ペタン子なら豊胸手術すればいい!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
「俺は常々思うんだ。ペタン子なら、豊胸手術をすればいい、と! 金の事は気にするな! 俺がイイ医者を紹介してやる! そいつだったら、驚くほど格安! 相場の半分以下でやってくれる! もちろん、その費用は俺持ち! だから、何の心配もないぞ!」
 ビルシャナが廃墟と化したクリニックに女性信者達を集め、自信満々な様子で自らの教義を語っていた。
 その言葉を聞いた女性信者達が瞳をランランと輝かせ、希望に満ちた表情を浮かべていた。

●セリカからの依頼
「若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)さんが危惧していた通り、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ビルシャナが拠点にしているのは、廃墟と化したクリニック。
 そこにいる闇医者にビルシャナが豊胸手術を依頼したらしく、現在準備待ちのようである。
「今回の目的は、悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事です。ただし、ビルシャナ化した人間は、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やしています。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまうため、注意をしておきましょう。ここでビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能ですが、信者が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
 セリカがケルベロス達に対して、今回の資料を配っていく。
 ビルシャナが依頼した闇医者は、かなりのトラブルメーカーで、何度も手術を失敗しており、詰め物も粗悪なモノを使っているようだ。
 それが原因で、あちこちから訴えられているほど、問題のある人物のようである。
「また信者達を説得する事さえ出来れば、ビルシャナの戦力を大幅に削る事が出来るでしょう。とにかく、ビルシャナを倒せば問題が無いので、皆さんよろしくお願いします」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ビルシャナの退治を依頼するのであった。


参加者
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)
笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)
柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)

■リプレイ

●廃墟と化したクリニック
「ナンというか……命知らずというか、恐れを知らないというか」
 笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)は傍から漂う黒いオーラに戦々恐々としつつ、仲間達と共にビルシャナが拠点にしているクリニックにやってきた。
 クリニックは既に廃墟と化しているものの、そこを根城にしている闇医者がいるらしく、その男に頼んで豊胸手術をする事になっているようだ。
 この時点で嫌な予感しかしていないため、あえて触れない事が利口な選択。
 ここで迂闊な事を言えば、ビルシャナと同等の扱いを受ける可能性もあるため、沈黙を貫く事が最良であると判断したようである。
「そもそも胸が大きくあれば良いという発想が単純デスネ」
 モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)が、深い溜息を漏らした。
 それ以前に、胸が小さい事に対する悩みに共感する事が出来ないものの、何となく妙な殺気を感じたため、それ以上の事は言わないようにして口を噤んだ。
「……とは言え、この鳥の利点が見えない。まさか、施術に立ち会うとか……ありえそう」
 若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)が事前に配られた資料を一読し、物凄く嫌そうな顔をした。
 そもそも、ビルシャナが善意で行動する訳がない。
 そう思わせるような素振りをしつつ、実際には違っていたケースを何度も目の当たりにしてきたせいか、ビルシャナの事をまったく信用する事が出来なかった。
「オレは作りものも大好きなんだよねぇー。ほら乳に貴賎なしっつーじゃん?」
 そんな空気をぶち壊す勢いで、柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)が仲間達の顔を見た。
 その途端、首元に刃物を当てられたような殺気に襲われたため、ぶるっと身体を震わせながら愛想笑いを浮かべて、廃墟と化したクリニックに入っていった。

●クリニック内
「……そこまで、だ! ちっぱいだってなぁ、貧富の差に負けじと必死で生きてんだよ! 揉めねぇ、揺れねえ、膨らまねえの三拍子だとしてもよぉー、存在を示そうとする健気なとこがいいんじゃねぇか! あぁー!?」
 すぐさま、清春が女性信者達を守るようにして陣取り、ビルシャナにジロリと睨みつけた。
「だが、俺の信者達は、そう思っていないようだが……」
 ビルシャナが自信に満ちた表情を浮かべ、清春を冷たく見返した。
「えっ? そんな事はある訳が……って、どうしてみんな、そんな目で俺を見るんだ? 俺は味方だぞ!?」
 清春が信じられない様子で女性信者達の顔を見たものの、みんな凍るように冷たい表情を浮かべていた。
「それに、胸が大きくても肩が凝る、うつぶせ寝出来ない等の不便は色々ありマスヨ? それでも、良いのデスカ……そうデスカ」
 モヱが諭すようにして、女性信者達に語り掛けた。
 だが、自分にとってメリットがないと判断されたのか、女性信者達は軽く聞き流している感じであった。
「ところで、皆さん。鳥の紹介する医者について、どこまで知ってるんですか?」
 そんな空気を察しためぐみが、女性信者達に対して問いかけた。
「ビルシャナが紹介してくれる御医者さんだし……その……信頼しています」
 いかにも気の弱そうな女性信者が、怯えた様子で答えを返した。
 ビルシャナが『大丈夫』だと言っていたから、大丈夫。
 そんな考えで、この場にみんな来ているらしく、医者については何も知らないようだった。
「そんな考えでいいのですか? 豊胸術はかなり高い技術がないと、酷いことになりますよ。最悪、手術跡が大きい上に一生残るとか、見た目ボコボコになるとか、感触が固くなるとか。最悪詰め物が原因で癌になるなんてのもありますよ」
 めぐみが大袈裟に驚きながら、女性信者達の危機感を煽った。
 そのため、女性信者達が不安げな表情を浮かべ、互いに顔を見合わせ、『そ、そうなのかなぁ……』と言わんばかりに、ションボリとした。
「しかも、あの手術……。後から詰めたのが破れて全身に回って大惨事とか聞くしなぁ……」
 鐐も女性信者達の不安を煽るようにして、『そのせいで、あんなことに……』と言わんばかりに何処か遠くを見つめた。
「……えっ? 一体、何が……」
 その言葉を聞いた女性信者達が不安げな表情を浮かべ、鐐の顔を見返した。
「もう一度、考えてみてクダサイ。人は成長や老化をするものデス。最初に丁寧で正確な手術を行わなければ、やがて形が左右で不ぞろいになったり、注入物の劣化で健康に被害を及ぼす可能性が御座いマス。そこなる教祖氏は生涯にわたっての保証をなさるのでショウカ? そうでなければ、一時的な解決のために、残りの長い人生すべてを棒に振ることになりマス。故に、思いとどまって頂けマセンカ」
 モヱがウィッチドクターの立場から資料などを用いて、再び女性信者達の説得を試みた。
「それに、豊胸手術って保険適用外だしなぁ。手術して『はい、終わり』じゃないんだよ? 下手すりゃ何度も体を切らなきゃいけねぇし。綺麗な肌がもったいねぇって。そんなことよりさぁ、いい男がどっか近くにいるんじゃねぇかなぁー」
 その流れに乗って清春が、イイ笑顔を浮かべながら、女性信者達の顔色を窺った。
 しかし、女性信者達の反応は、冷ややか。
 まるでゴミを見るような目で、清春を見返した。
「あ、いや、何でもない……です」
 清春も御通夜の如くションボリとした様子で、吐き出しかけた言葉をゴクンと飲み込んだ。
「……と言うか、お前達には分からんだろ。こいつらがどれほど胸の事で悩み、苦しいんでいたことを……」
 ビルシャナが女性信者達を守りながら、ケルベロス達を見下した。
「男の私には分からんと思うかね? 身体の不備について悩むのは同じだよ。どうあっても縮まらんココとか」
 鐐が堂々とした様子で、自分の腹をポンと叩いた。
「それはそれで魅力的な気が……」
 それを目の当たりにした女性信者が、腹を揉みしだきたい衝動に襲われ、両手をワシャワシャし始めた。
「同じ悩みを持つものとして、提案します。費用をケチらず信用ができるお医者にお願いする方がいいと思います。あ、ちゃんとアフターケアもしてくれる人に、ね」
 その行く手を阻むようにして、めぐみがキッパリと断言をした。
「いや、駄目だ! お前達、騙されるな! コイツが言っている事はすべて、嘘! そんな医者がいる訳ないだろ!」
 ビルシャナが自分の事を棚に上げ、女性信者達の不安を煽るようにして、叫び声を響かせた。
「……と言うか、手術なんてする必要はねえだろ。ちっぱいはなぁ、感度が……」
 その途端、清春が女性信者達から殺気を感じ、ビクッと体を震わせ、吐き出しかけていた言葉を再び飲み込んだ。
 しかし、女性信者達の対応は変わらず、冷たい視線を浴びせられ、精神的にフルボッコ状態であった。
(「いいな、こういうキャラ……創作はかどる……」)
 そんな中、モヱが清春を眺め、BL的な妄想を膨らませるのであった。

●ビルシャナ
「とにかく、お前らは邪魔だ! いますぐ、ここから去れ!」
 ビルシャナがイラついた様子で、叫び声を響かせた。
 既に闇医者の準備が出来ているのか、少し焦っているような感じであった。
「そう言う訳にも行かないんでなッ!」
 すぐさま、清春が先手必勝とばかりに、金属バットでビルシャナを殴り飛ばした。
「……すまんが、下手なことをすると飛び火しかねんのでな……」
 それに合わせて、鐐がエスケープマインを仕掛け、見えない地雷を一斉に起爆し、ビルシャナの足止めをした。
「お、俺を……殺す気なのか? 仲間だろう?」
 その途端、ビルシャナが雨の日に見捨てられた子犬の如く、悲しげな表情を浮かべた。
 それは単なるハッタリであったが、ビルシャナは賭けに出た。
「そんな事を言って、私を巻き込もうとしているようだけど、騙される人なんて誰も……いないよな?」
 鐐が何となく不安な気持ちになりつつ、仲間達に視線を送った。
 だが、仲間達は……無言。
 万が一、ビルシャナの仲間だった場合は、同罪と言わんばかりに冷ややかであった。
「……な?」
 ビルシャナが『だから、助けろ!』と言わんばかりに、ドヤ顔を浮かべた。
「いや、『……な?』じゃないだろ」
 鐐が身の危険を感じつつ、困った様子で頭を抱えた。
 何やらツッコミどころがあるものの、状況的には最低最悪。
 場合によっては、無実の罪を被ったまま、ボッコボコにされてしまうため、心を鬼にして何の躊躇いもなく、ビルシャナに攻撃を仕掛けていった。
「……って、なんでそうなる! 俺と手を組めば、この状況を……って痛い、痛い! 鳩尾痛い!」
 ビルシャナが涙目になりつつ、自分の身を守り始めた。
「あなたはすぐには倒しません……ペタン子をバカにした報いを十分受けてもらいます」
 そこに追い打ちを掛けるようにして、めぐみが殺意の波動を漂わせ、ビルシャナに迫っていった。
「お、おい、何か勘違いをしているようだが、俺はイイ事をしているんだぞ!? それなのに……来るなッ! 来るな! 来るなああああああ!」
 その事に危機感を覚えたビルシャナが半ばヤケになりつつ、つるぺたビームを放ってきた。
「こ、これは……」
 その途端、モヱが胸に違和感を覚えたものの、逆に動きやすくなったような錯覚に陥り、ミミックの収納ケースと連携を取りつつ、ビルシャに攻撃を仕掛けていった。
「ば、馬鹿なっ!」
 ビルシャナが信じられない様子で目を丸くさせたものの、既に反撃するだけの力が残っていなかった。
「あの世で自分の行いを悔いるといいです」
 次の瞬間、めぐみが鋼鉄の胸攻撃(ナイチチアタック)を仕掛け、勢いよく飛び上がって、ビルシャナに胸から落下した。
「お、お前も豊胸した方が……」
 その一撃を喰らったビルシャナが涙目になりつつ、崩れ落ちるようにして座り込み、白目を剥いて息絶えた。
「それじゃ、今から俺とデートでも……」
 そう言って清春がクルッと後ろを向いて、女性信者達を見た。
「いえ、結構です」
 しかし、女性信者達の考えは変わっておらず、女の敵と言わんばかりに、速攻で見えない壁を作り上げた。
「めぐみも情報収集してましたので、これどうぞ」
 そんな中、めぐみが鋼鉄の胸攻撃(ナイチチアタック)の反動で涙目になりつつ、女性信者達に対して豊胸手術で評判になっているクリニックのパンフレットを配るのだった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月9日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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