野菜の証明

作者:土師三良

●偏食のビジョン
「野菜なんか、だいっきらいどぅわぁーっ!」
 森の中でビルシャナが叫んでいた。
 タンクトップに短パンという季節感無視のスタイル。タンクトップの正面に記された『我が名は肉食王』という自己アピール。ビルシャナでなかったとしても、お近づきになりたくないタイプである。
 そんな彼の前には八人の男女が並んでいた。『お近づき』というレベルを通り越し、洗脳されてビルシャナの信徒となってしまった者たちだ。
「野菜なんざ、家畜にでも食わしとけ! 家畜が野菜を食い、その家畜の肉を人間が食う――これ以上にシンプルで美しい食物ピラミッドが他にあるか? 『野菜を食べないと、栄養が偏る』なんて抜かす奴らもいるが、そんな妄言は信じるな! ビタミンだの食物繊維だのは野菜以外からも摂取できる! たとえば、ほら……サプリとかそういうので。てゆーか、栄養が偏って、なにが悪いんだよ? 健康のために不味い野菜を食い続けるよりも、美味い肉をたくさん食って不健康になるほうがいいに決まってるじゃん!」
 信条を表明していたはずが、ただの開き直りになっている。
「あの……」
 と、一人の信徒が挙手して、自称『肉食王』に尋ねた。
「野菜を食うべからずという主張はよく判りましたが……果物は食べてもいいのでしょうか?」
「いいに決まってんじゃん。果物のない人生とか考えられんわ」
 肉食王(フルーツも好き)の返事を聞くと、他の信徒たちも次々と質問した。
「スイカは野菜ですか?」
「いや、果物だ。誰がなんと言おうと、果物だ。もちろん、イチゴも果物だ」
「穀物は食べていいのですか?」
「あたりまえだ。白いご飯がないと、焼き肉が捗らねーし」
「魚介類は?」
「正直、どーでもいい。でも、ツナ缶は外せないわなー」
『肉食王』よりも『お子ちゃま舌王子』という異名のほうが相応しいかもしれない。

●アガサ&ダンテかく語りき
「食欲の秋っすねー」
「そろそろ冬だけどね」
 感慨深げに呟くヘリオライダーの黒瀬・ダンテに比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)がつれない言葉を返した。
 ここはヘリポートの一角。アガサの他にも数人のケルベロスがダンテの前に立っている。
「で、食欲の秋がどうしたの?」
「いや、食欲の秋だからってわけでもないのかもしれないっすけど、食べ物がらみのビルシャナが現れたんすよ。そいつは超がつくほどの野菜嫌いでして、『肉食王』なんて名乗ってるっす。今のところは洗脳済みの八人の信者と一緒に長崎県大村市のキャンプ場の近くの森でギャーギャー騒いでるだけっすが、放っておけば、『野菜なんか食うな』という思想を世界中に広め始めるでしょうね」
「なんで、そいつは野菜を嫌ってるわけ? なにかのアレルギーとか宗教上の問題?」
「いえ、そういうシリアスな感じじゃないっす。ただの理由なき好き嫌いっすね」
「好き嫌いか……」
「しかも、お子ちゃま舌っす」
「お子ちゃま舌か……」
 呆れ返るばかりのアガサ。
「まあ、肉食王の好き嫌いはもうどうしようもないっすけど、八人の信者のほうは正気に戻る余地があるっすよ。だから、可能な限り、肉食王を倒す前に洗脳を解いてあげてほしいっす」
 野菜の美味しさや利点を教えれば、洗脳を解くことができるかもしれない。ただし、信者たちは洗脳の影響で理性が鈍っているので、理詰めで攻めるよりもインパクトを優先したほうが効果的だろう。
「テレビとかで流したら『嘘、大袈裟、まぎらわしい』なんてクレームがつきそうな言葉でも、ビルシャナの信者を説得する場合は許されます。虚実入り混ぜて野菜をアゲまくり、あるいは肉をサゲまくり、洗脳を解いてあげてください。言葉に頼らず、美味しい野菜の料理を食べさせるという手段もアリっすね」
「逆に激マズな肉料理を食べさせて肉嫌いにするっていう手段は?」
「それもアリっす。ただし――」
 にこにこと笑いながらも、ダンテはきっぱりと言った。
「――任務終了後、余った激マズ料理は責任をもって完食してください」
「……それ、なんて罰ゲーム?」
 死んだ目をして呟くアガサであった。


参加者
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)
比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)
イグノート・ニーロ(チベスナさん・e21366)
金剛・小唄(ごく普通の女子大学生・e40197)
之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)
北見・燈(冬幻燈・e85469)

■リプレイ

●森のスローターハウス
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ、参上っす!」
 凛々しくも痛々しい叫びが秋の森に谺する。
 声の主はシルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)。いかにも魔法少女といった衣装を身に着け、いかにも魔法少女といった杖を手にしている。
 そんな彼女から適度に距離を置いて、七人のケルベロスが立っていた。
「な、なんだ、おまえら!?」
 目を剥いたのは、タンクトップ姿のビルシャナ。その名も『肉食王』。後方には八人の信者が並んでいるが、彼らや彼女らもまた肉食王と同様、奇妙な闖入者に驚いているようだ。
「どうも、ケルベロスです」
 チベットスナネズミの獣人型ウェアライダーが一礼した。チームの黒一点であるイグノート・ニーロ(チベスナさん・e21366)だ。
「野菜を認めぬ偏食家の方々の噂を聞いて、お邪魔した次第」
 その言葉を合図にして、ケルベロスたちは次々と武器を構えた……と、思いきや、それらは武器ではなかった。
 包丁や鍋や携帯コンロ等の調理道具だった。
「え? ちょっと待て! いきなり、飯テロから入るの!?」
 動揺する肉食王に構うことなく、料理の準備を始めるケルベロスたち。
 いや、料理より前の段階の作業を始めようとしている者もいた。
 チーム最年少の之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)だ。
「肉食王さんのためにお肉を持ってきました」
 八歳とは思えぬ貫禄を漂わせる彼女が持ち出したのは、なんと生きた鶏である。
 もっとも、それはすぐに――、
「こけーっ!」
 ――断末魔の声を発して、生きていない鶏に変わったが。
「なにやってんだぁーっ!?」
 肉食王は絶叫した。
 信者たちも大きなショックを受けたらしく、ある者は目を見開き、ある者は目を背けている。
 そのようなリアクションを前にしても、しおんはマイペース。知り合いから贈られた包丁セットを用いて、鶏の解体を始めた。首を切り落とし、体を逆さに吊るして血を抜き、羽を毟り……残酷に思えるかもしれないが、鶏肉を食べるためには決して避けて通れぬ過程なのだ。ビルシャナに限らず、食べ物を粗末にする者たちはしっかりと目に焼き付けておくべき光景であろう。
「肉を食べるのは、命をいただくということなんだ」
 と、信者たちに語りかけたのはアラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)。料理を愛してやまないレプリカントである。
「だから、その命に感謝して食べなくちゃいけないんだぞ」
「……」
 信者たちは無言。皆、神妙な顔をしている。しおんがもたらした強烈なインパクトによって、洗脳が解けかかっているらしい。
 そんな彼らや彼女らを丸め込むために肉食王が口にした言葉は――、
「惑わされるな! これは確かにショッキングな光景だが、肉を愛する俺たちには関係ない! なぜなら、鶏は肉じゃないから!」
 ――かなり無理のあるものだった。
「だって、ほら、チキンサラダってあるだろ? サラダは野菜の集まりなんだから、チキンもきっと野菜なんだよ!」
「ちょっと前にSNSで流行った某パンダみたいなことを言ってんじゃない!」
 と、レプリカントのソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)が激しい勢いでツッコミを入れた。
 一方、しおんは冷静沈着。
「鶏は肉じゃない? では、豚はどうですか」
 なんと、生きた子豚を連れてきた。
 もっとも、それはすぐに――、
「ぶひーっ!」
 ――断末魔の声を発して、生きていない子豚に変わったが。

●森のキッチン
「ソーセージと法律は作る過程を見ないほうがいい――そんな言葉があるらしいですが、皆さんはしっかり見ておくべきですよね」
 熟練の職人を思わせる手慣れた様子でソーセージ作りを始めるしおん。
 そんな彼女に対して、肉食王は――、
「……」
 ――もうなにも言わなかった。賢明な判断だ。下手なことをまた口にすると、しおんは羊や牛、果ては鯨の解体まで始めるかもしれない。
「さて、この鶏を使って――」
 肉と化した鶏にアラタが合掌し、それを手に取った。
「――寄せ鍋を作ろうか」
「信者くんたちは鍋は好きかな?」
 ソロが信者たちに問いかける。
 すると、皆の答えを待たずにイリオモテヤマネコの人型ウェアライダーの比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)がしみじみとした語調で言った。
「寒くなってくると、鍋が恋しくなるよねぇ」
「うむ。この時期の鍋は格別だ!」
 ソロは力強く頷き、アラタやアガサとともに鍋の下準備を始めた。
 その周囲を二匹のウイングキャットが飛び回る。
「先生も手伝ってくれるのか? じゃあ、もう少ししたら、鍋の火の見張り番を頼む」
「にゃあ」
 アラタの言葉に答え、『先生』という名のウイングキャットは地面に降りた。香箱をつくり、鍋に火がかけられるまで待機。
「点心! つまみ食いしちゃダメだよ!」
 と、もう一匹のウイングキャットに声をかけたのは金剛・小唄(ごく普通の女子大学生・e40197)。
「先生と一緒に鍋の見張り番でもしときなさい」
「ふにゃあ」
 不満げに鳴きながら、『点心』という名のウイングキャットも香箱をつくった。だが、その目は野生の欲望(『食い気』とも言う)の光を爛々と放っている。アラタたちが少しでも隙を見せたら、食材をつまみ食いをすることだろう。
 森の中で寄せ鍋用の野菜を刻む女性陣と、それを見守る二匹のウイングキャット――ほのぼのとした光景である。
 しかし、肉食王の心が癒されることはなかった。
「いや、寄せ鍋だからといって、野菜なんか寄せなくていいから! 鶏肉だけで充分なんだよぉーっ!」
 先程、『鶏肉は野菜だ』という暴言を発したことはすっかり忘れているらしい。
 それを指摘することもなく、ソロとアラタとアガサは野菜を刻み続けた。皆、手際が良い。アガサは飾り切りまで披露している。
「野菜を入れるなってばー! おい、無視すんなよぉーっ!」
 肉食王がアガサの肩に手をかけて揺さぶろうとしたが、実際に揺さぶることは(それ以前に肩に触れることさえ)できなかった。
 アガサが睨みつけ、吐き捨てるように呟いたからだ。
「つか、すっごい邪魔なんだけど?」
「……え?」
「ジャ、マ、な、ん、だ、け、ど?」
「す、すいません……」
 静かな迫力に気圧され、思わず謝る肉食王。
 その間抜けな顔の前を白い煙が流れていく。
「今度はなんだよぉ?」
 煙の発生源に目を向けると、そこではマフラーを巻いた少女――北見・燈(冬幻燈・e85469)が腰を屈めていた。
「なにやってんだ、おまえ?」
「見ての通り、焚き火を起こしているんですよ」
 と、こともなげに答える燈。
「火が必要なら、コンロを貸そうか?」
「結構です、アラタさん。やっぱり、これは焚き火で焼かないと」
 燈が持ち出した『これ』とは、この時節の飯テロの最終兵器。
 イモである。
 サツマイモである。
「おおう!?」
 と、信者たちがどよめいた。野菜は嫌いだが、焼き芋の魅力には抗えないらしい。
 肉食王も例外ではなかった。悔しげに唇(嘴)を噛みしめながらも、イモから視線を外すことができずにいる。
 そんな彼を押しのけて、小唄が信者たちに近付いた。
「この料理の求心力も焼き芋に負けてないと思いますよ。肉と野菜の完璧なコンビネーションが紡ぎ出す定番の一品ですから」
 小唄の右手にあるのは、カレーライスで満たされた皿。ここで調理したのではなく、作り置きを持参したのだ。
「この香りに皆さんは逆らえますか? ほーら」
 小唄は優しく微笑みながら、左手の団扇をぱたぱたと動かし、カレーの芳香で信者たちの鼻をくすぐった。もっとも、美味しそうな芳香はともかく、優しい微笑みのほうは信者たちに正しく伝わらなかっただろう。
 小唄はゴリラの獣人型ウェアライダーなのだから。
 しかも、所謂『目力』が常人離れしている。本人は微笑んでいるつもりなのだが、眼光鋭く凄んでいるようにしか見えない。
「美味しそうでしょう?」
 目力を更に強くして(繰り返すが、本人は微笑んでいるつもりなのだ)小唄が問いかけると、信者たちは一斉に頷いた。残像が生まれるほどのスピードで。何度も何度も。
『同意しないと、首の骨をへし折られる』とでも思ったのかもしれない。

●森のレストラン
「この場で二品目を作らせてもらいますね」
 小唄はカレーを信者の一人に押しつけると、新たな料理を作り始めた。
 しかし、信者たちが解放されたわけではない。
 小唄に代わって、イグノートが近付いてきたのだ。
「私も肉は好きですよ。しかし、野菜の価値を低く見ては、皆さまがお好きな肉料理の価値をも下げることになってしまうかと」
「そーだ、そーだ!」
 作業の手を休めることなく、ソロが声をあげた。
 彼女に軽く頷いて、イグノートは語り続ける。
「たとえば……皆様、ハンバーグはお好きでしょうか? 炒めたタマネギを種に混ぜるのは鉄板でございますね。更にデミグラスソースをたっぷりかけて召し上がりたくはございませんか? ここにもタマネギやトマト、野菜や香草で臭みを消したコンソメが使われております。そう、あの味は野菜なしでは生み出せないものだったのです」
「そーだ、そーだ!」
「またはオムライス。あれにケチャップは欠かせませんよね。そのケチャップの材料は?」
「トマトっす!」
 と、シルフィリアスが話に加わった。
「皆さん、知ってるっすか? アメリカでは野菜の定義が法律で決められてるんすよ。それによると、トマトペーストを使っているものは野菜なんだそうっす。つまり、ケチャップを使っている料理はぜーんぶ野菜っす」
「そーだ、そーだ!」
「いや、真偽不明の怪しい話にまで相槌を打ってんじゃねえよ!」
 相槌マシーンと化したソロに肉食王が怒声をぶつけた。
 そんな二人のペースに巻き込まれることなく、イグノートが信者たちに皿を差し出した。
「先程、オムライスの話をしましたが……論より証拠。一口いかがですか?」
 そう、皿の上に鎮座しているのはオムライス。中身はチキンライスなのだろうが、ケチャップが大量にかけられているので、シルフィリアの基準では『野菜』である。
「野菜の甘味と肉の旨味が渾然一体となって、たいへん結構なお味ですよ。さあ、どうぞ!」
「こちらもどうぞー」
 と、調理を終えた小唄が二品目を差し出した。
「菜心と豚肉の中華炒めです。青臭さも苦さもなくて、あるのは甘さとシャキシャキの食感のみ!」
 またもや目力にものを言わせて(くどいようだが、本人は微笑んでいるつもりなのだ)迫り来る小唄。信者たちに逃げ場はない。
 仮に小唄から逃げることができたとしても――、
「寄せ鍋もできたぞー」
 ――アラタたちの寄せ鍋からは逃げられないだろう。
「たっぷりの野菜に鶏やタラやエビやホタテのエキスを吸わせることで醸し出されたこの香り……堪らんだろう?」
 アラタが鍋の蓋を開けると、至高の香りを帯びた白い湯気が風に乗り、信者たちの鼻孔へと突撃した。
 信者たちのいる場所から、唾を飲む音が聞こえ、腹の鳴る音も聞こえた。どちらも一人分ではない。
「堪らんだろう?」
 と、アラタは同じ言葉を繰り返した。
「ネギも白菜もくったりとろぉ~り甘く、春菊はしゃっきり爽やかに、飾り切りのシイタケとニンジンもほくほくだ」
「そーだ、そーだ!」
 ソロが何度目かの相槌を打ったが、今回はそれだけでは終わらなかった。
「考えてみろ。この鍋に白菜やネギがなかったら、どうなる? 鍋として成立するわけがない。こんなにも鍋に貢献しているシャクシャクの新鮮な野菜のなにが不味いというのか? 鍋は正義! 故に野菜も正義! それを否定するのは食文化に対する冒涜であーる!」
「まあ、正義とか冒涜とかはさておき――」
 と、アガサも信者たちの前で語り始めた。
「――野菜なしでは寄せ鍋が成立しないという主張には同意せざるをえないね。肉だけじゃあ、この絶妙な味は無理。もちろん、アラタの腕前がいいっていうのもあるけど」
「いやいや、アガサやソロが仕込みを手伝ってくれたからこそだ」
 アガサの賛辞に笑みを返すアラタ。
 この時点で信者たちの心は陥落寸前であったが、ダメ押しとばかりに燈がトングを掲げた。
「焼けましたよー」
 トングに挟まれているのは例の最終兵器。
 イモである。
 焼き芋である。
「今の時期、焼き芋って美味しいですよね。ほくほくとしてて、甘くって……」
 トングから手に焼き芋を移して二つに割ると、甘い香りが湯気とともに立ちのぼった。
「野菜嫌いな皆さんのことですから、焼き芋もお嫌いなんでしょうね。でも、こんなにも美味しいものを食べないなんて、もったいないですよ」
「もったいないっていうか、取り返しのつかないことになるかもね。肉ばっかり食ってると、料理の機微も味わいも判らない舌バカな上に単純おバカなあの鳥みたくなっちゃうよ」
 肉食王に向かって、アガサが顎をしゃくってみせた。
「いや、頭だけじゃなくて、見た目も不健康なデブになるよね。そしたら、もう確実に人生終わっちゃう」
「終わっちゃいますね」
 と、信者たちより先に小唄が頷いた。
「たとえデブらなかったとしても、肉だけの食生活を続けてたら、体臭も口臭もきつくなりますよ。そして、イケメンも美女も、あなたたちの周囲から逃げ出してしまうでしょう。くさい! モテない! 一生、ぼっち! それでいいんですか?」
 目力を最高レベルにして(今回は微笑んでいるわけではない)、小唄が問いかけると――、
「よくなーい!」
 ――悲鳴にも似た声で信者たちが答えた。
「ま、待て、おまえら! 世の中には太った奴や体臭のきつい奴が好みというマニアックな層も……」
「黙れ」
 肉食王の苦し紛れの説得をソロが遮った。
 愛用のフェアリーレイピアを構えながら。
「大地の恵みである野菜を冒涜する愚かな鳥よ。貴様も寄せ鍋の具材にしてやる!」

 三分にも満たない戦闘の果てにビルシャナは逝った(寄せ鍋の具材にはされなかった。念のため)。
 そして、森の中の食事会が始まった。参加者はケルベロスたちと元・信者たち。
「寄せ鍋に中華炒めに焼き芋にオムライスにカレー。統一感のないメニューですけど――」
「――どれも美味しそうですね」
 しおんが燈の後を引き取り、自分が捌いた鶏肉を口に運んだ。感謝を込めて。
「食材は、愛をもって調理すればなんでも美味しい」
 アラタが皆に言った。
「ここにある料理にはどれも沢山の命と愛が詰まっている。その中に野菜があるから、より一層おいしくなるんだ」
「……そ、そうっすね」
 シルフィリアスが頷いた。ばつの悪そうな顔をして。
 実は彼女も肉食王と同様に偏食家であり、野菜嫌いなのだ。
(「そういえば、昨日は三食ともポテチとコーラだったっすね……」)
 自分の食生活が偏っていることを改めて思い知るシルフィリアスであった。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年12月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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