「参ったな。すっかり遅くなってしまった」
夜道にこつこつと靴音を響かせて、エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)は家路を急いでいた。
仕事を終えて帰る途中、偶然にも病気で倒れた女性に処置を施していて遅くなったのだ。もう少し遅ければ危ないところだったと、病院の医師から聞かされた。
「ありがとう、か……」
女性から贈られた感謝の言葉を思い出し、エメラルドは心が温まるのを感じる。
疲れてはいるが、気分は悪くない。今日はこのまま、ゆっくりと寝る事にしよう――。
そう思ってエメラルドが足を速めようとした時、遠くで雷鳴が轟いた。
「これは一雨来るかな……ん?」
ふと夜空に目を向けた矢先、気づけば道の先に、何者かの気配があった。
次いで辺り一帯を覆いつくすのは、氷のように冷たい悪意。
悠然と近づいて来る人影を捉えた瞬間、エメラルドの表情が凍りつく。
「……――!!」
『随分と下らぬ事をしておる。あの大勢殺したヴァルキュリアがのう……』
しわがれた声の主は、髭を蓄えた男だった。一丈にも及ぶ身の丈は、彼がエインヘリアルである事を示すものだ。
『用件は言わずとも分かっておろう? 儂の可愛い手駒よ』
「……黙れ」
悪意を込めた重圧を振り払うように、気づけばエメラルドは武器を取っていた。
あの酷薄な笑みを、魔導書が放つ光を、忘れた事はない。忘れられるはずがない。
エインヘリアルもまた、そんなエメラルドを見下ろして、
『刃向かう気か? ……よかろう』
得物の魔導書を開き、グラビティを注ぎ始める。
狩りの前に獲物をいたぶる、猛禽のごとき笑みを浮かべて。
「緊急事態だ。エメラルド・アルカディアが襲撃を受ける未来が予知された」
ヘリポートに呼び集めたケルベロスに、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は単刀直入に用件を切り出した。
既にエメラルドとは連絡が取れず、事件発生までの時間は殆ど残されていない。
一刻の猶予もない状況だが、今から急行すれば辛うじて救援が間に合うと王子は言った。
「敵はゾーゲルという名のエインヘリアルだ。高い戦闘力を持つ戦士で、エメラルド一人では勝ち目はないだろう。急ぎ、彼女の救援に向かってもらいたい」
現場となるのは、街外れにある川沿いの歩道だ。
周囲は人払いがなされ、エメラルドとゾーゲル以外に人影はない。視界も確保されており、立ち回りに支障はないだろう。
「ゾーゲルは催眠やプレッシャーを付与する攻撃を得意とし、窮地に陥ると1回限りの強力な範囲攻撃を駆使してくる。優れた回復力を併せ持つ相手ゆえ、十分に注意するようにな」
ゾーゲルとエメラルドの間にいかなる因縁があるのかは分からない。ただひとつだけ確実なのは、このままではエメラルドの身が危ないという事だ。彼女が命を落とす事態だけは、絶対に避けねばならない。
そうして王子は発進準備が整った事を告げると、ケルベロス達を見回して言った。
「さあ出発するぞ。皆でエメラルドを救出し、ゾーゲルを撃破してくれ!」
ケルベロスを乗せたヘリオンが、夜の闇を切り裂いて飛んでいく。
参加者 | |
---|---|
セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184) |
源・那岐(疾風の舞姫・e01215) |
草間・影士(焔拳・e05971) |
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455) |
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441) |
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586) |
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384) |
ケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480) |
●一
ヘリオンから降下を完了するや、番犬達は一斉に動き出した。
川沿いの夜道を、ひたすら一直線に駆けていく。彼らの目的は仲間の救出、そして襲撃をかけたデウスエクスの撃破だ。
「エインヘリアルめ。我ら妖精族を利用したこと、絶対に許さない!」
蹄を鳴らし疾駆するのは、ケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)だ。
かつてアスガルドの妖精達を侵略の尖兵として利用した憎きエインヘリアルに、ケイトは怒りを隠さない。
「『宝玉堕としの』ゾーゲル……洗脳術を使う敵か。碌な奴じゃなさそうだ」
未だまみえぬエインヘリアルの姿を思い描き、草間・影士(焔拳・e05971)は鍛え込んだ拳を固く握りしめた。
影士にとって人の生死は、本人の意思が選んだ結果であるべきもの。それを操るなど、生きながらにして命を奪う行為と同義だ。
「何としても助けないとね。『彼女』がどんな道を歩んできたか、私には分からないけど」
初対面でも手伝いたい、守りたい、そう思えることが嬉しいわ――。
仲間の身を案じるセレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)が、迷いのない顔で呟いた。
「皆! 彼女の所へ、そろそろ着くよん!」
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)が光の翼で飛翔しながら告げる。彼が視線の先に捉えるのは、街灯よりも眩い二つの光だ。
一つは、ヴァルキュリアの輝く翼が放つもの。
そしてもう一つは、強烈な悪意と害意に満ちた紫色の光だった。
あの紫光の主こそ、『彼女』を苦しめたエインヘリアルに違いない。空気を介して伝わる重圧に、永代の全身が総毛立つ。
「ひと暴れといこうか。皆よろしくねん!」
「任せて! おもいっきりぶっ飛ばしちゃおう!」
拳を突き上げて応じたエヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)は、ウィッチドクターの治療器具を手にひた走る。傷ついた仲間をいつでも癒せるように。
「沙耶、大丈夫ですか?」
「ええ……平気です」
最前列を疾駆する源・那岐(疾風の舞姫・e01215)の問いかけに、義弟の婚約者でもある如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)はぎこちない首肯で応じた。
罪なき者を惑わし、戦場へと送り込むエインヘリアル――面識のない相手ではあったが、沙耶の過去がはっきりと告げていた。あの敵を許してはいけないと。
冷たい殺気はいや増す。戦場が近いようだ。
「皆、準備はいいかな? では行こう」
先頭の影士に頷いて、番犬達はいっそう走る。
襲われた仲間、エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)。彼女が巻き込まれた因縁との決着の舞台へと――。
●二
『用件は言わずとも分かっておろう? 儂の可愛い手駒よ』
「……黙れ」
取り出した避雷針に雷の力を注ぎ、エメラルドはゾーゲルを睨みつけた。
幾度、この男の悪夢にうなされただろう。幾度、この男を討つ日を夢見ただろう。
望み続けた絶好の機会。だというのに、かつてゾーゲルの力に屈した記憶はエメラルドの中でなおも呪縛となって残り続けていた。
(「く……恐れるな、エメラルド」)
避雷針の先端がぶれ始める。ゾーゲルはそれを見て、口の端を歪めて笑った。
『刃向かう気か? ……よかろう。せいぜい儂を楽しませろ』
嘲笑と共に魔導書が手繰られ、重圧をもたらす呪言が放たれる。
ゾーゲルの重々しい声に、まるで鎖のごとく身と心を縛りつけられ、エメラルドは自分の抵抗心がみるみる崩れ去っていくのを感じた。
『どうした? 儂に向けた刃、はよう振るってみろ』
「ふざ……けるな……!」
エメラルドは血が滲むほどに唇を噛み締め、精一杯の抵抗を込めてゾーゲルを睨む。
「私はケルベロスだ……! だからお前を――」
『お前を殺す事も出来る、とでも言うつもりか? そのザマでか?』
「ぐっ……うう……」
『のう、ヴァルキュリア。儂は貴様を、この世の誰よりも大事に思っておるのだ』
優しい笑顔に似た表情を浮かべ、ゾーゲルは言う。
無抵抗の相手をいたぶる時、真実のない言葉を喋る時、この男が見せる表情だった。
『儂の手駒となり、儂のために戦え。いま跪けば許してやる』
その言葉が偽りである事は、凶悪な輝きを増す魔導書の光が物語っている。
『さあ跪け。今ここでだ』
(「そうだ。私はあの時も、奴の力に抗えなかった」)
勝てる訳がない――そんな心の声にエメラルドが屈しかけた、その時。
「そこまでだよん、爺さん?」
白焔を帯びて割って入る永代を筆頭に、番犬達が次々に駆け付けたのだ。
「エヴァリーナさん、彼女の回復を!」
『む、新手か……』
沙耶の手から放たれる如意直突き。魔導書を盾となし、突きをガードするゾーゲル。
それを皮切りに隊列を組んだ那岐が、ケイトが、影士が次々に攻撃を開始し、静寂の空間は苛烈な戦場へと様変わりした。
「エメラルドちゃん、もう大丈夫だよ!」
続けてエヴァリーナがエメラルドの負傷を見切り、『白き魔女の秘薬』を投与。回復に優れるポジションの効果で重圧の障りを取り去っていく。
『やれやれ、番犬どもが嗅ぎつけおったか。邪魔をしおって』
「邪魔をする? そんな程度で済ませるとでも?」
那岐の手から鞘走る剣閃が、幻影の薔薇を従えながら食らいつく。回避を試みようとするゾーゲルの周りを、那岐と息を合わせたケイトが翻弄するように駆けながら、砲撃形態へと変形した竜鎚を構える。
「容赦はしない、エインヘリアル! 我らケルベロスが蹂躙してやる!」
「加勢するよエメラルド。そこの男を放っておいたら、碌な事にならなそうだ」
竜砲弾の炸裂がゾーゲルを捉えた。足を止めたゾーゲルの巨体を縛り付けるのは、影士が生成した地を這う炎鎖だ。
「この一撃で、打ち砕く」
全身に闘気の炎を纏った影士が夜空へ跳躍。爆発する炎を推進力に、ロケットのごとき勢いで『焔流閃』の蹴りをゾーゲルに叩き込む。
「もう安心よ。あんな敵の思い通りにはさせないわ」
足止めと重圧を積み重ねていくゾーゲルを、セレスティンは研ぎ澄ました感覚でコマ送りのように知覚しながら、エメラルドに微笑みを送った。
「ありがとう皆……本当に……」
「無事でよかった。心配したよん?」
少しずつ調子を取り戻し始めたエメラルドに、安堵の吐息を漏らす永代。
彼はそのままゾーゲルに向き直ると、一転して真剣な声色と共に、女神の幻影をゾーゲル目掛け浴びせかける。
「――爺さん。彼女を傷つけた代償、高くつくぞ」
『笑わせる。やってもらおうか、番犬ども』
ケルベロスとゾーゲルが散らす火花が、夜闇を照らしていく。
●三
「ゾーゲル。私は負けない……!」
「さて披露するのは我が戦舞の一つ。必殺の銀色の剣閃!!」
エメラルドが放つ雷光に続き、那岐が銀色の風に乗せた剣閃で敵を捉える。
雷と追撃の連続攻撃を、ゾーゲルは魔法陣から生成する障壁でガード。魔導書が放つ紫の光を浴びて回復を図ると共に、状態異常付与の力を増幅させていく。
沙耶は即座に音速拳を叩きつけるが、ゾーゲルの増幅した力を破壊するには至らない。
『無駄な真似を』
ゾーゲルが嘲弄の言葉を沙耶に投げようとした、その時だった。
「どうぞこの華を越えていらしてください」
セレスティンの『曼殊沙華』がゾーゲルを取り囲むように咲き乱れ、破剣の呪力を帯びた麻痺毒が増幅した力を消滅させた。
「自分の思い通りにことが運ぶのはそりゃぁ楽しいでしょう。けれど、地球は貴方達のいたアスガルドとは違うのよ」
自分達ケルベロスがいる限り、エインヘリアルの暴虐を許す事はない。
黒衣に身を包むシャドウエルフの嫣然とした微笑を、ゾーゲルは嘲笑で応じてみせる。
『下らぬ。いずれこの惑星も、儂らの地となる宿命よ』
影士の月光斬に腕を切り裂かれながら、ゾーゲルはなおも余裕の笑みを崩さない。それを見た永代は、ドラゴンサンダーと共に挑発の言葉を放つ。
「よう、爺さん。あんたの可愛い手駒とやらに、追い詰められる気分はどうだ?」
『くく……見え透いているな、小僧。その手には乗らぬよ』
ゾーゲルはパラライズによって時折行動を阻害されつつも、攻撃と織り交ぜて行う回復で永代が付与する怒りを巧みに解除している。永代ひとりに狙いを絞らせる程には、やや手数が足りないようだ。
(「んんー……これは一人じゃ厳しいかな」)
妨害に優れたポジションから撃ち続けるか、仲間からの援護があったら、あるいは結果は違ったかも……そんな考えが永代の脳裏をよぎった。
「ケイトちゃん、どんどん攻撃お願い!」
「了解です、エヴァリーナさん」
番犬鎖で描いた魔法陣の力で前衛を包み、支援に専念するエヴァリーナ。
息を合わせ動いたケイトが、オーラの星をゾーゲルめがけて蹴り飛ばす。8人の中では最も実戦経験の少ない彼女だが、その戦いぶりは他の仲間にも全く引けを取らない。
「回復を上回る打撃を叩き込み続ければ……勝てる!」
『くっくっく……』
オーラの星に服を破られた直後、ゾーゲルは愉快そうに笑い始めた。
『貴様らに教えてやろう。ひとたび心が屈した者は、永久に奴隷のままだとな』
「あの光は……まずい!」
エメラルドが稲妻突きを放つのと同時、精神砕きのグラビティが魔導書から溢れ出た。
禍々しい紫の光が、ケルベロスを包む。
●四
「させるか……っ!」
瞬時に跳躍して影士の盾となったエメラルドは、ゾーゲルの光を全身に浴びた。
笑みを浮かべたゾーゲルが、ゆっくりと手招きする。
『ヴァルキュリアよ。儂の下へ来い』
「…… ……」
「エメラルドさん!?」
シャウトで催眠の力を吹き飛ばす沙耶。エヴァリーナが降らせる薬液の雨を浴びて催眠を払う那岐と影士の横を通り過ぎ、エメラルドは虚ろな目でゾーゲルの下へ歩いていく。
那岐が放つ気力溜めも、エメラルドの催眠を除くには至らない。
『ヴァルキュリア、貴様は儂の何だ? あの番犬どもに教えてやれ』
「わ、私は……」
ゾーゲルに肩を抱かれ、ぼんやりと口を開けようとするエメラルド。
ケルベロス達は何とかエメラルドを助け出そうとするも、ゾーゲルは呪言と魔導書の光で執拗にそれを牽制してくる。
『さあ言ってみろ。貴様は何だ?』
「私は……あ、貴方の……」
エメラルドの言葉を遮るように、影士とセレスティンの刃がゾーゲルへ食らいつく。
「エインヘリアルの言葉は毒に過ぎる。少し黙っていてもらおうかな」
「エメラルドさんは私達の大事な仲間。連れて行かせはしないわ」
影士が叩き込む旋刃脚、そしてセレスティンが放った稲妻突きが立て続けに命中し、深い傷をゾーゲルに刻み込む。
「吹き飛ばしてやる!」
大きな重量を誇る馬の下半身を土台に、ケイトは轟竜砲を発射。放物線を描いて飛来する竜砲弾がゾーゲルの懐で炸裂し、直撃による致命打を浴びせた。
(「もう少し。もう少しでゾーゲルは倒れる……!」)
だが、ここでエメラルドが屈してしまえば――。
ケイトの視線が向かう先、エメラルドがゲシュタルトグレイブの矛先を味方へ向けようとしたその時、永代が行く手を塞ぐように舞い降りた。
「エメラルドちゃん!」
永代はエメラルドの身体を抱きしめ、両掌にバトルオーラの気力を収束させる。
ゾーゲルの呪縛から、彼女を解放するために。
「大丈夫、君は自由だ。囚われてなんか、いないんだよ」
「私は……駒……殺戮、の……」
「君は駒なんかじゃない。ほら笑って、目を開いて!」
そうして永代は力強い抱擁と共に、渾身の気力をエメラルドに送り込んだ。
彼がエメラルドに抱く、揺るがぬ想いを込めて。
「エメラルドちゃん。俺が分かる?」
「う……え、永代? 何をしている、戦闘中だろう今は!!」
「ははっ、ごめん。じゃあ早速あいつに叩き付けてやろうよん、君の歩く道を!」
永代が指さした先、ゾーゲルと切り結ぶ仲間達を見て、エメラルドの胸中には熱い想いが沸き上がるのを感じた。
皆が傷だらけになって戦ってくれている。駒ではない、自分のために。
(「私は手放したくない。この想いを、皆との絆を」)
それはかつて、ゾーゲルの配下であった頃には決して感じなかった想い。
戦う理由はそれで十分だった。
「すまない。迷惑をかけた」
「いいのよエメラルドさん。ここで出会ったのだから想いは一つ。やることは一つ」
「そうだよ! もう被害に合っちゃいけないのは、エメラルドちゃんも一緒だからね?」
ゾーゲルに攻撃を浴びせながら、セレスティンとエヴァリーナが微笑んだ。
「さあエメラルドさん。決着を!」
ケイトの星型オーラに服を破られるのも構わず、ゾーゲルは持てる力を魔導書に注ぐ。
もはや彼に後はない。形勢が覆らねば、待っているのは死だ。
『ち……! 出来損ないの木偶人形めが!』
執念を込めて前衛へと放った宝玉堕としの紫光は、しかし二人の盾に阻まれる。
一人は那岐。そしてもう一人は――。
「エメラルドさん!」
「ああ。問題ない」
催眠を振り切り、戦闘不能の一歩手前で踏み止まったエメラルドだった。
『馬……鹿な……』
「終わりだゾーゲル。私はもう、お前の悪夢を見ないよ」
エメラルドを苦しめ続けた男の幻影は、最早ない。
いま彼女の目に映るのは、持てる力を使い果たして地に這いつくばる、ただの老いぼれたエインヘリアルに過ぎなかった。
「私は駒でも木偶でもない。地獄の番犬、エメラルド・アルカディアだ!」
光の翼を暴走させ、突撃するエメラルド。
放電する粒子の塊となって迫る彼女を、ゾーゲルはどうする事も出来ない。
動けぬ体で、ただ従容と殺される事。それだけが彼に許された全てだった。
「これが私の全力だ――受けてみろ!」
心臓にグラビティを撃ち込む一条の雷鳴が轟き、死闘は静かに幕を下ろした。
●五
「皆、感謝するよ。本当に助かった」
宿敵を討ち果たしたエメラルドは、穏やかな顔で言った。
仲間達に感謝を告げ、程なくして現場の修復も終わる。
「お疲れ様。エメラルドちゃんもゆっくり心と体を休めてね?」
エヴァリーナはニッコリと微笑んで告げた。
「医者の不養生って言葉もあるし、まずは魔女医が元気じゃないとね!」
「ああ、そうだな。患者に気遣われては形無しだ」
エメラルドはエヴァリーナに微笑みを返し、帰還の支度を終える。
戦いは終わった。帰ったらゆっくり休んで寝床に着こう。自分には明日も、番犬として、ウィッチドクターとしての日々が待っているのだから。
「さあ、帰りましょう沙耶」
「……はい」
那岐は沈痛な表情を浮かべた沙耶に寄り添い、帰途に就く。きっとこの戦いで、彼女達も感じた事があったのだろう。
一人また一人と帰還していく仲間と共に、現場を後にするエメラルド。その背中を永代がそっと呼び止める。
「お疲れ様だよん。肩、貸そっか?」
「ふふっ……ありがとう、永代」
雷鳴の戦士は赤面し、そっと頷きを返すのだった。
作者:坂本ピエロギ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年12月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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