ホットドッグ熱い犬

■リプレイ

●ホットドッグへの道
　ヘリオンから降りたケルベロス達は現場の倉庫に通じる駐車場を横断していた。
「むぅ、今回もおいしいものを作ってくれる機械が犠牲に……ここは何としても止めないとだ」
「今度はホットドッグメーカーか……ダモクレス勢力の動き、まだまだ活発みたいだね。町の平和も美味しい思い出も、守り抜かないと！」
　鉄・千（空明・e03694）と影守・吾連（影護・e38006）の通称どらごにあんずは打倒ホットドッグダモクレスの意気込みをえいえいと表し合っている。
「うーん、相変わらずこの手のダモクレスが出てくるよなぁ。もとが減らせないならその都度叩くしかないんだけどさ」
　そんな二人の横を行くネロリの香りはメリルディ・ファーレン（陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015）だ。
「ホットドックって、食いもん……だったよな？　犬っぽいことになってても名前以外は無関係なんだよな？　つか、ダモクレスのくせにそういう芸は細かいんだな！？」
「ホットドッグ、喋るとワンワンなんだ？　ダモクレスにそんな洒落がわかるやつがいたのか何なのか」
　事前に調べてきた長久・千翠（泥中より空を望む者・e50574）は何か変な情報を得てしまったらしく、狗肉の混入を恐れているらしい。そんな千翠を瀬入・右院（夕照の騎士・e34690）は騎士として安心させてあげようと「洒落だ」と強調していた。
「素がホットドッグメーカーだからって形状まで犬になるんかいっ！？　ベタすぎる展開に呆れしか出てこないぞ……」
　小さな体躯から青い三つ編みを揺らしながら、蒼天翼・真琴（秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526）はため息をつく。
「美味しそうな匂いがするけれど……このまま街中に疾走されると困るね。早いところ止めないと」
「被害を出さないためにも手早く終わらせよう……リム、おやつは戦いが終わってからね？」
　鉄・冬真（雪狼・e23499）と御影・有理（灯影・e14635）が漂ってくるホットドッグの匂いに気がついた。有理が抱いているボクスドラゴンのリムがたまらずジタバタとしている。
　犬の鳴き声にホットドッグの焼ける匂い。ケルベロス一行は件の倉庫に到着した。

●犬とのたたかい
『ワンワン！！』
　果たしてそのダモクレスはケルベロス達に向かって犬の鳴き声で吠えてたていた。地獄の番犬にホットドッグメーカーの犬とはこれいかに。
「ほんとにワンワンって言ってる……とりあえず、耐性をつけます！」
　ともすれば脱力しそうな絵面だったが、キリリと戦闘の顔に切り替えた右院が前衛に紙兵を散布した。
「まずは走り回らないようにしようねぇ」
　メリルディが古代語を詠唱すると魔法の光線が放たれ、ホットドッグダモクレスに石化を試みる。
「ワン！」
　石化光線を浴びせられたホットドッグダモクレスは驚いたのか、メリルディに向かってホットドッグビームを放つ。
「やーっ！！」
　羽根としっぽを出した吾連がメリルディの前に飛び出し、クロスさせた腕でホットドッグビームを受け止めた。
「覚悟はしてたよ、してたけど……めっちゃくちゃ美味しそうな匂いする！」
「むぅ……ホットドックビーム、お口で受けるの危険そう。美味しそうな匂いしてるのにひどいのである！」
「……吾連は大丈夫だけど……千、リム、念の為言っておくけど食べちゃダメだよ？」
　ホットドッグの焼ける匂いに動揺している吾連と千、リムに冬真は念のため釘を差した。
「冥き処に在して、三相統べる月神の灯よ。深遠に射し、魂を抱き、生命の恵みを与え給え」
　飛んでいったリムを尻目に有理は吾連の傷を癒す。リムは近くまで行ってみたものの、次のホットドッグがまだ焼けていないようなのでブレスを吐いて戻ってきた。
「ほんとに犬の肉じゃないんだな？　あんまり食べもんを粗末にしたくないがなあ。絡め取れ。握り潰せ」
　千翠が自らの呪いを触手に変え、ホットドッグの射出部分を損傷しにかかる。唐草のような触手がまるで墨絵のようだ。
「むむぅ…ワンワン、ちょっと攻撃しづらいけど頑張るのだ！　……ホットドックを食べるために！」
　千は戦闘後もうホットドッグを食べる気満々でよだれをひっこめると、轟竜砲をぶちかました！
『わんわん！　ぐるぐるわん！』
　石化や足止めで動きづらいのが不愉快なのか、ホットドッグダモクレスはぐるぐるとうなり吠える。
「確かにちょっと戦い辛いね……手加減する気はないけど」
　動物好きの冬真はどうにも気が引ける部分はあれど、心を鬼にして氷の斬撃を放った。
「お腹減るけど、戦いの後まではどうにか耐えてみせるよ！　千、リム。一緒に頑張ろう！」
　吾連は掌からドラゴンの幻影を解き放ち、敵に炎を浴びせる。
「まぁ、元は役目を終えた機械、現状で言えば老犬だ。早いところ、休ませてやらないとな」
　真琴は蒼い炎を閉じ込めた冷焔龍手を振り上げ、相手を凍結させる一撃をお見舞いした。
　戦いはまだ始まったばかりだ。

●アツアツを喰らえ
「濡れるもまた風情」
　右院の斬撃から滑るように冥府深層で濡れた氷の花が咲き乱れ舞い散る。
「Corneille noire」
　メリルディのナイフの刀身にホットドッグメーカーと同じ時間を流れていったらしいだれかの記憶がきらりと映った。
『ウー、ワンワンワンワン！！』
　トラウマを刺激されたらしいホットドッグダモクレスがエネルギーに満ちたコッペパン弾を射出する。
「武器封じなら負けてない！」
　飛び出した千翠が再び触手を繰り出し、万力のような力でコッペパンを握りつぶし無力化させた。
「本当にホットドッグが飛んでくるんだね……」
　ブレイブマインで後衛に付与をしながら、有理は潰れたコッペパンを見やる。コッペパンは地面に落ちる前に消えてなくなった。リムがブレスを吐いたが、ダモクレスは足元を固定されたまま器用に避ける。
「有理、もうすこし下がって」
　近づきすぎていた有理の肩をそっと抱いて後ろに下がらせた冬真は竜を象った稲妻を敵に放った。
「ちょーーーーあーーーーー！！！」
　稲妻にしびれたダモクレスをすかさず指でちょあちょあと攻撃する千。足がしびれた人にめっちゃ嫌がらせする子のように！　ヒドイ！
「うわっ、ちょっと思い出しちゃったな……」
　自分がしびれた時にやられたのを思い出したのか一度ぶるっと身震いするも、吾連はスターゲイザーを蹴り込んでいく。
「動きが鈍ってきたな」
　真琴は自らに纏った封魔守装を鋼の鬼に変え、拳でダモクレスの外装を砕いた。
　戦いはまだまだ終わらない。

●さよならホットドッグ
　激しい攻防戦が続いた。
「っく、そろそろ決まってもいいはずなのですが」
　右院が今まで相手に与えてきたダメージを斬り広げている。機械の犬は驚く程しぶとかった。
「ほら、いっくよー！　あっだめケルス、これは攻撃に使うやつっ」
　メリルディが魔法の熱で熱したポップコーンを散弾のように撃ち出すと、匂いに釣られた攻性植物のケルスが定位置からはみ出してきて、引っ張り戻された。
『ワン！！　ワンワンワンワン！！！』
　ボロボロのホットドッグダモクレスはブルブルと身震いしてめりこんだポップコーンを落とすと、生きているホットドッグ焼きの機構を全て使って巨大な魔力の奔流をほとばしらせた！！！
　奔流は後衛へ向かい、前衛のディフェンダー達は急いで庇いに行く。
「ぐうっ……！！」
「冬真！！」
　放たれた膨大な魔力は有理を抱きかかえ庇った冬真の背中をひどく灼いた。膝をつく冬真を自ら揺籃となって優しく包み込み、有理は急いで傷を癒した。リムも慌てて属性をインストールしている。
「なりふり構わないか。随分苛烈になってきたな」
　冬真ほどではないにせよ、仲間をかばって傷を追った吾連と自らに千翠のメタリックバーストが、朝日の中の種子のように光りながら散らばって癒しを与えていく。
「唸れ！らいおん丸！」
　千の呼び出した幻影、ライオン丸が彼女の両の拳に宿ってにゃんグローブと化した。そのまま可愛らしくも恐ろしい百獣の王の打撃が繰り出される。
『ワンワン！！　ワン！！』
　ケルベロス達の猛攻撃に吠え立てるホットドッグダモクレス。戦いの終わりは近い。
「ありがとう有理、もう戦える。そろそろ与えなければ。――終焉を」
　治療を受けていた冬真は眉を寄せつつも立ち上がり、黒塗りの短刀、哭切で敵の急処を貫く。
　それでもまだ、ダモクレスは動いていた。あと少しなのに。
「怒號雷撃！」
「万象生みし根源たる力、我が血の元に呼応せよっ！」
　家族である冬真を激しく傷つけられた怒りを載せた吾連の雷が、噛み破り流した傷で真琴が染めたいくつもの符が作り出し動かす風と大地の中を駆けていく。
『ワオー……ンン……！！！』
　激しい合体技を受けたホットドックダモクレスは遠吠えとともに四散した。
　戦いは終わった！

●ホットドッグを食べに行こう
「有理、怪我はない？」
「吾連、リム、怪我ないか？　だいじょぶか？」
「冬真こそ、さっきの怪我の痛みはもう大丈夫なの？」
「俺は大丈夫だよ、千とリムは平気？」
　家族たちは、お互いの無事と怪我の具合を互いに確かめ合う。
「うーん、結構しっちゃかめっちゃかだねえ」
「俺はヒールは持っていないが片付けなら手伝うぞ」
　激しい戦闘で損傷した倉庫をメリルディと真琴がせっせと片付ける。
「予想はしていたけど、飛散がひどいね」
「ヒールなら任せてくれよ」
　千翠がヒールで整えると、なぜか消えずに残っている飛び散った油を右院が掃除した。
　戦闘終了すぐに任務遂行の連絡をしたので、片付けているうちに駐車場に買い物客の車が少しずつ入ってきていた。
「さあて、俺は夕飯の買い物をして帰るとするかな」
　主夫の嗅覚で、モールの営業が止まっていた分食料品売り場が混むと踏んだ真琴はひらひらと手を振ってショッピングモールへ小走りで駆けていった。
「お待ちかね、おやつの時間！　ホットドッグを食べに行くよ！」
「ホットドック店へごー！」
　吾連がそう言うと嬉しくなった千がぴょんと飛び上がった。
　右院と千翠、メリルディも一緒にホットドッグを買いに向かう。
「みんなおやつの時間を楽しみにしていたんだね」
　吾連と千について行ってしまった小竜を見送る有理に手を差し伸べる冬真。
「有理、デートしてくれませんか？」
「よろこんで」
　差し伸べられた手を取って有理も歩き出した。

●それぞれのホットドッグ
　ショッピングモールのフードーコートでホットドッグを買うと、冬真と有理の二人は吾連達に一言行ってそっと姿を消した。
「ではではお待ちかね……打ち上げも兼ねてホットドック会である！　千はケチャップと粒マスタードのがいいのだー！　むふー、何本たべよ……お腹ぺこぺこである！」
「ケチャップとマスタード付けて、と。ホットドッグはシンプルなのが一番好きだな。今ならいくらでも食べられそう！」
　千と吾連のどらごにあんずは、リムに分けてやりながらお待ちかねのホットドッグを沢山食べた。
「うん、ウィンナーがぷりっとしてて美味しい。ケルスは興味だけ示して食べないんだもんなあ」
　メリルディはうんともすんとも言わない攻性植物の収まる定位置をぽんと叩く。
「犬の肉がデマだってなら安心して食べられるな。マスタードもケチャップも沢山つけるぞ」
「余談ですが俺は粒マスタード派です……あっ、ピクルスが入ってる。でももったいないので食べます、頑張る……！！」
　千翠と右院は戦闘の空腹を埋めるようにたくさんのホットドックをもりもりと食べていた。
　少し離れた場所……ショッピングモール内、噴水のある休憩所で。
「こういう場所でのデートもいいね」
　ホットドッグを両手で持って頬張る妻が新鮮で、冬真は思わず食べ進める口元を見つめてしまう。
「口元にケチャップがついてるよ」
「え、ケチャップ？」
　有理が確認するより早く、柔らかな唇の感触と、悪戯な夫の笑顔がそこにあった。本当にケチャップついてたのかな……。
「食べ終わったら僕たちも夕飯の買い物に行こうか」
　二人の戯れはちょうど偶然が重なって、誰にも見られていないようだ。
　……実は食材がパンパンにつまった買い物袋を下げて通りかかった真琴が背後で思いっきり見ていたのだが、彼は義に厚いタイプなので見ないふりをしてくれたのだった。

作者：星野ユキヒロ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年12月11日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。