大阪市街戦~渇望、焔と燃えて

作者:柊透胡

 師走に入り、冬の訪れは足早に――黄昏刻が、冷たい空気を朱に染め上げる。
「……」
 スーツ姿の青年だった。長く伸ばした黒髪を1つに束ね、アンダーリムの眼鏡を掛けた容貌はクールであり、何処か気障であり。
 だが、繁華街にて容易く雑踏に紛れ込めるだろう――尋常なる擬態こそが、彼に命令が下された所以だ。
 ――詰まらない。
 あくまでも人を越えるモノを目指し、人である事を捨てたというのに。
 主たるドラゴンは、塵芥を鏖殺せよと言う。大阪の、デウスエクスの版図を広げよと。
 ――詰まらない。
 右手にリボルバー銃、左手に日本刀――忽然と現れた得物を握る両手が、ゴオと燃え上がる。
 その両掌は、黒鱗に覆われて。炎竜の力を得て、ドラゴンブレスも斯くやの業火を操れるようになった。ドラゴンの俊敏を得て、疾風の如く得物を振るえるようになった。
(「俺は、強くなった」)
 其れなのに……詰まらない。
 それでも、青年は、黄昏刻の路を往く。命令に従い、脆弱を虐殺する為に――それが、力を得た代償と、理性では心得ていたが故に。
 
「天音……焔!?」
「はい、ヘリオンの演算は、その名前を弾き出しました」
 息を呑んだ赤髪のオラトリオの青年に、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は静かに肯く。集まったケルベロス達を見回し、粛々と口を開いた。
「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 年の瀬も近付き、巷は忙しない空気ではあるが、ヘリオンの演算により、又1つ、大阪城のデウスエクスの襲撃が察知された。
「攻性植物のゲートがある大阪城には、現在、エインヘリアル、ダモクレス、螺旋忍軍、ドリームイーター、ドラゴンと様々なデウスエクスが集結しています」
 その戦力は未だに多彩。そして、デウスエクスらは大阪城周辺地域の制圧を虎視眈々と目論んでいる。
「単発であったとして、デウスエクスの襲撃で被害が出れば、大阪市街の住民達に不安が広がります」
 集団で避難され、大阪城周辺地域が無人となれば、すぐさまデウスエクスは版図を広げるだろう。
「ジュエルジグラットの潜入調査も進行中ですが……大阪城のデウスエクスの勢力拡大も、けして放置出来ませんので」
 現れるデウスエクスは、ドラグナー――その名は、天音・焔。元より、武に長けていたようだが、ドラゴンの眷属となる事で業火を操る力を得ている。
「武装はリボルバー銃と日本刀。操る業火は、敵の生命力を啜ります」
 眷属の証として両手は竜鱗に覆われているが、それさえ隠してしまえば、一般人と変わりない姿だ。万が一にも逃がしてしまい、人間社会に潜伏されては厄介だ。
「幸い、ヘリオンの演算により進行ルートは判明しています。繁華街に向かう裏通りで迎撃すれば、一般人の避難などは不要でしょう」
 タブレット画面の地図の一角、繁華街とビジネス街の境目を指差し、ヘリオライダーはふと眉根を寄せる。
「本来、ドラグナーはドラゴンを崇める狂信者であり、ドラゴンに忠実な下僕です。しかし、彼は……一般人の虐殺命令に、不満を覚えているようです。強者との戦闘への渇望が窺えました」
「だろうな……あいつは、そんな奴だ」
 ぽそりと呟いた天音・迅(無銘の拳士・e11143)は、我知らず拳を握り締めている。
「であるならば、我々には寧ろ好都合です。皆さんが武威を誇示して挑めば、戦いに勝敗が付くまで、逃亡の恐れはないでしょう」
 何れは大阪城の攻性植物との決戦も避けられまい。だが、まだまだ時期尚早だ。
「今は防衛に徹し、確実に敵勢力の拡大を阻止していきましょう。宜しくお願い致します」


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
天音・迅(無銘の拳士・e11143)
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)
リィナ・アイリス(もふきゅばす・e28939)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)
ブレア・ルナメール(軍師見習い・e67443)
アルセリナ・エミロル(ネクロシーカー・e67444)

■リプレイ

●初冬の黄昏に
 冬至の頃となれば、黄昏の時刻も早い。空気も急速に冷え込む中、ケルベロス達は静かに待ち構える。
「敵はドラグナー、だったな」
(「力を求めた末に、人を捨てたか……そうまでして、奴は何を求める?」)
 平時は平穏と人々の笑顔を何より願う灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)にとって、理解の外の生き方だ。だが、どんな理由があろうと、命を奪う存在に容赦はしない!
「犠牲者が出る前に止めねば!」
「おう! 被害が出る前に仕留めないとな」
 気炎吐く恭介に、大いに肯いてみせた。相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)は、今日も大阪デウスエクスの陣営の勢力拡大阻止の為に戦う。
「援護は任せろ!」
 ジャマーとして動く算段で、意気軒昂にマッスルガントレットを打ち鳴らす。
「大阪の防衛も、勿論大切だけど……」
 一方、アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)は、天音・迅(無銘の拳士・e11143)の様子を窺う。
(「『彼』もケルベロスだったら、きっと心強い味方だったんだろうな……残念だけど、天音がやりたい事が出来るように、ボクも立ち回るだけだよ」)
 そう――『彼』は、迅と縁が深いという。
(「こんな日が来るとはな……」)
 『彼』を思い返す迅の横顔は、トレードマークの笑みも影を潜めて。
(「オレが居なきゃ、焔もこうはならなかったかもしれねえ……だが、天音の家から、人々を害する者が出てはならない」)
 かつては、家督争いを厭って家を出た。心境の変化は、ケルベロスとして戦い続けた結果か。
(「必ず、この場所で止める。絶対に、逃がさない」)
 覚悟を決めた表情は険しく……リィナ・アイリス(もふきゅばす・e28939)も、そんな彼を気に掛ける。
(「最期はやっぱり、迅くんが、だよね」)
 元より、デウスエクスを逃がす気なんてないし、仲良しの迅を全力でサポートすると決めている。
(「相手は、迅さんがよく知る……戦う心境は如何ばかりか……」)
 翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)の脳裏に過る、秋宵の会遇。
(「私と彼が違うのは重々承知ですが……それでもその心境は少し、判る気がします」)
 彼には先の戦いで助けられた恩もある。何より、大切な戦友だ。
(「おこがましいかもしれませんが、迅さんの望む結果となるよう、全力を尽くしましょう」)
 『彼』が人々に害を為すならば、尚の事。
「大阪の風は少しだけ冷たい……ですね」
 吐く息も仄かに白く棚引くよう。自らの両手にほぉと息を吹き掛けて、ブレア・ルナメール(軍師見習い・e67443)は赤茶の眼を細める。
(「迅さんも、今回の戦いは辛いと思いますけど……せめてお力添えを」)
 静かに意気込む弟子を横目に、アルセリナ・エミロル(ネクロシーカー・e67444)は小さく肩を竦める。
「流石のアタシも、今回は手を抜くわけにはいかないわねぇ。真面目にやるわよ」
 ボクスドラゴンのアケディアも、似たような仕草で小首を傾げた。

●棘多き予感
 朱に染まる彼方に浮かぶ、人の影――遠目には一般人と変わらぬその姿に、最初に反応したのは、やはり迅だ。
 アスファルトを蹴るや、一気に肉迫。ローラーダッシュの摩擦が炎と燃え上がり、激しい蹴りを放たんと――。
 『彼』は、身構えてさえいなかった。それが、次の瞬間。眼前まで迫る炎熱を、刃の一閃が斬り払う。
 咄嗟に間合いを取った迅に追い縋る様子もない。右にリボルバー銃、左に日本刀を握る手が、ゆらりと陽炎う。
「詰まらん」
「……っ」
 長く伸ばした黒髪を1つに束ね、アンダーリムの眼鏡を掛けた容貌は、迅の記憶とさして変わっていないように見えた。
 天音・焔――異母兄の名前だ。向けられる視線はいつも険を含み、子供時代は敵視すらされていたと思う。だが、その眼差しには、いつも炎のように強い感情が滾っていた。
 こんな……無関心な冷ややかさを、迅は知らない。
 ―――!!
 それでも、触発されたか、ドラグナーの銃が火を噴く。弾丸はビル壁を跳ね――。
「雷、ありがとな」
 辛うじて、射線を遮った相棒のライドキャリバーに、迅は囁く。低いエンジン音で応えながら、ライドキャリバーはデットヒートドライブを敢行するもサイドステップでかわされた。
 恐らく、敵の初手は跳弾射撃。速度に依った攻撃には、ケルベロス全員の防具が対応している。
 そんなケルベロスを容易く捉えた力量は、ドラゴンの属性を移植されたが故か――否。
 誰しも、看破している。己が眼力の報せる「命中率」の極端な低下を。
 攻防に於いて優位なポジションは唯一。敵が「キャスター」なのは、間違いない。
「おっしゃ、全力で戦うぜ!」
 特に今回は、実戦経験の差も大きければ、まず後衛へメタリックバーストを放つ泰地。そんな青年に向かって、リィナは九尾扇をふわりと振るう。妖しく蠢く幻影は、ジャマーの武威をより高めるだろう。次は自身にも掛ける心算だ。
 続いてアンセルムも、オウガ粒子を中衛に放出する。だが、その視線は、今しがたダメージを請け負ったライドキャリバーを窺う。眼力は、ダメージの程迄は測れない。見極めるのは癒し手としての観察眼だ。
(「まだ大丈夫、かな?」)
 同様に回復を主体として前衛に立つブレアが、後衛へのブレイブマインを優先したので、却って安心か。尤も、少年と肩を並べるテレビウムのイエロは、バイクのPR動画のような応援動画を流している。風音のボクスドラゴン、シャティレも又、ライドキャリバーに属性をインストールした。
 一方で、風音自身は敵の機動を削ぐべく、スターゲイザーが奔る。アルセリナの方も、勢いよく跳躍した。蹴打の軌跡を、アケディアのブレスが正確になぞる――命中精度を誇る後衛のスナイパーは、総攻撃の起点となる場合が多い。だが、今回のスナイパー2人は、何れもサーヴァントと魂を分かつ。殊、厄付けに於いて万全ではない。無論、本気で止める気概ながら……敵の動きに遅滞なく、2人は不服そうに眉根を寄せる。
「……チッ」
 そして、中後衛の強化が優先された事もあり、初撃のスターゲイザーを易々と弾かれた恭介は、小さく舌打ちする。
「今日がてめえの命日だ!」
 流石に、初手で総てが調う訳も無く。再び、同様の強化を繰り返すジャマー陣。
 ――――!
 ケルベロス達の行動の間隙を突き、敵の二の手は日本刀の斬撃。緩やかな弧を描き、恭介の急所を的確に狙う。
「これが人を捨ててまで得た力か? こんなもの、何度受けようと倒れはしない!」
 不敵に笑みさえ浮かべ、強気を言い放つ恭介。痛みなどおくびにも出さないよう、奥歯を噛み締めて。
 そして、掠めた斬撃を遡るように、バスターライフルを構えた迅はエネルギー光弾を射出するも……やはり、易々と回避された。
(「嗚呼……」)
 その時、自覚したのは、『重さ』だ。ケルベロスの装備はグラビティを放つ「武器」、その身を護る「防具」、そして、様々に能力を底上げする「アクセサリ」に分類される。迅は今回、一切のアクセサリを外して参戦していた。技の命中率は各自の能力に依る。互いに申告する事は無かったが……その実、迅の命中率は、最も実戦経験の浅い恭介よりも厳しい状況となっていた。
 彼の真意は、誰にも知れぬ。だが、敢えて茨の道に挑んだのならば。
 果たして、日没までに、決着は付くのか――長い戦いの、始まりの予感がした。

●耐戦に次ぐ耐戦
 ――風精よ、彼の者の元に集え。奏でる旋律の元で舞い躍り、夢幻の舞台へ彼の者を誘え。
 風音の許に風の精霊が集う。気紛れな、されど麗しき歌声が響き、軽やかなステップは更なる風を喚ぶ。聞く者の足を留めさせんと。
 続いて、ドラグナーへ肉迫したアルセリナは、ブラックスライムを捕食モードに変形させる。長身を丸呑みさせて捕縛するべく。
「迅さんのお兄様……手加減して勝てる相手ではありませんね。全力で、お相手させていただきますっ!」
 意気軒昂に声を張り、ブレアが惨殺ナイフをジグザグに振えば、お返しとばかりに月光斬を放つ恭介は対照的に無言で攻める。唇の端に不敵な笑みを刷いたまま。
 ……案の定、長期戦となった。
 1つに、前衛の火力が十全に活かせていない事が大きい。
 クラッシャーは迅と恭介の2名。何れも命中率に難があり、更には専ら敵の標的となっていた。敵とて眼力を具える。命中率から実戦経験を推し量り、徹底的に突いてきた。
 ブレアとサーヴァント3体の盾4枚で庇い立てるも、全ての攻撃が遮れる訳ではない。
 更に、前衛6体は減衰に掛かり、列型ヒールの強化の率も、回復量も低下させる。減衰自体は悪手ではない。敵の列攻撃を防ぐ狙いもあっただろう。だが、敵の攻撃は跳弾射撃と月光斬。両手の焔によるドレインも又、単体対象だった。
 それでも、前衛への援護を単体ヒールで徹底させる等、やりようはある。実際、アンセルムは何度もガネーシャパズルを組み替え、癒しの蝶を前衛に舞わせた。
 リィナも頻繁に、迅の身体にカッコいいグラフィティを描き続けている。
 だが、今回は実に半数がサーヴァントを伴う編成。使役修正に列減衰が重なれば、列型ヒールがより機能し難くなろう。
「今日のオレは支援役だな!」
 構わず、泰地は前衛と後衛にメタリックバーストを交互に掛け続ける。確かに、ジャマーの強化は掛かれば心強いが……回復と強化に専念する者が増えれば、火力はそれだけ減じるのだ。
「焔……!」
「……」
 迅の呼び掛けに、『彼』が反応する事は無い。標的の選択は、あくまでも効率に由る。それでも、粘り強いケルベロスの戦い方に何かを感じたのか、逃げる様子も無く銃弾を浴びせ、白刃を閃かせ、時に焔がケルベロスの息吹を略奪していく。
(「迅さん、貴方には今、多くの仲間がいる……どうか、無茶はなさいませんように」)
 迅の横顔に笑みを認め、風音は心配そうに眉根を寄せる。苦境でこそ不敵に笑う青年が、己のタガを外してしまう前に……更なる尽力を。彼女の意気を感じたか、シャティレが力一杯にタックルする。
 そう、幸いであったのは手数の多さ。ケルベロスとサーヴァント達はドラグナーの攻撃を凌ぎ、じりじりと厄と強化を積み上げていく。
「……」
 隙あらば庇わんと身構えるディフェンダー達を、ドラグナーは忌々し気に一瞥する――これまで、誰も膝を突かなかったのは、回復優先の者が多かったのが幸いしたのだろう。
「命の炎の輝きよ……再び」
 果たして、焔に抉られたイエロを、ブレアは生命の炎で上書きする。使用に細心を要する程、強力な回復魔法――だが、敵味方関係なく、ヒールには限度がある。
 限界が目に見えるのは、どちらが先か――風音の黒影弾も、アルセリナのマインドソードも、これで何度目かも知れぬ。スナイパーの連撃に続き、恭介の達人の一撃が、迅の時空凍結弾が、相次いでドラグナーの体躯を凍らせた時。
 誰からともなく、溜息が漏れた。
「今だ!」
 初めて攻撃に転じた泰地は、無数の蹴りをドラグナーへ浴びせ掛ける。
「牽制は任せろ、オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
 ――喰らい付け、妄執の毒蛇。
 アンセルムも、攻性植物を変容させる。大蛇と化した蔦は敵に喰らいつき、麻痺毒を注入。手足の自由を奪い、攻撃を阻害せんと。
(「強くなりたいのは分かるけど……デウスエクスの力を借りるのは、本末転倒だと思う。こうやって、攻性植物と一緒にいるボクに言えた事じゃないかもしれないけど」)
 素早く回り込んだ風音の惨殺ナイフが閃く。シャドウエルフ得意の斬撃は、彼女が用意した最大火力だ。
「……見惚れて、いたら……ケガ、するの……!」
 グラビティ製の塗料で描いた動物は氷の息吹を吹き込まれ、リィナの意のままに氷撃を振う。
「お師匠様!」
 サーヴァント達も次々と突撃する中、惨殺ナイフを構え直すブレアは、肩越しにアルセリナを呼ぶ。
「死ぬよりも辛い苦痛を……嗚呼、これでは足りないね」
 咄嗟に万年筆を握り込み、アルセリナはブラックスライムをけしかける。ジグザグの軌跡を追い、黒き顎が奔る。
「ぐ……」
 この期に及んで略奪の焔に抉られるも、恭介は激しく言い放つ。
「貴様の炎などとは比べ物にならんぞ! くらえ!」
 左眼より燃え上がった地獄は、炎の竜に姿を変える。あたかも意志を持つかのように、竜の業火はドラグナーに喰らい付いた。

●強さの意味
 我は無銘なり、我が連撃は型を纏わず、我が乱撃は夢幻なり――。

「最後は天音に任せるね。存分にやっておいでよ」
 アンセルムの言葉に背を押されるように……耐戦の果て。迅は、天啓の幻影を得る。
 オラトリオの翼に時間干渉の魔力を結集して『彼』の動きを奪い、己を超絶強化して降魔拳士の力を増大。勘や経験、閃きより紡がれた即興の連撃が、只管に穿つ。
「……」
 初めて、覗き込んだ『彼』の双眸の奥に炎が灯ったかに見えた。小さく口が開き、その両手の焔が燃え上がり――。
 ――――。
 迅を捉える事なく、燃え尽きる。すれ違うように前のめりに倒れた長躯は、忽ち砂崩れるように霧散した。

 ――組み手をしても、最初は、歯が立たなかった。
 それが、たった1度、収めてしまった勝利の後、『彼』は姿を消した。
 ……強さに拘っていた『彼』は、気付いていたのだろうか。
 何時しか、『弟』が勝たないように立ち回っていた事に。

「お疲れさん、だな!」
 既に日も暮れて、彼方此方に街灯が灯る中。戦闘で荒れた界隈に、早速オウガ粒子を振り撒く泰地。アンセルムも黙々と片付けを始め、やはり気力を溜めながら、風音は気遣わしそうに迅を見やる。
「……無事に、勝てて、よかったねー」
 旅団「新月亭」の面々に駆け寄ったリィナは、安心感からか微笑みを浮かべている。
「実は……ちょっとだけ、心配だったんだぁ」
「リィナさんのジャマー、心強かったですよ」
 にこやかにリィナを迎えたブレアは、アルセリナにも笑顔を向ける。
「お師匠様も、お疲れ様でした」
「何だかんだ言って、アタシ達4人の動きやクセも分かってきたね」
(「命を奪う存在になり下がった奴を、受け入れられる訳もないが……何の為に、奴は人を捨てて力を得たのだろうな」)
 迅に尋ねてみたいとも思った恭介だが、当人はその場から動かず、黙祷している。
「迅、今後もよろしく頼むわね」
「これからも、友達として……仲間として、よろしくなのーっ」
「ああ。今日は、ありがとう」
「そうだ……ちょっとだけ、寄り道していく……?」
「すまない……今は、独りで歩かせてくれ」
 そうして、ケルベロス1人1人に感謝を告げて。リィナの気遣いに笑顔で頭を振ると、踵を返す迅。
 胸の奥はまだ軋むようだけれど……今は、俯かない。そして、嘆かない。
 ただ静かに、相棒の雷と共に、帰路に就いた。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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