恫喝、そして味噌カツ

作者:星垣えん

●詰んでる
 ぐぅ、と腹が鳴る。
「夜ご飯は何がいいっすかねー。今はガツンと食べたい気分っす」
 アホ毛をぴこぴこと揺らし、依頼帰りのシルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)は夜の町を歩き回っていた。目線をあちらこちらに泳がせながら。
 空きっ腹に何を収めるか。
 シルフィリアスの頭の中はその一語で満たされている。
 30分のお仕事と19時間のゲームという多忙のおかげで食事を摂る暇もなかった彼女は、そろそろ外食の店が閉まると気づいて徘徊しているのだった。
「決めたっす。今夜はトンカツっす」
 歩き回りながらその答えに至ったシルフィリアスは、まばらな街灯が照らす中をててててっと適当に突き進んだ。どこの店に行けばトンカツにありつけるかは知らない。だが歩いてゆけばいつかトンカツに出会えると信じて。
 ――で、道に街灯も見えなくなったあたりで気づく。
「あれ、ここどこっすか?」
 迷った。
 振り返りも立ち止まりもせず、自分の勘を信じて迷った。
 真っ暗なだだっ広さを前にして、さしものシルフィリアスも詰んでると感づく。
「どう見てもトンカツ屋がある風景じゃないっす……戻るしかないっすね」
 踵を返す空腹少女。
 しかしその前に、大きな影が立ち塞がった。
「お待ちなさい。トンカツと言いましたか、アナタ?」
「? 誰っすか?」
 声をかけてきた人影に、目を細めるシルフィリアス。
 よく見ると――それは人影ではなかった。
「なんだ鳥っすか」
 鳥だった。
 女学生っぽいセーラー服に身を包んだ鶏だった。
 そうと判明するなりシルフィリアスは興味を失いかけた……が、その目がビルシャナが持っている一皿を捉えるなり、俄然食いつく。
「そ、それはトンカツじゃないっすか!」
「そう、トンカツです。さらに具体的に言うならば味噌カツです!!」
 カッ、と目を見開いた鶏が皿をぐいんとシルフィリアスの眼前に差し出す。
 ほかほか湯気を立てるほどの熱々の味噌カツが、そこには乗っていた。
 見るからにこってりしている味噌がたっぷり絡んだトンカツの神々しさに、シルフィリアスは思わず生唾を飲みこむ。
「美味そうっすねー」
「トンカツを食べたいのなら味噌カツをお食べなさい。味噌カツでないトンカツなど邪道の一言に尽きます。ついでにそのひらひらした服も脱いで、この名古屋襟にお着替えなさい」
 スッ、とどこからともなくセーラー服を取り出す鶏。
 物凄い名古屋推しだった。よく見るとその茶色がかった羽毛も名古屋コーチンに見えなくもなかった。
「……もしかして名古屋のものしか認めないとか、そういう奴っすか?」
「そのとおりです!!
 名古屋以外の文化など不要!!!
 この世界は素晴らしき名古屋一色に染まるべきなのです!!!!」
 真っ暗な空に手羽を突き上げ、猛り吼える鶏。
 手羽を下ろして淑やかに咳払いをすると、鶏はにこりとシルフィリアスに微笑んだ。
「さ、味噌カツをお食べなさい。食べなければ殺します。食べても殺します」
「急に選択肢がねえっす!!」
 突然の剣呑な空気にビビりつつ、味噌カツの皿(と割り箸)を受け取るシルフィリアス。
 まずは空腹を満たそう。話はそれからだ。
 というわけで、とりあえず大人しく味噌カツを食うシルフィリアスだった。

●慣れってあるよね
「シルフィリアスが味噌カツを食っている」
 あまりにもどうでもいい切り出しから始まったザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)の説明で、猟犬たちはすべてを把握した。
 シルフィリアスが1日19時間もゲームをしていること。
 シルフィリアスが名古屋推しの鶏に襲撃されること。
 シルフィリアスが味噌カツを美味しくいただくこと。
 基本的に大したことない気がした。
「本人に伝えようとしたが連絡がつかん。このままでは奴は味噌カツを食った後に殺されてしまうだろう……だから今すぐに襲撃現場に向かい、助けてやれ」
 殺されるとか言う割には適当な物言いになってる王子。
 基本的に大したことない気がしてるんだろう。
「敵は名古屋コーチンだ。気をつけてくれ」
 適当すぎる王子。
 何を。名古屋コーチンを相手にしたときに何を注意すればいいというのでしょうか。
 猟犬たちは必死に目で訴えたが、王子は無言で背中を向けるだけだった。
「ではすぐに発つぞ。味噌カツを食うのはほどほどにしておくようにな」
 皆をヘリオンに乗せると、王子は扉を閉めながらそう言った。
 かくして、猟犬たちはシルフィリアスを助けるんだか味噌カツを食いに行くんだかよくわからない仕事を請け負ったのだった。


参加者
新条・あかり(点灯夫・e04291)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
ステラ・フォーサイス(嵐を呼ぶ風雲ガール・e63834)
藤林・九十九(藤林一刀流免許皆伝・e67549)

■リプレイ

●おいしい食卓
「さ、どんどんお食べなさい」
「くっ、なんて圧っすか」
 威圧的な名古屋襟――なごえりさまの前に正座して、シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)は味噌カツを食す。ばくばく食す。
 だが彼女がもごもごと口をいっぱいにしている、そのとき!
「どいたどいたー!」
「んなっ!?」
 横合いから猛然とバイクが――否、黄金色に輝くライドキャリバーが突っこんできた。
 勢いそのままライドキャリバーはなんと跳躍。
 ウィリージャンプでなごえりさまの頭上を飛び越えた。
「ヒャッハー! 名古屋と言ったらコレコレ、走りでしょ!」
 爽快な風を受けて笑っているのはステラ・フォーサイス(嵐を呼ぶ風雲ガール・e63834)。
 ライドキャリバー『シルバーブリット』を駆り、空を翔けたステラは、ばいんと着地するなりドリフト反転した。
「名古屋名物『名古屋走り』! これを抜きに名古屋は語れないよ!」
「人の頭を足蹴にするような走行……まさに名古屋です!」
 ぱたぱたと手羽拍手してくれるなごえりさま。名古屋が世紀末すぎる。
「ではそんなあなたにも味噌カツを」
「え、味噌カツ? チッチッチッ、それよりも有名な名古屋名物があるじゃん」
 顔の前で指を振るステラ。
 なごえりさまが不思議そうに首をひねると、彼女はニコッと笑った。
「目の前に居る鳥さん、そう名古屋コーチンだよ! 悪い名古屋コーチンは焼き鳥だぜぇ~!」
「や、やめなさいその目を!」
 不穏な目つきを向けるステラに、声を荒らげるなごえりさま。
 今が好機――逃走を画策して立ち上がるシルフィリアス。
 だがその行く手に他の仲間たちがいるのに気づくと、こほんと咳払いした。
「みんな助けに来てくれたっすか」
「今、ステラさんがひきつけてるのをいいことに逃げようと……」
「何言ってるっすか。そんなわけないっすよ」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)のジト目にけろっと応じるシルフィリアス。
 はぁ、と息をつくミリム。
「まったく、命の危機かと思って来てみれば……」
「いやピンチっすよ。超ピンチっすよ」
「その割には味噌カツおいしそうに食べてますが」
「時間稼ぎっす。救援を待ってたんすよ。あ、鶏さんおかわりおねがいっす」
「えっ、あっ、はいはい」
 空いた皿を差し出してくるシルフィリアスに、新たな味噌カツを投じる鶏。
 が、そこで他の猟犬たちの存在に気づく。
「何ですかあなた方は……まさか私の邪魔をしに!?」
「そうです! シルフィリアスさんを助け、世界の名古屋化を阻止してみせます!」
 くわっ、と答えるイリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)。
 集中線が被るぐらい真剣な顔だった。
 しかしカメラを下に向ければ、テーブルとランタンをセットしてた。
「いやそのテーブル」
「立って食べるのは味気ないです!」
 なごえりさまのツッコミに豪気でもって応じるイリス。食い気がパない。
 そしてそこへ、某殺人鬼風ホッケーマスクを被った少女がナチュラルに着座する。
「鳥(ビルシャナ)ともあろうものがたった一人に教義を振る舞って満足とは笑わせるよね」
「いやそのマスク」
「さあ、実力を見せてごらん」
「いやそのマスクゥ!」
 どすん、とご飯の詰まったお櫃を卓上に置き、背筋ピーンするホッケーマスクもとい新条・あかり(点灯夫・e04291)。エルフ耳がぴこぴこするほど楽しみにしてやがる。
 しかも、だ。
 テーブルにつくのは彼女だけではなかった。
「よもや味噌カツだけで名古屋を語り切ったつもりではあるまい? 名古屋にはまだまだ可能性が残されているはずだ」
 見惚れるような美貌に涼やかな微笑みを浮かべ、流れるように一席に座るハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)。
「名古屋愛があるなら当然、この場であんかけスパも作れるよな?」
 制帽をぐっと深めに被りなおし、なんかニヤリとしながら座る藤林・九十九(藤林一刀流免許皆伝・e67549)。隣で脚ぷらぷらさせながら座る璃珠(ビハインド)は可愛い。
「モーニングサービスもあるです? 小倉トーストにゆで卵にコーヒーゼリー、ホットカフェオレを所望するですー」
 マロン・ビネガー(六花流転・e17169)もしれっと食卓にポジションを取り、ぴしっと挙手して細かな注文をぶつけてくる。
 黙して待機の構えをとる3人。
 なごえりさまは立ち尽くした。
「なんです! この方々の厚かましさは!」
 怒りに鶏冠をぷるぷるさせるなごえりさま。
 これはさすがに断られるか――猟犬たちは歯噛みした。
 が。
「私の名古屋愛を見くびらないでほしいですね! 味噌カツ以外にも用意してるに決まってるでしょう!!」
 なんか、いけた。

●食も無法地帯
 食卓に立ち昇る、温かな湯気。香ばしい匂い。
 こってりたっぷりの味噌ソースを絡めたさくさくトンカツを頬張ったあかりは、キラキラと瞳に少女らしい輝きを灯した。マスクは外した。
「ふああ。サクサクのカツに絡む甘い味噌……これが八丁味噌なんだね。これは確かに素晴らしい!」
「これはご飯が欲しくなりますね! ……ありますかね?」
「頼めば出てくるんじゃないっすか? 鶏さん、ご飯食べたいっす。あとおかわり」
「よろしい! 好きなだけお食べなさい!」
 味噌カツの濃厚な味にあてられて米を欲したイリスとシルフィリアスに、すかさず茶碗大盛りのご飯を差し出すなごえりさま。
 ミリムはその至れり尽くせりの対応に戦慄した。
「トンカツを欲する人に味噌カツを押し付け、ご飯までつけて太らせようとしてくる悪行……許すまじ!」
「頬いっぱいに膨らませながら言っても説得力ないけど……」
 味噌カツを食べつつミリムを見つめるステラ。
 うん、ミリムさんも味噌カツがっつり食ってるんや。頬がリスになっとるんや。
「このキャベツにも味噌ダレが合うのです。付け合わせのお味噌汁は勿論赤だしですね!」
「そうです! よくわかっていますね!」
 マロンに至ってはなごえりさまの隣で普通に和やかなんや。
「家でも作れるのかなあ? 自分で作れたら嬉しいよね」
「もちろんご家庭でも作れます。よければレシピをお渡ししましょう」
「これはどうも」
 鶏さんに手書きのレシピメモを渡され、会釈するあかり。
 これはもう癒着ですね。週刊誌に取りざたされる猟犬とデウスエクスの癒着シーンですね。
「ふふふ、これほど名古屋が受け入れられて、私は嬉しいです」
 コッコッコッ、と高笑いするなごえりさま。
 その笑声をバックに聞きつつ、ハルは立派なお櫃に箸を突っこんでいた。
 口と櫃を往復する箸が運んでいるのは――美味そうに色づいた米。
「うむ。やはりひつまぶしは美味い」
 しみじみ頷くハル。
 これもまた名古屋を代表する名物を二口三口とぱくぱくすると、ハルは金色を灯す瞳をなごえりさまに向けた。
「諸説あるが君ならば名古屋発祥こそ真実と理解しているはず……そう信じた私の判断は正解だったようだな」
「当然です。名古屋を愛する者として」
 にやりと笑いあうハルとなごえりさま。
 そんな2人の間で九十九は皿に盛られたパスタをフォークでくるくる。
 もちろんただのパスタではない。コクのあるとろみソースが絡まっている。
 こちらも名古屋めし、あんかけスパである。
「美味いな。璃珠も食うか?」
「――♪」
 両手を上げてイエスを伝える璃珠。
 九十九は小皿に取り分けたあんかけスパを渡してやると、美味しそうに食べる璃珠を見て微笑みながら、なごえりさまを一瞥した。
「さすが名古屋を愛するだけはある。しっかりとあんかけスパも押さえているとはな……あんこが乗った登山用品が出てきたらどうしようかと思ったところだ」
「当然です。まあその品も用意していますけれど」
「えっ」
 馬鹿な、と顔を上げる九十九。
 なごえりさまは彼に肩を竦めると、スッと手羽をどこかに向けた。
「抹茶しるこスパまで出せるとはやりますね。このタガが外れた甘さがたまりません!」
 ミリムが緑色のパスタをちゅるちゅると食っていた。ぐつぐつ煮える緑色の液体にはドカッと餡が収まり、たい焼きまでぶちこまれた甘味の爆弾をもっぐもっぐ食っていた。
 シルフィリアスはそれをしばらく見てから、カメラ目線を決める。
「前々から思ってたんすけど、いち喫茶店の有名メニューを名古屋文化のように言うのはやめてほしいっす。甘口のスパゲティなんて普通のお店では出してないしその存在すら知らない人が多いんすよ」
「誰に言ってるのですー?」
「全国のよいこのみんなっす」
 ひょこっと顔出してきたマロンに、しれっと答えるシルフィリアス。
「ふふ、ゲテモノメニューだろうと良いのです。名古屋のものであることは変わりませんからね……ゆくゆくは文化と呼べるものにすればよいのです!」
「名古屋は美味しいものがいっぱい有って、良い所ですよねー」
 名古屋めしを振る舞えて気をよくしていたなごえりさまに、ぺろりと味噌カツを食いきったイリスが首を肯かせる。
 で、期待にみなぎった視線をなごえりさまに注ぐ。
「もちろんほかの名古屋めしも用意してあるんですよね? 私、味噌煮込みうどんが食べたいです! 手羽先なんかも美味しいですよねー」
「手羽先か。ピリっと辛くて酒が進むからな。俺も貰おうか」
「私の名古屋愛は無限! 当然お出しできます!」
「ありがとうございます! まだまだ食べますよー!」
「ほら璃珠、手羽先がきたぞ」
 あっつあつの味噌煮込みうどんを左手羽に、手羽先を右手羽に乗せてイリスと九十九に出してくれるなごえりさま。きっと自分の手羽先ではない。

●名古屋にお帰り
 名古屋めしが無限に出てくると言ったな。
 あれは嘘だ。
「くっ……私のストックがもう……!」
「ッチ、名古屋も大したことありませんね」
 がっくり崩れるなごえりさまに、死ぬほど冷たい舌打ちをかますミリム。
 というかもう大剣を構えて殺るモードである。蒼炎にアオリ気味で照らされる顔には殺気しかない。
 飯を提供できないビルシャナ、それはもうただの鳥に過ぎなかった。
 ハルは失望したとでも言わんばかりに首を振りながら、美しき白刀を抜き放つ。
「では最後の料理を始めよう。君にとって最期のな」
「掌返しがひどいのでは!?」
 カタカタと震えたなごえりさまが、尻もちついたまま後ずさる。
 完全にもう空気が屠殺場。
 名古屋コーチンとしての本能(?)が、自身の置かれた状況を理解していた。
 だが現実は非情である。
「目の前に生きのいいナゴヤコーチンがいるじゃないっすか。新鮮なナゴヤコーチンで焼き鳥しよう。だれか血抜きのやり方とか知ってる人いるっすか?」
「ひいっ!?」
 おもむろにロッドをバットの見立ててスイングするシルフィリアス。
 圧に押されてばたばた後退するなごえりさま――しかし背中が何かに当たる。
「僕ね、ちゃあんと調べてきたんだよ――味噌チキンカツも、悪くないと思うんだよね」
 あかりが立っていた。
 正確に言うと、金曜日っぽいホッケーマスクを被った少女がチェーンソーと出刃包丁の二刀流で仁王立ちしていた。
「ひああああっ!?」
「大丈夫。味噌カツのレシピは大事に保存するし、他のレシピも全て僕の舌が覚えたからね」
 ヴィィィィン! チェーンソーの駆動音を響かせるジェイ……あかり。
「に、に、逃げるしかありません!」
 腰が抜けながらも必死に立ち上がり、駆けだすなごえりさま。
 だがその行く手にすかさず回りこむステラ&シルバーブリット。
「名古屋名物その2! 名古屋撃ち!! シルバーブリット、キャノンモード!」
 グラビトン・ブラスターをステラが抜くと、シルバーブリットが砲撃形態に変形。グラビトン・ブラスターと合体させると、砲身化したシルバーブリットの内で重力素子が増幅する。
 放たれた超重力の弾丸が、鶏さんの脚を吹っ飛ばした。
「アーーッ!」
「みんな、今だよ!」
 ステラの合図に呼応した仲間たちが殺到。なごえりさまをボコ殴りにしてゆく。
 マロンは如意棒の炎を灯し、バトンのようにぐるぐると回転させる。
「なごえりさまも当然ご存じのファイアトーチ……の練習を見て貰うです!」
「熱ッ!? 熱い熱い!」
 そーっと如意棒を突き出してなごえりさまの羽毛を燃やすマロン。確信犯的放火により焼きあがる名古屋コーチンからちょっと良い香りが漂う。
 しかしいくら美味しそうでも、鶏はデウスエクス。
 シルフィリアスは蠢く髪の毛たちでなごえりさまを捕縛すると、カラミティプリンセスをビシッとかざす。
「行くっすよー」
「――♪」
 きらりとポージングするシルフィリアス。と璃珠。
 真似っこする幼女と並びながらシルフィリアスは光のエネルギーを放射した。放たれる巨大な魔力がなごえりさまを呑みこみ、彼方へと吹き飛ばして消滅させる。
 彗星のように飛んでいき、消える魔法の光。
 静けさを取り戻した夜空を、イリスは遠い目で見つめた。
「あっちは(たぶん)名古屋の方角……鶏さんも本望ですね」
 そうだねーまったくだねー。
 と気のない返事をしながら、猟犬たちは帰り支度を始めるのだった。

●めしtoめし
「コーチンは小牧市発祥で今は岡崎市等で飼育されているそうです。つまり、なごえりさまは純名古屋民では無いのかもしれませんね」
「へー、そうなんですか」
「偽物だったとは憐れだな……」
 大活躍したテーブルを片付けながら、マロンのプチ情報に関心を示すイリス、ハル。
 和やかな雰囲気はもう完全に、普通に飯食った後だった。
 その空気のまま、あかりもひとりごそごそと、荷物を整理する。
「新鮮な鶏肉も手に入ったし、明日のお弁当に作ってみようかなあ」
 出刃包丁を拭き、パックした鶏肉を荷物に収めるあかり。
 その鶏肉どうしたの、とかは訊かないほうがよさそうですね。
 ミリムは名古屋めしを詰めこんだお腹を撫でつつ、しかし物足りなさを感じる。
「どこかでご飯食べ直してから、帰りましょうか」
「二次会っすー。普通のトンカツ食べに行くっすか」
 味噌カツ味のポテチ(なごえりさまに貰った)を食いながら首肯するシルフィリアス。
 さんざ弄りあいつつもなんだかんだ、帰る段になると息の合う2人であった。
 一方、同じ寮に住まうステラと九十九と璃珠も、直帰する空気ではなかった。
「あたしらも何か食べて帰ろっか?」
「ああ、俺も璃珠も構わないぞ」
 わーいと万歳して喜びを表す璃珠。ステラとのお出かけに心が浮き立っている璃珠は、ぴょいっとシルバーブリットに座りこんだ。
「どうやら乗りたいみたいだな。何を食べるにしてもステラ、飲酒運転はNGだぞ?」
「焼き鳥でビールいきたかったんだけどなぁ……ま、いいか。皆へのお土産に焼き鳥を買っていこっと」
 にひひ、と九十九に笑うステラ。
 いざ名古屋めしから夜のめしへ――猟犬たちは夜の街に繰り出した。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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