紅葉よりも、赤く

作者:坂本ピエロギ

 山の粧いもそろそろ終わりを迎え、景勝地の神社には多くの参拝客が訪れていた。
 鳥居の奥に連なる石段をのぼった先、石造りの参道脇に折り目正しく並ぶのは、鮮やかな紅色を散らした広葉樹の紅葉だ。
 樹齢は幾十を数える木々が、去り行く秋との別れを惜しむように青空の下ではらはらと葉を落とす。再び季節が巡り来るまで、人々はいま暫しの別れを惜しむように、秋の名残りをのんびりと過ごすはずだった。
 青空の果てから、招かれざる侵略者が現れるまでは――。
『ケーッケッケッケッケェ! こりゃァいい、地球人どもがウジャウジャと!』
 下品な笑い声と共に現れたのは、紅蓮の闘気を纏うエインヘリアルの大男。
 男は獰猛な笑みを浮かべ、立ち竦む参拝客の一人を拳で叩き殺すと、
『死ね、死ね、死ね! 手前らのグラビティ・チェイン、全部俺によこしやがれ!!』
 獣のごとき雄叫びをあげながら、参拝に訪れた人々を手当たり次第手にかけていく。
 響き渡る悲鳴。血で汚される参道。
 エインヘリアルの暴虐を止められる者は、この地には一人もいない。

「急ぎ、罪人エインヘリアルの撃破に向かって貰いたい」
 ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は、番犬達にそう告げた。
 君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)の調査依頼によって、エインヘリアルが起こす事件の予知が得られたのだという。
「このエインヘリアルは過去にアスガルドで罪を犯した男のようだ。放置すれば多くの人々が犠牲となり、地球で活動するエインヘリアルの定命化をも遅らせる事だろう。そのような事態は断じて避けねばならん」
 現場は東日本の山間にある、景勝地として知られる神社だ。
 敵が現れるのは鳥居の前に広がる駐車場。市民の避難誘導は警察が行うので、ケルベロスは敵の撃破に集中できる。
「敵は紅蓮のバトルオーラを装備した男だ。使い捨ての駒として送り込まれた者ゆえ、不利になっても退却する事はなかろう。エインヘリアルかケルベロス、どちらかが死ぬまで戦いを続けるはずだ」
「成程。敵も死に物狂いといウ訳だな」
「うむ。これ以上の狼藉を許さぬよう、確実に撃破してくれ」
 王子は眸の呟きに頷くと、戦闘後の事へ話を変えた。
「無事に戦いを終えたならば、神社で紅葉鑑賞を楽しんで来てはどうだ? もうすぐ、見頃の時期も終わりと聞くゆえ……な」
 大きな鳥居を潜り、境内の石段を上りながら見晴らす山々の真っ赤な粧いは絶景の一言。
 参道には紅葉が舞い、秋の最後のひと時を味わえる事だろう。
 拝殿では参拝が出来るので、何かお祈りをして行くのも良いかもしれない。
「人々の命も、そして山を彩る紅葉の眺めも。どうかお前達の手で守って貰いたい」
 王子はそう言って説明を終えると、ヘリオンの操縦席へと向かうのだった。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
清水・湖満(竜人おかえり・e25983)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)

■リプレイ

●一
 ズウゥゥゥン――。
 鈍重な地響きが、山間の静寂を破った。
『ここが地球かぁ!? チッ、誰もいねぇぞ!』
 土煙の奥からむくりと身を起こすのは、薄汚れた甲冑の上に紅蓮のバトルオーラをまとうエインヘリアル。
 周囲を見まわす大男の血走った目は、人工の建造物である石鳥居をすぐに捉えた。
 きっとあの奥に、グラビティ・チェインを蓄えた獲物がいるに違いない。
『ケケケッ、丁度いい。準備運動がわりに地球人狩りといくか!』
 エインヘリアルが鳥居へ足を向けたその時、背後から男の声が投げられた。
「待つがいい。運動ならワタシ達が付き合ってやろウ」
 振り返った直後、大男を襲うのは機械腕の回転刺突。白い羽織をなびかせる君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)が放つスパイラルアームだ。
『ぐおっ!?』
 甲冑を吹き飛ばされた巨漢に向かって愛刀を突きつけ、眸は告げる。
「この美しイ場に、ヒトの命を啜る者は似合わなイ。排除させてもらウ」
『ちっ、ケルベロスか……! 邪魔するんじゃねぇ!!』
 エインヘリアルは怒りで顔を赤く染めると、練り上げたオーラの弾丸を一動作で放った。追尾性能を有する魔法の赤い弾が、眸の心臓めがけて迫る。
「――へへっ。ずいぶんキレイな弾だな、おい?」
 巨体を躍らせ、それを受け止めたのは尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)。
 眸と対を成す秋物の着物姿で現れた彼は、エインヘリアルの攻撃を防ぎ切ると、拳を覆う地獄炎を真っ青に燃え上がらせて笑う。
「俺は『青』だぜ。どっちか強えか力比べだなっ――行くぜ、エトヴァ!」
「承知しまシタ、ヒロキ」
 広喜とエトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)がパズルから光蝶を放ち、眸と清水・湖満(竜人おかえり・e25983)の集中力を研ぎ澄ませる。
『なんだぁ!? ケルベロスどもめ、ワラワラと!』
「下品な男は嫌いやわ。その口を塞いで喋れなくしてやる」
 湖満はひと呼吸でエインヘリアルの間合いを詰めると、電光石火の蹴りを巨漢のみぞおち目掛けて叩き込んだ。
「綺麗なもみじを散らすのはあなたの方よ」
『が……っ』
 着物姿の清楚な出立ちからは想像できぬほど鋭い一撃にエインヘリアルは顔を歪めながらも、すぐに拳をオーラで覆って反撃の機を伺い始める。
 エインヘリアルの体から迸るオーラ。毒々しい真っ赤なそれは、装備者の怒りがそのまま形になったかのようだ。
 そんな大男の心を読み取ったかのように、ジェミ・ニア(星喰・e23256)は、躍らせる指で蛇の文様を宙に描く。
「逃がしませんよ――刻印『蛇』」
 ジェミは自身のイメージを具現化し、輝く蛇となしてエインヘリアルを絡め捕る。広喜とエトヴァの支援を後押しし、クラッシャーの命中を確保するためだ。
「紅葉の赤と血の色は似て非なるもの。無粋な真似はそこまでです!」
「罪人エインヘリアルも多いですよね。アスガルドの治安、よっぽど悪いんでしょうか」
 カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)はエアシューズで駐車場の砂利道に轍を刻んで突撃、大男の足を流星蹴りで挫く。カルナとジェミの足止めによって、エインヘリアルの機動力は目に見えて精彩を欠き始めた。
「お二人とも、命中はどうですか?」
 眸と湖満が、問題ない旨を伝えてきた。十割には届かずとも、まず外さないであろう値を確保できたようだ。
「なら、ここからは反撃のターンですね」
「んぅ。ほわほわ壊す、させない」
 中衛からブレイブマインでカルナらを支援するのは伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)。
 その前方ではガネーシャパズルを手にしたフィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)が弾を庇い、彼女の翼猫に合図を送った。
「綺麗な紅葉だというのに、その景色を血で汚そうとは何事か! 許しはせん!」
 女神カーリーの怒りを浴びたエインヘリアルの顔を、テラの爪が派手に引っ掻き回す。
 傷を受けた怒りに大男は震えながら、
『許さねぇぞケルベロス! 皆殺しだ!!』
 バトルオーラで拳を固め、最前列めがけて飛び掛かってきた。

●二
『吹き飛びやがれ!』
「こっちの台詞です、容赦しませんから!」
 地響きと共に迫るエインヘリアルの装甲を、スパイラルアームでジェミが吹き飛ばす。
 勢いを殺さずに迫ってくる敵に一歩も譲らず、湖満は大きな杵を担いで迎撃態勢。直後、音速拳と杵のぶつかり合う衝撃が空気を揺らす。
「あらぁ。乙女の肌を傷付けるなんていけずやわぁ」
 敵の拳に集中力を乱されつつも、湖満は厚底下駄のすり足で流れるように動きながら、敵との距離を離さない。
 にこりと微笑む湖満だが、その目は笑っていなかった。たおやかな口調とは裏腹に、嵐のように猛烈なアイスエイジインパクトの一撃を、エインヘリアルめがけ叩き込む。
『がはっ!?』
「はっぱも赤い、あの敵も赤い。キレイでほわほわと、そうじゃないの、あるんなー」
 進化可能性を奪われ凍結したエインヘリアルに、勇名の発射したミサイル群が迫る。
 狙うは敵の回避の完封だ。妨害に優れるポジションから射出されたミサイルが咲き乱れるように炸裂し、大男の足を完全に近い形で止める。
「これで、ちょっと気力を溜めたくらいじゃ、もどらないー」
「援護感謝すル。もウ外す心配は無さそうダな」
 紅葉に劣らぬカラフルな火花を散らし、こくこく頷く勇名。眸は即座に愛刀を構え、弧を描く斬撃を大男へ放つ。
「裂かれルがいい」
『ぐおぉぉ!』
 利き腕を切られ絶叫を轟かせるエインヘリアル。その間にも眸のビハインド『キリノ』のポルターガイストが、フィストが飛ばす氷結輪の凍てつく斬撃が、大男に傷を刻み込む。
「ヒロキ。湖満殿の支援は俺が引き受けマス」
「おっしゃ、頼んだぜっ!」
 エトヴァは白銀の蝶で湖満を囲み、音速拳で破壊された集中力を再びもたらした。同時に広喜が地面を蹴り、真っ青に燃える拳を大男めがけ叩きつける。
「直せねえくらい、壊してやるよ」
『うるせええぇぇぇ!!』
 赤と青の拳が、燃え盛る熱を伴ってぶつかり合う。
 癒やす力を阻害する青炎に覆われながら、狂ったように拳を振るうエインヘリアル。足を封じられ、鎧を剥ぎ取られても、その攻撃力はなお健在のようだ。
「穿て、幻魔の剣よ」
 カルナの声に応じ、不可視の魔剣が大男の脇腹を切り裂く。高密度な魔力の塊を直に浴びたエインヘリアルの拳が、じわじわと威力を落とし始めた。
『ク、ソ、があああっ!!』
「無駄な事だ」
 悪あがきのように眸へと放たれるオーラの弾は、しかしフィストによって止められた。
 骨の芯まで響くような一撃だが、致命傷には遠い。
「行こう皆。終わらせるぞ」
 フィストの言葉を合図に、ケルベロスが一斉にエインヘリアルへと牙を向ける。
「捉えましたよ!」
「これで、よろい、ふきとばすー。どーん」
 ジェミの細剣が繰り出す、残像を伴う刺突。息を合わせ勇名が突き出す、回転機械腕。
 辛うじて原型を留める鎧を着けた敵に、フィストが氷結輪の刃を向ける。
「この一撃、外しはしない」
「Das Zauberwort heisst――」
 エトヴァが投げかける純度の高い声色が共振を起こし、フィストの重力エネルギーを活性化させていく。
 フィストの眼前に広がるのは、真水のように透き通る青空のヴィジョン。体に残る負傷が癒える感覚に包まれながら、氷結輪が空の霊力を帯びて射出された。
「貴様の傷口、切り裂いてやる」
『ぐっ! がああぁっ!!』
 ジグザグの傷によって鎧を失い、凍傷に覆われた体でエインヘリアルが悶絶する。
「広喜、ワタシが先行すル」
「おうっ、眸!」
 スパイラルアームの追撃で、甲冑を剥ぎ取る眸。そこに続いた広喜が地獄炎を帯びた拳を固め、露になった大男の腹筋めがけて全力で振り上げた。
 広喜は思う。今日の拳は随分キレがいい。
 それはきっと、紅葉の中を舞う眸の姿を拝めたからに違いないと――。
「へへっ。じゃあな、楽しかったぜ!」
『……が……』
 よろめくエインヘリアルの足が、カルナの流星蹴りで粉砕される。
 カルナはエアシューズで油断なく大男の周りを滑走しながら、湖満に合図を送った。
「チャンスです、とどめを」
 湖満は小さな会釈で応じると、地に膝をついたエインヘリアルを見下ろし、言う。
「ごめんなぁ。ちょっと痛いかもやけど、我慢してな?」
 さながら処刑人のようにルーンアックスを掲げ、にっこり微笑む湖満。
「永遠におやすみね――悔い改めよ」
『ち……ちくしょおおぉぉぉっ!!』
 音もなく振り下ろされる斧。
 湖満の『唯一の音』に心臓を断ち割られたエインヘリアルは断末魔を遺して死んだ。
 大男の身体は溶けるようにして消滅し、紅葉の山には静寂が訪れる。
「お疲れ様です。それじゃ修復を始めましょう」
「んぅ。ほわほわ、いっぱい、みてみたい」
 周囲の被害がない事を確認し、任務完了の連絡を取るジェミ。起爆スイッチを手に握った勇名は、カラフルな煙幕で駐車場を包みながら、仲間と一緒に現場を修復していく。
 それから程なくして――。
 再び戻った平穏を喜ぶようにさらさらと揺れる紅葉の下、ケルベロス達の後片付けは無事に終了したのだった。

●三
「ん~、空気がおいしいですね」
 カルナは大きく伸びをして、澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
 修復も終わり、時刻は昼を過ぎた頃。神社には参拝客の姿もちらほらと見て取れる。
「では、私達も行くとしようか」
 フィストが声をかけると、ケルベロス達は鳥居にお辞儀をして石段を上り始めた。
 参道へと続く石段を挟むように並ぶ木々が、舞い散る紅葉で山の景色を赤色に染める。恐らくは今日が紅葉の見納めとなる事だろう。
「秋になったのは、ほんの少し前だと思っていたのにな。早いものだ」
 フィストは感慨を込めた吐息を漏らす。
 初めてこの国を訪れた時、山々を覆う純白の冬景色を思い出したのだ。
「今年の終わりは、山を粧う真っ赤な紅葉か……これもまた、素敵な眺めだ」
「そうやね。こんなに鮮やかな景色、血の赤が混ざらんでほんまよかったわ」
 湖満が柔らかい声で笑う。
「……うーん、冬の風が火照った肌にはちょうどええなあ」
 舞い散る紅葉を乗せた冬風が湖満を音もなく包み込む。葉を彩る色は、どれも目が覚めるような赤色。鉄錆のように色褪せた血の色は、そこにはない。
「命の色は、綺麗やねえ」
 湖満は自分の胸にそっと手を当てて言った。
 力強い鼓動と生命の色。鮮やかに散りゆく、燃えるような赤を眺めながら。
 広喜と勇名もまた、そんな景色を目を丸くして見つめていた。
「すげえ、真っ赤だぜ!」
「まっかー、まっかー」
 紅葉の美しさに見惚れ、二人は子供のように目を輝かせる。
 眸はそんな彼らの様子を微笑んで見ながら、白い羽織を靡かせて石段を上って行った。
(「やはり、皆で眺めル景色は良イものダ」)
 紅葉が一葉、眸の肩に舞い降りた。
 右手で摘まみ、葉を落とした木を仰ぐ。山に深く根を下ろし、太い幹を天まで伸ばす大木だった。この地を守るヒト達が、何十年、何百年とかけて守ってきたのだろう。
「この場所が損なわれず、良かっタ」
「ええ、俺もそう思いマス」
 眸の隣を歩くエトヴァが石段を上り終えたとき、ふとジェミが彼の袖を引いた。
「ねえねえ、あれ見てエトヴァ!」
 ジェミが指さした先に広がるのは、山々を埋め尽くすように彩る一面の赤色。
 その見晴らしに、ケルベロス達は言葉を忘れてしばし魅入る。
「こんなに鮮やかな景色が、もう少ししたらきっと真っ白になるんだね……」
 ジェミの呟きに、エトヴァは頷くのも忘れて溜息をつく。
「美しいですネ。この国モ、四季も……」
「すっごく鮮やかな一瞬一瞬を、こうやって思い出に詰め込んでいくんだね」
「ええ、ジェミ。思い出が宝石箱のようデス」
 エトヴァは瞬きを打ち、ジェミの言う情景を重ねる。
 大切な家族との思い出に新たな1ページが加わった喜びを、一緒に噛み締めながら。
「綺麗ですよね。まるで大きな絵巻みたいで」
 カルナもまた、石段から見下ろす景色に微笑みをこぼす。
 雑踏も喧噪もない山間を、風に吹かれて舞い散る紅葉。秋の終わりを告げる、静謐の美がそこにはあった。
「折角ですし、参拝していきませんか?」
 カルナの提案に、仲間達も同意の頷きを返す。
「ねえエトヴァ、一緒に行こうよ!」
「喜んで、ジェミ。俺は何をお祈りしまショウ……」
 そこへ勇名とフィストも頷く。
「んぅ。ぼくもおいのり、するー」
「ここで帰る手はないだろう。……確か、道の真ん中は通らない決まりだったかな?」
 拝殿へと続く紅葉の道を、ケルベロス達はのんびりと歩いていく。

●四
 参道をしばし歩いた後――。
「ここで、おいのり? おねがいごと? するのかー」
「なんとなく緊張しますね。……あっ、眸さんと広喜さんが参拝するみたいですよ」
 拝殿の荘厳な気を感じてか、勇名はどこかそわそわした様子。
 隣のジェミが視線を向けた先、賽銭を投げ入れた眸がさっそく拝礼を行う。
(「おー。おじぎと、はくしゅするんだ、なー」)
(「二礼二拍手、というやつか。ああやって神様に挨拶をするのだな」)
 勇名やフィストの視線を感じつつ、眸は板についた振舞いで手を合わせ、瞑目した。
 思えば今年も、ずいぶん多くの戦場を潜って来たと思う。
 ドラゴン、エインヘリアル、夢喰い、死神……他にも数えればきりが無い程に。
(「多くの出来事が起きた年ダった。良イ事も、悪イ事も」)
 それでも眸は思う。この1年は、良い日々であったと。
 こうして広喜や仲間達と、一緒の時を過ごせるのだから――。
「神様っ。今年もいっぱい楽しかったから、ありがとな」
 見様見真似で手を合わせながら、広喜は皆と過ごした今年一年を振り返る。
 初詣に花見。藤を見て、今こうして紅葉を見て……。とても幸せな一年だった。
「なあ眸。どんなお祈りしたんだ?」
「皆が元気で……と」
 眸の返事に、広喜はへへっと笑う。
「俺も同じこと考えてたぜっ」
 両手をおろし、もう一度深いお辞儀で参拝を済ませる二人。
 入れ替わるように勇名が鈴を鳴らした。
「なかよし、みんないっしょで、ほわほわでいますよーに」
 手水で冷えた小さな手を合わせ、神妙な顔で勇名は『おねがい』を祈る。
 叶うなら、ぼくはなんでもします――神様にだけ聞こえる声を、そっと付け加えて。
「皆に健やかデ、幸せな日々ヲ」
 エトヴァもまた、ジェミと一緒に手を合わせ、一年の無事を感謝する。
 本当に色々な事があったが皆が無事で何よりだ。願わくばこの先も、家族や仲間と揃って年を終えられる事をエトヴァは願う。
「この葉が散れば、いよいよ今年も終わりですね」
 最後の参拝を終えたカルナは、境内を舞い散る紅葉を静かに仰ぐ。
 どうか来年も良い事がありますように、その願いが叶うよう祈りながら――。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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