ファンシィ・デイ

作者:崎田航輝

 風が冬らしい温度を帯びるようになった時節。
 頬に冷たい空気が触れると、人々は足早に帰路へ急ぐ……けれど、そんな日でも明るい声音と表情に満ちる場所が、街角にあった。
 それはパステルカラーのロゴが可愛らしい、ファンシーショップ。
 中には淡いものからビビッドなものまで、カラフルなグッズが沢山。
 バッグやアクセサリーは柄もデザインされたキャラクターも千差万別。動物モチーフのぬいぐるみは、キーホルダーサイズからもふもふのビッグサイズまでが所狭しと並んでいる。
 文房具やビーズ、レジン用品に始まるハンドメイドの道具も揃っていて、幅広い人々が訪れていた。
 ──と、そんな店先の人通りをビルの屋上から眺める男が居る。
「良い匂いだ。笑顔に溢れる、賑やかな気配がする」
 幸福な空間、だからこそ狩り甲斐が有る、と。
 それは槍斧に似た刃を握りしめ、楽しげな笑みを浮かべる罪人──エインヘリアル。
「さあ、始めようか。今、その笑顔を絶望に!」
 縁を蹴って宙へ踊る罪人は、地へ降りると共に刃を振るう。人々の悲鳴が劈く中、罪人だけが愉悦と共に、殺戮を続けていった。

「ファンシー、ショップ……」
 とある街の一角にあるというその店の話に、オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)は静かな声を零していた。
「ええ。小物にアクセサリー、ハンドメイドの道具まで揃っていて人気のお店だとか」
 と、そんなふうに返すのはイマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)。けれど、と、その視線は皆にも向いていた。
「そのすぐ近くに、デウスエクスが現れる事が判ったのです」
 出現するのはエインヘリアル──アスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれるという、その新たな一人だろう。
「これを放って置くことはできません」
「……ん。敵がいるなら、やるべきことは、やる」
 オルティアがそう応えると、イマジネイターは頷いて説明を続けた。
「現場は広い道となっています」
 道の両側には高い建物が並んでいて、敵はそのどこかから道へ飛び降りてくることが分かっている。
「上方への警戒や、対空の策などを考えておくと良いかもしれませんね」
 尚、今回は警察の協力で事前に避難が行われる。こちらが到着する頃には、現場の人々も丁度逃げ終わっているはずだと言った。
「皆さんは到着後、敵を迎え討つことに専念してください」
 店や周囲に被害を及ぼさず倒すこともできるだろう。
「ですので、無事勝利出来ましたら……皆さんもお店に寄っていってみては如何でしょう」
 バッグにアクセサリに文房具。どれもこれも可愛いものばかりで、文字通りのカラフルでファンシーな品が揃っている。
「触れたことがない方も、これを機にそういったグッズを眺めてみても楽しいかも知れませんよ」
 オルティアは小さく頷いた。
「……そのためにも、まずは敵を倒さないと」
「皆さんならばきっと勝利できますから。是非、頑張ってくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
清水・湖満(竜人おかえり・e25983)
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)
煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ

●迎撃
 冬の匂いが吹き抜けると、蘇芳香の髪がふわりと揺れる。
 静寂の中、建物を仰いで朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)はその時を待っていた。
「もうそろそろ、現れる時間でしょうかねー」
「準備は万全、いつ来ても大丈夫なのです!」
 背中合わせに応える八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)は、ぐっと自身の肉球を握る。
 言葉通り、番犬達は全方位を警戒中。作戦に穴は無かった。
「ん、後は見つけるだけ」
 と、応えるオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)は、他者と触れ合うことに抵抗があるせいだろう、明らかな距離を取っていたけれど……それでも注意は一切欠かずに。
 空に濃い気配を感じ取ると、皆に伝えていた。
「上。すぐに、現れそう」

 ビルの屋上に潜み、マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)も双眼鏡で敵影を探していた。
 視線を巡らすと、ふと下方に店が見える。
「わたしも何か可愛いもの欲しいなあ……でも、その前にお邪魔なエインヘリアルをどうにかしなくちゃね」
 それに鳴き声を返すのは箱竜のラーシュ。マイヤと反対側へ注意を注いでおり──直後にその影を捉えて、マイヤへ知らせた。
 それはビルの縁に立つ巨躯の罪人、エインヘリアル。
 飛び降りる寸前らしいと判ると──マイヤは笛を吹いて皆に合図する。
 瞬間、宙へ跳ぼうとした罪人は驚愕したことだろう。
 合図に合わせ、壁歩きで宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)が肉迫していたから。
「そこまでだ」
 目を見開く罪人に、双牙は『巨狼の焼印押し』──地獄化した手でその頭を掴み、強烈な膂力で隣の建物へ叩きつけていた。
「……っ!」
 重い衝撃に見舞われて、罪人は崩れた体勢で地に墜ちていく。

 上を確認した煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)は、皆へ手を翳している。
 生まれるのは七彩の煌き。青空に虹を架けるよう、美しくも魂を高揚させるその光で仲間へ祝福を与えていた。
「さあ、皆さん、参りましょう!」
 その前向きな励ましと、瞬く耀きが宣戦の合図。
 頷くオルティアが宙へ二段跳躍し、落下する罪人へ蹴りを加えると──環も喰らった魂を射出。竜巻状の冷気を生み出していた。
 地雷式・魔訶青蓮──踊る氷晶は烈しく飛び交い巨躯の膚を刻んでゆく。
「……、番犬、か……!」
 地へ追突した罪人は、歯噛みしながらも槍斧を手に起き上がる、が。
 気づけば既に、そこへ迫る影があった。
「目論見は失敗よ。今からあんたは私らに殺されるんや」
 静やかな声音に清楚な白の着物。
 はっとする美貌を眼前に見せる、清水・湖満(竜人おかえり・e25983)。
 ──覚悟しとき。
 けれど言葉と共に燦めくのは、手元ごと凍らせた鋭利な刀。
 嫋やかな美しさは、棘の隠れた薔薇のようなもの。
 その一端を垣間見て、心に慄きを覚えた時にはもう遅い。刹那、氷の斬閃──『諸刃の譜』が罪人の胸部を抉り滂沱の血を噴出させた。
 本能的に危機を覚え、罪人は湖満から飛び退いている。
「……手荒い歓迎だね」
 呟きながら、それでも殺意を収めないのは、番犬の強さに期待感も含むからだろう。
「それでこそ笑顔と絶望の差が際立つものだ。それを是非、味わいたい」
「へぇ──俺の前で笑顔を絶望に変えるとほざくかい」
 と、瞬間。
 そこへ牽制の銃弾が降り掛かって巨躯の手が止まる。
「ソイツぁ笑えるほど笑えねえJokeだな!!」
 声に罪人が仰ぐと、そこにいるのは高く跳んだランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)。
「SMILE KEEPERの名が伊達か、たっぷり教えてやろうじゃねえか! 御代はテメエの命だ!」
 刹那、銀毛を靡かせ回転し、鮮烈な蹴り落としを打ち込んだ。
 たたらを踏んだ罪人も斬打を返してくる、が。
 そこへ舞い降りるのが、上方の警戒を担っていたあこの翼猫、ベル。柔らかな金翼で羽ばたいて、槍を身を以て庇い受ける。
「よくやったのです!」
 あこは労いと共に治癒の気力を集束。ひだまりの如き暖かな光を与えてベルの傷を拭い去っていた。
 この間に、湖満も後方へ移動する。
「あー、私もあとは後ろで癒すよ」
 か弱い乙女やから、と。呟かれた言葉に罪人は寧ろ恐々としていたようだったが──湖満は意に介さず。しゃらりと雅やかに符を撒いて、皆を艶めく霊力で保護していた。
 罪人は狙いを変えて攻撃を狙う、が。
「させませんよー!」
 既に環が奔り込み至近へ。
 溜めた力を解放しながら旋転し、剣撃で敵の刃を払うと──勢いのままに懐に入り連撃。真正面から拳で顎を殴り上げてみせた。
「今です!」
「うん!」
 ふらつく罪人へ、風を裂いて滑空するのがマイヤ。重力加速度を加えて零距離で一撃。高速の蹴撃で巨体を大きく吹き飛ばす。

●決着
 己の血潮で躰を穢しながら、罪人は苦悶を零していた。
「随分と、暴れてくれるね……。そこまで、僕を邪魔したいのかい」
「……貴様の事情はあろう、罪人よ」
 双牙はただ静かに言葉を返す。
「だが俺にはそんな事よりも、人が穏やかに過ごせるという事の方が重要なのでな」
 故に潰させてもらう、と。
 厳とした意志に、カナも頷いて凛然と見据えていた。
「ええ──こんな素敵な場所を、涙と悲鳴の殺戮場にはさせません!」
「そうだよ! 皆の笑顔はわたし達が守るよ! ね、ラーシュ!」
 マイヤの瞳に、ラーシュが応えて罪人へ耀くブレスを浴びせれば──マイヤも空に流星を燦めかせている。
 空を満たして眩く踊る光は『Hexagram』。弾けて連なり、きらりきらりと溢れて赫いて。不浄の肉体と魂を囚えてしまうよう、罪人の命を蝕んでいく。
 唸り声を洩らしながらも、罪人は愉快げに槍を携えた。
「いいさ。君達の笑みこそ、斬り甲斐がありそうだ」
「……笑顔を、絶望に。あくまでそれが望みと言うのなら」
 と、淡い抑揚の声と影が巨躯の面前に迫る。
 それは支援魔術による追い風で、劇的な速度を得たオルティア。
「──あなたの笑顔も、狩ってあげよう」
 見舞う連撃は、蹂躙戦技:穿群蛮馬。
 剣の刺突で腹部を穿つと、間隙を作らず槌で殴打。傾ぐ巨体に一切の猶予を与えず、蹄の強打を交えて血煙を散らせていく。
 罪人も穂先を振るって氷風を返してきたが、その中でもあこは寒さに震えずに。
「三毛もクロもキジトラも♪ みんな仲良くにゃにゃにゃん、にゃん♪」
 ベルと共に輪を作って、緩やかなリズムで歌い踊る。『にゃんこ音頭』──響く音色が不思議と傷ついた心を包み、皆へ温かな癒やしを与えていた。
「あと少しなのです!」
「私にお任せを」
 そっと瞳を閉じるカナは、水流の如き光から水の聖獣を具現している。
 ──我が身に宿りしは青龍……不浄を清めたまえ!
 眩く明滅して広がる力は『四神降臨・青龍浄化水陣』。優しい心地と共に邪を濯うよう、負傷を消し去っていた。
 罪人も退かず攻め込んでくる。が、そこへ跳ぶ双牙が七色の残滓を描く蹴撃を加えると──心乱された巨躯は矛先を双牙へ向けざるを得ない。
 そうなれば、ベルがそれを的確に庇い──湖満が清廉な光を与えて事なきを得ていた。
 そうして戦線に憂いがないと見れば──。
「じゃ、早急に遊びたいし」
 さっさと倒そう、と。
 ゆるりと云った湖満が、かろり。純白の下駄を鳴らして罪人へ飛び蹴り。細身から想像だに出来ぬ脚力で、巨体の肋をへし折り粉砕した。
 血を吐き膝をつく罪人は、薄らぐ意識で手をのばす。
「……絶望、を……」
「絶望するのは一人で充分だ。テメエだけで、な!」
 銃口を向けるランドルフは、容赦を与えず弾丸だけを呉れてやった。
「喰らって爆ぜろ、絶望野郎ッ! コギトの欠片も残さず逝きな!!」
 爆ぜる『バレットエクスプロージョン』は、拡散する衝撃で巨体の腕を吹き飛ばす。
 絶望の声を零す罪人は、それでも残る片手で槍を広い、本能だけで抗おうとした。けれどそこへ真っ直ぐ奔りゆくのが環。
「遅いです!」
 ぐっと刃を握り、縦横に滑らす斬閃は敵の槍を切り裂いて虚空へ散らす。
 驚愕に目を見開いた罪人が、最期に見たのは環の拳。
「これで、終わりにしますよ!」
 豪速に、豪快に。刃を握り込んだまま、打ち放つ殴打は肉を破り魂を砕き、その命を千々に消滅させていった。

●ファンシィ・デイ
 色に溢れた棚とボックスに、可愛らしい品々が所狭しと並ぶ。
 戦闘後、皆で戦場を癒やして人々を呼び戻すことで、一帯は元通りの活気となっていた。
 ファンシーショップも勿論盛況で──番犬達もそれぞれに店内へ。ランドルフは“気になるアイツ”への贈り物を探して見て回っている。
 中でもコスメを眺めているのは、見目だけでなく実用性も兼ねた方がいいと思ったため。
 メイク用品など多種ある中から、可愛いヘアブラシと綺麗な瓶の香水などを選んでみた。
「それじゃ、コレとコレを……」
 差し出された店員は、あら、と気づいて別の品も勧めてくる。
「お客様でしたら、もう少し大きなサイズの物も如何でしょう?」
「あぁ……っていや、Present用に決まってんだろ!」
 自分用だと思っているらしい店員に、ランドルフは必死で否定。
「Ribbonつけてくれリボン!」
 その形相は戦闘時以上に鬼気迫っていて……買った後も、しばし浅い息を繰り返しているランドルフだった。

「ゆめかわ空間なのです!」
 パステルカラーに囲まれた光景の中で、あこはわくわく。
 戦いで盾に使われた形となったベルが、『お前覚えてろよ』的にがぶがぶしてきている痛みすら気にならず……そわそわと落ち着かなく目移りしている。
 文具に小物、品々はどれも色が踊っていて、見ているだけで楽しくて。マイヤもラーシュを胸に抱きながら瞳をきらきらさせていた。
「わあ、どれもこれも可愛い!」
「何というかこう、眠っとる女心が目覚めてまうね」
 頷く湖満も、柔らかに微笑んで見回して。何かを買って帰るのもいいかと、そんな気分にならないではいられない。
 マイヤは一つ一つを愉しげに見つつ皆にも向いた。
「皆は何か気になってるものとか、ある?」
「私は、この辺りですねー」
 と、環が足を止めているのはもふもふグッズが並ぶ場所。
 右も左もまんまるなシルエットにほわほわな毛並み。壁一面にもふもふが並ぶ夢の空間だ。
「あこはネオンカラーなんかも好きなのですが……今はやはり雪のようなもこもこも良いのです!」
 あこも駆け寄り笑顔で視線を巡らせる。
 するとその一角に猫キャラのバリエーションが一揃いになった、にゃんぐるみセットを見つけた。
「これにするのです!」
 抱える程の大きさ、けれど決めれば迷いなくそれを手に取る。
 湖満もそれを見て、ぬいぐるみに目を向けていた。
「うちの猫に似とるやつないかな……と」
 すぐに見つけたそれは灰毛青目の一品。耳がぴこりと立っていて、なんだか餌を欲していそうなところも可愛らしい。
 湖満がそれを手に取る横では、マイヤがもふもふうさぎのパスケースを見ていた。
「これ可愛くない?」
 と、示すとラーシュは興味なさげ。
「色もピンクで可愛いと思うんだけどな」
 呟きつつ暫しもふっている、と……そこでラーシュがじーっと見上げてくるのに気づく。
「……べ、別にそこまでもふもふが欲しい訳じゃないよ? でもほら、ラーシュはこの辺もふもふだけど、この辺はペタペタでしょ」
 言って触れると、ラーシュは「ペタペタで問題ない」的な目を向けてきていた。
 ただ、マイヤが欲しいなら構わないという表情でもあったので……マイヤは最後にはパスケースを購入したのだった。
 環も可憐な笑顔で、柔らかなオレンジの小さなポーチを手に取る。
「これとか、良さそうですねー」
 さらに、全部がもふもふしている、動物モチーフのストラップセットも見つけて一緒に買おうと決めていた。
「何か見つかりましたか?」
「そうですね……これもいいし……でもこれも……ああ迷っちゃう!」
 と、環の視線に悩ましげな声を返すのはカナ。
 ぬいぐるみばかりでなくカラフルな髪留めにリボンと、アクセにも目移りして視線を彷徨わせている。
「どうしよう……!」
 子供のように煌めく眼で悩みつつ。
 けれど最後には、視界に入ったクマのぬいぐるみに心を奪われて。
「これ、とても可愛い! すみません! これにします! このクマちゃんください!」
 決心してそれを買うと、大きな袋に包んでもらったのだった。
 カナやあこが買ったものを大事そうに抱きしめている様子を見つつ……湖満はフォトフレームの前で止まる。
「あ、ええものみーつけた」
 丁度“あいつ”への嫌がらせにとびきり可愛いものを買うつもり。
 ハートのフレームに薔薇やリボンを象った飾りがあって、文字通りのファンシーで……ぴったりだ。
「ん、これにしよ」
 ふと瞳を和らげたのは──いつかできる予定の子供の写真を、中に入れようと思ったからだろうか。
 それを買うと皆と共に、ゆったりと。冬空の下を帰路についていった。

 店の中にも戦いの影響がないか、確認はしておきたい。
 そんな思いと共に、双牙は品が並ぶ棚の間を歩んでいた。
「……ふむ」
 破壊の跡もないし人々の様子も問題ない。
 だから目的は果たされたが……双牙はふと足を止めている。そこに見上げる程の、うさぎの巨大ぬいぐるみを見つけたからだ。
「……これは買うべきなのか……」
 いや、買ったとして、どうやって持ち帰る?
 そも置く場所が確保できるだろうか──。
 と、腕を組んで暫し思索を巡らせる双牙だったが……ふと周りの視線があることに気づくと、こほんと小さく咳をして。
「──ではこれを」
 迷った結果それを買い、宅配で送ってもらうことにしたのだった。
「うむ」
 スペースは後で考えよう、と。
 決めると双牙は颯爽と外界へ歩み去っていった。

「ぬいぐるみ、かわいい……!」
 右手ににゃんこ、左手にわんこ。
 手のひらサイズのぬいぐるみをいくつも抱え、オルティアは次々に品を選んでいる。
 色も種類も無数にあって、その上値段もお手頃となれば。
「たくさん買える……!」
 声音を華やがせ、もふもふ空間を歩んでいた。
 欲しい物が欲しいだけ手に入るそこはもはやユートピア。オルティアはぬいぐるみに囲まれている自分を想像して幸せな吐息を零す。
 と、そこで何かに気づいて止まった。
「……あっ」
 見つけたのは、ビッグサイズのクマ。
 ほわほわな毛並みで顔も愛くるしく、無二の魅力の一品だ。
「こ、これも欲しい……でも、値段……」
 数字を見ると、流石にミニぐるみとは桁が違う……けれど。
「……いい、買う、買います!」
 強い志を以て購入を決行。
 戦いでも負わなかった程のダメージを、生活費に負うことにはなってしまったけれど──それを抱きかかえるオルティアは、後悔のない満足げな面持ちであった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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