのか、君達なら分かるはずだ! クルスマスこそ、悪しき習慣! そんなモノを祝う必要などない! だからこそ、私は言いたい! クリスマスなど祝わず、年末は仕事をするべきだ、と!」
 ビルシャナが廃墟と化したビルに信者達を集め、自らの教義を語っていた。
 彼にとって、クリスマスは、悪ッ!
 そもそも、別に好きでロンリーになった訳ではない。
 ただ……出会いがなかっただけなのだ。
 それなのに、クリスマスはそれを悪だと決めつける悪しき習慣。
 それ故にビルシャナはクリスマスを憎み、否定するのであった。

●セリカからの依頼
「グレゴリー・ドンスコイ(お節介探偵・e19976)さんが危惧していた通り、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ビルシャナが拠点にしているのは、廃墟と化したビル。
 ここはオレオレ詐欺の拠点になっていたビルで、ビルシャナも休み返上で朝から晩までオレオレしているようである。
「今回の目的は、悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事です。ただし、ビルシャナ化した人間は、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やしています。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまうため、注意をしておきましょう。ここでビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能ですが、信者が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
 セリカがケルベロス達に対して、今回の資料を配っていく。
 信者達は仕事と称して、詐欺行為に加担させられているため、説得するのはそれほど難しくないだろう。
「また信者達を説得する事さえ出来れば、ビルシャナの戦力を大幅に削る事が出来るでしょう。とにかく、ビルシャナを倒せば問題が無いので、皆さんよろしくお願いします」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ビルシャナの退治を依頼するのであった。


参加者
アリア・ハーティレイヴ(武と術を学ぶ竜人・e01659)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
グレゴリー・ドンスコイ(お節介探偵・e19976)
アルベルト・ディートリヒ(レプリカントの刀剣士・e65950)
フレデリ・アルフォンス(ウィッチ甲冑ドクター騎士・e69627)
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)

■リプレイ

●廃墟と化したビル
「……此処か」
 フレデリ・アルフォンス(ウィッチ甲冑ドクター騎士・e69627)は仲間達と共に、廃墟と化したビルにやってきた。
 ビルシャナは休み返上で、朝から晩までオレオレやっているらしく、かなりの額を荒稼ぎしているようである。
「どうやら不器用な方故に、付け込まれたようですね。……悲劇が起きる前になんとか止めねば……」
 グレゴリー・ドンスコイ(お節介探偵・e19976)が、色々な意味で危機感を覚えた。
 既に被害者が出ている事は間違いないため、ここでノンビリしている暇はなかった。
「クリスマスを祝うのはキリスト教に由来する習慣で、特にリア充などは関係ないと聞いているのだが……。心に闇を抱えると、認知がゆがんでしまうのだろうか? 結婚しない人も増えているし、悟りを開くのがもう少し遅ければな……」
 嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)が、複雑な気持ちになった。
 それ以前に、何やらツッコミどころが多いものの、やるべき事に変わりはない。
 ビルシャナを倒す、ただそれだけである。
「非モテだのリア充だのという話題は果てしなくどうでもいい。クリスマスは正式な休日ではなくても、それを口実に仕事を速攻片付けて、グータラできる貴重な日だ。それなのに仕事をしろって、何を言っているんだか」
 そんな中、アルベルト・ディートリヒ(レプリカントの刀剣士・e65950)が炬燵とフライドチキン、缶ビールをリヤカーで運び、呆れた様子で溜息を漏らした。
 しかも、ビルシャナ達がやっているのは、仕事と称した詐欺行為。
 その時点でまったく救いようがなかった。
「本音を言えば、クリスマスは楽しく過ごしたいですけど、研究などで忙しくてなかなか自由に過ごせないのですよね。だからこそ、クリスマスを祝う大切さが分かるのですが……」
 タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)が、何処か遠くを見つめた。
「特に、クリスマスや年末は、家族とか仲良い人と一緒にいた方が楽しいしね。ビルシャナには、そう言う相手がいなかったのかな?」
 アリア・ハーティレイヴ(武と術を学ぶ竜人・e01659)が、不思議そうに首を傾げた。
 だが、ビルシャナにとって、クリスマスは悪しき習慣ッ!
 例え、まわりがクリスマスに浮かれていたとしても、仕事に専念するつもりでいるようだ。
「何やらロンリーな雰囲気が漂っていますネェ~。やっぱり、年末はあんな事や、こんな事、しっぽり、ネットリ、御愉しみデェース。それでは、皆さん、レッツゴーデェース!」
 そう言って村雨・ビアンカ(地球人の螺旋忍者・en0020)が仲間達と共に、ビルシャナが拠点にしているビルに足を踏み入れた。

●ビル内
「あー、オレオレ」
 ビルの中にあるオフィスでは、ビルシャナ達が息子役、警察役、弁護士役などに扮し、高齢者相手にオレオレとやっていた。
 しかも、ビルシャナは状況によって、巧みに声を使い分けており、一人何役もこなすほど技術に長けていた。
「仕事熱心なのは良いのですけど、年末くらい偶には休むのも良いと思いますよ? 随分とクリスマスを嫌っているようですが、御祝いのイベントと考えれば、そんなに悪いものでもないと思うのですが……」
 そんな中、タキオンが諭すようにして、ビルシャナ達に語り掛けた。
「いきなり何だ! 悪いが今は忙しい。それにクリスマスは、他のイベントと別物。あんなモノは祝う価値すらない!」
 ビルシャナがスマホ片手に、ムッとした様子で答えを返した。
 まわりにいた信者達も、オレオレ言うのに夢中で、話をしている暇はなさそうだ。
「せっかくのクリスマスなんですから、自分をちょっと甘やかす日にすればいいのではないでしょうかね? 例えば……ずっと飲んでみたかったワインを買って、自宅で1人のんびりと過ごすとか……パートナーとめぐり会った時の準備運動のため、手のかかる料理に挑戦してみるのも一つの手ではないでしょうか?」
 それでも、グレゴリーは諦めておらず、ビルシャナの前に立って、自分なりの考えを述べた。
「悪いが、俺は暇じゃない。特にクリスマスは寝る暇がないほど忙しいんだ! 他の仕事だって、そうだろ。クスリマスだからこそ、休めない仕事があるはずだ」
 ビルシャナがイラついた様子で、グレゴリーをジロリと睨んだ。
「確かに、土日祝祭日であってもしなければいけない仕事はある。病院やコンビニがなければ社会は止まってしまう。だが、その日楽しく過ごす人々のことを憎みながら、仕事をするぐらいなら休んだほうが良いだろう。そんな心理状況で良い仕事になるはずがない。それに、情報によると詐欺紛いの仕事だと聞いているぞ? 仕事と称して犯罪に加担させられていやしないか? もう、それは論外ではないか」
 槐がテーブルの上に置かれた資料に気づき、それをビルシャナに突きつけた。
「だから、どうした! これも立派な仕事だ!」
 ビルシャナが逆ギレ気味に、槐から資料を奪い返した。
 どうやら罪悪感のカケラもないらしく、何が悪いのかさえ理解していないようである。
「……と言うか、クリスマスや年末はこうやってイチャつける人と、エッチなことした方が楽しいに決まってるでしょ?」
 そんな中、アリアがビルシャナに見せつけるようにして、後ろからビアンカの胸を揉み始めた。
「オゥ、ココではイケまセェーン♪ 隣の部屋にゴーデェース」
 その途端、ビアンカが能天気な笑みを浮かべ、隣の部屋を指さした。
「僕は別にここで構わないんだけど……。それに、見られていた方が興奮するんじゃないの?」
 アリアが興奮した様子で、ビアンカに股間を押し付け、そのまま行為を続けようとした。
「駄目デェース。ここでは必殺のニンポーを披露デキマセェーン! 今回のは凄いですヨ。スプラッシュなマウンテンが、シャワーの如く降り注ぎマァース」
 ビアンカが無意識のうちにビルシャナ達の興味を引きながら、アリアの手を引き、隣の部屋に姿を消した。
「……」
 ビルシャナは表向き冷静でいるように振る舞っていたものの、ビアンカの言葉が脳裏に焼き付いているのか、隣の部屋に興味津々な様子であった。
 まわりにいた信者達も壁に耳を押し付け、聞き耳状態。
 小さな物音であっても、逃さぬ勢いで、片耳に全神経を集中させていた。
 そのせいで、電話の対応も適当になっており、何やら怪しまれている様子であった。
「オレには手に取るようにわかる。お前らの慟哭を……! だからこそクリスマスには、仕事より大切なことがあるんだ……それはリア充爆破! 性夜などと、あちらこちらに雲霞の如く湧く腐れアベック共に天誅を下して破局に追い込む。これこそがオレたち、しっと戦士の聖戦だ! そこのお前も、お前も、お前も!非モテの尊厳の為、オレたちと共に戦おう!」
 そんな空気を察したフレデリが、ビルシャナ達に対して、魂の叫びを上げた。
 この様子では、ビルシャナ達は、非モテ。
 しかも、筋金入りの非モテである。
「確かに、それは……一理ある」
 ビルシャナが動揺した様子で、思わず本音を口にした。
 そのため、内心マズイと思ったらしく、嫌な汗が止まらなくなっていた。
「それに、貴方たちは本当にロンリーですか? 周りを見てみなさい、貴方と同じ境遇の方々……同士の方々が居るでは無いですか。同じ気持ちを持った者同士なら、楽しくクリスマスを過ごせると思いませんか?」
 その隙をつくようにして、タキオンが信者達に語り掛けた。
「俺も独り身だが、クリスマスは一人で炬燵でヌクヌク、いや一人じゃなくて猫も一緒だが……。好きな音楽を流して、誰憚ることなくフライドチキンとビールで食っちゃ寝、食っちゃ寝。小腹が空いたら、口直しにミカンの至福。熱燗と和風のツマミでもいいんだぞ。猫にも高級猫缶をやって、のんびりマッタリするのも悪くないか? しかも、まわりを見れば、一緒に過ごせる仲間がいるんだろ?」
 そこに追い打ちを掛けるようにして、アルベルトがその場に炬燵を置き、幸せな一時を再現した。
「一緒に過ごせる仲間……か」
 その言葉を聞いた信者達が、互いに顔を見合わせた。
 まわりを見れば、仲間がいる。
 その時点で、去年とは違う。
 それに、このまま詐欺行為を続けたとしても、待っているのは堀の中。
 その事を理解してしまったせいか、ビルシャナの洗脳が解けていた。

●ビルシャナ
「畜生ッ! もう少しで海外に高飛びするだけの金が貯まったって言うのに……。お前らのせいで、すべてが台無しだ!」
 ビルシャナがブチ切れた様子で、強力なビームを放ってきた。
「感情に身を任せて攻撃したところで、当たる訳がないだろ」
 それに気づいた槐がビームを避け、カウンター気味に攻撃を仕掛けた。
「……鳥よ。オレオレ詐欺は決して誉められたもんじゃないがお前はせめて、同志たるオレの手で葬ってやる。生まれ変わったら友になってくれ」
 続いて、フレデリが血の涙を流しながら、ビルシャナに攻撃を繰り出した。
 おそらく、出会い方さえ違っていれば、同志になる事が出来ただろう。
 それが分かってしまったせいか、涙が止まらなくなっていた。
「ふざけるなッ! だが、同志になら、なれる! 今からでも遅くない。俺と一緒にオレオレしようじゃないか!」
 ビルシャナが素早い身のこなしで、フレデリの攻撃を避け、綺羅星の如く瞳をキラリと輝かせた。
「そんな考えじゃなければ、オレは……オレはァァァァァァァァァァァ!」
 フレデリが魂の叫びを上げながら、再びビルシャナに攻撃を仕掛けていった。
 それ故に、まるで魂の片割れを見つけたような扱いで、ビルシャナと接している事もあり、何やら芽生えそうなほど、危険な雰囲気……。
「……やれやれ」
 それを目の当たりにしたアルベルトが、複雑な気持ちになりつつ、紙兵散布で祭壇から霊力を帯びた紙兵を大量散布すると、仲間達を守るようにして陣取らせた。
「……とは言え、何もかも手遅れのようですね」
 グレゴリーが何やら察した様子でビルシャナを見つめ、ツングースカの星雨(ツングースカノセイウ)を発動させ、無数の弾丸を流星雨の如く降らせた。
「うくっ! しまった!」
 その途端、ビルシャナが膝をつき、悔しそうな表情を浮かべた。
「必殺のエネルギー光線を、食らいなさい!」
 次の瞬間、タキオンがコアブラスターを仕掛け、胸部を変形展開させて出現した発射口から、必殺のエネルギー光線をビルシャナに放った。
「まだ入金確認していないのに……」
 その一撃を喰らったビルシャナが恨めしそうな表情を浮かべ、血溜まりの中に沈んで息絶えた。
「……さらば友よ。オレオレ詐欺の罪を償って生まれ変わったら、共に戦おう……」
 フレデリが青空に浮かんだビルシャナの笑顔を窓越しに眺め、燃えるように熱い涙を垂れ流した。
「歪んだ考えさえ持たなければ、こんな事にはならなかったでしょうね」
 その横に立って一緒に空を眺め、グレゴリーが複雑な気持ちになった。
「あれ? アレレ? ひょっとして、試合終了デスカ?」
 そんな中、ビアンカが隣の部屋から顔を出し、キョトンとした表情を浮かべた。
「いや、もう終わっているのだが……」
 槐が気まずい様子で汗を流し、ビアンカに対して答えを返した。
 何やら隣の部屋でパンパンやっていたせいか、ビアンカはスッキリ、ツヤツヤ。
 激しい運動の後の箸休め的な意味で、ビルシャナと戦うつもりでいたようだ。
「まあ、倒されたのなら仕方がないね。せっかくだから、ホテルに行こうか」
 アリアがまったく気にしていない様子で、ビアンカの肩を抱き寄せた。
「そうデスネ! まだまだ序の口ッ! 今度はニンポー、スパイダーウェーブをご披露するデェース!」
 ビアンカも『来るならカモーン』と言わんばかりの勢いで、自分の胸をぽよんと叩き、アンアと一緒に部屋を出ていった。
「それじゃ、私達はこれからクリスマスに向けて準備とかしませんか?」
 そう言ってタキオンが苦笑いを浮かべつつ、仲間達を誘うのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月10日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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