熱すぎるオーブンレンジ

作者:baron

『オ、オ、オ。オーブン、オープン!』
 炎が廃棄処分場から漏れ出した。
 焼却施設からなら不手際なのだろうが、燃えたのが仮置き場であったことから不審火……放火の可能性があった。
 消火装置のある焼却施設とちがって、一定重量・一定量が揃ったら運び出す耐えの仮置き場なので、対応も遅れたようだ。もちろんカメラや巡回が十分に機能していれば、早めに見つかったはずではあるが。
『レレレ、レンジ。レンジ。インレンジ、アウトレンジ。オーブンレンジ』
 とはいえ奇声をあげて炎を放つのはダモクレス。
 どれだけ施設が対応したとしても、完全になんとかするのは難しかったろう。
『グラビティを回収。殺戮解決。街道行程移動で至る』
 そいつは周囲を検索し、郊外であることを悟ると人々を虐殺するために町へと向かったのである。


「廃棄処分待ちの家電がダモクレス化してしまうようです」
「処分場で見つかったのは判り易くて良かったのか、それとも雑な仕事で悪かったのかしらね?」
 セリカ・リュミエールが説明を始めると天月・悠姫(導きの月夜・e67360)は思わず苦笑した。
 山野に棄てられた家電だけでも相当な事件が起きているのに、杜撰な管理で処分場まで事件が起きるとか大変というか、呆れておくべきか悩んだ。
「相手を探して右往左往しないで良かったと思えば良いんじゃないかな?」
「倒さねばならんのには変わりないしナ」
 ケルベロス達は苦笑しながら、事件が起きる時はどこでも起きると不敵に笑う。
 倒さねばならないし、熟練のケルベロスにはどこであろうと同じなのかもしれない。
「このダモクレスはオーブンレンジが元になっているようですね。加熱・解凍・焼成で微妙に技の性質が違うようです」
「炎主体? 処分場って山の中かー?」
「郊外の方が地価が安いですし、苦情も出にくいからそうなんじゃないかしら」
 近距離・遠距離のどちらでも炎を使ってくるらしい。
 ジャマーらしいが火力も高めなので、油断は禁物だとか。ある程度対策しておいた方がいいかもしれない。
「罪もない人を殺させるのは……放置はできないわよね」
「ええ。周囲に人は少ないとはいえおられますし、山火事も危険ですので早めに対処をお願いします」
 悠姫の言葉にセリカは頷き、出発の準備に向かうのであった。
 ケルベロスたちは残された資料をもとに、相談を始める。


参加者
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
ローゼス・シャンパーニュ(セントールの鎧装騎兵・e85434)
アルケイア・ナトラ(セントールのワイルドブリンガー・e85437)

■リプレイ


「いかにもな山奥だけど……まさか、わたしが危惧していたダモクレスが本当に現れるとは驚きね」
 大抵の場合、処理施設は郊外の山奥にある。
 天月・悠姫(導きの月夜・e67360)が意外だったのは、森ではなく施設にダモクレスが現れたことだ。
「こんな場所で火災とか起こったら、大惨事になるよね。何としてでも、そんな事態にならない様に桜子たちが頑張らないと」
「周りは山中。炎を操る敵との戦いとは厄介な事だ。火災で被害が広がる前に、何とか倒しきってしまいたいところだね」
 天司・桜子(桜花絢爛・e20368)の言葉に九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)は答えながら施設の敷地に入る。
 巨大な焼却施設の方ではなく、広大な物置きとでも言うべきスペースに向かった。
「不法投棄された物だけでなく、処分準備をしていた物にまで憑りつくとは厄介ですね」
「そうね。火もだし……一般人を避難させておかないと」
 入り口付近にある重量を図るための板の上を歩くと、エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)の体が揺れる。
 悠姫は頷くことで揺れる一部分をスルーしながら、そのまま視線を施設の通路に向けた。
「連絡はしてあるみたいね」
「来るまでに桜子たちがケルベロスである事と、この場所が危険である事を伝えてあるよ」
 悠姫の確認に桜子が答える。
 この施設に来るまでに連絡しておいたので、後は確認作業だけだったのだ。
「とはいえ油断は禁物! 念のために封鎖しておこう」
 見たところ職員は避難して居ないようだが、話を聞い居ない者や急にゴミを持ち込む者はいる。
 ここまで持ち込めば無料で処分してくれることもあるそうなので、幻はテープを張って封鎖し始めた。
「複数人でかかれば、これもそう時間を掛けずに終われるハズだ。パパっとやってしまおう」
「誰か巻き込まれたら笑えないもんねー」
 幻とは逆方向に颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)は向かった。

 予定よりも時間があるので道々雑談するが、口から出るのは愚痴ばかりだ。
 場所も広いだけに移動も面倒で喋って暇潰しをしたくなるのも大きい。
「もうこの類のダモクレス化は止まらないって悟っちゃったよ。でも仕方ないで済ませられるものでもないからねー」
「手伝いますわ。止めておきますのでどうぞ」
 ちはるを手伝いながらカトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)がテープの端を持つ。
 ペタリとくっついた後で、また次の場所へと移動していく。かなり広いが、職員の数でも足りてないのだろうか。
 ここの責任者さんとは、後日お話したいな……じっくりと……。遠い目で呟く、ちはるなのでした。
「地球には色々便利な道具があるのですね。私には魔法と科学の区別がつきません」
「確か今回はオーブンレンジですか、多機能なのは良いですけど。使い道を間違えると、あまり役に立たないのですわね」
 ようやく廃棄処分品のコーナーに差し掛かり、アルケイア・ナトラ(セントールのワイルドブリンガー・e85437)が置かれている処理品に目を奪われた。
 カトレアはその一つ一つを説明しながら。地球人でも正しく判っていない道具が結構あるのだと教えてくれた。
 今回のレンジなど解凍機能もあるが、初期型は下手に氷から解かすと美味しくなくなるという欠点があるのだ。ハッキリいって誰も得をしない。
「この世界には学校というものがあると聞きます。いっそのこと、機械の使い方を学ぶという学校があっても良いかもしれませんね」
 ついそんなことを考えてしまうアルケイアであった。

『オ、オ、オ。オーブン、オープン!』
「居ました。山火事の危険を少しでも減らすため、攻撃に集中して素早く倒したい所です」
 向かっている処分品置き場の一つから炎が噴き出し、エレスが棍を構える。
 ポールダンスのように見えるかもしれないが、あれは素早くスイングするための予備動作だ。気にしてはいけない。
「おっと、あのくらいの炎で。……なるほど、冬場は乾燥で物が燃えやすくなっていると」
 なお黒一転で唯一の男性であるローゼス・シャンパーニュ(セントールの鎧装騎兵・e85434)は、フルフェイスで見えなかったようだ(何がとは言わないが)。
 まあ例え見えたとしても、紳士なので見ないでくれるだろう。
「今回は失火ではありませんが火元は早めに始末せねば」
「念のために消火器は持ってきましたが……。このオーブンレンジさんには、人の血で汚れる前に眠ってもらいます」
 ローゼスが疾走を始めると、アルケイアもまた足に力を籠める。
 いつでも突進できるように身構えつつ、戦いの時を伺った。


 炎で溢れかえる通路だが、そもそも広いので問題はない。
 また場所が場所だけに、耐火性能もそれなりにあるはずだ。
 ダモクレスを野放しにすれば燃えるだろうが、早めに倒せば何とかなる。
「さあ! 戦いの時は来たれり! 幾度葬れば気がすもうか!」
「んー。何度でも? また出て来るんじゃないかなー」
 ローゼスが足を踏み鳴らして宣戦布告すると、ちはるはキャリバーのちふゆと共に前線に並び立つ。
 ダモクレスの攻撃が来るかと思ったが、微妙に味方の数名の方が早いようだ。
「奇跡をもたらす黄金の果実よ、仲間に加護の力を与え給えー!」
「美しき刀の舞を、見せてあげますわ!」
 桜子の広げた黄金の光はまるでスポットライトだ。
 舞台に躍り出るかのように、カトレアが飛び出した。
 赤い刃が躍ると光を照り返し、一輪の薔薇が優雅に咲き誇る。
『レレレ、レンジ。レンジ。インレンジ、アウトレンジ。オーブンレンジ』
「おーっと-。それはさせないんだよねー。主にちふゆちゃんが」
 周辺が温かくなったかと思うと、一気に急上昇。
 ちはるとちふゆは仲間たちの前に立ち、これを防いでカバーする。
「見た目に違わず高い火力か。では、こちらも機械系統に有効そうな雷系の技で攻めてみようか!」
 幻は全身に雷鳴を巡らせると一気に飛び出した。
 体内電流を操って高速機動を掛け、突きと共に迸らせる!
「途中までは暖かかったんだけどなー。調理器具は! 調理をしなさい! 言っても無駄なのはわかってるけど!」
「ダモクレスに操られてるだけですしね……。ともあれ廃棄待ちだった様なので、私達が廃棄してあげましょう」
 ちはるは熱気の中から飛び出し凍気を放った。
 棍で叩いた場所をエレスは抉ったような幻影を被せておく。
 実際にそこまでのダメージを与えてはいないが、ダモクレスが機能不全と見て使わなくなれば御の字だ。
「ええと……たしか最初は防壁でしたね。相手の最大の能力に対抗しておくと」
 偽の兵士たちを作り上げながら、アルケイアはケルベロス達の培ってきた経験に感心する。
 最初は弱かったがゆえに、格上と当たるのは当然のことだった。だから自然と戦い方が効率的になっているのだ。

 戦いは互角だが、目に見えて良い面があった。
 相手に与えたダメージこそ少ないが、防壁を最初に築きソレを満遍なく仲間たち全体を覆っていくようになっている。
 確かに優勢でこそないが、時間を掛けた場合は少しずつ有利になっていくだろう。
「良い頃合いね。まずは、その動きを封じてあげるわよ!」
 悠姫は周辺から霊気を集めると、弾丸として固めて撃ち放った。
 着弾と同時に敵の周囲でほどけ、相手を固定するために中途半端に物質化する。
「我らと同じ星の座に肖りて、此処に天の加護を! 火の厄尽く消え失せよ!」
 ローゼスは剣を天に掲げて星の加護を願う。
 指し示すのは射手座、セントール達と同じ体形・意味を有する星座に願いの守護方陣を定めたのだ。
 こうして戦いは互角ながら、ケルベロス達の元にこそ勝利の星は見えているような気がした。
 少なくともローゼスは間違いないと豪語したであろう。


 灼熱の炎が周辺を埋めていた。
 それが何分も続けば、暖かくて良いと言えたのは最初だけだ。
 今では壁役たちも、必死で仲間を守っている。
「あっついよねー。桜子パーマになっちゃう!」
 キャリバーが丸焼きになり、桜子が防ぎ、ドワーフはロリ娘っ子だった。
 何を言っているのか判からないと思うが、とりあえず見たまま火が点いているかとどうか思っていて欲しい。
 後回しになっていたり、カバーに成功したり、できなかったりしただけだ。
「直ぐに治療しますよ」
「お任せしますわ。ですが……私は止まりなどしませんわ! その傷口を、更に広げてあげますわよ!」
 ローゼスが剣を振るって風を吹かせ始めると、癒しの風の中、カトレアは天を切り裂いた。
 周囲の空間を切り裂き、ダモクレスの防備ごと引きはがしていく。
「んー。また来そうだけど、ひとまずはいいかな~。んじゃ、攻撃攻撃っと」
 桜子は巨大なピンクのハンマーを掲げ、どっか~ん! と殴りこんだ。
 魔力で後押しし桃色の噴射を掛けて叩きのめす。
『燃えてる、もう終えてる。吠えてる。ボウボウ某暴ボ望!』
 お返しとばかりにオーブンレンジ型のダモクレスは、既に開きっ放しの内部から猛煙を吹き出した。
 閉まらない分だけため込むことができず、火力が低いというのにまだまだ暑苦しい。

 それを懸命に防ぎながら、中から熱い吐息が燃える。
「ヒールのお代わりー。こんな日は、一杯飲まなきゃやってられない!」
 ちはるは炎の中から、印を組んで現れた。
 左の人差し指を右手で包み、右の指先を立てるあのポーズ!
 印を解除するとその場に居たはずの、ちはるの姿が崩れ去る。よく見たら離れた場所で涼んでいるではないか。
「咲かせてあげよう、紅く染まった血の花を!」
 幻は全身を巡る稲妻を、掌に集めていった。
 刀の鯉口を切って指先を白刃に充てると、血の雫で濡れ雷光が迸る。
 紅の剣閃そのものが強力な斬撃と化し、まるで稲妻で作られた剣を振るうかのようであった。
「虚は実に、巨は実に。虚実は全て裏表。幻影の長さは自由自在です!」
 エレスが自分の周囲で振り回した棍は、短く持っていた状態から長く構えて距離を延ばす。
 回転と共に行うことで、肩幅くらいの距離は誤魔化せる。
 その認識に幻影を混ぜることで、両手程のサイズを誤魔化して直撃させたのだ。
「これを避けられる?」
 アルケイアは空に籠手を放り投げた。
 素直に落下するかと思ったら、光が弾けて中から鉄杭が射出された。それは風で補正を受けてダモクレスを縫い留める!!
「こんなところね……もう牽制の必要はないでしょう」
 悠姫が再び砲撃を掛けるころには、攻撃はかなりの確率で当たる事だった。
 これから威力重視に切り替えて、ささと倒してしまう事にする。
 砲撃していたハンマーも、さっと伸ばして打撃形態に変形させた。
「こんな感じで良いですか? しかし奇妙な気分ですね。一人で戦場を駆けている時はこのような事はありませんでしたので」
「そーそー。涼しー。まあこれから何度でも味わえるんじゃない? ちはるちゃんは攻撃されたいとは思わないけどさ」
 ローゼスの起こした風の中で、ちはるは手の平で仰ぐのを中断する。
 ここからは早く倒した方が早いので、少々は我慢するところだろう。


 敵の放った極限温度は汗をもたらすが、盾役たちは気にせずに反撃に出た。
「桜の花々よ、紅き炎となりて、かの者を焼き尽くせ」
 桜色のエナジーが花弁となってダモクレスを覆う。
 桜子の放った花弁は、接触すると紅蓮の炎となって覆いつくした。
「――すぐ終わるよ。痛みも、命も」
 ちはるは仲間の陰に入り込み、死角を渡る様にして攻撃を掛ける。
「おねがいしていーかな?」
「いーですとも。では私が先に行きますよ。
 ちはるが自分の陰に隠れたのを見て、エレスはクスっと笑って幻影で一緒に覆い隠してあげた。
 振り回す棍で敵の視覚を誤魔化しコードを消し去りながら、相手の火力を落とす。
 その隙を使って隠れ潜んだちはるは、短刀をザクザク突き刺して伝達系を麻痺させる毒を塗りたくった。
「ハイヨー!!」
 アルケイアは壁を走り高い天井へと駆け上り、一気に突撃を掛けた。
 重力によって威力を倍増させ、さらに人間よりも数の多い足でけることで、さらに威力を倍増させる!
 できれば回転もしたかったところだが、残念ながらこの体では難しいので風を吹かせて着地することにした。
「わたしの狙撃からは、逃れられないわよ!」
 悠姫がガジェットを変形させると、何度目かになる特殊な弾丸を撃ち込んだ。
 それはこれまでも時折効果を発揮したように、動きを阻害する力があるのだ。
「ふむ。攻撃しても良いかもしれませんが、念のために回復しておきましょうか。修復と呼ぶのかもしれませんが、同じことです」
 ローゼスは後回しになりがちだった、ちふゆのヒールを行うことにした。
 剣を構えると優しい風が吹き、他の仲間ともども癒しておく。
 ブルブル震えてるのは、きっとお礼なのだろうとウンウン頷いておいた。
「その身に刻め、葬送の薔薇!バーテクルローズ!」
 カトレアは恋人がこの場に居ないという事実を切り裂き、克己と共に炎から飛び出していく。
 ダモクレスの周囲を踊るように切り刻み、最後は大量の闘気を送り込んだ。
 二人がダンスを中断し一人が消え去ると、薔薇の様に破裂して爆発したのである。
「という訳で、トドメ」
 最後は幻の刀が敵を切り裂き、キンと納刀する音が聞こえた。
 そしてガランと音を立てれば、戦いの終了である。

「皆、お疲れ様ー。怪我した人はいないかな?」
「おかげさまで、というところかな」
 桜子が確認すると、幻はケルベロスコートを着込んだ。
 敵を倒すと、途端に寒い風が吹いてくる。
 施設の構造上開けているのと、炎上した空気は上に逃げるからだ。
「火の用心、というのでしたね。始末していきましょうか」
「そうね。山火事にならない様に、しっかりと消火活動しておきましょう」
 ローゼスが剣で燃えた場所を切り落とし、ヒールを使って再生していく。
 それにカトレアも加わり、修復作業が始まった。
「そういえば、これは人に向けても鎮火できるのでしょうか?」
「やめておいたら? ……人に向ける物じゃないから」
 アルケイアが消火器をもって首を傾げると、悠姫が説明してあげる。
 幸いにも悪ふざけする人はいないが、人に向けたらヌレヌレになってしまう。
「場所が場所だけに、炎や熱のせいで服が焦げたり煙の臭いがしみついてしまいました。新しい服を新調しないといけませんね」
 一通り終わったところでエレスは幻影を使って焦げを隠すが、さすがに臭いまでは消せない。
「ほんとにもー、廃棄されたからって自分の役割まで放棄してどうするの。多少でもまともだったら、夕飯のオカズ調理して欲しかったのに……」
 ちはるはそんなことを言いながら、残骸になったレンジを処分場の隅に置いて去ることにした。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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